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明細書 :新規P450遺伝子およびそれを用いた有用イソキノリンアルカロイド生産

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5098008号 (P5098008)
公開番号 特開2008-054644 (P2008-054644A)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
公開日 平成20年3月13日(2008.3.13)
発明の名称または考案の名称 新規P450遺伝子およびそれを用いた有用イソキノリンアルカロイド生産
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P  17/12        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   9/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 17/12
C12N 1/19
C12N 5/00 103
C12N 9/02
請求項の数または発明の数 10
全頁数 20
出願番号 特願2006-238805 (P2006-238805)
出願日 平成18年9月4日(2006.9.4)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会講演要旨集(2006年3月5日)日本農芸化学会発行第29頁に発表
特許法第30条第1項適用 平成18年3月26日京都女子大学において開催された社団法人日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会で発表
審査請求日 平成21年8月28日(2009.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】佐藤 文彦
【氏名】池澤 信博
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100127638、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 美苗
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
審査官 【審査官】渡邉 潤也
参考文献・文献 特開2004-121233(JP,A)
池澤信博他2名,日本農芸化学会2006年度(平成18年度)大会講演要旨集,2006年 3月 5日,29頁、2A07a08
調査した分野 C12N 15/00-15/90
REGISTRY(STN)
CAplus(STN)
BIOSIS(STN)
MEDLINE(STN)
WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項2】
配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、レチクリンからコリツベリンへの変換反応を触媒するP450酵素をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項3】
オウレン由来である請求項1または2のいずれかの遺伝子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかの遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかの遺伝子または請求項4の組換えベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
酵母ならびに、ケシ科植物、キンポウゲ科植物、メギ科植物、ツヅラフジ科植物、ミカン科植物、モクレン科植物からなる群から選択される請求項5の宿主細胞。
【請求項7】
以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、レチクリンからコリツベリンへの変換反応を触媒するP450酵素の活性を有するタンパク質。
【請求項8】
請求項5または6の宿主細胞を培養する工程、および、
該宿主細胞において請求項7のタンパク質を発現させる工程、
を含む、請求項7のタンパク質の産生方法。
【請求項9】
請求項7のタンパク質を触媒として作用させ、基質であるレチクリンをコリツベリンに変換する工程を含む、コリツベリンの産生方法。
【請求項10】
請求項7のタンパク質を触媒として作用させ、基質であるレチクリンをコリツベリンに変換する工程、および、
コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼを触媒として作用させ、基質であるコリツベリンをマグノフロリンに変換する工程、
を含む、マグノフロリンの産生方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イソキノリンアルカロイド生合成系に存在する炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450、該P450をコードする遺伝子、および該P450を用いた有用イソキノリンアルカロイドの生産に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロームP450(本明細書および特許請求の範囲において、P450と称する)は、細菌から高等生物に至るまで広く存在するヘムタンパク質であり、その反応は多岐にわたる。高等植物は、極めて多様な化学構造や生理活性を有する二次代謝産物を生産する。二次代謝産物は、医薬品、着色料、芳香料として用いられている。植物における二次代謝産物の生合成には、多くのP450が関与していることが示されている。
【0003】
例えば、P450は、内在性基質および生体異物基質の酸化的、過酸化的、および還元的代謝を含む多様な範囲の化学的に異なる基質の酵素反応を触媒する。植物では、P450は、フェニルプロパノイド、アルカロイド、テルペノイド、脂質、シアン発生性配糖体、グルコシノラートのような、植物生成物の合成を含む生化学的経路に関与する(非特許文献1)。P450に触媒される特異的反応には、脱メチル化、水酸化、エポキシ化、N-酸化、スルホオキシデーション;N-、S-、およびO-脱アルキル化、脱硫酸化、脱アミノ化、ならびにアゾ、ニトロ、およびN-オキシド群の還元が知られている。
【0004】
薬用植物であるオウレンは、抗菌性アルカロイドであるベルベリン等、主に7種類のイソキノリンアルカロイドを生産する。これら7種の産物は、イソキノリンアルカロイド生合成系において重要な中間産物であるレチクリンを経由して生合成されると考えられる。
【0005】
イソキノリンアルカロイド生合成系に特異的なP450としては、メギ科植物から単離された、炭素-酸素カップリングを触媒するCYP80A1、ケシ科ハナビシソウから単離された、水酸化反応を触媒するCYP80B1、キンポウゲ科オウレンから単離された、メチレンジオキシ環形成を触媒するCYP719A1等が知られている(図1参照)。しかし、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450は未だに知られていない。
【0006】
P450酵素の多様性、即ちその異なる構造および機能により、P450酵素についての研究は非常に困難なものであった。さらに、P450酵素のクローニングは、これらの膜局在化タンパク質は通常低量で存在し、精製するにはしばしば不安定であるため、少なくとも部分的に阻止されてきた。
【0007】
一方、イソキノリンアルカロイドのひとつであるマグノフロリンは、ホウノキやオウレンなどに含まれるイソキノリンアルカロイドであり、薬効性があることが知られているが、その生産は天然物からの抽出に依存しており、利用は生薬などに限定されている(特許文献1)。

【特許文献1】特開平6-183983号公報
【非特許文献1】Chapple, Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 1998, 49: 311-343
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炭素-炭素カップリング反応を触媒する、新規なP450をコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者は、新規な遺伝子機能解析法と、きわめてアルカロイド生合成能力の高いオウレン培養細胞から単離したESTライブラリーを用いることにより、オウレンのアルカロイド生合成系に関与する新規P450遺伝子の単離に成功した。該P450は炭素-炭素カップリング反応を触媒するものであり、かかる反応を触媒するP450の単離は初めてである。
【0010】
すなわち、本発明は、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子を提供する。配列番号1で表される配列は、本発明によるP450をコードする領域、即ちオープンリーディングフレーム(ORF)である。
【0011】
また、本発明には、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子も含まれる。なお、本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、0.2% SDS、0.2x SSC、65℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション/洗浄条件を指す。
【0012】
また、本発明には、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて1もしくは数個の塩基または塩基対が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子も含まれる。ここで、「1もしくは数個の塩基または塩基対が欠失、置換もしくは付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異導入法により置換、欠失、挿入、及び/または付加できる程度の数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加されることを意味する。
【0013】
本発明にはまた、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとヌクレオチドレベルで85%以上の相同性を示し、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子も含まれる。相同性は好ましくは90%以上、さらに好ましくは、95%以上、97%以上である。配列の同一性は、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85:2444-2448)やBLASTN検索により決定することができる。
【0014】
本発明によって提供される上記遺伝子は、イソキノリンアルカロイド生産能を有する植物、例えば、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサク等のケシ科植物、メギ等のメギ科植物、キハダ等のミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、ならびにオウレン等のキンポウゲ科植物などのイソキノリンアルカロイド産生植物由来であるのが好ましく、オウレン(Coptis japonica)由来であるのがさらに好ましい。
【0015】
本発明はまた、本発明によって提供される上記遺伝子によってコードされるタンパク質を提供する。
【0016】
本発明は、以下の(a)または(b)のタンパク質を提供する:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素の活性を有するタンパク質。
【0017】
本発明において、「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、及び/または付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/または付加されることを意味する。また、ここにいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0018】
さらに本発明は、以下の(a)または(c)のタンパク質を提供する:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質とアミノ酸レベルで60%以上の相同性を示し、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素の活性を有するタンパク質。
ここで、相同性は好ましくは70%以上、さらに好ましくは、80%以上、90%以上、95%以上である。配列の同一性は上記のように、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85:2444-2448)やBLASTP検索により決定することができる。
【0019】
本発明はまた、上記タンパク質をコードする遺伝子を提供する。
【0020】
本発明はまた、本発明により提供される遺伝子を含む組換えベクター、ならびに該遺伝子または該組換えベクターを含む宿主細胞を提供する。該遺伝子または組換えベクターにより形質転換される宿主細胞としては、大腸菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞などが挙げられ、好ましくは、酵母およびイソキノリンアルカロイド生合成経路を有する植物細胞である。また、本発明により形質転換されるイソキノリンアルカロイド生合成経路を有する植物の具体例としては、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサク等のケシ科植物、メギ等のメギ科植物、キハダ等のミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、ならびにオウレン等のキンポウゲ科植物などのイソキノリンアルカロイド産生植物などが挙げられ、好ましくはオウレンである。
【0021】
本発明による遺伝子を担持するベクターとしては、宿主として大腸菌を用いる場合には、pUC、pBluescriptやpET21などの発現ベクター、酵母を用いる場合には、pGYRやpFLD、植物を用いる場合には、pBIEなどの発現ベクター、昆虫細胞を用いる場合には、バキュロウイルス発現ベクターpACκCH3などが挙げられる。
【0022】
本発明のP450酵素は、炭素-炭素カップリング反応を触媒するものであり、かかる反応としては、レチクリンからコリツベリンへの変換反応が挙げられる。
【0023】
さらに本発明は、本発明の遺伝子を含む組換えベクターを含む宿主細胞を培養する工程、および、
該宿主細胞において本発明のタンパク質を発現させる工程、
を含む、本発明によるP450タンパク質の産生方法を提供する。
【0024】
該方法において、好ましい宿主細胞は、上記と同様であり、単に本発明のタンパク質を産生するための目的であれば、大腸菌、酵母、昆虫細胞が挙げられ、宿主細胞自体あるいはその画分(例えばミクロソーム画分)をそのまま酵素反応に用いるためには、NADPH-P450還元酵素を導入した酵母、NADPH-P450還元酵素を内在的に有する昆虫細胞、植物が挙げられる。
【0025】
宿主細胞への本発明の遺伝子を含む組換えベクターの導入方法としては、宿主細胞が大腸菌の場合にはヒートショック法、エレクトロポーレーション法など、酵母の場合にはLiCl法、昆虫細胞の場合にはウイルスのトランスフェクションが挙げられる。
【0026】
該タンパク質を発現させる工程は、例えば、導入するP450遺伝子の上流に構成的プロモーターを連結することにより、あるいは誘導可能プロモーターに連結し、プロモーターに誘導をかけることにより達成される。
【0027】
本発明はまた、本発明のP450を触媒として作用させ、基質であるレチクリンをコリツベリンに変換する工程を含む、コリツベリンの産生方法を提供する。
【0028】
本発明はさらに、本発明のP450を触媒として作用させ、基質であるレチクリンをコリツベリンに変換する工程、および、
コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼを触媒として作用させ、基質であるコリツベリンをマグノフロリンに変換する工程、
を含む、マグノフロリンの産生方法を提供する。
【0029】
本発明の「P450を触媒として作用させ、基質であるレチクリンをコリツベリンに変換する工程」は、例えば、実施例に記載のように、P450およびP450の活性発現に必要なNADPH-P450レダクターゼを発現する酵母に、菌体外からレチクリンを添加することによって行うことが出来る。また、かかる菌体から調製したミクロソーム画分にレチクリンを添加することによって行うことも出来る。さらに、大腸菌などの所望の宿主によって発現させた本発明のP450を精製して酵素標品を得て、NADPH-P450還元酵素の存在下で、該酵素標品に基質であるレチクリンを添加することによって行うことも出来る。
【0030】
例えば酵母菌体を用いた場合のコリツベリンの回収方法としては、菌体を懸濁しているバッファーを回収し、Sep-pakを通してアルカロイドを吸着させ、MeOHで溶出して回収する方法が挙げられる。
【0031】
このようにしてレチクリンから生じた反応産物がコリツベリンであるか否かは、当業者に周知のあらゆる手段によって確認することが出来る。具体的には、反応生成物とコリツベリン標品とを、LC-MSに供し、得られるスペクトルを比較することによって同定することが出来る。また、反応生成物とコリツベリン標品とのNMR分析による比較によっても確認することが出来る。
【0032】
得られた反応生成物をさらに「コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼを触媒として作用させ、基質であるコリツベリンをマグノフロリンに変換する工程」に供することにより、マグノフロリンを得ることが出来る。かかる工程は、上記の反応生成物に、大腸菌などで発現させ、精製したコクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)を添加して行うこともできるし、上記の反応生成物を含む培養液にて、CNMTを保持する大腸菌を培養することにより行うことも出来る。例えば大腸菌を用いた場合はマグノフロリンは培地から回収することができる。
【0033】
このようにしてコリツベリンから生じた反応産物がマグノフロリンであるか否かは、当業者に知られたいずれかの手段によって確認することが出来る。具体的には、反応生成物とマグノフロリン標品とを、LC-MSに供し、得られるスペクトルを比較することによって同定することが出来る。また、反応生成物とマグノフロリン標品とのNMR分析による比較によっても確認することが出来る。
【0034】
上記ポリヌクレオチドが、「炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素をコードするポリヌクレオチド」であるか否かは、本発明のP450の活性発現に必要なNADPH-P450レダクターゼをコードするポリヌクレオチドとともに、発現産物の活性を確かめるべきポリヌクレオチドを、イソキノリンアルカロイドの生産能を有さない、即ち、内在性のイソキノリンアルカロイドを含まない宿主細胞、例えば、酵母に共導入し、該宿主細胞自体または該宿主細胞のミクロソーム調製物、あるいは該宿主細胞から単離・精製した目的の発現産物とNADPH-P450レダクターゼを含む調製物に、反応基質としてレチクリンを添加し、得られた反応生成物にコリツベリンが含まれるかを調べることにより判定することが出来る。得られた反応生成物がコリツベリンであるかどうかは、コリツベリン標品と、反応生成物とをLC-MS等の公知の分析に供し、同じ物質であることを確認することにより判定できる。
【0035】
同様に、上記タンパク質が「炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素の活性を有するタンパク質」であるかどうかは、該タンパク質調製物にNADPH-P450レダクターゼの存在下で反応基質としてのレチクリンを添加し、上記と同様にして反応生成物がコリツベリンであるかを調べることにより判定することが出来る。
【発明の効果】
【0036】
本発明において、高いアルカロイド生合成活性を有するオウレン細胞の遺伝子解析から、新規なP450遺伝子を単離し、その解析を行うことにより、該P450がイソキノリンアルカロイド生合成系における炭素-炭素カップリングという反応を触媒する新規なP450であることを見いだした。本発明の新規なP450は、イソキノリンアルカロイド生合成系の重要な中間体であるレチクリンから、コリツベリンへの変換を触媒する。コリツベリンは、最近、ピロリ菌の生存に必須なマロニルCoAアシルキャリアタンパク質トランスアシラーゼの阻害作用を有することが明らかになっている。
【0037】
さらに、本発明のP450により生産されるコリツベリンは、本発明者らが既に単離同定しているコクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)の触媒作用により、薬効性が期待されるマグノフロリンに変換される。イソキノリンアルカロイドは極めて幅広い薬効を示すことから、本発明の遺伝子の利用により新たな創薬の可能性が喚起される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明に係る遺伝子について
本発明は、炭素-炭素カップリング反応を触媒する新規なP450をコードする遺伝子を提供する。
配列番号1に示す塩基配列は、オウレン(Coptis japonica)由来のESTライブラリーからのクローンの配列決定および相同性探索に基づいて同定され、配列決定されたcDNAのコード領域である。
【0039】
本発明に係るP450をコードする遺伝子は好ましくは、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドからなるORFであるが、この部分に相当する部分が含まれる限り、いずれの遺伝子であってもよい。例えば、該ORFに5'および3'UTRを加えた配列番号3からなる遺伝子も本発明に含まれる。配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、イソキノリンアルカロイドを生産するオウレンから調製したcDNAライブラリーから得ることが出来る。
【0040】
上記配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、新規なP450をコードするORFであると確認された。該P450は、NADPH-P450レダクターゼの存在下で、炭素-炭素カップリング反応を触媒する。具体的には該P450は、イソキノリンアルカロイド生合成系の重要な中間産物であるレチクリンの2つの炭素をカップリングして、コリツベリンを生産する(図6参照)。これまでにイソキノリンアルカロイド生合成系において炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450遺伝子は全く知られておらず、本発明のP450の利用によって、イソキノリンアルカロイド生合成系の重要産物である、マグノフロリンの大規模産生が期待できるものである。
【0041】
本発明はまた、配列番号2に記載のP450として作用するタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を包含する。ここで「P450として作用するタンパク質と機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が配列番号2に記載のタンパク質と同等の生物学的機能、即ち炭素-炭素カップリング反応を触媒する機能、例えば、レチクリンからコリツベリンへの変換反応を触媒する機能を有することを指す。
【0042】
本発明の遺伝子には、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0043】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードする遺伝子を調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、部位特異的突然変異誘発(site-directed mutagenesis)法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. Methods in Enzymology, 154: 350-367(1987))が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型の本発明のP450(配列番号2)をコードするアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であっても、天然型(配列番号2)のP450と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明の遺伝子に含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明の遺伝子に含まれる。対象となる遺伝子を構成するDNAの塩基の変異数は、アミノ酸レベルにおいて、典型的には、100アミノ酸以内、好ましくは50アミノ酸以内、さらに好ましくは20アミノ酸以内、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0044】
上記遺伝子を獲得する方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法が採用される。例えば、該遺伝子を、それを有する生物のゲノムDNA、cDNAライブラリーなどから適切な制限酵素で切り出し、精製すればよい。即ち、本発明のP450をコードする遺伝子には、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、対象生物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明のタンパク質をコードするDNA(配列番号1)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。
【0045】
また、本発明のP450をコードするDNA(配列番号1)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、対象生物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0046】
なお、上記遺伝子を有する生物としては、イソキノリンアルカロイド産生能を有する植物、例えば、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサクなどのケシ科植物、オウレン等のキンポウゲ科植物、メギなどのメギ科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、キハダなどのミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物等の、イソキノリンアルカロイド産生植物を挙げることができる。これらの中でも特に、イソキノリンアルカロイド生産性の高いオウレン培養細胞を用いれば、より確実に目的の遺伝子を単離することができる。
【0047】
本発明のP450をコードするDNAは、例えば、NADPH-P450レダクターゼをコードするDNAとともに、酵母等の宿主細胞に導入することにより、コリツベリンの大量生産に利用することが考えられる。また、反応生成物であるコリツベリンを基質とする酵素である、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ(CNMT)をコリツベリンに作用させることにより、マグノフロリンの大量生産にも利用することができると考えられる。CNMTは本発明者らによって単離同定され、大腸菌などの宿主で発現させることができることが判明している。
【0048】
次に本発明のP450の獲得方法について説明する。
具体的には、ESTまたはゲノムの少なくとも一部がデータベース化されている植物から本発明のP450を獲得する場合には、上記ポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて相同性のある塩基配列をデータベース中から検索すればよい。例えば、汎用されている相同性検索アルゴリズムであるBLASTNによる塩基配列の相同性検索を好適に用いることができる。
【0049】
また、ESTまたはゲノムがデータベース化されていない植物の場合には、例えば、従来公知のDNAライブラリーを用いたハイブリダイゼーション法を用いることもできる。具体的には、適切なクローニングベクターを使用して対象となる植物からゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを調製する工程と、上記ポリヌクレオチドの少なくとも一部をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行い、ライブラリーから上記プローブにポジティブの断片を検出する工程とを含む方法を用いることができる。このように、本発明に係る遺伝子はプローブとしても有用である。プローブに用いる領域には、目的とする遺伝子に特異的な配列が含まれることが好ましい。また、プローブとして使用されるポリヌクレオチドの長さは、100bp以上が好ましい。
【0050】
より具体的には、配列番号2に記載のP450と機能的に同等なタンパク質をコードする遺伝子を調製するために、当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. Journal of Molecular Biology, 98, 503(1975))やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. Science, 230, 1350-1354(1985)、Saiki, R. K. et al. Science, 239,487-491(1988))を利用する方法が挙げられる。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうる本発明のP450と同等の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子もまた本発明の遺伝子に含まれる。
【0051】
このような遺伝子を単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、上記のように0.2% SDS、0.2x SSC、65℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション/洗浄条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、0.2% SDS、0.1x SSC、65℃の条件を用いれば、より相同性の高い遺伝子の効率的な単離を期待することができる。これにより単離された遺伝子は、それがコードするアミノ酸レベルにおいて、本発明のタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上(例えば、90%以上)の配列の同一性を指す。配列の同一性は、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85:2444-2448)やBLASTP検索により決定することができる。
【0052】
ある遺伝子が本発明のP450としての機能を有するタンパク質をコードするか否かは、例えば、実施例に記載のようにNADPH-P450レダクターゼとともに目的の遺伝子を導入した酵母細胞からミクロソーム画分を調製し、かかるミクロソーム画分に、本発明のP450の基質であるレチクリンを添加し、反応生成物がコリツベリンであるかを同定することにより決定できる。あるいは、NADPH-P450レダクターゼとともに目的の遺伝子を導入した酵母の菌体を含む懸濁液にレチクリンを添加し、かかる懸濁液中にコリツベリンが生成しているかどうかを確認することにより決定することが出来る。あるいは、目的の遺伝子を好適な宿主細胞にて発現させ、単離精製した酵素標品に、NADPH-P450レダクターゼの存在下で、レチクリンを添加し、コリツベリンを生成するかを同定することによって決定することもできる。
【0053】
生成物がコリツベリンであるかの同定方法は、コリツベリン標品と、生成物とを、LC-MS、LC-NMRなどにより解析し、その結果同じ生成物であるか否かを判定することにより同定することが出来る。
【0054】
本発明に係るタンパク質について
本発明に係るタンパク質は、上記遺伝子によってコードされる配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素の活性を有するタンパク質、もしくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質とアミノ酸レベルで60%以上の相同性を示し、かつ、炭素-炭素カップリング反応を触媒するP450酵素の活性を有するタンパク質である。
【0055】
また、本発明に係るタンパク質は、タンパク質の精製や検出等を容易に行うために、公知のHAやFlag等の付加配列を末端に含ませてもよいし、融合タンパク質であってもよい。また、N-グリコシル化などの各種修飾を受けていてもよい。
【0056】
本発明による組換えベクターは、上記遺伝子が組み込まれたものである。上記ベクターは、公知の形質転換方法によって宿主に発現可能に導入されることによって、当該宿主において組み込まれた遺伝子あるいは遺伝子断片を発現させて本発明によるタンパク質を得ることが出来るものである。なお、本発明によるタンパク質は下記のように組換え産生により得られたものでもよいし、植物から単離、精製したものでもよく、その起源は特に限定されない。
【0057】
組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入し、形質転換宿主細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母等の真菌細胞、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。特に、NADPH-P450レダクターゼ遺伝子を有するベクターを用いることが出来、さらに取り扱いが容易であることから、酵母発現系が好ましい。
【0058】
宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法(Mandel, M.& Higa, A. Journal of Molecular Biology, 53, 158-162(1970)、Hanahan, D. Journal of Molecular Biology, 166, 557-580(1983))を用いることができる。また、酵母への導入には、塩化リチウム法(Ito H, Fukuda Y, Murata K & Kimura A (1983) Transformation of intact yeast cells treated with alkali cations. J Bacteriol 153, 163-168.)が挙げられる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記したマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。
【0059】
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞を増殖させ、細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。
【0060】
本発明のタンパク質は、イソキノリンアルカロイド生合成に関与するP450として作用するものであり、それ自体非常に有用なものである。さらに、これらのタンパク質およびこれらタンパク質をコードする遺伝子を用いて、イソキノリンアルカロイド生合成系の改変に利用することができる。
【0061】
形質転換体
本発明の遺伝子を発現する形質転換体を作製する場合には、該遺伝子を適当なベクターに挿入して、これを対象の宿主細胞に導入する。
【0062】
本発明に係る形質転換体は、所望により組換えベクターに含まれた、上記遺伝子が導入されたものである。より具体的に言えば、本発明に係る形質転換体は、本発明によるP450をコードする遺伝子が導入されたものである。ここで、「遺伝子または組換えベクターが導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、宿主内に所望によりベクター内に組み込まれた遺伝子が例えばプロモーターの作用により、発現可能に導入されることを意味する。
【0063】
本発明に係る形質転換体は、上記遺伝子を直接、あるいは上記遺伝子が組み込まれたベクターを宿主に導入することによって得られる。上記宿主は、特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌などの原核生物、酵母などの真菌、あるいは、植物、昆虫細胞などを挙げることができる。実施例に記載のように、宿主細胞としては、酵母が好ましい。さらに、上記ベクターに組み込まれた遺伝子が、植物の一種であるオウレン由来のものであることから、上記宿主としては、植物も好ましく、そのなかでも、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサクなどのケシ科植物、オウレン等のキンポウゲ科植物、メギなどのメギ科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、キハダなどのミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物等の、イソキノリンアルカロイド産生細胞が特に好ましい。なお、形質転換は一過性でもよいが、好ましくは安定に上記遺伝子が組み込まれるものである。
【0064】
本発明の遺伝子は、宿主細胞内で発現可能なプロモーター、例えば、大腸菌ではLacプロモーター、酵母では、GAPDHプロモーターやアルコールオキシダーゼプロモーター、植物細胞では、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、昆虫細胞では、バキュロウイルスプロモーター等の下流域に連結して使用する。なお、宿主細胞が内在性のNADPH-P450レダクターゼ遺伝子を有さない場合は、本発明のP450の活性を宿主細胞内で発揮させるためには該遺伝子を導入する必要がある。なお、昆虫細胞では、NADPH-P450レダクターゼを導入しなくても、内在性のNADPH-P450レダクターゼだけで活性を検出することができ、酵母でも低い活性であれば内在性のNADPH-P450レダクターゼだけで活性を検出することができる。
【0065】
上記形質転換宿主細胞を含む形質転換体を作製する方法としては、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。例えば、形質転換植物を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et al (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、上記形質転換方法は、宿主となる生物の種類に応じて適宜選択されることが好ましい。即ち、例えば宿主が酵母である場合は、塩化リチウム法が好ましい。
【0066】
本発明において使用することができるベクターとしては、従来から細菌、真菌などの形質転換に使用されているベクター、例えば、細菌用には、pUC、pBluescript、pET系、酵母用には、pGYR、pFLD、pYES2等、植物用には、pBI121を挙げることができる。そして、上記ベクターは、上記遺伝子またはその断片の他に、従来公知の遺伝子を発現させるための構成的プロモーター、例えば、GAPDHプロモーターやカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、または発現誘導性プロモーター、例えば、Lacプロモーターやアルコールオキシダーゼプロモータ、そして形質転換体の選抜を容易にする薬剤耐性遺伝子、例えば、アンピシリンあるいは、カナマイシン、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子などを含んでいるのが好ましい。
なお、宿主細胞が内在性のNADPH-P450レダクターゼ遺伝子を有さない場合は、本発明のP450の活性を宿主細胞内で発揮させるためには該遺伝子を含むベクターを使用するのが好ましい。
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0068】
ESTライブラリーの作成
特開2004-121233号に記載のように行った。以下にこれを簡単に説明する。
(1)ESTの単離と網羅的塩基配列決定
京都大学大学院生命科学研究科全能性統御機構学研究室で確立され、長年維持培養されてきたオウレン(Coptis japonica)培養細胞のベルベリン高生産株156-1株(選抜株)から、従来文献(Choi, et al., J. Biol. Chem, 277:830-835, 2002)に記載の方法によってmRNAを抽出した。
【0069】
なお、上記オウレンのベルベリン高生産株156-1株は、特開平11-178579号公報、特開平11-178579号公報、および、F. Sato, and Y.Yamada, Phytochemistry, 23(2):281-385(1984)などに記載の方法によって作製・選抜することも可能である。そして、該mRNAからSuperScriptII Reverse transcriptase (Invitrogen)を用いて逆転写したcDNAを、pDR196 (D. Rentsch et al., FEBS Lett. 370:264-268 (1995))ベクターにサブクローニングした後、ランダムに選抜した約5000個のクローンの塩基配列をMegabase system(Amersham Pharmacia)を用いて決定した。
【0070】
ESTライブラリーからのP450遺伝子の選択
上記塩基配列を決定したクローンをBlastX、 GENETYX-MACを用いたホモロジーサーチに供した結果、重複するものを含む30の配列がP450をコードするものであった。その中で、特徴的なものとして、メギ科植物、Berberis stoloniferaのCYP80A1と相同性の高いもの(アミノ酸配列相同性によると53%)が含まれていた。これをCYP80A1likeと称することとした。CYP80A1likeのORFの塩基配列を配列番号1に、推定アミノ酸配列を配列番号2に、ORFに5'および3'UTRを加えた塩基配列を配列番号3に示す。
【0071】
酵母発現系のためのコンストラクトの構築
CYP80A1likeに関して酵母発現系を用いて組換えタンパク質を生産させ、その活性を測定するため、酵母発現系プラスミドに目的遺伝子を導入したプラスミドを構築した。
【0072】
まず、CYP80A1like遺伝子を、オウレン培養細胞cDNAを鋳型としてPCRで増幅し、一度pT7Blue T-vectorに組み込んで配列確認を行った後、pGYR(T. Sakaki et al., J. Biol. Chem., 267: 16497-16502 (1992)を改変して作成したpGYR-SpeIのSpe I部位に導入した(図2参照)。具体的には以下の手順に従った。
【0073】
(a)オウレン培養細胞156-1株のcDNA合成
オウレン培養細胞156-1株(植え継ぎ後5日のもの)約500mgから、製造業者の指示に従ってRNeasy plant kit (QIAGEN)を使用してtotal RNAの抽出を行った。得られたtotal RNAのうち、1.3μgを用いて、製造業者の指示に従ってSUPERSCRIPT(商標)II RNase H- Reverse Transcriptase (Invitrogen)を使用して逆転写反応を行いcDNAの合成を行った。
【0074】
(b) CYP80A1like遺伝子の増幅
CYP80A1like遺伝子全長を、(a)で作成したオウレン培養細胞cDNAを鋳型としてPCRにより増幅した。DNAポリメラーゼとしてはKOD-plus-(TOYOBO)を用いた。反応液組成は製造業者の指示に従い、以下に示すプライマーと条件でPCRを行った。
【0075】
プライマー
フォワード ACTAGTTTCAGAACCAAGGATAGAGATTTCAAATGG(配列番号4)
リバース ACTAGTAAAACGTGAAATTTCTTATTGCCGCAAC(配列番号5)
【0076】
PCR条件
変性 94℃2分
25サイクル 94℃15秒、55℃30秒、68℃1分45秒
最終伸長 68℃4分
【0077】
PCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動した結果、目的サイズ(約1.5kb)に特異的な増幅がみられた。(以下、1%アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。
【0078】
(c)インサート断片の調製
KOD-plus-で増幅したCYP80A1like増幅産物にGo Taq (商標) DNA polymeraseを用いてdATP付加を行った。具体的にはCYP80A1 likeのPCR産物のエタノール沈澱を行い、それぞれ6 μlの滅菌水に溶解した。それぞれの溶液にGo Taq (商標) DNA polymerase付属の5xPCR bufferを2μl、dATP (2 mM) を1μl、Go Taq (商標) DNA polymeraseを1μl加えて計10μlとした。その後、72 ℃で30分間反応させ、PCR産物にdATPを付加した。
【0079】
(e)ライゲーションとトランスフォーメーション
インサート(CYP80A1like断片)とベクター(pT7Blue T-vector)を混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌DH5α株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。
【0080】
(f)コロニーPCRによる、インサート導入クローンの選択
得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、それらを鋳型としてコロニーPCRを行った。DNAポリメラーゼとして、Go Taq(商標)DNAポリメラーゼ(Promega)を用い、M13-M4プライマー、M13-Rvプライマーを用いて以下の条件でPCRを行った。
PCR条件
変性 98℃5分
30サイクル 94℃30秒、50℃30秒、72℃2分
最終伸長 72℃4分
PCR後、電気泳動を行い、予想サイズ(約1.6kb)に特異的な増幅が見られるクローンを数個得た。
【0081】
(g)インサート導入クローンの塩基配列確認
(f)で得られたクローンのインサート配列にPCRによる変異が入っていないことを確認するために配列決定を行った。まず、(f)で得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後、Wizard(登録商標)Plus SV Minipreps DNA Purification System (Promega)を用いてプラスミドを抽出し、プラスミド濃度を260nmの吸光度を用いて測定し、テンプレートDNAとした。サイクルシークエンス反応は、Thermo Sequenase fluorescent labeled primer cycle sequencing kit (Amersham Biosciences)を用いて行った。テンプレートDNAは1.0pmol相当を使用し、プライマーはFITCラベルしたM13-M4プライマーとM13-Rvプライマーを使用した。操作は製造業者の指示に従って行い、アニーリング温度は50℃とした。
【0082】
配列決定を行った結果、CYP80A1likeのインサートは正確な配列であることが確認できた。
【0083】
(h)配列確認したCYP80A1likeインサート断片の調製
(g)で塩基配列を確認したプラスミド約1μgを37℃で1時間、SpeI処理し、電気泳動後、CYP80A1like遺伝子断片をゲルから切り出した。切り出したゲルからWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてインサート断片を調製した。
【0084】
(i)pGYRベクター断片の調製
pGYRを37℃で1時間SpeI処理し、電気泳動後、目的サイズ(約12kb)のバンドを切り出した。その後、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up System (Promega)を用いてベクター断片を調製した。
【0085】
(j)ライゲーションとトランスフォーメーション
(h)で得たCYP80A1likeインサート断片と(i)で調製したpGYR-SpeIベクター断片の濃度を電気泳動で確認後、それらの比が1:3~1:10程度になるように混合し、等量のDNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)のsolution Iを加え、16℃、1時間反応を行った。その後、大腸菌DH5α株にヒートショック法を用いてトランスフォーメーションを行い、LBプレート(アンピシリン50μg/ml含有)に展開した。
【0086】
(k)コロニーPCRによる、インサート導入クローンの選択
得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、それらを鋳型としてコロニーPCRを行った。DNAポリメラーゼは、Go Taq(商標) DNAポリメラーゼを用いた。プライマーはM13-M4プライマーと上記CYP80A1likeフォワードプライマー(配列番号4)を用いた。以下の条件でPCRを行った。
PCR条件
変性 98℃5分
30サイクル 94℃30秒、50℃30秒、72℃2分30秒
最終伸長 72℃4分
PCR後、電気泳動を行い、予想サイズ(約2.4kb)に特異的な増幅がみられるクローンを数個得た。
【0087】
(l)インサート導入クローンからのプラスミドの抽出
(k)で得られた大腸菌コロニーを5mlのLB培地(アンピシリン100μg/ml含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後アルカリSDS法を用いてプラスミドを抽出した。そして、その一部を37℃で1時間、SpeI処理し、電気泳動をしてインサートの導入を再度確認した。
【0088】
酵母発現系を用いたCYP80A1likeの活性測定
CYP80A1like酵母発現用プラスミド(図2)を酵母に形質転換し、培養後、CYP80A1likeが局在していると考えられるミクロソーム画分を調製して、その活性を確認することにした。それぞれの反応産物は、LC-MS解析により化合物の同定を行うこととした。具体的には以下の手順にしたがった。
【0089】
(a)酵母発現用プラスミドの酵母への形質転換
発現用には、酵母(Saccharomyces cerevisiae)AH22株を用いた。AH22株は、L-ヒスチジンとL-ロイシン以外は全ての必須アミノ酸を生合成することが出来る。pGYRはL-ロイシン合成遺伝子(LEU2)を持つため、培地にL-ヒスチジンを添加するとプラスミドを持った酵母のみが増殖できる。
【0090】
CYP80A1like発現用コンストラクトを酵母AH22株に塩化リチウム法により形質転換した。以下にプロトコールを示す。
【0091】
(酵母への形質転換プロトコール)
・材料
YPD培地:1%イーストエクストラクト、2%ポリペプトン、2%グルコース
SDプレート:2%グルコース、0.67%N-base w/o アミノ酸、1.5%寒天、20μg/ml L-ヒスチジン
0.2M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)
1M LiCl: 10ml(フィルター滅菌)
70%(w/v) PEG 4000: 10ml(溶解後、10mlにメスアップ)
・方法
1.S.cerevisiae AH22株1.0x107細胞を使用した。
2.卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を捨てた。
3.ペレットを0.2M LiClで洗浄した(少しボルテックスにかけた)。
4.卓上遠心機で13,000rpm、4分遠心を行い、上清を完全に取り除いた。
5.ペレットを1M LiCl 20μlにピペッティングにより懸濁した。
6.DNA(プラスミド)溶液10μl(1μgのプラスミドを含有)を加えた。
7. 70%(w/v) PEG 4000を30μl加え、ピペッティングによりよく混合した。
8.30℃で1時間インキュベートした。
9.滅菌水140μlを加えてSDプレートに展開し、30℃にてインキュベートした。
10.SDプレート上で30℃、3日間培養し、3~5mm程度の大きさのコロニーを数個得た。
【0092】
(b)組換え酵母の培養とミクロソーム画分の調製
(a)で得たCYP80A1likeのコロニーを5mlの濃縮SD培地(8%グルコース、5.4% N-base w/o アミノ酸、160μg/ml L-ヒスチジン)に植菌した。組換え酵母の培養に用いる濃縮SD培地は、通常酵母の培養に用いるSD培地より濃縮されているが、これは少ない培地量で出来る限り多くの菌体を得るためである。濃縮SD培地に植菌した酵母を、30℃、220rpmで培養液が完全に白濁するまで培養し、さらに濃縮SD培地5mlx4本に植え継いだ。培養液が完全に白濁した後、さらに300mlの濃縮SD培地を含む500ml三角フラスコに植え継ぎ、嫌気培養した。最終的に菌体濃度が1.0~1.2x108細胞/mlとなるまで培養を続け、以下のミクロソーム画分の調製に移った。
【0093】
(ミクロソーム画分の調製)
・試薬
ザイモリアーゼバッファー:10mM Tris-HCl、2Mソルビトール、0.1mM DTT、0.1mM EDTA、pH7.5
ソニケーションバッファー:10mM Tris-HCl、0.65Mソルビトール、0.1mM DTT、0.1mM EDTA、pH7.5
・方法(300ml培養液の場合)
1.酵母菌体を4℃、8,000xg、10分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR9-2を用いて6,000rpm)。
2.菌体(沈殿)を100mlの蒸留水で洗浄した。
3.4℃、8,000xg、10分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR9-2を用いて6,000rpm)。
4.菌体(沈殿)を25mlのザイモリアーゼバッファーで洗浄した。
5. 4℃、8,000xg、10分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR20-2を用いて7,800rpm)。
6.菌体(沈殿)を300μg/mlのザイモリアーゼ100-T(生化学工業株式会社)を含む、25mlのザイモリアーゼバッファーに懸濁し、30℃で緩やかに1時間振盪した。
7.4℃、9,000xg、10分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR20-2を用いて8,400rpm)。
8. 菌体(沈殿)を25mlのザイモリアーゼバッファーで洗浄した。
9. 4℃、9,000xg、10分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR20-2を用いて8,400rpm)。
10. 菌体(沈殿)を25mlのザイモリアーゼバッファーで洗浄した。
11. 4℃、9,000xg、10分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR20-2を用いて8,400rpm)。
12. 菌体(沈殿)を25mlのソニケーションバッファー(1mM PMSF含有)に懸濁した。凍結融解のため、一晩-80℃にて静置した。
13.翌日、菌体液を常温で溶解し、ダウンス型ホモジナイザー(Tight)(WHEATON)で20回程度ホモジナイズした。
14.4℃、12,000xg、20分間遠心処理を行った(HITACHI高速冷却遠心機、ローターRPR20-2を用いて10,000rpm)。
15.上清を超遠心用チューブに移した。
16.4℃、100,000xg、60分間超遠心を行った(BECKMAN分離用超遠心機L8-60M、ローターSw28を用いて25,000rpm)。
17.上清を捨て、沈殿(ミクロソーム画分)をテフロンホモジナイザー(IWAKI)にかきとり、適当量(1~3ml)の50mM HEPES/NaOH(pH7.6)(0.5mM EDTA含有)に完全に懸濁できるまでホモジナイズした。
18.得られた懸濁液を150μlずつ1.5mlのエッペンドルフチューブに分注した。サンプルは-80℃で保存した。
以上のようにCYP80A1like発現酵母のミクロソーム画分を調製した後、酵素反応を行った。
【0094】
(c) CYP80A1like組換えタンパク質を用いた酵素反応
CYP80A1like組換えタンパク質を用いた酵素反応は、50mM HEPES/NaOH (pH7.6)、0.5mM NADPH(Oriental Yeast Co., Ltd)、5μMレチクリン(基質)、ミクロソーム画分30~60μlを用いて、100μlの反応系で、30℃、30分間反応を行った。
【0095】
反応産物の生成の有無はLC-MSを用いて確認することとしたが、LC-MSに供するサンプルは、反応後、TCA沈殿を行ってタンパク質を沈殿させた後、その上清を分析に供した。
【0096】
(d)CYP80A1likeの反応生成物のLC-MS解析
CYP80A1like組換えタンパク質の反応生成物をLCMS-2010(Shimadzu)を用いて解析した。マススペクトル装置としてESIプローブを用いた。
【0097】
LC-MS条件
分析装置:LCMS-2010(Shimazu)
検出:280nm
カラム:TSKgelODS-80TM(4.6x250mm)(Tosoh)
溶媒:アセトニトリル/水/酢酸(35:64:1)
流速:0.5ml/分
【0098】
結果を図3に示す。図3の左のスペクトルは(R,S)-レチクリンを基質とした際のCYP80A1likeの反応後すぐの産物のLC-MS解析の結果を示す。レチクリン(m/z=330)の他に、m/z=328の反応生成物のピークが検出された。図3の右のスペクトルは(R,S)-レチクリンを基質とした際のCYP80A1likeの反応後30分の産物のLC-MS解析の結果を示す。レチクリン(m/z=330)の他に、m/z=328の反応生成物のピークが検出され、メジャーな反応生成物はm/z=328、保持時間約11分であり、マイナーな反応生成物はm/z=328、保持時間約12分であった。即ち、(R,S)-レチクリンを基質とした際のCYP80A1like反応産物として、分子量が等しく、保持時間が異なる2つの化合物の生成が確認された。以下の実験においては、メジャーな反応生成物の同定を試みた。
【0099】
(e) CYP80A1likeの反応生成物のフォトダイオードアレイによる解析
HPLCにより分離したCYP80A1like反応産物のUV吸収スペクトルを、フォトダイオードアレイによって解析した。
HPLC条件
分析装置:Shimadzu LC-10A system
カラム: TSKgelODS-80TM(4.6x250mm)(Tosoh)
溶媒:アセトニトリル/水/酢酸(35:64:1)
流速:0.8ml/分
【0100】
結果を図4に示す。図の左側はマグノフロリン標品、右側はレチクリンを基質とした場合のCYP80A1likeの反応生成物の吸収パターンを示す。反応生成物の吸収パターンはマグノフロリン標品の吸収パターンと類似していた。この結果と、分子量、フラグメントイオンのパターンから、レチクリンを基質とした場合のCYP80A1likeの反応生成物は、マグノフロリンの前駆体である可能性が示唆された。
【0101】
(f) CYP80A1likeの反応生成物の同定
CYP80A1likeの反応生成物が何であるかを同定するために、LC-NMR解析を行った。まず、対数増殖期後期まで増殖させたCYP80A1like発現酵母を集菌した。集菌した酵母をHEPES/NaOHバッファー(pH7.6)に懸濁し、(R,S)-レチクリンを終濃度100μMになるように加えた。菌体反応の時間は30時間、48時間の二点を取った。
【0102】
反応後、酵母を懸濁していたバッファーを解析した結果、反応生成物の生成が確認できた。一方、菌体自体に関しては、MeOHによる抽出などを行ったが反応生成物はほとんど得られなかった。反応生成物の生成が確認された酵母菌体反応液は、最終的にSep-Pakでアルカロイドを濃縮し、MeOHで溶出した後、MeOHをとばして乾固させ、DMSOに溶解してLC-NMR用サンプルとした。
LC-NMR条件
分析装置:Varian UNITY-INOVA-500 spectrometer (H-1:500MHz) equipped with a PFG indirect-detection LC-NMR probe with a 60 μL flow-cell (active volume)
カラム: TSKgelODS-80TM(4.6x250mm)(Tosoh)
溶媒:0.1M NH4OAc (0.05% TFA)/acetonitrile (0.05% TFA)
【0103】
CYP80A1likeの反応生成物のNMRの結果と、コリツベリン標品のNMRの結果を比較したところ、CYP80A1likeの反応生成物はコリツベリンであると同定された。なお、コリツベリン標品は市販の(+)-イソコリジン(Aldrich)1,2,10-OMe体をHBrで酸分解し、フェノール性アルカロイド混合物より分取した。
【0104】
本発明のCYP80A1likeは、レチクリンを基質としてコリツベリンを生成することが判明した。コリツベリンはマグノフロリンの前駆体であり、コリツベリンにコクラウリン-N-メチル化酵素(CNMT)を作用させることにより、マグノフロリンを生ずると推測される。したがって、次に、レチクリンを基質としてCYP80A1likeとCNMTとを作用させることによりマグノフロリンが生成するかどうかを確認した。
【0105】
具体的には、レチクリンを基質としてCYP80A1like反応を行った後に生じた反応生成物を基質として、CNMT反応を行った。即ち、CYP80A1likeの反応液に、反応30分を行った後、大腸菌で発現させたCNMT粗酵素とメチル基供与体であるSAM、さらに、酸化防止剤としてアスコルビン酸を加え、さらに反応を行った。その後、TCA沈殿によりタンパク質を除き、上清をLC-MS解析に供した。
【0106】
結果を図5に示す。左側の図は、レチクリンを基質としてCYP80A1like反応を行ったすぐ後、右側の図は、レチクリンを基質としてCYP80A1like反応を行った後に生じた反応生成物を基質として、CNMT反応を行った結果、得られる生成物を示す。レチクリンを基質としてCYP80A1like反応を行った場合、レチクリン(m/z=330)の他に、反応生成物即ちコリツベリン(m/z=328)のピークが観察された。一方、CYP80A1like反応の生成物を基質としてさらにCNMT反応を行った場合、レチクリン(m/z=330)、コリツベリン(m/z=328)の他に、マグノフロリン(m/z=342)のピークが観察された。
【0107】
以上の実験より、本発明によるCYP80A1likeは、レチクリンを基質として、コリツベリンを生成することが判明し、さらに、コリツベリンはCNMTによりマグロフロリンに変換されることが判明した。本発明による反応図を図6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】イソキノリンアルカロイド生合成系に特異的なP450分子種が行う反応を示す図である。
【図2】CYP80A1likeの酵母発現用ベクターpGYR-SpeIへの挿入を示す図である。
【図3】CYP80A1likeを発現する酵母のミクロソーム画分を調製し、レチクリンと反応させた後に得られた反応産物のLC-MS解析の結果を示す図である。
【図4】レチクリンを基質とした際のCYP80A1like反応産物と、マグノフロリン標品のフォトダイオードアレイによる吸収パターンの比較を示す図である。
【図5】レチクリンを基質とした際のCYP80A1like反応産物と、該反応産物を基質とした際のCNMT反応産物を示す図である。
【図6】CYP80A1likeはレチクリンをコリツベリンに変換し、さらにCNMTがコリツベリンをマグノフロリンに変換することを示す模式図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5