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明細書 :新規オルトジホウ素化アレーン化合物及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4734571号 (P4734571)
公開番号 特開2008-044893 (P2008-044893A)
登録日 平成23年5月13日(2011.5.13)
発行日 平成23年7月27日(2011.7.27)
公開日 平成20年2月28日(2008.2.28)
発明の名称または考案の名称 新規オルトジホウ素化アレーン化合物及びその製造方法
国際特許分類 C07F   5/02        (2006.01)
B01J  31/22        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07F 5/02 CSPC
B01J 31/22 Z
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2006-222447 (P2006-222447)
出願日 平成18年8月17日(2006.8.17)
審査請求日 平成21年6月23日(2009.6.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】吉田 拡人
【氏名】岡田 賢悟
【氏名】大下 浄治
【氏名】九内 淳堯
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】高橋 直子
参考文献・文献 特表2002-529471(JP,A)
特表2003-512382(JP,A)
国際公開第03/006403(WO,A1)
特開2005-171258(JP,A)
Matthew H. Todd, et al.,Studies on the Synthesis, Characterisation and Reactivity of Aromatic Diboronic Acids,Tetrahedron Letters,1997年,vol.38, No.38,p.6781-6784
Tatsuo Ishiyama, et al.,Synthesis of Arylboronates via the Palladium(O)-Catalyzed Cross-Coupling Reaction ofTetra(alkoxo)dib,Tetrahedron Letters,1997年,Vol. 38, No. 19,p.3447-3450
Tatsuo Ishiyama, et al.,Palladium(0)-Catalyzed Cross-Coupling Reaction of Alkoxydiboronwith Haloarenes: A Direct Procedure f,Journal of Organic Chemistry,1995年,vol.60,p.7508-7510
調査した分野 C07F 5/02
C07B 61/00
B01J 31/22
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物とホウ素-ホウ素結合を有するジボロン化合物とを、求核試薬及び白金触媒の存在下にて反応させる工程を有し、
上記ジボロン化合物は、ピナコールジボロンであり、
上記求核試薬は、フッ化物イオンを発生させる試薬であることを特徴とするオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【化1】
JP0004734571B2_000008t.gif
(式中、Xは、シリル、炭素数3~13のトリアルキルシリル、アリールジアルキルシリル、ジアリールアルキルシリルを示し、Yは脱離基を示し、R~Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1~8のアルキル(環状アルキルであってもよい)、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル、ハロ、アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、ジアリールアミノ、ジベンジルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオから選択される有機基を示す。)
【請求項2】
上記一般式(1)中の置換基Yは、下記化学式(2)で表される有機基であることを特徴とする請求項1に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【化2】
JP0004734571B2_000009t.gif

【請求項3】
上記試薬は、フッ化カリウム(KF)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【請求項4】
上記白金触媒の配位子(リガンド)は、下記化学式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【化3】
JP0004734571B2_000010t.gif

【請求項5】
下記一般式(4)で表されることを特徴とするオルトジホウ素化アレーン化合物(ただし、オルトジホウ素化ベンゼンは除く)。
【化4】
JP0004734571B2_000011t.gif
(式中、R~Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1~8のアルキル(環状アルキルであってもよい)、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル、ハロ、アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、ジアリールアミノ、ジベンジルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオから選択される有機基を示す。)
【請求項6】
下記の化合物群(5)のいずれかであることを特徴とするオルトジホウ素化アレーン化合物。
【化5】
JP0004734571B2_000012t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規オルトジホウ素化アレーン化合物及びその製造方法に関し、より詳細には、新規及び既知の有機分子を合成するのに特に有用であり、医薬、農薬、殺虫剤、及び他の工業製品に有用な有機化合物の合成のための有用な中間体及び構成単位となり得る新規オルトジホウ素化アレーン化合物及び当該化合物を効率的に製造するための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、芳香族化合物、特に芳香族ホウ素化合物(以下、ホウ素化アレーン化合物とも称する)は、医薬、農薬工業、及び種々の工業製品にとって重要な化合物である。これらの化合物の数多くは医薬活性や殺虫活性を有することが知られており、また他のものもエレクトロニクス材料や写真フィルム原料等の工業原料やその中間体などに幅広く利用されている。このため、既知の化合物以外にも種々の新規なホウ素化アレーン化合物の開発が求められており、また既知の化合物についてもより効率的な合成方法の開発が求められている。
【0003】
このような産業上非常に有用なホウ素化アレーン化合物のなかでも、芳香環のオルト位がジホウ素化されたオルトジホウ素化アレーン化合物は合成が難しく、これまでオルトジホウ素化ベンゼンが知られているにすぎない。
【0004】
例えば、特許文献1には、(i)ハロゲン又はハロゲン類似置換基をビニル置換位置に有するオレフィン化合物、又は(ii)ハロゲン又はハロゲン類似置換基を環置換位置に有する芳香族環を、二置換モノヒドロボランと、第8~11族金属触媒の存在下で反応させることからなる硼酸アリール又はアルケンの合成方法が開示されている。特に、実施例50に、1-ブロモ-2-ヨードベンゼンとピナコールボランとを用いて、パラジウム触媒カップリング反応により、オルトジホウ素化ベンゼンを合成する技術が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、オルトジブロモベンゼンとピナコールボランとを用いた電解還元反応により、オルトジホウ素化ベンゼンを合成する技術が開示されている。

【特許文献1】特表2002-529471(公表日:平成14(2002)年9月10日)
【非特許文献1】C. Laza, C. Pintaric, S. Olivero, E. Dunach, “Electrochemical reduction of polyhalogenated aryl derivatives in the presence of pinacolborane: Electrosynthesis of functionalised arylboronic esters”, Electrochimica Acta 50 (2005) 4897-4901
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術では、十分なオルトジホウ素化アレーン化合物を得ることができなかった。
【0007】
具体的には、上記特許文献1には、オルトジホウ素化ベンゼンは2-ブロモフェニルピナコールボランとの混合物として得られることが記載されているにすぎず、その収率についても全く記載されていない。さらにいえば、そもそも特許文献1の目的は、オルトジホウ素化ベンゼンを取得することではない。これらの点から、オルトジホウ素化ベンゼンはあくまで副生成物として取得された感は否めない。このため、特許文献1の技術は、オルトジホウ素化ベンゼンを取得するための効率的な技術とは言い難い。
【0008】
また、上記非特許文献1には、オルトジホウ素化ベンゼンの収率が20%と低いうえに、34%のフェニルピナコールボランとの混合物として得られる旨が記載されている。この記載から、非特許文献1に開示の技術も選択性に乏しく、オルトジホウ素化ベンゼンを得るための好ましい技術とはいえない。
【0009】
さらにいえば、上記文献はいずれも、オルトジホウ素化ベンゼンの合成手法のみを開示するものであり、その他のオルトジホウ素化アレーン化合物の作製方法については一切開示も示唆もされていない。
【0010】
それゆえ、オルトジホウ素化ベンゼンについて、より効率的な合成技術の開発が求められていた。さらに、オルトジホウ素化ベンゼンだけでなく、全く新規なオルトジホウ素化アレーン化合物の開発も強く望まれていたといえる。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、産業上有用なオルトジホウ素化アレーン化合物の効率的な製造方法及び新規なオルトジホウ素化アレーン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、オルト位にケイ素の置換基と優れた脱離基(例えば、“-OTf基”等)を有する芳香族化合物とピナコールボロン化合物とを、求核試薬及び白金触媒の存在下にて反応させることにより、優れた選択性と収率にてオルトジホウ素化アレーン化合物を合成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明に係る発明は、以下の発明を包含する。
【0013】
1)下記一般式(1)で表される化合物とホウ素-ホウ素結合を有するジボロン化合物とを、求核試薬及び白金触媒の存在下にて反応させるオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【0014】
【化1】
JP0004734571B2_000002t.gif

【0015】
(式中、Xは、シリル、炭素数3~13のトリアルキルシリル、アリールジアルキルシリル、ジアリールアルキルシリルを示し、Yは脱離基を示し、R~Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1~8のアルキル(環状アルキルであってもよい)、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル、ハロ、アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、ジアリールアミノ、ジベンジルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオから選択される有機基を示す。)
2)上記一般式(1)中の置換基Yは、下記化学式(2)で表される有機基である1)に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【0016】
【化2】
JP0004734571B2_000003t.gif

【0017】
なお、上記化学式(2)の化合物を以下、(-OTf基)とも称する場合がある。
【0018】
3)上記求核試薬は、フッ化物イオンを発生させる試薬である1)に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【0019】
4)上記試薬は、フッ化カリウム(KF)である3)に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【0020】
5)上記白金触媒の配位子(リガンド)は、下記化学式(3)で表される化合物である1)に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【0021】
【化3】
JP0004734571B2_000004t.gif

【0022】
6)上記ジボロン化合物は、ピナコールジボロンである1)に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法。
【0023】
7)下記一般式(4)で表されるオルトジホウ素化アレーン化合物(ただし、オルトジホウ素化ベンゼンは除く)。
【0024】
【化4】
JP0004734571B2_000005t.gif

【0025】
(式中、R~Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1~8のアルキル(環状アルキルであってもよい)、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル、ハロ、アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、ジアリールアミノ、ジベンジルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオから選択される有機基を示す。)
8)上記一般式(4)で表される化合物は、下記の化合物群(5)のいずれかである7)に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物。
【0026】
【化5】
JP0004734571B2_000006t.gif

【発明の効果】
【0027】
本発明に係るオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法は、上述した構成を有するゆえに、様々なオルトジホウ素化アレーン化合物を単一の生成物として得ることができ、その選択性は極めて高く、また収率も良好であるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明に係るオルトジホウ素化アレーン化合物は、これまでにない新規な化合物であり、医薬品や農薬、その他の種々の工業製品といった生理活性物質や機能物質の合成のための有用な中間体及び構成単位となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<本発明の基本原理>
最初に、本発明の理解の一助とすべく、本発明に関する基本原理について、図1に示す具体例を挙げて説明する。なお、本発明は以下に説明する基本原理やその具体例に限定されるものではなく、本明細書の開示並びに技術水準に基づいて適宜変更可能な範囲まで含まれるものである。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態であり、オルトジホウ素化アレーン化合物の合成反応の一例を示す図である。同図に示すように、芳香環のオルト位に(-SiMe)基と(-OTf)基とを有する化合物Aとピナコールジボロンとを、フッ化カリウム(KF)及び白金触媒の存在下で反応させ、オルトジホウ素化アレーン化合物を取得するという反応である。この反応を詳細に考察すると以下の通りである。
【0031】
まず、フッ化カリウムから生成したフッ化物イオン(F)は、ケイ素との親和性が極めて高い。このため、フッ化物イオンは、化合物Aの有するケイ素原子に求核的にアタックする。その結果、芳香環において、もともとケイ素が存在していた位置にアニオン種が生成する。上記アニオン種が発生すると、芳香環において隣り合う位置に存在する(-OTf)基は優れた脱離基であるため、発生したアニオン種が、この(-OTf)基を芳香環から脱離させる。
【0032】
上述のように(-OTf)基が脱離すると、芳香環の炭素-炭素2重結合の1つが、炭素-炭素3重結合となった化合物が生成する。この化合物は、ベンザイン又はアラインと称されるものであり、反応性が極めて高い。このため、単離することができず、反応系内において反応中間体として発生するものである。
【0033】
次いで、このベンザインの3重結合に対して、白金触媒の存在下、ホウ素-ホウ素結合を持ったピナコールジボロンを作用させることにより、ホウ素-ホウ素の単結合(シグマ結合)の間に、炭素-炭素3重結合が挿入される。その結果、芳香環において、当初に(-SiMe)基と(-OTf)基とが存在した位置がジボロン化される。そして、オルトジホウ素化アレーン化合物(1,2-bis(4,4,5,5-tetramethyl-1,3,2-dioxaborolan-2-yl)arenes)が得られる。
【0034】
この反応で得られる生成物はほぼ単一であり、その選択性は極めて高い。そして収率も良好である。このため、上記合成方法は、オルトジホウ素化アレーン化合物類の選択的合成を指向したものであるといえる。
【0035】
以下、上述した本発明の基本原理に基づいて、本発明の一実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではないことを改めて付言しておく。
【0036】
<オルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法>
本発明に係るオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法は、上記一般式(1)で表される化合物とホウ素-ホウ素結合を有するジボロン化合物とを、求核試薬及び白金触媒の存在下にて反応させる工程を含んでいればよく、その他の工程、原料、合成条件、触媒、使用機器等の具体的な構成については、特に限定されるものではない。
【0037】
上記一般式(1)中、置換基Xはシリル基又はその誘導体であればよく、その具体的な構成については特に限定されない。換言すれば、上記求核試薬のアタックにより、芳香環においてアニオン種を発生させることができるようなシリル基又はその誘導体であればよいといえる。具体的には、置換基Xは、シリル、炭素数3~13のトリアルキルシリル、アリールジアルキルシリル、ジアリールアルキルシリルであることが好ましい。例えば、後述する実施例では、-SiMe基を用いている。後述する実施例に示すように、置換基Xとして(-SiMe基)を用いることにより、効率よくオルトジホウ素化アレーン化合物を得ることができる。なお、置換基Xは上述の(-SiMe基)に限定されるものではない。つまり、当業者にとって、本明細書に開示の技術思想に基づいて、様々な従来公知の置換基を好適に利用することができる。
【0038】
上記一般式(1)中、置換基Yは脱離基であればよい。より詳細には、置換基Yは、当該反応条件下において、アニオン種の発生により容易に脱離されるものであればよく、その具体的な構成については特に限定されるものではない。つまり、上記の機能を有する脱離基として、当業者が適宜利用可能な様々な従来公知の脱離基を利用することができる。例えば、上記置換基Yとしては、上記化学式(2)で表される(-OTf)基を挙げることができる。上記(-OTf)基は、本反応において優れた脱離性能を発揮するものであり、特に好適に用いることができる。
【0039】
上述の基本原理に示すように、オルトジホウ素化アレーン化合物を製造するためには、上記一般式(1)で表される化合物は、上記置換基Xと置換基Yとを隣り合う位置、すなわちオルト位に有するものであればよく、その他の芳香環上の置換基は、特に限定されるものではない。例えば、上記一般式(1)中、R~Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1~8のアルキル(環状アルキルであってもよい)、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル、ハロ、アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、ジアリールアミノ、ジベンジルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオから選択される有機基を示すものであることが好ましい。
【0040】
上記一般式(1)中、R~Rを適宜変更することにより、様々なオルトジホウ素化アレーン化合物を取得することができる。
【0041】
また、上記一般式(1)において、置換基Xが(-SiMe)基であり、置換基Yが(-OTf)基であり、R~Rがそれぞれ水素で表される化合物は市販されている(例えば、アルドリッチ社製の 2-(trimethylsilyl)phenyl trifluoromethanesulfonate)。その他の化合物の場合は、例えば、市販されている化合物から合成することにより、容易に取得することができる。例えば、フェノールにハロゲンを導入し、その後2~3段階の工程を得ることにより、様々な出発物質を容易に合成できる(例えば、Journal of the american chemical society, 121 (1991) 5827; Synthesis,(2002) 1454 など参照)。
【0042】
なお、本発明者らは、後述する実施例に示すように、様々な置換基を有するオルトジホウ素化アレーン化合物を合成することに成功している。それゆえ、上記置換基Xと置換基Y以外の置換基はどのようなものでも構わず、当業者であれば、本明細書の記載内容に基づくことにより本明細書に開示した範囲の様々なバリエーションのオルトジホウ素化アレーン化合物を合成できることは明らかである。
【0043】
また、上記求核試薬としては、置換基Xが有するケイ素原子に対して求核的にアタックできる求核試薬であればよい。つまり、上述の機能を有する従来公知の求核試薬を用いることができ、その具体的な構成については特に限定されるものではない。なかでも、上記求核試薬としては、フッ化物イオンを発生させる試薬であることが好ましい。フッ化物イオンは、置換基Xが有する“ケイ素原子”と親和性が高いため、優れた求核試薬として機能することができるためである。具体的な例示としては、例えば、上記求核試薬として、フッ化カリウム(KF)を挙げることができる。なお、フッ化カリウムを求核試薬として用いる場合、反応の促進のために、クラウンエーテル(18-crown-6)等を添加することが好ましい。クラウンエーテルは、フッ化カリウム由来のカリウムイオン(K)を取り込み、フッ化物イオンの生成を促進させるために用いる。
【0044】
上記白金触媒は、上述したように、ベンザインの炭素-炭素3重結合と、ジボロン化合物のホウ素-ホウ素結合とを反応させるための白金触媒であればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。また、白金触媒の配位子(リガンド)としては、本発明の目的に合うものであれば限定されないが、特に、上記化学式(3)で示すイソシアニドを用いることが好ましい。
【0045】
また、上記ジボロン化合物は、ホウ素-ホウ素の単結合を有するジボロン化合物であればよく、その具体的な構成については特に限定されない。例えば、下記の化学式で表されるピナコールジボロンを用いることが好ましい。

【0046】
【化6】
JP0004734571B2_000007t.gif

【0047】
なお、上記ピナコールジボロンは市販されているため、原料調達の面からも優れている(アルドリッチ社製や和光純薬社製のビス(ピナコラート)ジボロン等)。
【0048】
上述した以外の原料、溶媒、添加剤、使用機器等については、特に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、従来公知の溶媒や合成機器を適宜設定可能である。溶媒としては、例えば、エーテル系のものが好ましい。具体的には、実施例で用いているジメトキシエタン(DME)のほか、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0049】
また、本発明の合成の反応条件についても、特に限定されるものではなく、当業者であれば本明細書の記載に基づき、本発明の範囲内において適宜設定可能である。例えば、実施例に示すように、溶媒としてDMEを用いた場合、80℃で反応させることができる。また、上述した各材料(出発物質、触媒、添加物、溶媒等)の使用量についても当業者が適宜設定できるものであり、特に限定されるものではない。
【0050】
以上のように、本発明に係るオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法によれば、出発物質を適宜変更することにより、様々なオルトジホウ素化アレーン化合物を製造することができる。また、本製造方法では、ほぼ単一の生成物として得ることができ、その選択性は極めて高いといえる。さらに収率も良好である。したがって、本発明に係るオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法は、非常に有用な発明であるといえる。
【0051】
<オルトジホウ素化アレーン化合物>
本発明には、上述したオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法だけでなく、本発明者らによって新たに合成されたオルトジホウ素化アレーン化合物も含まれる。すなわち、本発明に係るオルトジホウ素化アレーン化合物は、上記一般式(4)で表されるオルトジホウ素化アレーン化合物であればよい。ただし、オルトジホウ素化ベンゼンは除く。
【0052】
なお、一般式(4)中、R~Rは、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素、炭素数1~8のアルキル(環状アルキルであってもよい)、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、及びヘテロアリールアルキル、ハロ、アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、ジアリールアミノ、ジベンジルアミノ、アルキルチオ、ベンジルチオから選択される有機基を示すものであることが好ましい。
【0053】
さらにいえば、本発明に係る化合物は、上記化学式群(5)に表される化合物のうち、いずれかであることが好ましい。
【0054】
なお、オルトジホウ素化ベンゼンが公知であるが、この物質を出発物質として、上記一般式(4)に示す化合物又は上記化学式群(5)に示す化合物を合成することは、たとえ当業者といえども容易なことでない。なぜなら、オルトジホウ素化ベンゼンを出発物質として用いる場合、置換基の位置選択性を持たせることは非常に困難といえるためである。したがって、たとえオルトジホウ素化ベンゼンが公知であったとしても、上記一般式(4)に示す化合物、特に、上記化学式群(5)に示す化合物を、選択性をもって合成することは容易ではない。この点から本発明に係る化合物は、十分に進歩性を有するといえる。
【0055】
上述した化合物は、新規及び既知の有機分子を合成するのに特に有用であり、医薬、殺虫剤、及び他の有用な有機化合物の合成での用途を有する。これらの化合物は、有機合成のための有用な中間体及び構成単位となり、結合化学(combinatorial chemistry)において非常に有用である。
【0056】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0057】
図1に本実施例における反応の概要と反応条件を示した。図1に示すように、出発物質として、芳香族化合物とピナコールジボロンを1.5:1の割合で反応させた。
【0058】
原料としても用いた芳香族化合物は、置換基“R”が水素のものが市販されており、オルトジホウ素化ベンゼンを合成するためには、この市販品を用いた(アルドリッチ社製の 2-(trimethylsilyl)phenyl trifluoromethanesulfonate)。
【0059】
また、置換基“R”が水素以外のオルトジホウ素化アリール化合物を合成するための出発物質としての芳香族化合物は、Journal of the american chemical society, 121 (1991) 5827; Synthesis,(2002) 1454 等の文献にしたがって合成した。
【0060】
また、原料として用いたピナコールボランは、市販品を用いた(ビス(ピナコラート)ジボロン(アルドリッチ社製))。
【0061】
また、求核試薬としてフッ化カリウム(和光純薬社製フッ化カリウム(スプレードライ品)、を3等量、クラウンエーテル(和光純薬社製 18-クラウン-6)を3等量用い、さらに触媒としてPt(dba)(文献「丸善第4版実験化学講座 18 巻、420 頁」にしたがって合成)を5mol%、配位子としてイソシアニド(文献:Organic Letters 5 (2003) 901にしたがって合成)を25mol%用いた。溶媒はDME(和光純薬社製 1,2-ジメトキシエタン)を用い、反応温度は80℃で合成反応を行った。
【0062】
上記反応により得られた化合物と収率、反応時間を図2に示す。
【0063】
図2に示すように、合計10種類の化合物を得ることができた。これらの化合物は43%~56%の収率で得られた。この結果より、本実施例に記載のオルトジホウ素化アレーン化合物の製造方法によれば、様々なオルトジホウ素化アレーン化合物を合成することができることがわかった。さらに、本反応によれば、ほぼ単一の生成物として得ることができ、その選択性は極めて高く、また収率も良好であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明によれば、新規及び既知の有機分子を合成するのに特に有用であり、医薬、農薬、殺虫剤、及び他の工業製品に有用な有機化合物の合成のための有用な中間体及び構成単位となり得る新規オルトジホウ素化アレーン化合物を得ることができる。それゆえ、医薬、農薬、殺虫剤、及び他の工業製品等の広範な分野において産業上の利用可能性が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施例における反応の概要と反応条件を示す図である。
【図2】本実施例における反応により得られた化合物と収率、反応時間を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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