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明細書 :パラインフルエンザ2型ウイルスを用いた医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5145550号 (P5145550)
公開番号 特開2008-074749 (P2008-074749A)
登録日 平成24年12月7日(2012.12.7)
発行日 平成25年2月20日(2013.2.20)
公開日 平成20年4月3日(2008.4.3)
発明の名称または考案の名称 パラインフルエンザ2型ウイルスを用いた医薬組成物
国際特許分類 A61K  39/04        (2006.01)
A61K  35/76        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
A61P  17/00        (2006.01)
A61P  11/06        (2006.01)
A61P  11/02        (2006.01)
A61P  27/14        (2006.01)
FI A61K 39/04
A61K 35/76
A61K 48/00
A61P 37/08
A61P 17/00
A61P 11/06
A61P 11/02
A61P 27/14
請求項の数または発明の数 5
全頁数 13
出願番号 特願2006-254538 (P2006-254538)
出願日 平成18年9月20日(2006.9.20)
審査請求日 平成21年9月10日(2009.9.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
発明者または考案者 【氏名】保富 康宏
【氏名】河野 光雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100108280、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 洋平
審査官 【審査官】小松 邦光
参考文献・文献 国際公開第02/066055(WO,A1)
特表2006-512904(JP,A)
米国特許第07192593(US,B1)
河野光雄, et al.,M蛋白欠損パラインフルエンザ2型ウイルス(PIV2)及びマウスIL-4を挿入したPIV2の性状解析,日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集,2004年11月 1日,Vol. 52nd,p. 150 (1B30)
福島雅典監修,「炎症性腸疾患」,メルクマニュアル第17版日本語版,日経BP社,1999年12月10日,p. 305-315
調査した分野 A61K 39/04
A61K 35/76
A61K 48/00
A61P 11/02
A61P 11/06
A61P 17/00
A61P 27/14
A61P 37/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
M蛋白質を欠損させたパラインフルエンザ2型ウイルス(PIV2)遺伝子ゲノムのリーダー配列の直後に抗酸菌由来のα抗原をコードする遺伝子を組み込んで、前記α抗原をコードする遺伝子が生体内で発現可能に備えられたアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物であることを特徴とするアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記α抗原が、マイコバクテリウム・カンザシイ(Mycobacterium kansasii由来のものであることを特徴とする請求項1に記載のアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物。
【請求項3】
前記α抗原が、抗原85複合体構成蛋白85Aまたは抗原85複合体構成蛋白85Cであることを特徴とする請求項1または2に記載のアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記α抗原が、配列番号1に示す390番目~1244番目の塩基配列によってコードされたものであることを特徴とする請求項2に記載のアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物。
【請求項5】
アレルギー性疾患が、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、またはアレルギー性結膜炎であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、パラインフルエンザ2型ウイルス(PIV2)を用いた医薬組成物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PIV2は、パラミクソウイルス科に属するウイルスである。ゲノムは約15000塩基の一本のマイナス鎖RNAであり、これにヌクレオカプシド蛋白(N)が結合し、らせん対称ヌクレオプロテイン複合体(ヌクレオカプシド、RNP)を形成している。ウイルスゲノムがコードするタンパク質のうち、M蛋白は、ウイルス糖蛋白の細胞質内ドメイン、エンベロープ脂質二重膜およびRNPと相互作用し、ウイルス粒子の出芽に重要である。遺伝子組換えにより、M蛋白を欠失させたウイルスゲノムは、細胞に感染して、所定のウイルスタンパク質を発現するものの、出芽することができない。本発明者は、M蛋白を欠失させたPIV2が、外来タンパク質を標的細胞で発現させるためのベクターとして使用できることを見出した(非特許文献1)。
一方、本発明者は、抗酸菌由来のα抗原が、アレルギー性疾患の予防・治療に効果的であることを見出した(特許文献1)。

【特許文献1】国際公開公報2002/066055
【非特許文献1】第52回日本ウイルス学会学術集会、M蛋白欠損パラインフルエンザ2型ウイルス(PIV2)及びマウスIL-4を挿入したPIV2の性状解析、2004年11月21日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、α抗原をCMVプロモーターおよびTPAシグナルペプチドの下流に組み込んだ発現ベクターpcDNA-α-Kとして構築し、アトピー性皮膚炎マウスモデルでの検証を行った。しかしながら、α抗原を更に有効に用いるために発現量が多いベクターが求められていた。ここで、PIV2は、ウイルス系のベクターとしては、発現量が多いものの、応用例が少ないことから如何なるタンパク質に応用できるのか未知の点が多かった。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、PIV2にα抗原等を組み込んだアレルギー性疾患の治療・予防に使用可能な医薬用組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、鋭意検討の結果、M蛋白質を欠損させたPIV2にα抗原を組み込んだ発現ベクターが、所定の部位でα抗原を発現させることにより、アレルギー性疾患に有効であることを見出し、基本的には本発明を完成させるに至った。
本発明者は、抗酸菌由来のα抗原遺伝子をPIV2に組み込んで呼吸器に投与することにより、呼吸器粘膜のみならず他の粘膜(例えば、消化管の粘膜)においても特異的な抗体が発現されることを見出した。α抗原遺伝子あるいはα抗原蛋白は、Th2型サイトカイン優位の免疫状態を改善し、さらにアレルギー性疾患の諸症状を抑制・改善でき、広くアレルギー性疾患の予防もしくは治療に有効であることは、既に本発明者の検討によって明らかとされていることから(特許文献1)、今回の発明はα抗原を更に有効に用いるものとなる。
【0005】
こうして、第一の発明に係るアレルギー性疾患の予防用または治療用医薬組成物は、抗酸菌由来のα抗原、その類似体、それらと同様の機能を有するそれらの変異体(以下、「α抗原等」という)をコードする遺伝子をM蛋白質を欠損させたPIV2に組み込んだことを特徴とする。
また、第二の発明に係るアレルギー性疾患の予防または治療方法は、抗酸菌由来のα抗原、その類似体、それらと同様の機能を有するそれらの変異体をコードする遺伝子をM蛋白質を欠損させたPIV2に組み込み、これをヒトを含む哺乳動物に投与することを特徴とする。
なお、α抗原が、Mycobacterium kansasii由来のものであることが好ましい。また、α抗原の類似体が、抗原85複合体構成蛋白85Aまたは抗原85複合体構成蛋白85Cであることが好ましい。
また、アレルギー性疾患が、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、または潰瘍性大腸炎であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、α抗原等をコードする遺伝子をM蛋白質を欠損させたPIV2に組み込んだ発現ベクターをアレルギー性疾患患者に投与した場合に、アレルギー性疾患の改善をもたらし極めて有効な効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0008】
本発明に用いるPIV2は病原性が極めて少なく、かつ蛋白質の発現量が多い。このため、そのまま外来蛋白質であるα抗原等をコードする遺伝子を組み込んだPIV2を調整して、これを用いることも不可能ではない。しかしながら、PIV2のM蛋白質を欠損させることにより、感染および蛋白質の発現は同等に行われるものの、出芽ができないために次世代のPIV2を生産しないという、より安全なPIV2ベクターとなる。このため、本発明においては、M蛋白質を欠損させたPIV2にα抗原等をコードする遺伝子を組み込むこととした。α抗原等を組み込む場所としては、PIV2ゲノムのいずれの位置でも良いが、アンチセンスウイルスゲノムの5’末端側に組み込むことにより、外来蛋白質の発現量が多くなるので好ましい。アンチセンスPIV2ゲノムは、一本鎖RNAであり、5’末端から3’末端に向かって、リーダー(Leader:プロモーター配列)、NP、V/P、M、F、HN、L、トレイラー(Trailer)という構造を持っている。このため、α抗原等をコードする遺伝子は、リーダー(プロモーター配列)の直後、またはNPとV/Pの間等の5’末端側に近い位置であることが好ましい。
【0009】
M蛋白質を欠損させるには、M蛋白質をコードする遺伝子部分の全部または一部を取り除く方法、またはM蛋白質をコードする遺伝子のどこかにストップコドンを組み込む方法などが例示される。
本発明において、アレルギー性疾患とは、正常人が反応しない環境抗原・自己抗原などに対して過敏に反応を示し、自己の免疫系により各臓器の破壊、障害を生ずる疾患である。具体的には、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、潰瘍性大腸炎などが含まれるが、本発明の適用はこれらの具体的疾患には限定されない。
【0010】
本発明において、α抗原とは、抗酸菌に普遍的に存在する蛋白の一つであり、抗原85複合体の一つである抗原85複合体構成蛋白85Bとして同定されたものである。この抗原85複合体は、分子量が30-32kd程度の抗原85複合体構成蛋白85A(Infect.Immun.57:3123-3130,1989)、抗原85複合体構成蛋白85B(J.Bacteriol.170:3847-3854,1988)、および抗原85複合体構成蛋白85C(Infect.Immun.59:3205-3212,1991)から構成され、これらは抗酸菌の主要な分泌蛋白である。これらの分泌蛋白は、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium bovis、Mycobacterium kansasii等の同属の細菌間では、遺伝子・アミノ酸配列が種を超えて高い相同性を示し、モノクローナル抗体に対する交差反応性を示す(Microbiol.Rev.56:648-661,1992)。α抗原(抗原85複合体構成蛋白85B)の類似体としては、抗原85複合体構成蛋白85A、抗原85複合体構成蛋白85Cなどが挙げられる。
【0011】
本発明において、抗酸菌由来のα抗原もしくはその類似体をコードする遺伝子とは、α抗原蛋白あるいは抗原85複合体構成蛋白85A、抗原85複合体構成蛋白85Cなどのα抗原蛋白の類似体を発現することが可能な遺伝子を指す。具体的には、α抗原もしくはその類似体をコードする遺伝子を含む発現ベクターの形態にある遺伝子が挙げられる。α抗原をコードする遺伝子としては、Mycobacterium kansasii(Infect.Immun.58:550-556,1990)、Mycobacterium avium(Infect.Immun.61:1173-1179,1993)、Mycobacterium intracellulare(Biochem.Biophys.Res.Commun.196:1466-1473,1993)、Mycobacterium leprae(Mol.Microbiol.6:153-163,1992)などの抗酸菌由来のα抗原をコードする遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子のいずれも本発明に用いることができる。これらのうち、Mycobacterium kansasiiのα抗原をコードする遺伝子として、配列番号1に示す390番目~1244番目までの塩基配列を有するDNAが挙げられる。このDNA以外にも、このDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする変異体DNA、このDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数(好ましくは数個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAであって、Mycobacterium kansasii由来のα抗原と同様の機能を有する蛋白質をコードする変異体DNAを用いることもできる。Mycobacterium kansasii由来のα抗原と同様の機能とは、同様のアレルギー性疾患の予防効果または治療効果を奏することを示している。
【0012】
変異体DNAを得るための具体的方法としては、例えば次の方法が挙げられる。即ち、50%ホルムアミド、4xDenhardt、5xSSPE(SSPE溶液:EDTAリン酸ナトリウム塩(SSPE)、1xDenhardt:0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン)、0.2%SDS、100μg/ml ssDNA、および12.5ngのプローブ(配列番号1に示す390番目~1244番目までの塩基配列を有するcDNA断片12.5ngを、BcaBest DNA Labeling Kit(TaKaRa)を用いて[α-32P]dCTP(Amersham)により標識したもの)存在下で、45℃で14~16時間コロニーハイブリダイゼーションを行った後、フィルターを1xSSPE、0.5%SDS溶液中で45℃にて30分間、その後0.1xSSPE、0.5%SDS溶液中で55℃にて1時間、最後に0.1xSSPE、0.5%SDS溶液中で65℃にて1時間洗浄し、バックグラウンドを落とした後、X線フィルム(Fuji)に-80℃で72時間露出し、対応するコロニーの位置を決定して単離することによって変異体DNAを得ることができる。これらの変異体がコードするアミノ酸配列は、α抗原のアミノ酸配列に対して通常60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性を有する。Mycobacterium kansasii以外の抗酸菌由来のα抗原をコードする遺伝子の場合にも、同様にそれらの変異体であってもよい。
【0013】
α抗原の類似体である抗原85複合体構成蛋白85Aをコードする遺伝子としては、上記したα抗原遺伝子についての各種抗酸菌と同様の抗酸菌由来の遺伝子が挙げられる。より具体的には、Mycobacterium tuberculosis由来の抗原85複合体構成蛋白85AをコードするDNAが挙げられる(Infect.Immun.57:3123-3130,1989)。抗原85複合体構成蛋白85Cをコードする遺伝子についても、同様に各種抗酸菌由来の遺伝子が挙げられ、より具体的には、Mycobacterium tuberculosis由来の抗原85複合体構成蛋白85CをコードするDNAが挙げられる(Infect.Immun.59:3205-3212,1991)。これらのDNAについても、上記と同様に、これらのDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAや、このDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数(好ましくは数個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAであって、抗原85複合体構成蛋白85Aあるいは抗原85複合体構成蛋白85Cと同様の機能を有する蛋白質をコードする変異体を用いることができる。
【0014】
上記DNAは、前記文献に記載されている配列情報、Genbank等の配列情報等に基づき適当なDNA部分をPCRのプライマーとして用い、抗酸菌由来のmRNAに対してRT-PCR反応を行うことなどにより、クローニングすることができる。また、アミノ酸配列情報に基づき化学合成することもできる。上記DNAの変異体は、例えば部位特異的突然変異誘発法、PCR法、又は通常のハイブリダイゼーション法などにより容易に得ることができる。
【0015】
本発明では、アレルギー性疾患の予防もしくは治療に抗酸菌由来のα抗原蛋白、その類似体である抗原85複合体構成蛋白85Aもしくは抗原85複合体構成蛋白85Cそのもの、あるいはそれらの変異体蛋白を用いることもできる。このようなα抗原としては、上記したα抗原をコードする遺伝子によってコードされる蛋白質が挙げられる。具体的には、例えば配列番号1に示したMycobacterium kansasii由来の塩基配列を有するDNAによってコードされるα抗原であって配列番号2に示したアミノ酸配列を有するα抗原が挙げられる。このアミノ酸配列を有するα抗原以外にも、配列番号2のアミノ酸配列に対して1若しくは複数(好ましくは数個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質であって該α抗原と同様の機能を有する変異体蛋白質であってもよい。Mycobacterium kansasii以外の抗酸菌由来のα抗原の場合にも、同様にそれらのアミノ酸配列に対して1若しくは複数(好ましくは数個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質であって該α抗原と同様の機能を有する変異体蛋白質であってもよい。また、抗原85複合体構成蛋白85Aもしくは抗原85複合体構成蛋白85Cについても、Mycobacterium tuberculosis由来の抗原85複合体構成蛋白85A(Infect.Immun.57:3123-3130,1989)、Mycobacterium tuberculosis由来の抗原85複合体構成蛋白85C(Infect.Immun.59:3205-3212,1991)などが挙げられる。これらのα抗原蛋白の類似体についても、α抗原蛋白の変異体と同様の変異体であってもよい。
【0016】
このような蛋白質は、それをコードする遺伝子を用いた組換えDNA法により製造することもでき、また化学合成によって製造することもできる。あるいは、Mycobacterium kansasiiなどの抗酸菌を適当な培地で培養し、その培養液から公知の精製法によって精製して得ることもできる(Scand.J.Immunol.43:202-209,1996;J.Bacteriol.170:3847-3854,1988;Hiroshima J.Med.Sci.32:1-8,1983)。
本発明において、アレルギー性疾患の予防もしくは治療に、抗酸菌由来のα抗原、その類似体またはそれらの変異体をコードする遺伝子を用いる場合には、具体的には、抗酸菌由来のα抗原、その類似体またはそれらの変異体をコードする遺伝子を含むPIV2の形態で用いられる。組換えPIV2は、予めM蛋白質を欠失させたPIV2ゲノムを用いることができる。M蛋白質欠失PIV2ゲノムにα抗原等をコードする遺伝子を組み込むことにより、α抗原等を発現するPIV2ベクターが構築される。
【0017】
この発現ベクターは、通常、噴霧剤・経口剤・経粘膜剤・注射剤などの形態としてヒトを含む哺乳動物に投与できる。各剤は常法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水等)に溶解した後、必要に応じてフィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。各剤には、必要に応じて慣用の担体等を加えても良い。こうして得られた発現ベクターをアレルギー性疾患の治療に用いるためには、通常の方法によって投与することができる。
【0018】
α抗原等をコードする遺伝子を含む発現ベクターは、通常ヒトを含む哺乳動物の皮膚、粘膜、筋肉、腹腔等に投与される。投与量としては、投与形態、投与方法、対象患者、疾患の種類などにより変動し得るが、通常、発現ベクターとして、約1x106~1x1010個のウイルス、好ましくは約1x107~1x109個のウイルスであり、通常数ヶ月に亘って1日1回、合計2~3回投与するのが好ましい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0019】
実施例1 <M蛋白欠失アンチセンスrPIV2ゲノムの構築>
図1には、M蛋白質をコードする遺伝子の所定の位置にストップコドンを組み込んだアンチセンスrPIV2ゲノムの概要を示した。図1には、Δ119(M蛋白遺伝子の259位のAAGをTAGとしたもの)およびΔ289(M蛋白遺伝子の89位のATGをTAG、259位のAAGをTAGとしたもの)の2種類のM蛋白質欠損PIV2(それぞれ、rPIV2(Δ119)、およびrPIV2(Δ289))アンチセンスrPIV2ゲノムをT7プロモーターの下流にcDNAとして組み込んだプラスミドベクターの様子を示した。M蛋白を欠損させたPIV2を構築するには、当業者に公知の遺伝子手法(例えば、PCR法)を用いることができる。
【0020】
実施例2 <rPIV2の調製方法>
次に、T7プロモーターの下流に挿入したアンチセンスrPIV2ゲノムcDNAを含むプラスミドからのウイルス粒子の回収方法について説明する。図2には、その方法の概要を示した。図1のようにして構築したアンチセンスrPIV2ゲノム(rPIV2、rPIV2(Δ289)、rPIV2(Δ119))をT7RNAポリメラーゼを発現する細胞(例えば、BSR-T7/5)にトランスフェクションした。このとき、PIV2ポリメラーゼユニット(すなわち、NP蛋白、P蛋白、L蛋白)を発現するベクターであるPIV2-NP、PIV2-P、PIV2-Lの3種類の発現ベクターを共にトランスフェクションした。なお、DNAのトランスフェクションには、当業者に周知の方法を用いることができる(本実施形態では、リポフェクトアミンを用いた)。
【0021】
48時間毎にVero細胞との共培養を5~7回行ったところ、細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)が90%以上の効率で確認された。このとき、rPIV2では、上清中に大量の組換えウイルス粒子が認められたが、rPIV2(Δ289)およびrPIV2(Δ119)では、ほとんど組換えウイルス粒子が確認されなかった。これは、M蛋白質を欠損すると、PIV2の出芽が行われないことを示している。
そこで、Vero細胞に代えて、PIV2-Mを発現するCos細胞(M蛋白を発現するベクターであるPIV2-MをトランスフェクションしたCos細胞)を用いて共培養した。その結果、rPIV2(Δ289)およびrPIV2(Δ119)についても、上清中に大量の組換えウイルス粒子が認められた。
なお上記では、T7プロモーターを用いたrPIV2の調製方法について説明したが、本発明によれば、いずれのベクター(ファージベクター、プラスミドベクターなど)を用いて調製したrPIV2であっても使用することができる。
【0022】
実施例3 <α抗原をコードする遺伝子を含むrPIV2の構築>
配列番号1に示した390番目~1244番目の塩基配列からなるMycobacterium kansasiiのα抗原遺伝子(α-K)をM蛋白欠損rPIV2のNotI部位に挿入することにより、α抗原遺伝子を組み込んだM蛋白欠損rPIV2(以下、「rPIV2-αK」、または「PIV2Ag85B」という)を構築した(図3を参照)。NotI部位はrPIV2ゲノムのリーダー配列の直後に組み込まれたものであり、アンチセンスrPIV2ゲノムの5’末端付近に設けられている。なおコントロールとして、NotI部位にEGFP(オワンクラゲ由来の蛍光タンパク質)遺伝子を組み込んだrPIV2(以下、「rPIV2-EGFP」という)を構築した。
実施例2の方法により、rPIV2-αKおよびrPIV2-EGFPを大量に調製した。
【0023】
実施例4 <ハムスターにおけるEGFPの発現確認>
ハムスターにrPIV2-EGFPを経鼻投与(IN:5x10ウイルス)したところ、気道および肺の上皮細胞において、EGFPの蛍光が確認された。このことから、rPIV2は経鼻投与により、気道や肺に極めて高い外来遺伝子の発現を促すことが分かった。
実施例5 <マウスを用いた卵白アルブミン感作に対する効果確認>
4群(6匹/群)のBALB/Cマウスに、一匹あたり500μlのリン酸緩衝液-生理食塩水(PBS)に卵白アルブミン(OVA)10μgとAlum(水酸化アルミニウム)1mgを溶かした溶液を実験開始1日目及び14日目に腹腔内投与(IP)による免疫を行い、21日目から5日間エアロゾルにて5%-OVA(PBS)溶液を吸入させ、喘息モデルを作製した。各群については、下記それぞれの処置を施した。
【0024】
1群:PBS(IP)-PBS(IN):上記喘息モデルを作製する際に、OVAに代えて、一匹あたり500μlのPBSにAlum1mgを溶かした溶液をIPした。また、実験開始-20日目(OVA感作の前日)にそれぞれ20μlのPBSをINした。
2群:OVA(IP)-PBS(IN):実験開始-20日目(OVA感作の前日)に20μLのPBSを経鼻投与(IN)した。
3群:OVA(IP)-PIV2(IN):実験開始-20日目(OVA感作の前日)に 1x107 ウイルス/20μlのrPIV2をINした。
4群:OVA(IP)-PIV2Ag85B(IN):実験開始-20日目(OVA感作の前日)に1x107ウイルス/20μlのrPIV2-αKをINした。
各群については、実験開始から25日目に、血清中OVA特異的IgE濃度(OVA-specific IgE)、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の総細胞数(Total cell)、総タンパク濃度(Total protein)、インターロイキン5濃度(IL-5)、及びインターロイキン13濃度(IL-13)を測定した。また、肺組織における好酸球を染色(メイギムザ染色)し、顕微鏡にて細胞数を測定した。
【0025】
結果を図4~図9に示した。図4~図8に示すように、第2群または第3群においては、血清中OVA特異的IgE濃度、BALF中の総細胞数、総タンパク濃度、IL-5、及びIL-13濃度は、第1群に比べると有意に(p<0.01)増加した。また、第2群と第3群との間には、有意差は認められなかった。
第4群においては、第2群及び第3群と比べると、全てのデータについて、有意に減少が認められた(p<0.01)。また、総タンパク濃度とIL-13濃度については、第4群と第1群との間で有意差が認められない程度まで減少した。
図9に示すように、第2群および第3群では、第1群と比較すると、好酸球の浸潤が認められた。一方、第4群では、第2群および第3群と比べると、これらの炎症像は明らかに減少しており、第1群とほとんど差異が認められなかった。
これらの結果より、PIV2Ag85Bは、OVAが起こすアレルギー性の炎症反応に対して、非常に予防的及び治療的に作用することが明らかとなった。特に、先に本発明者らが明らかにした特許文献1では、予防効果は認められるものの、治療効果については十分には認められにくかったが、本実施形態では、治療効果についても十分に証明された。
【0026】
実施例6 <マウスにおけるα抗原の免疫効果確認>
マウスにrPIV2-αKを経鼻投与(IN:1x107ウイルス)した後、18日後に血清中および糞便(200mg/ml)中のPIV2に対する各種抗体量を測定した。図10~図12には、結果を示した。図より、rPIV2-αKを経鼻投与することにより、血清中のみならず、糞便中にもPIV2に対する特異的な抗体が増加することが示された。これは経鼻的に取り込まれたrPIV2から発現されたα抗原が、局所部位のみならず他の粘膜にも免疫的な効果を示したことを意味している。
【0027】
こうして、経鼻的にrPIV2-αKを投与することにより、その局所におけるアレルギー性疾患であるアレルギー性鼻炎および喘息に代表される呼吸器におけるアレルギー性炎症疾患に効果的であることに加え、他の部位におけるアレルギー性疾患(例えば、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、潰瘍性大腸炎)にも有効であることを示している。
このように本実施形態によれば、α抗原等をコードする遺伝子をM蛋白質を欠損させたPIV2に組み込んだ発現ベクターをアレルギー性疾患患者に投与することにより、アレルギー性疾患の改善をもたらし極めて有効な効果を発揮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】M蛋白を欠失させたアンチセンスrPIV2ゲノムの概要を説明する図である。
【図2】T7プロモーターの下流に組込んだアンチセンスrPIV2ゲノムcDNAを含むプラスミドベクターからのウイルス粒子を回収する方法を説明する図である。
【図3】α抗原遺伝子を組み込んだM蛋白欠損アンチセンスrPIV2(rPIV2-αK)の構造を示す図である。
【図4】喘息様モデルマウスにおける経鼻投与による効果を以下のパラメーターにより比較した図であり、第1群(PBS)、第2群(OVA)、第3群(PIV2)、および第4群(PIV2-Ag85B)において、BALF中の総細胞数を比較したグラフである。
【図5】第1群~第4群において、BALF中の総タンパク濃度を比較したグラフである。
【図6】第1群~第4群において、血清中OVA特異的IgE濃度を比較したグラフである。
【図7】第1群~第4群において、BALF中のIL-5濃度を比較したグラフである。
【図8】第1群~第4群において、BALF中のIL-13濃度を比較したグラフである。
【図9】第1群~第4群において、呼吸器の炎症像を観察したときの代表的な顕微鏡写真図である。
【図10】rPIV2-αKを経鼻投与した動物の血清中および糞便中のIgA量を示すグラフである。naiveは、rPIV2-αKを投与しない動物のデータであり、PIV2/Ag85Bは、rPIV2-αKを投与した動物のデータである。また、一対となったデータのうち、左側は血清中データ(x100)を、右側は糞便中データ(x5)を示している(図11および図12においても同じである)。
【図11】rPIV2-αKを経鼻投与した動物の血清中および糞便中のIgG1量を示すグラフである。
【図12】rPIV2-αKを経鼻投与した動物の血清中および糞便中のIgG2a量を示すグラフである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図9】
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