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明細書 :避難誘導システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5109119号 (P5109119)
公開番号 特開2008-134806 (P2008-134806A)
登録日 平成24年10月19日(2012.10.19)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
公開日 平成20年6月12日(2008.6.12)
発明の名称または考案の名称 避難誘導システム
国際特許分類 G08B  17/00        (2006.01)
G08B  27/00        (2006.01)
FI G08B 17/00 F
G08B 27/00 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 16
出願番号 特願2006-320258 (P2006-320258)
出願日 平成18年11月28日(2006.11.28)
審査請求日 平成21年6月8日(2009.6.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】三浦 房紀
審査官 【審査官】今関 雅子
参考文献・文献 実開昭58-142793(JP,U)
特開平05-205164(JP,A)
特開平05-269216(JP,A)
特開2004-252571(JP,A)
特開2003-051072(JP,A)
特開平07-296068(JP,A)
調査した分野 G08B 5/00
G08B 17/00
G08B 27/00
特許請求の範囲 【請求項1】
避難誘導路に複数個配置され、災害時に避難者に避難誘導情報を伝達する避難誘導装置であって、
近接する他の避難誘導装置から避難経路情報を受信する受信手段と、
受信した避難経路情報に当該避難誘導装置の情報を付加した避難経路情報を、近接する他の避難誘導装置に送信する送信手段と、
前記避難誘導装置内又は装置外に設置され、周辺の状況を検知するセンサ手段と、
前記センサ手段の検知結果に基づき、当該避難誘導装置周辺の避難経路を閉塞すべきか判定する避難経路閉塞判定手段と、
近接する他の避難誘導装置から受信した避難経路情報に基づいて、最短避難経路を求める最短避難経路演算手段と、
当該避難誘導装置周辺の避難者に、前記最短避難経路を含む避難誘導情報を伝達する避難誘導情報伝達手段と、
を有し、
前記受信手段は近接する他の避難誘導装置から少なくとも通路閉塞情報の有無を含む避難経路情報を受信し、
前記避難経路閉塞判定手段により当該避難誘導装置周辺の避難経路を閉塞すべきと判定された場合には、前記送信手段は近接する他の避難誘導装置に通路閉塞情報有りを含む避難経路情報を送信し、前記避難経路閉塞判定手段により当該避難誘導装置周辺の避難経路を閉塞すべきと判定されていない場合には、前記送信手段は先に通路閉塞情報有りを含む避難経路情報を送信した避難誘導装置を除く近接する他の避難誘導装置に通路閉塞情報なしを含む避難経路情報を送信する
ことを特徴とする避難誘導装置。
【請求項2】
前記送信手段及び前記受信手段は、無線LANにより通信を行うことを特徴とする請求項1に記載の避難誘導装置。
【請求項3】
前記送信手段及び前記受信手段は、赤外線により通信を行うことを特徴とする請求項1に記載の避難誘導装置。
【請求項4】
前記センサ手段は、煙センサ、火災センサ、においセンサ及び群集密度センサの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の避難誘導装置。
【請求項5】
前記避難誘導情報伝達手段は、当該避難誘導装置周辺の携帯端末に情報を伝達する手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の避難誘導装置。
【請求項6】
前記避難誘導情報伝達手段は、避難誘導情報を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の避難誘導装置。
【請求項7】
前記避難誘導情報伝達手段は、音声により避難誘導情報を伝達する手段を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の避難誘導装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の避難誘導装置を避難誘導路に複数個配置し、避難誘導路の出口付近に配置された避難誘導装置から近接する避難誘導装置へ順次避難経路情報を送信し、各々の避難誘導装置が最適避難経路を求めて避難者に伝達することを特徴とする避難誘導システム。
【請求項9】
前記避難経路情報は、出口情報、経由した避難誘導装置の履歴、経由した避難誘導装置間の距離の合計を含むことを特徴とする請求項8に記載の避難誘導システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非常災害時に人々の避難誘導を行う避難誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非常災害には、地震災害、風水害、雪害、火山災害、地盤災害、塩害などの自然災害と、火災、爆発、物体の飛来・衝突、危険物質の流出・拡散などの突発的な事故がある。我が国においては自然災害の中でも特に地震による被害が多く、現在に至るまで多くの人命を奪ってきた。地震により構造物が倒壊すると、中にいる人間の生命が著しく危険となるので、地震により構造物が倒壊しないようにしておくことは、構造設計によって最低限確保されなければならない。ただし、構造物が倒壊しなくても設備類の破損、家具や機器の転倒、建築部材の変形や落下などによって直接人的被害が生じたり、避難路を塞いで避難を困難とすることは、1995年の阪神・淡路大震災や2003年の宮城県沖地震などの際に顕著に示されている。また、突発的な事故の代表例としては、1995年に東京都で起こった地下鉄サリン事件や、海外では2001年9月にアメリカで起こった同時多発テロなどがあり、この同時多発テロでは、ビルに旅客機が激突し発生した爆発的火災により多数の死者が出た。
このような閉空間内において災害が発生した場合、市民は急いで安全な場所へ避難しようとする。避難訓練は、避難場所や避難経路を事前に把握する手法として有効であり、市民の避難行動の迅速・円滑化に貢献してきた。しかし、現実の災害事象においては、火災延焼や通路閉塞、群集の殺到などにより、あらかじめ定められた避難経路・避難場所の安全性は変化する。そのため、災害状況に応じた避難誘導手法として、消防隊や警察隊などが拡声器を用いた音声による情報伝達手法を行うことが多い。しかし、この手法は非常に混乱した状況である災害発生時には、情報が正確に伝達されない状況が生じることが課題として指摘されており、携帯電話などの一般市民に広く普及した個人情報端末を活用した情報伝達手法の併用が期待されている。
【0003】
2003年2月18日9時55分頃、韓国大邱(テグ)市都心の中央路(チュアンノ)駅構内で発生した電車火災は死者192名、負傷者148名と、鉄道火災としては国際的にも史上希にみる惨事となった。この火災の特徴の一つとして、地下鉄駅構内及びその周辺に相当の煙損を及ぼしていることが挙げられる。大邱市地下鉄火災を見るまでもなく、地下やトンネルで火災が発生すると人命危険が極めて高いことは常識である。濃煙や一酸化炭素が発生しやすく、また充満しやすいこと、煙が流れていく方向(上方)に避難しなければならないこと、照明が消えると真っ暗になることなど、避難者に不利な条件がそろっている。
我が国の地下駅については、火災対策基準により、排煙設備や避難通路に関する基準などが定められているが、韓国の地下鉄火災事故を受けて、我が国の地下駅に関する調査を行った結果、地下駅総数684に対し、火災対策基準にすべて適合している駅の数は416あり、残りの268の駅に対しては一部基準に適合していないことが明らかになった(平成15年2月28日現在)。これらの地下駅では、排煙設備や避難誘導設備などが不備であることが指摘されているが、表1、表2にそれらの詳細について示す(不適合事項に対する駅数の中には重複しているものがあるため、不適合駅数の合計とは合致していない)。

表1 基準を満たさない駅の内容(排煙設備)
【表1】
JP0005109119B2_000002t.gif
表2 基準を満たさない駅の内容(避難誘導設備)
【表2】
JP0005109119B2_000003t.gif

【0004】
避難誘導設備に関しては、地上までの避難通路が1通路のみという地下駅が77あるが、それらの地下駅では避難通路を塞ぐような火災が発生した場合、旅客は地上までの避難通路を閉ざされ安全な避難が困難となり、また、排煙設備が設置されていない地下駅では、地下空間に煙が充満し、避難する上で危険な状況となる可能性がある。韓国の地下鉄火災においても、濃煙と有毒ガスの充満が死因の直接の原因であったため、排煙設備がいかに重要な対策であるかが分かる。しかし、いくら排煙対策を徹底していても、火災の盛期に発生する煙の量は、可燃物量によっては完全に排出できるような量ではなく、必ずしも排煙設備が有効であるとは言えない。
日本の場合、地下火災で、防災関係者が最もマークしているのは地下街の火災である。多数の買い物客や通行人がいる可能性があり、可燃物が非常に多く、避難誘導にあたるべき店員は素人である。初期にできた地下街には避難経路が複雑なものも多い。このため、万が一起きてしまった災害に備えて、すでに避難誘導システムを導入している地下街もある。広島県広島市中区にある紙屋町では、光点滅走行式による避難誘導システムを設置しており、火災が発生した場合には、火元を特定し床に埋め込まれた光の流れにより、火元から遠ざかる方向に誘導するというものである。
【0005】
既にいくつかの避難誘導システムが稼動しているが、ほとんどの避難誘導システムでは災害発生状況や避難誘導情報などを一箇所で集中管理している。集中管理方式は災害状況の把握や避難指示を効率的に管理できるが、何らかの事情で集中管理しているシステムがダウンしたり、集中管理システムとの通信が遮断してしまうと機能しなくなってしまう。また、集中管理方式の場合、システム変更に対する柔軟性がなくコストも高くなってしまう。
【0006】
従来技術として特許文献1がある。特許文献1には、センサノード間で通信することで複数の通信経路を確保することが記載されている(図6、段落0046~0053)。しかし、センサノード間で通信することは記載されているものの、あくまでセンサ情報の通信であり、基本は集中管理方式になっている。したがって、各センサノードが、避難経路情報を交換したり最適避難経路を求めるものではない。

【特許文献1】特開2005-316533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、集中管理方式ではなく、インテリジェントタイプの避難誘導装置を多数用いた分散方式の避難誘導システムを提供することを目的とする。各々の避難誘導装置は、近接する避難誘導装置と相互に情報を交換することで最適避難経路を求めて、求めた最適避難経路を周囲の避難者に伝達する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
避難誘導路に複数個配置され、災害時に避難者に避難誘導情報を伝達する避難誘導装置であって、近接する他の避難誘導装置から避難経路情報を受信する受信手段と、受信した避難経路情報に当該避難誘導装置の情報を付加した避難経路情報を、近接する他の避難誘導装置に送信する送信手段と、前記避難誘導装置内又は装置外に設置され、周辺の状況を検知するセンサ手段と、前記センサ手段の検知結果に基づき、当該避難誘導装置周辺の避難経路を閉塞すべきか判定する避難経路閉塞判定手段と、近接する他の避難誘導装置から受信した避難経路情報に基づいて、最短避難経路を求める最短避難経路演算手段と、当該避難誘導装置周辺の避難者に、前記最短避難経路を含む避難誘導情報を伝達する避難誘導情報伝達手段と、を有し、前記受信手段は近接する他の避難誘導装置から少なくとも通路閉塞情報の有無を含む避難経路情報を受信し、前記避難経路閉塞判定手段により当該避難誘導装置周辺の避難経路を閉塞すべきと判定された場合には、前記送信手段は近接する他の避難誘導装置に通路閉塞情報有りを含む避難経路情報を送信し、前記避難経路閉塞判定手段により当該避難誘導装置周辺の避難経路を閉塞すべきと判定されていない場合には、前記送信手段は先に通路閉塞情報有りを含む避難経路情報を送信した避難誘導装置を除く近接する他の避難誘導装置に通路閉塞情報なしを含む避難経路情報を送信することを特徴とする避難誘導装置。
【0009】
また、本発明は以下の実施態様を有する。
前記送信手段及び前記受信手段は、無線LANにより通信を行う。
前記送信手段及び前記受信手段は、赤外線により通信を行う。
前記センサ手段は、煙センサ、火災センサ、においセンサ及び群集密度センサの少なくとも一つを含む。
前記避難誘導情報伝達手段は、当該避難誘導装置周辺の携帯端末に情報を伝達する手段を有する。
前記避難誘導情報伝達手段は、避難誘導情報を表示する表示手段を有する。
前記避難誘導情報伝達手段は、音声により避難誘導情報を伝達する手段を有する。
前記避難誘導装置を避難誘導路に複数個配置し、避難誘導路の出口付近に配置された避難誘導装置から近接する避難誘導装置へ順次避難経路情報を送信し、各々の避難誘導装置が最適避難経路を求めて避難者に伝達することを特徴とする避難誘導システム。
前記避難経路情報は、出口情報、経由した避難誘導装置の履歴、経由した避難誘導装置間の距離の合計を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明では中央管理装置が無く、各々の避難誘導装置が個別にその場所における最適避難誘導情報(最適避難経路)を求めるので、災害等で一部の避難誘導装置が利用不可能になっても、避難者に避難誘導情報を伝達することができる。本発明の避難誘導装置は、通信手段、マイクロコンピュータ、センサ、避難情報伝達手段伝達手段などの必要最低限の機能を有していれば良く、中央管理システムが不要なので、中央管理方式に比べて安価にシステムを構築することができる。また、実際の避難経路に沿って、避難経路情報が伝達されるので、より正確に避難経路情報を避難者に伝えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態の説明をする。図1は、本システムの概略図である。インテリジェントタイプの避難誘導装置1を、地下街、ビルなどの閉空間内の通路の交差点などの見通し位置に各々配置する。避難誘導装置1は避難誘導情報伝達手段を有していて、本図ではその一例として避難誘導装置周辺の携帯端末2に情報を送信する例を示している。図2は、避難誘導装置のブロック図である。避難誘導装置1内には、無線LANユニット3、マイコン5、避難誘導情報伝達手段6、表示手段7が搭載されている。マイコン5は各種情報を解析し、避難経路閉塞判定や最適避難経路演算を行う。図示されていないが、火災センサ、煙センサ、においセンサ、群集密度センサなど、周囲の状況を検知するセンサが設置されている。センサは、避難誘導装置内にあっても良いし、装置外にあっても良い。センサによる検知情報はマイコン5に送られる。無線LANユニット3は、近接する他の避難誘導装置と無線により避難経路情報を交換するものであり、マイコン5に接続されている。マイコン5により演算された、避難経路閉塞情報や最適避難経路情報は、避難誘導情報伝達手段6に送られ、そこから避難者に伝達される。避難者への伝達は、携帯端末2への情報伝送でも良いし、避難誘導装置1そのものが表示手段7を有していても良い。これ以外に、避難誘導装置1は図示しない電源を有している。電源は外部から供給されても良いし、バッテリーでも良い。外部からの電源供給の場合には、常時バッテリーに充電しておき、災害の際に停電しても装置が停止しないようにすると良い。
【0012】
図3は、各避難誘導装置の処理フロー図である。各避難誘導装置1は、隣接する他の避難誘導装置との間の距離を記憶している。また、センサ4の検知情報により当該避難誘導装置の周辺を閉塞すべきと判定した時は、避難経路情報をリレーしない。避難経路情報をリレーする場合は、出口から当該避難誘導装置まで経由した避難誘導装置の履歴と、今までリレーしてきた各避難誘導装置間の距離を積算した情報をリレーする。したがって、避難誘導装置1が受信する避難経路情報は、閉塞されていない有効な避難経路の情報であり、出口までの距離の情報を含んでいる。受信した避難経路情報のうち、出口までの距離が最も短いものを最適避難経路情報とし、その情報を当該避難誘導装置の周辺の避難者に伝達する。
【0013】
以下、本システムの具体例を説明する。
【0014】
発信機(避難誘導装置)は、地下や建物内などの天井に設置するようにし、出入口付近の天井にそれぞれ一つずつ、あとは等間隔、あるいは曲がり角や交差路ごとに設置する方法がある。通路の構造が単純であれば、等間隔の設置が容易であるかもしれないが、地下街などの複雑な構造になっているような空間では、交差路などで発信機(避難誘導装置)間の距離に矛盾が生じ、等間隔では実現できない場合がある。したがって本システムでは、発信機(避難誘導装置)の設置は曲がり角や交差路ごとに設置する方法で進めていく。発信機(避難誘導装置)の電源はコンセントタイプのものとし、簡単な電源工事だけで設置できるようにする。まず初めに各出入口付近に取り付けた発信機(避難誘導装置)のスイッチを入れると、そこから一斉に無線LANで接続されている近くの発信機(避難誘導装置)へ情報を送信し、情報を受信した発信機(避難誘導装置)はその情報をプログラム処理し、また近くの発信機(避難誘導装置)へ送信、というふうに次々とリレー式で情報を送信していく。「近くの」発信機(避難誘導装置)とは、ひとつ先の交差路に設置してある発信機(避難誘導装置)を指す。また、ここでの情報の内容というのは、出口情報、前発信機(避難誘導装置)情報、通路閉塞情報などがある。最終的には、無線LAN上の情報を直接、ユーザの持つ携帯情報端末が受信し、ユーザは最適な避難誘導情報を得ることができるというものである。
このシステムの利点としては、以下の事項が挙げられる。
・発信機(避難誘導装置)の設置だけで避難誘導を行うことができ、低コストで実現できる。
・発信機(避難誘導装置)の設置が簡単で場所や構造物を選ばない。
・発信機(避難誘導装置)の量産が可能である。
・人々に広く普及した携帯情報端末への付加価値機能として取り組むことができる。
【0015】
<発信機(避難誘導装置)のハードウェア>
無線LAN
本システムでは、各発信機(避難誘導装置)間の通信を行うために無線LANを用いる。無線LANとは、無線リンク上で構築するLANのことで、ケーブルの代わりに電波や赤外線・レーザーなどを使って通信を行う技術である。配線工事を行う手間やコストが省けるので、発信機(避難誘導装置)の設置が容易であるというメリットがある。赤外線を使用した無線LANは、実効速度が速いことが特徴である。しかし赤外線は直進性が強く、完全な見通しがないと通信を行うことができない。これに対し、電波による無線LANシステムは、実効速度は劣るが、電波の回折や反射を利用した通信を行うため、多少の障害物があっても通信を可能にする。そのため、導入や使用の簡単な、電波を利用した無線LANを用いてシステムを構築する。しかし、設置場所の状況によっては、赤外線の直進性を積極的に利用して、設置場所の状況の変化をキャッチすることも考えられる。
また、通信モードとしては、インフラストラクチャ(Infrastructure)モードとアドホック(Ad-Hoc)モードの2つの形態があるが、本システムで用いるのは後者の方である。
インフラストラクチャモードは、アクセスポイント(AP:Access Point)と呼ばれる、有線LANと無線LANをつなぐブリッジとしての機能を持つ中継機を介して通信を行う形態である。このモードでは、APが通信できる範囲にいる全ての端末と通信を行うことができ、またAPを用いて有線ネットワークと接続することによって、その先のネットワーク上にある端末とも通信を行うことができる。
それに対してアドホックモードは、自立分散型ネットワークと呼ばれ、個々の端末(発信機(避難誘導装置))が直接通信を行う形態である。APが不要で、ローカルネットワーク内では効率の良い通信を行うことができるというメリットがある。
【0016】
マイコン
本システムはマイコンを搭載している。マイコンとは、マイクロコンピュータの略称である。マイクロコンピュータとは、厳密に分類すればマイクロプロセッサと呼ばれ、PC(パーソナルコンピュータ)の心臓部にあたるCPUと、動作周波数などの違いはあるがほぼ同じものである。特に、本システムで発信機(避難誘導装置)の開発に用いたマイコンはワンチップマイコンと呼ばれ、コンピュータに必要な機能をひとつのLSIに統合し、約1cm2ほどのチップ1枚でコンピュータとしての機能を果たしている。マイコンは、メモリに書き込まれているプログラムを読み出して、そこに書かれている動作を実行するためのCPU、デジタル信号を記憶しておくためのメモリ、演算結果を外部に反映させるためのI/Oインターフェースで構成されており、様々な機器を動作させるのに必要な機能を持っている。
【0017】
今回は、ネットワークプログラミングに適したマイコンを使用した。また、マイコンに対してデータの入出力やメモリ管理を行ったりするにはOSが必要となるが、これについてもネットワークプログラミングに適したものを使用した。
【0018】
<発信機(避難誘導装置)のソフトウェア>
発信機(避難誘導装置)が送受信する情報
発信機(避難誘導装置)に載せ、通信の制御を行うためのプログラムについて説明する。地下や建物内の天井に設置する各発信機(避難誘導装置)は、近くの発信機(避難誘導装置)から情報を受け取り、その情報をプログラム処理し、近くの別の発信機(避難誘導装置)へ送信する。プログラムの内容としては、基本的にはどの発信機(避難誘導装置)も共通であるが、異なる点は、出口付近に設置する発信機(避難誘導装置)は情報を受信せずに、送信するだけの機能を持つということと、発信機(避難誘導装置)ごとに、どの発信機(避難誘導装置)と通信を行うかあらかじめ特定しておくということの二点である。表3に、各発信機(避難誘導装置)が受信する情報の内容を、また、表4に各発信機(避難誘導装置)が送信する情報の内容を示す。出口付近に設置する発信機(避難誘導装置)のプログラムは他の発信機(避難誘導装置)のものとは異なるが、送信する情報の内容は表4に示す内容と共通であると考えてよい。
【表3】
JP0005109119B2_000004t.gif
【表4】
JP0005109119B2_000005t.gif

【0019】
表3の発信機(避難誘導装置)間距離については、あらかじめ各発信機(避難誘導装置)が通信を行う発信機(避難誘導装置)との距離を測っておき、プログラムに組み込んでおくことで、送受信する情報の内容から省くことも可能である。また、センサからの受信情報の内容として、以下のような情報もある。
1.煙濃度
建物火災において最も死亡原因の高いものが煙による被害である。煙の中での人による避難誘導は、突然に視界を失うことにより重大な二次災害の恐れすらある。また、多くの人が一桁の暗算さえ間違うといった過度のパニックに陥ることもある。表1を見ても、排煙設備の設置に関する基準を満たしていない地下駅がいくつか存在することから、まだまだ煙に対する認識が不十分であると言える。煙の濃度を検出し、それを情報として取り込むことで、濃度の高い場所から群集を遠ざけるように誘導を行えば、煙による被害を減らすことができるかもしれない。
2.発災場所からの距離
例えば火災が発生した場合、その火災によって発生した熱を感知することで火災場所を特定できる。熱感知の方法には次の3種類がある。
(1)差動式熱感知
その周囲温度が一定の温度上昇率以上になったときに作動する方式。
(2)定温式熱感知
一局所の周囲温度が一定の温度になったときに作動する方式。
(3)熱複合式熱感知
差動式と定温式の二つの性能を併せもつもの。
3.群集の混雑度
劇場やデパート、学校など在館者の人数が多い施設では、避難出口の不足によって多くの死者が発生した火災事例が過去において少なくない。火災の発生していないときであっても多数の人が集まって流動する場合に群集事故が発生することがあることを考えれば、火災の時、不足した出口に人が殺到して退出できない人が滞留し、群集となって混乱をきたすことは容易に想像できる。
火災が拡がって身に危険が迫るという危急時には、避難出口に殺到した群集がいち早く火災の発生した部屋から出ようとし、また、後方からの避難者に押されるために出口に人が詰まってしまう現象が生じて、不足する出口からの流出人数を制限してしまうことになる。このように、個人の認識としては適切な対応行動であっても、同時に多くの人によってなされるために環境の制約を超えるような集中の危険が起こることを集合パニックと呼んでいる。
もし、このような群集の殺到を感知できるようなシステムがあれば、できるだけ一つの避難出口に群集が殺到しないように分散させることも必要である。
4.通路幅・出口幅
通勤や集会施設などにおける群集の観察結果より、避難出口の幅1mあたり1秒間に1.5人が通過できるとされており、この1.5のことを流動係数という。3の群集の混雑度とも関係してくるが、この流動係数を考慮に入れて、群集の殺到を未然に防ぐ必要がある。
5.階段の有無
特に高齢者、身体障害者を対象にした場合、避難経路に階段やエスカレーターなどがあったりすると避難が困難であるので、できるだけ階段などを避けて誘導する必要がある。
【0020】
発信機(避難誘導装置)の処理の流れ
図3に、各発信機(避難誘導装置)が情報を受信して、次の発信機(避難誘導装置)へ送信するまでの流れを示す。
出口付近の天井に設置した発信機(避難誘導装置)については、他の発信機(避難誘導装置)から受信する機能はなく、送信するだけの機能を持つ。送信する情報の内容としては、表4に示す通りであり、これらの情報を一緒にまとめて他の発信機(避難誘導装置)へ送信する。また、出口情報と現発信機(避難誘導装置)情報は共通のものであり、出口から現発信機(避難誘導装置)までの距離は0となる。
次に、出口付近以外の天井に設置した発信機(避難誘導装置)の処理の流れを示した図3について説明する。
〔1〕発信機の電源を入れる。
〔2〕隣接する交差路にある発信機からの接続待ち。
〔3〕接続する。
〔4〕出口から現発信機までの総距離・ルートを受信する。
〔5〕その発信機にとって1回目の受信データであるかどうかを判断する。
〔6〕〔5〕でYesの場合は出口から現発信機までの総距離を保存する。
〔7〕隣接する交差路にある発信機と接続する。(〔3〕でセンサから通路閉塞情報を受信した場合、通路が閉塞されていない方向にある発信機とのみ接続する。)
〔8〕出口から次発信機までの総距離・ルートを送信し、〔2〕に戻る。
〔9〕〔5〕でNoの場合、すなわち2回目以降の受信データの場合、出口から現発信機までの総距離(A)と、以前に保存してある出口から現発信機までの総距離(B)を比較し、A<Bであれば〔6〕でAの値を保存する。
〔10〕〔9〕でA>Bであればその受信データは送信しない。
【0021】
図3の各発信機(避難誘導装置)が行う処理の流れに対して、実際どのように情報が伝わっていくのかを、図4と表5、表6、表7、表8、表9を使って具体的に示す。
【0022】
図4は屋内空間の簡単なマップモデルを表したものであり、各ノードが交差路、ノード間を結ぶリンクが通路を表す。各ノードには発信機(避難誘導装置)が設置されており、ノードの番号は発信機(避難誘導装置)の番号を表す。また、ノード1・4・13・16には出口があるものとする。リンクの長さ、すなわち発信機(避難誘導装置)間距離は全て10である。注目点をノード10としたとき、各出口からノード10までの情報の流れを表5のように決める。
【表5】
JP0005109119B2_000006t.gif

【0023】
表5の到達順は、発信機(避難誘導装置)10に各情報が到達する順番を表す。まず、1番目に到達する情報J1が出口から発信機(避難誘導装置)10まで流れる課程を表6に示す。なお、通路閉塞情報は、出口から発信機(避難誘導装置)10に到達するまでは含まないものとし、情報J2・J3・J4についても同様に含まないものとする。
【表6】
JP0005109119B2_000007t.gif

【0024】
表の見方としては、発信機(避難誘導装置)4の送信内容、発信機(避難誘導装置)8の受信内容、発信機(避難誘導装置)8の送信内容、…、発信機(避難誘導装置)10の送信内容という順である(発信機(避難誘導装置)4は出口部分にあたるため受信内容は無し)。まず発信機(避難誘導装置)4が送信した情報を、発信機(避難誘導装置)8が受信した場合の処理の流れを図3にそって説明する(以下の行頭番号は図3の番号に対応)。
〔1〕発信機の電源を入れる。
〔2〕隣接する交差路にある発信機(発信機4・発信機7・発信機12)からの接続待ち。
〔3〕発信機4からの接続。
〔4〕出口から現発信機までの総距離「10」・ルート「4→8」を受信する。
〔5〕発信機8にとって1回目の受信情報。
〔6〕出口から現発信までの総距離「10」を保存。
〔7〕隣接する交差路にある発信機(発信機4・発信機7・発信機12)と接続する。
〔8〕発信機7へ、出口から次発信機までの総距離「20」・ルート「4→8→7」を送信し、〔2〕に戻る。
【0025】
上記の処理を発信機(避難誘導装置)7、8、10についても同様に行うと、最終的に発信機(避難誘導装置)10で処理された内容は、表6の、発信機(避難誘導装置)10の送信内容部分となる。この時点で、出口から発信機(避難誘導装置)10までの距離の「40」が保存されている。
2番目に発信機(避難誘導装置)10に到着する情報J2の流れは表7に示す通りである。
【表7】
JP0005109119B2_000008t.gif

【0026】
情報J2についても、流れの課程の考え方は情報J1の場合と同様である。しかし、発信機(避難誘導装置)10に情報J2が到着した時には、すでに情報J1が到着しているので、発信機(避難誘導装置)10にとって情報J2は2回目の情報である。したがって、情報J2において、発信機(避難誘導装置)6が送信した情報を、発信機(避難誘導装置)10が受信した場合の処理の流れを図3の〔5〕から説明すると、
〔5〕発信機10にとって2回目の受信情報。
〔9〕出口から現発信機までの総距離「30」(A)と、以前に保存してある出口から現発信機までの総距離「40」(B)を比較すると、A<Bであるので〔6〕でAの値「30」を保存し、〔7〕~〔8〕の処理を行う。
【0027】
3番目に発信機(避難誘導装置)10に到着する情報J3の流れは表8に示す通りである。
【表8】
JP0005109119B2_000009t.gif

【0028】
同様の考え方で、情報J3が発信機(避難誘導装置)10に到着したときの、図3の〔9〕の処理では、出口から現発信機(避難誘導装置)までの距離「20」と、保存されている値「30」とでは、後者の方が大きいため、前者の値を上書きし、〔7〕~〔8〕の処理を行う。
【0029】
最後に、4番目に発信機(避難誘導装置)10に到着する情報J4の流れは表9に示す通りである。
【表9】
JP0005109119B2_000010t.gif

【0030】
情報J4が発信機(避難誘導装置)10に到着したときの、図3の〔9〕の処理では、出口から現発信機(避難誘導装置)までの距離「30」と、保存されている値「20」とでは、後者の方が小さいため、それ以降の処理は行われず、情報J4は破棄される。
以上のことから、最終的に発信機(避難誘導装置)10にとって必要な情報は、情報J3ということになる。
【0031】
<受信機(携帯端末)の概要>
避難誘導情報の表示方法
最適な避難誘導情報を、ユーザの持つ携帯情報端末に受信させるうえで、端末画面に誘導情報を、どのように表示させれば最も効果的であるのかを検討することは重要な課題である。災害時における携帯情報端末を用いた避難誘導手法について、表10、表11に示すような、地図情報と文字情報を用いた場合、両者の有効性に大きな差異は存在しないことが検証されている。
【表10】
JP0005109119B2_000011t.gif
【表11】
JP0005109119B2_000012t.gif

【0032】
なお、これらの調査は屋外を対象としたものであるので、屋内を対象とした場合に同様の結果が得られると一概には言えないが、これらの結果も参考にして、効果的な誘導情報をユーザに提供できるように検討していく必要がある。
【0033】
災害発生時の通信インフラ
現時点において携帯電話は、災害発生時の通話規制や輻輳などの問題を内包しており、システムの提供における前提条件に大きな問題を抱えている。災害時の通信インフラでまず想定されるダメージは、物理的な破壊による障害と、トラフィック増加による通信障害であり、災害が発生した際の電話については、まず繋がらないものであると考えられている。1995年の阪神・淡路大震災の発生直後、固定電話はほぼ麻痺状態になり、携帯電話については、2003年に発生した宮城県沖地震の発生直後には、携帯電話がほぼ麻痺状態になっている。災害時に電話が繋がらなくなるのは、被災地周辺に通話が集中して回線がパンクするのを防ぐ為に、通信事業者が通話規制を行うためである。
固定電話に比べ、歴史の浅い携帯電話の場合、災害時の対策は多くの課題が残されている。例えば、これまでの災害時の通話規制に関しては、固定電話と違い、緊急通報も一般電話への発信も一緒くたに扱われていたが、各社緊急通報を優先する為の対策を進めている段階となっている。KDDIは2003年秋に発売した第三世代携帯端末から対応可能となり、NTTドコモは対応を急いでいる。加えて、従来は区別されていなかった通話とパケット通信を個別に規制できるよう準備が進められている。また、iモード向けの災害時のサービス「iモード災害用伝言板」も、2004年1月17日より正式稼動しており、災害時の携帯ネット接続が確保されれば、有効な手段と成り得る。
上記の対策は、携帯電話の通信機能が復旧することを前提とした事例であるが、現在国内では、輻輳の発生等により通信が途絶した際にも、最低限の情報を取得できる技術について研究を行っている電機メーカーもある。この技術はサプリメントパケットと呼ばれるもので、平常時に各携帯電話間でやり取りされるメール等のパケットに予め災害情報を埋め込み、通信の途絶が発生した場合、ハードウェアレベルでそれを検知し、緊急モードへと移行、復旧までの間、受信していた災害情報を提示し、避難行動に役立てようと言うものである。この技術については、ハードウェアの埋め込みや通信料金の問題等があり、現時点においては実用化のめどは立っていないが、既に多くの研究機関、企業より引き合いが始まっている。
【0034】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において各種の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、本実施形態では本発明のシステムを地下街や建物の中で用いることが記載されているが、これに限られるものではなく、避難誘導装置を地上の街灯などに配置して屋外での避難誘導に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】避難誘導システムの概略図
【図2】避難誘導装置のブロック図
【図3】避難誘導装置の処理フロー図
【図4】屋内空間のマップモデル
【符号の説明】
【0036】
1 避難誘導装置
2 携帯端末
3 無線LAN(送信手段、受信手段)
5 マイコン
6 避難誘導情報伝達手段
7 表示手段
8 他の避難誘導装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3