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明細書 :磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4982742号 (P4982742)
公開番号 特開2008-071857 (P2008-071857A)
登録日 平成24年5月11日(2012.5.11)
発行日 平成24年7月25日(2012.7.25)
公開日 平成20年3月27日(2008.3.27)
発明の名称または考案の名称 磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置
国際特許分類 H01L  21/306       (2006.01)
H01L  21/304       (2006.01)
B24B   1/00        (2006.01)
FI H01L 21/306 M
H01L 21/304 621D
B24B 1/00 B
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2006-247659 (P2006-247659)
出願日 平成18年9月13日(2006.9.13)
審査請求日 平成21年9月7日(2009.9.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】久保田 章亀
個別代理人の代理人 【識別番号】100074561、【弁理士】、【氏名又は名称】柳野 隆生
【識別番号】100124925、【弁理士】、【氏名又は名称】森岡 則夫
【識別番号】100141874、【弁理士】、【氏名又は名称】関口 久由
審査官 【審査官】越本 秀幸
参考文献・文献 特開2001-205555(JP,A)
特開平03-202270(JP,A)
特開2004-327952(JP,A)
特開2002-299294(JP,A)
特開2005-186239(JP,A)
特開2007-283410(JP,A)
調査した分野 H01L 21/306
H01L 21/304
B24B 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
酸化剤としてH22の溶液中に結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの内から選ばれた1種である被加工物を配し、定盤若しくは加工ヘッドに磁場により拘束し、空間的に制御されたFe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む合金からなる磁性微粒子を、被加工物の被加工面に極低荷重のもとで接触させるとともに、被加工面と磁性微粒子とを相対的に変位させ、前記磁性微粒子の触媒作用により、磁性微粒子表面上で生成した酸化力を持つ活性種と被加工物の表面原子との化学反応で生成した化合物を除去、あるいは溶出させることによって被加工物を加工することを特徴とする磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法。
【請求項2】
前記磁性微粒子がFe、被加工物がSiC、GaN又はダイヤモンドであり、フェントン反応を利用して加工する請求項1記載の磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法。
【請求項3】
結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの内から選ばれた1種である被加工物を平坦化加工する加工装置であって、
酸化剤としてH22を入れた加工槽と、
前記加工槽内の底面部に設け、回転あるいは偏心運動が可能なマグネット定盤と、
前記加工槽内に前記マグネット定盤と対面させて配し、前記マグネット定盤の回転軸に対して偏心した回転軸を有する被加工物のホルダーと、
前記マグネット定盤の表面にFe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む合金からなる磁性微粒子を磁場により拘束し、前記ホルダーに保持した被加工物の被加工面を前記磁性微粒子に極低荷重のもとで接触させ、前記マグネット定盤とホルダーの双方又は一方を回転させて、被加工物の被加工面を平坦化加工することを特徴とする磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置。
【請求項4】
結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの内から選ばれた1種である被加工物を平坦化加工する加工装置であって、
酸化剤としてH22を入れた加工槽と、
前記加工槽内の底面部に設け、被加工物を保持するとともに、平面内で往復移動あるいは回転可能な被加工物のホルダーと、
前記加工槽内に前記ホルダーと対面させて配し、回転可能なマグネット加工ヘッドと、
前記マグネット加工ヘッドの表面にFe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む合金からなる磁性微粒子を磁場により拘束し、前記ホルダーに保持した被加工物の被加工面を前記磁性微粒子に極低荷重のもとで接触させ、前記マグネット加工ヘッドを回転させながら前記ホルダーを往復移動あるいは回転させて、被加工物の被加工面を任意の自由曲面形状に加工することを特徴とする磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置。
【請求項5】
前記磁性微粒子がFe、被加工物がSiC、GaN又はダイヤモンドであり、フェントン反応を利用して加工する請求項3又は4記載の磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置に係わり、更に詳しくは処理液中の分子を触媒で分解して生成した活性種を用いて被加工物を加工する磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加工物の被加工面に格子欠陥や熱的変質層を導入することなく、高精度に加工する方法が提案されている。例えば、超微粉体を分散した懸濁液を被加工物の被加工面に沿って流動させて、該超微粉体を被加工面上にほぼ無荷重の状態で接触させ、その際の超微粉体と被加工面界面での相互作用(一種の化学結合)により、被加工面原子を原子単位に近いオーダで除去して加工する、いわゆるEEM(Elastic Emission Machining)による加工は既に知られている(特許文献1~3)。
【0003】
EEMは、その加工原理から考えて高周波の空間波長に対して非常に平滑な面を得ることが可能である。EEMは、超純水により粒径0.1μm程度のSiO2等の微粒子を表面に供給し、微粒子の表面の原子と加工物表面の原子が化学的に結合することで加工が進むことが特徴である。このとき、微粒子は被加工面に沿って超純水の剪断流によって供給され、被加工面の微小突起が選択的に除去されるため、原子配列を乱すことなく、原子サイズのオーダで平坦な表面を作ることが可能となる。
【0004】
一方、化学機械研磨(CMP)は、SiO2やCr23を砥粒として用い、機械的作用を小さくし、化学的作用によって無擾乱表面を形成しようとするものである。例えば、特許文献4に示すように、酸化触媒作用のある砥粒を分散させた酸化性研磨液にダイヤモンド薄膜を浸漬し、砥粒で薄膜表面を擦過しながらダイヤモンド薄膜を研磨する方法が開示されている。ここで、砥粒として酸化クロムや酸化鉄を用い、この砥粒を過酸化水素水、硝酸塩水溶液又はそれらの混合液に分散させた研磨液を用いることが開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、CMPを行う際に用いられる研磨布にCMP用スラリーに含まれる酸化剤の酸化力を促進させる触媒機能を持たせる点が記載されている。この触媒作用は、スラリーと研磨布とが接触した瞬間からスラリーが被処理物に到達するまで触媒効果を発揮するものであり、具体的には、酸化剤として過酸化水素、過硫酸塩、過ヨウ素塩酸の少なくとも1種類用い、触媒作用のある成分として鉄、銀、チタン、ルテニウム、白金からなる金属を用いるのである。ここで、触媒作用のある成分は、研磨布の所定の領域に格子状、ドーナツ状に存在させるか、あるいは研磨布の全ての領域に均一に存在させている。
【0006】
また、特許文献6には、酸化剤として過酸化水素と、研磨剤としてアルミナやシリカ等を含む溶液を用い、複数の酸化状態を有する少なくとも1つの可溶性金属触媒を含む研磨パッドを用いてCMPを行う点が記載されている。具体的には、最も好ましい触媒は、複数の酸化状態をもつ鉄、銅、銀の化合物及びこれらのいずれかの組み合わせであり、特に好ましい触媒は硝酸第二鉄であることが開示されている。

【特許文献1】特公平2-25745号公報
【特許文献2】特公平7-16870号公報
【特許文献3】特開2000-167770号公報
【特許文献4】特許第3734722号公報
【特許文献5】特開2002-299294号公報
【特許文献6】特表2004-526302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のEEM加工法は、結晶学的に優れた加工面が得られるが、微粒子と被加工物の表面原子との一種の化学反応による非常にソフトな加工法であるため、加工速度が遅く、特に近年電子デバイスの材料として重要性が高まっているSiCやGaNの加工には適してない。また、CMPは、基本的には研磨パッドで被加工面を押圧して研磨するので、砥粒やスラリーによってスクラッチが生じることは避けられない。
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、難加工物、特にSiCやGaN等を、加工効率が高く且つ高精度に加工することが可能な新しい加工法を提案することを目的とする。つまり、本発明は、被加工物表面に格子欠陥が導入されない化学的な反応が可能な触媒作用を利用した加工原理に基づき、結晶学的に優れた加工面が得られる磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、酸化剤としてH22の溶液中に結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの内から選ばれた1種である被加工物を配し、定盤若しくは加工ヘッドに磁場により拘束し、空間的に制御されたFe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む合金からなる磁性微粒子を、被加工物の被加工面に極低荷重のもとで接触させるとともに、被加工面と磁性微粒子とを相対的に変位させ、前記磁性微粒子の触媒作用により、磁性微粒子表面上で生成した酸化力を持つ活性種と被加工物の表面原子との化学反応で生成した化合物を除去、あるいは溶出させることによって被加工物を加工することを特徴とする磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法を提供する(請求項1)。
【0010】
そして、前記磁性微粒子がFe、被加工物がSiC、GaN又はダイヤモンドであり、フェントン反応を利用して加工することがより好ましい(請求項)。
【0011】
また、本発明は、結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの内から選ばれた1種である被加工物を平坦化加工する加工装置であって、酸化剤としてH22を入れた加工槽と、前記加工槽内の底面部に設け、回転あるいは偏心運動が可能なマグネット定盤と、前記加工槽内に前記マグネット定盤と対面させて配し、前記マグネット定盤の回転軸に対して偏心した回転軸を有する被加工物のホルダーと、前記マグネット定盤の表面にFe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む合金からなる磁性微粒子を磁場により拘束し、前記ホルダーに保持した被加工物の被加工面を前記磁性微粒子に極低荷重のもとで接触させ、前記マグネット定盤とホルダーの双方又は一方を回転させて、被加工物の被加工面を平坦化加工することを特徴とする磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置を構成した(請求項)。
【0012】
また、本発明は、結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの内から選ばれた1種である被加工物を平坦化加工する加工装置であって、酸化剤としてH22を入れた加工槽と、前記加工槽内の底面部に設け、被加工物を保持するとともに、平面内で往復移動あるいは回転可能な被加工物のホルダーと、前記加工槽内に前記ホルダーと対面させて配し、回転可能なマグネット加工ヘッドと、前記マグネット加工ヘッドの表面にFe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む合金からなる磁性微粒子を磁場により拘束し、前記ホルダーに保持した被加工物の被加工面を前記磁性微粒子に極低荷重のもとで接触させ、前記マグネット加工ヘッドを回転させながら前記ホルダーを往復移動あるいは回転させて、被加工物の被加工面を任意の自由曲面形状に加工することを特徴とする磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置を構成した(請求項)。
【0013】
尚、加工装置においても、前記酸化剤、磁性微粒子に対する選択条件は加工方法と同様であり、また加工対象の被加工物の種類も同様である。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本発明の磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置は、定盤若しくは加工ヘッドに磁場により拘束し、空間的に制御された遷移金属の磁性微粒子を、被加工物の被加工面に極低荷重のもとで接触させるので、被加工面に磁性微粒子によるスクラッチは全く生じず、そして微粒子表面で酸化剤から生成された強力な酸化力をもつ活性種を、この微粒子に接触した被加工物の極近傍の表面原子と化学反応させ、それにより生成した化合物を除去、あるいは溶出させて加工するので、結晶学的に優れた被加工面が得られるのである。
【0015】
本発明は、遷移金属からなる微粒子による触媒作用と、磁性微粒子を用いることによる磁場での拘束、空間制御性を利用することに最大の特徴がある。磁性微粒子は、定盤若しくは加工ヘッドから出てくる磁力線に沿って穂立ちのように自己整列し、定盤若しくは加工ヘッドの表面を覆い、このような状態の磁性微粒子に被加工物を接触させるので、極低荷重の接触状態を実現することができる。
【0016】
更に、被加工面と磁性微粒子とを相対的に変位させることにより、被加工面における加工量が空間的に平均化されるので、極めて平坦な被加工面が得られるとともに、表面原子と活性種との化学反応で生成した被加工面の酸化物が除去されて、常に新しい被加工面が出現するので、加工速度が速くなるのである。ここで、触媒表面で生成された活性種は、触媒表面から離れると急激に不活性化するので、活性種は基準面となる触媒表面上、若しくは表面の極近傍のみにしか存在せず、それにより空間的に制御された状態で加工できるのである。
【0017】
本発明の磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置は、これまで加工が難しかったSiCやGaN、更にはサファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラスの高精度な加工ができるようになり、更に半導体製造工程において半導体や金属層若しくは金属薄膜を平坦化するためにも使用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本発明の加工原理は、被加工物と遷移金属からなる触媒を酸化剤中に配置し、被加工物と触媒を接触させ、そのときに触媒上で酸化剤中の分子から生成された活性種によって被加工物の被加工面を酸化し、その酸化物を除去、あるいは溶出させることによって加工するというものである。ここで、触媒として遷移金属からなる磁性微粒子を用い、磁場によって磁性微粒子を拘束し、空間的に制御することに本発明の最大の特徴がある。
【0019】
つまり、本発明の磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法は、酸化剤の溶液中に被加工物を配し、定盤若しくは加工ヘッドに磁場により拘束し、空間的に制御された遷移金属の磁性微粒子を、被加工物の被加工面に極低荷重のもとで接触させるとともに、被加工面と磁性微粒子とを相対的に変位させ、前記磁性微粒子の触媒作用により、磁性微粒子表面上で生成した酸化力を持つ活性種と被加工物の表面原子との化学反応で生成した化合物を除去、あるいは溶出させることによって被加工物を加工することを特徴としている。
【0020】
本発明の磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置(ポリッシング装置)を図1に示す。このポリッシング装置1は、酸化剤2を入れた加工槽3と、前記加工槽3内の底面部に設け、回転可能なマグネット定盤4と、前記加工槽3内に前記マグネット定盤4と対面させて配し、前記マグネット定盤4の回転軸5に対して偏心した回転軸6を有する被加工物7のホルダー8と、前記マグネット定盤4の表面に遷移金属の磁性微粒子9を磁場により拘束し、前記ホルダー8に保持した被加工物7の被加工面を前記磁性微粒子9に極低荷重のもとで接触させ、前記マグネット定盤4とホルダー8の双方又は一方を回転、揺動させて、被加工物7の被加工面を平坦化加工するものである。ここで、前記マグネット定盤4は、回転のみならず、偏心運動が可能であっても良い。
【0021】
更に詳しくは、本実施形態では、前記マグネット定盤4は、前記加工槽3の底面部と一体的に設けられ、加工槽3を底面部の回転軸5で回転させる構造となっている。前記マグネット定盤4は、永久磁石を加工槽3の底面部に固定して構成している。ここで、前記加工槽3及び前記ホルダー8は、前記マグネット定盤4の磁力線を乱さないようにするために、非磁性体材料で作製することが好ましい。そして、前記加工槽3の底面部内に、前記マグネット定盤4に平行に、表裏方向へ磁化した永久磁石板10あるいは鉄等の強磁性体板を配して、前記マグネット定盤4による磁場強度を増強することも好ましい。
【0022】
このように、酸化剤2を満たした加工槽3内で、マグネット定盤4の表面に、磁性微粒子9を適量振り掛けると、磁性微粒子9は磁力線密度分布に沿って整列し、隣接する磁性微粒子列は同極となるので互に反発し合い、穂立ちのように自立するのである。この状態で、被加工物7を保持したホルダー8を上方から降下させ、被加工物7が磁性微粒子9の穂立ちの先端部に接触するように位置設定し、それから前記加工槽3と共にマグネット定盤4を回転、揺動させるとともに、前記ホルダー8を回転させる。
【0023】
また、図1とは、マグネット定盤4とホルダー8の位置を上下逆にした形態でもよい。その場合には、加工槽3は静止させておき、酸化剤2中でマグネット定盤4とホルダー8をそれぞれ異なる回転軸で回転させるようにする。この場合、上方に配置されたマグネット定盤4から磁性微粒子9の穂立ちが垂れ下がるので、その先端を被加工物7の被加工面で受けて軽く接触させる形態になる。
【0024】
また、任意な自由曲面形状の加工が可能なNC加工装置11の概念図を図2に示す。本加工装置11は、酸化剤12を入れた加工槽13と、前記加工槽13内の底面部に設け、被加工物7を保持するとともに、平面内で往復移動あるいは回転可能な被加工物7のホルダー14と、前記加工槽13内に前記ホルダー14と対面させて配し、回転可能なマグネット加工ヘッド15と、前記マグネット加工ヘッド15の表面に遷移金属の磁性微粒子9を磁場により拘束し、前記ホルダー14に保持した被加工物7の被加工面を前記磁性微粒子9に極低荷重のもとで接触させ、前記マグネット加工ヘッド15を回転させながら前記ホルダー14を往復移動あるいは回転させて、被加工物7の被加工面を任意の自由曲面形状に加工するものである。
【0025】
更に具体的には、本実施形態では前記ホルダー14は、水平面内で往復移動するXYステージで構成し、前記マグネット加工ヘッド15は回転対称形であり、回転軸16の先端に円柱形の永久磁石を固定して構成している。前記マグネット加工ヘッド15の表面に磁性微粒子9を吸着させると、該ヘッドから垂れ下がり、その先端部に前記ホルダー14に保持した被加工物7の被加工面を接触させる。そして、前記マグネット加工ヘッド15を回転させながら、前記ホルダー14で被加工物7を水平に移動させ、磁性微粒子9との接触時間を制御して空間的に加工量を調節し、任意の自由曲面形状に加工するのである。
【0026】
本実施形態では、触媒としての磁性微粒子に鉄粉を用い、酸化剤には濃度が40%の過酸化水素水の原液を使用した。この場合、Fe表面では、下記の[化1]及び[化2]で表されるフェントン(Fenton)反応により活性種としてOHラジカル(ヒドロキシルラジカル)が発生する。OHラジカル(化学式中にOHの右側にドットを表示)は、寿命は短いが、酸化力は非常に強い。
【0027】
【化1】
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【化2】
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【0028】
一般的に、H22のレドックス分解によってOHラジカルが生成されることが知られている。つまり、ハーバー-ワイス(Harber-Waiss)機構によるH22の分解であり、低原子価の遷移金属(Fe2+、Ti3+、Cr2+、Cu+等)による一電子還元によりOHラジカルが生成する。特に、Fe2+による反応は、フェントン反応としてよく知られている。H22はレドックス反応を行い得る低原子価金属イオンと反応し、OHラジカルを生成するのである。ここで、Fe2+は触媒的な作用をするのである。
【0029】
ここで、被加工物がSiCの場合には、以下の[化3]に示すように、OHラジカルとH22中の溶存酸素によってSiC表面が酸化され、その部分が優先的に加工されるものと推測する。
【0030】
【化3】
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【0031】
このような本発明の特徴として、触媒上でのみ反応種が作られ、触媒から離れると、急激に反応種は不活性化することが挙げられる。それにより、化学エッチングとは異なり表面の面指数に影響されずに加工することが可能となり、また加工領域を空間的に制御でき、EEMで見られたような原子スケールでの平坦化が期待できる。また、自由な磁性微粒子を磁場で拘束し、空間的に制御するので、被加工物の必要な部分のみに極低荷重で磁性微粒子を接触させることができる。つまり、本発明の磁性微粒子を用いた触媒化学加工方法及び装置は、効率的な超精密加工法となりうる可能性があると考えられる。
【0032】
ここで、前記酸化剤としては、H22が挙げられるが、H22に限らず、被加工物、触媒、加工条件等の組合せにより、過硫酸塩、過ヨウ素塩酸も使用できる。また、前記磁性微粒子9として、Fe、Ni、Coから選択した1種又は2種以上の組み合わせ、あるいはFe、Ni又はCoを含む化合物若しくは合金からなるものを用いることも可能である。そして、加工対象物としては、結晶性SiC、焼結SiC、GaN、サファイヤ、ルビー、ダイヤモンド、ガラス等が挙げられる。
【実施例1】
【0033】
図1に示したポリッシング装置1によって、市販のSiCウエハ(単結晶SiC(0001)、as-slice面)を平滑化加工した。その加工条件を次の表1に示している。
【0034】
【表1】
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【0035】
一般にデバイス用として市販されている単結晶4H-SiC(0001)面、及び本加工法によって得られた単結晶SiC(0001)の表面をAFM(原子間力顕微鏡)を用いて観察した結果を図3及び図4に示す。図3(a)は、デバイス用として市販されている単結晶SiC(0001)の表面のAFM像であり、図3(b)は図3(a)に示した観察線(中央部)における断面プロファイルを示している。また、図4(a)は、加工後の単結晶SiC(0001)の表面のAFM像であり、図4(b)は図4(a)に示した観察線(中央部)における断面プロファイルを示している。これらの両表面の表面粗さについての測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
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【0037】
図5は、単結晶SiC(0001)表面(as-slice面)の加工前後のデジタル顕微鏡像を示したものであり、図5(a)は加工前の表面、図5(b)は加工後の表面をそれぞれ示している。
【0038】
これらの結果より、一般的に化学エッチングが困難とされているSiCをH22中で鉄粉に接触させて擦るだけで容易に加工することができた。しかも、加工後の表面粗さは、各評価とも1桁程度の改善が見られ、本発明の有効性を示すことができた。また、H22は、安価で比較的取扱いが容易であるので、本発明は実用的な観点からも有益であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の磁性微粒子を用いた触媒化学加工装置の簡略断面図を示している。
【図2】加工ヘッドを数値制御して任意な自由曲面形状の加工が可能な加工装置の概念図である。
【図3】デバイス用として市販されている単結晶SiC(0001)の表面状態を示し、(a)は表面のAFM像を示し、(b)は(a)に示した観察線における断面プロファイルを示している。
【図4】単結晶SiC(0001)をH22中でFe微粒子を使って加工した後の表面状態を示し、(a)は表面のAFM像を示し、(b)は(a)に示した観察線における断面プロファイルを示している。
【図5】単結晶SiC(0001)表面(as-slice面)の加工前後のデジタル顕微鏡像を示し、(a)は加工前の表面、(b)は加工後の表面をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0040】
1 ポリッシング装置、
2 酸化剤、
3 加工槽、
4 マグネット定盤、
5 回転軸、
6 回転軸、
7 被加工物、
8 ホルダー、
9 磁性微粒子、
10 永久磁石板、
11 NC加工装置、
12 酸化剤、
13 加工槽、
14 ホルダー、
15 マグネット加工ヘッド、
16 回転軸。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4