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明細書 :硬質膜の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5000199号 (P5000199)
公開番号 特開2007-320776 (P2007-320776A)
登録日 平成24年5月25日(2012.5.25)
発行日 平成24年8月15日(2012.8.15)
公開日 平成19年12月13日(2007.12.13)
発明の名称または考案の名称 硬質膜の製造方法
国際特許分類 C01G  25/02        (2006.01)
C01G  27/02        (2006.01)
C09D 185/00        (2006.01)
C09D   7/12        (2006.01)
C09D   1/00        (2006.01)
FI C01G 25/02
C01G 27/02
C09D 185/00
C09D 7/12
C09D 1/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2006-149158 (P2006-149158)
出願日 平成18年5月30日(2006.5.30)
審査請求日 平成21年5月25日(2009.5.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】西出 利一
個別代理人の代理人 【識別番号】100087594、【弁理士】、【氏名又は名称】福村 直樹
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開2005-054116(JP,A)
特開2002-187738(JP,A)
特開2003-183634(JP,A)
特開2005-052774(JP,A)
特開昭63-048358(JP,A)
特開2005-015759(JP,A)
特開2004-061879(JP,A)
特表2006-519308(JP,A)
北澤 賢三 ほか,日本セラミックス協会2006年年会講演予稿集,2006年 3月14日,第266ページ下段
調査した分野 C01G25/00-47/00
C01G49/10-99/00
C01B13/00-13/36
C09D1/00
C09D7/12
C09D185/00
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
有機酸と無機酸とハフニアおよび/またはジルコニアとを含むゾル中の、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対する有機酸の含有量が0.1~20モルであるゾルを基材に塗付し、得られた塗布膜を紫外線照射による硬化処理及び加熱による硬化処理をすることなく、相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させることにより硬化させる硬質膜の製造方法。
【請求項2】
相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させる時間が1~120時間である請求項に記載の硬質膜の製造方法。
【請求項3】
有機酸がギ酸、酢酸およびシュウ酸よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の硬質膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質膜の製造方法に関し、さらに詳しくはプラスチック、金属などの表面保護等に有効な硬質膜であって、紫外線照射や高温処理を施すことなく高い硬度を持つ硬質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の設備、装置、機械器具等には、表面の傷を防止したり曇り止めなどを目的として、表面に被膜を形成した材料が使用されている。外観の美しさや透明性を必要とされる材料の表面は擦過傷などの小さな傷でも問題とされるため、ハードコート材で被覆することが多い。また、ガラスの曇り止めなどには撥水性の被覆材が使用されている場合も多い。特に、プラスチック材料のように表面が比較的やわらかい材料には表面被覆は多用されている。このような表面被覆材としては、金属酸化物薄膜が多用されている。金属酸化物薄膜として、例えば硬度を要求される表面被覆材としてはシリカ膜、チタニア膜、ジルコニア膜、ハフニア膜などが、撥水性の表面被覆材としてはハフニア膜、ジルコニア膜またはイットリア膜が、光触媒機能の表面被覆材としてはチタニア膜または酸化ニオブ膜などが、高誘電性の表面被覆材としては酸化ニオブ膜または酸化タンタル膜などが知られている。特に、最近はアナターゼ結晶を持つチタニアが光触媒としての作用を持つことが知られて注目されている。また、機能性の薄膜としては、金属酸化物薄膜以外にもダイアモンド薄膜などもよく知られている。
【0003】
これらの薄膜の製造方法としては、乾式法として蒸着法、スパッタ法、CVD法などが知られており、湿式法として電析法、ゾル-ゲル法などがある。一般に、乾式法は大掛かりな製膜設備を必要とするが、湿式法、特にゾル-ゲル法は複雑な設備を必要とせず、比較的簡単に薄膜を形成することができる。ゾル-ゲル法では、金属化合物をエタノールや水などの溶媒に溶解して、加水分解し金属酸化物ゾルを作製する。得られたゾルを基材表面に塗布し、ゲル膜を作製し、加熱処理や紫外線照射などの処理により硬質膜を形成することができる。
【0004】
硬度や撥水性に優れたハフニア膜および/またはジルコニア膜の表面被覆膜としての効果は知られているが、まだ、あまり一般的に利用はされていない。ハフニア膜および/またはジルコニア膜の製造方法としては、ゾル-ゲル法の利用がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、「周期表3族、4族および5族から選ばれた少なくとも一種の金属の酸化物ゾルを、低くとも50%相対湿度環境下で基材の表面に塗布し、次いで、前記基材の表面に塗布された前記金属の酸化物ゾルを硬化処理することを特徴とする硬質塗膜の製造方法」が開示されている。周期表4族元素にはハフニウムやジルコニウムが含まれており、この特許文献1には、実施例として具体的にハフニアおよび/またはジルコニアの硬質膜が好適に製造できることが記載されている。しかし、この方法によれば、基材に塗付したゲル膜を硬化させるために紫外線照射や加熱処理が必要とされている。特許文献2には、「ハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物ならびにトリアルコキシアルキルシランを含有する溶媒溶液と水と酸とを混合して加熱することを特徴とするハフニアおよび/またはジルコニアならびにアルキルシリカを含有するゾル組成物の製造方法。」が開示されている。そして、このゾルは硬質膜の製造に利用できることが開示されている。この場合も、膜の硬化のためには紫外線照射を行うこととしている。特許文献3には、「ゾル-ゲル法により形成されたところの、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びハフニウムより成る群から選択される少なくとも一種の元素の無機化合物を含有するゾル液を、基材上に塗布し、200℃を超えない温度に加熱処理しながら、大きくとも100mJ/cm2の紫外線を照射することを特徴とするハードコート膜形成方法。」が開示されている。特許文献4には、「ハフニアおよび/またはジルコニアとタンニン若しくはウルシオールを構成成分とする天然高分子、及び/又は光硬化性モノマーとを含有するゾルを基材の表面に塗布することを特徴とする硬質塗膜の製造方法」が、開示されている。
【0005】

【特許文献1】特開2005-54116号公報
【特許文献2】特開2003-183634号公報
【特許文献3】特開2002-187738号公報
【特許文献4】特開2005-52774号公報
【0006】
上述のように、ハフニアおよび/またはジルコニアの硬質膜をゾル-ゲル法で製造するには基材に塗付したゲル膜を紫外線照射したり、加熱処理したりすることにより硬化させることが必要であった。プラスチックをはじめとする基材の中には、紫外線により分解、変形や変質が起こる場合が多い。また、加熱処理によっても基材の分解、変形や変質が起こったり、溶融や反応が起こったりするおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解消するため、紫外線や高温に曝すことができない基材に対しても、均質で高い硬度を有するハフニアおよび/またはジルコニアの薄膜を形成することのできる硬質膜の製造方法を提供することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために、ハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルを基材に塗布した塗膜を硬化させる環境について検討を重ねた結果、特定の条件下にあるハフニアおよび/またはジルコニアのゾル膜を特定の湿度のもとで存置させることにより課題が解決できるということを見出し、以下の発明を完成した。 請求項1に係る発明は、
有機酸と無機酸とハフニアおよび/またはジルコニアとを含むゾル中の、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対する有機酸の含有量が0.1~20モルであるゾルを基材に塗付し、得られた塗布膜を紫外線照射による硬化処理及び加熱による硬化処理をすることなく、相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させることにより硬化させる硬質膜の製造方法である。
請求項に係る発明は、
相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させる時間が1~120時間である請求項に記載の硬質膜の製造方法である。
請求項に係る発明は、
有機酸がギ酸、酢酸およびシュウ酸よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の硬質膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬質膜の製造方法によると、ハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルを基材に容易に塗布でき、均質で高い硬度を有する薄膜を形成することができ、しかも、本発明により得られたハフニアおよび/またはジルコニアの薄膜は、高い硬度に加えて優れた撥水性を有する。本発明の硬質膜の製造方法は、ゾル-ゲル法を利用しているために塗膜形成に大規模な設備を必要とせず、本発明においては塗膜の硬化にあたっても紫外線照射設備や加熱設備などを必要としない。また、本発明のゾルは、ハフニウムおよび/またはジルコニウムと有機酸および無機酸とで形成されており、容易に製造することができ、安定性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の硬質膜の製造方法においては、ハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルは、有機酸と無機酸とを含有しており、そのゾル中のハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対するゾル中の有機酸の含有量が0.1~20モル、好ましくは1~15モルであるゾルを基材に塗付し、相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させる。
【0011】
まず、本発明の硬質膜の製造方法に好適に利用できるゾルおよびそのゾルの製造方法について説明する。本発明において好適に用いられるハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルは、有機酸と無機酸とを含む。有機酸としては、カルボキシル基を有する有機酸が好ましく、かつ炭素数3以下の有機酸が好ましい。例えば、好ましい有機酸として、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸などを挙げることができ、フッ素を含む有機酸でもよい。中でも、ギ酸、酢酸、シュウ酸が特に好ましい。有機酸の含有量は、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して有機酸が0.1~20モル、好ましくは1~15モルが好ましい。また、無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸および硫酸などを挙げることができ、好適な無機酸は、塩酸、硝酸および硫酸である。無機酸の含有量は、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して、0.1~100モルが好ましい。
【0012】
本発明において、ハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルを調製する方法に制限はないが、例えば、次のプロセスで作製することができる。
ハフニウムおよび/またはジルコニウムの金属アルコキシドまたは金属塩(以下、ハフニウムおよび/またはジルコニウムの金属アルコキシド、金属塩のようにハフニウムおよび/またはジルコニウムのアルコキシド、塩、および酸化物などを金属アルコキシド、金属塩、および金属酸化物などと略称することがある。)を水などの溶媒に溶解し、アンモニア水やアミンなどの塩基を加える。このとき、pHが8以上になるように加えると、水酸化物が沈殿する。これに水などの溶媒を加えてさらに無機酸および有機酸を加えることにより、ハフニアおよび/またはジルコニア含有のゾルを作製することができる。水酸化物が得られたとき、これをろ別して吸着している塩化アンモニウムなどを水などにより洗浄して除去することもできる。水酸化物を得る反応を促進したり完全なものにしたりするには、この水酸化物を含む溶液を加熱したり攪拌したりする。これにより、ハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルが得られる。
【0013】
原料となる金属アルコキシドとしては特に制限はないが、ハフニウムまたはジルコニウムと炭素数5以下のアルコールとのアルコキシド、例えば、前記金属のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、ペントキシドが好ましい。また、金属塩としては、前記金属のハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩などを挙げることができ、好適な金属塩はハロゲン化物である。ハロゲン化物としては、金属としてハフニウムを例にとると、四塩化ハフニウム、四フッ化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウムを挙げることができ、中でも、四塩化ハフニウムが好ましい。ジルコニウムについても、前記ハフニウムのハロゲン化物と同様のハロゲン化物や二塩化酸化ジルコニウム・八水和物などを好ましい金属塩として挙げることができる。金属アルコキシド溶液または金属塩溶液における金属アルコキシドまたは金属塩の濃度は、特別な限定はないが、通常は、金属酸化物換算で1~70質量%、好ましくは、1~50質量%である。1質量%以上とすることで、生成するゾルの濃度が適度に保たれ基材への塗布後に良好な薄膜を形成しやすい。前記上限値以内であれば、生成するゾルの濃度が濃くなりすぎず、後述する酸との混合や塗付等の取り扱いが容易である。
【0014】
金属アルコキシド溶液は、金属アルコキシドと溶媒とを混合することにより、また、金属塩溶液は、金属塩と溶媒とを混合することにより、容易に調製することができる。混合する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、ビニルアルコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサンなどのケトン、アミン、アミドなどを挙げることができ、好ましく用いられる溶媒は水またはアルコール、特にエタノール、メタノールおよびイソプロパノールである。これら溶液を調製するときの条件についても制限はないが、通常は室温でよく、0~100℃、好ましくは、10~50℃で、攪拌、混合して調製される。このとき、配位能力のある有機物を添加することもできる。金属アルコキシド溶液または金属塩溶液に添加する配位能力のある有機物としては、例えば、2,4—ペンタンジオンやカテコールなどのジオンなどを挙げることができる。
【0015】
金属アルコキシド溶液または金属塩溶液に加える塩基としては、アンモニアおよびアミンが好ましく、アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンなどを挙げることができる。第1級アミンとして、2-プロペニルアミン、2-メチル-2-プロペニルアミン、2-プロペロイロキシエチルアミン、および2-(2-メチルプロペロイロキシ)エチルアミンなど、第2級アミンとして、ジ(2-プロペニル)アミン、ジ(2-メチル-2-プロペニル)アミン、2-プロペニルアミン、2-メチル-2-プロペニルアミン、2-プロペロイロキシエチルアミン、および2-(2-メチルプロペロイロキシ)エチルアミンタクリレート)など、第3級アミンとして、N,N-ジメチル-2-プロペロイロキシエチルアミン、N,N-ジメチル-2-(2-メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N-ジエチル-2-プロペロイロキシエチルアミン、N,N-ジエチル-2-(2-メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N-ジメチル-3-プロペロイロキシプロピルアミン、N,N-ジメチル-3-(2-メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N-ジエチル-3-プロペロイロキシプロピルアミンN,N-ジエチル-3-(2-メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N-ジメチル-3-(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N-ジメチル-3-(2-メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N-ジエチル-3-(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、およびN,N-ジエチル-3-(2-メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミンなどを挙げることができる。また、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアリールアンモニウム、水酸化テトラテトラアリールアンモニウムなどの第4級アンモニウム化合物も使用することができる。さらに、アミンとしては、前記第1級アミン~第3級アミンの塩類も本発明に使用することができる。アンモニアまたは上述のアミンは、そのまま使用してもよく、水溶液として使用してもよい。アンモニア水を用いる場合、アンモニアの好適な濃度は通常1~29質量%である。
【0016】
続いて、得られた水酸化物をろ別することが好ましい。このろ別した水酸化物は水またはアルコールにより洗浄することが好ましい。この洗浄に用いるアルコールとしては、炭素数5以下のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-メチルプロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールなどを挙げることができる。この洗浄は、水酸化物のpHを調整すると共に、水酸化物に付着または含有した夾雑物や不純物を除去するための工程である。このろ別した水酸化物と水および/またはアルコールならびに有機酸および無機酸とを混合することによって、目的とするゾルが形成される。このゾルは、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して有機酸が0.1~20モル、好ましくは1~15モルである。また、無機酸は0.1~100モルであることが好ましい。この場合、これらの混合順序には特別な制限はない。例えば、水酸化物と水および/またはアルコールならびに無機酸および有機酸とを同時に混合してもよく、水酸化物と水および/またはアルコールとを混合し、次いで、無機酸および有機酸を混合してもよい。また、水酸化物と無機酸および有機酸とを混合し、次いで、水および/またはアルコールを混合してもよい。
【0017】
また、水酸化物に加える場合の酸として、有機酸としては、カルボキシル基を有する有機酸が好ましく、かつ炭素数3以下の有機酸が好ましい。例えば、好ましい有機酸として、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸などを挙げることができ、フッ素を含む有機酸でもよい。中でも、ギ酸、酢酸、シュウ酸が特に好ましい。有機酸は、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して有機酸が0.1~20モル、好ましくは1~15モルとすることが適している。また、無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸および硫酸などを挙げることができ、好適な無機酸は、塩酸、硝酸および硫酸である。無機酸はハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して、0.1~100モルとすることが好ましい。
【0018】
水酸化物と混合する水および/またはアルコールの量は、この水酸化物を解膠するに足る量であればよく、この水酸化物に対し、通常は、質量基準で1~100倍、好ましくは、1~50倍である。1倍未満では、金属イオンの濃度が高くなって、解膠が困難となり、100倍を超えると、ゾル中の金属イオンの濃度が低くなり好ましくない。有機酸および無機酸の混合量は、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して有機酸が0.1~20モル、好ましくは1~15モルであることが望ましい。この範囲より少ないと解膠が困難となり、上記範囲より多いと相対湿度50~100%下で存置しても硬質膜が作製できなくなり好ましくない。無機酸は、ハフニウムおよび/またはジルコニウム1モルに対して0.1~100モルであることが好ましい。0.1モルより少ないと解膠が困難となり、100モルより多いと相対湿度50~100%存置で硬質膜が作製できなくなり好ましくない。
【0019】
水および/またはアルコールならびに無機酸および有機酸における配合割合に特別の制限はなく、全量を100質量部としたとき、無機酸および有機酸を、通常は、0.1~50質量部、好ましくは、1~20質量部とすることが好ましい。0.1質量部未満では、水酸化物が解膠せず、50質量部を超えると、用いる無機酸および有機酸により、基材が損傷されたり、変質を生じたりし、また、塗布時、無機酸および有機酸の蒸発によって、環境に悪影響を与えることもあるので好ましくない。水とアルコールとを併用するときの両者の配合割合にも制限はなく、また、無機酸と有機酸との配合割合にも制限はないが、通常は、酸全量を100質量部としたとき、無機酸、特に硝酸または塩酸を10~90質量部、好ましくは、10~60質量部とすることが好ましい。無機酸および有機酸を含むゾルのpHは、0~3としておくことが好ましい。ゾルのpHがこの範囲にあるとハフニアおよび/またはジルコニアを含有するゾルが安定し易く、塗布する基材への影響も最小限に押さえやすい。
【0020】
本発明においては、上述のようにして調製されたゾルを硬質塗膜を形成しようとする基材の表面に塗布した後、相対湿度50~100%の雰囲気下で存置させることにより、硬質膜を製造する。
【0021】
ゾルを塗布される基材には制限はなく、様々な素材を採用することができる。例えば、プラスチックスから形成された基材、複合材料から形成された基材、金属材料から形成された基材、無機材料から形成された基材などが挙げられる。その他の基材としては、紙、布、皮革、木材をも挙げることができる。プラスチックスから形成された基材としては、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。複合材料から形成された基材としては、繊維強化プラスチック、琺瑯、グラスライニングおよびセラミックスコーティングのいずれかによって被覆した基材などが挙げられる。金属材料から形成された基材としては、普通鋼、構造用定合金鋼、高張力鋼、耐熱鋼、高クロム系耐熱鋼、高ニッケル-クロム系耐熱鋼をはじめとする合金鋼およびステンレス鋼等の鉄鋼材料、工業用純アルミニウム、5000系のアルミニウム合金、Al-Mg系アルミニウム合金および6000系アルミニウム合金をはじめとするアルミニウム合金、銀入銅、錫入銅、クロム銅、クロム・ジルコニウム銅およびジルコニウム銅をはじめとする各種銅合金、純チタン、抗力チタン合金および耐食性チタン合金をはじめとするチタン合金などを挙げることができる。無機材料から形成された基材としては、ガラス、アパタイト、ムライト磁器、アルミナ磁器、ジルコン磁器、コーディエライト磁器およびステアタイト磁器などを挙げることができる。
【0022】
前記各種の基材の中でも、ガラスで形成された基材、プラスチックスで形成された基材、紙で形成された基材、およびこれらの複合材料で形成された基材が好適な基材として挙げられる。また、これら基材は、その表面が塗装され、塗膜が形成されるなどの表面処理がなされている基材であってもよい。これらの基材は高温や紫外線により劣化する場合があるが、本発明の硬質膜の製造方法は、紫外線照射や高温環境下での硬化処理を必要としないので、これらの基材への硬質膜の形成に好適である。
【0023】
具体的な基材となる物品の例としては、外装板、例えば、送電線、建築物、サッシュおよび鉄道車両の外板などを挙げることができる。また、金属製またはプラスチック製の日用雑貨品、台所、バス、トイレなどの家庭用品を挙げることもできる。セラミックス材料から形成された基材の一例としては、例えば、アルミナ、シリカなどのセラミックス製品、碍子、碍管およびセラミックスタイル、屋根瓦を挙げることができる。その他にも例えば、各種タンク、反応槽、醸造槽ならびにコップ、洗面器および花瓶をはじめとする日用品、おもちゃなどを挙げることができる。
【0024】
基材として、プラスチック、木材、金属およびセラミック等の表面に塗料が塗布された塗装表面も挙げることができる。塗装表面としては、具体的には、自動車、鉄道車両および航空機の車体表面などを挙げることができる。前記基材としては、さらに、コンクリート壁、テラコッタタイル壁、モルタル壁、および漆喰壁をはじめとする建築物の内外壁、および建材を挙げることができる。さらに、表面をメッキ処理した前記各種基材をも挙げることができる。
【0025】
基材の表面にはどのような方法でゾルを塗布してもよいが、例えば、ゾル中に基材を浸漬し、これを引き上げて基材表面にゾルを付着させるディップ法、固定された基材表面上にゾルを流延する流延法、ゾルの貯留された槽の一端からゾルに基材を浸漬し、槽の他端から基材を取り出す連続法、回転する基材上にゾルを滴下し、基材に作用する遠心力によってゾルを基材上に流延するスピンナー法、基材の表面にゾルを吹き付けるスプレー法およびフローコート法を挙げることができる。ゾルの塗布量は、ゾルの粘度その他の条件により異なる。1回の塗布では、目的の厚さの薄膜が得られない場合は、数回の塗布を繰り返すこともできる。得られる硬質膜の厚さは、適用対象物に応じて適宜、決定すればよいが、通常、10~1000nmとなるようにゾルを塗付すればよい。
【0026】
基材表面が汚れている場合は洗浄してからゾルを塗付することが好ましい。特に、表面が金属である場合など油性の膜が存在していることがあり、脱脂剤を用いて金属表面を脱脂処理した後、前記ゾルを塗布することが好ましい。この脱脂剤としては、エタノールなどのアルコールまたはアルカリ洗剤を挙げることができ、アルカリ洗剤としては、例えば、オルトケイ酸ナトリウムにけん化剤や界面活性剤を配合した脱脂剤を用いることができる。脱脂処理の方法に特別な制限はなく、例えば、金属基材表面をアルコールで拭き払う手段を採用することができ、また、金属基材を脱脂剤中に浸漬し、1~5分間、好ましくは30~60℃に加熱して、撹拌することによって脱脂処理することができる。脱脂処理した後、場合によっては水洗し、乾燥すればよい。
【0027】
また、脱脂処理に続いて電解処理を施すこともできる。これらの処理により、金属基材に対するゾルの塗布性を一層、向上させることができる。電解処理は、脱脂液に基材を浸漬したままで基材にプラスまたはマイナスの電極を設置し、対電極として基材に設置したものとは反対の電極を設置する。これに任意の時間通電することにより電解処理を行う。このときの電圧は任意でよいが好ましくは1~200Vであり、通電時間は任意でよいが、好ましくは0.1~60分であり、液の温度は任意でよいが、好ましくは0~80℃である。
【0028】
本発明は、上述の基材表面に塗付されたゾルを、相対湿度50~100%、の雰囲気下に存置させることによる硬質膜の製造方法である。相対湿度を上記の範囲としてその中に塗布膜を存置させると、雰囲気中の水分子が膜内に浸透して膜内の金属イオンに配位している有機物や無機物イオンを置換し、Hf-OHやZr-OHとなる。これがさらにHf-O-HfやZr-O-Zrとなって、多くのHf-O-HfやZr-O-Zrネットワークを形成することにより、硬質膜が形成されると推測される。有機物イオンや無機物イオンが多く金属イオンに配位していると、水による置換が不十分となり硬質膜を得るのに必要な量のHf-O-HfやZr-O-Zrネットワークが形成されない。このような現象はこれまでの硬化において観察されたことはなく、本発明により初めて明らかにされたことである。
【0029】
基材表面に塗布されたゾルを上記の相対湿度の下で存置する場合、その存置条件は、通常は室温でよく、1~120時間、好ましくは、1~72時間とすることが望ましい。なお、得られる硬質膜の厚さは、基材の種類、適用対象物に応じて適宜、決定することができるが、通常、10~1000nmの範囲から選ばれる。
【0030】
相対湿度を所定の値に調整するには、例えば、大規模な硬質膜の製造方法においては、空気調節機によればよく、小規模な硬質膜の製造方法においては、存置に用いる容器などの設備内に、特定の無機化合物の固相が存在する飽和水溶液を置くことにより、その設備内の湿度を制御することができる。たとえば、炭酸ナトリウム・10水和物(NaCO・10HO)の固相を含む飽和水溶液を置いた容器内は、相対湿度87~92%に制御することができる。または、水蒸気を導入した後、シリカゲルなどの調湿剤を入れて吸湿するなどの手段により相対湿度を調整すればよい。また、存置に用いる容器などの設備内に温水を注ぎ、水滴を残す程度に水を拭き取るなどの手段によることもできる。
【0031】
本発明の硬質膜の製造方法においては、相対湿度50~100%の環境下で、ゾルを基材の表面に塗布することが好ましい。このような湿度環境下で塗布することにより、基材の表面に対するゾルの塗布性が向上され、塗膜ムラのない均質な塗布膜が得られる。上記の環境下で金属酸化物ゾルを基材に塗布すると、塗付時に基材の表面にきわめて薄い水の膜が形成され、金属酸化物ゾルと基材の表面との親和性が向上して、良好な塗布性が得られるものと推測される。
【0032】
本発明の硬質膜の製造においては、紫外線照射や加熱による硬化処理は必要がない。



【0033】
本発明の製造方法により製造された硬質膜は、鉛筆硬度が7H以上の高硬度である。また、この硬質膜は、接触角が70°以上の撥水性を示す。硬質塗膜の硬度は、鉛筆硬度法(JIS K5600-5-4)によって評価することができる。また、撥水性とは、水をはじく性質をいい、接触角計を用いて測定される水滴の接触角によって評価することができる。
【0034】
このように、基材に対するゾルの塗布性に優れ、しかも均質で高い硬度を有し、撥水性の良好な硬質膜を、各種の建物、設備、装置、機械器具、例えば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡などの表面に形成することによって、その機能を存分に果たすこととなる。また、ガラス、アクリル板、ポリスチレン板、PETフィルム、PETボトルなどの透明製品、表面の光沢や質感を重んじるプラスチック製品の表面に本発明の方法による硬質膜を形成する場合にも、硬質膜形成時に基材を傷めることなく硬度の高い各種製品が製造できる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によって本発明はなんら限定されるものではない。
【0036】
〔ハフニアゾルの調製〕
四塩化ハフニウムHfCl 5.44gを窒素雰囲気下、水32gに溶解した。この溶液に、29%アンモニア水をpH9.0になるまで添加し沈殿物を得た。この沈殿物をろ過し、純水により沈殿物を洗浄液のpHが7になるまで洗浄した。洗浄した沈殿物を純水に加え、さらに無機酸として60%硝酸、有機酸として98%ギ酸または酢酸を表1に示す量を加え、85℃で3時間加熱撹拌し、その後冷却してハフニアゾルを調製した。各実施例および比較例毎に使用したハフニアゾルにつき、ゾル記号ごとにHfCl、純水、硝酸、およびギ酸または酢酸の量、並びにハフニアゾル中のハフニウム1モルに対する有機酸のモル量を表1に示す。
【0037】
【表1】
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【0038】
〔ジルコニアゾルの調製〕
二塩化酸化ジルコニウム・八水和物ZrOCl・8HO 5.48gを水32gに溶解した。この溶液に29%アンモニア水をpH9になるまで添加し、沈殿物を得た。この沈殿物をろ別し、純水により沈殿物を洗浄液のpHが7になるまで洗浄した。洗浄した沈殿物を純水に加え、さらに無機酸として60%硝酸、有機酸として98%ギ酸または酢酸を表2に示す量で加え、85℃で3時間加熱撹拌し、その後冷却してジルコニアゾルを調製した。各実施例および比較例毎に使用したジルコニアゾルにつき、ゾル記号ごとにZrOCl・8HO、純水、硝酸、およびギ酸または酢酸の量、並びにジルコニアゾル中のジルコニウム1モルに対する有機酸のモル量を表2に示す。
【0039】
【表2】
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【0040】
〔基材へのハフニアゾルまたはジルコニアゾルの塗布〕
10×10cmに切断した厚さ5mmの無アルカリガラス基板を中性洗剤で洗浄し、さらに純水でリンスした後、エアガンにより水分を除去し、乾燥して薄膜製造用の基材を用意した。この基材表面に、上記のハフニアゾルH1~H6およびジルコニアゾルZ1~Z6をそれぞれスピンナー法(500rpm/5秒→2000rpm/30秒)により塗付した。この際、スピンナーカップ内すなわちゾルを塗付する基材表面付近における雰囲気の相対湿度を55~60%に保ってゾルを塗布した。ゾルを塗付された基板を、それぞれゾル記号H1~H6、H1~H6に対応して試料H1~H6、試料Z1~Z6とした。なお、それぞれの試料は、後述のように異なった湿度環境下で硬化させるため、およびそれらの比較のため、4枚ずつ準備した。そのうちの1枚を用いて、後述の方法によりデシケータ内存置処理化前の鉛筆硬度を測定した。その結果を表3に示す。
【0041】
〔基材へ塗布したハフニアゾルまたはジルコニアゾルから硬質膜の製造〕
一方、小型シャーレA、BおよびCを用意した。次に、それぞれのシャーレ中で炭酸ナトリウム・10水和物(NaCO/10HO)25g、塩化アンモニウム(NHCl)30gと硝酸カリウム(KNO)30gの混合物、および酢酸カリウム25gをそれぞれ純水75gに添加し、25℃で溶解させた。このとき、それぞれのシャーレの溶液中には固体を飽和状態になるまで溶解した後も固体が残存していた。つぎにシャーレA、BおよびCをそれぞれデシケータA、BおよびC内に置いた。それぞれのデシケータ内の温度は25℃に保っておき、デシケータ内の湿度が安定したところで相対湿度を計った。デシケータAは92%、Bは71%、Cは20%であった。
このようにして準備しておいたデシケータA、BおよびCに、それぞれ試料H1~H6および試料Z1~Z6を、図1に示すように、ガラス立て治具5に立てかけて、塗付面2を上側にして水平に対しガラス立て角度7を75度として存置した。
それぞれの基板を19時間存置した後、取り出して第一回目の鉛筆硬度測定を行った。デシケータA内に存置した基板は取り出してすぐ鉛筆硬度を測定した。デシケータBおよびC内に存置した基板は、取り出した後3.5時間室温で乾燥させてから鉛筆硬度を測定した。これらの測定結果をデシケータA、BおよびCに存置処理した試料について、それぞれ表3に示す。
測定が終わった基板は、再度もとのデシケータに入れて硬化処理を続け、さらに19時間硬化処理した後に第2回目の鉛筆硬度測定を行った。デシケータA内に存置した基板は取り出してすぐ鉛筆硬度を測定した。デシケータBおよびC内に存置した基板は、取り出した後3.5時間室温で乾燥させてから鉛筆硬度を測定した。これらの測定結果もあわせて表3に示す。
【0042】
(鉛筆硬度測定方法)
硬度測定は、引掻き塗膜型さ試験機(東洋精機製作所株式会社製、P-TYPE)を用いてJIS K5600-5-4に従って実施した。すなわち、6Bから9Hの硬さの鉛筆を6Bから順に塗膜に対し45度にして荷重750gで押し付け、7mmの距離を0.1~5mm/秒の速度で3本走査する。肉眼で薄膜表面を観察し、3mm以上の傷跡が2本生じるまで鉛筆の硬度を上げていき、傷跡の生じなかった最も硬い鉛筆の硬度をその薄膜の鉛筆硬度とする。なお、鉛筆は薄膜の存置処理時の基板の上方から下方に向かって走査した(図1参照)。
【0043】
【表3】
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【0044】
デシケータAおよびBに在置処理した試料については、接触角計(協和界面科学株式会社、CA-D)を用いて、水に対する接触角を測定した。その結果は表4に示すとおりであった。
【0045】
【表4】
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【0046】
表3に示すように、塗布膜の存置処理前は当然硬度は低い。比較例11~22に示すように、低い相対湿度における存置処理では塗布膜の硬度が上がらないことが分かる。一方、実施例1~14に示すように、存置処理湿度が高い場合は、塗布膜は塗付されたゾルの種類により硬度が決定される。塗付したゾル中のハフニウムおよび/またはジルコニア1モルに対して有機酸が本発明の範囲であれば、在置処理により硬化し、鉛筆硬度8H以上、ほとんどの鉛筆硬度は9H以上となった。
また、本発明の試料はすべて水に対する接触角が80°以上であり、撥水性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、ゾルを塗付した基板の存置処理を示すイメージ図である。
【符号の説明】
【0048】
1:基板、 2:ゾルの塗付面、 3:デシケータ、 4:シャーレ、
5:ガラス立て治具、 6:鉛筆硬度試験の鉛筆の走査方向、 7:ガラス立て角度
図面
【図1】
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