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明細書 :振動刺激療法装置及びコンピュータプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4852741号 (P4852741)
公開番号 特開2006-346108 (P2006-346108A)
登録日 平成23年11月4日(2011.11.4)
発行日 平成24年1月11日(2012.1.11)
公開日 平成18年12月28日(2006.12.28)
発明の名称または考案の名称 振動刺激療法装置及びコンピュータプログラム
国際特許分類 A61H   1/02        (2006.01)
A61H   1/00        (2006.01)
FI A61H 1/02 G
A61H 1/00 311D
A61H 1/00 311Z
請求項の数または発明の数 5
全頁数 15
出願番号 特願2005-175244 (P2005-175244)
出願日 平成17年6月15日(2005.6.15)
審査請求日 平成20年5月30日(2008.5.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
発明者または考案者 【氏名】川平 和美
【氏名】辻尾 昇三
【氏名】末吉 靖宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100090273、【弁理士】、【氏名又は名称】國分 孝悦
審査官 【審査官】松田 長親
参考文献・文献 国際公開第2004/037344(WO,A1)
特開2004-141384(JP,A)
特表2000-504240(JP,A)
七辺 一三,”緊張性振動反射の臨床的検討”,千葉医会誌,1972年,第48巻,p.141-147
中野 治郎、外2名,”振動刺激を利用した関節可動域制限の治療法”,理学療法探求,2004年,第7巻,p.24-28
調査した分野 A61H 1/02
A61H 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
随意運動を誘発する目的で患者の所定の部位に振動刺激を与えるための複数の振動刺激装置と、
前記各振動刺激装置の起動及び停止を制御する制御手段と、
前記患者の所定の部位の運動情報を検出して、前記制御手段に伝達する検出装置とを備え、
前記制御手段前記各振動刺激装置に時間差をつけて独立に起動及び停止を制御するように、前記各振動刺激装置の起動及び停止するタイミングが設定可能であることを特徴とする振動刺激療法装置。
【請求項2】
前記所定の部位は上肢の運動に関与する部位、又は、下肢の運動に関与する部位であり、前記随意運動は上肢又は下肢の伸展及び屈曲運動、内転及び外転運動、並びに内旋及び外旋運動のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の振動刺激療法装置。
【請求項3】
前記各振動刺激装置は、上肢の運動に関与する部位、又は、下肢の運動に関与する部位に固定された状態で、これら上肢又は下肢の随意運動が可能である大きさであることを特徴とする請求項2に記載の振動刺激療法装置。
【請求項4】
前記すべての振動刺激装置に共通する周期が設定可能であり、その設定した周期中で前記各振動刺激装置の起動及び停止するタイミングが設定されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の振動刺激療法装置。
【請求項5】
随意運動を誘発する目的で患者の所定の部位に振動刺激を与えるための複数の振動刺激装置と、前記患者の所定の部位の運動情報を検出する検出装置とを用いて振動刺激療法を行うためのコンピュータプログラムであって、
制御手段が前記各振動刺激装置に時間差をつけて独立に起動及び停止を制御するように、前記各振動刺激装置が起動及び停止するタイミングをユーザに設定させる処理をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経疾患のリハビリテーションに利用して好適な振動刺激療法装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
リハビリテーションは「障害を受けた者を、その者のなし得る最大の身体的・社会的・職業的・経済的な能力を有するまでに回復させることである」と定義される(全米リハビリテーション協議会、1942年)。そして、リハビリテーションは、急速な高齢化・少子化をむかえた現在の日本にとって最も社会的な課題の一つである。その中でも、医学的リハビリテーションのための機器の開発は、医学的な知識に加えて、工学的な知識も必要とされる問題であり、医療と工学の連係が重要である。
【0003】
全国で脳卒中の患者数は173万人と推計されている(平成8年患者調査)。脳卒中とは、血管病変による脳の障害の総称であり、その症状の一つに片麻痺(半身麻痺、半身不随)がある。片麻痺とは、脳卒中により大脳にある神経細胞から脊髄に伝わる神経の経路に損傷がおきるために随意運動が困難になる障害である。患者のQOL(生活の質)を回復するためにも、脳卒中による片麻痺に対して効果的なリハビリテーション療法を施すことは重要である。
【0004】
片麻痺に対するリハビリテーション療法の目的は、患部に運動の誘発を起こし運動の反復を行うことで神経回路を再形成し、運動機能を回復させることである。そして、その方法としては、機能的電気刺激法や促通反復療法が知られている。機能的電気刺激法は、電気刺激を患部に与えることにより運動の誘発を起こす方法である。一方、促通反復療法は、療法士による外的な操作(刺激)を患部に与えることにより運動の誘発を起こす方法である。
【0005】

【非特許文献1】村岡 慶裕、外3人、「電気刺激装置開発」、総合リハ、31巻4号、315~321、2003年4月
【特許文献1】特開2004-313555号公報
【特許文献2】特開2003-144556号公報
【特許文献3】特開2001-293097号公報
【特許文献4】実用新案登録第3041871号公報
【特許文献5】特開2004-275422号公報
【特許文献6】特開2003-52769号公報
【特許文献7】特開2003-52770号公報
【特許文献8】特開2003-79683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、機能的電気刺激法は、患者の意図とは無関係に直接筋を電気刺激して麻痺肢の運動を起こすものであり、大脳から筋に到る神経路に繰り返し興奮を伝えるのに有効な方法とはいえない。
【0007】
それに対して、促通反復療法は、筋の深部覚に効果的な刺激を与え、患者が意図する随意運動を補助するものである。随意運動とは、大脳によって神経を通して制御される身体運動であり、随意運動の反復は脳卒中患者へのリハビリテーションとして効果がある。しかしながら、促通反復療法は、療法士が患者に対して一対一で行うため、人手や時間が必要とされる。
【0008】
従来から提案されている運動発現を助長するための技術が開示された文献を挙げると、以下のようなものがある。
【0009】
非特許文献1等にあるように、リハビリテーション医療の現場において電気刺激装置が用いられている。これらの装置による機能的電気刺激は、随意性の低下した麻痺肢に目的とした動作が可能となるように電気刺激を与えて機能を実現する手法である。しかしながら、電気刺激は恒常的に与える必要(機能的電気刺激歩行補助装置(特許文献1)や足踏み運動アシスト用機能的電気刺激装置(特許文献2))があり、本発明が目指す神経回路を再形成し、運動機能を回復させる目的には使うことは難しい。
【0010】
また、低周波治療装置の開発も盛んである(特許文献3等)が、鎮痛目的等であり、本発明のように運動機能を回復させる目的には使うことは難しい。
【0011】
また、振動装置としては市販の按摩器等がよく知られており、例えば特許文献4に開示された振動機構を内蔵したマッサージ器がある。これらは、筋肉の凝りの軽減や麻痺肢の筋緊張の調整に用いられるが、上肢や下肢の運動状態における使用法は皆無である。また、振動装置は比較的大きなものが多く、運動に関与する筋のみに直接作用できる大きさのものはない。半側無視患者の無視方向への注意を高める目的等を含め、治療目的に振動刺激を与える場合も静止した状態で行われている。
【0012】
また、運動療法と物理療法の同時併用装置の制御方法(特許文献5)において、人の筋肉に圧力刺激や振動刺激を与える手段があるが、運動中の麻痺筋に刺激を与え、本発明が目指す神経回路を再形成し、運動機能を回復させるための手段を提供しているものではない。
【0013】
また、上肢及び下肢の運動療法装置として特許文献6~8に開示されたものがあるが、随意運動を誘発するために振動刺激が与えられていない。
【0014】
以上に述べたように、従来技術では、上肢や下肢の運動中に、運動に関与する筋群の各部位に機能的に振動刺激を与え、随意運動を誘発する目的に使用することができない。また、電気刺激は随意運動を誘発する手段として副作用もあり適切ではなく、振動刺激ほど安全に深部覚に直接作用する手段は見当たらない。
【0015】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、大脳から筋に到る神経路の興奮水準を調整するために運動に関与する筋の深部覚に効果的な刺激を与えることができ、外的な操作を与える療法士の役割を補うことのできる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明による振動刺激療法装置は、随意運動を誘発する目的で患者の所定の部位に振動刺激を与えるための複数の振動刺激装置と、前記各振動刺激装置の起動及び停止を制御する制御手段と、前記患者の所定の部位の運動情報を検出して、前記制御手段に伝達する検出装置とを備え、前記制御手段前記各振動刺激装置に時間差をつけて独立に起動及び停止を制御するように、前記各振動刺激装置の起動及び停止するタイミングが設定可能である点に特徴を有する。
本発明によるコンピュータプログラムは、随意運動を誘発する目的で患者の所定の部位に振動刺激を与えるための複数の振動刺激装置と、前記患者の所定の部位の運動情報を検出する検出装置とを用いて振動刺激療法を行うためのコンピュータプログラムであって、制御手段が前記各振動刺激装置に時間差をつけて独立に起動及び停止を制御するように、前記各振動刺激装置が起動及び停止するタイミングをユーザに設定させる処理をコンピュータに実行させる点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、随意運動を誘発する目的で患者の所定の部位に振動刺激を与えるための一又は複数の振動刺激装置により、例えば片麻痺上肢や片麻痺下肢の運動に関与する筋の深部覚に効果的な刺激を与えることができ、神経回路を再形成し、運動機能を回復させることができる。これにより、外的な操作を与える療法士の役割を補うとともに、新たな促通的反復訓練が可能な装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本実施形態では上肢の伸展及び屈曲運動を例にして説明するが、本発明は、上肢又は下肢の伸展及び屈曲運動、内転及び外転運動、内旋及び外旋運動にも適用することが可能である。
【0019】
<ハードウェア構成>
図1に、本実施形態の振動刺激療法装置の概略構成を示す。同図において、1は小型の振動刺激装置であり、患者の上肢101の運動に関与する部位に取り外し可能に固定され、随意運動を誘発する目的で振動刺激を与える。振動刺激装置1は、例えば携帯電話に用いられているような小型の振動モータ(振動数100Hz前後、本実施例では116Hz)に、直径2cm程度、厚さ1.5mm程度の円形アルミ板を取り付けたものである。本実施形態では、振動刺激装置1が0~7までの合計8チャンネルある。
【0020】
2は振動刺激装置1用の電源であり、例えばDC電源が用いられる。
【0021】
3はディスプレイ3aを備えたパーソナルコンピュータPCであり、振動刺激発生プログラムに従ってスイッチ開閉信号を出力する。
【0022】
4は2つのタッチスイッチ5a、5bやEMG測定器8といった上肢101の運動情報を検出する検出装置に接続するA/D変換器、6は振動刺激装置1に接続するスイッチ回路、7はスイッチ回路6に接続するD/A変換器である。スイッチ回路6は、例えばD/A変換器7から出力されるスイッチ開閉信号の電圧が0Vのときに振動刺激装置1の振動モータの状態をオフにし、5Vのときにオンにする。このスイッチ回路6により、各振動刺激装置1の起動及び停止を制御することができる。
【0023】
5a、5bはリハビリテーション用のタッチスイッチ(ビッグスイッチ)であり、円形の押部51a、51bのどの部分を押しても軽い力で作動するものを使用する。タッチスイッチ5a、5bは例えば青と黄に色分けされている。また、タッチスイッチ5a、5bは、患者の麻痺の症状に合わせた訓練や検査が可能となるように複数種、例えば押部51a、51bの直径が13cmのものと、その半分の6.5cmのものを準備する。直径が6.5cmのものでは、押部51a(51b)の上に直径3cmの押部を更に固定している。
【0024】
8はEMG測定器であり、患者の上肢101に固定された電極により筋電位を測定し、その測定値をA/D変換器4を介してパーソナルコンピュータ3に伝える。筋電位は上肢101の動作に応じて発生するので、パーソナルコンピュータ3では、筋電位の信号波形に基づいて上肢101の動作情報を検出することができる。このEMG信号に基づいて、振動刺激装置1の起動及び停止の制御を行ってもよい。
【0025】
このようにした振動刺激療法装置では、パーソナルコンピュータ3から出力されるスイッチ開閉信号をD/A変換器7によりアナログデータに変換し、スイッチ回路6に入力することにより振動刺激装置1の起動及び停止を制御することができる。パーソナルコンピュータ3上の振動刺激発生プログラムは、上肢101の運動情報に基づいて、複雑な振動刺激装置1の起動及び停止のパターンを作ることができるようになっている。
【0026】
また、タッチスイッチ5a、5bのオン/オフによって発生する電圧をA/D変換器4によりデジタルデータに変換し、パーソナルコンピュータ3に入力することができる。タッチスイッチ5a、5bは、上肢101の伸展及び屈曲運動によってオンするようにされ、伸展状態や屈曲状態を検出したり、伸展及び屈曲運動に要する時間を計測、記録したり、各振動刺激装置1を起動状態や待機状態にしたりするのに使用される。
【0027】
図2には、本実施形態の振動刺激療法装置の各部の関係を示す。同図に示すように、随意運動を誘発する目的で患者の上肢101の運動に関与する部位に振動刺激を与えるための振動刺激装置1と、上肢101の運動情報を検出する検出装置5a、5b(8)と、検出装置5a、5b(8)から伝達される上肢101の運動情報に基づいて、各振動刺激装置1の起動及び停止を制御する制御手段たるパーソナルコンピュータ3とにより、閉ループが構成される。
【0028】
本実施形態においては、パーソナルコンピュータ3、スイッチ回路6等が相俟って本発明でいう制御手段を構成する。
【0029】
<訓練・検査方法>
図1に示したように、振動刺激装置1は、上肢101の伸展及び屈曲運動に関与する筋肉上にて、例えば医療用テープにより上肢101の皮膚に直接固定される。
【0030】
訓練或いは検査を行う場合、始めにタッチスイッチ5a(青)、5b(黄)の位置を設定する。すなわち、図3に示すように、患者を椅子に座らせた状態で、机上の奥側にタッチスイッチ5b(黄)を、手前側にタッチスイッチ5a(青)を配置するのであるが、まず伸展運動で手指が届く最大可動域でタッチスイッチ5b(黄)の位置を決定する。そして、タッチスイッチ5b(黄)の位置を基準にしてタッチスイッチ5a、5b間の押部51a、51bの最短距離Lを患者の麻痺の症状に合わせて決定し、タッチスイッチ5a(青)の位置を設定する。訓練或いは検査に際しては、上肢の伸展及び屈曲運動以外を制限するために患者の体幹を椅子に固定する。
【0031】
引き続き、パーソナルコンピュータ3上の振動刺激発生プログラムのモード設定画面で、(1)患者のID及びタッチスイッチ5a、5b間の距離Lを入力し、(2)8チャンネルある各振動刺激装置1の振動パターンを設定する。その後、(3)設定終了ボタンで訓練・検査画面に移行し、(4)訓練・検査画面の開始ボタンを操作して訓練或いは検査を始める。患者には、「タッチスイッチ5a(青)、5b(黄)を早く、スムーズに交互に押す」旨の指示を与える。訓練或いは検査中は、患者が集中できるようにディスプレイ3aを見せず、タッチスイッチ5a、5bが押下されたときのビープ音でそのことを患者に伝えるようにする。
【0032】
訓練或いは検査は上肢の屈曲状態から始める。最初に患者は伸展運動を始め、次に屈曲運動という順に、伸展及び屈曲運動を交互に繰り返す。終了条件は、指定した遂行回数が終了した時点(例えば伸展及び屈曲運動をそれぞれ50回)、或いは、指定した遂行時間が経過した時点(例えば30秒)、或いは、訓練・検査画面の終了ボタンが操作されることとなる。
【0033】
<振動刺激発生プログラム>
パーソナルコンピュータ3上の振動刺激発生プログラムは、上肢の伸展及び屈曲運動を検出した情報に基づいて、複数の振動刺激装置1に時間差をつけて独立に起動及び停止することができる。
【0034】
更に、詳しくは後述するが、患者の麻痺の症状に合わせて訓練できるように訓練モード1、2、3を設定することができ、また、訓練結果を評価するための検査モードを設定することができるようになっている。
【0035】
図4は、パーソナルコンピュータ3上の振動刺激発生プログラムによる処理動作を示すフローチャートである。訓練モード1、2、3、検査モードが選択された状態で(ステップS401)、患者のID、更に必要に応じてタッチスイッチ5a、5b間の距離Lが入力される(ステップS402、S403)。そして、各振動刺激装置1の振動パターン(周期及び8チャンネルある振動刺激装置1それぞれの時間差)が設定される(ステップS404、S405)。
【0036】
設定方法はすべてのモードで共通している。図5は、モード設定画面500を示す図である。ID入力欄501に患者のIDを、距離入力欄502にタッチスイッチ5a、5b間の距離Lを入力する。
【0037】
また、周期入力欄503には、1回の伸展運動と屈曲運動にかかる時間の和を周期(秒)として入力する。周期はすべてのチャンネルに共通し、周期の前半を伸展運動に、後半を屈曲運動に使う。なお、検査モードでは、振動刺激なしの条件を選択、設定することも可能となっている。
【0038】
また、時間差入力欄504には、設定した周期中で各チャンネルに対応する振動刺激装置1が起動及び停止するタイミング(秒)をそれぞれ入力する。
【0039】
これら周期及び時間差の設定に際しては、以前に行った訓練や検査の設定値を参照することができる。参照の方法は、ID入力後、設定の参照ボタン505を操作して選択項目表示部にファイル名を表示する。表示されるファイルには、当該患者が以前行った訓練や検査で使用した設定値が保存されている。表示されたファイル名から設定したいファイルを選択し、設定ボタン506を操作することにより周期入力欄503、時間差入力欄504に以前の設定値が入力される。
【0040】
また、グラフの表示ボタン507を操作することにより、設定された周期と時間差とを可視的に表示することができる(図中符号509)。
【0041】
さらに、チェックボックス510を選択することにより、使用するチェンネルを選択することができる。
【0042】
設定を終えた後(ステップS406)、設定終了ボタン508を操作すれば訓練・検査画面に移行して、訓練又は検査が開始される(ステップS407)。また、終了条件は別に定めることができる。図6は、訓練・検査画面を示す図である。
【0043】
ここで、訓練モード1、2、3及び検査モードの詳細について説明する。
(訓練モード1)
図7に、訓練モード1での振動刺激装置1の起動及び停止の状態の例を示す。訓練モード1は、訓練開始後、設定した周期を、指定した遂行回数が終了するまで、或いは、指定した遂行時間が経過するまで、或いは、訓練画面上の訓練停止ボタンが操作されるまで繰り返すものである。訓練モード1では、タッチスイッチ5a、5bは上肢の運動情報を検出するためだけに使用される。
【0044】
(訓練モード2)
図8に、訓練モード2での振動刺激装置の起動及び停止の状態の例を示す。訓練モード2は、訓練開始後、待機状態から始まり、タッチスイッチ5a(青)を押下することにより1周期が開始する。1周期を終えると待機状態に戻り、次にタッチスイッチ5a(青)を押下するまで1周期は始まらない。訓練モード2時には、ディスプレイ3aにタッチスイッチ5a(青)の図柄が表示されるようにしておき、待機状態ではその表示が点滅するようにしておく。訓練モード2は、指定した遂行回数が終了した時点、或いは、指定した遂行時間が経過した時点、或いは、訓練画面上の訓練停止ボタンが操作されたことで終了する。
【0045】
(訓練モード3)
図9に、訓練モード3での振動刺激装置1の起動及び停止の状態の例を示す。訓練モード3は、訓練開始後、待機状態から始まり、タッチスイッチ5a(青)を押下することにより前半の半周期(伸展用)が開始する。前半の半周期を終えると待機状態になる。後半の半周期(屈曲用)はタッチスイッチ5b(黄)を押下することにより開始し、後半の半周期を終えると、訓練開始後と同様の待機状態に戻る。タッチスイッチ5a、5bは同じスイッチを連続して押下しても反応せず、青と黄とを交互の押下した場合のみ次の半周期に切り替わる。訓練モード3時には、ディスプレイ3aにタッチスイッチ5a(青)、5b(黄)の図柄が表示されるようにしておき、次に押下すべきタッチスイッチの表示が点滅するようにしておく。なお、訓練モード3では、待機状態以前の半周期中に次の半周期を開始するためのタッチスイッチが押下された場合、次の半周期が始まるようになっている。訓練モード3は、指定した遂行回数が終了した時点、或いは、指定した遂行時間が経過した時点、或いは、訓練画面上の訓練停止ボタンが操作されたことで終了する。
【0046】
(検査モード)
検査モードでの振動刺激装置1の起動及び停止の状態の例は、訓練モード3(図9)と同様である。訓練モード3と異なるのは、終了条件が遂行回数50回或いは遂行時間30秒である点と、振動刺激なしの条件を設定できる点である。
【0047】
図4に説明を戻すと、ここまで説明した訓練や検査によりデータが取得され(ステップS408)、終了判定により訓練や検査が終了した後(ステップS409、S410)、これら訓練や検査によって得られたデータを保存する(ステップS411)。データの保存ボタンを操作することにより、設定画面で入力したID名のフォルダが作成され(ステップS412)、そのIDフォルダ内にモード別にフォルダが作成される(ステップS413)。データはモード別フォルダ内に例えばEXCELファイル形式で記録される(ステップS414)。ファイル名は訓練や検査を開始した日時である。
【0048】
保存されるデータは、周期及び各振動刺激装置1の時間差、伸展・屈曲運動を行った遂行回数、遂行時間等である。また、これらの内容に加えて、伸展時間(タッチスイッチ5a(青)を押下してからタッチスイッチ5b(黄)を押下するまでの所要時間)、屈曲時間(タッチスイッチ5b(黄)を押下してからタッチスイッチ5a(青)を押下するまでの所要時間)、屈伸時間(伸展時間と屈曲時間との和)である。更に検査モードの場合は、伸展時間、屈曲時間、屈伸時間の回数分のデータ、評価値としてその平均値とメディアン及び標準偏差等を計算し保存するようにしてもよい。
【0049】
なお、上記の例では、タッチスイッチ5a、5bを押下させることにより、上肢の伸展及び屈曲運動を検出するようにしているが、図1に示したEMG測定器8を利用してもよい。また、上肢の伸展及び屈曲運動を検出する場合に、ゴニオメータ等の位置測定手段を用いて検出してもよいし、CCDカメラで撮像することにより検出してもよい。また、例えば特許文献6~8等に開示されているような上肢や下肢の訓練装置における手足の位置情報を用いてもよい。なお、EMG測定器8等を用いる場合、上肢の伸展、屈曲という結果だけでなく、その間の上肢の運動も検出することができるので、そのデータを保存するようにしてもよい。
【0050】
以上述べた振動刺激療法装置においては、患者は片麻痺上肢の伸展及び屈曲運動を、振動刺激による補助を受けながら容易に行うことができ、目標の運動パターンを頻回に反復することにより、片麻痺上肢の麻痺が回復し、随意的に上肢を伸展及び屈曲することが可能になる。
【0051】
このような上肢の運動筋の深部覚刺激には、低周波電気刺激は有効でなく、振動刺激が確実性もあり有効である。これまでのところ、運動中の被験者に振動刺激を与えて、麻痺肢の運動を補助、促通することは行われていない。現在、振動刺激用には直径数十cm程度の大きなバイブレータしか利用されておらず、運動中の四肢に振動刺激を与えることが難しく、振動刺激は安静時や立位等の被験者に与えられるに過ぎなかった。また、筋肉の凝りの軽減や麻痺筋の筋緊張の調整、左半側無視患者の左方への注意を高める目的等、治療目的に振動刺激を与える場合も静的な状態で行われている。
【0052】
それに対して、本発明を適用することにより、コインの直径程度以下の小型の振動刺激装置1を用いることにより、患者は片麻痺上肢の伸展及び屈曲運動を、振動刺激による補助、促通を受けながら容易に行うことが可能となったものである。
【0053】
<実施例1>
本装置を用いた訓練によって得られる効果として、上肢運動機能の改善及び運動の継続により起こる過緊張、痙性の増加の緩和が想定される。そのための検査を図10に示すシーケンスで行い、それによって得られた評価値の中から伸展及び屈曲時間の変化、検査ごとの遂行回数の推移について検査例1、2で評価した。
【0054】
検査条件は振動刺激装置1を上肢に固定した状態で、(i)振動刺激なし、(ii)振動刺激ありの2種類である。始めに振動刺激なしの条件の検査を伸展・屈曲の所要時間が安定するまで、又は筋緊張により伸展・屈曲の所要時間が増加するまで複数回行った。次に、振動刺激ありの条件で検査を2回行い、直後に振動刺激なしの条件で検査を行った。ここまでの検査の間には、すべて2分間の休憩をはさんだ。最後に、振動刺激ありの条件での検査から5分後に、振動刺激なしの条件で検査を行った。
【0055】
(検査例1)
検査例1は被験者A(女性、71才、右片麻痺)に対して、振動なしの条件で3回目に行われた検査と、その2分後の振動ありの条件で行われた検査の伸展時間について比較する。それぞれの検査において得られた50回分の伸展時間の推移を図11に示す。振動刺激装置1は、図12に示すように、伸展に使われる筋群のうち、指伸筋、上腕三頭筋及び三角筋前部に固定した。振動刺激ありの条件の検査では、伸展運動のときのみ振動刺激を与え続けるよう時系列を設定した。タッチスイッチは直径が3cmの押部52a、52bを使用し、その最短距離Lは15cmとした。振動刺激なしの条件で行われた検査と比較して、振動刺激ありの条件で行われた検査の所要時間が全体的に低い値を示している。
【0056】
(検査例2)
被験者B(女性、56才、右片麻痺)と被験者C(男性、56才、右片麻痺)の2分間の検査における遂行回数の推移を図13に示す。被験者B及び被験者Cともに上肢麻痺の症状が重いため検査を行う際に補助器具を使用した。
【0057】
検査は6回行った。検査1~4においては検査ごとに2分間の休憩をはさんだ。その後5分休憩後、検査5を行った。最後に2分間促通反復療法を被験者に施した後、検査6を行った。検査の終了条件は50回遂行するか、検査開始から2分経過した時点とした。振動刺激装置を固定した筋群は、図14に示すように、上腕三頭筋と三角筋前部である。振動刺激ありの条件の検査では伸展運動のときのみ振動刺激を与え続けるよう時系列を設定した。タッチスイッチは直径が3cmの押部52a、52bを使用し、その最短距離Lは10cmとした。
【0058】
被験者Bは振動刺激なしの条件で行われた検査2まで遂行回数が減少しているが、振動刺激ありの条件で行われた検査3では遂行回数の減少が止まり、振動刺激ありの条件で行われた検査4においては遂行回数が増加した。5分後、振動刺激なしの条件で行われた検査5の遂行回数は検査4と比較して減少したが、振動刺激なしの条件で行われた検査2に比べ、高い数値を示した。検査6では、促通反復療法を施した後、振動刺激ありの条件で検査を行ったが、遂行回数はそれまでの5回の検査と比較して高い数値を記録した。
【0059】
被験者Cの遂行回数は振動刺激なしの条件で行われた検査1及び検査2に比べて振動刺激ありの条件で行われた検査3及び検査4において高い数値を示した。検査3から検査5までの遂行回数は減少しているが、促通反復療法後、振動刺激ありの条件で行った検査6においては遂行回数の減少は止まっている。
【0060】
以上の結果を踏まえて、上肢運動機能の改善及び運動の継続により起こる過緊張の緩和について考察する。
【0061】
(上肢運動機能の改善)
検査例1で示した図11において、振動刺激なしの条件で行われた検査と比較して振動刺激ありの条件で行われた検査の伸展時間は全体的に減少した。これは、随意運動を行う際、脳卒中の神経障害により伝わりにくかった大脳皮質からの興奮が振動刺激による運動性下行路の興奮水準の上昇によって、よりスムーズに伝わったためと推論できる。本装置により被験者の随意運動を誘発することができ、上肢運動機能の改善が行われたといえる。
【0062】
検査例2で示した図13において、振動刺激なしの条件で行われた検査と比較して、振動刺激ありの条件で行われた検査の方が2分間で行うことのできる遂行回数が増加した。これは、検査例2の被験者B及び被験者Cの麻痺の症状が重度で肘伸筋への運動性下行路の興奮水準が低かったものが、振動刺激ありの条件の検査では、振動刺激によって意図した筋群への運動性下行路の興奮水準が高まり、大脳からの興奮が伝わったためであると考えられる。これは検査例1の被験者Aにもあてはまる。
【0063】
(筋肉の過緊張の緩和)
検査例2で示した図13において、被験者Bは振動刺激なしの条件で行われた検査2まで遂行回数が減少しているが、振動刺激ありの条件で行われた検査3では遂行回数の減少は止まった。これは、運動の継続により起こる筋肉の過緊張を、振動刺激が緩和したためであると推論できる。
【0064】
また、被験者Bに対して促通反復療法後、振動刺激ありの条件で行われた検査はそれまでの5回の検査に比べて高い遂行回数を記録した。これは、促通反復療法によりそれまでの検査による筋肉の過緊張が減少し、更に振動刺激が検査中に行う過緊張を緩和したためと考えられる。
【0065】
被験者B及び被験者Cともに振動刺激を与えた後、振動刺激なしの条件で行った検査5は、はじめの振動刺激なしの条件で行われた検査1、検査2と比較して、遂行回数は増加している。これは、振動刺激による運動性下行路の興奮水準の上昇が持続しているか、繰り返し興奮を伝えたことによる神経路の伝達効率の上昇があるため、振動刺激に準じた効果が検査中に得られたものと考えられる。
【0066】
<実施例2>
機能的振動刺激法下での訓練効果を調べるために、図14に示す肘伸展時に三角筋前部、上腕三頭筋に機能的振動刺激を与え、肘屈曲時には振動刺激を与えないで、肘屈伸訓練を行った。訓練前後に検査を行い、機能的振動刺激なしの状態でも肘屈伸運動が改善しているのかを検討した。機能的振動刺激条件での訓練期間は4日、屈伸運動の合計は1000回である。対象は脳卒中患者3例で、座位で介助なしでも肘の屈伸が可能な例である。
【0067】
機能的振動刺激法下での訓練の前後の評価として、機能的振動刺激なしの条件で3回(検査1、検査2、検査3)、機能的振動刺激ありの条件で2回(検査4、検査5)、最後に振動刺激なし条件で1回(検査6)の測定をそれぞれ1分間の休憩をおいて連続して行った。検査は30秒間屈伸運動を行うものであり、その運動データはパーソナルコンピュータに自動的に記録される。解析には、それぞれの検査条件の最初の検査、すなわち検査1、検査4、検査6の測定結果を用いた。評価指標のうちから、ここでは屈伸運動の所要時間(秒)のメディアン(中央値)を評価指標として採用した。
【0068】
図15の症例Dの結果において、機能的振動刺激法下訓練前における肘屈伸時間は、検査1の振動刺激なしの条件に比べて、検査4の機能的振動刺激ありの条件で短縮し、検査6の振動刺激なしの条件に戻しても短縮しており、機能的振動刺激法の急性期効果と持ち越し効果が示された。機能的振動刺激法下訓練後の再評価においては、肘屈伸時間は機能的振動刺激なし条件でも訓練前より著しく短縮し、振動刺激あり条件では更に少し短縮している。
【0069】
図15の症例Eの結果においては、機能的振動刺激法下訓練前において、肘屈伸時間は、検査4の振動刺激ありの条件で短縮し、検査6の振動刺激なしの条件では再び少し延長した。機能的振動刺激法下訓練後の肘屈伸時間は、機能的振動刺激なしの条件でも訓練前に比べて短縮し、振動刺激ありの条件では更に短縮、検査6の振動刺激なしの条件に戻すと再び延長した。つまり、機能的振動刺激は急性期効果とともに1000回の機能的振動刺激法下訓練によって、機能的振動刺激がない条件でも麻痺の改善をもたらすことが示された。
【0070】
図15の症例Fは軽度麻痺の症例の結果であるが、症例D及び症例Eで認められた効果と同様に、肘屈伸時間は振動刺激ありの条件で短縮し、機能的振動刺激法下訓練後は訓練前より短縮した。
【0071】
いずれの例でも肘屈伸時間は機能的振動刺激ありの条件で短縮し、1000回の機能的振動刺激法下訓練後は、訓練前に比べて、機能的振動刺激なしの条件でも短縮することから、機能的振動刺激法下訓練は麻痺の改善につながることが示された。
【0072】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば上記実施形態では、各振動刺激装置1の周期及び8チャンネルある振動刺激装置1それぞれの時間差を任意に設定できるようにしたが、それに加えて、振動刺激の強弱を任意に設定できるようにしてもよい。麻痺の症状の軽い患者に対して過度の振動刺激を与えると、例えば伸展運動のための振動刺激に屈曲運動に使われる筋群の緊張が高まり、その反応が伸展運動を妨げるようなこともありえるので、振動刺激の強弱を適宜なものとして、意図した筋群以外に刺激を与えないようにするためである。
【0073】
なお、上記実施形態では、上肢のリハビリテーションを例に説明したが、そのほか、下肢や手指のリハビリテーションにおいても同様の効果が期待される。また、上記実施形態では、脳卒中による片麻痺の回復を促進することを目的とした例を説明したが、そのほか、筋緊張の異常を伴う錐体外路疾患や小脳疾患においても、筋緊張を調整することで運動の改善がおおいに期待される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施形態の振動刺激療法装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態の振動刺激療法装置の各部の関係を示す図である。
【図3】タッチスイッチの配置例を説明するための図である。
【図4】振動刺激発生プログラムによる処理動作を示すフローチャートである。
【図5】モード設定画面の例を示す図である。
【図6】訓練・検査画面の例を示す図である。
【図7】訓練モード1での振動刺激装置の起動及び停止の状態の例を示す図である。
【図8】訓練モード2での振動刺激装置の起動及び停止の状態の例を示す図である。
【図9】訓練モード3及び検査モードでの振動刺激装置の起動及び停止の状態の例を示す図である。
【図10】実施例1における検査のシーケンスを示す図である。
【図11】実施例1における検査例1での結果を示す図である。
【図12】実施例1における検査例1における振動刺激装置1の固定位置を示す図である。
【図13】実施例1における検査例2での結果を示す図である。
【図14】実施例1における検査例2及び実施例2における振動刺激装置1の固定位置を示す図である。
【図15】実施例2における結果を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 振動刺激装置
2 電源
3 パーソナルコンピュータ
3a ディスプレイ
4 A/D変換器
5a、5b タッチスイッチ
6 スイッチ回路
7 D/A変換器
8 EMG測定器
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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