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明細書 :非平衡状態で合成される中空状炭酸カルシウム粒子及びその合成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5352808号 (P5352808)
公開番号 特開2008-115053 (P2008-115053A)
登録日 平成25年9月6日(2013.9.6)
発行日 平成25年11月27日(2013.11.27)
公開日 平成20年5月22日(2008.5.22)
発明の名称または考案の名称 非平衡状態で合成される中空状炭酸カルシウム粒子及びその合成方法
国際特許分類 C01F  11/18        (2006.01)
FI C01F 11/18 B
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2006-301117 (P2006-301117)
出願日 平成18年11月7日(2006.11.7)
審査請求日 平成21年10月16日(2009.10.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
発明者または考案者 【氏名】高橋 実
【氏名】藤 正督
【氏名】冨岡達也
【氏名】韓 永生
【氏名】遠藤健司
【氏名】渡辺秀夫
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開2005-281034(JP,A)
特開平05-155613(JP,A)
特公昭43-025148(JP,B1)
特開平04-046013(JP,A)
特開平02-153819(JP,A)
特開昭63-103824(JP,A)
調査した分野 C01F 1/00-17/00
特許請求の範囲 【請求項1】
pHが8~13、温度が17℃~28℃の塩化カルシウム水溶液に、炭酸ガスを微気泡にすることなく、前記水溶液1Lに対して0.1L/min~10L/minの流量にて直接的に導入することにより形成せしめられる炭酸イオン系非平衡条件下において合成する中空構造を有する炭酸カルシウムの合成方法。
【請求項2】
粒径が1~10μmで、ナノサイズのバテライト微結晶で構成される殻を有する、チューブ状、略球状または球状である請求項1記載の中空構造を有する炭酸カルシウムの合成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非平衡状態で合成される中空状炭酸カルシウム粒子及びその合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、中空構造(すなわち、物質よりなる殻および内部空洞)を有する粒子は、建材、包装材、衣料品等の様々分野において広く用いられている。中空粒子の製造法については、例えば、非特許文献1に、界面反応等を利用した化学的手法、粉床法等の物理化学的手法、スプレードライング法等の機械的且つ物理的な手法等に分類、整理されている。中空状の炭酸カルシウム粒子を合成する方法についても、様々なものが提案され使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特公平4-51488号公報)においては、水に不溶又は難溶のアルコール中に塩化カルシウム又は硝酸カルシウムを溶解させた後、これに炭酸塩水溶液を滴下、混合させ、アルコールと水との界面において炭酸カルシウムを生成させ、中空粒子を形成させる方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2(特開平5-154374号公報)においては、炭酸カルシウム粒子およびケロシン(油)を塩化カルシウム溶液に加え、攪拌することにより、水中の油滴表面を炭酸カルシウムで被覆し、これにグリセリン(増粘剤)と塩化カルシウム溶液を加え、攪拌させながら水酸化ナトリウム溶液(pH調整剤)を徐々に加えた後、空気中の炭酸ガスと反応させる事により、油滴表面を被覆していた炭酸カルシウム粒子間に新たな炭酸カルシウム粒子微結晶を析出させ、炭酸カルシウムの殻を形成させる。この生成物をエタノールに浸漬させ、内部のケロシン油を除去することで、中空炭酸カルシウム粒子を得る事が出来るとされている。
【0005】
さらに、特許文献3(特開平6-127938号公報)には、カルシウム塩水溶液を炭酸ガスとともに300~1500℃に加熱された反応容器内に噴霧させ、カルシウム塩と炭酸ガスを反応させることにより、中空・球状の炭酸カルシウム粒子を製造方法が開示されている。また、特許文献4(特開平8-169982号公報)においては、ラテックスと水酸化カルシウムとの混合物に二酸化炭素を添加することで、表面が炭酸カルシウムでコートされたラテックス粒子を生成させ、これを焼成することによって、ラテックス芯粒子を燃焼除去することで、中空炭酸カルシウム粒子を製造する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの従来の方法は芯物質を除去する工程や高温を要する工程を含んでおり、複雑な工程を必要とする。これに鑑み、本発明の発明者の一部(高橋、藤、富岡)らは、特許文献5(特開2005-281034号公報)において、アンモニアを含む塩化カルシウム水溶液中に100μm以下の炭酸ガス微気泡を吹き込み、炭酸ガス気泡表面で塩化カルシウム微結晶を生成且つ凝集成長させることで、炭酸カルシウム中空粒子を製造する方法を提案した。


【非特許文献1】日本粉体工業技術協会編、「造粒ハンドブック」、オーム社、1991年3月
【特許文献1】特公平4-51488号公報
【特許文献2】特開平5-154374号公報
【特許文献3】特開平6-127938号公報
【特許文献4】特開平8-169982号公報
【特許文献5】特開2005-281034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献5で提案した炭酸カルシウム中空粒子を製造する方法は、気泡を核とすることで、プロセスの簡略化および低い環境負荷を実現した製造法であるが、現状では、中空粒子の形成メカニズムに不明な点が少なく無く、中空状の粒子が形成される収率が満足なものではない、という問題点を有している。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、その解決課題とするところは、
新規材料として有利に用いることが出来る中空構造を有する炭酸カルシウム粒子を提供することにあり、また、そのような中空構造を有する炭酸カルシウム粒子を簡便且つ低環境負荷な合成の操作条件により生産性および収率を向上した合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明の中空構造を有する炭酸カルシウム及びその合成方法は、塩化カルシウムなどのカルシウム塩水溶液に、炭酸ガスを比較的高流量で直接的に導入することにより形成せしめられる炭酸イオン系非平衡条件下において合成するものである。
請求項2記載の発明の中空構造を有する炭酸カルシウム及びその合成方法は、請求項1記載の発明の中空構造を有する炭酸カルシウム及びその合成方法において、溶液、pH、温度及び炭酸ガス流量等から選ばれた少なくとも1種以上の操作条件を適宜設定及び制御することにより、中空構造を有する炭酸カルシウム粒子のサイズ及び/又は形態等を制御可能であることを特徴とする。
炭酸ガス流量および通気時間、原料濃度、反応温度、pH等といった操作条件を変化させることで、非平衡状態を制御することにより、合成される炭酸カルシウム粒子の形態・形状を制御すること、とりわけ、比較的高流量での炭酸ガス通気且つ高い初期pH条件において、高い割合で中空状の炭酸カルシウム粒子が合成可能であり、
請求項3記載の発明、すなわち、粒径が1~10μm程度で、ナノサイズのバテライト微結晶で構成される殻を有する、リング状、略球状及び球状である中空構造を有する炭酸カルシウムを得ることが出来る。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明の中空構造を有する炭酸カルシウムにあっては、従来の炭酸カルシウム粒子合成法(特許文献1~4など)に比べ、芯粒子除去の工程や高温操作プロセスを省略することで、簡便且つ低環境負荷な合成プロセスの実現が可能である。
また、特許文献5の方法に比べ、炭酸ガス微気泡発生の為の特殊な装置およびそれに係る操作無しに、中空状の炭酸カルシウム粒子を合成可能になり、合成プロセスの更なる簡便化を図ることが可能である。これにより中空状粒子合成の生産性および収率が向上出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施例について図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0012】
原料溶液としては、アンモニア水および塩化水素水溶液を適宜添加する事によってpHをアルカリ側に調整した0.1 mol/Lの塩化カルシウム水溶液を用いる。この原料溶液を適当な容器に投入し、これを恒温槽に浸すことで温度を常温の範囲で一定に保つ。
そして、適宜攪拌されたこの原料溶液に、炭酸ガスをボンベから流量計を介し一定流量で導入する。このとき、炭酸ガスは、気泡発生装置などを用いて微気泡にする必要はなく、各種材料のチューブから直接溶液へ吹き込む。炭酸ガスの導入流量は、原料溶液の容量によって異なってしかるべきであるが、例えば、1Lの原料溶液に対しては、炭酸ガス流量3 L/min程度と、比較的高流量である。
炭酸ガス導入を暫くの間継続すると、やがて反応溶液は目視においても白濁が認められるようになる。これは炭酸カルシウム粒子が生成したことを意味する。この時、溶液内で起こり得る一連の化学反応を以下に示す。
【0013】
【化1】
JP0005352808B2_000002t.gif

【0014】
式1は、炭酸ガスの溶存平衡の式である。
【0015】
【化2】
JP0005352808B2_000003t.gif

【0016】
式2は、炭酸イオン系平衡の式である。
【0017】
【化3】
JP0005352808B2_000004t.gif

【0018】
式3は、炭酸カルシウム生成反応の式である。
原料溶液に吹き込まれた炭酸ガスは一部溶存し(式1)、これは水と反応してH2CO3となり、これの解離により(式2)に示した通りの炭酸イオン平衡を右側にシフトさせ、結果として炭酸イオン(CO32-)の濃度が増加する。この炭酸イオンとカルシウムイオン(塩化カルシウムから解離)との反応により炭酸カルシウムが生成する(式3)。このとき、反応(式1)の炭酸ガスの溶存による炭酸イオンの増加の効果、および反応(式3)の炭酸カルシウム生成による炭酸イオンの消費の効果のバランスにより、この系全体としては一種の化学非平衡状態となる。
この事の証明として、反応溶液を光学フローセルに循環させることで、反応溶液の波長850nmの透過光強度(濁度)を経時的に計測した。反応溶液の温度が17℃の場合、炭酸ガス導入開始から430秒において透過光強度の急激な減少、すなわち炭酸カルシウムの生成が認められた。これに対し、反応温度が28℃の場合には、110秒で炭酸カルシウムの生成が認められた。
この事実は、導入される炭酸ガスが反応(式1)の溶存過程およびそれに伴う反応(式2)の炭酸イオン系平衡を右側にシフトさせる事による炭酸イオンの増加のみに寄与し、その結果として十分に炭酸イオンの濃度が上昇したところで初めて反応(式3)の炭酸カルシウム生成反応が進行することを意味する。また、反応溶液の温度により炭酸カルシウム生成開始までに要する炭酸ガス通気時間が異なった事実は、反応(式1)~(式3)に示した各種反応の平衡定数の温度依存性によるものであり、この系全体が(式1)~(式3)に示した一連の平衡反応の非平衡状態となっていることの傍証となり得る。
さて、この非平衡状態において合成される炭酸カルシウム粒子のサイズ・形態・結晶相等は、各種実験操作条件によって異なる。
たとえば、原料塩化カルシウム水溶液250mLに対して炭酸ガスを2mL/minという低流量で2時間通気させることによって生成した炭酸カルシウムは、鱗片形状の粒子が大多数であった。これに対して、例えば、1Lの原料溶液に対して炭酸ガス流量3 L/minなどと高流量にした場合、反応温度28℃に条件では数分にて溶液の白濁が認められ、得られた炭酸カルシウム粒子には、中空状のものが多く認められた。
この条件で、合成された炭酸カルシウム粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)画像の数例を図1~3に示す。これらの粒子は、原料塩化カルシウム溶液の初期pHが10.30(図1)、10.00(図2)、9.55(図3)であり、これが0.15低下するまで炭酸ガスを通気することによって得られたものである。これらの図より、おおよそ粒径1μmの中空状の炭酸カルシウム粒子が形成されているのが分かる。ここでSEM画像により内部空隙が見受けられるということは、合成された中空粒子が実験操作上のいずれかの工程において破断された結果、乃至は中空構造の形成過程の状態であると考えられる。また、図1、2においてはチューブ状の中空粒子が多く、図3では略空状および球状の中空粒子が多く見受けられる。このことは、非平衡状態におけるpHを制御することで種々の形態を持つ中空炭酸カルシウム粒子を合成することが可能であることを示している。
なお、これらの炭酸ガスを高流量で通気した場合に得られた炭酸カルシウム粒子は、バテライト結晶相であったのに対し、前述の低流量通気の場合にはカルサイト結晶相も一部見受けられた。このことは非平衡状態の制御により得られる炭酸カルシウム粒子の結晶相を制御できる可能性を示している。
以上のように、本発明は、反応(式1)~(式3)からなる化学非平衡状態を実験操作条件(炭酸ガス流量および通気時間、原料濃度、反応温度、pH等)を変化させることで制御することにより、合成される炭酸カルシウム粒子の形態・形状を制御すること、とりわけ、比較的高流量での炭酸ガス通気且つ高い初期pH条件において、高い割合で中空状の炭酸カルシウム粒子が合成可能であることを、骨子とするものである。
上記実施例において原料として、塩化カルシウム以外の水溶性の塩を用いることができる。例えば、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウムなどを用いることができる。
また、溶液pH、温度、炭酸ガス流量等の操作条件を適宜設定及び制御することにより、合成される中空状炭酸カルシウム粒子のサイズ・形態等を制御可能であり、上記実施例の原料である塩化カルシウム濃度を変化させ、pHを例えばpH8~13、好ましくは10.30から9.40とすることが出来、また、反応温度は、17℃~28℃の範囲の一定温度で行うことが出来る。 炭酸ガスの導入流量は、反応溶液1Lに対して3L/minのガス流量、もしくは、例えば、0.1 L/minから10 L/minのガス流量。また、この割合に類似したガス流量と反応溶液量の組み合わせを用いることが出来る。炭酸ガス導入チューブとして各種材質(金属、プラスチック等)を用いることが出来、その直径は例えば、数ミリから数センチである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の中空構造を有する炭酸カルシウム及びその合成方法は、中空構造を有する炭酸カルシウムが高い空隙率、嵩密度等の特徴を有し、分子フィルター等の新規材料として利用することが期待され、また、中空状の炭酸カルシウム粒子を簡便且つ安価に合成方法として産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】反応温度28℃、原料塩化カルシウム溶液の初期pHが10.30、合成実験終了時pHが10.05のときの合成された炭酸カルシウム粒子のSEM(走査電子顕微鏡)像である。
【図2】反応温度28℃、原料塩化カルシウム溶液の初期pHが10.00、合成実験終了時pHが9.85のときの合成された炭酸カルシウム粒子のSEM(走査電子顕微鏡)像である。
【図3】反応温度28℃、原料塩化カルシウム溶液の初期pHが9.55、合成実験終了時pHが9.40のときの合成された炭酸カルシウム粒子のSEM(走査電子顕微鏡)像である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2