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明細書 :作物の生育方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4843338号 (P4843338)
公開番号 特開2007-236290 (P2007-236290A)
登録日 平成23年10月14日(2011.10.14)
発行日 平成23年12月21日(2011.12.21)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 作物の生育方法
国際特許分類 A01G   7/00        (2006.01)
FI A01G 7/00 602Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2006-063471 (P2006-063471)
出願日 平成18年3月9日(2006.3.9)
審査請求日 平成20年12月26日(2008.12.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】廣田 知良
【氏名】岩田 幸良
【氏名】鈴木 伸治
個別代理人の代理人 【識別番号】100109553、【弁理士】、【氏名又は名称】工藤 一郎
審査官 【審査官】坂田 誠
参考文献・文献 特開2004-254508(JP,A)
特開平11-9091(JP,A)
特開2003-265050(JP,A)
特開2004-201534(JP,A)
特開2004-121235(JP,A)
特開2002-84888(JP,A)
調査した分野 A01G 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
収穫後、作付けまでの間に、畑地の表層下の野良生えの被害を抑えたい深さの温度を少なくとも1回、土壌凍結温度に制御する温度制御工程を含む畑地の土壌環境の管理方法
【請求項2】
越冬作物の越冬期間に、越冬作物の畑地の表層下の野良生えの被害を抑えたい深さの温度を少なくとも1回、土壌凍結温度に制御する温度制御工程を含む畑地の土壌環境の管理方法
【請求項3】
前記温度制御工程は、
積雪を除雪することによって土壌と大気との熱交換を促進し、土壌温度を低下させる除雪工程、
積雪を圧雪することによって、雪の熱伝導率を高めて土壌と大気との熱交換を促進し、土壌温度を低下させる圧雪工程、
積雪を堆積することによって、土壌と大気との熱交換を抑制し、土壌温度を維持又は上昇させる堆積工程
のいずれか一又は二以上の組み合わせを含む請求項1からのいずれか一に記載の畑地の土壌環境の管理方法
【請求項4】
除雪工程・圧雪工程を行ってから畑地の表層下の野良生えの被害を抑えたい深さの土壌温度が、土壌凍結温度になるまでの期間を算出する期間算出工程をさらに有し、
前記温度制御工程は、
除雪工程又は圧雪工程を行ってから期間算出工程により算出された期間が経過した後に堆積工程を行う請求項3に記載の畑地の土壌環境の管理方法。
【請求項5】
前記期間算出工程は、計算機シミュレーションにより行われる請求項4に記載の土壌環境の管理方法。
【請求項6】
前記温度制御工程は、
畑地の畝部の積雪を除去して溝部に堆積することによって、畝部の土壌と大気との熱交換を促進して畝部の土壌温度を低下させ、溝部の土壌と大気との熱交換を抑制して溝部の土壌温度を維持又は上昇させる第一工程と、
前記溝部に堆積した雪を除去して畝部に堆積することによって、畝部の土壌と大気との熱交換を抑制して畝部の土壌温度を維持又は上昇させ、溝部の土壌と大気との熱交換を促進して溝部の土壌温度を低下させる第二工程と、を含む請求項1からのいずれか一に記載の畑地の土壌環境の管理方法
【請求項7】
前記温度制御工程は、
畑地の溝部の積雪を除去して畝部に堆積することによって、畝部の土壌と大気との熱交換を抑制して畝部の土壌温度を維持又は上昇させ、溝部の土壌と大気との熱交換を促進して溝部の土壌温度を低下させる第三工程と、
前記畝部に堆積した雪を除去して溝部に堆積することによって、畝部の土壌と大気との熱交換を促進して畝部の土壌温度を低下させ、溝部の土壌と大気との熱交換を抑制して溝部の土壌温度を維持又は上昇させる第四工程と、
を含む請求項1からのいずれか一に記載の畑地の土壌環境の管理方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌温度及び土壌凍結深を制御することにより、作物を効率的に生育させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冬季に雪が少なく、寒さの厳しい地域において、土壌凍結が発達することが知られている。凍結土壌では、春に作付けする作物の生育ができないため、凍結期間が長いと作付けできる期間が短くなってしまう、水を通さないので雪解け水が表面に溜まり作物が被害を受ける、越冬作物が被害を受ける等の問題があった。
【0003】
ところが、近年、土壌凍結が減少傾向にあることが知られている。図11は、1986年から2005年までの、北海道十勝郡芽室町の最大凍結深の推移を示している。年々、土壌凍結が減少傾向にあることを、このグラフもはっきりと示している。これは、冬季の気温が高くなったわけではなく、初雪の時期が早くなり、雪が早く積もるようになったためであると考えられている。つまり、雪は熱伝導が悪く、寒気から断熱の効果を発揮するため、積雪量が多くなると、寒気が土壌に伝わらず土が凍りにくくなることによる。
【0004】
このように土壌凍結が生じなくなる中で、土壌生態系にも大きな変化が現れ始めている。例えば、土壌凍結は、前記の問題点のみではなく、イモの「野良生え」を防ぐという役目も果たしていたため、この野良生えが目立つようになっている。「野良生え」とは、収穫されずに残った作物の根や地下茎などから春先に作物が生えてくることをいう。野良生えは、後作作物の生育を阻害する場合がある他、ジャガイモシストセンチュウなどの病害虫密度を高めることにもつながっていると言われている。

【非特許文献1】T. Hirota, et al., J. Geophys. Res., 107, 4767,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、上記問題を解決するためには、農地に積った雪を何らかの方法で除去し、土壌凍結を促せばよいことを発見した。しかしながら、何ら根拠なく農地を除雪又は圧雪する方法では、人の勘に頼って、又は、土壌凍結深計を設置し、農地の除雪や圧雪を行うタイミングを図らなければならない。人の勘にのみ頼る場合には、土壌凍結深が適切な深さとなっているかが不明である。また、土壌凍結深計を設置した場合には、新たな費用や設置後も監視が必要となる。その上、土壌凍結深計では、観測値が把握できたとしても、適切な深さに制御するタイミングを知ることまではできない。したがって、農地の除雪や圧雪を行うタイミングを誤ってしまった場合には、土壌凍結深が深くなり過ぎ、イモの野良生えを防ぐことができたとしても、土壌凍結による後作の作物への影響が出てしまう場合があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、適切な土壌温度又は土壌凍結深に制御を行うことによって作物を効率的に生育させる方法を提供する。
【0007】
(1)本発明は、収穫後、作付けまでの間に、畑地の表層下所定深さの温度を所定の温度に制御する温度制御工程を含む作物の生育方法を提供する。
【0008】
(2)本発明は、越冬作物の越冬期間に、越冬作物の畑地の表層下所定深さの温度を所定の温度に制御する温度制御工程を含む作物の生育方法を提供する。
【0009】
(3)本発明は、前記温度制御工程が、所定の温度として、少なくとも1回、土壌凍結温度に制御する土壌凍結温度制御工程を含む作物の生育方法を提供する。
【0010】
(4)本発明は、前記温度制御工程が、積雪を除雪する除雪工程、積雪を圧雪する圧雪工程、積雪を堆積する堆積工程のいずれか一又は二以上の組み合わせを含む作物の生育方法を提供する。
【0011】
(5)本発明は、前記温度制御工程が、式(1)及び式(2)を利用して算出されるスケジュールに基づいて実行される作物の生育方法を提供する。
【0012】
(6)本発明は、前記温度制御工程が、畑地の畝部の積雪を除去して溝部に堆積する第一工程と、前記溝部に堆積した雪を除去して畝部に堆積する第二工程と、を含む作物の生育方法を提供する。
【0013】
(7)本発明は、前記温度制御工程が、畑地の溝部の積雪を除去して畝部に堆積する第三工程と、前記畝部に堆積した雪を除去して溝部に堆積する第四工程と、を含む作物の生育方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
以上のような構成をとる本発明の作物の生育方法によれば、土壌温度を実測することなく、また新たに装置等を設置することなく、除雪・圧雪・堆雪という作業により、土壌温度を制御することができる。これにより、病原虫等の発生を防いだり、後作する作物に合わせた適切な土壌環境を提供することができる。
【0015】
また、本発明の作物の生育方法によれば、土壌凍結深の制御を行うことができる。これにより、イモの野良生えや、病害虫の発生を防ぎ、気候に左右されることなく、後作する作物に合わせた農地管理を行うことが可能になる。
【0016】
さらに、本発明の作物の生育方法によれば、土壌温度制御のために農地に入るタイミングを知ることができる。これにより、土壌温度・土壌凍結深を目的とする値に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。なお、実施形態1は、主に請求項1、4から7に関する。また、実施形態2は、主に請求項2に関する。また、実施形態3は、主に請求項3に関する。
<<実施形態1>>
<実施形態1の概要>
【0018】
本実施形態の作物の生育方法は、積雪下の土壌温度を制御することにより、畑地の土壌環境を管理し、作物を効率的に生育させる方法である。
<実施形態1の構成>
【0019】
図1に示すように、本実施形態の作物の生育方法は、「作物の収穫」(S0101)、「温度制御工程」(S0102)、「作物の作付け」(S0103)からなり、温度制御工程は、さらに「除雪工程」(S0104)、「圧雪工程」(S0105)、「堆積工程」(S0106)のいずれか一又は二以上の組み合わせからなる。
【0020】
冬季の積雪時に作物の作付けを行わない畑地の場合においては、「作物の収穫」(S0101)では、冬季の積雪前に生産していたイモなどの作物の収穫を行い、「作物の作付け」(S0103)では、融雪後の作物の作付けを行う。収穫を行った作物と、次に作付けする作物は、同一であっても、異なる作物であってもよい。例えば、イモを収穫した後に、またイモを作付けしてもよいし、豆などの異なる作物を作付けしてもよい。
【0021】
「温度制御工程」(S0102)では、作物の収穫(S0101)後、作物の作付け(S0103)までの間に、畑地の表層下所定深さの温度を所定の温度に制御する。「収穫後、作付けまでの間」とは、同一の畑地において、一の作物の収穫後に次の作物を作付けするまでの間をいう。「所定深さ」とは、温度の制御を行いたい土壌の表層からの深さをいい、「所定の温度」とは、制御したい土壌温度をいう。例えば、地表下30cmの深さの土壌温度を-1℃に制御したり、地表下10cmの深さの土壌温度を-2℃に制御したりすることをいう。土壌温度を低温状態に保つことにより、土壌生物や雑草などの活動を停止させることができる。これにより、土壌の栄養が消費されることなく、次の作物の作付けを行うことができる。
【0022】
温度制御工程において、土壌の温度を制御するためには、熱伝導率の低い物質を用いる。土壌と大気との熱交換を多くすることにより、土壌温度を低下させ、逆に熱交換を少なくすることにより、土壌温度を維持又は高くすることができる。したがって、土壌表面を熱伝導率の低い物資で覆うことにより、土壌温度を維持又は高くすることができる。この方法は、ビニールハウスや稲わらで畝部を覆うマスキング等に適応されている考え方である。ビニールハウスは、風を防ぐことにより大気との熱交換を少なくしている。しかし、本発明においては、熱伝導率の低い物質として、雪を用いる点を特徴とする。冬季に積雪の見られる地域においては、本発明を行うにあたり、新たな装置等を設置する必要がなく、広範囲での適用が可能である。また、気温が高くなれば、自然に解けてなくなるため、後処理必要もない点において優れている。
【0023】
以下に、積雪により温度制御工程を行う場合の方法について説明する。本実施形態の温度制御工程は、「除雪工程」(S0104)、「圧雪工程」(S0105)、「堆積工程」(S0106)のいずれか一又は二以上の組合せによって行う。「除雪工程」(S0104)では、積雪の除雪を行う。前述したように雪は、非常に熱伝導率の低い物質である。そのため、積雪下の土壌は、土壌表面に断熱材が被さっている状態であり、土壌温度は低下しにくい。したがって、土壌と大気との熱交換を除雪によって促進することで、土壌温度を低下させることができる。「圧雪工程」(S0105)では、積雪の圧雪を行う。同様に、圧雪することによっても、雪の熱伝導率が高くなるため、土壌温度を低下させることができ、除雪と同様の効果を与えることができる。ムギなどの越冬作物を作付けしている場合には、作物を傷つけないために、除雪工程よりも圧雪工程の方が好ましい。また、除雪・圧雪する度合いによっても、土壌温度の低下率を調整させることができる。また、「堆積工程」(S0106)では、雪の堆積を行う。除雪工程、圧雪工程とは逆に雪を堆積させることにより、熱伝導率を低下させ、土壌温度を維持又は上昇させることができる。堆積するために使用する雪は、道路などから除雪した雪を用いてもよいし、除雪工程によって生じた雪を用いてもよい。なお、除雪工程、圧雪工程、堆積工程は、いずれも手作業にて行うものであっても、機械により行うものであってもよい。
【0024】
上述のような除雪工程、圧雪工程、堆積工程を組合せて行うことにより、土壌温度を制御することができる。除雪工程により土壌温度は低下するが、そのままでは制御したい土壌温度よりも低下してしまうこともある。その場合には、除雪工程にて土壌温度を所定の温度にした後に、堆積工程を行うことにより、それ以上土壌温度が低下しないように制御することができる。また、圧雪工程後に堆積工程を行うことによっても、同様に制御することができる。除雪工程、圧雪工程、堆積工程の組合せとしては、除雪工程のみ、圧雪工程のみ、堆積工程のみを単独で行う場合と、除雪工程と堆積工程を組合せて行う場合、圧雪工程と堆積工程を組合せて行う場合等が考えられる。除雪工程あるいは圧雪工程のみを行うことによって、土壌温度を低下させることができる。除雪工程では、除雪した雪をどこかに堆積しなければならないが、圧雪工程においては、そのような場所を確保する必要がないため、所定の温度を低温にする場合には、圧雪工程が望ましい。
【0025】
次に、畑地の土壌温度を制御する方法について、図2に示すように、畑地の畝部の積雪を除去して溝部に堆積する第一工程(S0204)と、第一工程の後に前記溝部に堆積した雪を除去して畝部に堆積する第二工程(S0205)と、からなる温度制御工程(S0202)を例により詳しく説明する。まず、作物の収穫(S0201)後に、畑地の畝部の積雪を除去して溝部に堆積させる(第一工程、S0204)。図3に示すように、第一工程では、畑地全体が雪で覆われた(A)の状態から(B)の状態となるように、畝部の雪を溝部に移動させる((A)中の矢印)。第一工程において、積雪を除去した畝部では、除雪工程が行われたことになる。また、畝部から除去された積雪を堆積した溝部においては、堆積工程が行われたことになる。これにより、畝部では土壌温度が低下し、溝部では土壌温度の低下を防いでいる。次に、前記溝部に堆積した雪を除去して畝部に堆積させる(第二工程、S0205)。図3に示すように、第二工程では、溝部に雪が堆積された(B)の状態から(C)の状態となるように、溝部の雪を畝部に移動させる((B)中の矢印)。第二工程において、積雪を除去した溝部においては、除雪工程が行われたことになる。また、溝部から除去された積雪を堆積した畝部においては、堆積工程が行われたことになる。これにより、畝部では、土壌温度を維持することができる。つまり、第一工程にて低下させた土壌温度を、それ以上低下しないように制御することができる。また、溝部においては、土壌温度を低下させることができる。溝部の土壌温度が所定の温度となるように制御することにより、畑地全体が、所定の温度に制御されたことになる。なお、第二工程後に、さらに溝部の土壌温度が低下し過ぎるのを防ぐために、溝部又は畑地全体に堆積工程を行ってもよい。その後、作物の作付けを行う(S0203)。
【0026】
また、別の例として、図4に示すように、畑地の溝部の積雪を除去して畝部に堆積する第三工程(S0404)と、第三工程の後に前記畝部に堆積した雪を除去して溝部に堆積する第四工程(S0405)からなる温度制御工程(S0402)であってもよい。この場合には、まず、作物の収穫(S0401)後に、畑地の溝部の積雪を除去して畝部に堆積させる(第三工程、S0404)。すなわち、溝部では除雪工程、畝部では堆積工程が行われたことになる。次に、前記畝部に堆積した雪を除去して溝部に堆積させる(第四工程、S0405)。すなわち、溝部では堆積工程、畝部では除雪工程が行われたことになる。これにより、溝部、畝部のどちらも所定の温度に土壌温度を制御することができる。図3を用いて説明すると、畑地全体が雪に覆われた(A)の状態から(C)の状態となるように、第三工程を行う。そして、所定の温度に制御した後に、第四工程により(B)の状態とする。先程の例と同様に、第四工程後に、さらに畝部の土壌温度が低下し過ぎるのを防ぐために、畝部又は畑地全体に堆積工程を行ってもよい。その後、作物の作付けを行う(S0403)。
【0027】
図3及び図4に示す温度制御工程の例においては、畝部及び溝部に分け、除雪工程等を行うこととしたが、畑地をならしており平らな状態である場合には、特に場所を限定することなく、除雪工程等の各工程を行うことができる。例えば、除雪工程は、除雪機の行う除雪の幅に合わせて行ってもよい。
【0028】
次に、温度制御工程を行うスケジュールの算定方法について説明する。温度制御工程を行うスケジュールは、土壌温度から算出することができる。土壌温度の測定方法は、特に限定されない。また、土壌温度は推定値であってもよく、その推定方法は、特に限定されない。例えば、土壌温度の推定に、発明者らによって開発された計算式(非特許文献1)を用いることができる。以下に、この計算式を用いて土壌温度を算出する方法を説明するが、本発明における土壌温度の計算方法はこれに限られるものではない。
【0029】
図5に示すように、発明者らによって開発された土壌温度算出方法は、「パラメータ設定ステップ」(S0501)、「初期値設定ステップ」(S0502)、「地温分布算出ステップ」(S0503)、「日平均地温算出ステップ」(S0504)、「下部境界条件算出ステップ」(S0505)からなる。
【0030】
「パラメータ設定ステップ」(S0501)では、計算に用いる境界条件及び各パラメータの設定を行う。境界条件・パラメータとして土壌の深さz(m)、下部境界条件の土壌の厚さδ(m)、土壌層の数N、年平均地温Tym(℃)、及び土壌の熱的パラメータである土壌の体積熱容量c(J/(K・m))、土壌の熱伝導率λ(J/(s・m・K))、土壌の熱拡散率α(m/s)、制御深さD(m)を与えておく。
【0031】
「土壌の深さz」は、図6に示しているように、土壌温度を算出する土壌の深さであり、温度制御を行いたい土壌の深さを設定する。「土壌層の数N」は、深さzに存在する実際の地質的な土壌層の数であってもよいし、土壌温度の算出点を設定するための任意の層の数であってもよい。設定した土壌層の中の最下層の土壌層の深さ方向の中点までの距離がzとなる。土壌層の数Nが多いほど、より詳細に土壌温度の算出を行うことができる。「下部境界条件の土壌の厚さδ」は、設定した土壌層の中の最下層の土壌の厚さであり、実際の土壌層の厚さであってもよいし、任意の厚みとしてもよい。「年平均地温Tym」は、ある深さの年平均の土壌温度であり、その場所においては、深さによらず一定であることが知られている値である(平均温度は、明細書中においては斜体、図面・数式中においては記号上のバー(-)で示している)。また、土壌の熱的パラメータである「土壌の体積熱容量c」、「土壌の熱伝導率λ」、「土壌の熱拡散率α」は、土壌の状態、すなわち凍っているか、凍っていないかによって変化する値である。体積熱容量cは、温度制御を行う土壌の乾燥密度(Kg/m)と初期水分率(m/m)を与えることによって算出することができる。「制御深さD」は、土壌の熱拡散計数と周期に表される関数である。
【0032】
「初期値設定ステップ」(S0502)では、各土壌層の温度T~Tn-1(℃)及び下部境界条件の日平均地温T(℃)を設定する。「各土壌層の温度T~Tn-1」は、図7に示されるように、実際の測定値又は予測値を設定する。また、「下部境界条件の日平均地温T」は、設定した土壌層の中の最下層の土壌の一日の平均地温である。T~Tn-1及びTは、初日の計算にのみ必要であり、次の日の計算においては、前日の計算結果を用いることができる。
【0033】
「地温分布算出ステップ」(S0503)では、式(1)に示す熱伝導方程式により地温分布の計算を行う。
【数1】
JP0004843338B2_000002t.gif
(1)
T(z,t)は、ある時間t、深さzの土壌温度(℃)である。式(1)を用いて、与えられた大気側の境界条件とS0501及びS0502にて与えられた下部境界条件から各土壌層の地温T~Tn-1を計算する。「大気側の境界条件」とは、気温、積雪深、大気との交換係数等をいう。気温や積雪深に、前年の数値や、数年間の平均値を用いた場合には、前年又はおおよその土壌温度を算出することができる。また、実測値を用いることにより、より正確な土壌温度に修正することができる。
【0034】
「日平均地温算出ステップ」(S0504)では、地温分布算出ステップ(S0503)にて得られた計算結果から、下部境界条件の一つ上層の日平均地温Tn-1を算出する。
【0035】
「下部境界条件算出ステップ」(S0505)では、日平均地温算出ステップ(S0504)にて得られたTn-1から、式(2)に示す拡張したFRM(Force Restore Method)を用いて、2日目以降の計算に用いる下部境界条件である日平均地温Tを求める。
【数2】
JP0004843338B2_000003t.gif
(2)
次に、S0503にて得られた各土壌層の地温T~Tn-1と、S0505にて得られた下部境界条件である日平均地温(T)を、S0502の初期値としての再設定し、処理を繰り返す。これにより、毎日の各土壌層の日平均地温を算出することができる。
【0036】
以上の処理は、計算機に実行させるためのプログラムで実行させることができ、また、このプログラムを計算機によって読み取り可能な記録媒体に記録することができる。(本明細書の全体を通して同様である。)
【0037】
次に、上記のように算出した土壌温度から土壌温度制御を行うスケジュールを算出する。深さ5cmの土壌温度を-1℃に制御したい場合を例に説明する。まず、気象庁などが発表する月間予報、週間予報などの予想気温、予想積雪量のデータを用いて、上記土壌温度算出方法にて土壌温度の推定値を算出しておく。そして、実際の気温や積雪データを逐次追加することによって、土壌温度の推定値を修正する。次に、除雪工程・圧雪工程を行うタイミングを決定する。積雪量が多くなり、深さ5cmの土壌温度が-1℃に達していない場合には、除雪工程・圧雪工程を行う。この1度目の除雪工程・圧雪工程を行う日は、上記のようなタイミングであれば、特に限定されることはなく、任意の日を指定することができる。なお、積雪が少なく、まだ深さ5cmの土壌温度が-1℃に達していないが、土壌凍結がまだ進んでいる状態であれば、制御を行う必要はない。上記土壌温度計算方法において、この除雪工程・圧雪工程を行う日の地温分布算出ステップ(S0503)の積雪深を、例えば0m又は0.05mのように設定する。そして、ある期間積雪深を0m又は0.05mのように設定し、計算を行うことによって、土壌温度のシミュレーションを行う。例えば、除雪工程を行ってから10日間の積雪深を0と設定し、土壌温度のシミュレーションを行う。そして、深さ5cmの土壌温度が-1℃以下とならなければ、さらに積雪深を0とする期間を所定の期間(例えば1日)長くし、再度シミュレーションを行う。逆に、深さ5cmの土壌温度が-1℃以下である場合には、積雪深を0とする期間を所定の期間(例えば1日)短くして、再度シミュレーションを行う。このようにして、深さ5cmの土壌温度が-1℃となる期間を算出する。また、積雪深を0m又は0.05mのように設定する期間を1日ずつ増やして土壌温度を計算し、土壌温度が-1℃以下となる期間を算出するようにしてもよい。算出した期間後に堆積工程を行うことにより、適切な土壌温度に制御できる。ただし、堆積工程に入るタイミングは、その後の気温や、積雪の有無、積雪量によって変化するため、気温等の実測値にて再計算を行い、適宜修正するのがよい。このようにして、土壌温度制御を行うスケジュールを算出することができる。
<実施形態1の効果>
【0038】
本実施形態の作物の生育方法によれば、冬季の積雪下の土壌温度を適切な温度に制御することにより、従来は積雪により困難であった冬季においても土壌環境の管理を行うことができる。これにより、雑草や病害虫の発生を防ぎ、融雪後に作付けする作物の生育に適した土壌環境に制御することができる。
<<実施形態2>>
<実施形態2の概要>
【0039】
本実施形態の作物の生育方法は、越冬作物の越冬期間に、温度制御工程を行うことによって、畑地の土壌環境を管理し、作物を効率的に生育させる方法である。
<実施形態2の構成>
【0040】
本実施形態の作物の生育方法は、温度制御工程が「越冬作物の越冬期間」に行われることを特徴とする。「越冬作物」とは、冬季に作付けされている作物をいい、「越冬期間」とは、冬季の積雪のある期間をいう。例えば、越冬作物としては、ムギや牧草など挙げられる。越冬作物は、ある程度の耐寒性を有しているが、その抵抗性にも限度があり、寒冷過ぎる場合には生育しなくなる。また、積雪に覆われることにより、雪腐れ病などの病気に感染する場合もある。そのため、越冬期間に、土壌温度を制御することにより、越冬作物を効率的に生育させことが可能となる。土壌温度の制御方法は、実施形態1と同様であるため、省略する。
<実施形態2の効果>
【0041】
本実施形態の作物の生育方法によれば、越冬作物の越冬期間の土壌温度を適切な温度に制御することにより、越冬作物が作付けされている土壌環境の管理を行うことができる。これにより、雑草や病害虫の発生を防ぎ、越冬作物の生育に適した土壌環境に制御することができる。
<<実施形態3>>
<実施形態3の概要>
【0042】
本実施形態の作物の生育方法は、積雪下の土壌凍結深を制御することにより、畑地の土壌環境を管理し、作物を効率的に生育させる方法である。
【0043】
<実施形態3の構成>
【0044】
図8に示すように、本実施形態の作物の生育方法は、「作物の収穫」(S0801)、「土壌凍結温度制御工程」(S0802)、「作物の作付け」(S0803)からなり、土壌凍結温度制御工程は、さらに「除雪工程」(S0804)、「圧雪工程」(S0805)、「堆積工程」(S0806)のいずれか一又は二以上の組み合わせをからなる。本実施形態は、実施形態1を基本としているが、実施形態2を基本とするものであってもよい。
【0045】
「土壌凍結温度制御工程」(S0802)は、土壌温度制御工程において、所定の温度として、少なくとも1回、土壌凍結温度に制御する。「土壌凍結」とは、土壌に含まれる水分が凍結することをいい、「土壌凍結温度」とは、土壌中の水分が凍結する温度、すなわち0℃以下の温度をいう。土壌を凍結させることにより、収穫後に土壌内に残った作物の根などを腐らせることができ、野良生えなどの被害を抑えることができる。野良生えにより、畑地は連作を行った場合と同様の状態となるため、連作障害と同様に土壌の環境が悪くなってしまう。「連作障害」とは、同じ種類の作物を同じ畑地に連作したときに、作物の生育や収量、品質などが低下する現象であり、原因としては、病原菌や有害センチュウなどの増加などの生物的要素の悪化によるものが多い。また、野良生えの作物が、土壌の栄養を消費するため、後作の作物の生育に影響を与えてしまう。イモを作付けしている場合には、ジャガイモシストセンチュウなどの病原虫密度を高めてしまうことになる。したがって、土壌を凍結させて、収穫後に土壌に残った作物を凍らせることにより、野良生えを防ぐことができるとともに、次に作付けする作物への負の影響を軽減させることができる。
【0046】
土壌凍結温度制御工程によって、畑地の表層下所定深さの温度を土壌凍結温度に制御することは、言い換えれば、畑地の表層下の土壌凍結深を制御することである。「土壌凍結深」とは、畑地の表層下の凍結している土壌の深さをいう。地表付近が最も大気の影響を受けるため、冬季の地表付近の土壌温度は低く、地中深くになるほど土壌温度は高くなる。そのため、表層下所定深さの温度を土壌凍結温度、すなわち0℃以下となった時には、所定深さより浅い土壌は凍結していることになる。この深さが、土壌凍結深である。土壌凍結深は、融解時間に影響を与え、次の作物の作付け開始時期にも影響が出る。また、土壌凍結深が浅過ぎると、土壌は早く乾くが、野良生えなどの被害を抑えることができない。逆に、土壌凍結深が深過ぎると、野良生えなどの被害は抑えられるが、融雪後の土壌の乾燥が遅くなり、農作業の開始時期が遅れてしまう。したがって、土壌凍結深を制御することは、農地管理に非常に重要となる。
【0047】
土壌凍結深は、作付けしていた作物あるいは次に作付けする作物に応じて、決定することができる。例えば、イモの収穫後に、イモを作付けする場合には、イモの野良生えを防ぐことのできる土壌凍結深である必要がある。この場合には、約30cm前後の土壌凍結深であればよい。また、次に作付けする作物がムギである場合には、約20cmの土壌凍結深であればよい。また、次に作付けする作物がマメである場合には、作付けする時期が5月と遅いため、例えば、土壌凍結深を40cmのように深くしてもよい。
【0048】
本実施形態の土壌凍結温度制御工程(S0802)は、実施形態1と同様に、「除雪工程」(S0804)、「圧雪工程」(S0805)、「堆積工程」(S0806)のいずれか一又は二以上の組み合わせにより行うことができる。除雪工程、圧雪工程、堆積工程を組合せて行うことにより、畑地の表層下の所定深さを0℃以下になるように制御すれば、土壌凍結温度制御工程は、土壌凍結深を制御することとなる。土壌凍結深を制御する場合には、除雪工程・圧雪工程によっては、土壌凍結深を深くすることができ、堆積工程によっては、土壌凍結がそれ以上深くならないようにすることができる。このように、除雪工程、圧雪工程、堆積工程を組合せて行うことにより、所定の深さの土壌凍結深となるように制御することができる。
【0049】
図9及び図10は、「除雪工程」、「圧雪工程」、「堆積工程」と土壌温度及び土壌凍結深の関係を示している。図9は、(2)において除雪工程を行った後に、(4)にて堆積工程を行った場合であり、この時の土壌凍結深と各状態の×で示した地点の土壌温度との関係を示している。実際の土壌温度は、直線とはならず細かく変動しながら変化していくが、図中においては、説明を簡易にするため直線にて表示している。(1)では、土壌は積雪に覆われているため、土壌温度は比較的高く保たれ土壌凍結は表層でのみ起こっている。そこで、(2)のように、除雪を行うと土壌温度は低くなり、土壌凍結深も深くなり、その後(3)に×の地点においても、土壌温度が0℃以下となり土壌凍結状態となる。その後、(4)のように雪を堆積させることにより、土壌温度を低く保つことが可能となる。
【0050】
図10は、(2)において圧雪工程を行った場合であり、この時の土壌凍結深と各状態の×で示した地点の土壌温度との関係を示している。(1)では、土壌は積雪に覆われているため、土壌温度は比較的高く保たれ土壌凍結は表層でのみ起こっている。そこで、(2)のように、圧雪を行うと土壌温度は低くなり、土壌凍結深も深くなり始め、(3)(4)と時間が経つ毎に土壌温度が低下するとともに、土壌凍結深も深くなっていく。
【0051】
実施形態1にて説明した計算式により土壌温度の推定値を算出し、土壌凍結深の制御を行うためのスケジュールを算出することができる。温度制御を行う時と同様の方法により、所定の深さの土壌温度が0℃以下となるように、除雪工程・圧雪工程・堆積工程を行うタイミングを算出すればよい。
<実施形態3の効果>
【0052】
本実施形態の作物の生育方法によれば、適切な土壌凍結深に制御することにより、従来は積雪により困難であった冬季においても土壌環境の管理を行うことができる。これにより、病害虫の発生や、野良生えを防ぐことができ、融雪後に作付けする作物の生育に適した土壌環境に制御することができる。
<<実施例>>
【0053】
実施形態1にて説明した土壌温度の推定方法における推定値の精度を、土壌凍結深の測定によって検証した。
<検証時期及び対象圃場>
【0054】
2004年から2005年の十勝地方、芽室町農家の畑圃場において、検証を行った。
<方法>
【0055】
実施形態1にて説明した土壌温度の推定方法を用いた土壌温度の推定値から土壌凍結深の推定値を算出した。この時の気象データは、芽室町の発明者らの研究施設のある地点(圃場からは6km離れている)のデータを用いた。また、土壌凍結深の測定は、土壌を直接観測することで行った。
<結果>
【0056】
2月2日に圃場の除雪を行い、2月14日に1回目の土壌凍結深の観測を行った。土壌温度の推定にあたり、除雪時に積雪を完全に除去しきれていなかったため、除雪後の積雪深を1cmと設定した。その後、2月19日及び20日に積雪があり、圃場はまた雪に覆われた。3月3日に2回目の土壌凍結深の測定を行った。表1にその測定値及び土壌温度の推定値から算出した土壌凍結深の推定値を示す。
【表1】
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表1から、土壌凍結深の推定値は観測結果をよく反映していることがわかる。したがって、本発明の土壌温度の推定方法を利用することにより、土壌温度を制御することができることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施形態1の構成を示す図
【図2】温度制御工程の例を説明する図1
【図3】温度制御工程の例を説明する図2
【図4】温度制御工程の別の例を説明する図
【図5】土壌温度の推定方法の一例を示す図
【図6】拡張したFRMの概念図
【図7】土壌温度の推定方法を説明する図
【図8】実施形態2の構成を示す図
【図9】土壌凍結温度制御工程と土壌凍結深の関係1
【図10】土壌凍結温度制御工程と土壌凍結深の関係2
【図11】最大凍結深の推移
【符号の説明】
【0058】
S0101 作物の収穫
S0102 温度制御工程
S0103 作物の作付け
S0104 除雪工程
S0105 圧雪工程
S0106 堆積工程
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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