TOP > 国内特許検索 > 測定方法および測定装置 > 明細書

明細書 :測定方法および測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4721144号 (P4721144)
登録日 平成23年4月15日(2011.4.15)
発行日 平成23年7月13日(2011.7.13)
発明の名称または考案の名称 測定方法および測定装置
国際特許分類 G01N  21/27        (2006.01)
A61B   5/00        (2006.01)
A61B  10/00        (2006.01)
A61B   5/107       (2006.01)
FI G01N 21/27 B
A61B 5/00 101A
A61B 10/00 T
A61B 5/00 M
A61B 5/10 300Q
請求項の数または発明の数 9
全頁数 19
出願番号 特願2006-510282 (P2006-510282)
出願日 平成17年2月22日(2005.2.22)
国際出願番号 PCT/JP2005/002821
国際公開番号 WO2005/079661
国際公開日 平成17年9月1日(2005.9.1)
優先権出願番号 2004047987
優先日 平成16年2月24日(2004.2.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年7月26日(2007.7.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
発明者または考案者 【氏名】宗田 孝之
【氏名】會沢 勝夫
【氏名】中村 厚
【氏名】影山 智
【氏名】大坪 真也
【氏名】市川 文彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
審査官 【審査官】早川 貴之
参考文献・文献 特開2003-144393(JP,A)
特開平11-332834(JP,A)
特開2001-104237(JP,A)
特開平10-085222(JP,A)
国際公開第2003/094695(WO,A1)
特開平09-047432(JP,A)
特開平10-090062(JP,A)
市川文彦、守屋進、會沢勝夫,高感度リアルタイム分光画像システムの試作,日本分光学会講演要旨集,日本,2001年,Vol.1,春期,18-19
調査した分野 G01N 21/27
A61B 5/00
A61B 5/107
A61B 10/00
特許請求の範囲 【請求項1】
試料となる生体表面に白色光を照射し、前記生体表面の複数の位置から反射する該白色光の分光スペクトルを検出し、前記分光スペクトルの吸光度を光のスペクトル多次元空間にプロットして、前記複数の位置から得られたスペクトル多次元空間のデータを多変量解析することにより、少なくとも第1、第2、第3主成分の固有ベクトルを求め、前記第2主成分、第3主成分のうち少なくとも1つの固有ベクトルの方向に前記各位置のデータを射影し、前記固有ベクトルの方向に対する前記データの成分の大きさにより前記生体表面のヘモグロビン総量、メラニンの量、タラポルフィンの量、および酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビン量の差の少なくとも1つを測定することを特徴とする測定方法
【請求項2】
前記光のスペクトルの波長が、500~600nmおよび500~850nmの範囲であることを基本として多変量解析することを特徴とする請求項1に記載の測定方法
【請求項3】
前記光のスペクトルの波長が、500~600nmおよび700~780nmの範囲であることを基本として多変量解析することを特徴とする請求項1に記載の測定方法
【請求項4】
前記光のスペクトルの波長が、500~600nmと500~850nmと700~780nmの範囲であることを基本として多変量解析することを特徴とする請求項1に記載の測定方法
【請求項5】
タラポルフィンを投与した生体表面を試料とし、前記光のスペクトルの波長が、600~700nmの範囲であることを基本として多変量解析することを特徴とする請求項1に記載の測定方法
【請求項6】
前記光のスペクトルの波長が、700nmより長波長の範囲であることを基本として多変量解析することを特徴とする請求項1に記載の測定方法
【請求項7】
前記光のスペクトルの波長が500~600nmおよび500~850nmの範囲であることを基本として多変量解析し、少なくとも1つの位置でのデータを前記第2及び前記第3固有ベクトルの方向に射影し、その時間変化を表示することを特徴とする請求項1に記載の測定方法
【請求項8】
試料となる生体表面に白色光を照射する手段と、前記生体表面の複数の位置から反射する該白色光の分光スペクトルを検出する手段と、前記分光スペクトルの吸光度を光のスペクトル多次元空間にプロットする手段と、前記複数の位置から得られたスペクトル多次元空間のデータを多変量解析することにより、少なくとも第1、第2、第3主成分の固有ベクトルを求める手段と、前記第2主成分、第3主成分のうち少なくとも1つの主成分の固有ベクトルの方向に前記各位置のデータを射影し、前記固有ベクトルの方向に対する前記データの成分の大きさを2次元表示画面にグレースケールでまたは該大きさに対応する色彩で表示する手段とを有し、前記固有ベクトルの方向に対する前記データの成分の大きさにより前記生体表面のヘモグロビン総量、メラニンの量、タラポルフィンの量、および酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビン量の差の少なくとも1つを測定することを特徴とする測定装置
【請求項9】
前記白色光を照射する手段と、前記生体表面複数の位置から反射する該白色光を集光する手段とを、光ファイバと組み合わせて一体としたことを特徴とする請求項に記載の測定装置
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体表面に光を照射し、その反射光のスペクトル分析を行うことにより、生体表層の血流状態などを測定する方法とその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚癌などの診断を行うには、皮膚の色彩を見たり、手で触ったり、生体組織を採取して病理学的に分析を行うなどの手段を講じていた。しかし、生体組織を採取して観察するのは、患者に苦痛を強いることになる。もし、それが悪性の癌であれば転移のおそれもあり、生体組織を採取することは好ましくない。
【0003】
そこで、非侵襲な検査方法として、皮膚表面の各位置での色彩を分光して、予測される病変に特異な波長領域の光を、複数枚のフィルターをかけて検出し、その光の反射強度を2次元画像として表示していた。また、このような色彩の分光画像を測定表示する装置も開示されている。(例えば、特許文献1)従来の測定方法およびその装置は、目的に応じて、特定の色彩に特徴的な波長を選択してフィルターをかけて画像を得ていたので、病変の検出誤りが多いという問題があった。また、その測定装置も複数枚のフィルターを使用するので、複雑になるという問題があった。

【特許文献1】特開2000-356552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記のような問題を解決し、様々な病変に対応でき、さらに、病変の検出誤りが少なくなるような、皮膚表面の観察測定データの処理方法とフィルターを不要とする簡単な構造の測定装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による生体表面の測定方法は、請求項1に記載するように、試料となる生体表面に白色光を照射し、前記生体表面の複数の位置から反射する該白色光の分光スペクトルを検出し、前記分光スペクトルの吸光度を、光のスペクトル多次元空間にプロットして、前記複数の位置から得られたスペクトル多次元空間のデータを多変量解析することにより、少なくとも第1、第2、第3主成分の固有ベクトルを求め、前記第2、第3主成分の固有ベクトルの方向に前記各位置のデータを射影し、前記固有ベクトルの方向に対する前記データの成分の大きさにより前記生体表面のヘモグロビン総量、メラニンの量、タラポルフィンの量、および酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビン量の差の少なくとも1つを測定することを特徴とする。
【0006】
上記のような測定方法によれば、試料となる生体表面の各位置から反射する全てのスペクトルを検出して、統計的データ処理を行うのでフィルターを必要とせず、また、広範囲のデータの総合的な分析により生体表面の状態を測定し表示するので、病変の検出誤りを少なくできる効果がある。
【0007】
データ処理に用いる光の波長領域を、500~600nmおよび500~850nmの範囲であることを基本として多変量解析するので、例えば、糖尿病性末梢血管閉塞症や皮膚移植手術後の移植皮膚着床の状況を観察するのに効果的で、病変の検出誤りを少なくできる。
【0008】
データ処理に用いる光の波長領域を、500~600nmおよび700~780nmの範囲であることを基本として多変量解析するので、例えば、黒子の様な表皮のメラニン量を検出できるが、黒子に隠れた癌の検出もできるという効果がある。
【0009】
特に、メラニンに相当する固有ベクトルに対するスコア値を計算するように多変量解析することにより、検定線を使ってメラニン濃度を予測することができ、病変に至る前に処置できる効果がある。
【0010】
さらに、データ処理に用いる光の波長領域を、500~600nmと500~850nmと700~780nmの範囲であることを基本として多変量解析するので、例えば、表在性癌細胞の検出に効果がある。
【0011】
また、癌の治療のため光感受性物質を投与した生体表面を試料とし、データ処理に用いる光の波長領域を、500~600nmと500~850nmと700~780nmの範囲であることを基本とし、さらに該光感受性物質の特有な波長域も含むような波長範囲で多変量解析するので、この波長領域に吸収体を持つ光感受性物質による癌の存在部位及び治療効果を観察できるという効果がある。
【0012】
データ処理に用いる光の波長領域を、700nmより長波長の範囲であることを基本として多変量解析する。この光は目に安全なので、例えば、眼底網膜上の血流量や酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの相対量を観測できるという効果がある。
【0013】
また、データ処理に用いる光の波長領域を、500~600nmおよび700~780nmの範囲であることを基本として多変量解析し、皮下の末梢血管からのスペクトル情報の時間変化を測定するので、高脂血症や耐糖機能異常などの病変を検出することができるという効果がある。
【0014】
また、このようなデータを測定する測定装置は、上記の測定方法を実施できる装置であり、従来の装置に必要なフィルターを必要とせず、簡単な構造になっている。
【0015】
さらに、このようなデータを測定する測定装置では、光ファイバとの組み合わせにより、白色光照射部ならびに反射光集光部を一体とした部分と、分光分析部を分離することが可能となる。このような形態の装置は、口腔、開頭ならびに開腹手術時などの検査に応用できる装置、従来技術である消化器系内視鏡、呼吸器系内視鏡、血管カテーテルとの組み合わせにより、消化器、呼吸器、血管内壁表面の検査が容易にできる測定装置を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、様々な病変に対応でき、さらに、病変の検出誤りが少ない測定方法であり、さらに測定装置もフィルターを必要とせず、構造が簡単になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、本発明による測定装置について図1と図2を参照して説明する。図1において、1は試料Sを置くステージ、2は白色光源である。ステージの上方にはスリット3を備えた分光器4が設けられている。分光器4は、透過型グレーティングを搭載したイメージング分光器である。試料の1ラインから反射した光はスリット3を通り、分光器で分光されてCCDカメラ5の受光面に結像する。すなわち、CCDカメラ5の受光面のX軸は試料の1ライン上の位置に対応し、Y軸方向は分光された光のスペクトルとなる。
【0018】
図2に分光器4の詳細構造を示す。スリット3はスリット本体3aと集光するためのレンズ3bとで構成されている。さらに2枚のレンズ4a、4cとの間にある透過型グレーティング方式のプリズム4bとにより構成されている。カメラ5には光電子増倍管5aが搭載され、微弱な光にも感じるように感度を高めている。
【0019】
この測定装置の光学的部分の構成はこのようになっているので、CCDカメラの1フレームで、試料Sの1ラインの分光スペクトルデータを取得できる。このデータはデータ処理装置6に入力される。続いて、ステージを微小な長さ動かして次の1ライン分光スペクトルデータをCCDカメラの次のフレームに取得し、データ処理装置に送る。この動作を繰り返すことにより、2次元の面の分光スペクトルデータを取得できる。実際には、上記X軸に対応する試料表面の1ラインに垂直な方向に掃引させる機構、例えば、調節手段7でステージをほぼ連続的に移動させながら、その動作に同期してCCDカメラ5でデータを取得するようになっている。
【0020】
また、光ファイバとの組み合わせにより、白色光照射部ならびに反射光集光部を一体とした部分と、分光分析部を分離することにより、皮膚表面ばかりでなく、光ファイバを通して見ることが出来る内蔵の状態を測定することが可能である。このような形態の装置は、口腔、開頭ならびに開腹手術時などの検査に応用できる装置、従来技術である消化器系内視鏡、呼吸器系内視鏡、血管カテーテルとの組み合わせにより、消化器、呼吸器、血管内壁表面の検査が容易にできる。次に、上記のようにして取得されたデータの処理方法について詳細に説明する。スリット3aと対物レンズ3bの倍率により、検出する試料の微小領域の大きさが決まるが、その隣り合わせる4つの微小領域内スペクトルデータの平均値をとることにより、スペクトルデータのS/N比を良くしている。
【0021】
このようにして、各位置で得られたスペクトルデータをスペクトル多次元空間にプロットする。例えば、取得したデータの波長が500nmから600nmとすると、これを最小分解能の5nmで分割して、それぞれの波長での吸光度(任意単位)を求め、分割した20次元の空間に、1つの位置あたり1点としてプロットする。
【0022】
例えば、試料の大きさが1mm平方で、検出する微小領域が0.01mm平方とすれば、10、000個の微小領域からのスペクトルデータが得られる。例えば、S/N比の向上を目的として、4つの微小領域のデータを平均して1つのデータとすると、最終的に得られるデータは2,500個である。この2,500個のスペクトルデータを上記の20次元のスペクトル空間にプロットする。
【0023】
次に、例えば主成分分析法などの多変量解析の手法を用いて、20次元のスペクトル空間の中で、第1の主成分として、2,500個の点の分散が最大になる方向を求め、その方向を第1主成分の固有ベクトルとする。さらに、第1の固有ベクトルに直交する空間に各プロット点を射影して、第2の主成分を求め、第2主成分の固有ベクトルとする。さらに、上記と同様な手順で第3,・・nの主成分と第3,・・n主成分の固有ベクトルを求める。
【0024】
このようにして、第1主成分の固有ベクトル、第2主成分の固有ベクトル、第3主成分の固有ベクトルが決まり、その各固有ベクトルに前記のプロットした2,500個のデータを射影する。すなわち、各固有ベクトル方向の成分を求める。この成分の大きさをスコアと呼ぶが、固有ベクトル方向毎のスコアを試料の各位置に、グレースケールまたはスコアの値に応じた色彩でプロットして2次元表示を行う。
【0025】
図3に、人の血液の分光吸収特性を示す。横軸は光の波長で、縦軸は吸光度(任意単位)を示している。2本のグラフのうち、Aは酸化ヘモグロビンの吸収スペクトルをBは還元ヘモグロビンの吸収スペクトルを示している。この2つの吸収スペクトルの差の特徴は、500nmから600nmの間でのピークの形状で、酸化ヘモグロビンの吸収スペクトルには2つのピークがあり、還元ヘモグロビンの吸収スペクトルは1つのピークを示すことである。また、700nmから800nmの間にも差が認められ、酸化ヘモグロビンの吸収スペクトルは平坦であるが、還元ヘモグロビンの吸収スペクトルは1つのピークを示すことである。
【0026】
第1の実施例として、図4に、500nmから600nmの波長域を使って、正常な皮膚を試料として測定したときの波長に対する各固有ベクトル成分の値を示す。第1主成分に対応する固有ベクトルは2,500個のスペクトル全体の平均値を示し、第2主成分に対する各固有ベクトル成分の値はヘモグロビンの総量に対応するスペクトルを示し、第3主成分は酸化ヘモグロビンスペクトルと還元ヘモグロビンスペクトルの差スペクトルを示している。
【0027】
さらに、各位置のスコア値を試料の測定位置に対応させて、第2主成分スコアと第3主成分スコアをそれぞれ2次元表示したものを図5(a)、図5(b)に示す。図5に示すように、毛細血管がある部分の血液総量と酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの相対量が検出されている。
【0028】
500nm~850nmの広いスペクトル領域で観測すると、図6(a)、図6(b)に示すようになっている。図6(a)は第2主成分、図6(b)は第3主成分のスコアを表示したものである。図5と同様に、毛細血管がある部分が検出されている。
【0029】
例えば、もし糖尿病性末梢血管閉塞症のような末端の毛細血管への血液の循環が悪いような場合には、第2主成分に対応する固有ベクトルの形状が酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの差スペクトルを表すようになり、血流が停滞した部分に還元ヘモグロビンが多い状況が見られることになる。(図示しない)また、皮膚移植手術後に、皮膚が着床しておれば、毛細血管に血が流れているので、ヘモグロビンの存在を検出して、皮膚の着床状況を知ることができる。
【0030】
第2の実施例として、黒子がある部分を含んで測定した結果を、波長域が500nm~600nmの場合を図7に、波長域が700nm~780nmの場合を図8に示す。
【0031】
図7は、波長域が500nm~600nmの場合の第2主成分のスコア値を2次元表示したものである。黒子の周囲は多くのヘモグロビンが検出されるが、黒子の部分は光の吸収が強く低い値になっている。図8は、波長域が700nm~780nmの場合の第3主成分のスコア値を2次元表示したものである。この成分は還元ヘモグロビンの寄与が大きい。図8では、黒子の周囲に還元ヘモグロビンが多く存在することが検出されている。
【0032】
例えば、悪性黒色腫瘍があると、腫瘍の周囲に新生血管が増殖集中する病態があるので、腫瘍周辺のヘモグロビンが増加するので、波長域が500nm~600nmの場合の第2主成分の画像が黒子の場合とは明らかに異なってくる。また、新生血管には酸化ヘモグロビンが多く存在するので、波長域が700nm~780nmの場合の第2、3主成分のスコア値も画像も黒子の場合とは明らかに異なってくる。(図示しない)メラニン色素は皮膚の表皮層に沈着し、皮膚の色合いを決定する主要な成分の一つである。これが多く沈着することでシミや黒子を生成する。黒子がある部分はメラニン色素が多く、短波長の光は吸収され易いので、血管がある真皮まで光が届かない。また、メラニン特有の吸収特性も見られる。
【0033】
分光法を用いたメラニン色素濃度に関する研究は1980年代から多く行われているが、色座標パラメータあるいはメラニン指標での議論に留まっており、濃度としての定量化には未だ至っていない。
【0034】
メラニン色素の濃度を測定するために、まず、皮膚からの可視域吸収スペクトルを、本発明による多変量解析の手法を用いて解析し、メラニンに相当する固有ベクトルを求めて、メラニンとコラーゲンによって作成した皮膚モデルを使って、図9に示すような検定線を描いた。この検定線を使うと、各部位のスコア値から、各部位のメラニン濃度を予測することができる。
【0035】
第3の実施例として、癌細胞がある皮膚の試料での、波長域が500nm~600nmの場合の第2主成分のスコア値を図10(a)に、第3主成分のスコア値を図10(b)に、波長域が500nm~800nmの場合の第2主成分のスコア値を図11に、また、波長域が700nm~780nmの場合の第3主成分のスコア値を図12に示す。
【0036】
癌細胞の周辺には新生血管の増殖があり、ヘモグロビンが増加するので、癌細胞の周辺の第2主成分のスコア値が大きくなる。図10(a)と図11にその様子が観測できる。また、癌細胞の周辺には新生血管の増殖があるので、酸化ヘモグロビンが多く存在し、還元ヘモグロビンの量が相対的に減少する。したがって、図10(b)に示すように、癌細胞の周辺で酸化ヘモグロビンが多く存在し、第3主成分のスコア値が高くなっている。また、図12に示すように、波長域が700nm~780nmの場合の第3主成分のスコア値は癌細胞の周辺で減少していることが観測される。
【0037】
第4の実施例として、光感受性物質であるタラポルフィン(Talaporfin)による癌の治療効果を検証する例を示す。光感受性物質であるタラポルフィン(Talaporfin)を投与すると、この物質は癌細胞の周辺のマクロファージ内に集積することが知られているが、その後にタラポルフィンが特異的に吸収(固有吸収帯)する波長の光を照射するとタラポルフィンが分解するときに、活性酸素を発生し、癌細胞を殺すとともに、新生血管を詰まらせるために、癌の治療に有効であることが知られている。これを光線力学療法(PDT)と呼んでいる。
【0038】
第3の実施例で示した癌細胞をもつ試料に上記のような処置を行ったときの、波長域が500nm~800nmの場合の第2主成分のスコア値を図13に、波長域が500nm~600nmの場合の第3主成分のスコア値を図14に示す。
【0039】
図13と図14から癌細胞の周辺には、ヘモグロビンはあるが、還元ヘモグロビンが多いのが観測される。すなわち、酸化ヘモグロビンを多く含む新生血管の流れが抑えられたことを示している。
【0040】
一方、タラポルフィンの組織に結合した状態での固有吸収帯は660nm~670nm(中心の波長は664nm)にあるので、この波長を含む波長域で分析した結果を図15に示す。図15は、600nm~700nmでの第3主成分のスコア値を示した図である。図15から以下のことが観測できる。すなわち、タラポルフィンは癌細胞の部分では消滅しているが、その周囲に少し残っていることが観測される。
【0041】
これにより、癌の治療効果が確認できるとともに、残留したタラポルフィンは正常な細胞も破壊するので、癌の周囲に残ったタラポルフィンも消滅するような処置が完全にできたかどうかを確認できる。
【0042】
図16に、タラポルフィンを投与し、PDTを行った後までの状況を、時間を追って示す。
【0043】
タラポルフィンは664nmに特徴的な吸収バンドをもつので、波長域が600nm~700nmで主成分分析を行うと、第2主成分にこの特徴的な吸収バンドの特徴が現れる。全ての観測場所でのスぺクトルを第2主成分の方向へ射影するとその値はタラポルフィン濃度の指標となる。図16は、タラポルフィン量の経時変化をその指標の大きさで示している。カラースケールで暖(寒)色系になればなるほどタラポルフィンの量が増加(減少)していることを示している。静脈注射による投与直後から癌細胞周辺にタラポルフィンがその癌親和性により、時間の経過にしたがって集積していることがわかる。PDTを施す(図16(f)で、破線で囲った癌の部分)と、タラポルフィンのテトラピロール環が解裂して、664nmの吸収ピークが消滅することがわかっているが、図16(f)には、まさにこの事実を反映している。
【0044】
波長域が500nm~600nmで主成分分析を行ったとき、第3主成分は、酸化ヘモグロビンスペクトルと還元ヘモグロビンスペクトルの差スペクトルと解釈できる。従って第3主成分のスコア値が大きい(小さい)ほど、酸化(還元)ヘモグロビン量が相対的に増加していることを意味する。図17は、第3主成分スコア値の経時変化を表している。暖(寒)色系になればなるほど相対的に酸化(還元)ヘモグロビン量が増加していることを示している。がん細胞周辺は、周囲に比較して酸化ヘモグロビン量が多いことが解る。これは、がん細胞周辺に新生血管増殖が起きている病態と一致している。PDT(図17(f)で破線で囲ったがんの部分)後には、それらの血管が詰まるのでがん細胞周辺では相対的に還元ヘモグロビン量が増加すると考えられ、図17(f)はまさにこのことを示している。
【0045】
第5の実施例として、眼底の網膜上の血流診断において、ヘモグロビンの量や酸化ヘモグロビンの量を測定する例を示す。従来、眼底の網膜上の血流診断では、強い可視光を眼底に照射して写真撮影しその映像から判断する方法がとられているが、被験者には苦痛を強いている。また、表面写真だけでは、誤診することも多い。
【0046】
本発明による方法では、眼底の血流に応じた2次元的な表示が得られるので、異常がある位置やその程度が観測できる。使用する光としては、可視光は眼に感じて眼を開けていられないので、眼に安全な700nm以上の近赤外線領域の光を使うことが特徴である。画像化の方法は、前記の実施例と同じく、第2主成分と第3主成分スコアを用いる。
【0047】
第6の実施例として、第2成分スコア値の時間変化を分析し、高脂血症、耐機能異常、肥満、インスリン抵抗性などからなるマルチプルリスクファクター症候群における臓器微小循環障害を引き起こす血液流動性障害を検出する例を示す。
【0048】
測定の方法は、被験者の上腕などの体の一部を駆血帯で緊迫して血流を一時止めてから、駆血帯を開放してからのヘモグロビンの総量を表すスペクトルあるいは酸化ヘモグロビンスペクトルと還元ヘモグロビンスペクトルの差スペクトルを表す固有ベクトルを持つ主成分スコア値の時間変化を測定する方法である。例えば、500~600nmの波長領域では。第2主成分スコア値は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの相対量を表しているので、緊迫して血流を一時止めると、スコア値が負の値となっているが、駆血帯を開放すると血液が流れ出してヘモグロビンの総量および酸化ヘモグロビンの相対量が増加してゆく。ここで、血液流動性障害がなければ、速やかに血流量が回復するが、障害があれば時間がかかるので、障害の有無が検出できる。
【0049】
図18に、5名の被験者で、波長域が500nm~600nmでの第2主成分スコア値の時間変化を示す。このグラフは第2主成分スコア値の変化が、0と1の間になるように規格化したものである。このグラフから規格化された第2主成分スコア値が50%、70%、90%に立ち上がるまでに要した時間を図19示す。被験者AはタイプIIの糖尿病患者(空腹時血糖値200mg/dl)で、他は正常者(空腹時血糖値95mg/dl)である。この図から、被験者Aの90%立ち上がり値が他のものより大きくなっている。
【0050】
波長域が500nm~850nmでの第2主成分スコア値の時間変化から、上記の方法と同じ方法で求めた値を図20に示す。これから見ても、被験者Aの90%立ち上がり値が他のものより大きくなっている。このように、第2主成分スコア値の時間変化を観測することにより、血液流動性障害を容易に見つけることができる。
【0051】
また、皮膚移植手術後に、皮膚が着床し始めれば、毛細血管に酸化ヘモグロビンが流れはじめるので、上記の方法と同じ方法で、第2主成分スコア値の時間変化を観測することにより、皮膚の着床状況の時間変化を知ることができる。
【0052】
本発明は、前記の実施例に限定されるべきものではなく、実質的に同等の思想により当業者が置き換えや変更により、同等の効果が得られるものも、本発明の範囲に属するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による測定装置の概略図である。
【図2】本発明による測定装置に搭載された分光器の構成図である。
【図3】人の血液の分光吸収特性を示す図である。
【図4】正常な皮膚からのスペクトルから計算された各主成分に対応する固有ベクトルを示す図である。
【図5】第1の実施例において、図1の装置により測定された500nm~600nmでの正常な皮膚からのスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図6】第1の実施例において、図1の装置により測定された500nm~850nmでの正常な皮膚からのスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図7】第2の実施例において、図1の装置により測定された500nm~600nmでの黒子がある部分を含んだ皮膚からの第2主成分スコア値の画像を2次元表示した図である。
【図8】第2の実施例において、図1の装置により測定された700nm~780nmでの黒子がある部分を含んだ皮膚からの第3主成分スコア値の画像を2次元表示した図である。
【図9】メラニン濃度と、メラニンに固有のベクトル方向でのスコア値との関係を示す図である。
【図10】第3の実施例において、図1の装置により測定された500nm~600nmでの癌細胞がある皮膚からのスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図11】第3の実施例において、図1の装置により測定された500nm~800nmでの癌細胞がある皮膚からの第2主成分のスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図12】第3の実施例において、図1の装置により測定された700nm~780nmでの癌細胞がある皮膚からの第3主成分のスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図13】第4の実施例において、図1の装置により測定された500nm~800nmでの癌細胞がある皮膚にPDT処理した後での第2主成分のスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図14】第4の実施例において、図1の装置により測定された500nm~600nmでの癌細胞がある皮膚にPDT処理した後での第3主成分のスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図15】第4の実施例において、図1の装置により測定された600nm~700nmでの第3主成分のスコア値の画像を2次元表示した図である。
【図16】タラポルフィン投与からPDTを行った後までのタラポルフィンの量の時間変化を示す図である。
【図17】タラポルフィン投与からPDTを行った後までの、500nm~600nmでの第3主成分スコア値の時間変化を示す図である。
【図18】第6の実施例において、図1の装置により測定された500nm~600nmでの第2主成分スコア値の時間変化を示す図である。
【図19】第6の実施例において、図1の装置により測定された500nm~600nmでの第2主成分スコア値が50%、70%、90%立ち上がるまでに要した時間を示す図である。
【図20】第6の実施例において、図1の装置により測定された500nm~850nmでの第2主成分スコア値が50%、70%、90%立ち上がるまでに要した時間を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ステージ
2 白色光源
3 スリット
4 分光器
5 CCDカメラ
6 データ処理装置
7 調節手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図18】
4
【図19】
5
【図20】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7】
9
【図8】
10
【図9】
11
【図10】
12
【図11】
13
【図12】
14
【図13】
15
【図14】
16
【図15】
17
【図16】
18
【図17】
19