TOP > 国内特許検索 > 画像処理により対象物の表面状態を検査する方法及びそのための画像処理プログラム > 明細書

明細書 :画像処理により対象物の表面状態を検査する方法及びそのための画像処理プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4992081号 (P4992081)
公開番号 特開2008-076167 (P2008-076167A)
登録日 平成24年5月18日(2012.5.18)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
公開日 平成20年4月3日(2008.4.3)
発明の名称または考案の名称 画像処理により対象物の表面状態を検査する方法及びそのための画像処理プログラム
国際特許分類 G01N  21/88        (2006.01)
G06T   7/40        (2006.01)
FI G01N 21/88 J
G06T 7/40 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2006-254418 (P2006-254418)
出願日 平成18年9月20日(2006.9.20)
審査請求日 平成21年4月3日(2009.4.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】宮本 文穂
【氏名】後藤 悟史
審査官 【審査官】越柴 洋哉
参考文献・文献 特開2004-212392(JP,A)
特開2006-244462(JP,A)
特開2006-162583(JP,A)
特開2004-144668(JP,A)
特開平09-079997(JP,A)
後藤悟史、麻生稔彦、宮本文穂,「耐候性鋼材を使用した無塗装橋梁におけるさび画像の多重解像度解析」,土木学会第61回年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),日本,2006年 9月 1日,p.1271-1272,論文No.1-637
調査した分野 G01N 21/84-21/958
G06T 1/00- 9/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
表面状態が評点により分類される対象物の表面状態を撮像した画像について画像処理を行って表面状態を表す評点の識別により対象物の表面状態を検査する方法であって、
対象物の表面を撮像して得られ評点が付与されている画像について水平方向及び鉛直方向にウェーブレット変換を行い、最大解像度をkとして全解像度の周波数エネルギー和に対する解像度mにおける画像全体の周波数エネルギーEmの比Eと解像度mにおける水平方向及び鉛直方向の周波数エネルギー和に対する斜め方向のエネルギーの比Eとの解像度mごとの値を成分とする2k次元の特徴ベクトルEを求めるウェーブレット解析を複数の画像の各々に対して行うことと、
多次元の複数のベクトルを超平面により2つのクラスに分類するサポートベクトルマシンにより前記複数の画像にそれぞれ対応する2k次元の特徴ベクトルEを評点にしたがって分類して評点が未知の画像の評点をその特徴ベクトルEにより識別するための識別モデルを構築することと、
構築された前記識別モデルにより評点が未知の画像についての特徴ベクトルEからその評点を識別することと、
からなることを特徴とする対象物の表面状態を検査する方法。
【請求項2】
前記対象物の表面状態が耐候性鋼材のさびの状態であることを特徴とする請求項1に記載の対象物の表面状態を検査する方法。
【請求項3】
表面状態が評点により分類される対象物の表面状態を撮像した画像について画像処理を行って表面状態を表す評点の識別により対象物の表面状態を検査することをコンピュータ上で実行するための画像処理プログラムであって、対象物の表面を撮像して得られ評点が付与されている複数の画像の各々について水平方向及び鉛直方向にウェーブレット変換を行い、最大解像度をkとして全解像度の周波数エネルギー和に対する解像度mにおける画像全体の周波数エネルギーEmの比Eと解像度mにおける水平方向及び鉛直方向の周波数エネルギー和に対する斜め方向のエネルギーの比Eとの解像度mごとの値を成分とする2k次元の特徴ベクトルEを求め、多次元の複数の特徴ベクトルを超平面により2つのクラスに分類するサポートベクトルマシンの機能により前記複数の画像にそれぞれ対応する2k次元の特徴ベクトルEを評点にしたがって分類して評点が未知の画像の評点をその特徴ベクトルEにより識別するための識別モデルを構築し、構築された前記識別モデルにより評点が未知の画像についての特徴ベクトルEからその評点を識別することにより、表面状態が評点により分類され対象物の表面状態を撮像した画像について画像処理を行って表面状態を表す評点の識別により対象物の表面状態を検査することを特徴とするコンピュータ上で実行するための画像処理プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の表面を検査する方法及びそのためのプログラムに関し、特に耐候性鋼材のさび外観のような材料の表面状態を評価する場合に有効な画像処理を用いて材料の表面を検査する方法及びそのための画像処理のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
耐候性鋼材は、大気中において乾湿を適切に繰り返すうちに、その表面に緻密で密着性に優れたさび(保護性さび)が形成されてさびが安定化し、腐食速度が著しく遅くなるという特性をもつ。このため適切な使用方法と維持管理を施せば、橋梁等の構造物が半永久的に無塗装で使用可能になり、LCC(Life Cycle Cost:初期建設費用、維持管理費用、更新費を含めたトータルコスト)の面でも優れた鋼材である。このような塗装の塗り替えを必要としない耐候性鋼材の鋼橋への適用は年々増加しており、2002年には年間10万tを超え、全鋼橋に占める割合は15%に至っているが、このことは、旧建設省土木研究所により提唱され、架け替えを前提とせず将来にわたりLCCを最小限に抑えるというミニマムメンテナンス橋構想に相応したものであると言える。
【0003】
耐候性鋼材のさび安定化度の評価についてこれまでに種々研究がなされており、外観検査、さび厚測定、透明テープ試験、イオン透過抵抗法等さまざまな手法が提案されている。このうちの外観検査以外の手法では、対象とする部位に直接接触して試験、測定を行う必要があり、そのため足場を設置するというような煩雑な作業が不可欠となる。直接接触できないか、著しく困難な場合には、外観検査のみで評価せざるを得ないことにもなる。しかし、外観検査は「目視でよく観察」し、さび評価の目安を示す基準写真によって判別する方法であり、定量性、客観性の面で劣り、点検者による評価のばらつきが大きかった。
【0004】
耐候性鋼材のさび安定化度を表することについて、次のような文献に記載されている。
【0005】
非特許文献1には、さび層の塩化物イオンに対する抵抗力を計測する環境遮断性に着目した評価手法について記載されており、非特許文献2には、鋼材の電位を計測し、電気化学的な特性からさび層の防食性能を評価する手法について記載されている。これらは、さびの化学反応論から導かれた技術であり信頼性が高いが、測定に関する知識、経験や特殊な装置が必要であり、一般的な日常点検で使用されるには至っていない。また、非特許文献3には、画像処理技術を利用して鋼橋の塗膜劣化度を定量的に評価することについて記載されているが、画像パターンとしてさび外観のような不規則性をもつ対象物の表面状態を精度よく検査するのに適切なものではない。

【非特許文献1】紀平寛「耐候性鋼上の安定さび形成状況評価と診断」(材料と環境、vol.48、pp.697-700、1999年)
【非特許文献2】鹿島和幸他「耐候性さび層の安定化評価法とその実構造物への適用」(材料と環境‘99,A-107、pp.25-28、1999年)
【非特許文献3】藤原博他「画像処理による鋼橋塗膜の劣化度判定法に関する研究」(土木学会論文集No.598/I-44、pp.85-96、1998年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
耐候性鋼材のさび安定化度を評価するための従来の技術においては、経験や知識を要するもの、特殊な装置が不可欠なものが多く、また、さび安定化度の評価を含め一般的に対象物の表面状態を検査するための画像処理を用いた手法についても実際的に使用されるには至っていない。このため、経験、知識あるいは特殊な装置を要することなく、画像処理により対象物の表面状態を検査するのに有効な手法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明による対象物の表面状態を検査する方法は、表面状態が評点により分類される対象物の表面状態を撮像した画像について画像処理を行って表面状態を表す評点の識別により対象物の表面状態を検査する方法であって、対象物の表面を撮像して得られ評点が付与されている画像について水平方向及び鉛直方向にウェーブレット変換を行い、最大解像度をkとして全解像度の周波数エネルギー和に対する解像度mにおける画像全体の周波数エネルギーEmの比Eと解像度mにおける水平方向及び鉛直方向の周波数エネルギー和に対する斜め方向のエネルギーの比Eとの解像度mごとの値を成分とする2k次元の特徴ベクトルEを求めるウェーブレット解析を複数の画像の各々に対して行うことと、多次元の複数のベクトルを超平面により2つのクラスに分類するサポートベクトルマシンにより前記複数の画像にそれぞれ対応する2k次元の特徴ベクトルEを評点にしたがって分類して評点が未知の画像の評点をその特徴ベクトルEにより識別するための識別モデルを構築することと、構築された前記識別モデルにより評点が未知の画像についての特徴ベクトルEからその評点を識別することと、からなるものである。前記対象物の表面状態は耐候性鋼材のさびの状態であるようにしてもよい。
【0008】
また、本発明は、表面状態が評点により分類される対象物の表面状態を撮像した画像について画像処理を行って表面状態を表す評点の識別により対象物の表面状態を検査することをコンピュータ上で実行するための画像処理プログラムであって、対象物の表面を撮像して得られ評点が付与されている複数の画像の各々について水平方向及び鉛直方向にウェーブレット変換を行い、最大解像度をkとして全解像度の周波数エネルギー和に対する解像度mにおける画像全体の周波数エネルギーEmの比Eと解像度mにおける水平方向及び鉛直方向の周波数エネルギー和に対する斜め方向のエネルギーの比Eとの解像度mごとの値を成分とする2k次元の特徴ベクトルEを求め、多次元の複数の特徴ベクトルを超平面により2つのクラスに分類するサポートベクトルマシンの機能により前記複数の画像にそれぞれ対応する2k次元の特徴ベクトルEを評点にしたがって分類して評点が未知の画像の評点をその特徴ベクトルEにより識別するための識別モデルを構築し、構築された前記識別モデルにより既定の評点が未知の画像についての特徴ベクトルEからその評点を識別することにより、表面状態が評点により分類され対象物の表面状態を撮像した画像について画像処理を行って表面状態を表す評点の識別により対象物の表面状態を検査することを特徴とするコンピュータ上で実行するための画像処理プログラムに関する
【発明の効果】
【0009】
本発明は、対象物の表面を撮像して得られた画像についてウェーブレット解析を行い、サポートベクトルマシンを用いた学習により識別モデルを構築することにより、画像に対応する特徴ベクトルから対象物の表面状態が簡易に、精度よく識別できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による対象物の表面状態の検査に関し、対象物の表面状態として耐候性鋼材のさび外観の場合を例にとって説明する。この例は、耐候性鋼材の表面をデジタルカメラで撮像して得られた画像について画像処理を行い、それに基づいてさび外観を適切に評価するものであり、この画像処理は、耐候性鋼材の表面を撮像して得られた画像についてウェーブレット(wavelet)変換を行い、それにより得られた周波数特性からさび外観の評点を識別するのである。そこで、最初にウェーブレット変換を用いた多重解像度解析について説明する。
〔ウェーブレット変換を用いた多重解像度解析〕
ウェーブレットは、図1に示すような局在性のある平均値0の波として定義されるΨ(t)で表現される。Ψ(t)をt軸上でシフトあるいは拡大縮小した基底Ψab(t)と任意の信号f(t)との内積をウェーブレット変換といい、式(1)で定義される。
【0011】
【数1】
JP0004992081B2_000002t.gif
ここで、スケールaは拡大縮小を決定する正の実数であり、シフトbは時間(空間)方向への移動量を決定する実数である。Ψab(t)に関して、
【0012】
【数2】
JP0004992081B2_000003t.gif
による直交性の関係があり、また、Ψab(t)は
【0013】
【数3】
JP0004992081B2_000004t.gif
のように規格化される。Ψ(t)はΨ(t)の複素共役を示す。W(a,b)はウェーブレット展開係数であり、信号f(t)の中にΨab(t)の成分がどれだけ含まれるかを表すものであることから、f(t)は
【0014】
【数4】
JP0004992081B2_000005t.gif
のように成分分解したものとして表される。ウェーブレット変換は、基底が時間軸を移動し、かつ対象とする任意の信号に対して基底の時間幅を拡大縮小することができるため、局所的な周波数情報が得られ、効率的な時間-周波数解析を行うことができるものである。
【0015】
適当な直交基底関数をウェーブレットとし、式(1)のa,bを次のように離散化する。
【0016】
a=2-j,b=k・2-j
(ここで、j=0,±1,±2,・・・;k=0,±1,±2,・・・)
また、変数tを整数値nで置き換えると、N個のサンプリングデータからなる離散信号に対するf[n]に対する離散ウェーブレット変換は
【0017】
【数5】
JP0004992081B2_000006t.gif
で示される。
【0018】
離散ウェーブレット変換は多重解像度解析の1つであり、原信号を直交系のスケーリング関数の1次結合で近似した時に、解像度mの近似関数とそれより1レベル粗いm+1の近似関数との差分がウェーブレットの1次結合となる。つまり、ウェーブレット変換は、原信号の解像度を落としながら低域側の信号を次々と2分割していき、各解像度ごとに高域側の信号を出力するサブバンド分解と等価である。
【0019】
関数f(t)で表される原画像を逐次2分割し高域側を出力する状況を示すと、図2のようになる。原関数f(t)を周波数成分で逐次分解していくにあたり、原画像について最も高い周波数成分の成分画像を抜き出しこれをH1とし、原画像から成分画像H1を差し引いた残りの成分画像をL1とする。次に、成分画像L1について次に高い周波数成分の成分画像H2を抜き出し、L1からH2を差し引いた成分画像をL2とする、というように逐次反復していく。周波数成分による分解の各段階において、それぞれ成分画像の解像度が対応したものとなる。
【0020】
このような過程において、原画像の1次元情報としての関数f(t)について周波数成分の分解がなされるが、画像としては2次元の変量分布であるので、水平向及び垂直方向の変量f(t),g(t)について周波数成分による分解を行う。この場合、最初に例えば各行の画像信号に対して水平方向の1次元ウェーブレット変換を行い、高域の成分画像Hと低域の成分画像Lとに分割する。次に、周波数成分で分割された成分画像Hの各列の信号に対して鉛直方向のウェーブレット変換を行ってHHとHLとの成分画像に分割し、また、成分画像Lの各列の信号に対してウェーブレット変換を行ってLHとLLとの成分画像に分割する。この水平方向の分割と鉛直方向の分割とにより、4つの周波数成分(LL,LH,HL,HH)が算出される。各周波数成分は、LLが原画像の基本的情報が含まれる低域成分であり、LHおよびHLはそれぞれ水平方向および鉛直方向のエッジが強調され、HHは対角方向のエッジが強調される特性をもつ。その次の段階では、4つに分解された周波数成分のうち、その段階でのLL成分をさらに4つに分解し、以下同じように低周波数側を4つに分解する過程を反復する。このように水平方向と鉛直方向とに分解された4つの成分画像のうちLLの成分画像に対してさらに水平方向と鉛直方向との分解を行い、以下同様に反復する(図3)。
【0021】
原画像が210×210ピクセルであったとして、図2のような周波数成分による分解を水平方向、垂直方向に行う過程と、各段階の成分画像の1画素に含まれる現画像の情報量との関係を示すと、表1のようになる。
【0022】
【表1】
JP0004992081B2_000007t.gif
ウェーブレット展開係数をW(x,y)とすると、M×Nの画素からなる画像の解像度mにおけるLH成分の周波数エネルギーELHm
【0023】
【数6】
JP0004992081B2_000008t.gif
で、また、画像全体の周波数エネルギーE
【0024】
【数7】
JP0004992081B2_000009t.gif
で算出される。このとき最大解像度をkとすると、全解像度の周波数エネルギー和に対するEの比E(nはnormalを表す)は
【0025】
【数8】
JP0004992081B2_000010t.gif
で算出され、画像の周波数エネルギーの分布特性を評価することができる。
【0026】
また、Eの分布図の重心に相当するCAは
【0027】
【数9】
JP0004992081B2_000011t.gif
で算出される。E、CAは解像度間のエネルギー比であり、複数の画像を評価する場合、画像の明るさや全体的な色合いの違いに影響を受けにくいパラメータである。
〔さび画像の評定〕
画像処理の目標として、耐候性鋼材のさび外観を適切に評価することがある。さび画像によりさび外観を判別するのには個人差が伴うが、熟練技術者は的確に判別し得る。外観耐候性鋼材のさび外観については表2のような外観評点の基準がある。
【0028】
【表2】
JP0004992081B2_000012t.gif
ウェーブレット変換による多重解像度解析を用いた画像処理の目標としては、このようなさび画像を画像処理して得られた結果により表2に示されるような外観評点と同程度にさび外観を判別できるようにすることがある。目視外観基準にあるさびの平均外観粒径は同一スケールのさび画像におけるさびの粗密さ、周波数として表現できると考えられる。表2における評点1(異常)や評点2(要観察)のさび外観はさび粒子とは別に層状ないしうろこ状の剥離形状をもち、これらのさび画像は低周波領域のエネルギーが高くなると考えられる。
【0029】
最大解像度別にさび画像について前述したEの分布重心CAの平均値、標準偏差を求め、線形近似により、EやCAがさびの粗密さを大まかではあるが定量的に表現できることがわかる。EやCAは各解像度における画像全体のエネルギーに着目した特徴量である。そのため、表2における評点3~5のさび画像の評価には適しているが、評点1,2のさび画像のように層状ないしうろこ状のさびで均一でないものについての評価には適切とは言えない。そのため、より精度を高めるためにパターン認識の手法を用いるのがよい。
〔パターン認識手法を用いた判別〕
評点1,2のような層状剥離さびないしうろこ状さびのような非均一的な画像に対しては、局所的な分布特性を表現する指標が必要であり、各解像度について新たな特徴量として
【0030】
【数10】
JP0004992081B2_000013t.gif
(lはlocalを表す)を用いる。Eは水平方向及び鉛直方向の周波数エネルギー和に対する斜め方向のエネルギーの比であり、さび画像のテクスチャとしての不均一性に着目した特徴量である。式(8)及び式(10)から、さび画像の特徴ベクトルEを
【0031】
【数11】
JP0004992081B2_000014t.gif
で定義する。このような特徴量と外観評点との相関をよくするために、非線形性を考慮したパターン認識の手法を取り入れる。この手法について、
・特徴ベクトルEを学習パターンとした外観評点の識別モデルをサポートベクトルマシンにより構築する。
・構築された識別モデルによりさび画像の識別を行い、その結果により識別モデルを用いたさび画像の識別の有効性について検証する。
という段階に分けて説明する。
(a)サポートベクトルマシンによる識別モデルの構築
サポートベクトルマシン(Support Vector Machine;以下、SVM)は、2クラスの分類問題を解くために作られた学習機械である。式(11)における特徴ベクトルEは2k次元の特徴量空間に分布するサポートベクトルとして示されるが、このような2クラスのパターン分布には、超平面によって2つに分けられる線形分離可能な場合と、分けることができない非線形な場合とが存在する。SVMはこの両方に適用可能で、マージン最大化と呼ばれる手法に基づいた汎化能力の高いものと言える。
【0032】
一般的な線形識別器における次元数dの学習パターンX=(x,・・・,xの識別関数は、
【0033】
【数12】
JP0004992081B2_000015t.gif
のように表される。ここで、wは識別器の重みを表し、bはバイアス項と呼ばれるパラメータである。この識別器のP(X)=0を満たす点の集合(識別面)は、(d-1)次元の超平面となる。ここで、図4(a)のように異なるクラスの学習パターンが(d-1)次元の超平面(図では直線)によって分離できたとすると、学習パターンを完全に識別する超平面は無数に存在する。識別の最終目標は、無数にある未知のテストパターンを正確に識別することであり、SVMでは2つのクラスの中央部を通る(マージンを最大にする)超平面が最も識別性に優れているものとして、図4(b)のように、これを探索する。
【0034】
線形分離が不可能な特徴量空間の場合、式(12)のような識別関数では十分な識別性能が得られない。そこで、非線形関数Φ(X)を用いて特徴ベクトルX∈Rをより高次元の空間Rに写像する。これにより、写像先のq次元ユークリッド空間で線形識別を行えば、実質的にもとの空間で非線形識別を行ったのと同等になる(図5)。
【0035】
スカラーを出力する任意のh個の非線形関数φ(X)(j=1,・・・,h)を用い、関数Φ(X)を
【0036】
【数13】
JP0004992081B2_000016t.gif
のように定義する。Φ(X)を新たなパターンとみなせば、線形SVMと同様に最適な識別関数が定式化されるが、Φ(X)を含む非線形関数は高次元のベクトル演算を含み、膨大な計算量を必要とする。そのため、もとの空間で定義されるカーネル関数K(X,Y)を、
【0037】
【数14】
JP0004992081B2_000017t.gif
として導入する。カーネル関数は、もとの空間における学習パターンX及びYの位置関係を写像先で内積として反映し、識別に重要な役割をもつもので、例えば多項式型やガウシアン型のカーネル関数がある。簡易に高次元への写像を可能にするものとして、
【0038】
【数15】
JP0004992081B2_000018t.gif

の形のRBF関数がある。ここで、γ(γ>0)はカーネルパラメータである。
【0039】
このようにして、SVMを用いた学習により、さび画像の場合について表2に示される外観評点基準に従ってそれぞれ評点が付されている多数のさび画像を、個々のさび画像に対応する特徴ベクトルEによってどの評点のものであるか識別できるようにするための識別モデルを構築する。このために、図4(a),(b)に示すように、評点が既知の特徴ベクトルEをSVMを用いてクラス分けして5つの評点に分類できる識別モデルを作り上げる。ここで、SVMは2クラスの分類問題を解く学習機械であるため、全クラスの外観評点に対して対象とする評点の画像とそれ以外の画像とを1種類ずつ総当たりで分類する(2クラス分類の繰り返し)問題として考える。
【0040】
このようにSVMを用いた学習の過程を経て構築された識別モデルを用いることにより識別されていないさび画像がどの評点のものであるか画像さらにその識別モデルを用いてさび画像を自動的に識別することができる。識別モデルを構築しさび画像の評点を識別することをフローで示すと図6のようになる。
(b)識別モデルによりさび画像の識別とその結果による識別モデルを用いたさび画像の識別の有効性
図6に示すようなフローによりさび画像の評点を識別するための識別モデルの構築を実際にさび画像について実行し、構築された識別モデルを用いてさび画像の識別を行い、その結果を別途外観評定で得られた結果と対比し、識別モデルの有効性について検証する。
【0041】
【表3】
JP0004992081B2_000019t.gif

【0042】
解析に用いるさび画像は、経過年数6年の無塗装橋梁から有効画素数300万画素のデジタルカメラで採取したものであり、得られた画像は全て
Y=0.299R+0.587G+0.114B
(R,G,Bは赤、緑、青の濃度値)の式によりグレースケールに変換するという前処理を行っている。さび画像558枚とそれらの外観評点を全パターンとし、それらの一部を学習パターンとして識別モデルを構築する。全パターンの外観評点は表3に示すようになっている。学習パターンはパターン数の制約による識別モデルのロバスト性を検証するために、全画像データに対する学習パターンの比率αを10%~50%に変化させ適合率を比較する。また、学習の偏りを防ぐため、各条件での識別はランダムに選択した学習パターンによる識別モデル30組について行い、それらの適合率を平均して評価する。この識別モデルに対する適合率の評価は図7のフローの形で行う。
【0043】
全パターンのうちの学習パターンの割合αを10%~50%の範囲で変えていった場合の適合率の変化は図8(a)のようになり、最大解像度(k)は5~8の場合について行っている。また、図8(b)には、最大解像度(k)を8とし、特徴ベクトル(E,E,E)と学習パターンの割合αを変えた場合の適合率の変化を示している。図8(a),(b)に示す結果から、学習パターンの割合が増えると適合率が向上するのは明らかである。全体のパターン数が一定であるため、学習パターンが増えると、残りの識別対象となるパターンの数は経るが、学習により適合率が向上することになる。また、図8(b)に示す結果からすれば、特徴ベクトルとしてE及びEを単独で用いるより、これらを併せたEを用いた方が適合率がよく、識別に有効なパラメータとなることがわかる。
【0044】
特徴ベクトルの次元数(d)と学習パターンの数(n)は適合率に大きく影響し、一般に2クラスの分類問題で統計的に信頼できる結果を得るのにn>2(d+1)の条件を満たす必要があると考えられている。図8(a)に示す結果では、最大解像度の違い(k=5,6,7,8)は適合率にそれほど影響を及ぼしていないと言える。最大解像度を低くすれば特徴ベクトルの次元数を削減でき、同じ学習パターン数であるとしても信頼性の向上につながるとともに、ウェーブレット変換やSVMの学習に要する時間が短縮される。ウェーブレット変換に際し低周波域での周波数エネルギーに対する誤差が大きいというようなことを踏まえて考えると、最大解像度は5~6が合理的であると言える。
【0045】
【表4】
JP0004992081B2_000020t.gif

【0046】
表4に、最大解像度を6、学習パターンの割合(α)を50%として、学習パターンについての特徴ベクトルEにより学習を行って識別モデルを構築し、この識別モデルにより他の(100-α)%のパターンの識別を行うこと、これを学習パターンをランダムに選択することで識別モデルの構築、評価を30回行って得られた識別結果を合計したものを外観評定と対比して示す。表4において、SVMにより構築された識別モデルによる識別結果が外観評点と一致する対角線上の枠内の結果が正しい識別がなされたことを示し、その割合がカッコ内数字の適合率となる。最も高い適合率は評点1で94%、最も低い場合で評点3の72%であり、全体として学習モデルによる識別として良好な適合率が得られている。
【0047】
ここでの説明では、識別モデルの構築とその有効性の検証とを行うという面から、全画像パターンのうちの一部(α%)を学習パターンとし、構築された識別モデルにより残りの(100-α)%のパターンの識別を行い、その識別結果か正しい評点と一致する適合率により識別モデルの有効性を確認したものであるが、このようにさび画像についてのウェーブレット解析、SVMを用いた学習により識別モデルを構築することにより、さび画像の評点の識別を自動的に行うことができる。識別を自動的に行うために精度の高い識別モデルを構築することが必要であり、そのためにはできるだけ多数、多様な画像のパターンを蓄積する必要がある。
【0048】
本発明を耐候性鋼材表面のさび画像をもとにさび外観を評価する場合の例に関して説明したが、ここでのウェーブレット解析、SVMを用いた学習による識別モデルの構築、それにより自動的識別を行うという手法は、特に耐候性鋼材のさび外観の評価に限られることはなく、一般的な材料の表面状態、あるいは地面・植生の状態等を撮像した画像により評価するような場合にも、表面状態が評点により分類されるものとして、適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ウェーブレットの波形の例を示す図である。
【図2】ウェーブレット変換により画像の解像度を落としながら周波数成分で逐次分解することを説明する図である。
【図3】画像に対し水平方向、鉛直方向のウェーブレット変換を行い分解する過程を概略示す図である。
【図4】(a),(b)サポートベクトルマシンによる特徴ベクトルの分類を概略的に示す図である。
【図5】特徴空間の高次元空間への写像をイメージ化する図である。
【図6】本発明による識別モデルの構築とそれを用いた識別の過程を示すフロー図である。
【図7】本発明により構築される識別モデルの有効性を検証する過程を示す図である。
【図8】識別モデルの構築に際し全パターンに対する学習パターンの割合を変えた時の適合率を示す図であり、(a)では最大解像度を変え、(b)では特徴ベクトルを変えて示している。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7