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明細書 :リン架橋スチルベン及びその製法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4231929号 (P4231929)
公開番号 特開2008-056630 (P2008-056630A)
登録日 平成20年12月19日(2008.12.19)
発行日 平成21年3月4日(2009.3.4)
公開日 平成20年3月13日(2008.3.13)
発明の名称または考案の名称 リン架橋スチルベン及びその製法
国際特許分類 C07F   9/6568      (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
H01L  51/50        (2006.01)
FI C07F 9/6568 CSP
C09K 11/06 660
H05B 33/14 B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 18
出願番号 特願2006-237746 (P2006-237746)
出願日 平成18年9月1日(2006.9.1)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 研究集会名 平成17年度名古屋大学理学部化学科卒業論文発表会(平成17年度特別実験報告書要旨集) 主催者名 国立大学法人名古屋大学 発表日 平成18年3月6日
審査請求日 平成20年6月30日(2008.6.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】山口 茂弘
【氏名】深澤 愛子
【氏名】原 真尚
【氏名】岡本 敏宏
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
審査官 【審査官】本堂 裕司
参考文献・文献 特開2007-137824(JP,A)
特開2003-231741(JP,A)
特開2004-256469(JP,A)
特開2003-168564(JP,A)
国際公開第02/072661(WO,A1)
調査した分野 C07F 9/6568
C09K 11/06
H01L 51/50
CA(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(1)で表される、リン架橋スチルベン。
【化1】
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(式(1)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基及びハロゲンからなる群より選ばれた1種であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれた1種であり、
nは1~100の整数である)
【請求項2】
下記式(2)で表される、リン架橋スチルベン。
【化2】
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(式(2)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基及びハロゲンからなる群より選ばれた1種であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれた1種であり、
1及びZ2は、それぞれ独立して、酸素原子又は硫黄原子であり、
nは1~100の整数である)
【請求項3】
1及びZ2は、いずれも酸素原子である、請求項2に記載のリン架橋スチルベン。
【請求項4】
1,R3 ,R4,R5,R7及びR8 は、いずれも水素原子である、請求項1~3のいずれかに記載のリン架橋スチルベン。
【請求項5】
発光性材料として用いられる、請求項1~4のいずれかに記載のリン架橋スチルベン。
【請求項6】
下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へ脱離基を持つホスフィノ基を導入して下記式(4)で表されるビスホスフィノ化合物とし、該式(4)で表されるビスホスフィノ化合物の分子内二重環化反応により下記式(5)で表されるリン架橋スチルベンとする、リン架橋スチルベンの製法。
【化3】
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(式(3)~(5)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群より選ばれた1種であり、
1及びX2は、同じか又は異なる脱離基であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及び複素環基からなる群より選ばれた1種であり、
3及びX4は、同じか又は異なる脱離基である)
【請求項7】
下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へ脱離基を持つホスフィノ基を導入して下記式(4)で表されるジホスフィノ化合物とするにあたり、まず、下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へアミノホスフィノ基を導入して下記式(6)で表されるビスアミノホスフィノ化合物としたあと、該式(6)で表されるビスアミノホスフィノ化合物のホスフィン上のアミノ基を脱離基導入剤により脱離基に変換して下記式(4)で表されるビスホスフィノ化合物とする、
請求項6に記載のリン架橋スチルベンの製法。
【化4】
JP0004231929B2_000015t.gif
(式(3)~(6)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群より選ばれた1種であり、
1及びX2は、同じか又は異なる脱離基であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及び複素環基からなる群より選ばれた1種であり、
11~R14は、それぞれ独立して、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及び複素環基からなる群より選ばれた1種であり、
3及びX4は、同じか又は異なる脱離基である)
【請求項8】
9及びR10は、いずれも同じアリール基又は置換アリール基であり、
11~R14は、いずれも同じアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及び複素環基からなる群より選ばれた1種であり、
3及びX4は、いずれも同じハロゲン原子である、
請求項7に記載のリン架橋スチルベンの製法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリン架橋スチルベン及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電界発光素子(以下、有機EL素子という)や有機レーザ、化学センサ、有機蛍光塗料などの発光性材料として優れた有機化合物を開発しようとする試みがなされている。このような有機化合物の分子設計として、高い平面性を持つπ共役系骨格を有する分子を構築することが有効な方法の一つと考えられている。例えば、スチルベンをメチレン鎖で架橋した炭素架橋スチルベンは、溶液での蛍光量子収率が高いことが知られている(非特許文献1)。

【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., vol. 90, p4759 (1968)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、π共役化合物を発光性材料として実用化する場合には、その特性として、溶液中で高い発光効率を示すだけでなく固体状態でも高い発光効率を示す材料や、吸収極大波長に比べて発光極大波長が大きく離れている材料が求められることがある。前者の要件が求められるのは、発光性材料をフィルム等にすることが多くその場合に高い発光効率が要求されるからであり、後者の要件が求められるのは、自己が発した光を自己が吸収してしまうのを避けることができるからである。しかしながら、これらの要件を満たすπ共役化合物は極めて限られているのが現状であり、真に優れた特性を有する新規な材料の開発が望まれていた。
【0004】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、新規なリン架橋スチルベン及びその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記した課題について検討するにあたり、スチルベンをメチレン鎖で架橋する代わりにリンで架橋することに着目した。そして、リン架橋スチルベンを合成し、その光物性を測定したところ、炭素架橋スチルベンに比較して優れた特性を有していることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のリン架橋スチルベンは、下記式(1)又は下記式(2)で表されるものである。
【0007】
【化1】
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【0008】
(式(1)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基及びハロゲンからなる群より選ばれた1種であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及び複素環基からなる群より選ばれた1種であり、
nは1~100の整数である)
【0009】
【化2】
JP0004231929B2_000003t.gif

【0010】
(式(2)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、複素環基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基及びハロゲンからなる群より選ばれた1種であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及び複素環基からなる群より選ばれた1種であり、
1及びZ2は、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、セレン原子及びテルル原子からなる群より選ばれた1種であり、
nは1~100の整数である)
【0011】
また、本発明のリン架橋スチルベンの製法は、
下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へ脱離基を持つホスフィノ基を導入して下記式(4)で表されるビスホスフィノ化合物とし、該式(4)で表されるビスホスフィノ化合物の分子内二重環化反応により下記式(5)で表されるリン架橋スチルベンとするものである。
【0012】
【化3】
JP0004231929B2_000004t.gif

【0013】
(式(3)~(5)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群より選ばれた1種であり、
1及びX2は、同じか又は異なる脱離基であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれた1種であり、
3及びX4は、同じか又は異なる脱離基である)
【発明の効果】
【0014】
本発明のリン架橋スチルベンによれば、炭素架橋スチルベンに比べて、(a)固体状態での発光効率が高い、(b)発光極大波長が長波長シフトする、(c)ストークスシフト(吸収波長と発光波長との差)が大きな値を示す、という効果のうち少なくとも一つが得られる。また、本発明のリン架橋スチルベンの製法によれば、本発明のリン架橋スチルベンを比較的高い収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用可能なアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの分岐があってもよいアルキル基のほか、シクロペンチル基やシクロヘキシル基などの環状アルキル基などが挙げられる。また、アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などが挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられる。また、アルキルチオ基としては、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基などが挙げられる。また、複素環基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、キノリル基などが挙げられる。また、脱離基としては、例えばスルホニルオキシ基やハロゲン原子などが挙げられ、スルホニルオキシ基としては、メシラート基、トシラート基、トリフラート基などが挙げられ、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。また、置換アルキル基のように接頭語に「置換」の付いているものの具体的な置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの分岐があってもよいアルキル基;シクロペンチル基やシクロヘキシル基などの環状アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、スチリル基などのアルケニル基;エチニル基、プロパギル基、フェニルアセチニル基などのアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基などのアルコキシ基;ビニルオキシ基やアリルオキシ基などのアルケニルオキシ基;エチニルオキシ基やフェニルアセチルオキシ基などのアルキニルオキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基、ピレニルオキシ基などのアリールオキシ基;トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基などのパーフルオロ基及びさらに長鎖のパーフルオロ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基などのアミノ基;ジフェニルボリル基、ジメシチルボリル基、ビス(パーフルオロフェニル)ボリル基などのボリル基;アセチル基やベンゾイル基などのカルボニル基;アセトキシ基やベンゾイルオキシ基などのカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基やフェニルスルフィニル基などのスルフィニル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、トリメトキシシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;フェニル基、2,6-キシリル基、メシチル基、デュリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、トルイル基、アニシル基、フルオロフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、フェナンスレニル基などのアリール基;チエニル基、フリル基、シラシクロペンタジエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、キノリル基、キノキサロイル基、フェナンスロリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ピロリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリミジル基、イミダゾリル基などのヘテロ環基などが挙げられる。そのほかに、ニトロ基、ホルミル基、ニトロソ基、ホルミルオキシ基、イソシアノ基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアノ基などもあげられる。さらに、これらの置換基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0016】
本発明の上記式(1)で表されるリン架橋スチルベンは、リンが酸化されやすいため、例えば酸素を十分除去した容器に封入して使用するようにしてもよい。
【0017】
本発明の上記式(2)で表されるリン架橋スチルベンは、Z及びZは、それぞれ独立して周期表16族のいずれかの元素であればよく、具体的には酸素原子、硫黄原子、セレン原子及びテルル原子のいずれかであることが好ましく、特に両方とも酸素原子であることが好ましい。
【0018】
本発明の上記式(1)又は上記式(2)で表されるリン架橋スチルベンは、更に、下の式(7a)~(7f)からなる群より選ばれる少なくとも一つの繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0019】
【化4】
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【0020】
(式(7a)~(7f)中、Ar1~Ar6は、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基又は金属錯体構造を有する2価の基を示し、Q1~Q5は、それぞれ独立に、-CR15=CR16-,-C≡C-,-N(R17)-,-B(R18)-又は-(SiR1920k-を示し、R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基、カルボキシル基、置換カルボキシル基又はシアノ基を示し、R17~R20は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基又はアリールアルキル基を示し、i,j及びkは、それぞれ独立に、1~12の整数を示す)
【0021】
本発明の上記式(1)又は上記式(2)で表されるリン架橋スチルベンは、nが1であってもよいが、nが2以上、好ましくはnが10以上のポリマーとしてもよい。このようなポリマーを作製するには、Macromolecules, 2004, vol.37, pp8978-8983を参考にして合成することができる。その一例を下記化5に示す。この例では、3,8-ジメトキシ-5,10-ジフェニルホスホロ[3,2-b]ホスホール-P,P’ジオキシド(式(10)参照)のTHF溶液にs-BuLiのシクロヘキサン-ヘキサン溶液を滴下したあとヨウ素のTHF溶液を加えることにより、2,7-ジヨード体(式(11)参照)を得る。一方、これとは別に、式(10)で表される化合物のTHF溶液にs-BuLiのシクロヘキサン-ヘキサン溶液を滴下したあと2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボラン(i-PrOB(pin))を加えることにより、2位及び7位にB(pin)が導入された式(12)で表される化合物を得る。そして、式(11)で表される化合物、式(12)で表される化合物、Pd(dba),PPh及びCsCOを混合して加熱した後、水へ投入し、反応物を抽出することにより、nが10以上のポリマーを得ることができる。なお、dbaはジベンジリデンアセトンの略である。
【0022】
【化5】
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【0023】
本発明の上記式(1)又は上記式(2)で表されるリン架橋スチルベンは、溶液状態で用いてもよいし、固体状態で用いてもよい。溶液状態でも固体状態でも、それほど大きく発光極大波長が変化しないからである。
【0024】
次に、本発明の上記式(1)で表されるリン架橋スチルベンの合成ルートの一例を下記化5に示す。なお、化5のR等については既に述べたとおりであるため、ここではその説明を省略する。本発明の上記式(1)で表されるリン架橋スチルベンは、下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へ脱離基を持つホスフィノ基を導入して下記式(4)で表されるビスホスフィノ化合物とし、該式(4)で表されるビスホスフィノ化合物の分子内二重環化反応を進行させることにより下記式(5)で表されるリン架橋スチルベンを合成することができる。なお、反応溶媒、反応温度、反応時間や試薬のモル濃度などの反応条件は、使用する試薬等に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
式(5)で表されるリン架橋スチルベンは、式(1)でnが1の場合に相当するが、nが2以上の場合の合成例については既に述べたとおりである。また、式(5)で表されるリン架橋スチルベンを空気酸化するか過酸化水素水などの酸化剤を用いて酸化することにより、リンオキシド(式(2)でnが1、Z及びZが共に酸素原子であるリン架橋スチルベン)に変換することができる。
【0026】
ここで、下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へ脱離基を持つホスフィノ基を導入するにあたっては、まず、下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へアミノホスフィノ基を導入して下記式(6)で表されるビスアミノホスフィノ化合物としたあと、該式(6)で表されるビスアミノホスフィノ化合物のホスフィン上のアミノ基を脱離基導入剤により脱離基に変換して下記式(4)で表されるビスホスフィノ化合物としてもよい。アミノホスフィノ基を導入するにあたっては、例えば、下記式(3)で表されるアセチレン化合物を4当量以上の有機金属試薬で処理したあと、リン上に脱離基とアミノ基とを備えたホスフィン(例えばハロゲノ(N,N-ジアルキルアミノ)アリールホスフィン,ここでのアリールは置換基を有していてもよい)と反応させてもよい。有機金属試薬としては、例えば有機リチウム(n-BuLi,sec-BuLi,tert-BuLiなど)やアルキルグリニャール試薬、アルキルマグネシウムアミド、アルキル亜鉛試薬などを用いることができる。また、ホスフィン上のアミノ基を脱離基導入剤により脱離基に変換するにあたっては、三塩化リンなどのハロゲン化剤を脱離基導入剤としてハロゲン原子に変換してもよいし、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)などを脱離基導入剤として-OTfに変換してもよい。
【0027】
あるいは、下記式(3)で表されるアセチレン化合物の2,2’位へ脱離基を持つホスフィノ基を導入するにあたっては、まず、下記式(3)で表されるアセチレン化合物を4当量以上の有機金属試薬で処理したあと、ジハロゲノアリールホスフィン(ここでのアリールは置換されていてもよいアリール基)と反応させてもよい。
【0028】
下記化6において、R9及びR10は、いずれも同じアリール基又は置換アリール基であり、R11~R14は、いずれも同じアルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれた1種であり、X3及びX4は、いずれも同じハロゲン原子としてもよい。
【0029】
【化6】
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【0030】
(式(3)~(6)中、R1~R8は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アルキルチオ基、置換アルキルチオ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群より選ばれた1種であり、
1及びX2は、同じか又は異なる脱離基であり、
9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれた1種であり、
11~R14は、それぞれ独立して、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれた1種であり、
3及びX4は、同じか又は異なる脱離基である)
【0031】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0032】
以下の実施例につき、融点(mp)は、ヤナコのYanacoMP-S3を用いて測定した。HNMRおよび13CNMRスペクトルは、日本電子のAL-400あるいはA-400あるいはGSX-270を用いて測定した。質量分析は日本電子のJMS700を用いて測定した。反応は、特に記述がない限りアルゴン中にて脱水溶媒を用いて行った。反応に用いたTHFは、市販の脱水溶媒(Kanto)を用いた。薄層クロマトグラフィー(TLC)はシリカゲル60F254(Merck)を用いて行った。分取用薄層クロマトグラフィーは、シリカゲル60PF254(Merck)をガラス板の上に0.25mmの厚さで塗布したものを用いて行った。
【0033】
(1)5,10-ジフェニルホスホロ[3,2-b]ホスホール-P,P’-ジオキシド(化合物8a,8b)の合成(化7参照)
乾燥アルゴン雰囲気下、ビス(2-ブロモフェニル)アセチレン(200mg,0.595mmol)のTHF溶液(10mL)に-78℃でt-ブチルリチウム-ヘキサン溶液(1.57M,1.55mL,2.44mmol)を9分間かけて滴下したのち、2時間撹拌した。続いて、反応混合物にクロロ(N,N-ジエチルアミノ)フェニルホスフィン0.25mL(1.31mmol)を-78℃で1分間で滴下し30分間撹拌したのち、室温に昇温した。さらに同じ温度で2時間撹拌したのち、反応混合物に三塩化リン(0.31mL,3.75mmol)を加え、室温で2.5時間撹拌した。引き続き、30%過酸化水素水(0.6mL)を徐々に加え、室温で30分間反応させた。10%亜硫酸ナトリウム水溶液(4mL)を加えて過剰の過酸化水素を分解したのち、反応混合物を濃縮した。残査にクロロホルム(10mL)、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(20mL)を加え、クロロホルム(5mL)で3回抽出した。得られた有機層を合わせて蒸留水(10mL,3回)および飽和食塩水(10mL)で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた粗生成物(207mg)からシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより副生成物と化合物8a(シス体)と化合物8b(トランス体)とを分離した(富士シリシアPSQ100B使用,溶出溶媒:酢酸エチル-酢酸エチル/アセトン=1/1)。化合物8a:85.1mg(0.201mmol,収率34%);化合物8b:60.4mg(0.142mmol,収率24%)。
【0034】
【化7】
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【0035】
化合物8aのスペクトルデータは以下のとおり:1HNMR(400MHz, CDCl3)δ7.37-7.59 (m, 12H), 7.64-7.71 (m, 6H); 31PNMR(162MHz,CDCl3)δ31.23.
【0036】
化合物8bのスペクトルデータは以下のとおり:mp>300℃; 1HNMR(400MHz, CDCl3)δ7.38-7.41 (m, 2H), 7.67-7.50 (m, 8H), 7.59 (m, 2H), 7.67 (dd, 2H, J = 6.8 Hz, 10.3 Hz), 7.81-7.87 (m, 4H); 31PNMR(162MHz,CDCl3)δ32.55.
【0037】
(2)光物性測定
化合物8aについて、紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを実施例1の(3)と同様にして測定した。その結果を図1に示す。図1から明らかなように、化合物8a(シス体)は408nm付近に吸収極大を、526nm付近に蛍光極大をもっていた。また、化合物8aは炭素架橋スチルベン(後記表1参照)と比較して、蛍光極大波長が約160nmも長波長シフトし、ストークスシフトの値が118nmという大きな値を示した。
【実施例2】
【0038】
(1)3,8-ジメトキシ-5,10-ジフェニルホスホロ[3,2-b]ホスホール-P,P’ジオキシド(化合物10a,10b)の合成(化8参照)
実施例1(1)のビス(2-ブロモフェニル)アセチレンの代わりにビス(2-ブロモ-5-メトキシフェニル)アセチレンを用いた以外は、実施例1(1)と同様にして反応を行い、化合物10aと化合物10bを得た(化合物10a:収率34%;化合物10b:収率19%)。なお、ビス(2-ブロモ-5-メトキシフェニル)アセチレンは、2-ブロモ-5-メトキシフェニルアセチレンと4-ブロモ-3-ヨードアニソールとのSonogashira反応により合成した。
【0039】
【化8】
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【0040】
化合物10aの融点及びスペクトルデータは以下のとおり:mp>300℃; 1HNMR(400MHz, CDCl3)δ7.70-7.61(m, 4H), 7.61-7.75(m, 4H), 7.47-7.36(m,4H), 7.03(s, 2H), 6.84(d, 2H), 3.82(s, 6H); 13CNMR(100MHz,CDCl3)δ163.96(d, C, Jcp=1.61Hz), 150.53(d, C, Jcp=106Hz), 139.20(pseudot, C, Jcp=17.4Hz), 132.77(CH), 131.53(pseudot, CH, Jcp=6.53Hz), 130.63(dd, CH, Jcp=5.73Hz, Jcp=5.03Hz), 129.11(dd, CH, Jcp=6.63Hz, Jcp=5.83Hz), 129.18(dd, C, Jcp=116Hz, Jcp=12.1Hz), 125.01(dd, C, Jcp=133Hz, Jcp=6.03Hz) 114.25(pseudot, CH, Jcp=6.63Hz), 111.36(pseudot, CH, Jcp=5.03Hz), 55.85(CH3); 31PNMR(162MHz,CDCl3)δ30.98; HRMS(EI) Calcd for C28H22O4P2:484.0993. Found:484.1012.
【0041】
化合物10bの融点及びスペクトルデータは以下のとおり:mp>300℃; 1HNMR(400MHz, CDCl3)δ7.85-7.78(m, 4H), 7.60-7.54(m, 4H), 7.50-7.43(m, 4H), 6.98(dd, 2H), 6.83(ddd, 2H),3.80(s, 6H); 13CNMR(100MHz, CDCl3)δ164.13(d, C, Jcp=1.61Hz), 150.81(d, C, Jcp=106Hz), 139.31(pseudot, C, Jcp=17.8Hz), 133.13(CH), 131.65(pseudot, CH, Jcp=6.63Hz), 131.12(pseudot, CH, Jcp=5.83Hz), 129.40(dd, CH, Jcp=6.53Hz, Jcp=5.83Hz), 128.56(dd, C, Jcp=116Hz, Jcp=11.1Hz), 125.54(dd, C, Jcp=132Hz, Jcp=5.02Hz), 114.25(pseudot, CH, Jcp=6.63Hz), 111.71(dd, CH, Jcp=5.38Hz, Jcp=4.93Hz), 55.85(CH3); 31PNMR(162MHz, CDCl3)δ32.35; HRMS(EI) Calcd for C28H22O4P2:484.0993. Found:484.0999.
【0042】
(2)X線結晶構造解析
X線結晶構造解析に用いた化合物10a,10bの単結晶は、それぞれクロロホルム-ヘキサンの二層拡散法により得た。強度データは、Rigaku single crystalCCDX線解析装置(Saturn70wtih MicroMax-007,MoKα照射(λ=0.71070Å,graphite monochrometer)を用いて測定した。構造は直接法(SHELXS-97)により解き、full-matrix least-squares on FSHELXS-97)により最適化した。水素以外の原子は異方的に最適化し、水素原子は AFIX instructionを用いて配置した。図2に化合物10a,10bの結晶構造を示す。これをみると、5価のリン原子からスチルベン骨格の上下にフェニル基が突き出ており、化合物10aはシス形、化合物10bはトランス形の構造をとっていることがわかる。これらの分子を更に詳しくみると、シス体とトランス体との構造的な違いは、スチルベン骨格の平面性にもあらわれていることが分かる。スチルベン骨格の二つのベンゼン環A,Bの二面角を比べてみると、トランス体では0°と高い平面性を示すのに対して、シス体では14.45(7)°と若干湾曲している。これは二つのフェニル基が同じ側に位置することに起因する立体障害によるものであると考えられる。
【0043】
(3)光物性測定
紫外可視吸収スペクトルは島津UV-3150を、蛍光スペクトルは日立F-4500を用いて測定した。蛍光寿命は、picosecondlightpulserPLP-10(LEDwavelength:375or405)が付属した浜松ホトニクスC4780システムを用いて測定した。溶液及び薄膜の絶対量子収率は、浜松ホトニクスC9920-02を用いて測定した。その結果を表1及び図3に示す。
【0044】
表1及び図3から明らかなように、化合物10a(シス体)と化合物10b(トランス体)はどちらも400nm付近に吸収極大を、510nm付近に蛍光極大をもち、スペクトルの形に関しても二つの間に大きな違いは見られなかった。また、表1に示すように、蛍光量子収率に関してもどちらも極めて高い値を示し、強固なπ平面を持つという特徴を反映しているといえる。一方、これらの化合物10a,10bを、対応する炭素架橋スチルベン(Org. Lett. 2006, vol.8, p495)やケイ素架橋スチルベン(J. Am. Chem. Soc., 2003, vol.125, p13662-p13663)と比較した場合、顕著な違いが二つ見られた。一つは蛍光極大波長の値で、化合物10a,10bは、炭素架橋スチルベンと比べて約140nm、ケイ素架橋スチルベンと比べても約85nmも長波長シフトしていることが分かる。これはリン原子をπ共役系に組み込んだことによる効果であると考えられる。もう一つの違いはストークスシフトの値に現れており、炭素架橋スチルベンは45nm、ケイ素架橋スチルベンは66nmであるのに対し、化合物10a,10bは100nm以上の大きな値を示した。これは励起状態における分子構造が基底状態と大きく異なることを示唆している。また、絶対量子収率は、炭素架橋スチルベンも高い値を示したが、化合物10a,10bではこれを上回る値を示した。一方、蛍光寿命の測定により、化合物10a,10b共に約29nsと、炭素架橋スチルベンの1.6nsやケイ素架橋スチルベンの5.5nsと比べて著しく長い蛍光寿命を持つことが明らかとなった。
【0045】
【表1】
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【0046】
化合物10a,10bの薄膜を作製し、その光物性についても同様にして測定した。その結果を表2及び図4に示す。なお、薄膜は、以下のようにして作製した。すなわち、1.0mgの化合物10a及び化合物10bをクロロホルム0.2mLに溶かし、スピーンコーター(ミカサ1H-D7)上に置いた石英のプレートに滴下した。スピンコーターは、1000rpmで60秒間回転させた後、3000rpmで20秒回転させた。
【0047】
表2及び図4から明らかなように、蛍光スペクトル測定の結果、薄膜(つまり固体)での蛍光極大波長は化合物10a,10bの間に違いはなかった。これは溶液での結果と同じであり、固体となってもシス体とトランス体の励起状態に違いは生じないことを示している。また、固体と溶液の蛍光極大波長を比較した場合も、二つの値に大きな違いはなく、わずかに長波長シフト(約2.5nm)しただけであった。このことから、固体での励起状態の構造は、液体での励起状態の構造と比べてそれほど大きな違いはないと考えることができる。更に、化合物10a,10bは固体でも高い蛍光量子収率を保っていた。
【0048】
【表2】
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【0049】
(4)電気化学的特性
化合物10a,10bの電気化学特性をサイクリックボルタンメトリーにより評価した。その結果を図5に示す。化合物10a,10b共に、-1.7V付近に可逆な1電子還元波を、-2.5V付近に非可逆な1電子還元波を示した。このことは化合物10a,10bはラジカルアニオンとして安定に存在することができるが、ジアニオンはこの測定条件下では不安定であるということを示している。ラジカルアニオンが安定に存在できる理由としては、電子吸引性のリン-酸素二重結合があることが一つの要因として挙げられる。また、-1.75eVという低い還元電位を持つことから、リン架橋スチルベン酸化体は低いLUMOをもつと推測できる。
【0050】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のリン架橋スチルベンは、その発光特性を利用して、有機ELや有機レーザ、化学センサ、蛍光発光塗料などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】化合物8aの吸収及び蛍光スペクトルの説明図である。
【図2】化合物10a,10bのX線結晶解析結果の説明図である。
【図3】化合物10a,10bの吸収及び蛍光スペクトルの説明図である。
【図4】化合物10a,10bの溶液状態及び固体状態での蛍光スペクトルの説明図である。
【図5】化合物10a,10bのサイクリックボルタンメトリーの説明図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4