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明細書 :遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3796585号 (P3796585)
登録日 平成18年4月28日(2006.4.28)
発行日 平成18年7月12日(2006.7.12)
発明の名称または考案の名称 遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置
国際特許分類 G01N  13/10        (2006.01)
FI G01N 13/10 F
請求項の数または発明の数 9
全頁数 15
出願番号 特願2003-547911 (P2003-547911)
出願日 平成14年11月25日(2002.11.25)
国際出願番号 PCT/JP2002/012273
国際公開番号 WO2003/046519
国際公開日 平成15年6月5日(2003.6.5)
優先権出願番号 2001360047
優先日 平成13年11月26日(2001.11.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年6月7日(2004.6.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】重川 秀実
【氏名】武内 修
【氏名】山下 幹雄
【氏名】森田 隆二
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
【識別番号】100069958、【弁理士】、【氏名又は名称】海津 保三
審査官 【審査官】西村 直史
参考文献・文献 M. J. Feldstein, P. Voehringer, W. Wang, and N. F. Scherer,"Femtosecond Optical Spectroscopy and Scanning Probe Microscopy",Journal of Physical Chemistry,米国,American Chemical Society,1996年 3月21日,第100巻、第12号,p.4739-4748
W. Pfeiffer, F. Sattler, S. Vogler, G. Gerber, J. Y. Grand, and R. Moeller,"Photoelectron emission in femtosecond laser assisted scanning tunneling microscopy",Applied Physics B,Springer-Verlag,1997年,第64巻、第2号,p.265-268
調査した分野 G01N13/10-G01N13/24
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
超短光レーザーパルス装置と、
この超短光レーザーパルス装置の発生する超短光パルスを二つに分割してポンプ光とプローブ光を形成すると共に、このポンプ光とプローブ光間の中心遅延時間を設定し、かつ、この設定した中心遅延時間を中心としてポンプ光とプローブ光間の遅延時間を一定の光路長振幅及び周波数で変調する遅延変調回路と、
上記遅延時間が変調された上記ポンプ光とプローブ光が照射される試料の直上に、プローブ先端と上記試料の表面との間にトンネル接合を形成するようにプローブを配置し、かつ、このプローブを上記試料の面上で走査する走査プローブ顕微鏡と、
上記ポンプ光とプローブ光が照射されて生ずる上記トンネル接合に流れる上記変調周波数で変調されたトンネル電流であるプローブ信号を、上記変調周波数を参照信号としてロックイン検出するロックイン検出装置と、を有し、
上記遅延変調回路により、上記一定の光路長振幅及び周波数で遅延時間が変調された上記ポンプ光とプローブ光を上記中心遅延時間を連続的に各々変えて複数形成し、この複数のポンプ光とプローブ光の各々が照射されることによって生ずる上記プローブ信号の各々を、上記ロックイン検出装置で上記変調周波数を参照信号としてロックイン検出し、このロックイン検出したプローブ信号の各々から、各々の中心遅延時間におけるプローブ信号の遅延時間に対する変化率を求め、この変化率を遅延時間で積分してプローブ信号の遅延時間依存性を求めることを特徴とする、遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記超短光レーザーパルス装置は、フェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短光パルスを一定周期で発生することを特徴とする、請求項1に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記遅延変調回路は、ハーフミラーと、ピエゾ・ステージに固定されたミラーから成る二組の可動ミラーとを有し、この二組の可動ミラーの一方又は両方を駆動して、遅延時間の中心値を変化させると共にこの遅延時間を中心遅延時間として一定周波数で変調することを特徴とする、請求項1に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項4】
前記ロックイン検出装置は、前記遅延時間の変調周波数を参照周波数としてロックイン検出し、前記プローブ信号の前記遅延時間の中心値における、遅延時間に対する変化率に比例した量を検出することを特徴とする、請求項1に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記走査プローブ顕微鏡は、走査トンネル顕微鏡又は原子間力顕微鏡であることを特徴とする、請求項1に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項6】
超短光レーザーパルス装置と、
この超短光レーザーパルス装置の発生する超短光パルスから複数の波長の異なる超短光パルスを発生し、かつ、これらの波長の異なる複数の超短光パルス間の遅延時間を設定できる超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置と、
上記複数の超短光パルスの波長を設定し、これらの複数の超短光パルス間の遅延時間を設定し、かつ、これらの遅延時間を一定タイミングで変調する制御信号を上記超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置の二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器に送出し、かつ、上記遅延時間の変調タイミングをロックイン検出の参照信号としてロックイン検出器に送出する、波長・遅延時間・変調タイミング制御装置と、
この波長・遅延時間・変調タイミング制御装置で制御され、上記超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置から出力する複数の超短光パルスが照射される試料の直上に、プローブをこのプローブ先端と上記試料表面との間にトンネル接合が形成されるように配置し、かつ上記試料の面上で上記プローブを走査する走査プローブ顕微鏡と、
この超短光パルスが照射される走査プローブ顕微鏡のプローブ信号を上記変調タイミングを参照信号としてロックイン検出するロックイン検出装置と、を有することを特徴とする、遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記波長・遅延時間・変調タイミング制御装置は、所望の前記複数の超短光パルスの波長、遅延時間及び変調タイミング周波数の入力値に基づいて、前記二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器の制御信号を計算し、この制御信号を上記二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器に出力し、かつ、上記変調タイミング信号を前記ロックイン検出装置に出力するコンピュータからなることを特徴とする、請求項6に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記ロックイン検出装置は、前記変調タイミングを参照周波数としてロックイン検出し、前記プローブ信号の前記遅延時間における、遅延時間に対する変化率に比例した量を検出することを特徴とする、請求項6に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項9】
前記走査プローブ顕微鏡は、又は原子間力顕微鏡であることを特徴とする、請求項6に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、時間領域及び空間領域において極限の分解能を有する、光励起による物理現象の測定装置に関し、詳しくは、遅延時間変調型時間分解走査プローブ顕微鏡装置に関する。
背景技術
ナノスケールで構造を制御して、新しい機能を有する次世代デバイスを開発する試みが近年とみに盛んになりつつあり、中でも光物性を利用した機能素子や超高速素子の創製は特に重要な課題の一つである。そのためには、ナノスケールの局所領域の光励起物理現象を過渡応答まで含めて解明することが必要不可欠となる。このため、究極の空間領域分解能を有する走査プローブ顕微鏡技術と究極の時間領域分解能を有するレーザーパルス技術を組み合わせた新しい測定技術の導入が提案され、既に単一分子や半導体超格子構造からの光励起発光やトンネル電流発光の解明、局所的バンド構造の解明、点欠陥の解析といった重要な成果を上げつつある(JOURNAL OF APPLIED PHYSICS Vol.83,No.7,1 APRIL 1998,P3453~。 JOURNAL OF APPLIED PHYSICS Vol.88,No.8,15 OCTOBER 2000,P4851~。 Solid State Communications,Vol.107の6,P281~,1998。 重川秀美 「光励起STM」 表面科学20,(1999)337頁 参照)。
走査プローブ顕微鏡、例えば、走査トンネル顕微鏡は、オングストローム・オーダーの曲率半径を有する探針の先端を、オングストローム・オーダーの距離で試料表面に近づけ、探針の先端と試料表面との間にトンネル接合を形成し、トンネル接合に流れるトンネル電流の大きさから、原子レベルの表面モフォロジーを測定する装置である。走査トンネル顕微鏡はピエゾ・ステージを使用してオングストローム・オーダーの精度で走査できるので、究極の空間領域分解能を有した表面モフォロジー像を得ることができる。
また、超短光レーザーパルス装置は、フェムト秒オーダーの半値幅を有するレーザーパルスをフェムト秒という究極の時間分解能で発生する装置である。
走査トンネル顕微鏡の探針の先端の直下の試料表面に超短光レーザーパルスを照射し、超短光レーザーパルス照射に同期したトンネル電流を検出することによって、空間及び時間ともに極限の分解能で光励起物理現象を測定できる。これにより、ナノスケール・デバイスを創製する上で極めて重要な知見が得られる。
このような装置の一つに、遅延時間変調型時間分解走査プローブ顕微鏡装置がある。この装置は、走査プローブ顕微鏡に試料を配置し、この試料を励起する2つの短光パルスを、これらの短光パルス間の遅延時間を連続的に変化させて照射し、試料の励起状態に起因するプローブ電流の変化に基づき、2つの短光パルスの遅延時間に依存するプローブ電流成分を測定するものである。この装置によれば、ナノスケールの局所領域の光励起物理現象の過渡応答が測定できるので、光物性を利用した機能素子や超高速素子の創製に必要な光励起物理現象の知見が得られる。例えば、試料のナノスケール微小領域のキャリアーを励起できる短光パルスを用いることにより、キャリアー寿命を遅延時間に依存するプローブ電流成分の遅延時間依存性から測定できる。
次に、従来の、遅延時間変調型時間分解走査プローブ顕微鏡装置の構成及び作用を説明する。図9は、従来の遅延時間変調型時間分解走査プローブ顕微鏡装置の構成を示す図である。ここでは走査プローブ顕微鏡として走査トンネル顕微鏡を用いた例について説明する。
図9において、短光レーザーパルス発生装置60から一定の繰り返し周波数で出力される短光パルス62を干渉計型遅延回路61により1ps程度の遅延時間td を有する2つのパルス63,64に分け、パルス63,64をチョッパ装置65により周波数ωでチョップし、トンネル顕微鏡装置66のプローブ直下の試料部分に入射する。ロックイン検出装置69により、トンネル電流信号67を周波数ω(68)を参照信号としてロックイン検出を行い、短光パルス63,64照射時のトンネル電流Iirr と、短光パルス63,64非照射時のトンネル電流Ibak との差信号Idiffを求める。短光パルス63,64間の遅延時間td を連続的に変化させて同一の測定を繰り返し、遅延時間に依存するトンネル電流成分Idiffの遅延時間依存性を測定する。
しかしながら、上記の従来装置では、以下に説明する課題がある。
第1に、遅延時間td に依存するプローブ電流成分、すなわち、トンネル電流成分Idiffは、遅延時間td に依存しない成分Ibak に比べて極めて小さく、ロックイン検出装置のダイナミックレンジを限界まで大きくしても、十分な精度で測定できない。
第2に、短光パルス発生装置の光出力強度は環境の微小な変化(温度等)により長周期の揺らぎを持つが、従来方法ではこの揺らぎを除去することができず、プローブ信号の遅延時間依存性を高精度に測定することが難しい。
従って、上記の従来法のように光照射時と非照射時のプローブ信号を差し引く方法では、プローブ電流成分Idiff の遅延時間依存性を高感度に高精度に測定することが困難である。
第3に、走査プローブ顕微鏡のプローブ先端が短光パルスにさらされるため、プローブ先端が、短光パルスの照射時に熱膨張し、超短光パルスの非照射時に熱収縮し、プローブ先端と試料表面との距離が変動し、トンネル確率が変動してしまう。このため、プローブ信号の遅延時間依存性を高感度に高精度に測定することが難しい。
また、従来装置では、図9に示したように、遅延時間td を有する短光パルス63,64の波長は同一である。従って、この装置では、2つのエネルギー準位が関与する現象は測定できるが、3つ以上のエネルギー準位が関与する光励起現象は測定することができない。
例えば、図10に示すように、エネルギー準位71,72,73を介する励起状態があった場合、準位71と準位73のエネルギー差に相当する光エネルギーを吸収して準位71から準位73に励起されたキャリアーが、準位73から準位72に緩和する緩和時間を知りたい場合がある。この場合、準位71と準位73のエネルギー差に相当する光パルス74と、準位72と準位73のエネルギー差に相当する光パルス75を、これらの光パルス間の遅延時間td を連続的に変えて試料に照射し、遅延時間td に依存するプローブ電流成分Idiffの遅延時間td 依存性を測定すれば、緩和時間を求めることができる。しかしながら、従来装置では、遅延時間td を有する2つの短光パルスの各々の波長を任意に変化させることができなかった。
本発明は上記課題に鑑み、ロックイン検出装置の大きなダイナミックレンジを必要とせずに、また、超短光パルス非照射時のプローブ電流値を必要とせずに、超短光レーザーパルス発生装置の光出力強度の長周期の揺らぎに影響されずに、走査プローブ顕微鏡のプローブ先端の位置の変動が無く、かつ、フェムト秒の分解能で遅延時間に依存するプローブ電流成分を高感度に高精度に直接測定できる遅延時間変調型時間分解走査プローブ顕微鏡装置を提供することを第1の目的とするものである。
また、本発明は上記課題に鑑み、遅延時間が制御された複数の超短光パルスの各々の波長を任意に変化させることができる遅延時間変調型時間分解走査プローブ顕微鏡装置を提供することを第2の目的とするものである。
発明の開示
上記第1の目的を解決するために、本発明の請求項1に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置は、超短光レーザーパルス装置と、この超短光レーザーパルス装置の発生する超短光パルスを二つに分割してポンプ光とプローブ光を形成すると共に、このポンプ光とプローブ光間の中心遅延時間を設定し、かつ、この設定した中心遅延時間を中心としてポンプ光とプローブ光間の遅延時間を一定の光路長振幅及び周波数で変調する遅延変調回路と、上記遅延時間が変調された上記ポンプ光とプローブ光が照射される試料の直上に、プローブ先端と上記試料の表面との間にトンネル接合を形成するようにプローブを配置し、かつ、このプローブを上記試料の面上で走査する走査プローブ顕微鏡と、上記ポンプ光とプローブ光が照射されて生ずる上記トンネル接合に流れる上記変調周波数で変調されたトンネル電流であるプローブ信号を、上記変調周波数を参照信号としてロックイン検出するロックイン検出装置と、を有し、上記遅延変調回路により、上記一定の光路長振幅及び周波数で遅延時間が変調された上記ポンプ光とプローブ光を上記中心遅延時間を連続的に各々変えて複数形成し、この複数のポンプ光とプローブ光の各々が照射されることによって生ずる上記プローブ信号の各々を、上記ロックイン検出装置で上記変調周波数を参照信号としてロックイン検出し、このロックイン検出したプローブ信号の各々から、各々の中心遅延時間におけるプローブ信号の遅延時間に対する変化率を求め、この変化率を遅延時間で積分してプローブ信号の遅延時間依存性を求めることを特徴とする。
上記構成において、超短光レーザーパルス装置は、フェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短光パルスを一定周期で発生する。また、遅延変調回路は、好ましくは、ハーフミラーと、ピエゾ・ステージに固定されたミラーから成る二組の可動ミラーとを有し、二組の可動ミラーの一方又は両方を駆動して、遅延時間の中心値を設定すると共に、遅延時間を中心として一定の周波数で変調する。ロックイン検出装置は、遅延時間の変調周波数を参照周波数としてロックイン検出する。
上記構成によれば、超短光レーザーパルス装置からフェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短光パルスが一定周期で発生し、各々の超短光パルスが遅延変調回路で、ハーフミラーによって二つの超短光パルスに分けられて、ピエゾ・ステージに固定されたミラーから成る二組の可動ミラーで別々に反射され、ハーフミラーで再び合波される。その際、二組の可動ミラーの往復行路長の差を制御して二つの超短光パルスの間の遅延時間を設定し、かつ、一方の可動ミラーの行路長を所定の振幅及び周波数で変調する。設定された遅延時間を中心として所定の振幅及び周波数で変調された遅延時間を有する二つの超短光パルスは、走査プローブ顕微鏡のプローブ直下の試料に入射して、試料のエネルギー状態を変化させてプローブ信号を変化させる。
ロックイン検出装置は、遅延時間の変調周波数を参照周波数としてロックイン検出し、プローブ信号の超短光パルス間の遅延時間に対する変化率に比例した変化量を検出する。遅延時間を連続的に変化させて、同様の測定をくり返す。
プローブ信号の超短光パルス間の遅延時間に対する変化率に比例した変化量から、プローブ信号の超短光パルス間の遅延時間に対する変化率を計算によって求めることができ、この変化率を遅延時間で積分すれば、プローブ信号の遅延時間依存性がわかる。
超短光パルス装置がフェムト秒の時間分解能を有し、また、遅延変調回路にピエゾ・ステージを使用するので、フェムト秒の時間分解能で遅延時間を設定することができ、ロックイン検出装置は、遅延時間の変調周波数を参照周波数としてロックイン検出することで、プローブ信号の超短光パルス間の遅延時間に対する変化率に比例した変化量を検出する、すなわち、プローブ信号の超短光パルス間の遅延時間に対する変化率を直接検出しているので、大きなバックグラウンド成分がある場合にも、遅延時間に依存する微小な成分を、高感度に高精度に測定することができる。
また、超短光パルス強度の揺らぎの周波数よりも遅延時間の変調周波数を十分大きくすれば、プローブ信号の遅延時間に依存する微小な成分を、超短光パルス強度の揺らぎに影響されずに検出できる。
また、超短光レーザーパルス装置から一定周期で発生する超短光パルス列の全てをプローブ直下の試料に照射し、チョッパ等で超短光パルス列を遮断することがないので、超短光パルスの発生周波数がプローブ先端の熱応答速度に比べて十分大きければ、プローブ先端が冷える間もなく次の超短光パルスが供給されるので、プローブ先端の温度は一定になり、プローブ先端の熱膨張・収縮が無くなり、プローブ先端と試料表面との間の距離が変動しなくなりトンネル確率が変動しない。従って、プローブ信号の遅延時間に依存する微小な成分を、高感度かつ高精度に測定することができる。また、オングストローム・オーダーの空間分解能を有する走査プローブを使用するので、オングストローム・オーダーの空間分解能で、プローブ信号の遅延時間に依存する微小な成分を、高感度かつ高精度に測定できる。
このように、本発明によれば、オングストロームオーダーの空間分解能で、フェムト秒の分解能で励起光パルス間の遅延時間に依存するプローブ電流成分を高感度に高精度に直接測定できるので、空間及び時間ともに極限の分解能で光励起物理現象を測定することが可能になる。
また、上記第2の目的を解決するために、本発明の請求項6に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置は、複数の波長の異なる超短光パルスを発生し、かつ、これらの波長の異なる複数の超短光パルスの間の遅延時間を設定できる超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置(PCT-国際公開番号WO 01/44863 A1 号公報参照)と、超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置の二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器の変調を制御して、複数の波長から所望の複数の波長の超短光パルスを選択し、複数の超短光パルス間の遅延時間を設定し、且つ設定した遅延時間を中心として一定周波数の変調タイミングで遅延時間を変調する波長・遅延時間・変調タイミング制御装置と、波長・遅延時間・変調タイミング制御装置で制御され、超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置から出力する、波長、遅延時間、及び変調タイミングが制御された複数の超短光パルスが照射される試料の直上に、プローブをプローブ先端と試料表面との間にトンネル接合が形成されるように配置し、かつ試料の面上でプローブを走査する走査プローブ顕微鏡と、超短光パルスが照射される走査プローブ顕微鏡のプローブ信号を変調タイミングを参照信号としてロックイン検出するロックイン検出装置と、を有することを特徴とする。
前記波長・遅延時間・変調タイミング制御装置は、所望の複数の超短光パルスの波長、遅延時間及び変調タイミング周波数の入力値に基づいて、二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器の制御信号を計算し、二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器に出力し、かつ、変調タイミング信号をロックイン検出装置に出力するコンピュータからなることを特徴とする。
前記ロックイン検出装置は、変調タイミングを参照周波数としてロックイン検出し、プローブ信号の、設定した遅延時間における、遅延時間に対する変化率に比例した量を検出することを特徴とする。また、走査プローブ顕微鏡は、走査型トンネル顕微鏡又は原子間力顕微鏡であることを特徴とする。
この構成によれば、本発明の請求項1に記載の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置と同様に、オングストロームオーダーの空間分解能で、フェムト秒の分解能で励起光パルス間の遅延時間に依存するプローブ電流成分を高感度に高精度に直接測定できることに加え、任意の波長による、かつ複数の波長による励起光パルス間の遅延時間に依存するプローブ電流成分を高感度に高精度に直接測定することができる。従って、空間及び時間ともに極限の分解能で3つ以上のエネルギー準位が関与する光励起物理現象を測定することが可能になる。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
始めに、本発明の第1の実施の形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置を説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置の構成を示す図である。図において、本発明のフェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置1は、超短光レーザーパルス発生装置2と、超短光レーザーパルス発生装置2の発生する超短光レーザーパルス3を二つの超短光レーザーパルス4,5に分けると共に二つの超短光レーザーパルス4,5間の遅延時間td を周波数ωで変調する遅延変調回路6と、遅延時間td が周波数ωで変調された超短光レーザーパルス4,5が照射される試料18の直上に、プローブ19の先端と試料18との間にトンネル接合が形成されるように、プローブ19を配置し、かつ試料18の面上でプローブ19を走査する走査プローブ顕微鏡7と、プローブ19の先端と試料18間の超短光レーザーパルス4,5の照射によって変調されたトンネル電流であるプローブ信号11を変調周波数ωでロックイン検出するロックイン検出装置8とを有している。
なお、図において、9は走査プローブの設定を補助するためのCCDカメラであり、10は遅延変調回路6からロックイン検出装置8へ送出する参照周波数(ω)信号を示し、11は走査プローブ顕微鏡7からロックイン検出装置8へ送出するプローブ信号であり、12はロックイン検出装置8から画像表示装置(図示せず)へ送出する測定データを示し、13は画像表示装置に表示する測定データの一例である。
超短光レーザーパルス発生装置2は、フェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短光パルス3を一定周期で発生する。例えば、波長800nm、パルス半値幅25fsの超短光パルスをくり返し周波数80MHzで発生する、Ti:サファイアレーザーを用いることができる。
遅延変調回路6は、超短光パルス3を互いに直交した方向に進行する二つの超短光パルス4,5に分けるハーフミラー14と、超短光パルス4,5の進行方向に設けた二組の可動ミラー15,16とを有している。可動ミラー15,16は、ピエゾ・ステージを駆動してハーフミラー14との距離を任意に調節できると共に、任意の振幅及び任意の周波数(ω)で振動させることができる。図の例では、可動ミラー15で中心遅延時間td (0) を調節し、可動ミラー16で周波数変調(振幅Δtd 、周波数ω)を加えている。
走査プローブ顕微鏡7は、オングストローム・オーダーの曲率半径を有するプローブ19の先端を、オングストローム・オーダーの距離で試料表面に近づけることができ、また、オングストローム・オーダーの精度で試料面を走査できるものであれば良く、例えば、ピエゾ・ステージを用いた、極低温、超高真空用の走査型トンネル顕微鏡または原子間力顕微鏡が好ましい。ロックイン検出装置は、通常用いられるものでよいがダイナミックレンジが大きいものほど好ましい。
上記構成の本装置は以下のように動作する。
超短光レーザーパルス発生装置2からフェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短光パルス3が一定周期で発生し、各々の超短光パルス3が遅延変調回路6で、ハーフミラー14によって二つの超短光パルス4,5に分けられて、二組の可動ミラー15,16で別々に反射され、ハーフミラー14で再び合波される。その際、二組の可動ミラー15,16の往復行路長の差を制御して二つの超短光パルス4,5の間の遅延時間の中心遅延時間td (0) を設定し、かつ、一方の可動ミラー16の行路長を所定の振幅Δtd 及び周波数ωで変調する。所定の中心遅延時間td (0) を中心として所定の振幅Δtd 及び周波数ωで変調された遅延時間を有する二つの超短光パルス4,5は、走査プローブ顕微鏡7のプローブ直下の試料17に入射して、試料18のエネルギー状態を変化させてプローブ信号11を変化させる。
ロックイン検出装置8は、遅延時間の変調周波数ωを参照周波数としてロックイン検出し、プローブ信号11の遅延時間変化率(dIt /dtd )に比例する量を検出する。すなわち、超短光パルス4,5間の遅延時間が中心遅延時間td (0) を中心として、振幅Δtd 及び周波数ωで遅延時間変調されているときの、時刻tにおけるプローブ信号It は次の(1)式となり、
【数1】
JP0003796585B2_000002t.gif 参照周波数ωでロックイン検出すると(1)式の右辺第2項のsinωtの係数、
【数2】
JP0003796585B2_000003t.gifが検出される。振幅Δtd は既知であるから、この係数からプローブ信号の遅延時間に対する変化率(dIt /dtd )が求まる。中心遅延時間td (0) を連続的に変化させて変化率(dIt /dtd )を測定し積分することによってプローブ信号It の超短光パルス4,5間の遅延時間td (0) 依存性を求めることができる。この方法は、変動するバックグラウンド成分が除去されているので、高感度に高精度にプローブ信号の遅延時間依存性が求められる。
上記のように、超短光パルスレーザー発生装置2がフェムト秒の時間分解能を有し、また、遅延変調回路6がピエゾ・ステージを使用するので、フェムト秒の時間分解能で遅延時間を設定でき、また、ロックイン検出装置8は、遅延時間の変調周波数ωを参照周波数としてロックイン検出し、プローブ信号の遅延時間変化率に比例した量を直接検出するので、変動するバックグラウンド成分が除去されており、遅延時間に依存するプローブ信号の遅延時間依存性をフェムト秒の時間分解能で高感度に高精度に測定できる。
また、超短光パルス強度の揺らぎの周波数よりも、遅延時間の変調周波数ωを十分大きくすれば、プローブ信号の遅延時間依存性を、超短光パルス強度の揺らぎの影響を受けずに測定することができる。
さらに、超短光レーザーパルス発生装置2から一定周期で発生する超短光パルス3の列の全てをプローブ直下の試料に照射し、チョッパ等で超短光パルス3の列の一部を遮断することがないので、超短光パルス3の発生周波数がプローブ19の先端の熱応答周波数に比べて十分大きければ、走査プローブ顕微鏡7のプローブ19の先端が冷える間もなく次の超短光パルス4,5が供給されるので、プローブ19の先端の温度は一定になり、プローブ19の先端の熱膨張・収縮が無くなり、プローブ19の先端と試料18の表面との距離が変動しなくなってトンネル確率が変動しなくなり、プローブ信号11の遅延時間依存性を高感度かつ高精度に測定できる。
また、オングストローム・オーダーの空間分解能を有する走査プローブ顕微鏡7を使用するので、オングストローム・オーダーの空間分解能で測定できる。
次に、実施例1を示す。
本実施例は、本装置によれば走査プローブのプローブ先端が熱膨張や熱収縮を生じないことを示すものである。
図2は、本装置により、マイカ上に堆積したAu(111)薄膜のプローブ電流を測定した結果を示す図である。超短光レーザーパルス発生装置は、波長800nm、パルス半値幅25fsの超短光パルスをくり返し周波数80MHzで発生する、Ti:サファイアレーザーを用いている。Auは800nmの光波長では吸収を示さない物質であり、プローブ電流は、測定中に変動しないことが予測される。
図2(a)は、光照射をしない場合のプローブ電流の経時変化を示す図であり、時間の経過に対しプローブ電流が変化しないことがわかる。図2(b)は、従来の装置と同様に、レーザー光を周波数200Hzでチョップして照射し、プローブ電流を測定したものである。図から明らかなように、5msecの周期でプローブ電流が変動しており、走査プローブのプローブ先端が、レーザーパルス光照射によって熱膨張や熱収縮してプローブ電流が変動してしまうことがわかる。図2(c)は、遅延時間変調の振幅Δtd が400fs、変調周波数ωが100Hzで遅延時間変調を行い、プローブ電流を測定したものである。図から明らかなように、時間の経過に対しプローブ信号が変化しないことがわかる。すなわち、本装置によれば、レーザーパルス光照射によって走査プローブのプローブ先端が熱膨張や熱収縮をしないことがわかる。
次に、実施例2を示す。
本実施例は本装置の時間分解能を示すものである。図3は、本装置の時間分解能評価に使用した測定系を示す図である。n型GaAs(100)基板を試料に用いた。なお、n型GaAsのキャリアー寿命は十分長く、本実施例の遅延時間範囲ではほとんど緩和しない。図3(a)は、n型GaAsである試料18と、プローブ19の先端と、試料18とプローブ19の先端の間のギャップ17とで構成されるエネルギーバンド構造を示す図である。図3(b)は、図3(a)の構成において、プローブ19の先端を基準としてn型GaAs18間に印加したバイアス電圧(横軸)に対するプローブ電流(縦軸)の変化を示す図であり、点線は、光照射無しの場合、実線は光照射がある場合を示す。電圧が負の場合はトンネルギャップに形成されるショットキーバリアの方向にバイアスがかかるため、n型GaAs18表面近傍のエネルギー障壁が薄くなり、それに伴いトンネル確率が大きくなり、プローブ19の先端へn型GaAs18から電子がトンネルしてプローブ電流が流れる。この状態は、図3(b)の負電圧領域の点線に対応する。電圧が正の場合には、図3(a)の点線で示すように、n型GaAs18表面近傍にエネルギー障壁が存在するためトンネル確率が小さいままで、プローブ19の先端からn型GaAs18へのプローブ電流が流れない。この状態は図3(b)の正電圧領域の点線に対応する。電圧が正の場合に光照射すると、図3(a)の黒い太矢印で示したように、キャリヤーが励起されn型GaAs18表面近傍のエネルギー障壁が薄くなり、それに伴いトンネル確率が大きくなりn型GaAs18からプローブ19に電子がトンネルしてプローブ電流が流れる。この状態は、図3(b)の正電圧領域の実線に対応する(黒い太矢印で示す)。 本実施例では、上記の電圧が正の場合の系を用いて本装置の時間分解能評価を行った。図4は、本装置の時間分解能を示す図である。図4(a)は、2つに分割した超短光パルス間の遅延時間td (0) (横軸)に対するプローブ電流(縦軸)を示す。遅延時間td (0) が0、すなわち、二つの超短光パルスが重なった状態から約1fsづつ遅延時間を増大(及び減少)させて測定した。図から明らかなように、プローブ電流が超短光パルスの波長800nmに対応する周期2.68fsで振動していることから、プローブ電流の振動は二つの超短光パルスの干渉強度に基づくものであることがわかる。また、全体の包絡線は超短光パルスのパルス幅に対応する約30fsの半値幅を有していることがわかる。これらの結果から、本装置は、遅延時間を1fsの精度で制御できていることがわかる。
図4(b)は、図4(a)と同一の条件で、振幅Δtd が0.5fs、変調周波数ωが400Hzで遅延時間変調してプローブ電流の、プローブ電流変化率にを比例する変化量(式2で表される量)を測定した図である。図4(b)の波形は図4(a)の波形の微分波形になっていることがわかる。すなわち、本装置は、1fsの精度で、遅延時間に依存するプローブ電流、すなわち遅延時間に依存するプローブ信号を測定できることがわかる。
このように、本装置は、遅延時間を1fsの精度で制御でき、かつ1fsの精度で遅延時間に依存するプローブ信号を測定できるので、超短光パルス幅と同程度の精度で、プローブ信号の遅延時間依存性を測定できることがわかる。
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
上記説明では、波長が同一な超短光パルス間の遅延時間を変化させ、かつ、遅延時間を変調して、プローブ信号の変化量を直接測定する装置について説明したが、次に、波長の異なる複数の超短光パルス間の遅延時間を変化させ、かつ、遅延時間を変調して、プローブ信号の変化量を直接測定する装置を説明する。
図5は、本発明の第2の実施の形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置の構成を示す図である。図において、第2の実施の形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置20は、超短光レーザーパルス装置21と、超短光レーザーパルス装置21の発生する超短光パルス22から複数の波長の異なる超短光パルス23,24を発生し、かつ、波長の異なる複数の超短光パルス23,24間の遅延時間を所望の値に設定できる超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置25と、複数の超短光パルス23,24の波長を設定し、複数の超短光パルス間の遅延時間を設定し、かつ、遅延時間を一定タイミングで変調する変調制御信号27を、超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置25の二次元空間振幅変調器と二次元空間位相変調器に送出し、かつ、遅延時間変調タイミングをロックイン検出の参照信号28としてロックイン検出器8に送出する、波長・遅延時間・変調タイミング制御装置26と、波長・遅延時間・変調タイミング制御装置26で制御されて超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置25から出力する複数の超短光パルス23,24が照射される試料18の直上に、プローブ19の先端と試料18との間にトンネル接合が形成されるようにプローブ19を配置し、かつ試料18の面上でプローブ19を走査する走査プローブ顕微鏡7と、超短光パルス23,24が照射される走査プローブ顕微鏡7のプローブ信号11を変調タイミングを参照信号28としてロックイン検出するロックイン検出装置8とを有することを特徴としている。
なお、図5において、波長、遅延時間が選択された超短光パルスは、23,24の2つの場合を示しているが、2つに限らず、さらに多くの複数であっても良い。また、12はロックイン検出装置8から画像表示装置13へ送出する測定データを示す。
図6は、超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置の構成を示す図である。なお、この図6はPCT-国際公開番号WO 01/44863 A1号公報に記載の図1に基づいた図である。
超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置は、上記特許文献に詳細に記載されているので、ここではこの装置の概略を説明するに止める。なお、説明を簡潔にするため、図の紙面に垂直な方向をy軸とし、紙面平行方向をx軸として説明する。図において、超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置25は、超短光レーザーパルス発生装置21の発生する超短光パルス22を超広帯域光パルスに変換する超広帯域光パルス発生装置31と、複数の円柱面レンズ32,33及び平面ミラー34からなり、超広帯域化された超短光パルスをy軸方向に広げるビーム拡張装置35と、グレーティング36とx方向に曲率を持つ円柱面レンズ37とからなり、y軸方向に広げられた超短光パルスをx軸方向に波長分散させ且つコリメートする波長分散装置38と、コリメートされた超短光パルスのx-y面上の各点の透過率を所望の値に設定する二次元空間振幅変調器39と、二次元空間振幅変調器39を透過した超短光パルスのx-y面上の各点の位相を所望の値に設定する二次元空間位相変調器40と、x方向に曲率を持つ円柱面レンズ41とグレーティング42とからなり、二次元空間位相変調器40を透過した超短光パルスをx軸方向に縮めた後、任意のパルス波形に整形するビーム縮小波形整形装置43とから成っている。
超広帯域光パルス発生装置31は、非線形光学媒質の高次の非線形効果を利用するものであり、中央部分を非常に細くしたテーパ状の石英ファイバを用いた場合には、チタン・サファイア・レーザの高繰り返し超短光パルス(中心波長790nm)を500nmから1000nmの波長帯域に広げることができる。
二次元空間振幅変調器39は、液晶からなるピクセルをx-y平面上に配列したものであり、個々の液晶ピクセルを個々の電圧で制御して、個々の液晶ピクセルの透過率を独立に制御する。
二次元空間位相変調器40は、二次元空間振幅変調器39と同様に、液晶からなるピクセルをx-y平面上に配列したものであり、個々の液晶ピクセルを個々の電圧で制御して、個々の液晶ピクセルを透過することによって付加される位相を独立に制御する。
図7は、二次元空間振幅変調器39の透過率の設定例を示す図である。図7(a)は、ピクセルがx方向に20個配列した行が、y方向に4列(y1,y2,y3,y4)配列した例を示している。黒く塗りつぶしたピクセル51は、透過率を0に設定したピクセルであり、白いピクセル52は透過率が0ではない所望の値に設定したピクセルである。
図7(b)は、図7(a)に示すようにピクセルの透過率を設定した場合に、二次元空間振幅変調器39を透過した超短光パルスの波長及び強度の空間分布を示す図である。次に、この装置の作用の概略を例を用いて説明する。
図6で説明したように、二次元空間振幅変調器39に入射する超短光パルスは、y方向に広げられ、かつx方向に波長分散しているから、図7(a)に示すような、すなわち、行y1は左側の複数のピクセルが透過するように、行y2はやや中心付近の複数のピクセルが透過するように、行y3は中心付近の複数のピクセルが透過するように、また、行y4は右側の複数のピクセルが透過するように設定し、また、透過する各行の複数のピクセルの内、中心付近のピクセルの透過率をもっとも高くして、左右のピクセルの透過率を徐々に小さく設定した場合には、超短光パルスを二次元空間振幅変調器39を透過させることによって、図7(b)に示すような、空間的に分離され且つ波長の異なる複数の超短光パルスに変換できる。
図8は二次元空間位相変調器40の位相の設定例を示す図である。図8(a)は、ピクセルがx方向に20個配列した行が、y方向に4列(y1,y2,y3,y4)配列した例を示している。白いピクセル61は二次元空間振幅変調器39から透過してくる波長の異なる複数の超短光パルスの位置に対応しており、所望の位相が設定されている。図8(b)は、ピクセル61毎に異なった位相を付加されたピクセル毎の部分波をx軸方向に合成した場合に得られる時間軸(t)上の超短光パルス波形を示している。
二次元空間振幅変調器39を出力した超短光パルスは、二次元空間位相変調器40の各ピクセル61によって部分波に分解され、各々の部分波に所望の位相を付加することによって時間軸上で部分波を所望の順序で並べることができるから、時間軸上で所望の形状を有する超短光パルスを出力できる。例えば、図7(b)のy1行に示した超短光パルスは、図8(a)のy1行の左側の白い複数のピクセルに所望の位相を設定し、図6の円柱面レンズ41とグレーティング42でx方向に合成することにより、図8(b)のy1行に示した時間軸上で所望の遅延時間td を有する2つの超短光パルスを形成できる。
また、同様に、図7(b)のy2行、y3行の超短光パルスを、図8(a)のy2行、y3行の白い複数のピクセル61で部分波に分解し、各々の部分波に所望の位相を付加して時間軸上で部分波を所望の順序で並べるこことによって、図8(b)のy2行に示した波長λ2 の超短光パルスとy3行に示した波長λ3 の超短光パルスとが任意の遅延時間td を有するようにすることができる。
このように、超短光パルスをy方向に広げ、かつx方向に波長分散し、二次元空間振幅変調器39で波長毎に分解し、二次元空間位相変調器40で部分波毎に所望の位相を付加し、円柱面ミラー41とグレーティング42でx方向に合成するので、所望の波長、所望の遅延時間を有する超短光パルス列が得られる。
図5に示した波長・遅延時間・変調タイミング制御装置26は、上記の空間振幅変調器39、及び、二次元空間位相変調器40に所望の波長及び所望の遅延時間を有する超短光パルス列を実現するための変調制御信号27を送出する。さらに、遅延時間のみが(1)式で示したΔtd だけ異なる変調制御信号27も一定周期で上記変調制御信号と交互に送出して遅延時間td を一定周期で変調する。また、Δtd だけ異なる変調制御信号を送出するタイミング(周波数をωM とする)を参照信号28としてロックイン検出器8に送出する。
このようにして、本発明の第2の実施形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置によれば、複数の超短光パルスの波長を選択し、複数の超短光パルス間の遅延時間を変化させ、遅延時間を一定周期で変調し、遅延時間変調周波数でロックイン検出するので、複数の波長の異なる超短光パルス照射による遅延時間に依存したプローブ電流の変化量を直接測定することができる。この装置によれば、例えば図10に示したような、3つ以上のエネルギー準位が関与する光励起物理現象の知見を得ることができる。 なお、本発明は例示的な実施例について説明したものであり、本発明の要旨及び範囲を逸脱することなく、実施例での種々の変更、省略、追加が可能である。従って本発明は上記した幾つかの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要素によって規定される範囲及びその均等範囲を包含するものとして理解されなければならない。
産業上の利用可能性
上記説明から理解されるように本発明によれば、プローブ信号の超短光パルス間の遅延時間に依存する成分を直接検出することができ、超短光パルス強度の揺らぎによる影響を受けずに検出することができ、かつ、超短光パルスの照射によってプローブの先端が熱膨張、熱収縮することがない。従って、フェムト秒オーダーの時間分解能及びオングストロームオーダーの空間分解能で光励起物理現象を測定することができる。また、プローブ信号の、波長の異なる超短光パルス間の遅延時間に依存する成分を直接検出することができる。従って、さらに高度な光励起物理現象の知見を得ることができる。
本発明は、ナノスケールの局所領域のフェムト秒オーダーの光励起物理現象を解明するために用いれば極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
本発明は以下の詳細な説明及び本発明の実施例を示す添付図面によって、よりよく理解されるものとなろう。なお添付図面に示す実施例は本発明を特定するものではなく、説明及び理解を容易とするものである。
第1の目的に対応して、図中、
図1は、本発明の第1の実施の形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置の構成を示す図である。
図2は、本発明の装置により、マイカ上に堆積したAu(111)薄膜のプローブ電流を測定した結果を示す図である。
図3は、本発明の装置の時間分解能評価に使用した測定系を示す図である。
図4は、本発明の装置の時間分解能を示すグラフである。
第2の目的に対応して、図中、
図5は、本発明の第2の実施の形態の遅延時間変調型フェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡装置の構成を示す図である。
図6は、超広帯域可変波長多重パルス波形整形装置の構成を示す図である。
図7は、二次元空間振幅変調器の透過率の設定例を示す図である。
図8は、二次元空間位相変調器の位相の設定例を示す図である。
図9は、従来装置の構成を示す図である。
図10は、3準位系の励起を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
8
【図10】
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