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明細書 :重金属吸着材およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5002809号 (P5002809)
公開番号 特開2008-037925 (P2008-037925A)
登録日 平成24年6月1日(2012.6.1)
発行日 平成24年8月15日(2012.8.15)
公開日 平成20年2月21日(2008.2.21)
発明の名称または考案の名称 重金属吸着材およびその製造方法
国際特許分類 C09K   3/00        (2006.01)
B01J  20/24        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
FI C09K 3/00 ZABS
C09K 3/00 108A
B01J 20/24 B
C02F 1/28 J
請求項の数または発明の数 7
全頁数 9
出願番号 特願2006-210876 (P2006-210876)
出願日 平成18年8月2日(2006.8.2)
審査請求日 平成21年7月31日(2009.7.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
発明者または考案者 【氏名】小藤田 久義
個別代理人の代理人 【識別番号】100083806、【弁理士】、【氏名又は名称】三好 秀和
【識別番号】100095500、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 正和
審査官 【審査官】中野 孝一
参考文献・文献 特開2003-071278(JP,A)
特開2004-237137(JP,A)
特開2002-177770(JP,A)
大原誠資,樹皮タンニンを用いた液状炭化物の調製,第50回 日本木材学会大会研究発表要旨集(2000),日本,日本木材学会,2000年 3月10日,445頁
調査した分野 C09K3/00、
B01D11/00-11/04、
B01J20/00-20/34、
C02F1/28
特許請求の範囲 【請求項1】
炭素系材料に、樹皮フェノール酸が担持されていることを特徴とする重金属吸着材。
【請求項2】
前記樹皮フェノール酸は、
構造式
【化1】
JP0005002809B2_000006t.gif
で示される部分構造を有することを特徴とする請求項1に記載の重金属吸着材。
【請求項3】
前記炭素系材料は、活性炭であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の重金属吸着材。
【請求項4】
針葉樹バークを熱アルカリ処理してアルカリ抽出液を得る工程と、
前記アルカリ抽出液のpHを調整し、炭素系材料を加えて撹拌した後、分離して炭素系材料と樹皮フェノール酸との複合体でなる重金属吸着材を得る工程と、
を備えることを特徴とする重金属吸着材の製造方法。
【請求項5】
前記針葉樹バークは、スギ樹皮であることを特徴とする請求項4に記載の重金属吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記炭素系材料は、活性炭であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の重金属吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ抽出液のpHを2.0~3.0に調整することを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の重金属吸着材の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は重金属吸着材およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、クロム(Cr)などを含む重金属排水などの処理に用いることができる重金属吸着材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムなどを含む重金属排水などの処理としては、塩基性条件で重金属を凝集沈殿させる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。具体的には、この方法では、水酸化カルシウムなどのアルカリ添加によって排水を高pHにし、重金属を水酸化物として沈殿させている。その結果、この方法では大量の無機系スラッジが発生する。この無機系スラッジは、産業廃棄物として再処理される。このスラッジの処理には莫大な費用と作業を伴う。さらには、最終処分場の不足が差し迫った問題となっている。また、アルカリ沈殿処理後の廃液中には低濃度の重金属が残留することも多い。この場合には、高分子凝集剤や吸着樹脂などによる二次処理が必要とされている。しかしながら、高分子凝集剤や吸着樹脂の多くは廃棄物処理用としては高価であり、低コストで選択性の高い吸着材の開発が要望されている。
【0003】
このような要望に答える手段として、炭化物や生物系材料などの有機資材を重金属の吸着材に利用することによりスラッジの焼却および重金属の回収が可能となることは容易に想定される。このような有機資材を重金属の吸着材として利用する技術として、金属線を含む廃タイヤを原料として製造される活性炭を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法は、処理資材重量あたりの吸着量や除去効率に難があり、必ずしも有効な解決手段とはなっていない。
【0004】
また、ペーパースラッジを原料として製造される活性炭を用いることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法では、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルクなどの無機成分50%以上含むため、焼却によるスラッジの処理が不可能である。
【0005】
さらに、従来の技術として、市販のタンニンを用いた金属元素吸着剤の製造方法および吸着材による金属元素の吸着分離法(例えば、特許文献3参照)や、ホルムアルデヒド処理した樹木による重金属の除去方法(例えば、特許文献4参照)が知られている。しかし、これらの方法では、いずれもホルムアルデヒドを使用するため安全性に問題がある。

【非特許文献1】特許庁ホームページ、資料室(その他参考情報)、標準技術集、金属表面処理における6価クロムフリー等の環境応用技術、“重金属の沈殿分離A-A2-3”、インターネット<URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm
【特許文献1】特開平7-328434号公報
【特許文献2】特開2005-349349号公報
【特許文献3】特開平5-66291号公報
【特許文献4】特開平6-15256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した諸問題に着目して創案されたものであり、その目的とするところは、廃水処理スラッジの焼却処理および重金属の回収を低コストで実現する、重金属吸着材およびぞの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴は、重金属吸着材であって、炭素系材料に、樹皮フェノール酸が担持されていることを要旨とする。
【0008】
本発明の第2の特徴は、重金属吸着材の製造方法であって、針葉樹バークを熱アルカリ処理してアルカリ抽出液を得る工程と、前記アルカリ抽出液のpHを調整し、炭素系材料を加えて撹拌した後、分離して炭素系材料と樹皮フェノール酸との複合体でなる重金属吸着材を得る工程と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、廃水処理スラッジの焼却処理および重金属の回収を低コストで実現する、重金属吸着材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、炭素系材料に針葉樹バーク(樹皮)の熱アルカリ抽出によって得られる樹皮フェノール酸を吸着・担持させることにより、重金属吸着能力に優れた吸着剤の製造を可能にした。
【0011】
樹皮フェノール酸は、針葉樹バークに含まれている縮合型タンニンが、熱アルカリ処理の過程で変性・溶出した物質と考えられている(P.E. Laks 他,Holzforschung 41, 287-292, 1987 年)。縮合型タンニンは、下記の構造式で表される。
【化2】
JP0005002809B2_000002t.gif

【0012】
この樹皮フェノール酸と縮合型タンニンとの構造上の相違点は、樹皮フェノール酸のみが、下記の構造式で示される部分構造を有することである。この部分構造は、縮合型タンニンには存在しない。
【化3】
JP0005002809B2_000003t.gif

【0013】
上記構造式で表される部分構造は、縮合型タンニンを熱アルカリ処理した後に、赤外(IR)スペクトルにおいて1700~1750cm-1にカルボニル基由来の吸収が出現することにより確認できる。上記部分構造を有する物質は、カテキン酸もしくはプロアントシアニジン類を熱アルカリ処理することによっても取得可能であり、この場合、カテキン酸およびその関連化合物が得られる(S. Ohara ら, Journal of Wood Chemistry and Technolgy 11, 195-208, 1991 年)。
【0014】
樹皮フェノール酸は水溶性の物質であるため、そのままでは重金属吸着用資材として用いることは不可能である。しかしながら、本発明に係る製造方法によれば、樹皮フェノール酸と炭素系材料を水中で混合してpHを酸性に変化させるだけで、容易に不溶性の複合体を製造することができる。すなわち、得られた炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体を水中に再分散し、pHを弱酸性から中性領域に変化させても、樹皮フェノール酸が再溶出することはない。また、未変性の縮合型タンニンでは、水溶液を酸性化すると、それ自体が凝集・沈殿してしまうため、同様の方法で炭素系材料に吸着させることはできない。
【0015】
そこで、本発明に係る重金属吸着材の製造方法は、針葉樹バークを熱アルカリ処理してアルカリ抽出液を得る工程と、前記アルカリ抽出液のpHを調整し、炭素系材料を加えて撹拌した後、分離して炭素系材料と樹皮フェノール酸との複合体でなる重金属吸着材を得る工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に説明する。
【0017】
(実施例1)
n-ヘキサンを用いて脱脂・乾燥させたスギ樹皮50gに1%NaOH水溶液400mlを加え、105℃にて1時間抽出後、濾過してアルカリ抽出液を得た。抽出物(15mg)を含むアルカリ抽出液のpHを希塩酸を滴下することにより種々に調整し、それぞれに市販の活性炭(300mg)を加えて24時間撹拌し、遠心分離することにより炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体を得た。活性炭に対する樹皮フェノール酸の吸着量を、上澄み液の吸光度(276.5nm)の減少に基づいて算出したところ、図1に示すように、pH2.0の条件で抽出物の約90%が活性炭に吸着された。なお、図1から判るように、pH2.0~3.0の範囲で樹皮フェノール酸が活性炭へ約50%以上吸着される。
【0018】
(実施例2)
炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体による6価クロムの除去
実施例1と同様にして得られた炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体200mgを、100ppmのCr(VI)水溶液15mlに添加して3時間撹拌した後、遠心分離して、上澄み液のクロム濃度を調べた。残留クロム濃度は、原子吸光光度計を用いて全クロム濃度として算出した。下表1に示すように、炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体は、pH3~6の弱酸性領域においてクロム濃度を95%以上減少させた。
【表1】
JP0005002809B2_000004t.gif

【0019】
(比較例1)
炭素系材料による6価クロムの除去
市販の活性炭200mgを100ppmのCr(VI)水溶液15mlに添加した後、実施例2と同様にして活性炭処理後の残留クロム濃度を調べた。下表2に示すように、炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体と比較すると、活性炭単独ではpH2~8の全領域においてクロム濃度の除去率が劣っており、最大でも84%(残留濃度16.0ppm)にとどまった。また、吸着材としての性能を最大に発揮できるpH領域も、炭素系材料-樹皮フェノール酸複合体に比較して狭い範囲に限定されることが明らかであった。
【表2】
JP0005002809B2_000005t.gif

【0020】
上述のように、本発明に係る重金属吸着材は、活性炭だけを用いた場合に比べて大幅に6価クロムを除去する能力がある。
【0021】
また、本発明の重金属吸着材の製造方法は、針葉樹バークを熱アルカリ処理してアルカリ抽出液を取り出し、このアルカリ抽出液のpHを調整し、炭素系材料を加えて撹拌した後、分離するだけでよいため、低コストで重金属吸着材を提供することができる。
【0022】
なお、上記した実施例では、針葉樹バークとして、スギの樹皮を用いた例を示したが、この他にヒノキ、カラマツ、エゾマツ、アカマツなどの針葉樹を適用することが可能である。
【0023】
また、アルカリ抽出液を調整する際に、1%NaOH水溶液を用いたが、アルカリ溶液としては、NaOHの他の塩基を用いてもよいし、濃度は1%に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、6価クロムなどの重金属に汚染された土壌や鉱山・工場廃水の処理に用いる重金属吸着用資材および汚染廃水の浄化処理の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】樹皮フェノール酸の活性炭への吸着率とpHとの関係を示す図。
図面
【図1】
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