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明細書 :ヒト関節リウマチの病態を再現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4857450号 (P4857450)
登録日 平成23年11月11日(2011.11.11)
発行日 平成24年1月18日(2012.1.18)
発明の名称または考案の名称 ヒト関節リウマチの病態を再現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01K 67/027 ZNA
請求項の数または発明の数 10
全頁数 20
出願番号 特願2006-510787 (P2006-510787)
出願日 平成17年3月8日(2005.3.8)
国際出願番号 PCT/JP2005/004007
国際公開番号 WO2005/085438
国際公開日 平成17年9月15日(2005.9.15)
優先権出願番号 2004066218
優先日 平成16年3月9日(2004.3.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年2月13日(2008.2.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】805000018
【氏名又は名称】財団法人名古屋産業科学研究所
発明者または考案者 【氏名】金澤 智
【氏名】岡本 尚
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 J Immunol (2003) Vol.171, No.2, p.616-27.
Immunol Lett(1997)Vol.58, No.1, p.53-8.
Int Immunol (1998) Vol.10, No.5, p.601-7.
Mol Cell Biol (1996) Vol.16, No.8, p.4512-23.
J Biol Chem (1998) Vol.273, No.24, p.14989-97.
J Cell Sci (1995) Vol.108 , No. Pt 12, p.3677-84.
臨床免疫(1994)第26巻第2号第171-177頁
調査した分野 C12N 15/00-90
A01K 67/027
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
UniProt/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
Science Direct
Wiley InterScience
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
MHCクラスII転写活性化遺伝子がII型コラーゲンプロモーターの制御下に配置された外来性DNAが導入されており、1回あたりのII型コラーゲンの投与量を0.01mg~0.05mgとして2回以上II型コラーゲンを投与することによってヒト関節リウマチ様の病態を呈する、遺伝的な背景が99%以上DBAであるトランスジェニックマウス
【請求項2】
前記外来性DNAがII型コラーゲンエンハンサーを含む、請求項1に記載のトランスジェニックマウス
【請求項3】
前記ヒト関節リウマチ様の病態が、以下の(1)~(7)の中の一つ以上を示す病態である、請求項1又は2に記載のトランスジェニックマウス
(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する。
【請求項4】
前記ヒト関節リウマチ様の病態が、さらに以下の(8)~(10)の中の一つ以上を示す病態である、請求項3に記載のトランスジェニックマウス:(8)血管炎症が認められる;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められる;(10)貧血が認められる。
【請求項5】
前記ヒト関節リウマチ様の病態が、以下の(1)~(7)の全てを示す病態である、請求項1又は2のいずれかに記載のトランスジェニックマウス:(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する。
【請求項6】
前記ヒト関節リウマチ様の病態が、以下の(1)~(10)の全てを示す病態である、請求項1又は2のいずれかに記載のトランスジェニックマウス:(1)全身において三ヶ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する;(8)血管炎症が認められる;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められる;(10)貧血が認められる。
【請求項7】
以下の(a)~(c)のステップを含む、ヒト関節リウマチ用薬剤のスクリーニング方法:
(a)請求項1~のいずれかに記載のトランスジェニックマウスに対して、1回あたりのII型コラーゲンの投与量を0.01mg~0.05mgとして2回以上II型コラーゲンを投与することによってヒト関節リウマチ様の病態を誘導するステップ;
(b)前記トランスジェニックマウスに被験物質を投与するステップ;
(c)ヒト関節リウマチに特徴的な症状が改善されるか否かを調べるステップ。
【請求項8】
前記ステップcにおいて、以下の(1)~(10)の中から選択される一つ以上について改善されるか否かを判定する、請求項に記載のスクリーニング方法:(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められること;(2)対称性の関節の腫れが認められること;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められること;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められること;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められること;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められること;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行すること;(8)血管炎症が認められること;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められること;(10)貧血が認められること。
【請求項9】
以下の(A)~(D)のステップを含む、ヒト関節リウマチ用薬剤のスクリーニング方法:
(A)1回あたりのII型コラーゲンの投与量を0.01mg~0.05mgとして2回以上II型コラーゲンを投与することによってヒト関節リウマチ様の病態が誘導された請求項1~のいずれかに記載のトランスジェニックマウスをそれぞれ1個体以上含む試験群及び対照群を用意するステップ;
(B)前記試験群の各個体に被験物質を投与するステップ;
(C)ヒト関節リウマチに特徴的な症状の程度を前記試験群と前記対照群との間で比較するステップ。
【請求項10】
前記ステップCにおいて、以下の(1)~(10)の中から選択される一つ以上について、前記試験群と前記対照群との間で比較する、請求項に記載のスクリーニング方法:(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められること;(2)対称性の関節の腫れが認められること;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められること;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められること;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められること;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められること;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行すること;(8)血管炎症が認められること;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められること;(10)貧血が認められること。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はトランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。詳しくは、ヒト関節リウマチの病態を再現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトリウマチ様関節炎(ヒト関節リウマチ)に対する薬剤(抗リウマチ薬)の開発においてII型コラーゲン関節炎モデルマウス等が利用されてきた。H-2q又はH-2rハプロタイプのマウスでは、0.1~0.2mgのII型コラーゲンの皮下注射によって関節リウマチの症状が誘導される(collagen-induced arthritis, CIA)。繁用されているH-2qハプロタイプのマウスでは通常、初回免疫の後、2次免疫を行なうことで関節炎が観察される。2次免疫後数日で関節局所における急性期炎症が起こり、これに引き続き一連の慢性炎症が惹起されるなどのリウマチ様の症状を呈する。ヒト関節リウマチは、関節部における炎症、骨破壊、骨の癒着、変形等を主体とする疾病であり、一般に強い慢性化傾向を示す。またヒト関節リウマチは血管炎をしばしば合併するため、心筋炎、間質性肺炎、抹消における血管炎等を引き起こす。これらの合併症は難治性であり、その特異的な治療法の開発が切望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
H-2qハプロタイプのマウスを用いたCIAでは関節炎が短期間で完成し、ヒト関節リウマチで起こるような慢性的、持続的及び進行性の症状、特に徐々に炎症が進行する関節リウマチ初期のステージから中後期のステージへの病態変化を経時的に追う事が難しい。このようにH-2qハプロタイプ等を用いたモデルマウスはヒト関節リウマチのモデル動物として十分なものとは言えない。このような事情から、よりヒト関節リウマチの病態を再現するモデル動物(即ち、ヒト関節リウマチの病態により近い症状を呈する動物)の創出が待ち望まれていた。
【0004】
<nplcit num="1"><text>Feldmann M. 2001. Pathogenesis of arthritis: recent research progress. Nat Immunol. 9:771.</text></nplcit><nplcit num="2"><text>Wooley, P. H., H. S. Luthra, J. M. Stuart, and C. S. David. 1981. Type II collagen induced arthritis in mice. I. Major histocompatibility complex (I-region) linkage and antibody correlates. J. Exp. Med. 154:688.</text></nplcit>
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題に鑑みて本発明者らは、遺伝子工学的手法によってヒト関節リウマチのモデル動物を作製することを試みた。ヒト関節リウマチでは、特定の組織適合性複合体クラスII(本明細書において「MHCクラスII」ともいう)が発症と有意に相関する。このため異所的なMHCクラスII発現を介した抗原提示に基づく免疫反応がリウマチ発症機序に深く関与すると考えられている。この点に着目し、関節軟骨特異的な発現を示す、II型コラーゲンのプロモーター領域を用い、MHCクラスII転写活性化遺伝子(class II transactivator gene、本明細書において「CIITA遺伝子」ともいう)を発現するトランスジェニックマウスを作製した。このCIITAトランスジェニックマウスを、II型コラーゲン誘導性関節リウマチに反応性の高いH-2qハプロタイプのマウスにバッククロス(戻し交配)することで、高頻度に関節炎を発症するモデルマウスを樹立することに成功した。このCIITAトランスジェニックマウスでは、CII誘導関節炎モデル(collagen-induced arthritis, CIA)に通常用いられるII型コラーゲン濃度に比べ1/20の低い濃度のものを皮下注射することでも、充分にリウマチ様の炎症が観察された。すなわち当該トランスジェニックマウスは、MHCクラスII遺伝子群の関節特異的な異所性発現により、II型コラーゲン等の抗原に対して高い感受性を有することが判明した。この濃度では、コントロールマウス(同じ遺伝的バックグラウンドをもつ、または全く同じ一腹の子であるが導入遺伝子を有しないもの)では関節リウマチ様の症状を示さない。一方、関節炎の症状は数週間~数カ月間と長い時間をかけ徐々に進行した。従って、当該トランスジェニックマウスを用いれば関節リウマチに伴う炎症の過程をより正確に観察できる。このことはヒト関節リウマチのモデルとして当該トランスジェニックマウスが極めて有効であることを意味する。
以上の成果から、II型コラーゲンプロモーターの作用でCIITA遺伝子が発現するように遺伝子改変することによれば、ヒト関節リウマチの病態を良好に再現するモデル動物を作製できるとの知見が得られた。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであって以下の構成を提供する。
[1] MHCクラスII転写活性化遺伝子、MHCクラスII転写活性化遺伝子の活性領域、及びMHCクラスII転写活性化遺伝子の変異体(但し、MHCクラスII遺伝子群の発現を制御するマスタースイッチ機能を有する)からなる群より選択されるDNAがII型コラーゲンプロモーターの制御下に配置された外来性DNAが導入されたトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[2] 前記外来性DNAがII型コラーゲンエンハンサーを含む、[1]に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[3] II型コラーゲンの投与によってヒト関節リウマチ様の病態を呈する、[1]又は[2]に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[4] 1回あたりのII型コラーゲンの投与量を0.01mg~0.05mgとして2回以上II型コラーゲンを投与することによってヒト関節リウマチ様の病態を呈する、[1]~[3]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[5] 前記ヒト関節リウマチ様の病態が、以下の(1)~(7)の中の一つ以上を示す病態である、[1]~[4]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物:
(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する。
[6] 前記ヒト関節リウマチ様の病態が、さらに以下の(8)~(10)の中の一つ以上を示す病態である、[5]に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物:(8)血管炎症が認められる;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められる;(10)貧血が認められる。
[7] 前記ヒト関節リウマチ様の病態が、以下の(1)~(7)の全てを示す病態である、[1]~[4]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物:(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する。
[8] 前記ヒト関節リウマチ様の病態が、以下の(1)~(10)の全てを示す病態である、[1]~[4]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物:(1)全身において三ヶ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する;(8)血管炎症が認められる;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められる;(10)貧血が認められる。
[9] 前記非ヒト哺乳動物の種(属)が、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマからなる群より選択されるいずれかである、[1]~[8]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[10] 前記非ヒト哺乳動物の種(属)がマウスである、[1]~[8]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
[11] MHCクラスII転写活性化遺伝子、MHCクラスII転写活性化遺伝子の活性領域、及びMHCクラスII転写活性化遺伝子の変異体(但し、MHCクラスII遺伝子群の発現を制御するマスタースイッチ機能を有する)からなる群より選択されるDNAがII型コラーゲンプロモーターの制御下に配置された外来性DNAを、発生初期の細胞に導入するステップ、
を含むことを特徴とする、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の作出方法。
[12] 前記外来性DNAがII型コラーゲンエンハンサーを含む、[11]に記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物の作出方法。
[13] II型コラーゲンプロモーターと、
前記II型コラーゲンプロモーターの下流に配置されたDNA配列であって、MHCクラスII転写活性化遺伝子、MHCクラスII転写活性化遺伝子の活性領域、及びMHCクラスII転写活性化遺伝子の変異体(但し、MHCクラスII遺伝子群の発現を制御するマスタースイッチ機能を有する)からなる群より選択されるDNA配列と、II型コラーゲンエンハンサーと、を有する発現ベクター。
[14] 以下の(a)~(c)のステップを含む、ヒト関節リウマチ用薬剤のスクリーニング方法:
(a)[1]~[10]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物においてヒト関節リウマチ様の病態を誘導するステップ;
(b)前記トランスジェニック非ヒト哺乳動物に被験物質を投与するステップ;
(c)ヒト関節リウマチに特徴的な症状が改善されるか否かを調べるステップ。
[15] 前記ステップcにおいて、以下の(1)~(10)の中から選択される一つ以上について改善されるか否かを判定する、[14]に記載のスクリーニング方法:(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められること;(2)対称性の関節の腫れが認められること;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められること;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められること;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められること;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められること;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行すること;(8)血管炎症が認められること;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められること;(10)貧血が認められること。
[16] 以下の(A)~(D)のステップを含む、ヒト関節リウマチ用薬剤のスクリーニング方法:
(A)ヒト関節リウマチ様の病態が誘導された[1]~[10]のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物をそれぞれ1個体以上含む試験群及び対照群を用意するステップ;
(B)前記試験群の各個体に被験物質を投与するステップ;
(C)ヒト関節リウマチに特徴的な症状の程度を前記試験群と前記対照群との間で比較するステップ。
[17] 前記ステップCにおいて、以下の(1)~(10)の中から選択される一つ以上について、前記試験群と前記対照群との間で比較する、[16]に記載のスクリーニング方法:(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められること;(2)対称性の関節の腫れが認められること;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められること;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められること;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められること;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められること;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行すること;(8)血管炎症が認められること;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められること;(10)貧血が認められること。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、本発明のトランスジェニックマウス作成に用いることのできるトランスジーンの一例(II型コラーゲンプロモーターの制御下にCIITA遺伝子が配置されたベクターpCol2fluCIITANeof)を示す。1)約1kbpのラットII型コラーゲンプロモーター部の下流にヒトグロビンスプライシング配列がある。2)この直下にヒトCIITAポリAサイトを含むヒトCIITA cDNA(fluCIITA)が挿入され、この後方にラットII型コラーゲンエンハンサーが配置されている。3)さらにこの下流にPGKプロモーター直下にほ乳類細胞非耐性の薬剤マーカーNeo遺伝子 およびポリAシグナルを配置したカセットが配置されている。4)バックボーンのベクターは、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を有するpBR322である。
【図2】図2は、実施例の方法で作製したトランスジェニックマウスを2次免疫した後、発赤、腫脹等のモニターリングを行った結果を示す。2次免疫後、トランスジェニックマウスのみに数週間に渡り発赤、腫脹が観察される。症状は、進行性で序々に悪化する。左:CIA誘導のコントロールマウス。発赤および腫脹が見られない。右:CIA誘導のCIITA トランスジェニックマウス、発赤、腫脹が観察される。
【図3】クリニカルスコアの算定基準を示す。
【図4】図4はクリニカルスコア(Clinical score)の経時的変化を示すグラフである。図3の表に示した基準でクリニカルスコアを算出した。発症時期は、従来のCIA法では追加免疫後約1週である。これに比較して、トランスジェニックマウスを用いた低濃度(従来法の1/20)の免疫および追加免疫では5~6週と遅く、徐々に症状が進行していく。また症状の持続期間は従来法のCIA法では100日前後で消退するのに対し、トランスジェニックマウスでは150日以上も持続する。
【図5】図5は、関節部分におけるヘマトキシリン・エオジン染色像(2次免疫)である。従来のCIA 法では1週間で関節部分におけるリンパ球系細胞の浸潤、軟骨層および骨組織の破壊が進んでいる(A:コントロールおよびB:CIA)。一方トランスジェニックマウスでは1週間の時点でCIAで見られる軟骨層および骨組織の破壊等は見られない(C:Tg、1週)。この後、徐々にリンパ球系細胞の浸潤がおこる(D:Tg、4週)。
【図6】図6は、トランスジェニックマウスの関節部分におけるヘマトキシリン・エオジン染色像(2次免疫10 週間後)である。この時期軟骨層および骨組織の破壊が進行し、骨変形が観察される。また合わせて中心部に細胞壊死が見られる結節様組織(A)や肉芽組織(B)が観察される。
【図7】図7は、トランスジェニックマウスを用いた低濃度の免疫および追加免疫後における、経時的な骨密度の変化を測定したものである。従来のCIA法では、骨密度変化が5週間後に見られ、その後大きな変動を示さないが、一方トランスジェニックマウスでは、炎症の進行のみならず、骨密度変化も徐々に進行して行く。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第1の局面は、所定の外来性DNAが導入されたトランスジェニック非ヒト哺乳動物(以下、トランスジェニック非哺乳動物のことを本明細書では「TG動物」ともいう)に関する。
「トランスジェニック非ヒト哺乳動物(TG動物)」とは、発生初期に外来性DNAが導入されることによって、それを構成するすべての細胞が当該外来性DNAを保有することとなる、ヒト以外の哺乳動物又はその子孫(但し、当該外来性遺伝子を保有するもの)をいう。ここでの哺乳動物の種(属)は特に限定されず、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、及びウマ等を含む。好ましくはマウス(例えばH-2qマウスDBA/J系統やB10.Q系統、又はH-2rマウスR10.RIII系統(これらのマウスは日本チャールズリバーから入手可能である))やラット(例えばLewis(Rtw)、WFC(Rte)、DA(Rta)ラット(これらのラットは日本チャールズリバーから入手可能である))などの齧歯目動物であり、最も好ましくはマウスである。
【0008】
本発明における外来性DNAは、TG動物内での発現を目的として使用される遺伝子(導入遺伝子)としてクラスII転写アクチベーター遺伝子(以下、「CIITA遺伝子」ともいう)を含む。CIITA遺伝子は、MHCクラスII遺伝子群の発現を制御するマスタースイッチとして機能することが知られている(Steimle V., Otten L.A., Zufferey M., and Mach B. 1993. Complementation Cloning of an MHC class II transactivator mutated in hereditary MHC class II deficiency. Cell. 75:135.)。ヒト、マウス、ラットなどのCIITA遺伝子を使用することができる。尚、ヒトのCIITA遺伝子の配列(Genbank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.html) Accession No.(以下、AN): X74301)を配列番号1に示す。同様に、マウスのCIITA遺伝子の配列(AN: NM_007575)を配列番号2に示す。CIITA遺伝子の代わりに、その変異体を使用してもよい。ここでの「変異体」とは、CIITA遺伝子の一部と同一又は相同な配列を有するが、その全配列をCIITA遺伝子の配列に比較した場合に両者の間に相違が認められるものをいう。CIITA遺伝子の変異体として、CIITA遺伝子のDNA配列を基準とした場合に1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むことになるDNA配列を例示することができる。具体的には、MHCクラスII転写活性化因子の活性化領域(activation domain)をコードするDNA配列や、MHCクラスII転写活性化遺伝子が発現する際に選択的スプライシングによって生ずる特定のmRNAに対応するDNA配列をCIITA遺伝子の変異体として挙げることができる。CIITA遺伝子に特異的な機能、即ちCIITA遺伝子群の発現を制御するマスタースイッチとして働くという機能を有する限り、任意の変異体を使用することができる。尚、変異体は天然に存在するものであっても、遺伝子工学的手法を用いて人工的に構築されたものであってもよい。
導入遺伝子のコピー数は特に限定されるものではないが、例えば1~100である。また、本発明のTG動物は導入遺伝子に関してホモ接合体であってもヘテロ接合体であってもよい。
【0009】
本発明のTG動物が保有する外来性DNAは、CIITA遺伝子に加えて、II型コラーゲンプロモーターを含む。II型コラーゲンプロモーターの由来(種)は特に限定されず、マウスやラットのII型コラーゲンプロモーター、或いはヒトのII型コラーゲンプロモーターなどを使用することができる。尚、ヒトのII型コラーゲンプロモーターの配列(参照:Nunez A.M., Kohno K., Martin G.R. and Yamada Y. 1986. Promoter region of the human pro-a1(II)-collagen gene. Gene, 44:11.)を配列番号3に示す。同様に、ラットのII型コラーゲンプロモーターの配列(参照:Kohno K., Sullivant M., and Yamada Y. 1985. Structure of the promoter of the rat type II procollagen gene. JBC, 260:4441.)を配列番号4に示す。本発明におけるII型コラーゲンプロモーターとして、これら既知の配列の全長を使用してよいことは言うまでもないが、プロモーター活性が認められる限りにおいて一部の領域のみを使用してもよい。また、これら既知のII型コラーゲンプロモーターの一部を改変したものであっても、プロモーター活性の大幅な低下がない限り、外来性DNAにおけるプロモーターとして使用できる。ここでの「一部の改変」とは、1若しくは複数の塩基(好ましくは1個、1若しくは2個、1~3個、1~4個、1~5個、1~6個、1~7個、1~8個、又は1~9個))の置換、欠失、挿入、及び/又は付加が生ずることをいう。複数の箇所でこのような改変が行われていてもよい。
外来性DNA内においてCIITA遺伝子又はその変異体(以下、「CIITA遺伝子等」という)はII型コラーゲンプロモーターの制御下に配置される。ここでの「制御下に配置される」とは、II型コラーゲンプロモーターが作用してCIITA遺伝子等の転写が生ずるように、CIITA遺伝子が直接又は他の配列を介してII型コラーゲンプロモーターに連結されている状態をいう。通常は、II型コラーゲンプロモーターの下流、かつ近接した位置にCIITA遺伝子等が配置される。
【0010】
外来性DNAが、CIITA遺伝子等の転写を活性化するエンハンサーを含むことが好ましい。「エンハンサー」とは、プロモーターに直接的又は間接的に作用してその転写活性を高める配列をいう。エンハンサーは、一般に離れた位置からプロモーターに作用する。外来DNA内におけるエンハンサーの位置はプロモーターの上流側であっても下流側であってもよい。エンハンサーは、外来性DNAに使用されるII型コラーゲンプロモーターに作用してその転写活性を高めることができるものであれば特に限定されない。例えばヒト、マウス、ラット等のII型コラーゲンエンハンサーを使用することができる。II型コラーゲンプロモーターの由来と、エンハンサーの由来とを同一にすることが好ましいが(例えば、ヒト由来のプロモーターを使用する場合にはヒト由来のエンハンサーを使用する)必ずしもその限りではない。このようなプロモーターとエンハンサーの組み合わせを採用することによって高い転写活性が得られるが、これをさらに異種の動物に使用する事も可能である。エンハンサーの一例としてラットのII型コラーゲンエンハンサーの配列(AN: L48618)を配列番号5に示す。本発明におけるII型コラーゲンエンハンサーとして、既知の配列の全長を使用してよいことは言うまでもないが、転写活性化作用が認められる限りにおいて一部の領域のみを使用してもよい。また、これら既知のII型コラーゲンエンハンサーの一部を改変したものであっても、転写活性化作用の大幅な低下がない限り、外来性DNAにおけるエンハンサーとして使用できる。ここでの「一部の改変」とは、1若しくは複数の塩基(好ましくは1個、1若しくは2個、1~3個、1~4個、1~5個、1~6個、1~7個、1~8個、又は1~9個))の置換、欠失、挿入、及び/又は付加が生ずることをいう。複数の箇所でこのような改変が行われていてもよい。
【0011】
本発明のTG動物はその特徴の一つとして、II型コラーゲンの投与によってヒト関節リウマチ様の病態を呈する。換言すれば、本発明のTG動物ではII型コラーゲンの投与の結果としてヒト関節リウマチ様の病態が誘導される。例えば、ヒト、トリ、ウシ、ブタ、ラット、シカ、ニワトリ又はマウス由来等のII型コラーゲンを使用することができる。II型コラーゲンは、それを投与する動物と同種由来のものであっても他の種由来のものであってもよい。尚、II型コラーゲン以外であっても、本発明のTG動物においてヒト関節リウマチ様の病態の誘導に使用できるものであればその限りではない。II型コラーゲン(又は同様にヒト関節リウマチの病態を誘導させるその他の抗原)の投与方法としては皮下、静脈内、動脈内、筋肉、腹腔内注射などを採用できる。典型的には、時間的間隔を置いた二回以上の投与によってヒト関節リウマチ様の病態が誘導される。但し、十分な誘導作用が認められる限り、一回の投与であってもよい。また、ヒト関節リウマチ様の病態を誘導するのに十分な量なるようにII型コラーゲン等の投与量を設定する。具体的には例えば、TG動物がマウスであってII型コラーゲンを投与する場合には例えば1回あたりの投与量を0.001mg~0.05mg、好ましくは0.01mg~0.05mgとする。尚、ヒト関節リウマチのモデル動物として従来使用されているH-2qハプロタイプのマウスでは一般に、このような少量のII型コラーゲンの投与ではヒト関節リウマチ様の病態を良好に誘導することはできない。換言すれば、本発明のTG動物は、ヒト関節リウマチ様の病態を示す感受性が、ヒト関節リウマチのモデルとして従来使用されているH-2qハプロタイプのマウスに比較して高い。
良好な免疫反応を引き起こす目的で、各回の投与を全身の複数箇所に分けて実施することが好ましい。
【0012】
ヒト関節リウマチは慢性的、持続的及び進行性の症状によって特徴づけられる。これまでに開発された、ヒト関節リウマチの症状を示すモデルマウス(collagen-induced arthritis: CIA)では、II型コラーゲンの投与によって関節炎が急激に進行し、ヒト関節リウマチでおこる慢性的、持続的及び進行性の症状を観察し難いものであった。これに対して本発明のTG動物では、ヒト関節リウマチ様の症状が長い時間をかけて徐々に進行する。ヒト関節リウマチは、ステージI(初期)、ステージII(中程度)、ステージIII(高度)、及びステージIV(末期)へと変化する。本発明のTG動物では、このようなヒト関節リウマチに類似した症状の変化が認められる。特に、ステージI及びステージIIの状態を正確に把握することができる。
ここで、「ヒト関節リウマチ様の病態」を特徴づける具体的な症状ないし所見を以下に列挙する。
(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められる。
(2)対称性の関節の腫れが認められる。
(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる。
(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる。
(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる。
(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる。
(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する。
以上の(1)~(7)の特徴をより多く備えるほどヒト関節リウマチを再現した病態となる。従って、本発明のTG動物が上記(1)~(7)の特徴の中から選択される二つ以上(例えば、(1)及び(2)、(1)~(3)、(1)~(4)、(1)~(5)、(4)及び(5)、(4)~(6))を併せ持つことが好ましい。本発明のTG動物は最も好ましい形態において上記(1)~(7)の特徴の全てを併せ持つ。
尚、(1)~(3)は外見(四肢関節における発赤、腫脹など)の評価、赤外線サーモグラフィーによる分析、剖検による組織学的評価等によって確認することができる((3)については経時的な変化を調べる)。(4)は外見評価、X線像評価、核磁気共鳴画像評価、剖検による組織学的評価等によって確認することができる。(5)~(7)は経時的なX線像評価、核磁気共鳴画像評価、剖検による組織学的評価等によって確認することができる。
【0013】
ヒト関節リウマチでは一般に、以下に示す合併症を伴う。従って、このような合併症を伴うことは、ヒト関節リウマチ様の病態を再現していることの指標となる。即ち、以下の合併症が認められる場合には、よりヒト関節リウマチを再現したTG動物であるといえる。
(8)血管炎症が認められる。
(9)間質性肺炎、胸膜炎等が認められる。
(10)貧血等が認められる。
以上の(8)~(10)の合併症をより多く伴うほどヒト関節リウマチを再現した病態となる。従って、本発明のTG動物が上記(8)~(10)の特徴の中から選択される二つ以上(例えば、(8)及び(9)、(9)及び(10)、(8)及び(10))を伴うことが好ましい。本発明のTG動物は最も好ましい形態において上記(8)~(10)の合併症の全てを伴う。
尚、(8)および(9)は血中炎症系マーカー等の測定、組織学的評価等によって確認することができる。(10)は血球算定の際ヘマトクリット値、平均赤血球数等によって確認することができる。
【0014】
本発明のTG動物の作出方法としては、受精卵の前核に直接DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用する方法、ES細胞を利用する方法などを用いることができる。以下では、本発明のTG動物の作出方法として、マウスを用いたマイクロインジェクション法を具体例として説明する。
マイクロインジェクション法では、まず交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵を採取し、そして培養した後にその前核に所望のDNAコンストラクト(外来性DNA)の注入を行う。DNAコンストラクトの形態は特に限定されないが、導入効率の点から直鎖状又は環状であることが好ましい。特に好ましくは、直鎖状に調製したDNAコンストラクトを使用する。導入目的の遺伝子が効率的に染色体に組み込まれ、且つその良好な発現が確保できるようにDNAコンストラクトを調製する。DNAコンストラクトは、上述のCIITA遺伝子等及びII型コラーゲンプロモーターを含む(必要に応じて適当なエンハンサー配列、選択マーカー、複製開始点、ターミネーター配列等を含む)。
注入操作を終了した受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、移植後のマウスを所定期間飼育して仔マウス(F0)を得る。仔マウスの染色体に導入遺伝子が適切に組込まれていることを確認するために、仔マウスの尾などからDNAを抽出し、サザンハイブリダイゼ-ション分析、スロットブロット(ドットブロット)分析、PCR分析等を実施する。
次に、同定されたトランスジェニック個体を他のマウスとの交配に供する。ここでの「他のマウス」としては、H-2q若しくはH-2rハプロタイプのマウス、MRL-1若しくは亜系MRL-lpr+マウス、NZB/KNマウス、SKGマウス、NODマウス、scid/scidマウス、RAG2-deficient マウス、又はLewis ラット等(これらのマウスは例えば日本チャールズリバーから入手することが可能である)、或いは以上の操作の結果得られた他のトランスジェニック個体等を使用することができる。中でも、H-2qハプロタイプのマウスを使用することが好ましい。H-2qハプロタイプのマウスはII型コラーゲンに対し高い頻度でヒト関節リウマチ様の症状を示す一方、雌雄差を示さないことから、これを使用すればヒト関節リウマチ様の病態を良好に再現するTGマウスが得られる。尚、H-2qハプロタイプのマウスは、通常飼育下ではヒト関節リウマチ様の症状を示さない。また、本トランスジーン導入後も同様に誘導しない限りヒト関節リウマチ様の症状を示さない。
【0015】
上記の通り、本発明のTG動物はヒト関節リウマチ様の病態を呈する。従って、本発明のTG動物は、ヒト関節リウマチを研究する上で有効な手段(モデル動物)となる。特に、本発明のTG動物を用いることによって、ヒト関節リウマチ用の薬剤の探索及び効果の検証などを行え、ひいてはヒト関節リウマチの治療法の確立を図ることができる。そこで本発明は第2の局面として、上記のTG動物を用いたヒト関節リウマチ用薬剤のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法は、上記本発明のTG動物においてヒト関節リウマチ様の病態を誘導するステップ(ステップa)と、TG動物に被験物質を投与するステップ(ステップb)と、TG動物においてヒト関節リウマチに特徴的な症状が改善されるか否かを調べるステップ(ステップc)とを含む。
尚、本明細書において「ヒト関節リウマチ用薬剤」とは、ヒト関節リウマチを発症している患者に対してその症状の改善(ある症状の発生を予防することも含む)などを目的として使用される薬剤はもとより、ヒト関節リウマチを発症するおそれのある者に対して予防的に使用される薬剤、さらにはヒト関節リウマチに起因する合併症の予防、又は合併症の症状の改善を目的として使用される薬剤をも含む用語として用いられる。このように、本発明のスクリーニング方法を利用して得られる薬剤は、ヒト関節リウマチの合併症の予防又は治療を目的として使用することもできる。
【0016】
ステップaでは、典型的にはII型コラーゲンの投与によってヒト関節リウマチ様の病態が誘導される。但し、II型コラーゲン以外であっても、本発明のTG動物に導入されたCIITAに直接または関節的に作用してこれを活性化するもの、又はCIITAが異所的に軟骨細胞において産生誘導した組織適合性複合体に結合するような抗原であればヒト関節リウマチ様の病態の誘導に使用できる。すなわち、ヒト関節リウマチにおいてその原因となり得る任意の抗原物質またはその抗原物質を誘導できる物質(誘導物質)を誘導剤として使用することができる。ここでの誘導剤の具体例としては、II型コラーゲン等の抗原の他、プロテオグリカン、プリスタン (2,6,10,4-tetramethylpentodecan)、カチオニック抗原、超音波処理済スタフィロコッカル細胞壁、リポポリサッカライドを挙げることができる。II型コラーゲン等の投与形態(投与方法、投与量など)は、TG動物においてヒト関節リウマチ様の病態を誘導でき、且つ以降の操作に支障のないものとする。投与方法としては例えば皮下、静脈内、動脈内、筋肉、又は腹腔内注射を採用することができる。また投与量は、TG動物がマウスであってII型コラーゲンを投与する場合には例えば1回あたりの投与量を0.001mg~0.05mg、好ましくは0.01mg~0.05mgとする。投与量が少なすぎる場合には十分な誘導効果が得られない。これとは逆に投与量が多すぎる場合には必要以上の免疫刺激が加わり好ましくない。ヒト関節リウマチ様の病態を確実に誘導するため、II型コラーゲンの投与を2回以上実施することが好ましい。
【0017】
II型コラーゲンは例えばヒト、トリ、ウシ、ブタ、ラット、又はマウス由来のものを使用できる。様々な種由来のII型コラーゲンが市販されており、本発明ではこのような市販のものを好適に使用することができる。勿論のこと、常法に従い生化学的手法や遺伝子工学的手法などを用いて調製したII型コラーゲンを使用してもよい。
以下にII型コラーゲンの投与によるヒト関節リウマチ様病態の誘導方法の具体例(TG動物がマウスである場合の一例)を示す。まず、初回免疫として0.01mgのII型コラーゲン(例えばウシ関節軟骨から常法に従って抽出・精製した高純度(例えば純度99%)のII型コラーゲンを0.01M酢酸に溶解し、等量の完全アジュバントと混合したもの)を数カ所に分けてTGマウスに皮下注射する。3週間飼育した後、二次免疫として再度0.01mgのII型コラーゲン(不完全アジュバントを用いる以外は初回免疫の場合と同様に調製したもの)を数カ所に分けてTGマウスに皮下注射する。二次免疫の後、四肢関節における発赤、腫脹等をモニターし、ヒト関節リウマチ様症状が誘導されたことを確認する。必要に応じて剖検により合併症の有無を調べる。
【0018】
ステップbにおける被験物質の投与方法としては経口投与や静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射等を例示することができる。
被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物(核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド等))又は無機化合物を用いることができる。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、細胞抽出液、培養上清などを被験物質として用いてもよい。
【0019】
ステップcにおけるヒト関節リウマチに特徴的な症状とは例えば、上述したように(1)全身において三カ所以上の関節の腫れが認められる;(2)対称性の関節の腫れが認められる;(3)一週間以上継続する関節の腫れが認められる;(4)四肢において骨の破壊、癒着、又は変形が認められる;(5)リンパ球系細胞の浸潤が認められる;(6)肉芽組織形成による軟骨層の破壊及び骨破壊が認められる;(7)関節の変形が初期(ステージI)及び中程度(ステージII)を経て進行する;である。典型的には、ステップcではこれらの症状の少なくとも一つについてその変化(改善されるか否か)が調べられる。
これらの症状に加えて又はこれらの症状の代わりに、ヒト関節リウマチの合併症(例えば、上述したように(8)血管炎症が認められる;(9)間質性肺炎又は胸膜炎が認められる;(10)貧血が認められる)を調べることにしてもよい。複数の症状等について調べる場合におけるその組合わせは任意であって、例えば(1)と(2)の組合わせ、(1)~(3)の組合わせ、(1)~(4)の組合わせ、(1)~(5)の組合せ、(1)~(6)の組合わせ、(1)~(7)の組合せ、(2)~(4)の組合せ、(3)~(6)の組合せ、(7)及び(8)の組合せ、(7)~(9)の組合せなどを採用できる。一般には改善される症状が多くなればそれだけ被験物質の有効性が高まると考えられることから、ステップcにおいてより多くの症状を調べることが好ましい。但し、二つの症状の間で一定以上の相関が認められる場合には、当該二つの症状のいずれかのみを調べることとしてもよい。
【0020】
ステップcにおいて検査対象の症状の改善が認められれば、被験物質がヒト関節リウマチ(又はその合併症)に対する治療効果(予防効果を含む)を有し、有力な薬剤候補であると判定できる。また、特定の症状の進行遅延を指標として被験物質の効果を判定することもできる。即ち、ステップcにおいて検査対象の症状の進行に遅延が認められれば、被験物質がヒト関節リウマチ用治療薬の有力な候補であると判定してもよい。このように特定の症状の進行遅延を指標とする場合には、被験物質を投与しない場合の当該症状の進行推移(基準)を予め測定しておき、この基準に照らして被験物質の効果を判定すればよい。
【0021】
好ましくは、ヒト関節リウマチ様の病態を誘導したTG動物からなり被験物質が投与される群(試験群)と、同様のTG動物からなり被験物質が投与されない群(対照群)を用意し、試験群に被験物質を投与した後にヒト関節リウマチに特徴的な症状の程度を試験群と対照群との間で比較する。比較の結果、例えば試験群では対照群よりも検査対象の症状が改善されていること又は症状の進行が遅延していることが認められれば、被験物質がヒト関節リウマチ用薬剤の有力な候補であると判定できる。このように被験物質を投与する群(試験群)と投与しない群(対照群)とを比較することによれば、被験物質の有効性を容易に且つ高い信頼性で判定することができる。尚、用意した複数のTG動物をまず試験群と対照群とに分け、そして各群に対してII型コラーゲン等の投与を行いヒト関節リウマチ様の病態を誘導することにしても、或いは用意した複数のTG動物に対してII型コラーゲン等の投与を行ってヒト関節リウマチ様の病態を誘導した後に試験群と対照群とに分けることにしてもよい。
試験群及び対照群に含まれる個体数は特に限定されない。一般に使用する個体数が多くなるほど信頼性の高い結果が得られるが、多数の個体を同時に取り扱うことは使用する個体の確保や操作(飼育を含む)の面で困難を伴う。そこで例えば各群に含まれる個体数を1~50、好ましくは2~30、さらに好ましくは5~20とする。
【0022】
本発明のスクリーニング方法によって選択された化合物がヒト関節リウマチ(又はその合併症)に対して十分な薬効を有する場合には、当該化合物をそのまま薬剤の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、ヒト関節リウマチ用薬剤の有効成分として当該化合物を使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
【0023】
特に記載のない限り、本明細書における遺伝子工学的操作は例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)或いはCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参考にして行うことができる。
【実施例1】
【0024】
MHCクラスII転写活性化遺伝子(CIITA遺伝子)を導入したトランスジェニックマウスの作製
以下に示すように、CIITA遺伝子を導入したトランスジェニックマウスをManipulating the mouse embryo, a laboratory manual, second edition, Brigid Hogan et al., Cold Spring Harbor Laboratory Pressに従って作製した。
1.遺伝子導入用ベクター(外来性DNA)の調製
以下の手順で、II型コラーゲンプロモーターの制御下にMHCクラスII転写活性化遺伝子(CIITA遺伝子)が配置されたベクター pCol2fluCIITANeof(図1)を構築した。本ベクターは以下の特徴を有する。1)約1kbpのラットII型コラーゲンプロモーター部の下流にヒトグロビンスプライシング配列がある。2)この直下にヒトCIITAポリAサイトを含むヒトCIITA cDNAが挿入され、この後方にラットII型コラーゲンエンハンサーが配置されている。3)さらにこの下流にPGKプロモーター直下にほ乳類細胞非耐性の薬剤マーカーNeo遺伝子 およびポリA シグナルを配置したカセットが配置されている。4)バックボーンのベクターは、大腸菌を用いた通常のクローニングに用いられる組換え用のDNAを使用出来る。本ベクターでは、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を有するpBR322を用いた。5)予め大腸菌由来のバックボーンのベクター部分を除けるよう PvuI 制限酵素サイトを有する。
最終的には、以上の手順で構築したベクターをPvuI制限酵素処理し、大腸菌由来のバックボーンのベクター部分を除き直鎖状としたものを、DNA結合性を示すビーズ等を用いて精製し、これをインジェクション用のトランスジーンとした。尚、得られたトランスジーンをマウス軟骨培養細胞株であるMG615細胞に遺伝子導入し、細胞表面上にMHCクラスIIタンパク質が発現する事を確認している。DNAは、10mM Tris/0.2mM EDTA 緩衝液にて30~100μg/mlに調節し保存しておく。
【0025】
2.外来性DNAの導入
2-1.マウスの準備
キメラマウスを作製するために用いられるマウスの系統は、SDB/DBA の掛け合わせにより得られるF1世代とした。常法に従い受精卵を調製してインジェクションに用いた。
【0026】
2-2.受精卵の準備
常法に従いHCGを打ち、交配後のメスマウス卵巣より受精卵を得る。受精卵内 pronuclei および granule を確認後、マイクロインジェクションに用いる。
【0027】
2-3.受精卵前核へのマイクロインジェクション
マイクロインジェクションは、一回当たり200個程の受精卵を用いる。マイクロマニピュレーターを用いDNAを注入する。注入用のDNAは、最終的に3μg/mlに調節後、0.22μmのフィルター濾過し、これを用いる。
【0028】
2-4.卵管内移植
予め偽妊診した仮親用のメスマウスを準備する。DNAを注入した胚は、直接仮親の卵管に移植するか、または一日培養後、胚の分裂を確認しこれを移植する。移植は、一匹当たり25~35個の胚を移植する。
【0029】
3.トランスジェニックマウスの同定
得られたトランスジェニックマウスは、サザンブロッティング法により同定した。離乳後、マウスの尾を用い DNA 抽出を行い、これを解析した。サザンブロッティングに用いるプローブは、CIITAのC末端のコーディング領域(ヒトCIITA DNA配列(配列番号1)中2978~3329番目)を用いた。またこの際遺伝子のコピー数を約10程度のものをDBAマウスとのバッククロスに用いた。マウスに導入された遺伝子は、サザンブロッティング法およびPCR法により同定した。
【0030】
4.交配
得られたトランスジェニックマウスをDBAマウスとバッククロスさせた。バッククロスは、遺伝的な背景が99%以上DBAとなるように7世代以上に渡り繰り返す事で系統を遺伝的なバックグランドを純化した。その結果得られたトランスジェニックマウス(CIITAトランスジェニックマウス)を以下の実験に用いた。
【実施例2】
【0031】
トランスジェニックマウスを用いた関節リウマチの誘導試験
1.免疫誘導
実施例1で作製したCIITAトランスジェニックマウスに以下の手順で免疫した。尚、全く同じ一腹の子であるが導入遺伝子を有しないもの、DRB/1jバックグランドを有するマウスを野生型コントロール(6~8週齢)として用いた。
まず初回免疫として0.01mgのII型コラーゲンを数カ所に分けて皮下注射した。尚、ウシ関節軟骨から精製したII型コラーゲン(純度99%、コラーゲン技術研修会製)を0.01M酢酸に容解し、等量の完全アジュバント(DIFCO社製)と混合したものを使用した。
初回免疫から3週間後、2次免疫として再度0.01mgのII型コラーゲンを数カ所に分け皮下注射した。尚、2次免疫には、不完全アジュバントと混合したII型コラーゲンを使用した。
【0032】
2.関節リウマチ様症状の確認
2次免疫後、四肢関節における発赤、腫脹等のモニターリングを行った。その結果、2次免疫後通常のCIAでは数日で四肢関節における強い発赤および腫脹が観察されるが、本トランスジェニックマウスでは四肢における発赤、腫脹が数週間以上に渡り見られた(図2)。コントロールマウスにおいてはほとんどその様な症状を観察できなかった。尚、図3に示した基準でクリニカルスコアを計算し、その結果を図4に示す。
一方、赤外線サーモグラフィー等によるモニターリングによって本トランスジェニックマウスでは関節炎が進行していることが明らかであった。すなわち関節炎が長期間に渡り序々に進行する事が分かった。またこの時期の関節における組織切片を見るとリンパ球系の細胞の関節周辺への浸潤が見られるなど、ヒト関節リウマチの初期における疾病状態が観察された(図5)。モニターリングをさらに継続すると2ヶ月程度を経て四肢における腫脹がさらに進行していた。個体によっては、軽度の寛解を示すものもあるが、基本的には骨破壊が進むために最終的には骨変形などの障害が起きていた(図6)。
トランスジェニックマウスに対して低濃度の免疫及び追加免疫を施し、経時的な骨密度の変化を測定した(図7)。従来のCIA法では、骨密度変化が5週間後に見られ、その後大きな変動を示さないが、一方トランスジェニックマウスでは、炎症の進行のみならず、骨密度変化も徐々に進行して行く。
この他、剖検および血液検査により全体の合併症を検索する。例えば、リウマチによる1次的な呼吸器病変、血管炎、赤血球数の減少を確認する。また通常マウスはSPF状態で飼育および実験を行なっているがこれをコンベンショナルな飼育環境に移す、または飼育環境下でリステリア菌等を接種し、リウマチ状態において2次的な過剰免疫反応等が誘発さることを確認する。加えて、リウマチ治療薬の投与に対する副作用を確認する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物(TG動物)はヒト関節リウマチ様の病態を良好に再現する。本発明のTG動物は、ヒト関節リウマチのモデルとして、ヒト関節リウマチに対する薬剤の開発やヒト関節リウマチの発症機構の解明などに利用され得る。また、ヒト関節リウマチに起因する合併症(血管炎症や関節性肺炎など)に対する薬剤のスクリーニングやその効果の検証にも利用され得る。更には、進行した関節リウマチに対する再生医学的治療法の開発のためのモデルとしても利用され得る。
【0034】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図7】
3
【図2】
4
【図5】
5
【図6】
6