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明細書 :ポンププローブ測定装置及びそれを用いた走査プローブ顕微鏡装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4839481号 (P4839481)
公開番号 特開2008-139028 (P2008-139028A)
登録日 平成23年10月14日(2011.10.14)
発行日 平成23年12月21日(2011.12.21)
公開日 平成20年6月19日(2008.6.19)
発明の名称または考案の名称 ポンププローブ測定装置及びそれを用いた走査プローブ顕微鏡装置
国際特許分類 G01N  21/27        (2006.01)
G01Q  60/10        (2010.01)
FI G01N 21/27 E
G01Q 60/10
請求項の数または発明の数 11
全頁数 19
出願番号 特願2006-322662 (P2006-322662)
出願日 平成18年11月29日(2006.11.29)
審査請求日 平成21年2月18日(2009.2.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】重川 秀実
【氏名】武内 修
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
【識別番号】100109807、【弁理士】、【氏名又は名称】篠田 哲也
審査官 【審査官】▲高▼場 正光
参考文献・文献 特開平10-233544(JP,A)
特表2000-515624(JP,A)
国際公開第03/046519(WO,A1)
小川憲介,"フェムト秒スペクトル計測技術および半導体非線形分光への応用"[Femtosecond spectrum sampling technolog,電子情報通信学会技術研究報告 LQE [Technical report of IEICE LQE],1998年10月21日,Vol.98, No.342,pp. 59-64
A. Bartels, et. al,"Femtosecond time-resolved optical pump-probe spectroscopy at kilohertz-scan-rates over nanosecond-t,APPLIED PHYSICS LETTERS,2006年 1月25日,Vol.88, Issue 4,Id. 041117
調査した分野 G01N21/00-21/61
WPI
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
ポンプ光となる第1の超短光パルス列及びプローブ光となる第2の超短光パルス列を発生させる超短光パルスレーザー発生部と、
上記第1及び第2の超短光パルス列の遅延時間を調整する遅延時間調整部と、
上記第1及び第2の超短光パルス列のそれぞれを入射させて任意の繰り返し周波数で1パルスを透過させることにより光パルスの実効的な繰り返し周波数を低減させる第1及び第2のパルスピッカーと、
上記第1及び第2のパルスピッカーにより通過させる光パルスの選択箇所を上記任意の繰り返し周波数及び上記光パルスの繰り返し周波数とは異なる変調周波数で周期的に変更する遅延時間変調部と、
上記ポンプ光及びプローブ光を試料に照射する照射光学系を有し、該試料からのプローブ信号を検出する測定部と、
上記試料からのプローブ信号を上記遅延時間変調部における上記変調周波数で位相敏感検出するロックイン検出部と、を備え、
上記第1又は第2のパルスピッカーが、透過させる光パルスの選択箇所を変更することにより第2又は第1のパルスピッカーを透過した光パルスとの間の遅延時間を変調させることを特徴とする、ポンププローブ測定装置。
【請求項2】
前記パルスピッカーがポッケルスセルと偏光子とから成り、任意の光パルスを透過または遮断するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項3】
前記遅延時間変調部が、前記超短光パルスレーザー発生部から発生した光パルスを検出する光検出器と該光検出器からのパルス信号をカウントするカウント手段と該カウント手段に接続される遅延手段と前記パルスピッカーの駆動手段とから構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項4】
前記超短光パルスレーザー発生部がチタンサファイアレーザー発振器からなるレーザー光源を含んで構成されることを特徴とする、請求項1に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項5】
前記遅延時間調整部が可動ミラーによる光路長の調整を利用した光学系により構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項6】
前記超短光パルスレーザー発生部が、一つの超短光パルスレーザー光源と、この超短光パルスレーザー光源で発生する超短光パルスを二つに分割してポンプ光とプローブ光とを形成する光学部材と、を備えていることを特徴とする、請求項1又は4に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項7】
前記超短光パルスレーザー発生部が二つの超短光パルスレーザー光源を備えており、各超短光パルスレーザー光源で発生する超短光パルスをそれぞれポンプ光及びプローブ光として対応するパルスピッカーに入射させることを特徴とする、請求項1に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項8】
前記超短光パルスレーザー光源がキャビティダンパーを備えていることを特徴とする、請求項6又は7に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項9】
前記測定部がポンプ光とプローブ光とを試料表面上に照射する光学系と該プローブ光の反射光強度を測定する光学系とを含んで構成され、上記プローブ光の反射光強度を前記プローブ信号として出力することを特徴とする、請求項1に記載のポンププローブ測定装置。
【請求項10】
請求項1からの何れかに記載のポンププローブ測定装置を備え、
前記測定部が、さらに、前記ポンプ光と前記プローブ光とが照射された位置の局所的な物性を測定する走査トンネル顕微鏡を具備していて、該走査トンネル顕微鏡により得られたプローブ信号を出力することを特徴とする、走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項11】
請求項1から9の何れかに記載のポンププローブ測定装置を構成要素の一つとして備えた、電子顕微鏡
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速物理現象を計測し解析するためのポンププローブ測定装置及びこの測定装置を利用した走査プローブ顕微鏡装置に関するものであり、さらに詳しくは、パルスピッカーを用いた矩形波的な遅延時間変調によるポンププローブ測定装置及びこの測定装置を利用した走査プローブ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ピコ秒(ps)やフェムト秒(fs)といったごく短時間領域の現象を測定するためには、ほぼ唯一の手段として、極短パルスレーザー光を用いたポンププローブ法が知られている。このようなポンププローブ法にはさまざまな実現形態があるが、いずれの場合にも、ポンプ光が試料を励起してからプローブ光が試料の状態を検出するまでの時刻の差を遅延時間として、プローブ光によって得られる信号を遅延時間の関数として測定することで光励起に対する試料の超高速応答をフェムト秒領域の高い時間分解能で測定するようになっている。
【0003】
しかしながら、一般にこのような測定方法で得られる信号強度は微弱であることから、所望の信号を雑音の中から拾うためには変調測定を行うことが必要である。ここで、変調測定として最も一般的なものは、ポンプ光強度を変調する方法であり、プローブ光の反射率を時間分解測定するような研究において多くの成果を残している。
【0004】
ところが、測定環境によっては、高輝度のポンプ光の強度を変調することにより、試料温度が上昇と下降を繰り返すことになりこのような温度変化が測定に悪影響を及ぼすことがある。特に、ポンププローブ法と走査プローブ顕微鏡とを組み合わせて時間及び空間両領域で極限の分解能を持つ、所謂時間分解型の走査プローブ顕微鏡装置を構成しようという一連の研究の中でこの点が問題となっていた。
【0005】
これに対して、光強度を変調しない方法として遅延時間変調方式が知られている。従来型の遅延時間変調方式では、ポンプ光の光路途中に置かれたミラーの位置を物理的に動かすことにより光路長を変更して、プローブ光との間の遅延時間を調節する。このため、遅延時間変調方式では、ミラーを物理的に動かすための駆動機構の制限により、ミラー位置の移動が限定されてしまい、遅延時間の設定範囲が例えば1ナノ秒以下に限定されると共に、遅延時間の変動幅が例えば100ピコ秒以下に限定されてしまう。さらに、大振幅における高周波数の変調ができず、例えば20Hz以下に限定されてしまう。従って、例えば数百ピコ秒以上の緩和時間を持つ現象を測定することは困難であった。そして、ミラー位置の機械的移動が光学台に対して振動を与えることになり、光軸がずれる等によって測定精度が低下してしまうことになる。
【0006】
特に、この遅延時間変調方式では信号強度が変調振幅に比例するため、微小かつ緩やかな緩和過程を測定するためには、変調振幅を大きくする必要がある。
しかしながら、変調振幅の増大は、変調周波数の低下による雑音振幅の増大に加え、出力信号が変調振幅区間にわたる平均値となるために時間分解能の低下を招くことになってしまう。さらに、この遅延時間変調方式では、基本的に微分信号を測定することになるため、信号の絶対値が分からず、物理的解釈が難解になる傾向があった。
一方で、試料や測定系温度の上昇や下降を引き起こさないという利点を生かして、この従来型の遅延時間変調方式と走査プローブ顕微鏡とを組み合わせた遅延時間変調型の走査プローブ顕微鏡が開発され、一定の成果を残してきた。
【0007】
他方、最近考案された新しい遅延時間変調方法として、2つのレーザー発振器を正確に微小量だけ異なる繰り返し周波数で発振させ、それぞれのレーザーをポンプ光、プローブ光として用いる方法が考案された。このとき、繰り返し周波数の差分にあたる周波数で遅延時間がゼロから繰り返し周期まで高速にスキャンされることになり、プローブ信号を同周波数に同期して記録し、平均することで、機械的なミラー位置の変更を行うことなく大きな遅延時間域まで容易に測定できると共に、信号の絶対値を測定することができるようになった。さらに、この方法では変調周波数も高くできることから、前述した各種方法と比較して優れている。
【0008】

【非特許文献1】A. Bartels, Appl. Phys. Lett. 88, 041117 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この新しい遅延時間変調方式の利点を生かすためには、比較的広帯域のプローブ信号検出器が必要となる。プローブ信号検出器の帯域が狭い場合には、2つのレーザーの繰り返し周波数の差である変調周波数を極端に下げる必要があり、雑音強度の増大を招いてしまう。また、この新しい遅延時間変調方式においては、高価なレーザー発振器が必ず二台必要であり、さらにこれら二台のレーザー発振器を互いに同期させて発振させる必要があることから、装置全体の価格が非常に高価になってしまう。
【0010】
このようにして、より安価に、広い測定領域及び高い検出感度を有すると共に、走査プローブ顕微鏡との連携を含む特殊な測定環境への適応力を備えたポンププローブ測定装置が必要とされていた。
【0011】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、パルスレーザーを用いたフェムト秒領域を含む時間分解測定において、照射光強度を変調することなく、つまり、熱の影響を受けることなく、緩和時間の短い現象から長い現象までの広い測定範囲に亘って、微弱信号を高精度に安定して計測することができるようにした、超高速物理現象を計測し解析するためのポンププローブ測定装置及びこの測定装置を用いた時間分解型の走査プローブ顕微鏡装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のポンププローブ測定装置は、ポンプ光となる第1の超短光パルス列及びプローブ光となる第2の超短光パルス列を発生させる超短光パルスレーザー発生部と、第1及び第2の超短光パルス列の遅延時間を調整する遅延時間調整部と、第1及び第2の超短光パルス列のそれぞれを入射させて任意の繰り返し周波数で1パルスを透過させることにより光パルスの実効的な繰り返し周波数を低減させる第1及び第2のパルスピッカーと、第1及び第2のパルスピッカーにより通過させる光パルスの選択箇所を任意の繰り返し周波数及び光パルスの繰り返し周波数とは異なる変調周波数で周期的に変更する遅延時間変調部と、ポンプ光及びプローブ光を試料に照射する照射光学系を有し、試料からのプローブ信号を検出する測定部と、試料からのプローブ信号を遅延時間変調部における変調周波数で位相敏感検出するロックイン検出部と、を備え、第1又は第2のパルスピッカーが、透過させる光パルスの選択箇所を変更することにより第2又は第1のパルスピッカーを透過した光パルスとの間の遅延時間を変調させることを特徴とする。
上記構成によれば、超短光パルスレーザー装置にて連続して発生するレーザーパルスから、それぞれパルスピッカーによりポンプ光及びプローブ光のパルスを透過し、遮断するタイミングを周期的に変化させることで高速でかつ大きな遅延時間変化を得ることができる。

【0013】
従って、ポンプ光強度を変調する方式ではないので、測定中の温度変化に敏感な試料であっても、試料温度が上昇や下降を繰り返すようなことはなく、試料に悪影響を及ぼさない。これにより、広範な分野での試料の測定を行なうことが可能となる。
【0014】
また、レーザー装置から発生する光パルスを、パルスピッカーにて、透過及び遮断して、比較的長い繰り返し周期で光パルスを透過させることにより、レーザー装置の繰り返し周期よりも長い、例えば1μ秒程度までの緩和時間を持つ物理現象を容易に測定することができる。光パルスの繰り返し周波数を超えて非常に大きな遅延時間領域まで測定が可能であるため、励起状態のプローブ信号と試料が完全に緩和した後のプローブ信号とを比較することができる。結果的に信号の微分値だけではなく、信号の絶対値を得ることができるため、物理的解釈が容易になる。さらに、長距離にわたるミラー位置の移動が必要ないことから出力レーザーの光軸がずれることがなく、高い測定精度が得られることになる。
【0015】
また、変調振幅を大きくすることができるので、信号強度が従来型の遅延時間変調方式と比較して数倍から数十倍まで増大すると共に、変調周波数の高周波数化によって、数十ピコ秒以上の遅い緩和過程を測定する場合の雑音強度が、例えば1/2から1/10程度まで低下するので、所謂S/N比が例えば50から100倍程度に向上する。
【0016】
上記構成において、パルスピッカーは、好ましくはポッケルスセルと偏光子とから構成されており、任意の光パルスを透過または遮断するように構成されている。遅延時間変調部は、好ましくは、超短光パルスレーザー発生部から発生した光パルスを検出する光検出器と光検出器からのパルス信号をカウントするカウント手段とカウント手段に接続される遅延手段とパルスピッカーの駆動手段とから構成されている。
この構成によれば、容易に任意のパルスを透過または遮断することができる。
【0017】
上記構成において、超短光パルスレーザー発生部は、チタンサファイアレーザー発振器からなるレーザー光源を含んで構成されていてよい。この構成によれば、例えば波長800nmでパルス幅25fsのレーザーパルスを、100MHz程度の繰り返し周波数で発生させることができるので、容易に超短光パルスレーザーが得られる。
【0018】
遅延時間調整部が可動ミラーによる光路長の調整を利用した光学系により構成されていると、従来と同様の遅延時間調整部を使用して、遅延時間の調整を行なうことができると共に、長距離のミラー移動が必要ないことから、試料に照射されるパルス光の光軸からのずれが殆ど発生せず、測定精度が向上する。
【0019】
超短光パルスレーザー発生部が、一つの超短光パルスレーザー光源と、この超短光パルスレーザー光源で発生する超短光パルスを二つに分割してポンプ光とプローブ光とを形成する光学部材と、を備えている場合は、光源として一つの超短光パルスレーザー装置のみが必要であるので、簡単な構成で装置全体のコストが低減され得る。
【0020】
超短光パルスレーザー発生部が、二つの超短光パルスレーザー光源を備えており、各超短光パルスレーザー光源で発生する超短光パルスをそれぞれポンプ光及びプローブ光として対応するパルスピッカーに入射させる構成である場合は、同じ周期で発光する二つの超短光パルスレーザー光源を用いれば、各パルスピッカーに入射する光を分割する必要がないので、試料に照射される光パルスの強度を高めると共に、ポンプ光とプローブ光の位相を容易にずらすことができる。二つの超短光パルスレーザー光源の波長が異なる場合には、ポンプ光とプローブ光を互いに異なる波長とすることができる。さらに、二つのレーザー装置の同期発振制御機構を備えている場合には、ポンプ光とプローブ光の発振する位相を適宜に設定することで、繰り返し周期までの遅延時間を容易に設定することができる。したがって、このような二つの超短光パルスレーザー光源とパルスピッカーとにより遅延時間を調整することができるので、超短光パルスレーザー光源が一つの場合に必要な遅延時間調整部を省略することも可能である。

【0021】
上記構成において、超短光パルスレーザー光源にキャビティダンパーを用いる場合は、超短光パルスレーザー光源からの光パルスの繰り返し周波数を低下させることにより、個々の光パルスの強度を高めることができる。これにより、平均強度を大幅に低下させることなく、繰り返し周波数を低下させることができる。パルスピッカーの動作周波数が1MHz程度に制限される場合には、この構成によりポンプ光及びプローブ光の光強度を高めることができる。
【0022】
上記構成において、測定部は、好ましくは、ポンプ光とプローブ光とを試料表面上に照射する光学系と、プローブ光の反射光強度を測定する光学系とを含んで構成され、プローブ光の反射強度をプローブ信号として出力する。この構成によれば、ポンプ光により励起された試料表面が緩和していく際の試料表面の反射率変化を、プローブ光の反射光強度の変化として観測することができる。
【0023】
本発明の走査プローブ顕微鏡装置は、上記に記載の何れかのポンププローブ測定装置を備え、測定部は、さらに、ポンプ光とプローブ光とが照射された位置の局所的な物性を測定する走査トンネル顕微鏡を具備していて、走査トンネル顕微鏡により得られたプローブ信号を出力することを特徴とする。
本発明の電子顕微鏡は、上記に記載の何れかのポンププローブ測定装置を構成要素の一つとして備えたことを特徴とする。
上記構成によれば、ポンプ光により励起された試料表面が緩和していく際の試料表面の励起過程や緩和過程を、オングストロームからナノメートル程度の高い空間分解能で観測することのできる、遅延時間変調型で、フェムト秒オーダーの時間分解を有する走査プローブ顕微鏡装置が実現できる。さらに、本発明のポンププローブ測定装置を備えた測定装置が実現できる。

【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、パルスレーザーを用いたフェムト秒領域を含む時間分解測定において、照射光強度を変調することなく、緩和時間の短い現象から長い現象までの広い測定範囲に亘って、微弱信号を高精度に安定して計測することができるようにした、超高速物理現象を計測し解析するためのポンププローブ測定装置及びこの測定装置を利用した時間分解型の走査プローブ顕微鏡装置が構成されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
最初に、本発明の第1の実施形態に係る遅延時間変調式のポンププローブ測定装置について説明する。
図1は、本発明による遅延時間変調式ポンププローブ測定装置の第1の実施形態の構成を示している。図1において、遅延時間変調式のポンププローブ測定装置1は、ポンプ光となる第1の超短光パルス列及びプローブ光となる第2の超短光パルス列を発生させるためにレーザー光源11を含む超短光パルスレーザー発生部と、分岐光学系12と、第1のパルスピッカー13と第2のパルスピッカー14とからなる二つのパルスピッカーと、これらのパルスピッカー13,14により通過させる光パルスの選択箇所を周期的に変更する遅延時間変調部10と、遅延時間調整部15と、照射光学系16を有し、被測定物となる試料19からのプローブ信号を検出する測定部20と、この測定部20に接続されるロックイン検出部18と、を含み構成されている。
【0026】
上記レーザー光源11は、例えばフェムト秒パルスレーザー光源である。具体的には例えば波長800nm,時間幅25fs程度レーザーパルスを100MHz程度の繰り返し周波数で発生し、平均輝度1W程度のチタンサファイアレーザー発振器を使用することができる。
【0027】
上記分岐光学系12は、上記レーザー光源11のレーザーパルスの出射光路中に斜めに配置されたハーフミラー12aを含んでおり、上記レーザー光源11からのレーザーパルスが、このハーフミラー12aの透過光及び反射光に分岐され得るようになっている。
ここで、上記ハーフミラー12aによる透過光はポンプ光として、また反射光はプローブ光として利用されるようになっているが、逆であってもよい。以下の説明においては、透過光をポンプ光、反射光をプローブ光として説明する。
図示の場合、上記分岐光学系12は、反射光の光路中に配置された反射ミラー12bを含んでおり、上記反射光を第2のパルスピッカー14へ導くように構成されている。
【0028】
上記パルスピッカー13,14は、上記分岐光学系12からのポンプ光が導入される第1のパルスピッカー13と分岐光学系12からのプローブ光が導入される第2のパルスピッカー14とからなり、例えば100MHzという高い繰り返し周波数で入射するレーザーパルス列から任意の周期で1パルスのみを選択的に透過させ、残りを遮断させるように構成されている。このとき遮断される光と透過する光の強度比は300:1~1000:1程度と十分に高いことが望ましい。
【0029】
パルスピッカー13,14は同じ構成としてもよく、それぞれ、単一光パルス抽出ができれば種々の構成とすることができる。図示の場合には、パルスピッカー13,14は、それぞれ、印加電圧により光パルスの偏光を回転させる電気光学素子13a,13aと電気光学素子13aの出力側に配置される偏光子13bとから構成されている。図示の場合には、1枚の偏光子13bを示しているが2枚の偏光子を電気光学素子13aの光の入力側及び出力側に設けてもよい。電気光学素子13aは音響光学素子としてもよい。音響光学素子を用いる場合には偏光子13aは必要がない。電気光学素子13aは、後述する遅延時間変調部10により駆動され、ナノ秒程度の高速なスイッチングを行うと共に、十分に早い繰り返し周波数で1パルスずつを透過させるために、例えば1MHz程度までの動作周波数を選択可能であることが望ましい。従って、各パルスピッカー13,14は、例えばポッケルスセルを使用することができ、例えば100パルスのうち99パルスを遮断し、1パルスを透過するように動作し得るようになっている。
これにより、上記レーザー光源11の実効的なパルスの繰り返し周波数が上記パルスピッカー13,14により100MHzから1MHzに、その平均的なレーザー光強度が1Wから10mWに低下することになる。なお、上記パルスピッカー13,14による光パルスの通過タイミングについては、図2を参照して後述する。
【0030】
遅延時間変調部10は、パルスピッカー13,14により通過させる光パルスの選択箇所を周期的に変更できればよい。例えば、図1に示す遅延時間変調部10は、超短光パルスレーザー発生部11から発生した光パルスを検出する光検出器21と、この光検出器21からのパルス信号をカウントするカウント手段22と、カウント手段に接続される第1及び第2の遅延手段23,24と、パルスピッカー13,14の駆動手段25,26と、から構成されている。第1及び第2の遅延手段23,24は、何れか片方だけに設けてもよい。パルスピッカー13,14がポッケルスセルの場合には、駆動手段25,26は高圧電源装置からなる。
【0031】
光検出器21としては、超短光パルスレーザー発生部11からの光パルスに応答するように高速応答が可能なpinフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、フォトマルチプライヤなどを使用することができる。カウント手段22と第1及び第2の遅延手段23,24とは、トランジスタ、集積回路、マイクロコンピュータなどを用いたパルス回路により構成することができ、パルスピッカーにより通過させる光パルスの選択箇所を周期的に変更できればよい。高速光検出器21からの信号をクロック信号として、マイクロコンピュータやプログラムが可能な集積回路であるCPLD(Complex Programmable Logic Device)を用いてカウント手段22と第1及び第2の遅延手段23,24を構成して、パルスピッカー13,14に用いる電気光学素子などの光学シャッターを駆動してもよい。
【0032】
上記遅延時間調整部15は、図示の場合、公知の構成の可動ミラー15aによる光路長の調整を利用した光学系により構成されている。可動ミラー15aは、入射光軸に対して45度の角度で斜めに配置された一対の反射ミラーから構成されており、入射光軸に沿って入射した光が一方の反射ミラーで入射光軸に対して垂直に反射されて他方の反射ミラーに入射し、他方の反射ミラーで入射方向に対して平行に反射されるようになっている。
【0033】
これにより、可動ミラー15aが、第1のパルスピッカー13を透過したポンプ光のパルス(ポンプパルス光)の光軸方向に移動調整されることにより、可動ミラー15aが右方に移動したとき光路長が長く、また左方に移動したとき光路長が短く調整されることになる。
従って、遅延時間調整部15は、可動ミラー15aの移動により、ポンプパルス光のプローブ光のパルス(プローブパルス光)に対する遅延時間を適宜に設定することができる。ここで、光路長の可変範囲は、一般的には30cm程度であり、プローブパルス光とポンプパルス光との間に、例えば0~1nsの遅延時間の設定範囲を与えることになる。
【0034】
図示の場合には、測定部20は、照射光学系16と試料19からのプローブ信号を検出する光検出器17とから構成されている。照射光学系16は、上記遅延時間調整部15からのポンプパルス光及び第2のパルスピッカー14からのプローブパルス光を、それぞれ被測定試料19の表面に導く反射ミラー16a,16bと、対物レンズ16cと、から構成されている。これにより、上記ポンプパルス光及びプローブパルス光が試料19の表面に集光されるようになっている。その際、ポンプパルス光が先に試料19に到達し、その直後にプローブパルス光が試料19の表面で反射されることになる。
なお、図示の場合、上記照射光学系16は、試料19の表面で反射されたプローブパルス光を光検出器17に導くための反射ミラー16dも備えている。
【0035】
光検出器17は、試料19の表面で反射されたプローブ信号が反射ミラー16dを介して入射されることにより、ポンプパルス光照射の後、正確な遅延時間における試料19の表面における反射率を測定することが可能となる。例えば、Si製のpinフォトダイオードを光検出器17として用いることができる。
【0036】
上記ロックイン検出手段18は、ロックインアンプを用いて構成することができる。ロックイン検出手段としてのロックインアンプ18は、光検出器17により測定される反射光強度の遅延時間依存成分(図1のsig参照)が、レーザー光源11の光量の揺らぎに比べても非常に小さいものであるため、正確な測定のために変調測定を行なうものである。上記ロックインアンプ18は、図2を用いて後述する第1及び第2のパルスピッカー13,14を用いた遅延時間変調の変調周波数を参照信号(図1のref参照)として用い、光検出器17の測定信号を位相敏感検出することにより、測定精度を高めるようになっている。
【0037】
本発明の特徴のひとつは、パルスピッカー13,14と、これらのパルスピッカー13,14により通過させる光パルスの選択箇所を周期的に変更する遅延時間変調部10にあり、遅延時間変調部10の動作を図2を参照して説明する。
図2は、試料19の表面に到達する段階でのポンプパルス光P1とプローブパルス光P2の光強度を、時間スケールを横軸に、光強度を縦軸に取り示したグラフである。これらのポンプパルス光P1及びプローブパルス光P2は、レーザー光源11による約100MHzの繰り返し周波数のレーザーパルスであることから、レーザー強度は殆どの時間ゼロであり、例えば、25fsというごく短い時間の間だけ、非常に高強度を与える。
【0038】
従って、図2のグラフでは、これらのポンプパルス光P1及びプローブパルス光P2は櫛状のグラフとなる。
レーザー光源11から出力されるレーザーパルスの繰り返し周波数が100MHzである場合、ポンプパルス光P1、プローブパルス光P2とも、パルス間の時間間隔は10nsであり、図2における点線と点線との間の時間がこの時間間隔を表している。そして、上記パルスピッカー13,14により、このうち100パルスに1個のみが透過し、残りは遮断される。なお、図2では、見易いように便宜的に、6パルスに1個が透過し、残り5個が遮断される状況を図示しており、透過した光パルスを実線で、遮断された光パルスを点線で表してある。
【0039】
そして、遅延時間調整部15による遅延時間を-Δtとすると、上記プローブパルス光P2は、ポンプパルス光P1に対して遅延時間Δtだけ遅れることになる。このとき、光検出器17で測定される光強度は、ポンプパルス光P1による励起の正確にΔt後の試料の反射率R(Δt)に比例する。
【0040】
ここで、第2のパルスピッカー14によるパルス通過タイミングを、図2のP3で示すように3パルス分だけ遅延させると、実質的な遅延時間はΔt’=Δt+3×10(ns)となり、遅延時間を瞬時に非常に大きな値とすることができる。このとき、光検出器17で測定される光強度は試料の反射率R(Δt’)に比例する値となる。第2のパルスピッカー14を制御して、プローブパルス光の通過位置を変えることで、図2のP2とP3の状況を、図3に示すように周期的に繰り返すと、光検出器17により測定される信号は、R(Δt)とR(Δt’)との間で周期的に振動する。この信号を、ロックインアンプ18において、変調周波数を参照信号として位相敏感検出することにより、R(Δt)とR(Δt’)の差を測定することが可能となる。
【0041】
従来の遅延時間変調方法では、遅延時間は正弦波的に変調されていたため、変調測定で得られる信号は変調振幅区間(ΔtとΔt’との間)にわたるRの平均的な傾きであった。これに対して、本発明における遅延時間変調方法では、遅延時間を完全に矩形波的に変調することが可能であるため、得られる信号がR(Δt)とR(Δt’)の差R(Δt)-R(Δt’)に正確に比例する。
【0042】
これは、以下に示すように非常に重要な利点を与える。
一般的に、ポンプ光による試料の励起後の状態は、図4に示すように、数ピコ秒~数ナノ秒という短時間の緩和過程を経て一定値に近づく。超高速測定においては、この緩和過程の振幅や緩和時間が測定対象となる。
図2で示したように、本実施形態では遅延時間Δt’として間引き後のパルス繰り返し周期の半分程度の値をとると、Δt’は試料の緩和時間に比べて非常に大きな値とすることができる。Δt’は例えば0.5μs程度である。このため、R(Δt’)をほぼ完全に緩和した後の試料19の状態と見なすことができ、すなわち、これを信号のゼロ点と見なすことができる。このとき、本実施形態で測定されるR(Δt)とR(Δt’)の差R(Δt)-R(Δt’)はすなわちR(Δt)そのものであり、反射率の遅延時間依存成分の絶対値を得ることができる。
【0043】
また、図1の遅延時間調整部15で、ポンプパルス光P1とプローブパルス光P2との間の遅延時間を変化させると、ΔtのみでなくΔt’も変化する。しかし、前項で述べたように、Δt’を十分に大きくとった場合には、R(Δt)が試料励起直後の高速な緩和過程を反映するのに対して、R(Δt’)は定数と見なせる。従って、R(Δt)とR(Δt’)との差分は、緩和後の測定信号レベルを基準として試料19の緩和過程を正確に表わすことになる。
【0044】
次に、本発明の第2の実施形態に係る遅延時間変調式のポンププローブ測定装置について説明する。
図5は、本発明による遅延時間変調式のポンププローブ測定装置の第2の実施形態の構成を示している。図5において、遅延時間変調式のポンププローブ測定装置30は、レーザー光源11の代わりに、ポンプ光とプローブ光に対して、それぞれレーザー光源31,32を設けると共に、分岐光学系12,遅延時間調整部15を省略した点と、第1のパルスピッカー13が第1の遅延時間変調部10Aにより駆動され、第2のパルスピッカー13が第2の遅延時間変調部10Bにより駆動される点とが、図1に示した測定装置10と異なる構成になっている。
【0045】
上記レーザー光源31,32は、それぞれ図1の測定装置10におけるレーザー光源11と同様の構成であると共に、同期発振制御部33により正確に同じ周期で発振するように制御されており、各パルスピッカー13,14に入射する光を分割する必要がないので試料19に照射されるパルス光の強度を高めると共に、光パルスの出力される位相を任意に選択することで、2つのレーザーパルスの遅延時間を自由に設定できるようになっている。二つの超短光パルスレーザー光源31,32は同一波長とすることができる。また波長が異なる場合には、ポンプ光とプローブ光を互いに異なる波長とすることができる。さらに、二つのレーザー装置の同期発振制御部33を用いてポンプ光とプローブ光の発振する位相を適宜に設定することで、繰り返し周期までの遅延時間を容易に設定することができる。したがって、このような二つの超短光パルスレーザー光源31,32とパルスピッカー13,14とにより遅延時間を調整することができるので、超短光パルスレーザー光源が一つの場合に必要な遅延時間調整部15を省略することも可能である。例えばレーザー光源31,32として、繰り返し周波数100MHz程度のチタンサファイア発振器を用いた場合、同期発振制御部33によりポンプパルス光とプローブパルス光とを200fs程度のジッターで、パルスの繰り返し周期までの範囲の任意の遅延時間を持って発振させることが可能である。
【0046】
ポンプパルス光とプローブパルス光との間の遅延時間を同期発振制御部33により任意に設定できることから、図1に示した遅延時間調整部15を省略することが可能となる。図1の測定装置10においては、最大1ns程度しか取れなかった遅延時間の設定範囲をパルス間の繰り返し周期まで広げることができると共に、大振幅のミラー位置変更による光軸の微小なずれなどの悪影響を除去することができる。第2のパルスピッカー14の光パルス透過タイミングを調整することによって、遅延時間の設定範囲は、元となるレーザー光源31,32の繰り返し周波数を超えて、パルスピッカー14で光パルスを間引いた後の実効的なパルス繰り返し周期の範囲で任意に設定可能となる。これにより、レーザー光源31,32として例えば100MHzの繰り返し周波数のレーザーを使った場合にも、数百ナノ秒程度までの比較的遅い緩和過程まで測定することが可能となる。
【0047】
第1の遅延時間変調部10Aは、超短光パルスレーザー発生部の第1のレーザー光源31から発生した光パルスを検出する光検出器21と、この光検出器21からのパルス信号をカウントするカウント手段22と、カウント手段に接続される第1の遅延手段23と、パルスピッカー13の駆動手段25と、から構成されている。同様に、第2の遅延時間変調部10Bも第1の遅延時間変調部10Aと同じ構成であり、超短光パルスレーザー発生部の第2のレーザー光源32から発生した光パルスを検出する光検出器21と第2の遅延手段26とから構成されている。光検出器21とカウント手段22と第1及び第2の遅延手段23,24と、パルスピッカー13,14の駆動手段25,26とは、図1で説明した遅延時間変調部10と同様な構成とすることができるので、説明は省略する。ここで、第1の遅延手段23及び第2の遅延手段24は、何れか片方だけに設けてもよい。
上記第1及び2の遅延時間変調部10A,10Bによれば、図1に示した遅延時間変調部10と同様にパルスピッカー13,14により通過させるパルスの選択箇所を周期的に変更させることができる。
【0048】
このような構成の測定装置30によれば、図1に示した測定装置1と同様に作用する。この場合、二台のレーザー光源31,32を使用することから、設備コストが増大すると共に、同期発振制御部33の制約から遅延時間の設定精度が、図1の測定装置1と比較して劣ってしまう傾向にあるが、遅延時間の設定を同期発振制御部33のみで行なうことができるので、図1の遅延時間調整部15の可動ミラー15aの位置を機械的に大きく移動させる機構が必要なくなる。従って、測定系の信頼性の向上と、試料19上での焦点位置の安定性が大幅に高まるという利点が得られる。
【0049】
次に、本発明の第3の実施形態に係る遅延時間変調式のポンププローブ測定装置について説明する。
図6は、本発明による遅延時間変調式のポンププローブ測定装置における第3の実施形態の構成を示している。図6において、遅延時間変調式ポンププローブ測定装置40は、図1の測定装置1において、レーザー光源11の代わりにキャビティダンパーを備えたレーザー光源41が使われている点で異なる構成になっている。
【0050】
このキャビティダンパーを備えたレーザー光源41は、公知の構成であって、例えば、チタンサファイアレーザー発振器のキャビティ中に音響光学変調器(AO変調器)を挿入し、レーザーパルスがキャビティ中を数十~数百回往復するごとに一回だけキャビティを開放し、キャビティ内部に蓄えられた非常に高強度のレーザーパルスを取り出すことで、平均強度を通常のチタンサファイアレーザー発振器と同程度に保ったまま、低い繰り返し周波数で高い強度の光パルスを出力するレーザー発振器を用いることができる。このような構成により、例えば平均強度数百mW程度、繰り返し周波数2MHz程度のレーザー発振器を実現することができる。
【0051】
2つのパルスピッカー13,14を、例えば最大動作周波数1MHzのポッケルスセルで構成した場合、図1及び図5に示した実施形態1および2では、レーザー発振器からの光パルスのうち100個に1個程度しか透過させることができず、レーザー強度が100分の1になってしまう。したがって、レーザー発振器11,31,32からのレーザー強度が1W程度であったとしても、パルスピッカー13,14を通過後の平均強度は10mW程度となってしまう。
これに比べ、図6に示す実施形態では、レーザー光源41が例えば2MHzの繰り返し周波数を持つため、パルスピッカー13,14は、レーザー光源41から出力される光パルスに関して、2パルスに1パルスを透過させることにより、繰り返し周期を2MHzから1MHzに下げて、周期的に透過させる光パルスを変更することで、図1と同様に遅延時間を矩形波的に変調する。

【0052】
このような構成の測定装置40によれば、図1の測定装置1と同様に作用すると共に、パルスピッカー13,14における平均強度の低下は50%程度であり、図1の実施形態と比較して非常に強いプローブ光の信号強度が得られることになる。
【0053】
上述した各実施形態においては、例として、矩形波変調ポンププローブ法により試料の反射率を測定する場合について説明したが、これに限らず、任意の時間分解ポンププローブ測定手法とパルスピッカーを用いた遅延時間の矩形波変調方式とを組み合わせて用いることができる。
従って、本発明におけるポンププローブ光強度を変調することなく、大きな遅延時間範囲にわたり測定が可能であるという特徴を生かして、例えば本発明と走査トンネル顕微鏡とを組み合わせて、極微小空間で起こる超高速現象を測定可能な顕微鏡装置を構成することも可能である。
【0054】
ここで、本発明の第4の実施形態に係る遅延時間変調式のポンププローブ測定装置を用いた走査プローブ顕微鏡装置について説明する。
図7は、本発明による遅延時間変調型のフェムト秒時間分解を有する走査プローブ顕微鏡装置の一実施形態の構成を示す図である。図7において、走査プローブ顕微鏡装置50は、二つのレーザー光源31,32と、同期発振制御部33と、遅延時間変調部10と、第1及び第2のパルスピッカー13,14と、照射光学系51と、走査トンネル顕微鏡52と、ロックインアンプ18と、から構成されている。
【0055】
図7に示すように、第4の実施形態に係る遅延時間変調式の走査プローブ顕微鏡装置50が、図5に示した本発明の第2の実施形態に係るポンププローブ測定装置と異なるのは、測定部20が照射光学系51にさらに走査トンネル顕微鏡52を具備して構成されている点であり、他の構成は同じである。
【0056】
上記照射光学系51は、ハーフミラー51a,二つの反射ミラー51b,51c及び対物レンズ51dから構成されている。第1のパルスピッカー13からのポンプパルス光は、反射ミラー51bで反射された後、ハーフミラー51aを透過して、さらに反射ミラー51cで反射され、対物レンズ51dを介して走査トンネル顕微鏡52内の試料53の表面に集光される。第2のパルスピッカー14からのプローブパルス光は、ハーフミラー51aで反射されて、ポンプパルスと同一光軸上に重ね合わせられ、さらに反射ミラー51cで反射され、対物レンズ51dを介して走査トンネル顕微鏡52内の試料53の表面に集光される。

【0057】
上記走査トンネル顕微鏡52は、公知の構成であって、試料53の直上にて、その先端と試料53との間にトンネル接合が形成されるように探針52aを配置すると共に、試料53の表面上で探針52aを走査するように構成されており、試料53の表面上へのレーザーパルスの照射により、探針52aの先端と試料53の間のトンネル電流の変調によるプローブ信号を電流検出用のプリアンプ52bにより検出して、ロックインアンプ18に出力するようになっている。
【0058】
上記構成の顕微鏡装置50によれば、レーザー光源31,32からレーザーパルスが、それぞれポンプパルス,プローブパルス光としてパルスピッカー13,14を介して、そして照射光学系51を介して、走査トンネル顕微鏡52における探針52aの直下の試料52表面に照射される。
ここで、レーザーパルスは、同期発振制御部33とパルスピッカー13,14により設定された遅延時間を持って、2パルスずつ対になって試料53の表面を励起する。その際、走査トンネル顕微鏡52は、探針52aと試料53間のトンネル電流を一定に保つために探針52aと試料53との間隔を低い遮断周波数を持つフィードバック制御により調整する。
【0059】
そして、パルスピッカー13,14を前述のように動作させ、遅延時間を変調する際に、その変調周波数を走査トンネル顕微鏡52のフィードバック制御の遮断周波数よりもポンプパルス光を十分に高くすることにより、フィードバック回路により測定対象の信号が減衰しないよう配慮する。この状態で、走査トンネル顕微鏡52の電流検出用のプリアンプ52bからの出力信号を、ロックインアンプ18を用いて、第2のパルスピッカー14の変調周波数を基準に位相敏感検出することにより、その出力として探針52a直下における試料53の表面の極微小空間で生じる超高速物理現象を観察することが可能になる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明による遅延時間変調式ポンププローブ測定装置の実施例を説明する。
本発明による遅延時間変調式ポンププローブ測定装置における測定手法の基本原理は、これまで広く一般に用いられてきた遅延時間変調型ポンププローブ測定手法のものと同一であるが、その変調方法について画期的な改良を行なうものであり、遅延時間変調方式のこのような改良によっても、従来型と同様の基本原理により装置は正常に動作する。
【0061】
これまでに示した実施形態のうち、図7に示した走査プローブ顕微鏡装置50を具体的に実施するための装置構成を、以下に詳細に説明する。
本発明の主要部分となるパルスピッカーによる矩形波的な遅延時間変調系と従来の走査トンネル顕微鏡とを組み合わせて、超高速時間分解の走査トンネル顕微鏡装置50を構成する。
【0062】
最初に、これと同様の目的のために用いられる従来型の装置構成を説明する。従来型の装置も、図7の構成と同様にポンプパルス光とプローブパルス光とは通常、同一光軸上に乗せて試料に照射されるため、試料はポンプとプローブの2つの光パルスからなるパルス対により繰り返し励起される形となる。このため、このタイプの顕微鏡は、パルス対励起型の時間分解走査トンネル顕微鏡と呼ばれる。従来型の装置としては、遅延時間設定光学系に含まれるミラー位置を機械的に振動させて遅延時間変調を行う遅延時間変調型光パルス対励起走査トンネル顕微鏡装置が知られている。この従来型の装置ではミラーの振動により遅延時間変調されたパルス対により走査トンネル顕微鏡直下の試料を励起することで、ナノメートル程度の微小領域で起こるサブピコ秒~数十ピコ秒程度の超高速減少を測定可能であることが示されている。しかしながら、従来型の装置では、遅延時間の変調振幅が小さいことと変調周波数が低いことから信号雑音比が低くなる傾向があり、このため1つの測定に数時間から数十時間の非常に長い時間を要するという欠点があった。
図7に示した本発明の実施形態による顕微鏡装置50においては、従来型の装置と同様に光パルス対励起走査トンネル顕微鏡装置の構成を採用しているが、上述の通り、遅延時間変調方式の改良により、変調振幅の増大による信号強度の増加、変調周波数の向上による雑音強度の低下、変調振幅による時間分解能低下を回避すると共に、ミラーの長距離移動によるレーザー焦点位置と走査トンネル顕微鏡探針位置のずれを回避するなどの改善が得られる。
【0063】
図7におけるレーザー光源31として、コヒレント社のCHAMELEONを、レーザー光源32として同じくコヒレント社のMIRAを用いる。これら二つのレーザー光源31,32は、それぞれ独立に750nm~950nm程度の任意の波長について、150fs程度のレーザーパルスを90MHzの繰り返し周波数、0.3W~1.5Wの平均出力で発振させることができる。同期発振制御部33として、同じくコヒレント社のシンクロロック制御装置を使用することにより、レーザー光源31,32を500fs程度のジッターで同期発振させることが可能になる。さらに、発振周期を完全に合わせた上で、発振の位相に関して任意のタイミングを選択可能であるため、外部に長距離の可動ミラーの移動による遅延時間調整部15を設置することなく、パルスの繰り返し周期全域にわたって任意の遅延時間を設定することができる。
【0064】
第1及び第2のパルスピッカー13,14として、それぞれ、ポッケルスセル(Laysop Ltd.製、RTP-3-20)13a,14aを使用した。これらのパルスピッカー13,14のスイッチング時間は、1ns程度、最大繰り返し周波数は1.5MHzであり、レーザー光源31,32からの90MHzの繰り返し周波数のパルスレーザーから約100パルスに1パルス程度を取り出すのに十分な性能を有する。このポッケルスセル13a,14aを駆動する駆動源としては、ME社製のポッケルスセルドライバ(High Repition-Rate Pockels Cell Driver)25,26を使用した。このポッケルスセルドライバ25,26とポッケルスセル(RTP-3-20)13a,14aとの組み合わせにより、1MHzの繰り返し周波数が保証されており、本発明の実施に適当と言える。
【0065】
パルスピッカー13,14の駆動タイミングを決定するために、パルスピッカー13,14に入射する直前のレーザー光強度を1GHz程度の帯域を持つ高速フォトダイオード21で検出し、これをクロック信号として、プログラムが可能な集積回路であるCPLDを含んで構成された遅延時間変調部10を動作させ、パルスピッカー13,14のポッケルスセル13a,14bの駆動手段となる上記ポッケルスセルドライバ25,26の制御信号を生成する。実際には、90パルスに1パルスを透過させることで、透過後のレーザーパルスの繰り返し周波数を1MHzとし、ここに1~2kHz程度の変調周波数で第2のパルスピッカー14の駆動タイミングのみを半周期分0.5μsだけ変調することになる。

【0066】
ここで、変調周波数は、後段の走査トンネル顕微鏡52の電流検出プリアンプ52bの帯域(~数十kHz)よりも十分低い必要があり、また走査トンネル顕微鏡52の探針52aと試料53の間の距離に加える弱いフィードバックの帯域(~10Hz程度)よりも十分に高い必要があるため、1~2kHz程度の変調周波数が適当である。一般に、走査トンネル顕微鏡のトンネル電流信号を位相敏感検出する際には機械的な振動による雑音を避けるため変調周波数を高くする方が有利であるが、ここで選択した変調周波数1~2kHzは、例えば従来型の測定装置におけるミラー位置の移動による遅延時間変調方式の場合の20Hz程度と比較して約50~100倍高く、このことにより雑音レベルを5分の1~10分の1にできることが期待される。さらに、これまで0.5~1ps程度であった変調振幅を0.5μs程度まで大きくすることにより、信号レベルが10倍以上大きくなることが期待され、両者をあわせると数十~数百倍の信号雑音比の向上が期待される。
【0067】
上記パルスピッカー13,14を通ったポンプパルス光およびプローブパルス光は、照射光学系51のハーフミラー51aにより同一光軸上に重ね合わせられ、対物レンズ51dを通して走査トンネル顕微鏡52に導入される。対物レンズ51dとして、複数レンズを組み合わせた複合光学系を用いることにより、対物レンズ51dから試料53の表面上の焦点位置までの距離を長く取り、かつ焦点の直径を小さくできるよう配慮する。具体的には、一旦、凹レンズによりビーム直径を3~5cmまで広げた後、凸レンズで絞るような形が単純であり、かつ良い結果をもたらす。
これにより、対物レンズ51dから試料51までの距離を300mm程度まで大きくしても、焦点径が数マイクロメートル程度に小さくなるよう設計する。これは、走査トンネル顕微鏡52と対物レンズ51dとの物理的な干渉を避けつつ、焦点位置で十分な光強度を得ると共に、さらに探針52aに当たる光強度を小さくすることによって、探針52aの熱膨張や熱収縮による測定へのかく乱を最小限にするため、特に真空環境下で測定可能な顕微鏡と組み合わせる場合に必要である。

【0068】
走査トンネル顕微鏡52としては、半導体表面などを観測対象とするために超高真空環境下で測定できるタイプが使用される。通常、超高真空タイプの走査トンネル顕微鏡は、床面からの微弱な振動を測定装置に伝えないように真空内部で検出器部分をやわらかいバネで釣り、除振機構としている。
しかしながら、本発明を実施するに当たっては遅延時間を変調されたパルス対を発生するためのレーザー光学系と走査トンネル顕微鏡の検出器部分との位置関係が大きくずれると、試料53や探針52aの位置と対物レンズ51dの焦点位置、すなわち励起光光源の照射位置とがずれてしまい、測定に悪影響を及ぼすことから、レーザー光学系と走査トンネル顕微鏡とを単一の大きな除振台の上に構成し、床面からの振動を軽減しつつ両者の機械的な位置関係を保てるよう工夫すべきである。
【0069】
上記実施例による走査プローブ顕微鏡装置50を用いた測定結果について説明する。
測定対象となる試料53としては、GaAsウェファ上に分子線エピタキシ法(MBE)により低温で成長したGaNAs1-x(ここで、組成xは0.36%である)からなる薄膜試料を(110)面で劈開し、その断面を用いた。この試料は、成長温度が低いために欠陥密度が高く、この欠陥がフォトキャリアの再結合中心として働くため、数十~数百ピコ秒程度の高速なフォトキャリア緩和過程が期待される。
【0070】
図8は、図7の構成を有する実施例の走査プローブ顕微鏡装置50における走査トンネル顕微鏡52の電流電圧変換プリアンプ52bにより測定されたトンネル電流信号の雑音スペクトルを示す図である。図8において、横軸は周波数(Hz)を示し、縦軸は雑音スペクトル(A/Hz1/2)を示している。
図8から明らかなように、従来型のミラーを機械的に振動させる遅延時間変調走査トンネル顕微鏡52で用いられる変調周波数20Hz近辺のノイズ密度に比べ、実施例の走査プローブ顕微鏡装置50において、パルスピッカーを用いた遅延時間変調で用いられる変調周波数1kHz付近のノイズ密度は約10分の1であり、変調周波数を向上した結果、ノイズレベルを大幅に改善できることが確認された。

【0071】
図9は、実施例の走査プローブ顕微鏡装置50で測定した低温成長GaNAs1-x薄膜試料の時間分解トンネル電流を示す図である。図9においては、ロックインアンプ18からの出力を図2におけるΔt(ps)の関数として表示しており、縦軸は時間分解トンネル電流(fA)を示している。このとき図2におけるΔt’は約0.5μsとした。
前述の通り、ロックインアンプ18の出力信号は、十分に大きなΔt’に対して、トンネル電流値の遅延時間依存成分I(Δt)そのものを表わすため、試料53上における走査トンネル顕微鏡52の探針52a直下のナノメートル程度の微小領域の超高速応答、主には光キャリアの緩和過程を反映したものとなる。図9から明らかなように、数十ピコ秒ないしは数百ピコ秒程度で起こる超高速緩和過程が、フェムトアンペア程度のトンネル電流の変化として検出できていることが分かる。このときの信号雑音比は、従来型の装置と比べて、100倍程度改善されることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、これまで幅広く使われてきた遅延時間変調法によるポンププローブ測定法の遅延時間変調方法を飛躍的に改善するものであり、今後、超高速現象の利用が重要になることを考えると、その適用範囲は非常に広く大きな意義を持つ。例えば、ポンプ光強度の変調では試料温度が大きく変化し、これが測定結果に影響を及ぼすことが懸念されるが、本発明で得られた手法を用いることで試料温度をほぼ一定に保ったまま測定を行うことが可能となる。
【0073】
本発明を用いたフェムト秒時間分解走査プローブ顕微鏡は、従来型の顕微鏡に比べ100倍程度の信号雑音比の向上が期待でき、試料温度をほぼ一定に保ったまま測定を行うことが可能となるので、飛躍的な展開が見込まれる。例えば、半導体ナノデバイス内部におけるピコ秒領域のキャリア寿命や移動を計測することが可能な、これまで手に入らなかった測定手段を提供することができ、新しい物理現象を深く理解することで、新規機能デバイスの研究段階において多大な貢献が可能となる他、作成デバイスの評価など現場での活用を含め幅広く応用されることが期待される。
なお、本発明のポンププローブ装置は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの測定装置に付加して各種の測定装置としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明による遅延時間変調式のポンププローブ測定装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の測定装置における試料表面に到達するポンプパルス光及びプローブパルス光の光強度の時間変化を示すグラフである。
【図3】図2のポンプパルス光及びプローブパルス光のパルスピッカーによる遅延時間の変更を示すグラフである。
【図4】図1の測定装置を用い、ポンプパルス光で励起した後の試料の測定信号の緩和過程を示すグラフである。
【図5】本発明による遅延時間変調式のポンププローブ測定装置における第2の実施形態の構成を示している。
【図6】本発明による遅延時間変調式のポンププローブ測定装置の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明による遅延時間変調型のフェムト秒時間分解を有する走査プローブ顕微鏡装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図8】図7の構成を有する実施例の走査プローブ顕微鏡装置における走査トンネル顕微鏡の電流電圧変換プリアンプにより測定したトンネル電流信号の雑音スペクトルを示す図である。
【図9】実施例の走査プローブ顕微鏡装置で測定した低温成長GaNAs1-x薄膜試料の時間分解トンネル電流を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1,30,40:遅延時間変調式のポンププローブ測定装置
10,10A,10B:遅延時間変調部
11,31,32:レーザー光源
12:分岐光学系
12a:ハーフミラー
12b:反射ミラー
13:第1のパルスピッカー
13a,14a:光シャッター(電気光学素子)
13b,14b:偏光子
14:第2のパルスピッカー
15:遅延時間調整部
15a:可動ミラー
16:照射光学系
16a,16b,16d:反射ミラー
16c:対物レンズ
17:光検出器
18:ロックインアンプ(ロックイン検出部)
19,53:試料
20:測定部
21:光検出器
22:カウント手段
23,24:遅延手段
25,26:駆動手段
33:同期発振制御部
41:キャビティダンパーを備えたレーザー光源
50:遅延時間変調型のフェムト秒時間分解を有する走査プローブ顕微鏡装置
51:照射光学系
51a:ハーフミラー
51b,51c:反射ミラー
51d:対物レンズ
52:走査トンネル顕微鏡
52a:探針
52b:プリアンプ
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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