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明細書 :細胞動態の観察装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5024777号 (P5024777)
公開番号 特開2007-244250 (P2007-244250A)
登録日 平成24年6月29日(2012.6.29)
発行日 平成24年9月12日(2012.9.12)
公開日 平成19年9月27日(2007.9.27)
発明の名称または考案の名称 細胞動態の観察装置
国際特許分類 C12M   1/34        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12M 1/34 A
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 11
全頁数 16
出願番号 特願2006-069789 (P2006-069789)
出願日 平成18年3月14日(2006.3.14)
審査請求日 平成21年2月2日(2009.2.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】松永 茂
【氏名】町田 幸子
【氏名】榊原 祥清
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】野村 英雄
参考文献・文献 特開2004-229548(JP,A)
特開平08-336382(JP,A)
実開昭62-113698(JP,U)
特開2005-323509(JP,A)
特開2005-245288(JP,A)
特開2004-318017(JP,A)
実開昭55-071310(JP,U)
特開平04-063583(JP,A)
特開平05-312697(JP,A)
調査した分野 C12M 1/00-3/10
PubMed
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞を収容するチャンバーを有し、該チャンバー内での細胞動態を観察するための装置であって、
熱伝導性の基板と、該基板に設けられた該チャンバーと、該基板に設けられ、該チャンバーに培地を供給するための培地貯留部と、を有し、
該チャンバーは、該基板に形成された開口部の壁部と、該開口部の上端開口を閉塞する透明板と、該開口部の下端開口を閉塞し得るカバーガラスと、によって形成され、該カバーガラス上に細胞が培養され、該カバーガラスは該開口部の周囲下面にシリコーン系のグリースまたは両面粘着テープによって取外し可能に取り付けられ、該培地貯留部から該チャンバーへ培地を供給し得る流路が該基板を貫通して形成され、該チャンバー内に供給された培地を排出する排出流路が該基板を貫通して形成されている、チャンバー内での細胞動態を観察する装置。
【請求項2】
前記カバーガラスの周囲にシリコーン系の処理剤が塗布されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記カバーガラスの周囲にフッ素樹脂系テープが貼り付けられている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記透明板が基板の開口部の上部の周囲に固定されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記透明板が、ガラス板またはアクリル板である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記培地貯留部は、基板の上面に配置された枠材にて形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記チャンバーにおける前記流路の入口と前記排出流路の出口が対角線上に位置する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記細胞が、生細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記基板が温度を制御可能な装置上に装着可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
細胞を収容するチャンバーを有する装置を用いたチャンバー内での細胞動態を観察するための方法であって、
該装置は、基板と、該基板に設けられた該チャンバーと、該チャンバーに培地を供給するための培地貯留部と、を有し、
該チャンバーは、該基板に形成された開口部の壁部と、該開口部の上端開口を閉塞する透明板と、該開口部の下端開口を閉塞し得るカバーガラスと、によって形成され、該カバーガラス上に細胞が培養され、該カバーガラスは該開口部の周囲下面にシリコーン系のグリースまたは両面粘着テープによって取外し可能に取り付けられ、該培地貯留部から該チャンバーへ培地を供給し得る流路が該基板を貫通して形成され、該チャンバー内に供給された培地を排出する排出流路が該基板を貫通して形成され、
薬剤を入れた注射シリンジに装着した注射針を該流路の入り口からチャンバー内へ挿入し、該チャンバー内における観察視野の目的箇所に薬剤を添加する工程、を包含する細胞動態の観察方法。
【請求項11】
さらに、洗浄用の培地の入った瓶の先につけたノズルを流路の入り口からチャンバー内へ挿入し、該ノズルからチャンバー内へ培地を噴射すると同時に排出流路における培地の流速を上げる工程、を包含する請求項10に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生物、医療又はバイオテクノロジーの研究分野において、細胞の状態の変化、あるいは細胞の薬物等に対する応答を観察するための細胞動態の観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生物学、薬学、医学の分野では、細胞の状態の変化、あるいは細胞の薬物等に対する応答を観察するために、細胞を収容するチャンバーを備えた培養容器(培養チップともいう)を用いて、顕微鏡の試料台(ステージ)上で観察することが行われている。
【0003】
この培養チップにおいて、細胞培養を維持するために、温度などの培養環境や、培養細胞の代謝により変化する培地の状態をモニターしなければならない。培養環境が一定に維持されていないと実験の再現性が低くなり、信頼できるデータが得られない。また、培地内の組成物が枯渇したり、老廃物が蓄積した状態になると、培養細胞の分裂速度が低下する。細胞分裂速度が低下した培養細胞は、良好な培養状態における培養細胞に比して培養細胞の代謝能が大きく劣り、研究に適さない。
【0004】
それゆえ、細胞を長期間培養、観察するために、培養チップに培地交換手段を設けたものも従来から利用されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2004-113092号公報)には、顕微鏡の試料台上に載置可能な大きさの透明の板材からなり、内部にウエルを有するとともに、ウエルへの液体の供給口及び液体の排出口を有する細胞培養チップにおいて、ウエル内の培地を検出するセンサを設けた細胞培養チップが開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された細胞培養チップでは、ウエル内の細胞をチップの底板である透明部材を通して顕微鏡で観察しているので、得られた画像の画質が劣るという欠点がある。また、このような細胞培養チップでは、油浸のレンズが使用できないという欠点もある。
【0007】
すなわち、動物の組織や培養細胞の観察では対物レンズがステージの下から上向きに出ている倒立型の顕微鏡が通常用いられる。この倒立顕微鏡で油浸式のレンズを用いる場合には、カバーガラスはレンズ側に来るようにセットすることが必要である(対物レンズの作動距離などの制約による)が、特許文献1に開示された細胞培養チップでは、チップの透明部材がレンズ側に位置しているので、油浸のレンズが使用できない。
【0008】
特許文献2(特開平10-28576号公報)には、温度制御可能な透明発熱カバーガラスを上下に配置してそれらの間に空間を形成し、カバーガラスの周囲を封止して密閉な容器を形成し、空間内の湿度を保つために蒸発皿を容器内に配置した恒温培養容器が開示されている。
【0009】
しかし、この容器においては、透明発熱カバーガラスが発熱ガラスとカバーガラスとを接着剤で接合して構成されているので、透明発熱カバーガラスを通して顕微鏡観察するために、画像の画質が劣るという欠点がある。さらに恒温培養容器の作製コストも高いものとなる。
【0010】
特許文献3(特開2002-153260号公報)には、基板上に多数のウエル状の穴を設けて細胞培養部を形成し、この細胞培養部上に半透膜を配置し、半透膜上に培地交換部を有する細胞培養容器を配置し、細胞培養容器への細胞培地の供給手段を設け、細胞培養部内の細胞を顕微鏡により長期間観察するようにした装置が開示されている。
【0011】
しかし、この特許文献3に開示の装置においても、基板を通して細胞を顕微鏡観察するので、画像の画質が劣る、油浸のレンズが使用できない、という欠点がある。

【特許文献1】特開2004-113092号公報
【特許文献2】特開平10-28576号公報
【特許文献3】特開2002-153260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記欠点を解消したものであり、温度、pHなどの培地の状態の制御が可能で、しかも高解像度の顕微鏡観察ができる細胞動態の観察装置を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の他の目的は、高分解能の油浸レンズによる生きた細胞などの細胞の長時間連続観察、および刺激に対する瞬時から長時間にわたる反応の観察が可能な、流体(培地など)のチャンバー付き細胞動態の観察装置を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、長期間にわたる培養環境の維持が可能となり、長期間にわたる細胞の顕微鏡観察が可能となり、生物、医薬、バイオテクノロジーの研究において、より信頼性の高いデータを得ることができる細胞動態の観察装置を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、細胞の特定物質に対する長期間にわたる応答反応、特定物質が培養細胞に与える一連の挙動等を正確に且つ確実に記録することができる細胞動態の観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の細胞動態の観察装置は、細胞を収容するチャンバーを有し、該チャンバー内での細胞動態を観察するための装置であって、熱伝導性の基板と、該基板に設けられた該チャンバーと、該基板に設けられ、該チャンバーに培地を供給するための培地貯留部と、を有し、該チャンバーは、該基板に形成された開口部の壁部と、該開口部の上端開口を閉塞する透明板と、該開口部の下端開口を閉塞し得るカバーガラスと、によって形成され、該カバーガラス上に細胞が培養され、該カバーガラスは該開口部の周囲下面にシリコーン系のグリースまたは両面粘着テープによって取外し可能に取り付けられ、該培地貯留部から該チャンバーへ培地を供給し得る流路が該基板を貫通して形成され、該チャンバー内に供給された培地を排出する排出流路が該基板を貫通して形成されており、上記目的が達成される。
【0019】
一つの実施形態では、前記カバーガラスの周囲にシリコーン系の処理剤が塗布されている。
【0020】
一つの実施形態では、前記カバーガラスの周囲にテフロン(登録商標)テープが貼り付けられている。
【0021】
一つの実施形態では、前記透明板が基板の開口部の上部の周囲に固定されている。
【0022】
一つの実施形態では、前記透明板が、ガラス板またはアクリル板である。
【0023】
一つの実施形態では、前記培地貯留部は、基板の上面に配置された枠材にて形成されている。
【0024】
一つの実施形態では、前記流路が基板を貫通して形成され、前記培地貯留部とチャンバーとが該流路によって連通されている。
【0025】
一つの実施形態では、前記チャンバーにおける前記流路の入口と前記排出流路の出口が対角線上に位置する。
【0026】
一つの実施形態では、前記細胞が、生細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織である。
【0027】
一つの実施形態では、前記基板が温度を制御可能な装置上に装着可能である。
【0028】
本発明の細胞動態を観察するための方法は、細胞を収容するチャンバーを有する装置を用いたチャンバー内での細胞動態を観察するための方法であって、該装置は、基板と、該基板に設けられた該チャンバーと、該チャンバーに培地を供給するための培地貯留部と、を有し、該チャンバーは、該基板に形成された開口部の壁部と、該開口部の上端開口を閉塞する透明板と、該開口部の下端開口を閉塞し得るカバーガラスと、によって形成され、該カバーガラス上に細胞が培養され、該カバーガラスは該開口部の周囲下面にシリコーン系のグリースまたは両面粘着テープによって取外し可能に取り付けられ、該培地貯留部から該チャンバーへ培地を供給し得る流路が該基板を貫通して形成され、該チャンバー内に供給された培地を排出する排出流路が該基板を貫通して形成され、薬剤を入れた注射シリンジに装着した注射針を該流路の入り口からチャンバー内へ挿入し、該チャンバー内における観察視野の目的箇所に薬剤を添加する工程、を包含し、そのことにより、上記目的が達成される。
【0029】
一つの実施形態では、さらに、洗浄用の培地の入った瓶の先につけたノズルを流路の入り口からチャンバー内へ挿入し、該ノズルからチャンバー内へ培地を噴射すると同時に排出流路内の培地の流速を上げる工程、を包含する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、熱伝導性に優れた基板を用い、その基板に設けた開口部の下面にカバーガラスを取り付けて、開口部内に細胞を培養するためのチャンバーを形成するようにしている。また、このチャンバー内へ培地貯留部から培地を供給し、チャンバー内の培地を排出するように構成している。
【0031】
よって、長期間にわたる培養環境の維持が可能となり、長期間にわたる細胞の顕微鏡観察が可能となる。さらに、光学顕微鏡による高解像度の長時間観察が可能となる。さらに、本発明のチャンバーを使用することにより、例えば、培養細胞、固定化細胞、微生物、または動植物の組織などの生きた細胞の刺激などに対する瞬時から長期に及ぶ反応の継続的な観察が可能となる。例えば、細胞の特定物質に対する長期間にわたる応答反応、特定物質が培養細胞に与える一連の挙動等を正確に且つ確実に記録することができる。これにより、生物、医薬、バイオテクノロジーの研究において、より信頼性の高いデータを得ることができる。
【0032】
さらに、本発明によれば以下の効果がある。
(1)細胞を培養したカバーガラスを装着するので、高倍率・高分解能の対物レンズによる観察に対応することができる。特に、周囲にシリコーンコート施したカバーガラスを用いる方が望ましい。
(2)装置のカバーガラス接着面にシリコーングリースを塗布するだけで、細胞を培養したカバーガラスとの密着性が保たれ、装置の基材の材質がアルミニウム製であるために温度伝導性がよく、一定温度に速やかに達し、その後の温度管理も極めて良好である。
(3)厳密な温度制御と培地の恒常的な交換により、培地のpHを保つことが可能なため、簡便な装置でありながら、細胞を良好な状態に維持した長時間観察が可能である。
(4)培地貯留部が装置の基板上に装着されているので、この培地貯留部に培地を満たした場合、培地を補充することなく継続観察が可能である。例えば、以下に示す実施例の装置では約40分の継続観察が可能であった。
(5)チャンバー内で対角線方向の緩慢な(流速20μl/min)流れを作り出し、常に新鮮な培地を供給することにより、培地のpHなどを保ち、細胞を良好な状態に維持した長時間観察が可能である。
(6)培地貯留部からチャンバーへ培地を供給する流路を形成しているので、この流路を利用して、細胞へ薬剤を投与したり、あるいは洗浄液を供給することができる。それによって、微量の薬剤の添加による細胞動態の高解像度観察が可能である。特に、チャンバー内での対角線上の液体の流速を上げることにより、投与した薬剤を速やかに洗浄し、薬剤投与に対する細胞動態を高解像度で観察することが可能である。
(7)本発明の細胞動態を観察するための方法では、投与する薬剤を満たした注射シリンジに装着した注射針を流路の入り口からチャンバー内へ挿入し、チャンバー内における観察視野の目的箇所に薬剤を添加する工程、を包含するので、チャンバー内における観察視野の目的箇所に少量の薬剤を確実に添加することができる。
【0033】
さらに、洗浄用の新鮮な培地の入った瓶の先につけたノズルを流路の入り口からチャンバー内へ挿入し、該ノズルからチャンバー内へ培地を噴射すると同時に培地の流速を上げと、添加後のチャンバー内に存在する過剰な薬剤の除去を速やかに行なうことができる(つまり、迅速な洗浄が可能である)。それによって、微量の薬剤の添加による細胞反応の高解像度観察が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0035】
図1~図3に示すように、本発明の細胞動態の観察装置は、熱伝導性に優れた基板2と、該基板2に設けられた細胞を収容するためのチャンバー4と、該基板2に設けられ該チャンバー4に培地を供給するための培地貯留部6と、を有する。
【0036】
基板2は、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、真鍮などの熱伝導性に優れた金属にて形成することができる。基板2の形状としては、図3に示すように、長方形状の板材で形成することができる。
【0037】
基板2の略中央部にチャンバー4が設けられている。このチャンバー4は、基板2に形成された開口部8の壁部10と、該開口部8の上端開口を閉塞する透明板12と、該開口部8の下端開口を閉塞し得るカバーガラス14と、によって形成されている。
【0038】
開口部8は基板2を貫通して形成されている。開口部8の平面形状としては、四角形、三角形、楕円形、円形などどのような形状とすることもできる。透明板12は、ガラス板又はアクリル板などのプラスチック板などの透明な板材にて形成され、開口部8を閉塞するように基板2上に配置され、透明板12の周囲が基板2の開口部8の周縁に液密的に固着されている。図2に示すように、開口部8の周縁に凹部を全周にわたって設けて、その凹部に基板2の端部を嵌合するようにしてもよい。
【0039】
カバーガラス14は、透明ガラスの薄材にて形成されている。カバーガラス14は、典型的には、屈折率が1.52程度で厚さ0.17mm±0.02mmの市販のカバーガラスを用いることができる。通常使用される大きさは18×18mm、18×24mm、24×24mm、24×40mmであり、光学的視野に影響がない限り、本質的に任意の大きさおよび形状(円形でもよい)のものが使用され得る。
【0040】
また、カバーガラス14の周囲にシリコーン系の処理剤が塗布、またはフッ素樹脂系テープが貼り付けられているのが、液もれしないので好ましい。このフッ素樹脂系テープとしては、厚さ0.08mm程度の薄手のテープを使用することができる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリ四フッ化エチレンなどがあげられる。このカバーガラス14上に細胞が培養される。
【0041】
カバーガラス14は、基板2の開口部8の周囲下面に取外し可能に取り付けられている。カバーガラス14は、シリコーン系のグリースをカバーガラス14の周囲に塗布し、グリースの接着によって開口部8の周囲下面に取外し可能に取り付けられる。あるいは、カバーガラス14は、両面粘着テープにより開口部8の周囲下面に取外し可能に取り付けられる。
【0042】
基板2の一端部側に培地貯留部6が設けられている。培地貯留部6は、基板2の上面に枠材16を配置して形成されている。この枠材16はビスなどの固着具にて基板2表面に固定されている。
【0043】
この培地貯留部6の底部(基板2の上面部)からチャンバー4に向けて流路18が形成されている。この流路18は基板2を貫通して形成され、培地貯留部6とチャンバー4とがこの流路18によって連通されている。
【0044】
また、基板2を貫通して排出流路20が形成され、排出流路20を介してチャンバー4内と培地排出用のチューブ22とが連通されている。チューブ22の先端部には培地を吸引するためのポンプ(図示せず)が接続されている。
【0045】
チャンバー4に形成された流路18の入口18aとチャンバー4に形成された排出流路20の出口20aとの位置は、図3に示すように、平面視においてほぼ対角線上に配置されており、流路18の入口18aからチャンバー4内へ送られてくる培地が淀みなく排出流路20の出口20aから排出するように構成されている。
【0046】
なお、図中24はチューブ22を基板2に固定するための押え具であり、基板2の他端部にビスなどの固着具にて固着されている。また、基板には温度センサ、pHセンサを設けることができる。pHセンサは公知のものを使用することができ、例えば、LAPS型pHセンサ、ISFET型センサがあげられる。
【0047】
上記構成よりなる本発明の装置は、次のようにして、温度制御が可能な倒立顕微鏡ステージ上にセットされる。
【0048】
カバーガラス14上に細胞を載せ、カバーガラス14を基板2の開口部8の下面に貼り付けて、カバーガラス14、開口部8の周囲の壁部10および透明板12によってチャンバー4が形成される。培地は、培地貯留部6からチャンバー4へ供給される。又は、図1~図2に示す基板2を上下反転してチャンバー4の開口を上向きとし、この状態でチャンバー4内へ培地を満たし、ついでその開口部8にカバーガラス14を装着するようにしてもよい。その後基板2を再び上下反転したのち、培地貯留部6内に培地が満たされる。
【0049】
そして、本発明の装置が倒立顕微鏡ステージ上にセットされる。
【0050】
チャンバー4へ培地が満たされると、ポンプによりチャンバー4内の培地を吸引することにより、培地は徐々に排出流路20から排出されるので、新鮮な培地が培地貯留部6からチャンバー4へ供給される。
【0051】
ここで、基板2が熱伝導性であるので、装置を温度コントロールされたステージ上に載置すると、基板2に熱が伝達され、チャンバー4内の培地および培地貯留部6内の培地が加温される。よって、流体吸出し口20aより延びるチューブ22の遠位端にポンプを取り付けて培地をゆっくりと吸引すると、チャンバー4には、一定の温度に保たれた流体(例えば、新鮮で培養温度に保温された培地)が貯留部6から供給される。
【0052】
このようにして、薬剤のない細胞の動態をモニター(評価)できる。すなわち、生きた細胞の長時間観察のためには、細胞の温度管理と細胞の代謝に伴う培地成分の変動を防ぐため、培地を逐次新鮮なものに交換する必要がある。また、生細胞の高解像度観察は、細胞の刺激に対する反応を観察する目的で行われる場合が多い。そのためには、細胞を顕微鏡上から移動することなく顕微鏡上の細胞を封入した空間内に、必要に応じた量の薬剤などが添加されることが求められる。
【0053】
本発明によれば、貯留部6の流体流入口18からチャンバー4内へ、注射シリンジなどに装着した注射針を挿入して、薬剤を観察視野上の目的の場所に的確に添加し、さらに洗浄液の入った瓶などの先につけたノズルなどを流路の入口18からチャバー4内へ挿入し、洗浄用の新鮮な培地を噴射すると同時に流速を上げ、添加後の過剰な薬剤の除去などを速やかに行うことが可能になる。
【0054】
該注射シリンジとしては、薬剤を添加するものであれば公知の全てのものを使用でき、その注射針は流路18の内径よりも小さい外径を有しているものである。また、上記瓶およびその先端に取り付けられるノズルも、従来公知の全てのものを使用することができる。
【0055】
よって、細胞への薬物等の投与・洗浄も顕微鏡上で自在に行うことができる。生きた細胞の高解像度継続観察が可能になる。また、細胞の刺激に対する瞬時から長期に及ぶ反応を高解像度で観察することも可能となる。
【0056】
このような仕組みにより、組織を含む培地の観察の場合、チャンバー4では、高分解能の対物レンズがセットされた顕微鏡ステージ上において、培養温度を維持しながら培地の鮮度を保つことができる。また、ポンプによる吸引程度を調整することにより、例えば、培地のチャンバー4内への注入速度を上げて薬剤を取り除くこともできる。
【0057】
このように、本発明によれば、流体(培地など)の交換、還流、添加、さらに温度制御が可能である。例えば、チューブにポンプが接続され、約40分かけて培地を吸引したり、薬剤のない細胞の動態を冷却CCDカメラなどにより画像として取り込み解析でき、さらに流入口からノズルを挿入し洗浄液を注入したり、注入速度を上げたりして薬剤を取り除くことができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
本発明の細胞動態の観察装置のチャンバー内の温度安定性
温度制御用プレート(20℃設定から38℃設定へシフト)に、本発明の細胞動態の観察装置を設置し、カバーガラス14面の温度変化を追跡した。
【0060】
20℃で保管してあった装置は、温度制御用プレートの温度上昇に対応した温度上昇を示し、設定温度に達した後は、±0.2℃の範囲で安定した温度制御が可能であった。温度データは2秒ごとに取り込んだ。外気温は28℃であった。
【0061】
その結果を、図4に示す。
【0062】
(実施例2)
生きた動物培養細胞の油浸対物レンズによる高解像度撮影
動物の細胞レベルでの研究に一般的に用いられているチャイニーズハムスターの卵巣由来の培養細胞(CHO-K1,Riken Cell Bank)を用いて、顕微鏡上で細胞の生理条件を維持したまま、油浸対物レンズを用いて生細胞の高解像度顕微鏡撮影を行った。
A.装置の作製
細胞を顕微鏡上の小さな密閉容器内で生きたまま長時間保持するためには、温度を37℃程度に保つことが必要である他に、酸性老廃物の細胞外排出による培地の酸性化などを防ぐため、培地を逐次新鮮なものに交換する必要がある。
【0063】
そこで本実施例では、図1~図3に示すような装置を作製した。
【0064】
装置は、アルミニウム製基板2を用いた。基板2にはその中央に24mm×24mmのカバーガラス14を接着する開口部(観察窓)8が設けられており、ここに観察対象となる上記細胞を入れ、カバーガラス14を密着させることにより観察が可能となる。
【0065】
培地の流動や、薬剤の添加は、注射シリンジなどに装着した注射針などを流路の入口から挿入し、観察視野の目的箇所に薬剤を直接添加したり、吸引チューブを(低速で安定した速度での吸引が可能な)吸引ポンプへ接続することにより行われる。アクリル製枠材で形成された培地貯留部6に培地を加え、吸引の開始、並びに吸引速度の制御は全て吸引ポンプによって行われる。
B.カバーガラスのチャンバーへの装着
チャンバー内に培地を満たした後、周囲をシリコーンコート処理をしたカバーガラス上に培養したCHO細胞が接着しているカバーガラス14を細胞が培地に接するように開口部に被せ、その周縁部を基板側に押し付けることによりカバーガラス14の装着が完了した。カバーガラス14を装着することにより、培地の流動も可能となる。
【0066】
上記構成の本発明の装置を対物レンズがステージの下から上向きに出ている倒立型の顕微鏡の試料台(ステージ)上に載置し、100倍の油浸対物レンズを用いて生細胞の高解像度顕微鏡観察(高感度冷却CCDカメラを基準としたコンピューター画像解析機能をもつ撮影装置による)を行った。
【0067】
その結果を図5および図6に示す。
【0068】
図5は、カバーガラスを基板へ装着直後の位相差像であり、図6は装着60分後の位相差像である。
【0069】
これらの図から、細胞内の微小な管や顆粒の動きが鮮明に捉えられていることがわかる。また、60分を経過しても細胞は良好な状態に保たれ、装着直後同様の動きが観察された。また、温度管理の良さ、培地の恒常的な交換により細胞環境が良好に保たれていることがわかる。
【0070】
(実施例3)
実施例2で示したのと同じ装置を用いて、変性LDLを認識する受容体を発現している細胞に、蛍光標識した変性LDL(DiD-AcLDL:リガンド)を添加した後、過剰のリガンドを除去し、その取り込み過程を観察した。
【0071】
図7~図13に、この生きている細胞の連続画像(冷却CCDカメラによる取り込み像)を示す。
【0072】
図7は、位相差像である。
【0073】
図8は、リガンド投与前の蛍光像である。蛍光物質がないため真っ暗である。
【0074】
図9は、リガンド投与直後の蛍光像である。培地中にも大量のリガンドが存在するため、画像は全体に真っ白である。
【0075】
図10は、ノズルにより新鮮な培地を一気に注入すると同時に流速を上げ、過剰なリガンドの洗い流しを開始後5秒後の画像である。培地中の過剰なリガンドが取り除かれはじめ、細胞に結合したリガンド像が明らかになって来る。
【0076】
図11は、洗い開始後15秒後の画像である。過剰なリガンドが完全に除去され、細胞に結合、または取り込まれたリガンド像のみを鮮明に捉えることが可能になる。
【0077】
図12は、リガンド投与後120秒後の蛍光像である。図11と比較し、リガンドの動きを追跡することができる。
【0078】
図13は、リガンド投与後12分後の画像である。細胞は健全な状態を保ち、リガンドが細胞核周辺に集積していることが観察される。
【0079】
このように、本発明の装置によれば、細胞が取り込むことが可能な蛍光標識リガンドを添加直後の画像、洗浄後の画像、細胞がリガンドを取り込む過程を高解像度で経時的に追跡した画像を得ることができる。
【0080】
(実施例4)
実施例2で示した装置を用いて、シリコーンコート処理をしていないカバーガラス14で培養した細胞を装置の開口部下面に装着し、100倍の油浸レンズにより観察した。
【0081】
その位相差像を図14および図15に示す。
【0082】
図14は、カバーガラス装着直後であり、図15は装着60分後の画像である。
【0083】
これらの図から、シリコーン処理をしていないカバーガラス14の使用も可能ではあるが、密着性に劣るため画像の質が劣ることがある。また、1度に満たない温度変化が生じることがあり、そのため細胞が反応することがある。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施例の細胞動態の観察装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施例の細胞動態の観察装置の断面図である。
【図3】本発明の一実施例の細胞動態の観察装置の平面図である。
【図4】本発明の細胞動態の観察装置を用いたチャンバー内の温度安定性を示すグラフである。
【図5】図5は、カバーガラスを基板へ装着直後の顕微鏡写真である。
【図6】図6は装着60分後の顕微鏡写真である。
【図7】図7は細胞の位相差像の顕微鏡写真である。
【図8】図8は、細胞の連続画像のリガンド投与前の蛍光像の写真である。
【図9】図9は、細胞のリガンド投与直後の蛍光像の写真である。
【図10】図10は、ノズルにより新鮮な培地を一気に注入すると同時に流速を上げ、過剰なリガンドの洗い流しを開始後5秒後の細胞の写真である。
【図11】図11は、洗い開始後15秒後の細胞の写真である。
【図12】図12は、リガンド投与後120秒後の蛍光像の写真である。
【図13】図13は、リガンド投与後12分後の細胞の写真である。
【図14】図14は、位相差像のカバーガラス装着直後の細胞の写真である。
【図15】図15は、位相差像のカバーガラス装着60分後の細胞の写真である。
【符号の説明】
【0085】
2 基板
4 チャンバー
6 培地貯留部
8 開口部
10 壁部
12 透明板
14 カバーガラス
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
14