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明細書 :走査型アトムプローブおよび走査型アトムプローブを用いた分析方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4111501号 (P4111501)
登録日 平成20年4月18日(2008.4.18)
発行日 平成20年7月2日(2008.7.2)
発明の名称または考案の名称 走査型アトムプローブおよび走査型アトムプローブを用いた分析方法
国際特許分類 G01N  13/10        (2006.01)
G01N  13/12        (2006.01)
G01N  13/16        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
G01N  27/64        (2006.01)
FI G01N 13/10 H
G01N 13/12 A
G01N 13/12 D
G01N 13/16 A
G01N 13/16 C
G01N 27/62 K
G01N 27/64 B
請求項の数または発明の数 18
全頁数 10
出願番号 特願2002-590391 (P2002-590391)
出願日 平成14年3月22日(2002.3.22)
国際出願番号 PCT/JP2002/002802
国際公開番号 WO2002/093615
国際公開日 平成14年11月21日(2002.11.21)
優先権出願番号 60/278,423
優先日 平成13年3月26日(2001.3.26)
優先権主張国 アメリカ合衆国(US)
審判番号 不服 2006-008960(P2006-008960/J1)
審査請求日 平成16年9月13日(2004.9.13)
審判請求日 平成18年5月8日(2006.5.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
発明者または考案者 【氏名】西川 治
個別代理人の代理人 【識別番号】100105924、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 賢樹
参考文献・文献 特開2000-283909(JP,A)
特開平9-189680(JP,A)
西川治、アトムプローブによる電子材料の原子レベルの解析と3次元走査型アトムプローブの開発、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.100、No.505、p.37-46、2000年12月7日
調査した分野 G01N13/10-13/24
G01N27/62-27/64
特許請求の範囲 【請求項1】
試料の表面を走査する電極と、
前記試料に電圧を供給する電圧供給部と、
前記電圧供給部により、前記試料の表面の原子が電界蒸発するのに十分な電圧を供給したときに、電界蒸発により生成したイオンを検出するイオン検出部と、
前記試料の表面の形状を分析する表面形状分析部と、
を備え、
前記表面形状分析部は、前記電極を探針として前記試料の表面を走査し、
前記電極は、漏斗型の形状を有し、試料側の先端の穴の周囲に、前記探針として機能する突起部を有する
ことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記突起部は、前記電極の先端に上乗せされた極微電極の先端に設けられることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記極微電極は、イオンビームCVD法により形成されることを特徴とする請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記電極は白金により構成され、前記突起部は炭素、タングステン、イリジウム、及び電導性炭化物のうちいずれかにより構成されることを特徴とする請求項2又は3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記試料の表面は平面状の形状を有し、前記表面形状分析部は、前記表面上の突起を探査し、前記電極は、前記突起の先端に位置合わせされ、前記イオン検出部は、前記突起の先端から電界蒸発したイオンを検出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記表面形状分析部は、走査型トンネル顕微鏡であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
前記表面形状分析部は、原子間力顕微鏡であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
前記表面形状分析部は、前記電極と交換可能に設けられた探針により前記試料の表面を走査することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記試料の表面の原子を光励起電界蒸発させるべく、前記試料にレーザー光を照射するためのレーザーをさらに備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
前記イオン検出部は、電界蒸発により生成したイオンの位置を分析可能な位置感知型イオン検出器を含むことを特徴とする請求の範囲1から9のいずれかに記載の分析装置。
【請求項11】
前記イオン検出部は、電界蒸発により生成したイオンの質量を分析可能な質量分析器を含むことを特徴とする請求の範囲1から10のいずれかに記載の分析装置。
【請求項12】
前記電圧供給部により、前記試料の表面の電子が電界放射されるのに十分な電圧を供給したときに、前記電界放射された電子による像を投影する投影部をさらに備えることを特徴とする請求の範囲1から11のいずれかに記載の分析装置。
【請求項13】
電界放射された電子のうち、前記電極に入射した電子の電流値を測定する第1の電流計をさらに備えることを特徴とする請求項12に記載の分析装置。
【請求項14】
電界放射された電子のうち、前記投影部に入射した電子の電流値を測定する第2の電流計をさらに備えることを特徴とする請求項12又は13に記載の分析装置。
【請求項15】
前記第1の電流計または前記第2の電流計により測定された電流値に基づいて、前記電極を位置合わせすることを特徴とする請求項13又は14に記載の分析装置。
【請求項16】
漏斗型の形状を有する電極の、試料側の先端の穴の周囲に形成された突起部を探針として用いて試料の表面を走査して、試料の表面形状を取得する工程と、
前記電極を前記表面にある突起の先端に位置合わせする工程と、
前記試料に正電圧を供給して、表面の原子を電界蒸発させる工程と、
電界蒸発により生成したイオンを検出する工程と、
を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項17】
前記原子を電界蒸発させる工程と、前記イオンを検出する工程とを繰り返し、前記試料における原子の3次元配置を取得することを特徴とする請求項16に記載の分析方法。
【請求項18】
前記試料に負電圧を供給して、表面の電子を電界放射し、その電子を検出する工程と、
前記負電圧の電圧値を変化させたときの、前記電圧値と前記電子の電流値との関係を測定する工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項16又は17に記載の分析方法。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、試料を分析するための分析装置および分析方法に関し、とくに、試料表面を原子レベルの分解能で分析可能な走査型アトムプローブと、その走査型アトムプローブを利用した分析方法に関する。
背景技術
試料の表面を原子レベルで分析するための装置に、電界放射顕微鏡(Field Emission Microscope:以下、「FEM」とも表記する)がある。FEMでは、長く鋭い針状の試料に負の高電圧を印加して、半球面状の針先に高電界を発生させる。この高電界は、電子を表面内に閉じ込めているポテンシャル障壁を引き下げるが、電界が十分に高いと、障壁の幅は約1nmとなり、ハイゼンベルグの不確定性原理により電子がポテンシャル障壁を通り抜けて放射され、針の前方のスクリーンに入射して明暗像を映し出す。放射された電子は、針先の半球面の半径方向へ放射状に放出されるので、スクリーンには、針先の各領域の仕事関数に対応した明暗像が拡大投影される。像の倍率は、針先の曲率半径と針先からスクリーンまでの距離との比にほぼ等しく、曲率半径を100nm、距離を10cmとすると、約百万倍となる。この倍率は、原子の直接観察を可能にするほど高いが、ハイゼンベルグの不確定性原理によると、電子の放射位置の不確定幅が原子間の間隔よりも広いので、分解能は約1nmと低く、個々の原子の分解観察は不可能である。しかし、放射電流密度は、放射領域の仕事関数により大きく増減するので、スクリーン上の各領域でのI-V特性から、微細領域の仕事関数と電子状態を調べることができる。
電子よりもはるかに重い原子を放射させると、位置の不確定幅は0.1nm以下と小さくなるので、個々の原子の直接観察が可能な程度の分解能が得られると考えられる。これを可能とする装置が、電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscope:以下、「FIM」とも表記する)である。FIMでは、FEMの試料容器内にヘリウムやネオンなどの不活性ガスを導入し、針に正の高電圧を印加する。針先に発生する電界が十分に高いと、針先の個々の原子の直上でガス原子が電界イオン化し、陽イオンとなって放射される。この陽イオンの軌跡は、FEMにおける電子とほぼ同じであり、ガスを冷却して熱運動を抑えることにより分解能を上げると、スクリーンには針先の半球面上の原子の配列が直接映し出される。針先に発生する電界がさらに高いと、ガス原子のみならず、針先の表面原子そのものが陽イオンとして脱離する。この電界蒸発を利用して、表面原子を1原子層ずつ剥離していくことにより、表面から順に内部の各層を観察することができる。
FIMにおいて試料を表面から1原子層ずつ陽イオンとして電界蒸発させたときに、蒸発した陽イオンを質量分析器に導入し、蒸発領域の組成分布を原子レベルの分解能で解明できるようにした装置が、アトムプローブ(Atom Probe:以下、「AP」とも表記する)である。APは、FIMにより観察された原子を一つ一つ検出同定できるという優れた機能を持つが、試料は、FEMやFIMと同様に、鋭い針状で、かつ先端の曲率半径が100nm程度以下になるまで研磨したものでなければならない。この様な研磨は、伝導性有機材料、セラミックス、ダイヤモンドなどにおいては容易ではなく、FEM、FIM、およびAPによる観察対象は特定の試料に限られてしまっていた。
本発明者は、上記のような課題を解決すべく、針状の試料を必要としない走査型アトムプローブ(Scanning Atom Probe:以下、「SAP」とも表記する)を開発した。SAPの技術は、たとえば、日本国公開特許公報の特開平7-43373号公報に開示されている。SAPは、漏斗型の微細な引出電極を備えており、この引出電極により平面状の試料を面に沿って走査する。試料面上に数μmの凹凸があり、その突起の先端の位置に引出電極の先端の穴が合うと、先端と穴との間の微細な空間に発生した高電界が、突起先端の原子を電界蒸発させるので、APと同様の分析が可能となる。
SAPの開発により、分析可能な試料の幅は飛躍的に広がった。この優れた機能を有する装置が、より多くの研究者に利用され、素晴らしい研究成果を導き出すために、本発明者は、SAPのさらなる改良に努力を重ねている。
発明の開示
本発明は、こうした現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、より利便性の高い分析装置および分析方法を提供することにある。より具体的には、平面状の試料の表面のうち、任意の領域を選択して分析する技術を提供することにある。
本発明のある態様は、分析装置に関する。この分析装置は、試料の表面を走査する電極と、試料に電圧を供給する電圧供給部と、電圧供給部により、試料の表面の原子が電界蒸発するのに十分な電圧を供給したときに、電界蒸発により生成したイオンを検出するイオン検出部と、試料の表面の形状を分析する表面形状分析部と、を備える。表面形状分析部を備えたことにより、試料の表面の状態を的確に取得し、分析領域を適切に選択することができる。
電極は、漏斗型の形状を有する引出電極であってもよい。引出電極を用いることで、従来のアトムプローブでは分析不可能であった平面状の表面形状を有する試料も分析可能となる。
試料の表面は平面状の形状を有し、表面形状分析部は、表面上の突起を探査し、電極は、突起の先端に位置合わせされ、イオン検出部は、突起の先端から電界蒸発したイオンを検出してもよい。
表面形状分析部は、走査型トンネル顕微鏡であってもよい。表面形状分析部は、原子間力顕微鏡であってもよい。もちろん、分析装置は、これら双方を備えていてもよい。試料の特性に応じて、いずれの顕微鏡を用いるかを選択すればよい。
表面形状分析部は、電極と交換可能に設けられた探針により試料の表面を走査してもよい。表面形状分析部は、電極を探針として試料の表面を走査してもよい。電極は、漏斗型の形状を有し、試料側の先端の穴の周囲に、探針として機能する突起部を有してもよい。アトムプローブのための電極を、走査型トンネル顕微鏡または原子間力顕微鏡の探針としても用いる場合、電極の先端に鋭い針状の突起を設けることにより、表面形状をより精細に取得することができる。
試料の表面の原子を光励起電界蒸発させるべく、試料にレーザー光を照射するためのレーザーをさらに備えてもよい。これにより、従来のアトムプローブでは分析不可能であった低電導性材料も分析可能となる。
イオン検出部は、電界蒸発により生成したイオンの位置を分析可能な位置感知型イオン検出器を含んでもよい。これにより、試料の分析領域における原子配置を取得することができる。イオン検出部は、電界蒸発により生成したイオンの質量を分析可能な質量分析器を含んでもよい。これにより、試料の分析領域における組成を取得することができる。
電圧供給部により、試料の表面の電子が電界放射されるのに十分な電圧を供給したときに、電界放射された電子による像を投影する投影部をさらに備えてもよい。電界放射された電子のうち、電極に入射した電子の電流値を測定する第1の電流計をさらに備えてもよい。電界放射された電子のうち、投影部に入射した電子の電流値を測定する第2の電流計をさらに備えてもよい。第1の電流計または第2の電流計により測定された電流値に基づいて、電極を位置合わせしてもよい。
本発明の別の態様は、分析方法に関する。この分析方法は、第1の探針により試料の表面を走査して、試料の表面形状を取得する工程と、第1の探針またはそれと交換可能に設けられた第2の探針を接地して、表面にある突起の先端に位置合わせする工程と、試料に正電圧を供給して、表面の原子を電界蒸発させる工程と、電界蒸発により生成したイオンを検出する工程と、を含む。
原子を電界蒸発させる工程と、イオンを検出する工程とを繰り返し、試料における原子の3次元配置を取得してもよい。
試料に負電圧を供給して、表面の電子を電界放射し、その電子を検出する工程と、負電圧の電圧値を変化させたときの、電圧値と電子の電流値との関係を測定する工程と、をさらに含んでもよい。このI-V特性から電子状態を知ることができる。
なお、以上のエレメントの任意の組合せや、その表現を方法、装置、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変更したものもまた、本発明の範囲に含まれる。
発明を実施するための最良の形態
図1は、本実施の形態に係る分析装置の一例としての走査型アトムプローブの全体構成を示す図である。図2は、走査型アトムプローブの全体構成を模式的に示す図である。図1および図2において、同様の構成部材には、同一の符号を付している。図2は、図1に示した走査型アトムプローブのうち、一部の構成部材を斜視図により分かりやすく示したものである。必要に応じて、いずれかの図を参照しつつ説明を進める。
走査型アトムプローブ100は、主に、電圧供給部の一例としてのパルス発生器1および直流高圧電源2、試料3の表面を走査する漏斗型の引出電極5、引出電極5と交換可能に設けられた探針4、試料3から電界放射された電子による像を投影する投影部の一例としてのスクリーン9、引出電極5に入射した電子の電流値を測定する第1の電流計6a、スクリーン9に入射した電子の電流値を測定する第2の電流計6b、試料3の表面にパルスレーザー光を照射するレーザー7、試料3から電界蒸発した陽イオンを検出する位置感知型イオン検出器11、試料3から電界蒸発した陽イオンの質量を分析するリフレクトロン型質量分析器13、イオンの飛行時間を測定するタイマー12、および探針4により試料3の表面形状を分析する表面形状分析部20を備える。
この走査型アトムプローブによる試料の分析方法の手順を説明する。まず、試料3に直流高圧電源2から直流バイアス電圧を印加しつつ、接地された引出電極5により試料3の表面を走査し、微細な突起3aを探索する。試料3の表面が研磨されて平坦になっている場合は、ダイシングカッターにより碁盤目状に溝を入れてもよい。溝の深さおよび間隔は、10μm以下であることが好ましい。溝になっていない部分が分析領域となる。試料の腐食効果を研究するために、試料を腐食液またはガス内に置いた後、分析を行ってもよい。腐食領域はくぼむため、分析される領域、すなわちくぼんでいない領域が腐食に強い領域であることが分かる。
引出電極5の先端を試料表面に近づけ、試料3に負電圧を印加すると、試料表面の突起3aと引出電極5の穴との間の微細な空間に負の高電界が発生し、突起3aの先端部分から電子が電界放射される。引出電極5の先端の穴5aの中心が、ちょうど突起3aの先端部分の直上にあるときは、ほぼ全ての放射電子8がスクリーン9に向かって飛行し、突起表面をスクリーン9に拡大投影する。このとき、第2の電流計6bに流れる電流は最大となる。引出電極5の先端の穴5aが突起3aの先端部分からずれると、ほぼ全ての放射電子が引出電極5に向かい、第1の電流計6aにより電流が観測される。このとき、第2の電流計6bに流れる電流は減少する。このように、引出電極5が試料3の表面を走査するとき、第1の電流計6aおよび第2の電流計6bにおいて測定される、電界放射された電子による電流は、試料表面の形状を反映して変化する。この現象を利用して、分析すべき突起3aの先端の位置を推測し、その位置に引出電極5の位置を合わせることができる。
引出電極5の位置を試料3の突起3aの先端に合わせる別の方法は、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:以下、「STM」とも表記する)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:以下、「AFM」とも表記する)、または走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:以下、「SPM」とも表記する)の技術を利用する。図1および図2に示した例においては、SAP100は、引出電極5と交換可能に設けられた探針4を備える。試料が導電性材料の場合は、表面形状分析部20としてSTMを、探針4としてSTM用の探針を用い、試料が絶縁性材料の場合は、表面形状分析部20としてAFMを、探針4としてAFM用の探針を用いればよい。
引出電極5と探針4を交換し、探針4で試料表面を走査して、表面形状分析部20により試料表面の形状を描写する。探針4により、試料表面の形状のみならず、SAP100により質量分析される突起先端の表面の原子配列も描写される。表面形状を描写した後、引出電極5を所望の突起の直上に位置合わせする。この方法によれば、試料表面の形状および原子配列を取得してから、所望の領域を選択し、一層ごとに質量分析を行うことができるので、分析領域の原子配列と組成との相関関係を知ることができる。
引出電極5を表面形状分析部20の探針4として用いてもよい。これについては、図3および図4の説明部分で詳述する。
引出電極5の先端の穴5aの中心と、試料3の突起3aの先端とを位置合わせした後、直流高圧電源2から負のバイアス電圧を試料3に印加し、突起3aの先端から電子を電界放射させる。放射電子8はスクリーン9に入射し、その放射電子による電流値が第2の電流計6bにより測定される。負のバイアス電圧値を変化させて、バイアス電圧値に対する電流値の変化(I-Vプロット)を測定する。これにより、分析領域の電子状態を知ることができる。
つづいて、正の直流バイアス電圧を試料3に印加し、それに重畳させて、パルス発生器1により正のパルス電圧を印加する。直流バイアス電圧とパルス電圧の総和が十分に高いと、突起3aの先端部分の表面原子が電界蒸発して陽イオン8となり、放射電子8とほぼ同じ軌跡を描いてスクリーン9に入射する。試料3が絶縁性材料または半導体材料のような導電性の低い材料である場合は、パルス電圧が効率よく突起3aの先端まで伝わらないので、直流電圧が印加されている試料3に、レーザー7によりパルスレーザー光7aを照射し、光励起電界蒸発により表面原子を陽イオンとして脱離させる。これにより、従来のAPでは測定に適さないとされていた低電導性材料であっても、導電性材料と同様に分析することができる。
電界蒸発した全ての陽イオン8を質量分析するために、スクリーン9を取り外し、陽イオン8を位置感知型イオン検出器11に入射させる。位置感知型イオン検出器11としては、たとえば、米国特許第5,644,128号に開示された装置が好適である。突起3aから位置感知型イオン検出器11までの陽イオン8の飛行時間は、タイマー12により計測される。タイマー12は、パルス発生器1から開始信号を受けて計測を開始し、位置感知型イオン検出器11からの信号で計測を停止することにより、陽イオン8の飛行時間を計測する。検出されたイオンの質量と電荷との比は、イオンの飛行時間、試料3に印加された電圧値の総和、および試料表面から位置感知型イオン検出器11までの飛行経路により得られる。位置感知型イオン検出器11の入射位置と、電界蒸発する前の原子の位置とは一対一に対応しており、電界蒸発により一層ずつ原子を蒸発させて検出することができるので、分析領域を構成する原子の3次元的な配置を得ることができる。たとえば、一辺が40mmで、位置分解能が0.5mmの位置感知型イオン検出器11を用いた場合、80原子×80原子の領域が分析できることになるが、深さ方向に100原子層分析すると、64万個の原子の立体的な組成分布が得られることになる。
飛行時間計測型の質量分析器では、質量の分解能は、イオンの飛行時間計測の正確さに依存する。タイマー12の時間分解能には限界があるので、質量分解能を向上させるには、イオンの飛行経路を長くすることが好ましい。すなわち、飛行経路が長いほど、質量分解能が向上する。本実施の形態のSAP100では、高い質量分解能を実現するために、リフレクトロン型質量分析器13を用いている。分析領域の高分解能質量分析を行うために、位置感知型イオン検出器11を取り外し、スクリーン9を元の位置に戻す。
突起3aの先端から電子を電界放射させて、電子状態を反映した像をスクリーン9に投影する。スクリーン9の探査穴10に所望の分析領域の像があるときに、パルス電圧またはパルスレーザー光を試料3に印加して、表面原子を電界蒸発させる。分析領域から電界蒸発した陽イオンは、探査穴10を通り抜けて、リフレクトロン型質量分析器13の飛行空間に入射する。リフレクトロン型質量分析器13は、直線飛行経路の末端に設けられた第1のイオン検出器14と、入射口側に設けられた第2のイオン検出器15を備える。第1のイオン検出器14は、電界蒸発の後に中性化された原子を検出できる。第2のイオン検出器15は、高い質量分解能でイオンを検出できる。第1のイオン検出器14および第2のイオン検出器15によりイオンが検出されたとき、その信号がタイマーに送られ、イオンの飛行時間が計測される。リフレクトロン型質量分析器13により分析される試料面上の領域は、位置感知型イオン検出器11よりも狭く、たとえば直径数nm程度であるが、位置感知型イオン検出器11よりも高い精度でイオンの質量を分析することができるので、用途に応じて、いずれを用いるかを適宜選択すればよい。
図1および図2に示した実施の形態では、表面形状分析部20は、引出電極5と交換可能に設けられた探針4により試料3の表面を走査して、その形状を分析したが、探針4として引出電極5を用いてもよい。
図3(a)(b)は、引出電極5の試料側の先端の穴5aの周囲に、探針4として機能する突起部を形成した様子を示す。白金製の引出電極の先端に、イオンビームCVD法により、高さが約40μm、基底部の直径が35μm、先端の円環の直径が10μm、円環の厚みが約0.6μmの、炭素またはタングステンの極微電極を上乗せし、その先端の円環上に、高さが約1.2μm、先端半球面の直径が約80nmのピラーと呼ばれる突起を形成した。図3(a)は、CVD法により形成された極微電極を、図3(b)は、その先端のピラーを示す。
図4(a)は、図3(a)(b)に示した引出電極5により得られた試料の表面形状を、図4(b)は、通常のタングステン探針4により得られた試料の表面形状を示す。両図はともに鮮明であって、分解能は高く、像の深さプロファイルを比較してみても差異は認められなかった。以上より、引出電極5の先端に設けられたピラーにより、試料の表面形状が正確に描き出されていることが確認された。なお、本実施の形態では、製作の容易さの観点から、ピラーを炭素またはタングステンにより形成したが、ピラーを構成する材料は、イリジウム、電導性炭化物など、仕事関数が大きく、丈夫な材料が望ましい。
図5は、本実施の形態のSAP100により、人工ダイヤモンドを分析した結果を示す。本実施の形態のSAP100では、試料を鋭い針状に加工する必要がないため、化学蒸着法や高圧高温法等により生成されたダイヤモンドや、純度の異なるグラファイトなどの分析が可能となる。図5は、高圧高温法により生成されたダイヤモンドを分析して得られたマススペクトルであるが、多くの炭素原子がクラスターとして検出されている。このように、本実施の形態のSAPによれば、電界蒸発の際にどの結合が切れてイオンが生成するのかを知ることができるので、原子の結合状態が分かる。
本実施の形態の走査型アトムプローブ100によれば、以下に列記するような優れた効果が得られる。
1)引出電極5を導入したことにより、試料を針状にする必要がなく、平面状の試料であっても、表面に数μm程度の凹凸があれば分析可能である。
2)試料が平面状であるため、パルスレーザー光の照射が容易であり、光励起電界蒸発を利用して、半絶縁性材料も分析可能である。
3)分析速度とデータ処理能力を向上させることにより、ppmからppb以上の微量分析が可能である。
4)電界放射のI-V特性により、分析領域の電子状態の解明が可能である。
5)電界蒸発の際に、弱い結合ほど切れやすいので、イオン種の統計分布から結合状態を知ることが可能である。
また、SAPの利点を、二次イオン質量分析器(SIMS)およびオージェ電子分光器(AES)との比較により列記する。
1)SAPの分解能は、深さ方向では1原子層、横方向では原子レベルであり、組成の3次元分布を原子レベルの高分解能で得ることも可能である。
2)イオン検出器の検出感度は全ての原子、分子について同等であり、AESでは検出できない水素も検出可能である。
3)検出イオン種、とくにクラスターの検出により、試料内部の結合状態の解明が可能である。
4)分析領域からの電界放射電流のI-V特性により、電子状態と組成との関連性を究明することが可能である。
5)検出原子数を増やすことにより、ppmからppb以上の微量分析が可能である。
産業上の利用可能性
以上のように、本発明は、試料の表面を分析する分析装置および分析方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
図1は、本発明を具体化した実施の形態に係る走査型アトムプローブの全体構成を示す図である。
図2は、本実施の形態に係る走査型アトムプローブの全体構成を模式的に示す図である。
図3(a)は、CVD法により引出電極の試料側の先端に形成された極微電極の画像を、図3(b)は、その先端に形成されたピラーの画像を、それぞれディスプレイ上に表示した中間調画像の写真である。
図4(a)は、ピラーを設けた引出電極により得られた試料の表面形状の画像を、図4(b)は、通常のタングステン探針により得られた試料の表面形状の画像を、それぞれディスプレイ上に表示した中間調画像の写真である。
図5は、本実施の形態に係る走査型アトムプローブにより人工ダイヤモンドを分析した結果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4