TOP > 国内特許検索 > 効率的なトランスジェニックカイコの作出方法 > 明細書

明細書 :効率的なトランスジェニックカイコの作出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5240699号 (P5240699)
公開番号 特開2007-259775 (P2007-259775A)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月17日(2013.7.17)
公開日 平成19年10月11日(2007.10.11)
発明の名称または考案の名称 効率的なトランスジェニックカイコの作出方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
請求項の数または発明の数 8
全頁数 25
出願番号 特願2006-090174 (P2006-090174)
出願日 平成18年3月29日(2006.3.29)
審査請求日 平成21年1月28日(2009.1.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】田村 俊樹
【氏名】瀬筒 秀樹
【氏名】小林 功
【氏名】神田 俊男
【氏名】小島 桂
【氏名】内野 恵郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 特開2004-254681(JP,A)
特開平07-163388(JP,A)
特開2002-176987(JP,A)
特表2001-503258(JP,A)
特開2004-344123(JP,A)
特開2005-046093(JP,A)
Nucleic Acids Research,2002年,vol.30 no.15,pp.3333-3340
Genetics,2004年,vol.167,pp.737-746
蛋白質核酸酵素,2003年,vol.48 no.11,pp.1488-1495
Nucleic Acids Research,1987年,vol.15 no.4,pp.1353-1361
Nucleic Acids Research,1987年,vol.15 no.20,pp.8125-8148
The Journal of Cell Biology,1991年,vol.115 no.4,pp.887-903
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1990年,vol.87,pp.8301-8305
Journal of Bacteriology,1987年,vol.169,pp.4621-4629
NATURE BIOTECHNOLOGY,2000年,vol.18,pp.81-84
Insect Molecular Biology,2001年,vol.10 no.5,pp.447-455
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPI

特許請求の範囲 【請求項1】
(1)トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程、
(2)(1)のカイコ卵から生じたカイコの中から、任意のDNAが挿入されたトランスジェニックカイコを選択する工程を含む、トランスジェニックカイコの製造方法であって、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3'非翻訳領域、及びpolyA領域を有するDNAまたは該DNAを含むベクターから転写されるmRNAである、方法。
【請求項2】
トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程を含む、任意のDNAが導入されたカイコ卵の製造方法であって、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3'非翻訳領域、及びpolyA領域を有するDNAまたは該DNAを含むベクターから転写されるmRNAである、方法。
【請求項3】
トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程を含む、任意のDNAをカイコ卵に導入する方法であって、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3'非翻訳領域、及びpolyA領域を有するDNAまたは該DNAを含むベクターから転写されるmRNAである、方法。
【請求項4】
配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3'非翻訳領域、及びpolyA領域を有するDNAまたは該DNAを含むベクターが、以下の(a)~(l)のいずれかである、請求項1~3のいずれかに記載の方法;
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(g)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(h)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(i)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(j)配列番号:4に記載の塩基配列を含むDNA、
(k)(a)~(j)のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
(l)配列番号:15に記載の塩基配列からなるベクター。
【請求項5】
任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacが少なくとも以下(a)~(c)を有する、請求項1~のいずれかに記載の方法;
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA、
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA、
(c)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA。
【請求項6】
以下の(a)~(l)のいずれかに記載のDNAまたはベクターを含む、請求項4に記載の方法に用いるためのキット
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(g)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(h)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(i)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5'非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3'非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列からなるpolyA領域をこの順番に有するDNA、
(j)配列番号:4に記載の塩基配列を含むDNA、
(k)(a)~(j)のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
(l)配列番号:15に記載の塩基配列からなるベクター
【請求項7】
さらに以下(a)~(c)を有するベクターを含む、請求項に記載のキット;
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA、
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA、
(c)上記(a)及び(b)の間に挟まれたクローニングサイトを含むDNA。
【請求項8】
さらに以下(a)~(c)を有するベクターを含む、請求項に記載のキット;
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA、
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA、
(c)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、効率の高いカイコの組換え体の作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え生物を使って有用物質を生産する方法は、大腸菌や酵母、植物、哺乳動物等で広く用いられている。近年、昆虫の一種であるカイコにおいて、DNA型のトランスポゾンを利用して、組換えカイコ作る技術が開発され、カイコによる異種生物の組換えタンパク質を生産することが可能になってきた。カイコは、唯一の家畜化された昆虫である。すなわち、ヒトに飼われることによってのみ生存可能で、自然界では数日で死滅する。また、幼虫は餌のある場所に止まり、蛾には飛ぶ力がないため飼育場所の外に拡散する確率は非常に低い。また、カイコは絹を作るために分化した絹糸腺と呼ばれる特殊な組織を持ち、この組織を利用することによって大量のタンパク質を生産することができる。このようなカイコの特徴は、有用物質を生産するための組換え生物として有利な点であり、今後カイコを利用して多くの組換えタンパク質が生産され、検査薬や医薬品に用いられると予測される。
【0003】
しかしながら、現在用いられているトラトランスポゾンpiggyBacをベクターとする組換えカイコの作出方法(Tamura et al. 2000)は組換え効率が低く、組換え体の作出に多くの労力が必要であるという欠点がある。すなわち、現在の方法はトランスポゾンpiggyBacの逆位末端反復配列(IVR)の間に目的遺伝子とマーカー遺伝子を挿入したプラスミドをベクターとし、これにヘルパープラスミドと呼ばれるトランスポゾンの転移酵素遺伝子を持つプラスミドを一緒にカイコの卵に注射することを特徴とする。つまり、卵の中で転移酵素遺伝子を強制的に発現させ、ベクタープラスミドからゲノムへの目的遺伝子の転移を生殖細胞内で引き起こし、次世代において組換え個体を回収する方法である。この方法で注射したカイコ同士を交配した場合の組換え体の作出効率は、注射した次世代の全調査蛾区中で組換え体が出現する蛾区数で見た場合で、0.5~15%である(Imamura et al. 2003; Tomita et al. 2003)。この頻度は、導入する遺伝子の大きさが大きくなるにつれさらに低下する。そのため、さらに効率の高い組換え体作出方法を開発することが求められている。
【0004】
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。

【非特許文献1】Imamura, M., J. Nakai, S. Inoue, G. X. Quan, T. Kanda et al., 2003 Targeted gene expression using the GAL4/UAS system in the silkworm Bombyx mori. Genetics 165: 1329-1340.
【非特許文献2】Inoue, S., T. Kanda, M. Imamura, G. X. Quan, K. Kojima et al., 2005 A fibroin secretion-deficient silkworm mutant, Nd-sD, provides an efficient system for producing recombinant proteins. Insect Biochem Mol Biol 35: 51-59.
【非特許文献3】Kapetanaki, M. G., T. G. Loukeris, I. Livadaras and C. Savakis, 2002 High frequencies of Minos transposon mobilization are obtained in insects by using in vitro synthesized mRNA as a source of transposase. Nucleic Acids Res 30: 3333-3340.
【非特許文献4】Pavlopoulos, A., A. J. Berghammer, M. Averof and M. Klingler, 2004 Efficient transformation of the beetle Tribolium castaneum using the Minos transposable element: quantitative and qualitative analysis of genomic integration events. Genetics 167: 737-746.
【非特許文献5】Tamura, T., C. Thibert, C. Royer, T. Kanda, E. Abraham et al., 2000 Germline transformation of the silkworm Bombyx mori L. using a piggyBac transposon-derived vector. Nat Biotechnol 18: 81-84.
【非特許文献6】Tomita, M., H. Munetsuna, T. Sato, T. Adachi, R. Hino et al., 2003 Transgenic silkworms produce recombinant human type III procollagen in cocoons. Nat Biotechnol 21: 52-56.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、効率の高いカイコの組換え体の作出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々の検討を行った。その結果、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入し、該カイコ卵からカイコを作出させることによって、トランスジェニックカイコの作出効率を著しく上昇させることが出来ることを見出した。即ち、本発明者らは、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素の供給源として、従来用いられているヘルパープラスミドの代わりに、in vitroで合成したmRNAを用いることで、トランスジェニックカイコの作出効率を著しく上昇させることに成功し、本発明を完成するに至った。具体的には本発明は以下〔1〕~〔20〕を提供するものである。
〔1〕以下の(a)及び(b)の工程を含む、トランスジェニックカイコの製造方法;
(a)トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程、
(b)(a)のカイコ卵から生じたカイコの中から、任意のDNAが挿入されたトランスジェニックカイコを選択する工程。
〔2〕トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程を含む、任意のDNAが導入されたカイコ卵の製造方法。
〔3〕トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程を含む、任意のDNAをカイコ卵に導入する方法。
〔4〕トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、以下(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAから転写されるmRNAである、〔1〕~〔3〕に記載の方法;
(i)配列番号:5記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA、
(ii)配列番号:5に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA、
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA、
(iv)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA。
〔5〕トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、以下(a)~(i)のいずれかに記載のDNAから転写されるmRNAである、〔1〕~〔3〕に記載の方法;
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(g)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(h)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に機能的に結合しているDNA、
(i)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA。
〔6〕トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、配列番号:2~4のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAから転写されるmRNAである、〔1〕~〔3〕に記載の方法。
〔7〕トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAが、配列番号:14又は15に記載の塩基配列からなるベクターから転写されるmRNAである、〔1〕~〔3〕に記載の方法。
〔8〕任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacが少なくとも以下(a)~(c)を有する、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法;
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA、
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA、
(c)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA。
〔9〕〔1〕に記載の方法によって製造されるトランスジェニックカイコ。
〔10〕〔2〕に記載の方法によって製造される、任意の遺伝子が導入されたカイコ卵。
〔11〕以下(a)~(i)のいずれかに記載のDNA;
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(g)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(h)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA、
(i)配列番号:9に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA。
〔12〕配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNA。
〔13〕〔11〕又は〔12〕に記載の塩基配列を含むベクター。
〔14〕配列番号:15に記載の塩基配列からなるベクター。
〔15〕以下(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAを含むベクターを含むキット;
(i)配列番号:5記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA、
(ii)配列番号:5に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA、
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA、
(iv)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域が機能的に結合しているDNA。
〔16〕配列番号:3に記載の塩基配列を含むベクターを含むキット。
〔17〕配列番号:14に記載の塩基配列からなるベクターを含むキット。
〔18〕〔13〕又は〔14〕に記載のベクターを含むキット。
〔19〕さらに以下(a)~(c)を有するベクターを含む、〔15〕~〔18〕のいずれかに記載のキット;
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA、
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA、
(c1)上記(a)及び(b)の間に挟まれたクローニングサイトを含むDNA。
〔20〕さらに以下(a)~(c)を有するベクターを含む、〔15〕~〔18〕のいずれかに記載のキット;
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA、
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA、
(c)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、従来の技術に比べて著しく高い効率で、トランスジェニックカイコを作出する方法が提供された。このことにより、トランスジェニックカイコの作出に要する労力を著しく低減することが可能になった。
【0008】
近年、昆虫の一種であるカイコにおいて、異種生物の組換えタンパク質を生産する試みが行われている。本発明は、このような場面で使用するトランスジェニックカイコを作出する際に有用である。中でも、検査薬や医薬品に用いられる組み換えタンパク質の生産には、特に有用であると考えられる。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明は、効率の高いカイコの組換え体の作出方法に関する。本発明は、本発明者らが、トランスポゾンの転移酵素をコードするmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンをカイコ卵に注入し、該カイコ卵からカイコを作出することによって、トランスジェニックカイコの作出効率を著しく上昇させることに成功したことに基づく。すなわち本発明は、以下の(a)及び(b)の工程を含む、トランスジェニックカイコの製造方法を提供する。
(a)トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵に注入する工程
(b)(a)のカイコ卵から生じたカイコの中から、任意のDNAが挿入されたトランスジェニックカイコを選択する工程
【0010】
本発明のトランスジェニックカイコの製造方法においては、まず、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンをカイコ卵に注入する。トランスポゾンは、細胞内においてゲノム上の位置を移動することができる塩基配列として知られており、しばしば、遺伝子導入用のベクターとして使用される。トランスポゾンには、DNA断片が直接転移するDNA型と、転写と逆転写の過程を経るRNA型がある。本発明におけるトランスポゾンは、そのどちらかに限定されるものではなく、両方のトランスポゾンが含まれる。
【0011】
またトランスポゾンは、自身が転移するために、転移酵素を必要とする。転移酵素は、トランスポゾンの逆位末端反復配列を認識する。それによってトランスポゾンがゲノム配列から切り出され別の部位に挿入され、転移が引き起こされる(Tamura, T., Thibert, C., Royer, C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba. M., Ko^moto, N., Thomas, J.L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.C., and Couble, P. (2000) A piggyBac-derived vector efficiently promotes germ-line transformation in the silkworm Bombyx mori L. Nature Biotechnology 18, 81-84)。本発明のトランスポゾンは、遺伝子導入用のベクターとして使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、好ましいトランスポゾンとしてpiggyBacが挙げられる。トランスポゾンpiggyBacは、他の多くのトランスポゾンと比べて、蚕への遺伝子導入ベクターとしての効率が最も高い。そのためトランスポゾンpiggyBacは、本発明に使用するトランスポゾンとして特に優れている。
【0012】
本発明のトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のアミノ酸配列を、配列番号:31に示す。また、piggyBacの転移酵素のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号:1に、該DNAから転写されるmRNAの塩基配列を配列番号:19に示す。
【0013】
ここで、piggyBacの転移酵素のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列には、配列番号:31に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:31に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、及び、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、配列番号:31に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。このような相同遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が知られている。
【0014】
本発明において「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」は、少なくとも、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域を有するmRNAを意味する。すなわち、本発明の「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」は、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域以外の配列を含んでいてもよい。また、本発明の「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」は、目的のmRNAを発現するDNAの発現カセットを作成し、該発現カセットが発現可能なように導入されたベクターを用いて製造されたものであっても、in vitroで化学的に合成されたものであってもよい。
【0015】
より具体的には、本発明の「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」としては、以下(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAから転写されるmRNA、又は、以下(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAの配列情報を基に化学的に合成されるmRNAが挙げられる。
(i)配列番号:5記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
(ii)配列番号:5に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
(iv)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
【0016】
本発明において、上記5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNAとして、特に好ましい態様としては、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAが挙げられる。なお、該DNAを生物学的な方法を用いて合成する場合、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAは、配列番号:14に記載の塩基配列からなるベクターに含まれており、該ベクターから、配列番号:21に記載の塩基配列からなるmRNAが転写される。
【0017】
なお、本発明の上記(i)~(iv)のDNAはさらに、配列番号:13、又は、配列番号:13のうち「n」で示された配列(polyA配列)を有していてもよい。ここで「n」とは、「A」がx回繰り返された配列であることを意味する。本発明においてxは限定されるものではないが、好ましくは90~100(90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100)である。
【0018】
また、本発明における「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」として、さらに、以下(a)~(i)のいずれかに記載のDNAから転写されるmRNA、又は、以下(a)~(i)のいずれかに記載のDNAの配列情報を基に化学的に合成されるmRNAを挙げることが可能である。
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(g)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(h)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(i)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
【0019】
本発明において、上記5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域、polyA配列がこの順番に結合しているDNAとしては、配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAが挙げられる。配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAは、配列番号:15に記載の塩基配列からなるベクターに含まれており、該ベクターから、配列番号:22に記載の塩基配列からなるmRNAが転写される。
なお、本発明の上記(a)~(i)のDNAは、配列番号:13に記載の塩基配列を有していなくともよい。また、配列番号:13のうち「n」で示された配列(polyA配列)を有していてもよい。
【0020】
本発明において5'非翻訳領域は、塩基配列WAAWNMAAA(MはA又はC;NはA、T、G又はC;WはT又はAを意味する、配列番号:7)又はTAAAACAAA(配列番号:8)を有していることが好ましい。この配列は、既に知られているカイコの遺伝子において、翻訳開始点の上流に共通して見出される配列である。特に、塩基配列TAAAACAAA(配列番号:8)は、カイコの細胞で発現量が多いことが知られているβチューブリン遺伝子の翻訳開始点の上流に存在することから、カイコにおけるタンパク合成に重要な配列であると推測される。本発明のトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAは、このような配列を有することが好ましい。
【0021】
一方、5’非翻訳領域(配列番号:9に記載の塩基配列)におけるTAAAACAAA以外の配列(すなわち、GAATACTCAAGCTAGGG配列)については、例えばGAATACTCAAGCTAGGG配列の一部の塩基が置換されている場合など、GAATACTCAAGCTAGGG配列とは一部異なる配列であってもよい。特に、本発明のmRNAをベクターを用いて作成する場合、プロモータと組み合わせて設計される。当業者であれば、プロモータ配列に応じてTAAAACAAA以外の配列を適宜設計することが可能である。
【0022】
本発明のトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAは、どのように製造されたものであってよい。本発明のトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAは、当業者に公知の任意の方法によって製造することが可能であるが、一例としては、目的のmRNAを発現するDNAの発現カセットを作成し、該発現カセットが発現可能なように導入されたベクターを用いて製造する方法や、in vitroで化学的に合成する方法などが挙げられる。しかし本発明のトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAの製造方法はこれらに限定されず、当業者に公知の任意の方法を用いることが可能である。
【0023】
本発明のmRNAを、真核細胞を用いて生物学的に合成する場合、合成産物の3’非翻訳領域に「polyA領域」が付加される。本発明における「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」には、このように、mRNAへと転写された際に「polyA領域」が付加されたmRNAも含まれる。
一方、本発明のmRNAをin vitroの合成系を用いて化学的に合成する場合、「polyA領域」の付加は起こらない。本発明における「トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA」には、このように、「polyA領域」を有さないmRNAも含まれる。
【0024】
上述のように本発明のDNAは、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び3’非翻訳領域を有している限り、他にどのような配列を有していてもよい。従って、例えば、5’非翻訳領域とトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域の間に任意の配列を有していてもよく、また、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域と3’非翻訳領域の間に任意の配列を有していてもよい。さらに、5’非翻訳領域のさらに5’末端側に任意の配列を有していてもよく、また、3’非翻訳領域のさらに3’末端側に任意の配列を有していてもよい。
【0025】
特に本発明のDNAを生物学的に合成する場合は、本発明のDNAは、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び3’非翻訳領域、又は、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域、及びpolyA配列を含み、かつ、これらを含むDNAがベクターに挿入され該ベクターからmRNAを発現させた際にmRNAが転写発現されるものである限り、制限されるものではない。従って、本発明のDNAを生物学的に合成する場合において、例えば5’非翻訳領域とトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域の間に任意の配列を有している場においても本発明のDNAに含まれることは、上述の通りである。
【0026】
なお、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素をコードするmRNA配列に5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、及び/又はpolyA配列を付加させることにより、トランスポゾンに挿入したDNAのカイコ体内への導入効率を上昇させることが可能となる。
【0027】
また、本発明において使用される5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域は、特に制限されるものではない。本発明の5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域は、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素が由来する生物種と同種の生物に由来する5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域を使用することはもちろん、異種の生物に由来する5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域を使用することも可能である。また、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素の5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域を使用することも、それ以外のタンパク質をコードするmRNA由来の5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域域を使用することも可能である。本発明の方法において使用される5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域は、使用する転移酵素をコードするmRNAが天然に有する5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域であることが好ましい。例えば、転移酵素としてトランスポゾンpiggyBacの転移酵素(配列番号:31に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)を使用する場合、これと組み合わせて使用される5’非翻訳領域や3’非翻訳領域としては、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素をコードするmRNAが天然に有するそれであることが好ましい。トランスポゾンpiggyBacの転移酵素をコードするmRNAが天然に有する5’非翻訳領域や3’非翻訳領域としては、配列番号:5に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域や、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域を挙げることが出来る。また、本発明において使用されるpolyA配列も、上述の通り特に制限されるものではない。
【0028】
本発明のトランスジェニックカイコの製造方法においては、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAとともに、任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacもまた、カイコ卵に注入される。本発明の任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacは、少なくとも以下(a)~(c)を有する。
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA
(c)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA
【0029】
また、本発明においてトランスポゾンpiggyBacに挿入されるDNAは特に制限されるものではなく、任意の遺伝子や機能的DNAを挿入することが可能である。任意の遺伝子としては、例えば、キヌレニン酸化酵素遺伝子やDsRedなどが挙げられる。また、機能的DNAとしては、例えばアンチセンス効果を有するRNAをコードするDNAや、RNAi効果を有するRNAをコードするDNAが挙げられる。本発明の方法における任意のDNAとしてはこのようなDNAが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、任意のDNAを使用することが可能である。
【0030】
トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacをカイコ卵へ注入する方法としては、例えば、カイコ卵へのDNA注入用の管を使用して直接卵内へトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを導入する方法が挙げられる。また、好ましい態様としては、前もって物理的又は化学的に卵殻に穴を空け、該穴からトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを導入する方法が挙げられる。特にこの際、注入用の管を挿入角度が該卵の腹側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入することが好ましい。
【0031】
本発明において、物理的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば針、微小レーザー等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。好適には針を用いた方法によって卵殻に穴を空けることができる。該針は、カイコの卵殻に穴を空けることができるものであれば、その針の材質、強度等は、特に制限されない。なお、本発明における針とは、通常、先端が尖った棒状の針を指すが、この形状に限定されず、卵殻に穴を空けることができるものであれば、全体の形状は特に制限されない。例えば、先端の尖ったピラミッド型の物質、又は先端の尖った三角錐の形状の物質もまた、本発明の「針」に含まれる。本発明においては、タングステン針を好適に使用することができる。本発明の針の太さ(直径)は、後述のキャピラリーが通過可能な穴を空けることができる程度の太さであればよく、通常2~20μm、好ましくは5~10μmである。一方、化学的に卵殻に穴を空ける方法としては、例えば薬品(次亜塩素酸等)等を用いて穴を空ける方法が挙げられる。
【0032】
本発明において、穴を空ける位置としては、該穴から注入用の管を挿入した場合に卵の腹側の側面に対する挿入角度を、ほぼ垂直にできる位置ならば特に制限はないが、好ましくは腹側の側面又はその反対側であり、より好ましくは腹側の側面であり、さらに好ましくは卵の腹側側面のやや後端よりの中央部である。
【0033】
本発明において、「ほぼ垂直」とは、70°~120°を意味し、好ましくは80°~90°を意味する。本発明の注入用の管は、その管の材質、強度、内径等は特に制限されないが、注入用の管を挿入する前に、物理的又は化学的に卵殻に穴を空ける場合は、空けられた穴を通過できる太さ(外径)であることが好ましい。本発明の注入用の管としては、例えば、ガラスキャピラリー等を挙げることができる。
【0034】
本発明のトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacの導入方法において、好ましい態様としては、上記のカイコ卵に物理的又は化学的に穴を空け、注入用の管を挿入角度が該卵の腹側の側面に対してほぼ垂直となるように該穴から卵内に挿入し、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを注入する工程を、針と注入用の管が一体型となったマニュピュレーターを使用して行う。通常、該マニュピュレーターを構成要素の1つとする装置を使用して本発明は好適に実施される。
【0035】
このような装置としては、解剖顕微鏡、照明装置、可動式のステージ、顕微鏡に金具で固定した粗動マニュピュレーター、このマニュピュレーターに付けたマイクロマニュピュレーター、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを注射するための空気圧を調整するインジェクターから構成されている。インジェクターに用いる圧力は窒素ボンベから供給され、圧力のスイッチはフットスイッチによっていれることができる。注射はガラススライド等の基板上に固定した卵に対して行い、卵の位置は移動式のステージによって決める。また、マイクロマニュピュレーターのガラスキャピラリーは4本のチューブで繋がれた操作部によって操作する。実際の手順は、卵に対するタングステン針の位置を粗動マニュピュレーターで決め、ステージのレバーで水平方向に卵を動かし穴を空ける。続いて、マイクロマニュピュレーターの操作部のレバーを操作して、穴の位置にガラスキャピラリーの先端を誘導し、再びステージのレバーによりキャピラリーを卵に挿入する。この場合、卵の腹側の側面に対し垂直にガラスキャピラリーが挿入される必要がある。フットスイッチを入れトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを注射し、レバーを操作して卵からキャピラリーを抜く。空けた穴を瞬間接着剤等でふさぎ、一定の温度及び、一定の湿度のインキュベーターで保護する。本発明に使用される装置としては、好適には、特許第1654050号に記載の装置又は該装置を改良した装置が挙げられる。
【0036】
また、本発明の態様においては、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacが導入されるカイコ卵は、基板に固定されていることが好ましい。本発明の基板として、例えば、スライドグラス、プラスチック板等を用いることができるが、これらに特に制限されない。本発明の上記態様においては、カイコ卵内の将来的に生殖細胞になる位置に正確にトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを注射するために、卵の方向を揃えて固定することが望ましい。また、上記態様においては、基板へ固定するカイコ卵の数には、特に制限はない。また、複数個のカイコ卵を用いる場合、カイコ卵を基板へ固定する方向性としては、好ましくは背腹の向きが一定となるような方向である。本発明の上記カイコ卵の基板への固定は、例えば、水性の糊をあらかじめ塗布した市販の台紙(バラ種台紙)の上に産卵させ、台紙に水を加えて卵をはがし、次いで濡れた状態の卵を基板に整列させ、風乾することによって行う。卵はスライドグラス上に卵の方向を揃えて固定することが好ましい。また、卵の基盤への固定は両面テープや接着剤等を用いることによっても可能である。
【0037】
また、本発明におけるカイコとしては、非休眠卵を産下する性質を有するカイコ、休眠卵を産下する性質を有するカイコ(例えば実用品種であるぐんま、200、春嶺、鐘月、錦秋、鐘和等)を使用することができる。ここで、休眠卵とは産卵後胚発生が一時的に停止する卵を言い、非休眠卵とは産卵後胚発生が停止せず、幼虫が孵化する卵を言う。
【0038】
休眠卵を産下する性質を有するカイコを用いる場合は、非休眠卵を産下させ、該非休眠卵にトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを導入する。非休眠卵を産下させる方法としては、例えばぐんまにおいては、休眠卵を15℃~21℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、好ましくは休眠卵を16℃~20℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、より好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、最も好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法を挙げることができる。また、200においては、休眠卵を15℃~21℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、好ましくは休眠卵を16℃~20℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、より好ましくは休眠卵を18℃で培養することで該休眠卵から生じた成虫に非休眠卵を産下させる方法、又は休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法、最も好ましくは休眠卵を25℃で培養することで該休眠卵から生じた幼虫を全明で飼育し、生育した成虫に非休眠卵を産下させる方法が挙げられる。
【0039】
卵の培養は、例えば、18℃~25℃のインキュベーター、又は定温の部屋に入れることによって行うことができ、幼虫の飼育は20℃~29℃の飼育室で人工飼料を用いて行うことができる。
【0040】
本発明の上記休眠卵の培養は、当業者においては、一般的なカイコ卵の培養法に従って行うことができる。例えば、「文部省(1978)蚕種製造.pp193、実教出版社、東京」に記載の方法に従って培養を行う。また、本発明におけるカイコ幼虫の飼育は、当業者においては、周知の方法によって行うことができる。例えば、「文部省(1978)蚕種製造.pp193、実教出版社、東京」に記載の方法に従って飼育を行う。
【0041】
本発明において、産卵された卵が非休眠卵であるか否かは、卵の色で判定することができる。一般に、休眠卵は濃い茶褐色に着色し、非休眠卵は黄白色であることが知られている。よって、本発明においては、濃い茶褐色ではないこと、より好ましくは黄白色であることをもって産卵された卵が非休眠卵であると判定する。
【0042】
本発明のトランスジェニックカイコの製造方法においては、次に、上記によって得られたカイコ卵から生じたカイコの中から、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacが挿入されたトランスジェニックカイコを選択する。カイコ卵にトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacが導入されたか否かは、例えば、注射したトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び/又は任意のDNAが挿入されたトランスポゾンpiggyBacを卵から再度抽出して測定する方法(Nagaraju, J., Kanda, T., Yukuhiro, K., Chavancy, G., Tamura, T. and Couble, P.(1996)Attempt of transgenesis of the silkworm(Bombyx mori L) by egg-injection of foreign DNA. Appl. Entomol. Zool., 31, 589-598)や、注射したトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAの卵内での発現を見る方法(Tamura, T., Kanda, T., Takiya, S., Okano, K. and Maekawa, H. (1990). Transient expression of chimeric CAT genes injected into early embryos of the domesticated silkworm, Bombyx mori. Jpn. J. Genet., 65, 401-410)等によって確認することができる。
【0043】
本発明はまた、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンをカイコ卵に注入する工程を含む、任意のDNAが導入されたカイコ卵の製造方法に関する。本発明はさらに、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、及び任意のDNAが挿入されたトランスポゾンをカイコ卵に注入する工程を含む、任意のDNAをカイコ卵に導入する方法に関する。
【0044】
本発明のトランスジェニックカイコの製造方法及び/又はカイコ卵の製造方法において使用されるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNA、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素、3’非翻訳領域、polyA配列、任意のDNA等の説明は、上述の通りである。また、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード配列を有するmRNA、及び任意の遺伝子が挿入されたトランスポゾンのカイコ卵への注入も、上述の方法によって行うことが可能である。
【0045】
本発明はまた、本発明のトランスジェニックカイコの製造方法によって製造されたトランスジェニックカイコ、及び、本発明のカイコ卵の製造方法によって製造されたカイコ卵を提供する。これらトランスジェニックカイコ及びカイコ卵は、組換えタンパク質の生産に使用することが出来るため、有用物質の生産分野において有用である。
【0046】
本発明はさらに、5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域、及びpolyA配列が機能的に結合しているDNAを提供する。より具体的には、本発明は、以下(a)~(i)のいずれかに記載のDNAを提供する。
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(g)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(h)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(i)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
【0047】
本発明において、上記5’非翻訳領域、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNAとして、特に好ましい態様としては、配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAが挙げられる。配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAは、配列番号:14に記載の塩基配列からなるベクターに含まれており、該ベクターから、配列番号:21に記載の塩基配列からなるmRNAが転写される。
【0048】
なお、上述したように、本発明の上記(a)~(d)のDNAはさらに、配列番号:13、又は、配列番号:13のうち「n」で示された配列(polyA配列)を有していてもよい。ここで「n」とは、「A」がx回繰り返された配列であることを意味する。本発明においてxは限定されるものではないが、好ましくは90~100(90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100)である。
【0049】
このようなDNAから生成されるmRNAは、本発明のトランスジェニックカイコの製造方法に使用することが可能である。また、カイコ卵を製造する方法や任意のDNAをカイコ卵に導入する方法等に使用することも可能である。また、本発明のDNAは、これらの方法に使用するキットとして用いることも可能である。
【0050】
本発明はまた、上記(a)~(i)のいずれかに記載のDNAを含むベクターを提供する。本発明において、上記(a)~(i)のいずれかに記載のDNAを含むベクターとして、好ましい態様としては、配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAが挙げられる。また、特に好ましい態様としては、配列番号:15に記載の塩基配列からなるベクターが挙げられる。本発明のベクターは、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域を有するmRNAを合成する際に有用である。また、本発明の方法に使用するキットとして用いることも可能である。
【0051】
本発明の発現カセットと機能的に結合したプロモータとしては、例えば、SP6プロモータやT7プロモータ等が挙げられるが、本発明において使用されるプロモータはこれらに限定されず、本発明の発現カセットを発現することが可能である限り、任意のプロモータを使用することが可能である。
【0052】
本発明はさらに、以下(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAを含むベクターを含むキットを提供する。
(i)配列番号:5記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
(ii)配列番号:5に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
(iv)配列番号:6に記載の塩基配列からなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、及び配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域がこの順番に結合しているDNA
【0053】
具体的には、本発明は、
1)上記(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAを含むベクター及び、少なくとも以下(a)~(c1)を有するベクターを含むキットを提供する。
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA
(c1)上記(a)及び(b)の間に挟まれたクローニングサイトを含むDNA
【0054】
2)上記(i)~(iv)のいずれかに記載のDNAを含むベクター及び、少なくとも以下(a)~(c2)を有するベクターを含むキットを提供する。
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA
(c2)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA
【0055】
本発明はさらに、以下(a)~(i)のいずれかに記載のDNAを含むベクターを含むキットを提供する。
(a)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(b)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(c)配列番号:7に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(d)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(e)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(f)配列番号:8に記載の塩基配列を含む5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(g)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:10に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(h)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:11に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
(i)配列番号:9に記載の塩基配列をからなる5’非翻訳領域、配列番号:1に記載の塩基配列からなるトランスポゾンpiggyBacの転移酵素のコード領域、配列番号:12に記載の塩基配列からなる3’非翻訳領域、及び配列番号:13に記載の塩基配列がこの順番に結合しているDNA
【0056】
具体的には、本発明は、
3)上記(a)~(i)のいずれかに記載のDNAを含むベクター及び、少なくとも以下(a)~(c1)を有するベクターを含むキットを提供する。
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA
(c1)上記(a)及び(b)の間に挟まれたクローニングサイトを含むDNA
【0057】
4)上記(a)~(i)のいずれかに記載のDNAを含むベクター及び、少なくとも以下(a)~(c2)を有するベクターを含むキットを提供する。
(a)トランスポゾンpiggyBacの右側逆位末端反復配列を含むDNA
(b)トランスポゾンpiggyBacの左側逆位末端反復配列を含むDNA
(c2)上記(a)及び(b)の間に挟まれた任意のDNA
【0058】
上記少なくとも(a)~(c1)又は(a)~(c2)を有するベクターの基本骨格としては、piggyBacの基本骨格が挙げられる。
【0059】
また本発明は、任意の遺伝子をカイコ卵に注入するために用いられる、トランスポゾンの転移酵素をコードするmRNAを含むキットを提供する。トランスポゾンの転移酵素をコードするmRNAの説明は、前述の通りである。このようなキットは、任意のDNA
をカイコ卵に注入するために使用することが可能である。
【0060】
なお、本明細書の配列表の配列番号:19~24は、それぞれ、本明細書の配列表の配列番号:1~6に記載の塩基配列からなるDNAから転写されるmRNAの塩基配列である。また、本明細書の配列表の配列番号:25~30は、それぞれ、本明細書の配列表の配列番号:8~13に記載の塩基配列からなるDNAから転写されるmRNAの塩基配列である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0062】
1.系統と飼育
組換えカイコの作出には白眼、白卵で非休眠であるw1pnd系統を使用した。カイコの飼育は人工飼料(日本農産工業、原種用)を用い、25℃で飼育した。
2.mRNA合成のためのプラスミド
【0063】
プラスミドpBSII-IFP2-orf(図1A、配列番号:14)はM.Frazer(http://piggybac.bio.nd.edu/)から入手した。また、プラスミドpGEMe-pigORF-p(A)90(図1B、配列番号:15)は以下の方法で作成した(図2)。すなわち、プラスミドpHA3PIG(Tamura et al. 2000)を鋳型とし、2種類のプライマー、5'-CCCGGGTAAAACAAAATGGGATGTT-3'(プライマー1、配列番号:17)と5'- ACTAGTTGTTTATTTATTTATTAAAAAA-3'(プライマー2、配列番号:18)を用いて、TaKaRa LA Taq (TaKaRa)によるPCRを行い、piggyBacの転移酵素の ORF部分を増幅した。PCRの反応条件は、96℃で10秒処理後、94℃5秒、55℃30秒、68℃3分を5サイクル、94℃1分、55℃10秒、68℃2分を25サイクル、その後68℃5分である。PCRにより増幅したDNA断片は直接プラスミドpGEM-T Easy (Promega)にクローニングした。このプラスミドから制限酵素EcoR IとBgl IIにより切り出したDNA断片並びに同じくPst IとSpe Iにより切り出した3'側約600bpのDNA断片、さらにプラスミドpHA3PIG(Tamura et al. 2000)より制限酵素Bgl IIとPst Iで処理することにより切り出したDNA断片を、プラスミドpBluescriptII SK-(Stratagene)のEcoR IとSpe Iサイトの間に組み込むことによって、プラスミドpBS-pigORFを作製した。次に、30 merの oligodTと30 merの oligodAをプライマー兼鋳型として94℃で1分処理後、94℃1秒、55℃5秒、72℃、90秒で30サイクル後、72℃、2分のPCRを行い、反応物であるDNAをエタノールで沈殿させた。沈殿したDNAを蒸溜水で溶解した後、T4 ポリメラーゼによってDNAの末端を平滑化した後、ligationを行った。次いで、得られたDNAをEx-Taq ポリメラーゼ(TaKaRa)で72℃10分の反応を行うことによりA-tailを付加し、これをプラスミドpGEM-T Easy (Promega)にクローニングしてプラスミドpGEMe-p(A)90を作出した。作出したプラスミドに挿入した断片は、シークエンシングとアガロース電気泳動の結果より、約90bpのポリA配列であることを確認した。次にプラスミドpGEMe-p(A)90をEcoT22 I消化した後、T4ポリメラーゼによって平滑化処理し、さらに制限酵素Spe Iで消化を行った。消化後のプラスミドDNAに、先に作製したプラスミドpBS-pigORFを制限酵素Sma IとSpe Iで処理し、切り出されるpiggyBacの転移酵素のORFを含むDNA断片を組み込むことによってプラスミドpGEMe-pigORF-p(A)90を作製した。
【0064】
ここで、図2のプラスミドは、カイコの生体内でmRNAから転移酵素が効率良く作られるようにするため、2つの工夫が加えられている。
一つ目の工夫は翻訳開始点上流の塩基配列である。既に知られているカイコの遺伝子について、転写開始点上流の配列を比較した結果、塩基配列WAAWNMAAA(MはA又はC;NはA,T,G又はC;WはT又はA、配列番号:7)が共通配列として各遺伝子に存在することが明らかとなった。このことから、この共通配列はカイコ体内でmRNAからタンパク質を合成するために重要な配列であると推測された。また、カイコの細胞で発現量が高いことが知られているβチューブリン遺伝子では、この共通配列に相当するTAAAACAAA(配列番号:8)を翻訳開始点の上流領域に持っていた。そこで、このβチューブリン遺伝子のTAAAACAAAがトランスポゾンpiggyBacの転移酵素遺伝子の翻訳開始点の上流領域配列になるように遺伝子を合成し、この配列を持つmRNAを合成するプラスミドを作製した(図2)。
【0065】
2つ目の工夫は、mRNAの安定化を目的として、3’UTR下流にpoly(A)断片を付加するための配列をプラスミドに挿入したことである。この配列はPCRによりpoly(A)断片の合成を行い、プラスミドに挿入された(図2)。
3.in vitroでの mRNA合成
【0066】
プラスミドpBSII-IFP2-orfとpGEMe-pigORF-p(A)90の精製は、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN )を用いて行った。精製されたプラスミドDNA 4μgを制限酵素Not Iで消化し、フェノール/クロロホルム処理後、エタノール沈殿を行い、沈殿を10mM Tris(pH8.0)/1mM EDTAの緩衝液に溶かした。このうちの1μgを鋳型として、mMESSAGE mMACHINETM(Ambion)によりmRNAの合成をin vitroで行い、精製した。得られた水溶液中のmRNAを定量後、エタノール沈殿を行い、注射用の緩衝液に溶かした。保存は-80℃で行った。
4.組換えカイコの作出
【0067】
組換えカイコの作出は、産卵直後の卵にベクターとmRNAの混合液を注射することにより行った(Tamura et al. 2000)。ベクターには200μg/mlのpBac3xP3DsRed (Inoue et al. 2005);図1D、配列番号:16)を、ヘルパーmRNAとしては、100μg/mlの濃度のpBSII-IFP2-orfまたは pGEMe-pigORF-p(A)90から合成したmRNAを用いた。比較のため、従来のヘルパープラスミドpHA3PIGをベクタープラスミド(200μg/ml)に200μg/mlの濃度で混ぜたものを使用した。卵への注射は、Tamura et al. (2000)にしたがって行った。組換えカイコのスクリーニングはInoue らの方法(Inoue et al. 2005)によって行った。

【0068】
組換えカイコの作出方法を図3に示した。即ち、これらのプラスミドを精製し、制限酵素Not Iで切断することにより線状のDNAを作り、このDNAをテンプレートとして市販のin vitro mRNA合成キットを用いることにより、トランスポゾンpiggyBacの転移酵素のmRNAを得た。また、ベクターやヘルパープラスミドについての市販の精製キットで精製し、注射用の溶液を作製した。作製した3種類の溶液をカイコの発生初期の卵に注射し、次世代における組換え個体の出現率を、DsRedの発現により調べた(図3)。その結果、表1に示したようにプラスミドpBSII-IFP-orf2を鋳型として合成されたmRNAをヘルパーとした用いた場合では26%の雌蛾が組換え体を含む卵を産卵した。新しく作出したプラスミドpGEMe-pigORF-p(A)90を鋳型として合成されたmRNAを用いた場合では44%の雌蛾が組換え個体を含む卵を産卵した(表1)。一方、これまでのヘルパープラスミドを用いて同じ実験を行った結果では、従来通り、11.6%の雌蛾が組換えカイコを含む卵を産卵した。以上の結果は、ヘルパーとしてプラスミドDNAの代わりに転移酵素のmRNAを用いることにより、組換えカイコの作出効率が上がることを示している。ヘルパーとしてプラスミドDNAを用いた例と比較して、プラスミドpBSII-IFP2-orfを鋳型として合成されたmRNAを用いた場合では約2倍に、新しく作出したプラスミドpGEMe-pigORF-p(A)90を用いた場合では約4倍効率が高くなることが分かった。
【0069】
【表1】
JP0005240699B2_000002t.gif
*1:ベクターDNA(200ng/μl)と合成mRNA(100ng/μl)からなる注射溶液を用いた。
*2:ベクターDNA(200ng/μl)とヘルパープラスミドDNA、pHA3PIG(200ng/μl)からなる注射溶液を用いた。
【0070】
似た例として、piggyBacとは別のトランスポゾン(全く別の属のトランスポゾン)Minosにおいても、プラスミドDNAの代わりに転移酵素のmRNAを用いることによって、組換え体の作出効率が上がることが報告されている。Minosを用いた例では、ヘルパープラスミドの代わりにMinosの転移酵素のmRNAを卵に注射することにより、2~数倍の効率の向上が報告されている(Kapetanaki et al. 2002; Pavlopoulos et al. 2004)。
【0071】
これまでに、トランスポゾンpiggyBacでもヘルパープラスミドの代わりにmRNAを用いることにより、組換え個体の作出効率を上げる試みが行われているが、効率が上がった例は無く、今回が初めての例である。今回の実験では、mRNAの翻訳開始点の上流にカイコで大量に発現している遺伝子の配列を加え、3’末端に強制的にpolyA配列をつけるプラスミドを作製し、このmRNAを用いることにより、効率が上がることが分かった。これらのことから、本実験で新しく開発された手法は、効率的な組換えカイコの作出法として有効であると結論される。

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】組換えカイコの作出に用いたプラスミドの構造を示す図である。A~Dはそれぞれ、A;mRNA合成に用いたプラスミド(pBSII-IFP2-orf)、B;mRNA合成のため新たに作出したプラスミド(pGEMe-pigORF-p(A)90)、C;ヘルパープラスミド(pigA3helper)、D;ベクタープラスミド(pBac3xP3DsRed)である。
【図2】プラスミドpGEMe-pigORF-p(A)90の作出過程のフローチャートを示す図である。図中、(a)はプライマー1とプライマー2で増幅されるDNA断片をプラスミドpGEM-T Easyに挿入する工程、(b)はプラスミドpGEM-T Easyに挿入する工程、(c)はプラスミドpBluescriptに挿入する工程を意味する。
【図3】(A)mRNAを利用した組換えカイコの作出方法を示す図である。(B)図3(A)に記載の方法によって作出された組換え体を示す写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2