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明細書 :レーザマーキングによる多階調画像形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4883567号 (P4883567)
公開番号 特開2008-044327 (P2008-044327A)
登録日 平成23年12月16日(2011.12.16)
発行日 平成24年2月22日(2012.2.22)
公開日 平成20年2月28日(2008.2.28)
発明の名称または考案の名称 レーザマーキングによる多階調画像形成方法
国際特許分類 B44C   1/22        (2006.01)
B23K  26/00        (2006.01)
FI B44C 1/22 B
B23K 26/00 B
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2006-224649 (P2006-224649)
出願日 平成18年8月21日(2006.8.21)
審査請求日 平成21年7月21日(2009.7.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】池野 順一
【氏名】安齋 正博
個別代理人の代理人 【識別番号】100100918、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 公治
【識別番号】100108729、【弁理士】、【氏名又は名称】林 紘樹
審査官 【審査官】青木 正博
参考文献・文献 特開平11-267861(JP,A)
特開2003-084243(JP,A)
特開2005-293735(JP,A)
調査した分野 B44B 1/00-11/04
B44C 1/00- 7/08
B44D 2/00- 7/00
B44F 1/00-11/06
B23K 26/00-26/42
特許請求の範囲 【請求項1】
フェムト秒レーザを被照射体に照射して、前記被照射体の内部に多階調画像を形成する
方法であって、
フェムト秒レーザの集光距離を所定距離に設定し、前記被照射体を前記フェムト秒レー
ザの照射方向と垂直な方向に相対移動して、被照射体内部の前記フェムト秒レーザの集光
位置に着色層を形成する第1のステップと、
前記フェムト秒レーザの集光距離を以前のステップで未だ設定されていない距離に設定
し、前記被照射体を前記フェムト秒レーザの照射方向と垂直な方向に相対移動して、被照
射体内部の前記フェムト秒レーザの集光位置に、以前のステップで形成された着色層と少
なくとも一部が重なる着色層を形成する第2のステップと、
を備え、前記第2のステップの処理を1または複数回行うことを特徴とする多階調画像形
成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多階調画像形成方法であって、前記フェムト秒レーザの集光位置に、
前記着色層を形成するためのカラーセンタを生成することを特徴とする多階調画像形成方
法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多階調画像形成方法であって、前記フェムト秒レーザの波長
を紫外線の波長の2倍に設定することを特徴とする多階調画像形成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の多階調画像形成方法であって、前記被照射体が銀を含有するガラスで
あることを特徴とする多階調画像形成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザを用いてガラス等に濃淡を有する多階調画像を形成する方法に関し、特に、高精細な多階調画像の形成を可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラスを紫外線で照射すると、着色することが知られている(例えば、下記非特許文献1参照)。
紫外線をガラスに当てると、ガラス中の電子が開放される。開放された電子の大部分は元に戻るが、一部の電子はガラス中の不純物などにトラップされ、欠陥と呼ばれるホールとトラップ電子との対が生成する。これらの欠陥は、紫外域から可視域に掛けて吸収を持つので、ガラスが色付いて見える。そのため、これらの欠陥は色中心(カラーセンタ)とも呼ばれる。
【0003】
例えば、ケイ酸塩ガラスに紫外線を照射すると、図8の式に示すように、1つのシリコンと結合した酸素(非架橋酸素と呼ぶ)から電子が飛び出し、可視域に吸収を持つカラーセンタとして非架橋酸素ホールセンタが生成する。ガラスは、このカラーセンタによって茶系統に着色する。なお、図8の式中のMは、飛び出した電子をトラップするガラス中の陽イオンを示している。
このカラーセンタは、ガラスを550℃で加熱すると消失し、ガラスは脱色する。
【0004】
また、下記非特許文献2には、レーザマーキング技術を応用して無色ガラスに着色図形を描く方法が開示されている。この方法では、無色ガラスを紫外レーザで照射し、その照射位置を、描こうとする図形に沿って動かす。こうすると、紫外レーザが当たった位置のガラスは、その深さ方向の全ての部位でカラーセンタが生成して変色する。そのため、紫外レーザの軌跡に沿った着色図形を形成することができる。

【非特許文献1】作花済夫,境野照雄他編“ガラスハンドブック”朝倉書店,1984,825-840
【非特許文献2】山手貴志,多門宏幸他“レーザによるガラスの着色と,それを利用したリサイクルに適する着色ガラスの作製”レーザ加工学会誌,9(2),2002,69-72
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザマーキングは、装飾用途や製品管理、偽造防止など幅広い分野での応用が期待されている。しかし、レーザマーキングでは、濃淡を持つ多階調の着色画像を形成することが難しく、それが応用範囲を狭めている。
前述した、ガラスに紫外レーザを照射して着色図形を描く方法では、紫外レーザの強度を変えて色の濃淡を表すことは可能であるが、この場合は、ドットの大きさを変えて擬似的に階調を再現する“ハーフトーン”と同様の手法によるため、高精細な多階調画像を得ることができない。
【0006】
本発明は、こうした従来の状況を考慮して創案したものであり、高精細な多階調画像を形成することができるレーザマーキングによる多階調画像形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フェムト秒レーザを被照射体に照射して、被照射体の内部に多階調画像を形成する方法であり、フェムト秒レーザの集光距離を所定距離に設定し、被照射体をフェムト秒レーザの照射方向と垂直な方向に相対移動して、被照射体内部のフェムト秒レーザの集光位置に着色層を形成する第1のステップと、フェムト秒レーザの集光距離を以前のステップで未だ設定されていない距離に設定し、被照射体をフェムト秒レーザの照射方向と垂直な方向に相対移動して、被照射体内部のフェムト秒レーザの集光位置に、以前のステップで形成された着色層と少なくとも一部が重なる着色層を形成する第2のステップとを備え、前記第2のステップの処理を1または複数回行うことにより多階調画像を形成するものである。
【0008】
フェムト秒レーザは、超短パルスレーザを繰り返し発振しており、その1つのパルスによる照射時間はフェムト(10-15)秒オーダである。このように、1パルスの照射時間が短く、1パルスによる照射エネルギが極めて小さいため、レーザの集光位置をガラス等の被照射体の内部に設定した場合に、1パルスによる作用は、集光位置のガラス部位以外には及ばない。そのため、集光距離を一定にして、フェムト秒レーザをガラスに対して相対的に走査すれば、ガラス内に層状の着色画像を描くことができる。そして、レーザの集光距離を変え、層状の着色画像を幾層にも重ね合わせることで、ガラス表面から見た着色画像の濃淡を、重ね合わせた層の数に応じて変えることができる。
【0009】
また、本発明の多階調画像形成方法では、フェムト秒レーザの集光位置に、着色層を形成するためのカラーセンタを生成することが好ましい。
【0010】
また、本発明の多階調画像形成方法では、フェムト秒レーザの波長を紫外線の波長の2倍に設定することが好ましい。
【0011】
フェムト秒レーザは、フォトンを焦点位置に時間的・空間的に強く閉じ込めるため、焦点位置で2光子吸収が生じ、2つのフォトンが同時に消滅して、そのエネルギの和に相当する1個の電子が励起される。従って、フェムト秒レーザの波長を紫外線の波長の2倍に設定すると、フェムト秒レーザの2個のフォトンエネルギ加算値が紫外光1個のフォトンエネルギと等価になり、ガラスは、紫外光の照射を受けたときと同様に、カラーセンタを形成する。
【0012】
また、本発明の多階調画像形成方法では、被照射体として銀を含有するガラスを用いることができる。
銀を含有するガラスに対して、前述する多階調画像の形成方法を適用すると、色の濃淡の変化と共に、色の変化を出現させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ガラス等の被照射体の内部に、高精細な多階調画像を形成することが可能であり、ガラス内部に写真などの画像を忠実に再現することができる。
また、この画像は、被照射体を加熱し、あるいは紫外線を再照射すれば消去することができ、書き換えが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態における多階調画像形成方法に用いるフェムト秒レーザ装置を示している。
この装置は、フェムト秒レーザを出力するレーザ出力装置10と、λ/2板11と、入射光が同一光路を通って反射することを防止するGlanレーザープリズム12と、光量を調節するNDフィルタ13と、シャッター14と、ミラー15、16と、撮影用のCCDカメラ19と、カメラ位置に焦点を合わせるレンズ18と、可視光のBRG成分を分岐するディクロイックミラー17と、レーザを集光する集光レンズ20と、試料30を載置した状態でX、Y、Z方向に移動できる自動3軸ステージ21と、シャッター14及び自動3軸ステージ21を制御するコントローラ22とを備えている。
【0015】
ここでは、レーザ出力装置10に、パルス幅200fs、繰り返し周波数(f)=1kHzのフェムト秒レーザを出力する装置を使用している。シャッター14は、レーザ光用の精密シャッター(10ms分解能)を使用している。集光レンズ20は、焦点距離8mm(N.A.=0.5)のレンズを使用している。また、自動3軸ステージ21は、エアー静圧3軸リニアステージを用いている。コントローラ22は、試料30の所望箇所にレーザ照射ができるようにシャッター14及び自動3軸ステージ21を制御する。
また、試料30には、厚み1.0mmのソーダ石灰ガラスを使用し、この試料30にフェムト秒レーザ装置を用いて多階調画像を形成した。
【0016】
なお、装置にはビーム走査用にガルバノミラーシステムを付加して画像形成速度を速めることができる。ガルバノミラーは、軸に固定された回転自由なミラーであり、このミラーの回転を制御して、ミラーに反射したレーザ光での走査を行わせる。
【0017】
図2は、試料30に形成した多階調画像を模式的に示している。この多階調画像は、レイヤー1からレイヤー5までの5層の着色層から成り、試料30の表面から見ると、重なった層の数が多い箇所では色が濃く、重なった層の数が少ない箇所では色が薄く見える。
この多階調画像は、次のように形成する。
フェムト秒レーザ装置は、レーザ出力を10mW、レーザ波長(λ)を775nm(可視域)に設定する。
【0018】
なお、レーザ波長の775nmは、紫外線の波長388nmの2倍である。この場合、レーザの光子エネルギ(hc/λ)は、紫外線の光子エネルギの半分となる。そのため、2光子吸収によりレーザの2つの光子が同時にガラスに吸収されると、紫外線の1つの光子を吸収した場合と等価になる。
【0019】
また、自動3軸ステージ21のX、Y方向の移動は、試料30の面がレーザによって走査速度1mm/s、ピッチ幅10μmで相対的に走査されるようにコントローラ22で制御する。
【0020】
まず、レーザの焦点位置が試料30の内部に位置するように自動3軸ステージ21のZ方向の位置を設定し、走査面積が2mm×10mmとなるように自動3軸ステージ21のX、Y方向を制御しながら、試料30にレーザ光を照射する。
この走査に伴って試料30内の集光位置にはカラーセンタが生成され、レイヤー1の着色層が形成される。
【0021】
次に、焦点位置を100μm上げ、走査面積が2mm×8mmとなるように自動3軸ステージ21のX、Y方向を制御しながら、試料30にレーザ光を照射し、レイヤー2の着色層を形成する。
【0022】
さらに、焦点位置を100μmずつ上げながら、走査面積を2mm×6mm、2mm×4mm、及び2mm×2mmに設定して、レイヤー3、レイヤー4及びレイヤー5の着色層を形成する。
【0023】
図3は、実際に試料30に形成された多階調画像を示している。この画像は、茶色に着色されており、濃淡を有している。分光光度計(島津製作所社製、UV-3150)を用いて、波長532nmの光が発色部を透過する透過率について測定したところ、レイヤー1のみのときが89%、レイヤー1、2のときが82%、レイヤー1、2、3のときが78%、レイヤー1、2、3、4のときが69%、そして、レイヤー1、2、3、4、5のときが63%であった。
この測定結果から、層の重なりが多いほど透過率が小さくなり、色が濃くなっていくことが確かめられた。
【0024】
この多階調着色画像は、試料30を550℃で60分加熱すると消失する。また、紫外線ランプを用いて着色画像を照射した場合にも、画像が消失する現象を確認した。なお、フェムト秒レーザを同一箇所に幾ら照射しても着色画像は変化しない。
【0025】
また、図4は、濃淡を有する絵画の画像をレーザマーキングでガラス内に形成する場合を示している。
まず、絵画の写真を画像処理してグレースケール化し、色の濃さが異なる5枚の画像を生成する。次に、各画像をレイヤー1、2、3、4、5として、フェムト秒レーザ装置により、前述する方法で各レイヤーの着色層をガラス内部に重ね合わせて形成する。このとき、着色しない箇所は、シャッター14を閉じてレーザ光を遮断する。
【0026】
なお、色の濃さが異なる複数枚の画像の生成は、取り込んだ画像におけるコントラストを認識して、階調の異なる複数の画像に分ける画像処理ソフトを使用して行う。また、得られた各画像を描画するためにコントローラ22に搭載するNCプログラムやガルバノミラー制御プログラムは、CAMソフトを使用して自動作成する。
【0027】
この各レイヤーの着色層の重ね合わせにより、ガラス内部に濃淡を有する絵画の画像が形成される。フェムト秒レーザ装置では、1ドット/μmの解像度で描画できるため、ガラス内に絵画を忠実に再現できる。
【0028】
また、図5は、建物のデジタル写真をグレースケール化して9層のレイヤーに分解し、ガラス内部に、各レイヤーの着色層を重ね合わせて形成した例を示している。このように階調を増やすことでさらに高精細な多階調画像を得ることができる。
これらの多階調画像も、試料30を550℃で60分加熱したり、紫外線ランプを照射したりすれば消失する。
【0029】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態では、銀を含有するガラス内に多階調着色画像を形成する方法について説明する。
前記非特許文献2では、銀を含有するソーダ石灰ガラスを加熱すると黄色に着色することが報告されている。
金属微粒子は、表面プラズモンによって発色することが知られており、中でも銀の微粒子は、粒子径に応じて複数の色を現すことが知られている。図6に示す表は、銀の粒子径と透過色との関係を示している。
図6の関係から、黄色に着色した銀含有ガラスは、粒子径10nmの銀粒子がガラス中に分散していると考えられる。
【0030】
第2の実施形態の多階調着色画像形成方法では、銀を含有するソーダ石灰ガラスに対して、第1の実施形態の方法と同様に、レーザ出力10mW、走査速度1mm/s、ピッチ幅10μmに設定してフェムト秒レーザを照射し、ガラス中の焦点位置に銀粒子を凝集させてレイヤー1の着色層を形成する。
次に、焦点位置を100μm上げて、同様の走査でレイヤー2の着色層を形成し、さらに、焦点位置を100μmずつ上げながら、レイヤー3、レイヤー4及びレイヤー5の着色層を形成する。
こうして着色層の重なりを増やすことで、多階調の着色画像を得ることができる。5層の着色層が重なった箇所では橙色に発色した。
【0031】
図7は、分光光度計を用いて、着色層を重ねるごとに変化する銀含有ガラスの発色部での色度を測定し、xy色度図に画いたものである。図7に示すように、着色層を重ねるほど色が黄から赤に変化して行く傾向が見て取れる。これは、銀ナノ粒子の凝集が成長して赤が発色している可能性がある。
しかし、着色したガラスを550℃で60分加熱したところ、発色部が消失した。そのためカラーセンタによる発色の可能性もある。
【0032】
発色メカニズムの解明は今後の課題であるが、銀を含有するガラスにフェムト秒レーザを照射して多階調画像を形成する本発明の方法は、色の濃淡の変化と共に、色の変化を齎しており、濃淡を加えたフルカラーマーキングの可能性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、レーザマーキングの応用分野である、装飾用途や製品管理、偽造防止等の各分野で幅広く利用することができ、特に、書き直し可能な記憶媒体への記録や、書き換え可能なディスプレイへの表示などに極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態における多階調画像形成方法で用いるフェムト秒レーザ装置の構成を示す図
【図2】本発明の第1の実施形態における方法で形成した多階調画像を模式的に示す図
【図3】本発明の第1の実施形態における方法で形成した多階調画像を示す図
【図4】本発明の第1の実施形態における方法で形成した絵画の多階調画像を示す図
【図5】本発明の第1の実施形態における方法で形成した写真の多階調画像を示す図
【図6】銀の粒子径と透過色との関係を示す表
【図7】本発明の第2の実施形態における方法で形成した多階調画像の色度を示す色度図
【図8】カラーセンタの生成を説明する化学式
【符号の説明】
【0035】
10 レーザ出力装置
11 λ/2板
12 Glanレーザープリズム
13 NDフィルタ
14 シャッター
15 ミラー
16 ミラー
17 ディクロイックミラー
18 レンズ
19 CCDカメラ
20 集光レンズ
21 自動3軸ステージ
22 コントローラ
30 試料
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7