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明細書 :口腔癌の頚部リンパ節転移予測方法およびその予測に用いる診断キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5046150号 (P5046150)
公開番号 特開2008-054628 (P2008-054628A)
登録日 平成24年7月27日(2012.7.27)
発行日 平成24年10月10日(2012.10.10)
公開日 平成20年3月13日(2008.3.13)
発明の名称または考案の名称 口腔癌の頚部リンパ節転移予測方法およびその予測に用いる診断キット
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00 A
C12N 15/00 F
G01N 33/53 M
G01N 33/566
請求項の数または発明の数 4
全頁数 18
出願番号 特願2006-237793 (P2006-237793)
出願日 平成18年9月1日(2006.9.1)
審査請求日 平成21年5月22日(2009.5.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301032942
【氏名又は名称】独立行政法人放射線医学総合研究所
発明者または考案者 【氏名】今井 高志
【氏名】岩川 眞由美
【氏名】澁谷 均
【氏名】三浦 雅彦
【氏名】吉村 亮一
【氏名】渡邊 裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100064414、【弁理士】、【氏名又は名称】磯野 道造
【識別番号】100111545、【弁理士】、【氏名又は名称】多田 悦夫
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 Nat Genet., 2005 Feb, Vol.37, No.2, p.182-186
Head & Neck, 2000 Oct, Vol.22, No.7, p.662-665
調査した分野 C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
MSR1(NM_138716.1;配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)およびRET(M31213.1;配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の2つの遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能な2種類のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キット。
【請求項2】
さらに、FARP1(CD675885.1;配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の遺伝子に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項に記載の口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キット。
【請求項3】
さらに、ARG1(NM_000045.2;配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、FARP1(NM_005766.2;配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、H19(R83431.1;配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(BC019018.2;配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(AW820586.1;配列番号8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、HHLA2(NM_007072.2;配列番号9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SGCD(NM_172244.2;配列番号10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SFRP4(NM_003014.2;配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、ALOX12(NM_000697.1;配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、LOC146429(AL137382.1;配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、PDZRN3(AL137307.1;配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NCAM1(AV702977.1;配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、WNT11(NM_004626.2;配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、SORCS2(NM_020777.1;配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、MUC15(NM_145650.2;配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、および、NULL(H08012.1;配列番号19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の16の遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項に記載の口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キット。
【請求項4】
さらに、ARG1(NM_000045.2;配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、FARP1(NM_005766.2;配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、H19(R83431.1;配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(BC019018.2;配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(AW820586.1;配列番号8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、HHLA2(NM_007072.2;配列番号9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SGCD(NM_172244.2;配列番号10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SFRP4(NM_003014.2;配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、ALOX12(NM_000697.1;配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、LOC146429(AL137382.1;配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、PDZRN3(AL137307.1;配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NCAM1(AV702977.1;配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、WNT11(NM_004626.2;配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、SORCS2(NM_020777.1;配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、MUC15(NM_145650.2;配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、および、NULL(H08012.1;配列番号19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の16の遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能な16種類のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項に記載の口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔癌の頚部リンパ節転移予測方法およびその予測に用いる診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔癌は、口腔内に発生する悪性腫瘍であって、その90%以上は口腔粘膜より発生する扁平上皮癌である。口腔癌は、根治治療として外科療法や放射線療法があり、UICC(Union International Contre Cancer)分類(2002年)におけるI期、II期での局所制御率が80~90%程度と、比較的高く治癒が望める癌である。
【0003】
口腔癌が治療後にどのような経過をたどるのかを予測するための重要な予後因子として、頚部リンパ節転移が挙げられる。
頚部リンパ節は、口腔原発巣からのリンパ液を流れてくる癌細胞が身体全体に播種しないような、いわば関所の役割を担っており、癌細胞を捉えるとそこで腫大する性質をもっている。腫大した頚部リンパ節は、手術により外科的に摘出される場合が多いが、術後に病理学的に明らかとなる転移リンパ節の数およびリンパ節皮膜外への癌細胞の進展の有無は、予後に直結すると言われている。
【0004】
従って、口腔癌患者の頚部リンパ節への転移を早期に知ることができれば、口腔癌の予後の改善が期待できる。そのために、従来、治療前に頚部リンパ節転移を予測する方法が試みられてきた。以下、従来行われていた2つの頚部リンパ節転移の予測方法について説明する。
【0005】
1つ目の予測方法は、その臨床上の分類により転移予測を行うものである。例えば、舌癌(口腔癌に含まれる)は、臨床上の分類により、腫瘍の形態が3種類(表在性、外向性、内向性)に分類される。このとき、内向性の腫瘍は表在性のものより転移しやすいことが知られている(非特許文献1~3参照)。すなわち、1つ目の予測方法によれば、臨床上の分類により、頚部リンパ節への転移発生率を推定することができる。
【0006】
2つ目の予測方法は、分子病理学的な検索により転移予測を行うものである。癌遺伝子や癌抑制遺伝子、シグナル伝達因子、細胞接着に関わる遺伝子の発現状態を解析することによって、転移するか否かが未知の症例に対して転移予測する試みが行われている。最近では、ポストゲノム時代を迎えて網羅的に発現解析を行うことが可能となり、マイクロアレイ技術を用いた研究も行われつつある(非特許文献4~8参照)。

【非特許文献1】Shibuya H., Hoshina M., Takeda M., Matsumoto S., Suzuki S., Okada N. Brachytherapy for stage I and II oral tongue cancer: An analysis of past cases focusing on control and complications. Int J Radiat Oncon Biol Phys 1993; 26: 51-8.
【非特許文献2】Nakagawa, T., Shibuya H., Yoshimura R., Miura M., Okada N., Kishimoto S., Amagasa M., Omura K. Neck node metastasis after successful brachytherapy for early stage tongue carcinoma. Radiotherapy and Oncology 2003; 68, 129-135.
【非特許文献3】日本口腔腫瘍学会学術委員会編 舌癌取扱い指針 口腔腫瘍, 2005; 17(1), 13-85.
【非特許文献4】Katayama A., Bandoh N., Kishibe K., Takahara M., Ogino T., Nonaka S., Harabuchi Y. Expressions of matrix metalloproteinases in early-stage oral squamous cell carcinoma as predictive indicators for tumor metastases and prognosis. Clinical Cancer Res 2004; 10, 634-640.
【非特許文献5】Myo K., Uzawa N., Miyamoto R., Sonoda I., Yuki Y., Amagasa T. Cyclin D1 gene numerical aberration is a predictive marker for occult cervical lymph node metastasis in TNM stage I and II squamous cell carcinoma of the oral cavity. Cancer 2005; 2709-2716.
【非特許文献6】Chung C., Parker J., Karaca G., Wu J., Funkhouser W., Moore D., Butterfoss D., Xiang D., Zanation A., Yin X,. Shockley W., Weisser M., Dressler L., Shores C., Yarbrough W., Perou C. Molecular classification of head and neck squamous cell carcinomas using patterns of gene expression. Cancer Cell 2004; 5, 489-500.
【非特許文献7】O'Donnell R., Kupferman M., Wei S., Singhal S., Weber R., O'Malley B., Cheng Y., Putt M., Feidman M., Ziober B., Muschel R. Gene expression signature predicts lymphatic metastasis in squamous cell carcinoma of the oral cavity. Oncogene 2005; 24, 1244-1251.
【非特許文献8】Roepman P., Wessels F., Kettelarij N., Kemmeren P., Miles A., Lijnzaad P., Tilanus M., Koole R., Hordijk G,. Vliet P., Reinders M., Slootweg P., Holstege F. An expression profile for diagnosis of lymph node metastases from primary head and neck squamous cell carcinomas. Nature Genetics 2005; 37, 182-186.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した1つ目の予測方法は、頚部リンパ節への転移発生率が集団を対象として確率的に示されたものに過ぎず、個々の症例について頚部リンパ節転移の可能性が予測されていないという問題があった。
【0008】
また、前記した2つ目の予測方法は、個々の症例について頚部リンパ節転移の可能性の予測が期待されるものの、現在において臨床応用されるまでには至っていない。
具体的には、非特許文献4のように、タンパク発現を免疫組織学的方法により判定する場合には、その定量性が主観的であり、再現性ある定量化が難しいため臨床応用は困難である。
【0009】
また非特許文献5は、従来より指摘されていた、cyclin D1のタンパク、mRNAの発現と転移あるいは予後との相関について、遺伝子増幅に感度の高いFISH法を用いて解析した論文であり、正診率が80%程度と高い結果が得られている。しかしながら、FISH法自体が技術を要求する上に、遺伝子増幅の有無の判定も煩雑(200個の間期細胞において20%以上の核に3個以上のsignalが認められることがCCND1の増幅有りと判定する条件である)で、時間や人件費等コストがかかるとの指摘がある。すなわち、判定に至る過程が煩雑でコストが高いため普及していないものと考えられる。
【0010】
非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8は、マイクロアレイを用いた論文である。
非特許文献7は、test groupが4例と少なく検証が十分とはいえない。また、原発巣と転移巣の対比について基礎的な解析を行っており、対象患者についての臨床データを提供しておらず、臨床応用するのは困難である。
【0011】
また、非特許文献6、非特許文献8では、原発巣を治療する際に、頚部に対して予防的頚部郭清術や化学療法や/あるいは術後放射線治療を行っている。リンパ節転移発現の有無を調べるためには頚部に対してwait and see policyをとることが望ましいが、それがなされてはいない。スコア化の方法も不明瞭である。
【0012】
そこで、本発明の目的は、口腔癌と診断された個々の症例について、頚部リンパ節転移の可能性を早期かつ客観的に予測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
また、前記課題を解決するために、本発明の口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キットは、MSR1(NM_138716.1;配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)およびRET(M31213.1;配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の2つの遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能な2種類のオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【0018】
前記口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キットは、さらに、FARP1(CD675885.1;配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の遺伝子に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含む構成としてもよい。
【0019】
前記口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キットは、さらに、ARG1(NM_000045.2;配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、FARP1(NM_005766.2;配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、H19(R83431.1;配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(BC019018.2;配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(AW820586.1;配列番号8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、HHLA2(NM_007072.2;配列番号9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SGCD(NM_172244.2;配列番号10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SFRP4(NM_003014.2;配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、ALOX12(NM_000697.1;配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、LOC146429(AL137382.1;配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、PDZRN3(AL137307.1;配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NCAM1(AV702977.1;配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、WNT11(NM_004626.2;配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、SORCS2(NM_020777.1;配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、MUC15(NM_145650.2;配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、および、NULL(H08012.1;配列番号19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の16の遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含む構成としてもよい。
【0020】
前記口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キットは、さらに、ARG1(NM_000045.2;配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、FARP1(NM_005766.2;配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、H19(R83431.1;配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(BC019018.2;配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(AW820586.1;配列番号8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、HHLA2(NM_007072.2;配列番号9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SGCD(NM_172244.2;配列番号10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SFRP4(NM_003014.2;配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、ALOX12(NM_000697.1;配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、LOC146429(AL137382.1;配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、PDZRN3(AL137307.1;配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NCAM1(AV702977.1;配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、WNT11(NM_004626.2;配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、SORCS2(NM_020777.1;配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、MUC15(NM_145650.2;配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、および、NULL(H08012.1;配列番号19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の16の遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能な16種類のオリゴヌクレオチドを含む構成としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、口腔癌と診断された個々の症例について、頚部リンパ節転移の可能性を早期かつ客観的に予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
(転移予測遺伝子群)
本発明は、口腔癌の原発病変から採取された試料について、口腔癌が頚部リンパ節に転移する症例からなる転移群と、転移しない症例からなる非転移群との間で、下記の表1に示された19種の遺伝子(転移予測遺伝子)の発現量、つまり前記遺伝子から転写されるmRNAの発現量が、統計学的に有意に変化しているという本発明者らの発見に基づいてなされたものである。
なお、本実施形態において、「転移予測遺伝子群」とは、表1に示す19の遺伝子(転移予測遺伝子)のうち複数の遺伝子からなる群である。
【0024】
【表1】
JP0005046150B2_000002t.gif

【0025】
表1において、「Rank order」とは、19種の転移予測遺伝子について、口腔癌の転移予測に好適な順に並べたものである。また、後記するように、口腔癌の転移予測に対し、より好ましくはRank orderが1~3の遺伝子(MSR1、RET、FARP1)であり、さらに好ましくは、Rank orderが1、2の遺伝子(MSR1、RET)が用いられる。
【0026】
また、「NCBI accession no.」とは、各転移予測遺伝子が登録および公開されている米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のデータベースにおいて、各転移予測遺伝子に対して付されている番号である。また、「Symbol」とは、各転移予測遺伝子の名称である。また、「Gene discription」とは、各転移予測遺伝子の概略を説明するためのものである。また、「Permuatational p-value」とは、後記する実施例で示すように、19遺伝子を選定するために行った並べ替え検定におけるp値である。また、「Mean ratio (N+ class) / (N- class)」とは、各転移予測遺伝子において、転移群 (N+ class) と非転移群(N- class)との間での発現量の比を示すものである。
【0027】
(口腔癌の頚部リンパ節転移予測方法)
本実施形態に係る転移予測方法は、前記した転移予測遺伝子群の発現量を測定する工程と、前記転移予測遺伝子群の発現量を、前記転移群および/または前記非転移群における前記転移予測遺伝子の発現量と統計学的に比較することにより、口腔癌が頚部リンパ節に転移する可能性を予測する工程と、を含んでいる。
【0028】
まず、転移予測遺伝子群の発現量を測定する工程について説明する。
【0029】
転移予測遺伝子群の発現量の測定対象となる試料は、口腔癌と診断された被検体の原発病変から採取されるものであって、例えば小線源治療等の治療前に原発病変から採取された試料である。なお、本実施形態においては、試料が採取される被検体としてヒトを想定して説明するが、例えば、マウス、イヌ、サル等の非ヒト動物も被検体に含まれる。
【0030】
また、採取された試料の保存方法は、mRNAが安定に保存されていればよく、特に限定されるものではない。例えば、生検組織を直接以下に示す工程に適用してもよく、また、採取された生検組織を一度パラフィンに包埋して保存されていたものを以下に示す工程に適用してもよい。
【0031】
採取された組織からmRNAを抽出する手法は、当業者が一般に生体成分(組織や細胞)からmRNAを抽出する手法を好適に利用することができる。生体成分(組織や細胞)からmRNAを抽出する手法としては、例えば、フェノール抽出、エタノール沈殿、オリゴdTカラム等が挙げられる。その他、各社から販売されているRNA抽出キット等も好適に利用することができる。
【0032】
転移予測遺伝子群の発現量を測定する手法は、当業者が一般に遺伝子の発現量を測定する手法を好適に利用することができる。遺伝子の発現量を測定する手法としては、例えば、マイクロアレイやノーザンブロット等のハイブリダイゼーションに基づく手法や、RT-PCR(Reversetranscriptase-polymerase chain reaction)法等のプライマー伸長に基づく手法が挙げられる。
なお、転移予測遺伝子群の発現量を測定することができれば、各遺伝子におけるどの部分の発現量を測定してもよい。例えば、当該遺伝子の全長に対応するmRNAの発現量を測定してもよく、その一部分の発現量を測定してもよい。また、例えば、hnRNAの発現量を測定してもよく、スプライシングされて成熟したmRNAの発現量を測定してもよい。
【0033】
前記の測定手法に用いるプライマーまたはプローブに用いられる塩基配列は、採取された試料中に含まれる転移予測遺伝子群のmRNAとそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能であればよい。例えば、前記した転移予測遺伝子の全長にハイブリダイズしてもよく、その一部にハイブリダイズしてもよい。また、キャップ配列やポリアデニル配列を含んでハイブリダイズしてもよく、含んでいなくてもよい。言い換えると、発現量の測定手法に応じて適宜適切な塩基配列が、プライマーまたはプローブとして選択される。そして、このようなプライマーやプローブは、特定の塩基配列を有していることは必要ではなく、その遺伝子が発現しているか否かを確認することができればよい。
【0034】
なお、このような転移予測遺伝子群のmRNAとそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能なプライマーまたはプローブ(オリゴヌクレオチド)を含んだ診断キットを用いれば、容易に本願発明の口腔癌の頚部リンパ節転移予測方法を実施することができる。ここで、「オリゴヌクレオチド」とは、前記した条件を満たすプライマーまたはプローブを意味するものであって、特にその塩基数を規定するものではない。診断キットについての詳細な説明は後記する。
【0035】
次に、転移予測遺伝子群の発現量を、前記転移群および/または前記非転移群における前記転移予測遺伝子の発現量と統計学的に比較することにより、口腔癌が頚部リンパ節に転移する可能性を予測する工程について説明する。
【0036】
この工程において用いられる統計学的な手法としては、例えば、The nearest mean classifier(NMC)法、Diagonal linear discriminant classifier (DLDC)法、k-Nearest neighbor predictor (k-NN)法、Linear support vector machine (linSVC)法(参考文献: Wesels LA, Reinders MJ, Hart AM, et al: A protocol for building and evaluating predictors of disease state based on microarray data. Bioinformatics 21, 3755-3762, 2005.)等の、当業者が一般に2群の差を評価するための統計学的手法を好適に利用することができるが、特にこれらの手法に限定されるものではない。
少なくとも、転移予測遺伝子群の発現量を指標とし、測定された発現量を、前記転移群および/または前記非転移群の発現量と比較することにより、いずれに近いかを評価して、測定対象の口腔癌が頚部リンパ節に転移するか否か判別する工程を含むものである。このとき、所定の閾値を設定し、測定された転移予測遺伝子の発現量が当該閾値を上回っているか下回っているかにより、測定対象の口腔癌が頚部リンパ節に転移するか否か判別する構成としてもよい。
【0037】
(口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キット)
前記したように、本実施形態の口腔癌の頚部リンパ節転移予測用診断キットは、表1に記載の転移予測遺伝子群に示される遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能なプライマーやプローブ(オリゴヌクレオチド)を含むものである。
【0038】
例えば、前記診断キットは、MSR1(NM_138716.1;配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)およびRET(M31213.1;配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の2つの遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能な2種類のオリゴヌクレオチドを含む構成である。
【0039】
また、例えば、前記診断キットは、前記2種類のオリゴヌクレオチドが含まれる構成に、FARP1(CD675885.1;配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の遺伝子に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含む構成である。
【0040】
また、例えば、前記診断キットは、前記3種類のオリゴヌクレオチドが含まれる構成に、さらに、ARG1(NM_000045.2;配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、FARP1(NM_005766.2;配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、H19(R83431.1;配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(BC019018.2;配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(AW820586.1;配列番号8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、HHLA2(NM_007072.2;配列番号9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SGCD(NM_172244.2;配列番号10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SFRP4(NM_003014.2;配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、ALOX12(NM_000697.1;配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、LOC146429(AL137382.1;配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、PDZRN3(AL137307.1;配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NCAM1(AV702977.1;配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、WNT11(NM_004626.2;配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、SORCS2(NM_020777.1;配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、MUC15(NM_145650.2;配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、および、NULL(H08012.1;配列番号19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の16の遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子に特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを含む構成である。
【0041】
また、例えば、前記診断キットは、前記3種類のオリゴヌクレオチドが含まれる構成に、さらに、ARG1(NM_000045.2;配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、FARP1(NM_005766.2;配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、H19(R83431.1;配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(BC019018.2;配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NULL(AW820586.1;配列番号8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、HHLA2(NM_007072.2;配列番号9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SGCD(NM_172244.2;配列番号10で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、SFRP4(NM_003014.2;配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、ALOX12(NM_000697.1;配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、LOC146429(AL137382.1;配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、PDZRN3(AL137307.1;配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、NCAM1(AV702977.1;配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、WNT11(NM_004626.2;配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、SORCS2(NM_020777.1;配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、MUC15(NM_145650.2;配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、および、NULL(H08012.1;配列番号19で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)の16の遺伝子にそれぞれ特異的にハイブリダイズ可能な16種類のオリゴヌクレオチドを含む構成である。
【0042】
なお、前記診断キットに、複数種類のオリゴヌクレオチドが含まれる形態は、例えば、1本のチューブに一括して含まれていてもよく、複数本のチューブに別々に含まれていてもよい。また、診断キットにおけるオリゴヌクレオチドの保存形態は、例えば、TE buffer等の所定の溶液に溶解されていてもよく、所定の担体に結合していてもよく、凍結乾燥されて粉末状となっていてもよい。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想のおよぶ範囲で種々の変更実施を行うことができる。
例えば、本実施形態においては、転移予測遺伝子群の発現量の測定として、転移予測遺伝子群のmRNAの発現量を測定するものとして説明したが、転移予測遺伝子群の発現量を測定することができれば、例えば、cDNA等の他の形態のポリヌクレオチドの発現量を測定することとしてもよい。また、転移予測遺伝子群のmRNAから翻訳されたタンパク質の発現量を測定する構成としてもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、遺伝子を取り扱う一般的な操作の概略を例示したに過ぎないので、前記方法の変法や全く異なる方法も使用できる。
現在、電気泳動装置やPCR装置等を組み合わせて、核酸の抽出、増幅、分離、定量を全自動で行う装置が市販されているので、このような装置を用いることも好ましい。
【0045】
また、本実施形態においては、19種類の転移予測遺伝子のうち、常にMSR1(NM_138716.1)RET(M31213.1)の2つの遺伝子を含む構成の方法および診断キットとして説明したが、本発明の技術思想は、19種類の転移予測遺伝子のうち1種類の転移予測遺伝子を含む構成の方法および診断キット、あるいは、19種類の転移予測遺伝子のうち、任意の2種類以上の遺伝子の組み合わせからなる転移予測遺伝子群を含む構成の方法および診断キットにも及ぶものである。
【実施例】
【0046】
次に、本発明のより具体的な例を実施例によって説明する。
【0047】
<材料および方法>
[マイクロアレイ解析]
本実施例では、まず、口腔癌と診断された患者41例よりインフォームドコンセントを得て、小線源治療前の舌癌組織を生検により採取し、採取された組織についてマイクロアレイ解析を行った。
【0048】
マイクロアレイ解析の詳細は以下の通りである。
採取された組織を直ちにRNAlater (Ambion Inc., Austin, TX)に浸漬した。この浸漬された組織から、ISOGEN (Nippon gene)を用いてtotal RNAを抽出し、さらに、RNeasy (Qiagen, Hilden, Germany)を用いてtotal RNAを精製した。この精製されたtotal RNAに対して、Codelink Expression Assay Reagent Kit (GE Healthcare, Chandler, AZ)を用いてビオチン標識cRNAを合成した。ビオチン標識cRNAを合成するに際してはtotal RNAに対してcDNAを一旦合成する工程を経ている。
【0049】
合成されたビオチン標識cRNAをCodelink Uniset Human 20K I Bioarray (GE Healthcare, Chandler, AZ)にハイブリダイゼーションさせた後、Cy5-Streptavidinで染色し、所定の洗浄操作を行った。
【0050】
なお、Codelink Uniset Human 20K I Bioarrayは、搭載されている遺伝子リストが製造元により開示されているように、UniGeneやRefseq等の公共データベースに登録されている遺伝子から、基礎研究やバイオテクノロジー、ゲノム創薬の研究分野において有用な約20,000種のヒトの遺伝子が、オリゴプローブとしてスポットされているものである。
【0051】
そして、Agilent scanner G2505A (Agilent technologies)を用いてイメージ画像を取得し、このイメージ画像からCodelink Expression 4.0 ソフトウェア(GE Healthcare, Chandler, AZ)を用いて各スポットにおけるCy5の蛍光強度を数値化した。
【0052】
このようなマイクロアレイ解析は、1症例につき2枚のアレイを用いて行った。このとき、ハイブリダイゼーションによるアレイ間の違いを吸収するため、それぞれのアレイにおいて、全てのスポットの蛍光強度の中央値により各スポットの各蛍光強度の除算を行うmedian normalization法を用いて標準化した。そして、標準化された各スポットの蛍光強度の、2枚のアレイ間の平均値を算出した。この平均値を発現強度データ(発現量)として以降のデータ解析に用いた。すなわち、口腔癌患者41例について、1症例につき約20,000種の遺伝子の発現強度データが取得された。
【0053】
[転移予測遺伝子の選定、および、転移予測遺伝子を用いた転移判別モデルの作成]
このようにマイクロアレイ解析により発現強度データが取得された口腔癌患者41例のうち、転移あり11例(転移群)および転移なし11例(非転移群)からなるグループ(以下、「リファレンスグループ」という)を用いて、口腔癌の頚部リンパ節への転移を予測する転移予測遺伝子の選定を行った。また、転移予測遺伝子を用いた転移判別モデルの作成を行った。
【0054】
なお、転移の有無(それぞれの症例が転移群または非転移群のどちらに属するか)の判断は、小線源治療を行ってから平均29ヶ月(範囲11~31ヶ月)経過後に、臨床的に診断することにより判断した。一般に、口腔癌の頚部リンパ節への転移は、90%が1年5ヶ月以内に起こるとされているため、本実施例の経過期間(平均29ヶ月)は、転移を判断するのに充分である。特に、リファレンスグループの転移なし11例(非転移群)は、最短の症例でも組織を採取してから32ヶ月経過後に転移がないと判断しているため、非転移群と判断した後に転移群へと転じる可能性は極めて低い。
【0055】
まず始めに、リファレンスグループの転移群と非転移群とを比較して、発現量の比が2倍あるいは1/2倍より小さい413遺伝子を抽出した。発現量の比は、前記した表1においては、「Mean ratio (N+ class) / (N- class)」の項目に該当する。発現量の比が2倍より大きい場合には、この値が、2以上または0.5以下となる。
【0056】
次に、抽出された413遺伝子について、並べ替え検定(permutation test)を行い、転移群および非転移群の間の発現量の比について、統計的に有意性を検討した。なお、並べ替え検定の検定量としては、2群の平均値の差μ-μ(μ、μはそれぞれ転移あり群、転移なし群の平均)を使用した。
【0057】
並べ替え検定では、まず、転移の有無についての正しいラベルを用い、前記の検定量を求めた。
次に、転移の有無についてのラベルの総数を保ったまま(転移あり11例と転移なし11例)、各サンプルに対してランダムにラベルをつけ、これらの検定量を計算した。一般的な並べ替え検定では、ランダムラベル付けは、1,000回から10,000回程度を用いることが多い。しかしその場合には、確率的な揺らぎの影響が避けられず、計算の度にp値が変動する欠点があるため、本実施例では取りうるすべてのラベル化の組み合わせである2211= 705,432通りを試行した。
p値は、正しいラベルの検定量が正の場合にはそれを上回るものの割合、逆に正しいラベルの検定量が負の場合にはそれを下回るものの割合として求めた。
【0058】
このように、並べ替え検定によりp値<0.01の統計学的有意性を満たす遺伝子を選定すると、表1に示す19遺伝子となった。表1においては、並べ替え検定により求められたp値が、「Permuatational p-value」の項目で示されている。
【0059】
そして、この19遺伝子に関して、leave-one-outクロスバリデーション(LOOCV)を行うことにより、さらなる遺伝子の選定を行った。本実施例におけるLOOCVは、転移群または非転移群から1症例を取り除き、残りの症例で転移判別モデルを構築したときに、初めに除いた症例が転移群または非転移群のどちらに属するかを正確に予測されるかどうかを検定するものである。
【0060】
なお、転移判別モデルの作成にあたり、遺伝子の発現量の絶対量による影響を取り除くため、z-scoreへの変換を行った。z-scoreへの変換は、リファレンスグループの各症例毎に、各遺伝子の発現量から平均発現量を引いたものを、前記各遺伝子の発現量の標準偏差で割ることによって行うことができる。
【0061】
転移判別モデルとしては、重み付け多数決法(Weighted Vote Analysis)を使用した。
本実施例の重み付け多数決法は、リファレンスグループを用いて選定された19遺伝子を用いて予測能(prediction strength:PS)を算出するモデルを作成することで、転移群または非転移群のどちらに所属するか未知の症例yが、どちらに所属するかを予測するものである。
【0062】
重み付け多数決法においては、まず、i番目遺伝子についての重みw(i)を算出した。重みw(i)は、次の(1)式により求めることができる。
【0063】
【数1】
JP0005046150B2_000003t.gif

【0064】
ここで、μ、μは、それぞれ転移群、非転移群の平均であって、σ、σは、それぞれ転移群、非転移群の標準偏差である。
次に、重み付け多数決法において、j番目の症例の発現パターンをx(i, j)と示し、それぞれの遺伝子を用いて重み付け多数決を行うことによってPS(j)を算出した。PS(j)は、次の(2)式により求めることができる。
【0065】
【数2】
JP0005046150B2_000004t.gif

【0066】
また、LOOCVを用いた遺伝子の選定には、各LOOCVのリファレンスグループの結果から得られた、転移群と非転移群とのPSの差を評価し、転移判別モデルの性能の指標とした。
遺伝子選定の手順としては、次の4つのモデルを用いた。
【0067】
モデル1: 並べ替え検定で最もp値が小さい遺伝子から順次追加する。2群の差はt検定で評価した。
【0068】
モデル2: 並べ替え検定で最もp値が小さい遺伝子から順次追加する。2群の差はWilcoxon検定で評価した。
【0069】
モデル3: 並べ替え検定で最もp値が小さい遺伝子を最初のモデルとし、最も改善の度合いが高い遺伝子をひとつずつモデルに追加していく。2群の差はt検定で評価した。
【0070】
モデル4: 並べ替え検定で最もp値が小さい遺伝子を最初のモデルとし、最も改善の度合いが高い遺伝子をひとつずつモデルに追加していく。2群の差はWilcoxon検定で評価した。
【0071】
[選定された転移予測遺伝子を用いた転移判別モデルの検証]
マイクロアレイ解析が行われた前記口腔癌患者41例のうち、転移あり8例(転移群)および転移なし11例(非転移群)からなる前記リファレンスグループとは独立した群(以下、「テストグループ」という)を用いて、選定された転移予測遺伝子を用いた転移判別モデルの予測能について検証を行った。
【0072】
テストグループのデータを重み付け多数決法(Weighted Vote Analysis, WVA)に適用するにあたり、遺伝子の発現量の絶対量による影響を取り除くため、z-scoreへの変換を行った。z-scoreへの変換は、テストグループの各症例毎に、各遺伝子の発現量から平均発現量を引いたものを、前記各遺伝子の発現量の標準偏差で割ることによって行うことができる。なお、このときの平均発現量および標準偏差は、前記したリファレンスグループにおけるz-scoreへの変換と同じ値を用いた。
【0073】
<結果>
表2は、転移予測遺伝子群の19遺伝子の全てを用いた転移判別モデルによって、テストグループの転移予測を行った結果を示している。
【0074】
【表2】
JP0005046150B2_000005t.gif

【0075】
表2において、各症例(症例番号)の各転移予測遺伝子毎に、算出された重み付け多数決値(the weighted votes)が記載されており、これらの値に基づいて「予測能」の欄には各症例毎の予測能(PS)が記載されている。ここで、PSが+となった症例は、口腔癌が頚部リンパ節転移すると予測された症例であって、PSが-となった症例は、口腔癌が頚部リンパ節転移しないと予測された症例である。また、その絶対値が大きいほど、予測される転移または非転移の蓋然性が高まる。
【0076】
そして、表2において、前記したPSによる予測結果と、実際に各症例が転移群(「転移」の欄において+)または非転移群(「転移」の欄において-)のどちらに所属しているかとを照合した結果を、「判定」の欄に示す。「判定」が+の場合は、正しく予測された症例であり、「判定」が-の場合は、正しく予測されなかった症例である。
【0077】
このように、19遺伝子を用いた場合には、転移群8例のうち6例、非転移群11例のうち9例を正しく予測することができ(正答率は79%(15/19))、このときの感度および特異度はそれぞれ0.750、0.818となった。
【0078】
また、モデル1による遺伝子選択では、4遺伝子(MSR1、RET、FARP1、ARG1)が選択された。また、この4遺伝子を用いた転移判別モデルによってテストグループの転移予測を行った結果、転移群8例のうち6例、非転移群11例のうち9例を正しく予測することができ(正答率は79%(15/19))、感度0.750、特異度0.818となった。
【0079】
モデル2による遺伝子選択では、2遺伝子(MSR1、RET)が選択された。また、この2遺伝子を用いた転移判別モデルによってテストグループの転移予測を行った結果、転移群8例のうち5例、非転移群11例のうち10例を正しく予測することができ(正答率は79%(15/19))、感度0.625と特異度0.909となった。
【0080】
モデル3による遺伝子選択では、3遺伝子(MSR1、RET、ARG1)が選択された。また、この3遺伝子を用いた転移判別モデルによってテストグループの転移予測を行った結果、転移群8例のうち6例、非転移群11例のうち9例を正しく予測することができ(正答率は79%(15/19))、感度0.750、特異度0.818となった。
【0081】
モデル4による遺伝子選択では、モデル2と同様に、2遺伝子(MSR1、RET)が選択された。また、この2遺伝子を用いた転移判別モデルによってテストグループの転移予測を行った結果、転移群8例のうち5例、非転移群11例のうち10例を正しく予測することができ(正答率は79%(15/19))、感度0.625と特異度0.909となった。
【0082】
以上の結果を、図1ないし図3を参照して視覚的に理解しやすいように説明する。なお、図1ないし図3において、前記した結果と症例の数が一致していないプロットは、近接するプロット同士が重畳されているものである。
図1は、転移予測遺伝子群の19遺伝子の全てを用いてテストグループの転移予測を行った結果を示す図である。図1において、横軸の左から3列目のTest N+(▼)は、テストグループの転移群であって、左から4列目のTest N-(◆)は、テストグループの非転移群である。横軸の左から1列目と2列目は、参考としてリファレンスグループを示すものであって、1列目のReference N+(■)が転移群、2列目のReference N-(▲)が非転移群である。また、縦軸は、各症例における予測能である。図1に示すように、テストグループにおいて算出された予測能が高い症例は転移群と対応し、予測能が低い症例は非転移群と対応していた。正答率は、前記したように、79%(15/19)であった。
【0083】
図2は、転移予測遺伝子群のなかで、モデル1~4において共通して選択された2つの遺伝子(MSR1、RET)を用いてテストグループの転移予測を行った結果を示す図である。図2における横軸と縦軸とは、図1と同様である。図2に示すように、テストグループにおいて算出された予測能が高い症例は転移群と対応し、予測能が低い症例は非転移群と対応していた。正答率は、前記したように、79%(15/19)であった。
【0084】
図3は、転移予測遺伝子群のなかで、モデル1、3において共通して選択された3つの遺伝子(MSR1、RET、ARG1)を用いてテストグループの転移予測を行った結果を示す図である。図3における横軸と縦軸とは、図1と同様である。図3に示すように、テストグループにおいて算出された予測能が高い症例は転移群と対応し、予測能が低い症例は非転移群と対応していた。正答率は、前記したように、79%(15/19)であった。
【0085】
以上のように、本実施例によれば、19遺伝子全てを用いた転移予測結果と、モデル1~4を用いた転移予測結果とはほぼ変わらず、また、いずれのケースにおいても高い確率で転移予測を行うことができた。従って、これらの2遺伝子群(MSR1、RET)、3遺伝子群(MSR1、RET、ARG1)、4遺伝子群(MSR1、RET、FARP1、ARG1)、19遺伝子群はいずれも、口腔癌の転移の有無に関する予測に有用であると判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】転移予測遺伝子群の19遺伝子の全てを用いてテストグループの転移予測を行った結果を示す図である。
【図2】転移予測遺伝子群のなかで、モデル1~4において共通して選択された2つの遺伝子(MSR1、RET)を用いてテストグループの転移予測を行った結果を示す図である。
【図3】転移予測遺伝子群のなかで、モデル1、3において共通して選択された3つの遺伝子(MSR1、RET、ARG1)を用いてテストグループの転移予測を行った結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2