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明細書 :金属薄膜を用いた溶存水素センサ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4714825号 (P4714825)
公開番号 特開2006-242644 (P2006-242644A)
登録日 平成23年4月8日(2011.4.8)
発行日 平成23年6月29日(2011.6.29)
公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
発明の名称または考案の名称 金属薄膜を用いた溶存水素センサ
国際特許分類 G01N  27/12        (2006.01)
FI G01N 27/12 C
G01N 27/12 B
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2005-056498 (P2005-056498)
出願日 平成17年3月1日(2005.3.1)
審査請求日 平成20年2月4日(2008.2.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】井上 明久
【氏名】山浦 真一
【氏名】木村 久道
【氏名】吉田 肇
個別代理人の代理人 【識別番号】100098729、【弁理士】、【氏名又は名称】重信 和男
【識別番号】100097582、【弁理士】、【氏名又は名称】水野 昭宣
【識別番号】100116757、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 英雄
【識別番号】100123216、【弁理士】、【氏名又は名称】高木 祐一
【識別番号】100089336、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 佳直
審査官 【審査官】柏木 一浩
参考文献・文献 特開2004-125513(JP,A)
特開2002-071611(JP,A)
特開平05-232082(JP,A)
特開2004-028749(JP,A)
特開昭60-042647(JP,A)
特開平01-094253(JP,A)
特表2004-519683(JP,A)
特開平07-113784(JP,A)
調査した分野 G01N 27/12
特許請求の範囲 【請求項1】
溶存水素の吸蔵及び放出により可逆的に物性値が変化する金属材料である水素感応体をセンサ素子とし、当該センサ素子の物性値変化を計測することにより、水中に溶け込んでいる溶存水素の有無あるいは濃度を検出することを特徴とする溶存水素センサであり、該溶存水素センサにおいて、下記の組成式:
Pd100-xMx
( M = Ni, Pt, Au; 0 ≦ x ≦ 50 at% )
で表されるPd金属又はPd-M合金をセンサ素子作製時の適切な加熱、あるいは該合金又はPd金属をセンサ素子作製時の適切な加熱及びその後の焼鈍熱処理を施し、平均結晶粒径を30nm以上に制御することによって微量水素への感受性を高めた金属材料水素感応体をセンサ素子とすることを特徴とする溶存水素センサ。
【請求項2】
前記金属材料水素感応体の電気抵抗値あるいは交流インピーダンスの変化に基づいて水中の微量水素を検出することを特徴とする請求項1に記載の溶存水素センサ。
【請求項3】
前記金属材料が薄膜材料であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の溶存水素センサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一に記載の溶存水素センサを含むセンサ手段と、前記センサ素子の物性値の変化を検出する検出手段とを備えることを特徴とする溶存水素検出器。
【請求項5】
溶存水素の吸蔵及び放出により可逆的に物性値が変化する金属材料である水素感応体をセンサ素子とし、当該センサ素子の物性値変化を計測することにより、水中に溶け込んでいる溶存水素の有無あるいは濃度を検出することを特徴とする溶存水素センサを含むセンサ手段と、前記センサ素子の物性値の変化を検出する検出手段とを備えることを特徴とする溶存水素検出器であって、当該溶存水素検出器において、センサ素子における溶存水素感応部を除く全面を樹脂を含めたコーティング材を用いて被覆し、感応部のみを水中に露出することにより、溶存水素検出器の水中での使用を可能としたことを特徴とする溶存水素検出器。
【請求項6】
該溶存水素センサにおいて、下記の組成式:
Pd100-xMx
( M = Ni, Pt, Au; 0 ≦ x ≦ 50 at% )
で表されるPd金属又はPd-M合金をセンサ素子作製時の適切な加熱、あるいは該合金又はPd金属をセンサ素子作製時の適切な加熱及びその後の焼鈍熱処理を施し、平均結晶粒径を30nm以上に制御することによって微量水素への感受性を高めた金属材料水素感応体をセンサ素子とすることを特徴とする溶存水素センサであることを特徴とする請求項5に記載の溶存水素検出器。
【請求項7】
前記金属材料水素感応体の電気抵抗値あるいは交流インピーダンスの変化に基づいて水中の微量水素を検出することを特徴とする請求項5又は6のいずれかに記載の溶存水素検出器。
【請求項8】
該溶存水素センサにおいて、前記金属材料が薄膜材料であることを特徴とする請求項5~7のいずれか一に記載の溶存水素検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に溶け込んでいる溶存水素検出・測定のための溶存水素センサ、並びに溶存水素センサを備えた溶存水素検出器、さらには溶存水素の吸蔵及び放出により可逆的に物性値が変化する金属材料である水素感応体に関する。本発明は、さらに溶存水素に対する水素感応体の可逆的に物性値が変化するのを利用して溶存水素を検出・測定する技術・手段に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新しい健康増進法としてアルカリイオン水が脚光を浴びている。アルカリイオン水・機能水は現在、医療用具として承認を受けており、その効能としては、飲用して慢性下痢、消化不良、胃腸内異常発酵、胃酸過多等の消化器系の諸症状の緩和に有効であるとされている。上記アルカリイオン水の健康増進効果・医療効果は、水中に溶け込んでいる水素ガス(溶存水素)が要因であると考えられており、今後アルカリイオン水・溶存水素に対する医学的知識が深まれば、次の段階として、水中の溶存水素濃度の測定・制御が重要な技術となるであろう。
【0003】
燃料電池・水素エネルギーへの関心の高まりから、気相中の水素ガスを検知するための水素ガスセンサの研究・開発は従来から盛んに行われている。こうした気相中の水素濃度を検出するための水素センサとしては、感応部の電気抵抗値変化を利用する形式のものが知られているが、それは感応部が半導体材料を備え、その半導体表面へのガスの吸着や反応によって半導体素子の電気抵抗が変化し、これを検出するというものである。この場合、センサ部に水蒸気等の不純物が付着したり反応したりすると、肝心の電気抵抗に変化を生じてしまうという問題があり、水素ガス以外に起因する抵抗変化を生じないようにするため、センサ部を加熱するなどの必要があった(特許文献1及び2参照)。
水中の溶存水素濃度の測定に関しては、気相中の水素を検出する場合と異なり、共存する水が導電体であることから来る問題点を解決しながら、水素のみを検出することが必要となる。また、そもそもアルカリイオン水・機能水の医療効果が報告され関心が高まり始めてからまだ10年程度しか経っておらず、溶存水素検知方法の研究開発はほとんど行われておらず、唯一実用化されている隔膜型ポーラログラフ式溶存水素センサが存在するのみである。
【0004】
現在、溶存水素濃度を検出するセンサ機器としては、隔膜型ポーラログラフ式の溶存水素センサが唯一実用化されている。これには、例えば東亜DKK社製溶存水素計DHDI-1がある。これは気体透過性の隔膜を使用し、この隔膜を通して水素を電解液中に浸透・拡散させて、電解液中のアノード-カソード間に水素ガスの酸化反応に起因する電流を生じさせ、その電流値から溶存水素濃度を求めるというものである(特許文献3参照)。
しかしながら、この溶存水素計の場合、長期間の使用による隔膜・電解液の劣化が著しく、また、装置が比較的大型であり、小型化し難いという問題点がある。
また、水素吸蔵性の単体金属、水素吸蔵性の合金でもって水素を含む気相と接触することにより電気抵抗変化を生じる感応部を形成した水素センサ並びにナノカーボン材料、水素吸蔵性の単体金属、水素吸蔵性の合金から選択される材料でもって水素が溶存している液相と接触することにより電気抵抗変化を生じる感応部を形成した水素センサも提案されている(特許文献4参照)が、そこで具体的に示されている材料は、水素吸蔵性の単体金属としては、Ti等が挙げられること、水素吸蔵性の合金としては、Ni0.64Zr0.36、LaNi5等の水素吸蔵合金が挙げられること、そしてナノカーボン材料は、代表的なものとしてフラーレンやカーボンナノチューブが挙げられ、ナノカーボン材料にて形成する場合には、その表面にPd, Nb, Ti, V, Ta, Sc, Y, La, Ac, Cu, Fe, Ni, Pt, Al, Mo, W, Zr, Mg, Cr, Mn, Tc, Re, Ru, Os, Co, Rh, Ir, Hf, Ag, Au, Sn, Pb, Tl, Na, K, Ca, Li, Be, Rb, Sr, Cs, Ba, Fr, Ra, Zn, In, Ge, Si, Sb, Bi, Poから選択される金属による被覆を形成することが好ましいことが開示されている。しかし、そこではナノカーボン材料以外水素吸蔵性の材料としては具体的にはNi0.64Zr0.36、LaNi5といった合金とか、Tiという単体金属が指摘されているだけといったように、ごく限られた材料が述べられるだけであり、また、それは実証データと共に十分に明確に記載があるとは言い難い。さらにそこでは、「また上記のような測定終了後は、感応部2及び補助電極4が共に液相18中に浸漬された状態で、電源部3により、感応部2と補助電極4の間に、感応部2側が高電位、補助電極4側が低電位となるように電圧を印加する。このとき感応部2に吸蔵された水素が液相18中に放出されることとなり、次回の測定時において、より正確に溶存水素濃度を測定できるようになる。」と記載するように、一旦、水素吸蔵性の材料に水素を吸蔵せしめて測定を行った後、次回の測定のため、吸蔵水素を脱着せしめるのに特別な工夫を要するといった煩わしさもあり、継続して正確な測定を短時間に繰り返し行うには問題があった。
【0005】

【特許文献1】特開2002-71611号公報
【特許文献2】特許第323120号
【特許文献3】特開5-232082号公報
【特許文献4】特開2004-125513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
簡便且つ安定して長期に使用することができ、そして小型化が可能であり、専門家でなくとも取り扱うことを可能とする、水中の溶存水素濃度の測定のための新たな手法並びに機器・装置の開発が求められている。こうした水中の溶存水素濃度の測定のためには、それに適した水素センサを開発することも必要である。さらに、溶存水素を測定したら、該水素センサのある感応部を純水に漬けるだけで、短時間のうちに次回の測定が確実且つ正確になしうるようにすることも求められている。
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶存水素を選択的かつ容易に検出可能、且つ安価で小型化が可能な高精度溶存水素センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明者等が鋭意検討を行った結果、水素吸蔵性を有する金属材料をセンサ材として用い、水素吸収によるセンサ素子の物性値の変化、例えば電気抵抗値の変化を検出することにより、水中の溶存水素を選択的且つ容易に検出することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明にかかる溶存水素センサは、水素の吸収・放出による可逆的な物性値変化を示す金属材料をセンサ素子とし、当該金属材料の物性値変化を計測することにより、水中の溶存水素の有無及び濃度を検出することを特徴とする。
物性値変化としては、例えば電気抵抗値の変化を測定することが好適である。センサ素子には、金属材料を含むセンサ素子と共に、物性値測定用として当該センサ素子に接続して設けられた2つ以上の電極を備えることが好適である。
【0008】
本発明におけるセンサ素子としては、金属薄膜が好適である。本発明における金属薄膜はスパッタ法、電子ビーム蒸着法、真空加熱蒸着法、鍍金法等、種々の方法を用いて作製可能である。水素に対する感応性を有する金属材料を薄膜化することにより、その物性値変化のダイナミックレンジを大きく取ることが出来るため、精度の高い物性値測定が可能となる。
また、水素に対する感応性を有する金属材料を薄膜化する際、その成膜中の加熱及びその後の熱処理によって材料中の微細組織・結晶粒径を最適化することにより好適な水素感応性を有する薄膜を作製する必要がある。薄膜センサ素子の作製においては、その成膜中の加熱(基板加熱300℃程度)あるいはその後の熱処理(500℃程度)を施し、結晶粒径を約30nm以上に成長させる必要がある。
【0009】
かくして、本発明では、次なる態様が提供される。
〔1〕溶存水素の吸蔵及び放出により可逆的に物性値が変化する金属材料である水素感応体をセンサ素子とし、当該センサの物性値変化を計測することにより、水中に溶け込んでいる溶存水素の有無あるいは濃度を検出することを特徴とする溶存水素センサ。
〔2〕上記〔1〕に記載のセンサ素子において、前記水素感応体の電気抵抗値あるいは交流インピーダンスの変化に基づいて水中の微量水素を検出することを特徴とする溶存水素センサ。
〔3〕上記〔1〕及び〔2〕に記載のセンサ素子において、下記の組成式:
【0010】
Pd100-xMx
( M = Ni, Pt, Au; 0 ≦ x ≦ 50 at% )
【0011】
で表されるPd金属又はPd-M合金をセンサ素子作製時の適切な加熱、あるいは該合金又はPd金属をセンサ素子作製時の適切な加熱及びその後の焼鈍熱処理を施し、平均結晶粒径を30nm以上に制御することによって微量水素への感受性を高めた金属材料水素感応体をセンサ素子とすることを特徴とする溶存水素センサ。
〔4〕上記〔1〕~〔3〕の何れかに記載のセンサにおいて、前記金属材料が薄膜材料であることを特徴とする溶存水素センサ。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕の何れかに記載の溶存水素センサを含むセンサ手段と、前記センサ素子の物性値の変化を検出する検出手段とを備えることを特徴とする溶存水素検出器。
〔6〕上記〔4〕に記載の溶存水素検出器において、センサ素子における溶存水素感応部を除く全面を樹脂を含めたコーティング材を用いて被覆し、感応部のみを水中に露出することにより、溶存水素検出器の水中での使用を可能としたことを特徴とする溶存水素検出器。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶存水素センサは、適切に熱処理され、微細組織の最適化が施された水素吸蔵性金属薄膜をセンサ素子として用い、水素吸収によるセンサ素子の物性値変化により、溶存水素を選択的且つ容易に検出可能であり、また、小型かつ安価に作製することが出来るので、アルカリイオン水・機能水の溶存水素測定用センサとして、個人向け用途及び医療用途として広く使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、水中に溶け込んでいる溶存水素検出・測定のための溶存水素センサ、並びに溶存水素センサを備えた溶存水素検出器、さらには溶存水素の吸蔵及び放出により可逆的に物性値が変化する金属材料である水素感応体を提供する。本発明は、さらに溶存水素に対する水素感応体の可逆的に物性値が変化を利用して溶存水素を検出・測定する技術・手段を提供する。代表的には、本発明は、成膜時及び成膜後に適切な熱処理を行うことにより金属材料の微細組織を制御し、微量な水素への感受性を高めたPd及びPd-M合金薄膜(M=Ni, Pt, Au)を用いた微量水素感応体、及びこの水素感応体を備えた溶存水素センサに関するものである。その検出手段としては、水素吸収による電気抵抗値の変化などの物性値変化を利用したものである。
本発明で利用する金属材料は、溶存水素の吸蔵並びに放出特性が、水溶液などの液体中に溶けている水素用センサ素子に適したものであり、例えば、溶存水素水への浸漬と純水への浸漬を交互に繰り返し実施した場合に良好に初期値を回復する性状を意味するものであってよく、典型的には、10分間の溶存水素水への浸漬と10分間の純水への浸漬を交互に繰り返した場合に1回の繰り返し処理(1回の溶存水素水への浸漬と1回の純水への浸漬)の後でも図3又は図5、あるいは図6に示すのと実質的に同一又は実質的に類似あるいは均等な挙動を示すものである。また、ある場合には、該性状は、10分間の溶存水素水への浸漬と10分間の純水への浸漬を交互に繰り返した場合に2回の繰り返し処理(2回の溶存水素水への浸漬と2回の純水への浸漬)の後でも図3あるいは図6に示すのと実質的に同一又は実質的に類似あるいは均等な挙動を示すものである。さらに、該溶存水素水浸漬・純水浸漬の繰り返し処理が、3回、4回、5回、6回、あるいはそれ以上である場合にも、それぞれ、図3あるいは図6に示すのと実質的に同一又は実質的に類似あるいは均等な挙動を示すものであってよい。
【0014】
本発明で利用する金属材料は、上記したように、良好な繰り返し性を有するものが挙げられる。該繰り返し性とは、可逆的な物性値の変化を意味してよく、例えば、電気抵抗値が溶存水素水への浸漬により増加したの後、純水に浸漬すると急激に低下して、速やかに(例えば、10分以内あるいは10分程度で)初期値あるいは測定上実質的に問題とされない初期値に戻ることを意味してよい。
典型的な該金属材料としては、パラジウム金属又はニッケル、白金及び金から選択された元素とパラジウムとを含む合金であるもので、例えば、下記の組成式:
Pd100-xMx
( M = Ni, Pt, Au; 0 ≦ x ≦ 50 at% )
で表されるものである。
上記組成式において、ある場合には、1 ≦ x ≦ 45 at%、あるいは5 ≦ x ≦ 40 at%、好ましくは10 ≦ x ≦ 35 at%あるいは15 ≦ x ≦ 30 at%であることができる。また、xは1 ≦ x < 25 at%あるいは25 ≦ x ≦ 45 at%、好ましくは3 ≦ x ≦ 20 at%あるいは25 ≦ x ≦ 35 at%、さらには5 ≦ x ≦ 15 at%あるいは25 ≦ x ≦ 30 at%であることができる。
【0015】
また、代表的な金属材料は、下記の組成式:
Pd100-xNix
( 0 ≦ x ≦ 50 at% )
で表されるものであってもよい。本組成式において、ある場合には、0 ≦ x ≦ 45 at%、あるいは5 ≦ x ≦ 40 at%、好ましくは10 ≦ x ≦ 35 at%あるいは15 ≦ x ≦ 30 at%であることができる。また、xは1 ≦ x < 25 at%あるいは25 ≦ x ≦ 45 at%、好ましくは5≦ x ≦ 20 at%あるいは25 ≦ x ≦ 35 at%、さらには7 ≦ x ≦ 18 at%あるいは25 ≦ x ≦ 30 at%であることができる。
【0016】
該金属材料は、好適には、薄膜としてセンサ素子に使用される。薄膜製造技術としては、金属材料分野や半導体製造技術分野で知られた技術のうちから適宜選択してそれを使用でき、該薄膜製造技術は、真空あるいはガスを利用した気相表面処理技術が包含され、例えば、化学的気相成長法(CVD)(熱CVD、プラズマCVD、有機金属気相成長法(MOCVD)、光CVDなど)、物理気相成長法(PVD)(真空蒸着法、中空陰極放電(HCD)法、エレクトロンビームRF法、アーク放電法などのイオンプレーティング、直流放電スパッタリング、RF放電スパッタリング、マグネトロンスパッタリングなどのスパッタリング、分子線エピタキシー法など)、電気メッキ、化学緻密化法、化成処理、拡散浸透法などの液相法による表面処理、溶射法などが挙げられる。かくして、本発明におけるセンサ素子としては、金属薄膜を好適に使用できる。本発明における金属薄膜は、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、真空加熱蒸着法、鍍金法等、種々の方法を用いて作製可能である。そして、該水素に対する感応性を有する金属材料を薄膜化することにより、その物性値変化のダイナミックレンジを大きく取ることが出来、精度の高い物性値測定が可能となる。
【0017】
該金属材料を薄膜化する際、その成膜中加熱を加えることが可能であるし、さらに該加熱下に薄膜として形成せしめた金属組織あるいは合金組織をさらに熱処理を加えてより好ましい特性を有するものにできる。該好ましい特性とは、上記で説明した溶存水素の吸蔵並びに放出特性を含むものであってよい。上記成膜中の加熱及びその後の熱処理は、材料中の微細組織・結晶粒径を最適化することを含むものであってよい。特には、より好適な水素感応性を有する薄膜を作製するものが包含される。薄膜形成中での加熱とは、スパッタ法における基板の加熱であってよい。代表的な場合、基板の温度を、例えば、約150℃~約400℃程度に保持して行うこと、ある場合には約200℃~約350℃程度、あるいは約250℃~約350℃程度に保持して行ったり、あるいは好ましくは約275℃~約325℃程度、あるいは約300℃程度に保持して行ったりするものである。一旦成膜した後に加える加熱処理は、当該材料に、代表的な場合、例えば、約300℃~約700℃程度に保持して行うこと、ある場合には約350℃~約650℃程度、あるいは約350℃~約600℃程度に保持して行ったり、あるいは好ましくは約400℃~約550℃程度、あるいは約500℃程度に保持して行ったりするものである。成膜後加熱処理時間は、特に制限はなく、より好ましい特性を得られるものであればよく、実験によりそれを決定できる。成膜後加熱は、好適には、高い減圧下あるいは真空下に行われ、典型的な場合には、真空焼鈍である。該加熱処理は、代表的には、薄膜金属組織あるいは合金組織における結晶粒径を約30nm以上に成長させるものである。より好ましい場合では、薄膜組織の結晶粒径を約34nm以上に成長させる、あるいは約36nm以上に成長させるものである。したがって、本発明では当該金属材料の薄膜金属組織あるいは薄膜合金組織として、結晶粒径が約30nm以上のものを有するセンサ素子、あるいは約34nm以上又は約36nm以上のものを有するセンサ素子、さらに好ましいものとしては、結晶粒径が約38nm程度あるいはそれ以上のものを有するセンサ素子が挙げられる。
【0018】
当該金属材料の薄膜の膜厚は、好適な溶存水素の検知・測定ができるように適宜選択でき、より好ましくは、溶存水素の吸蔵及び放出により、測定する物性値を可逆的に変化せしめることを可能にするように選択するものであってよい。例えば、スパッタ膜の電気抵抗値の変化を見た場合に、膜厚を薄くすることにより反応性(例えば、抵抗値の変化量、変化速度など)がより大きく出るものなどが挙げられる。代表的な場合、該金属材料の薄膜の膜厚は、例えば、約0.0005~10μm、ある場合には約0.001~2.5μm、そして好ましくは約0.005~1μmが挙げられる。
本発明では、好適には、絶縁基板の上に該金属材料の薄膜を形成することができる。一般的には、該薄膜を水素感応体として溶存水素と直接的あるいは間接的に接触できるようにして感応部が構成される。溶存水素と間接的な接触とは、水素透過性の被膜を介したものを意味してよい。測定に使用する物性として、電気抵抗性を利用する場合には、該感応部に、電気抵抗値を測定するために抵抗検出器が接続されてよい。本抵抗検出器としては、感応部に定電流を通電することができると共にその際の感応部における電圧降下量を測定するものや、感応部に定電圧を印加すると共にその際に感応部に通電する電流値を測定するものであってもよい。また、これらの測定結果に基づいて感応部の電気抵抗を測定するものであってよい。このような感応部及び抵抗検出器により、水素センサを構成することができる。また、抵抗検出器にて検出される電気抵抗値の変化に基づき、これを演算処理して水素濃度値を検出する演算処理部を設けると共に、その検出結果を可視表示する液晶表示パネルや発光ダイオード等から構成される表示部を設けることもできる。
本発明の溶存水素センサには、補助電極を設けることも可能で、それと共に、感応部と補助電極の間への電圧の印加とその停止とを切替可能な電圧電源回路等で構成されてよく、そこに電源部を設けることもできる。該電源部の構成としては、特に制限はなく、従来から知られている適宜のものを採用することができる。補助電極は、感応部と液相(被検液)とが接触した際に、同時にこの液相と接触するように形成されるものであってよく、例えばカーボン等にて形成することができる。このように構成される水素センサにて水素濃度を測定する場合は、感応部を水素が溶存する液相中に一定時間浸漬する。例えば測定用の容器内に所定体積の被検液(液相)を入れ、この被検液に感応部を浸漬するものである。このとき感応部は被検液中の溶存水素を吸蔵し、その電気抵抗値が、被検液中の溶存水素濃度に依存して変化する。そして、この電気抵抗値の変化を抵抗検出器が検知し、その結果に基づいて演算処理部にて水素濃度が導出され、得られた水素濃度が表示部にて表示されるものである。
以下、本発明の構成の一例について説明する。図1に上面図、図2に断面図を示す。溶存水素センサ素子は適切に熱処理されて基板(1)上に成膜された金属薄膜(2)を用いる。センサ素子には物性値測定用に2本乃至4本の電極(3)が接続される。例えば物性値として電気抵抗値を測定する場合には、電極には定電流回路及び電圧測定回路が接続されるであろう。さらに、本センサ素子は水中に浸漬して使用されるため、薄膜センサ素子の水素感応開口部(4)のみを水中に露出させ、それ以外の部分は耐水性コーティング材(5)を用いて被覆し、回路の腐食を防止する。測定される物性値は、測定値を基に、薄膜形状、電極間距離、水素感応開口部の形状・面積等を勘案して決定される。また、薄膜センサ素子(2)、電極(3)・回路配線(6)等は、同一基板(1)上に作り込み、小型・軽量化を図ることが好適である。
【0019】
本発明で特徴的なことは、水中での腐食に強く、且つ水素との親和性の良いPd(パラジウム)金属を主成分として含み、薄膜センサ素子の水素感応部を他の物質で被覆する必要がないことである。これにより、長期間の安定的な使用に耐えることと共に、速やかな水素の吸収・放出が出来るため、センサの応答性も格段に向上する。なお、水素透過性被膜を施してもよいことは留意されるべきである。
以下に実施例及び比較例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのもので、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例】
【0020】
実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。表1に実施例1~4、比較例1の組成、膜厚、基板加熱温度を示す。表1に示す各種組成を有する薄膜を、スパッタ装置を用いて基板上に成膜した。スパッタ膜作製は、スライドガラス基板を使用し、Pdターゲット上にNi板をのせて組成を調整した。実際の膜の組成はSEM-EPMAを用いて調査した。この時、比較例1は基板加熱をせずに成膜し、実施例1~4は300℃の基板加熱を行いながら成膜した。さらに実施例4では成膜後に高真空雰囲気下500℃で真空焼鈍を行った。電気抵抗値の測定は四端子法を用い、全て常温で行った。溶存水素水は、純水に水素ガスバブリングを60~90分程度施し、溶存水素濃度を約1~1.5ppmとして用いた。典型的な場合、純水500 mLに対してバブリング 20 cc/minとし60分間の処理をして溶存水素含有水を調製した。
【0021】
【表1】
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【0022】
図3に、実施例1及び比較例1の純水-溶存水素水交互浸漬実験の結果を示す。図から明らかなように、成膜時に基板加熱を行った実施例1の場合の方が、成膜時に基板加熱を行わなかった比較例1の場合よりも良好な繰り返し性を示した。この比較から、最適な水素感応薄膜を得るためには、基板加熱が有効であることが示された。
【0023】
成膜中の基板加熱により効果を調べるため、実施例1及び比較例1の透過電子顕微鏡組織観察を行った。各試料の組織写真を図4に示す。(a)、(b)は比較例1、(c)、(d)は実施例1のものである。(a)、(c)は明視野像であり、右上に回折リングを付している。リングから、本試料はナノ結晶材料であることが分かる。また、(b)、(d)は暗視野像である。
図から明らかなように、基板加熱を行った実施例1の方が、基板加熱を行わなかった比較例2よりも、結晶粒径が大きく、基板加熱により粒成長していることが分かった。X線回折図形とシェーラーの式を用いて各試料の結晶粒径を見積もったところ、比較例1:約26nm、実施例1:約38nmであった。この結果から、良好な繰り返し特性を有するためには、結晶粒径をある程度成長させ、平均粒径30nm以上とすることが必要であるということが示された。
【0024】
次に実施例1~3の純水-溶存水素水交互浸漬実験の結果を図5に示す。いずれの組成でも、10分の溶存水素水浸漬により電気抵抗値ΔRが大きく増加した後、純水に切り替えると水素の放出が起こり急激に電気抵抗値ΔRが低下し、速やかに初期値に戻っている。この時、合金中のNi量に応じて応答量が変化しており、Ni量が多くなると電気抵抗値ΔRの最大値が低下している。しかし一方で、Ni量が多くなるほど純水中で速やかに電気抵抗値ΔRが初期値に戻っている。このことから、Ni量はある程度多い方が、電気抵抗値変化量は減少するものの、応答性はむしろ向上することが分かる。実際のセンサ素子の作製時においては、実際に使用する水素濃度、測定機器の精度等を勘案し、最適な組成、膜厚を選択すれば良い。
【0025】
図6には、成膜時の基板加熱に加えて、成膜後に真空焼鈍を施した実施例4の場合の、純水-溶存水素水交互浸漬実験の結果を示す。図から明らかなように、真空焼鈍によっても、比較例1に比べて繰り返し性は向上している。この結果から、最適な水素感応薄膜を得るためには、真空焼鈍も有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の溶存水素センサは、溶存水素の吸蔵及び放出により可逆的に物性値が変化する金属材料である水素感応体をセンサ素子として使用し、当該センサの物性値変化を計測するものであるので、簡便且つ安定して長期に使用することができ、そして小型化が可能であり、専門家でなくとも取り扱うことを可能であり、しかも安価で小型化が可能な高精度のものとできる。本発明の溶存水素検出器は、構造をより簡素なものとすることが可能で、個人向け用途及び医療用途なども含めて広範な使用を容易にする。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】水中の溶存水素濃度を検出する溶存水素センサの構成の一例を示す概略図(上面図)である。
【図2】水中の溶存水素濃度を検出する溶存水素センサの構成の一例を示す概略図(断面図)である。
【図3】実施例1及び比較例1における、純水-溶存水素水交互浸漬実験の結果である。
【図4】実施例1及び比較例1における、透過電子顕微鏡組織写真である。(a)、(b)は比較例1、(c)、(d)は実施例1のものである。(a)、(c)は明視野像であり、右上に回折リングを付している。リングから、本試料はナノ結晶材料であることが分かる。また、(b)、(d)は暗視野像であり、(b)と(d)の比較により、(d)の基板加熱による結晶粒成長の様子が分かる。
【図5】実施例1~3における、純水-溶存水素交互浸漬実験の結果である。
【図6】実施例4における、純水-溶存水素交互浸漬実験の結果である。
【符号の説明】
【0028】
(1) 基板
(2) 水素感応薄膜
(3) 電極
(4) 水素感応開口部
(5) 耐水コーティング材
(6) ワイヤー・配線

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5