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明細書 :塩類含有溶液からのヒスチジン含有ペプチドの回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5150897号 (P5150897)
公開番号 特開2008-179557 (P2008-179557A)
登録日 平成24年12月14日(2012.12.14)
発行日 平成25年2月27日(2013.2.27)
公開日 平成20年8月7日(2008.8.7)
発明の名称または考案の名称 塩類含有溶液からのヒスチジン含有ペプチドの回収方法
国際特許分類 C07K   1/22        (2006.01)
C07K   5/023       (2006.01)
FI C07K 1/22
C07K 5/023
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2007-013766 (P2007-013766)
出願日 平成19年1月24日(2007.1.24)
審査請求日 平成22年1月21日(2010.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】大島 達也
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】清水 晋治
参考文献・文献 Enzyme and microbial technology. 2007 Jan 4, Vol.40, No.2, p.242-248
Biochemistry. 1983, Vol.22, No.7, p.1621-1630
調査した分野 C07K 1/14-1/22
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
スチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液と、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂とを接触させて、ヒスチジン含有ペプチドを該樹脂に吸着させた後、該樹脂からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることを特徴とする、ヒスチジン含有ペプチドの回収方法であって、該ヒスチジン含有ペプチドがアンセリン又はカルノシンである、方法
【請求項2】
第一遷移金属イオンが、銅(II)イオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液と前記キレート樹脂との接触をpH 5~12の条件下で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液の塩濃度が0.001 mM~1000 mMである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、塩類含有溶液からのヒスチジン含有ペプチドの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種食品に含まれるペプチド類には多様な健康機能を有するものが知られる。食品加工廃液などの低品位な廃棄物からこれらの機能性ペプチドを選択的に回収できれば、健康補助食品等の原料として有効に利用できると考えられる。例えば、食肉や魚肉類に含まれるアンセリン、カルノシン等のヒスチジン含有ペプチドには、各種健康機能が報告されている(例えば、特許文献1及び2など)。しかし、食品加工廃液からこれらを回収する場合、液中に含まれる食塩などの塩類や他のアミノ酸・ペプチド類が回収の妨害となり、従来使用されてきたイオン交換法等では分離が困難である。
【0003】
イオン交換樹脂との静電的相互作用(イオン結合)を利用して目的物を回収するイオン交換法は、アミノ酸・ペプチド類の分離回収法として最もよく使用されている方法の1つである。しかしながら、一般的なイオン交換樹脂を用いた場合、酸性度又は塩基性度の類似するアミノ酸同士を分離することは容易ではない上、過剰の塩類(例えば塩化ナトリウム)が共存する場合にはこれらの塩が代わりに樹脂に吸着されてしまうために、目的のペプチド類を吸着回収することが難しく、そのため前処理として脱塩操作を行うことが必須であった(特許文献3)。しかし、食品加工廃液などから目的ペプチドを安価に回収するためには、高コストの脱塩操作を行わずに、過剰の塩類が共存する液から目的ペプチドを直接分離することが望ましい。
【0004】
一方、タンパク質の分離回収法として、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)法が広く知られている(非特許文献1)。このIMAC法は、金属イオンを固相に吸着固定化し、その金属イオンとタンパク質のある種のアミノ酸側鎖との親和性を利用してタンパク質を分離する手法である。His-Tag融合タンパク質をIMAC法により金属イオン(主にNi+)固定化担体に吸着させることにより、組換えタンパク質を分離精製する手法は多く利用されている。
【0005】
また、アミノ酸・タンパク質の混合溶液をIMAC法に供することにより、性質の類似したアミノ酸等(ロイシンとイソロイシンなど)を、金属イオンとの親和性の差を利用して相互に分離する方法も知られている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら特定のペプチド種を高塩濃度の溶液から高効率で回収する方法については十分な開発は進んでいない。
【0007】

【特許文献1】特表平11-505540号公報
【特許文献2】特開2004-359663号公報
【特許文献3】特公平6-93827号公報
【特許文献4】特開平5-58972号公報
【非特許文献1】Porath et al., Nature 258, (1975) p.598-599
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、塩類含有溶液からのヒスチジン含有ペプチドの効率的な回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂を用いたアフィニティー精製法により、塩存在下でもヒスチジン含有ペプチドを効率よく簡便に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下を包含する。
【0010】
本発明は、ヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液と、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂とを接触させて、ヒスチジン含有ペプチドを該樹脂に吸着させた後、該樹脂からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることを特徴とする、ヒスチジン含有ペプチドの回収方法に関する。
【0011】
この方法においては、第一遷移金属イオンは、銅(II)イオンであることが好ましい。
またこの方法では、前記水溶液と前記キレート樹脂との接触をpH 5~12の条件下で行うことが好適である。
【0012】
この方法では、ヒスチジン含有ペプチドは好適にはアンセリン又はカルノシンでありうる。さらに本方法では、前記水溶液の塩濃度が0.001 mM~1000 mMであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のヒスチジン含有ペプチドの回収方法によれば、塩存在下でも、ヒスチジン含有ペプチドを高効率かつ簡便に分離回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液(食品加工廃液など)を、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂に接触させることにより、ヒスチジン含有ペプチドを該樹脂に吸着させた後、該樹脂からヒスチジン含有ペプチドを溶離させることによって、ヒスチジン含有ペプチドを効率よく回収する方法を提供する。
【0015】
本発明に係る「ヒスチジン含有ペプチド」とは、アミノ酸の1種であるヒスチジン(L体若しくはD体)、又は修飾アミノ酸などのそれらのアミノ酸誘導体(例えば、メチルヒスチジン)をそのペプチド配列中に少なくとも1個含有するペプチドをいう。本発明において特に好ましいヒスチジン含有ペプチドは、ヒスチジン及び/又はメチルヒスチジンを少なくとも1個、その配列中に含有するペプチドである。ここで本発明におけるペプチドとはペプチド結合によって結合した2個以上のアミノ酸を含むものをいい、主としてアミノ酸長が2~20個のペプチド、特にオリゴペプチド(2~10個のアミノ酸長を有するペプチド)を指す。本発明のヒスチジン含有ペプチドを構成するアミノ酸は、L-アミノ酸であってもD-アミノ酸であってもよいし、タンパク質構成アミノ酸であってもそれ以外のアミノ酸であってもよい。本発明のヒスチジン含有ペプチドを構成するアミノ酸は、さらに、修飾アミノ酸(例えばメチル化、アセチル化、リン酸化、グリコシル化、ユビキチン化、ヒドロキシル化などの、翻訳後修飾を受けたアミノ酸)、及びその他のアミノ酸誘導体(例えば、アミノ基、カルボキシル基、又は側鎖の官能基を保護基で保護したものや標識物質を付加したもの、環状化したものなど)を包含する天然若しくは非天然アミノ酸誘導体であってもよい。本発明に係るヒスチジン含有ペプチドは、限定するものではないが、2個~5個のアミノ酸長のオリゴペプチドであることが好ましく、ジペプチドであることがさらに好ましい。本発明に係るヒスチジン含有ペプチドとしては、ヒスチジン又はメチルヒスチジン1個とそれ以外のアミノ酸1個とからなるジペプチドがより好ましく、具体的には例えば、カルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン)、アンセリン(β-アラニル-1-メチルヒスチジン)、ホモカルノシン(γ-アミノブチリル-L-ヒスチジン)、オフィジン(β-アラニル-L-3-メチルヒスチジン)などが挙げられるが、本発明では、特にカルノシン及びアンセリンが好ましい。これらペプチドは、動物肉、魚肉等に含まれており、そこから抽出することができるが、当業者に公知のペプチド合成法によって製造することもできる。例えば、限定するものではないが、化学的若しくは酵素的切断法、化学合成法(液相法、固相法、カラム法及びバッチ法等)、クロマトグラフィー法による精製抽出法等を利用してペプチドを製造することができる。ペプチド合成法の詳細は、例えば"The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology", Vol. 1~5, E. Gross, J. Meienhofer編; Vol.6~9, S. Udenfriend, J. Meienhofer, Academic Press, New York (1979~1987)、「ペプチド合成の基礎と実験」(泉屋信夫ら著, 丸善(株)(1985))等に記載されている。
【0016】
本発明の方法によれば、ヒスチジン含有ペプチドと塩とが共存する溶液中から、ヒスチジン含有ペプチドを効率よく回収することができる。この塩は、任意の塩でありうるが、金属塩であることが好ましく、ナトリウム塩であることがより好ましい。本発明の好適な実施形態では、塩は塩化ナトリウム(NaCl)である。
【0017】
本発明の方法に供する原料である「ヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液」は、そのような塩とヒスチジン含有ペプチドとを少なくとも含有する水溶液である。この水溶液の塩濃度は特に限定されないが、好ましくは0.001 mM~1000 mM、より好ましくは50 mM~1000 mM、さらに好ましくは100 mM~500 mMでありうる。この水溶液は、ヒスチジン含有ペプチド及び塩以外に、他の成分(好ましくは、各種アミノ酸又はペプチド)を含んでもよい。特に、ヒスチジン含有ペプチド及び塩に加えて他の各種アミノ酸及び/又はペプチドを含有する混合水溶液は、本発明において好適な供試原料として使用できる。
【0018】
このようなヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液は、特に限定されないが、例えば、食肉や魚肉類などの食品からの水性抽出物や、食品加工廃液などであってもよい。具体的には、例えば、ちりめん煮汁、カツオだし、カツオ煮汁、マグロ煮汁、チキンスープ、チキンエキス、ビーフスープ、ビーフエキスなどの例が挙げられる。
【0019】
本発明の方法では、上記のヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液を、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂に接触させることにより、ヒスチジン含有ペプチドを該樹脂に吸着させる。ここでイミノ二酢酸型キレート樹脂とは、イミノ二酢酸基をキレート基として担体に結合させたキレート樹脂である。イミノ二酢酸型キレート樹脂に結合されたイミノ二酢酸基と金属イオンとが配位結合し、錯体形成することによって、その金属イオンは該樹脂に固定化される。本発明で用いるイミノ二酢酸型キレート樹脂の基体、形状、製造方法などは特に限定されず、キレート樹脂の製造に通常利用される任意のものを使用することができる。本発明のイミノ二酢酸型キレート樹脂は、例えば任意の基本樹脂に基づくものであってよく、例えばフェノール系、スチレン系、アクリル系、エポキシ系などの架橋体を基体(担体)とするものでありうる。本発明のイミノ二酢酸型キレート樹脂は、架橋ポリスチレン基体を基本樹脂として用いたものであることがより好ましい。このようなイミノ二酢酸型キレート樹脂は、公知の方法によって製造することもできるし(例えば、Hutchens,T.W. et al., J. Chromatogr., 536, 1-15 (1991)、特開平02-187143号などに記載の方法)、市販品を使用することもできる。本発明において好適に使用できる市販のイミノ二酢酸型キレート樹脂としては、例えば、三菱化学ダイヤイオン(R)CR-11(三菱化学)、ランクセス(株)レバチット(R)TP207、レバチット(R)モノポラスTP208が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明のイミノ二酢酸型キレート樹脂に固定化する第一遷移金属イオンとしては、銅(II)イオン、ニッケル(II)イオン、コバルト(II)イオン、亜鉛(II)イオンなどが挙げられるが、銅(II)イオンが特に好ましい。
【0021】
本発明に係る銅(II)イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂、特に、架橋ポリスチレン基体に基づく当該キレート樹脂は、広いpH範囲において、高塩濃度下でも塩非存在下でも、ヒスチジン含有ペプチドに対してかなり良好な吸着性と溶離剤による脱離性とを有するため、本発明の方法において、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂としてより好適に使用することができる。
【0022】
第一遷移金属イオンのイミノ二酢酸型キレート樹脂への固定化は、公知の方法に従って行えばよい。例えば、あらかじめイミノ二酢酸型キレート樹脂を充填したカラムに当該金属イオンの水溶液を通液させるか、あるいは当該金属イオンの水溶液に樹脂を添加して所定時間撹拌し、ろ過後、乾燥させる方法などを用いることができる。具体的な手順は、後述の実施例を参照することができる。イミノ二酢酸型キレート樹脂に固定化(吸着)される金属イオンの量は、特に限定されないが、例えば0.1~2.0 mmol/g、より好ましくは1.0~2.0 mmol/g程度である。
【0023】
このようにして製造した第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂を、次に、上記のヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液と接触させる。これは例えば、ヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液中に、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂を添加し、一定時間振とうすることにより、達成することができる。具体的な手順については後述の実施例を参照すればよい。
【0024】
ヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液と、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂との接触は、より好適な条件下で行うことが好ましい。例えば、当該水溶液とキレート樹脂との接触は、限定するものではないが、好ましくはpH 5~12、さらに好ましくはpH 7~10の条件下で行うことにより、ヒスチジン含有ペプチドの吸着選択性をより高めることができる。また温度条件は、特に限定されないが、好ましくは10℃~40℃、より好ましくは25℃~35℃、さらに好適には30℃とすればよい。
【0025】
以上のようにしてヒスチジン含有ペプチド及び塩を含む水溶液と、第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂とを接触させることにより、該ヒスチジン含有ペプチドを、第一遷移金属イオンとの配位結合を介して該樹脂に吸着させることができる。なお、本明細書において「吸着」及び「担持」とは、目的物質が樹脂に結合して保持されることを意味し、配位結合(錯体形成)による樹脂への結合(固定化)に加えて、静電的相互作用による樹脂への緩やかな結合も包含する。
【0026】
第一遷移金属イオンを固定化したイミノ二酢酸型キレート樹脂に吸着させたヒスチジン含有ペプチドは、次に、該樹脂から溶離させることが好ましい。このキレート樹脂からの吸着物質の溶離は、例えば、公知の溶離剤を用いて行うことができる。より具体的には、ヒスチジン含有ペプチドを吸着させた上記樹脂に、適切な溶離剤の水溶液を添加し、混合することにより、当該樹脂からヒスチジン含有ペプチドを脱着させ、水溶液中に溶出させることができる。この溶離剤として、限定するものではないが、例えばクエン酸をはじめとする酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、イミダゾール、ヒスチジンなどを使用することにより、当該樹脂からヒスチジン含有ペプチドを容易に脱着(溶離)させることができる。
【0027】
このようにして溶離したヒスチジン含有ペプチドと樹脂とを含む混合物は、さらにろ過して樹脂を除去し、ろ液を採取することにより、ヒスチジン含有ペプチドが単離又は濃縮された水溶液を取得することができる。上記混合物又はそこから採取したヒスチジン含有ペプチドが単離又は濃縮された水溶液は、クロマトグラフィー法などの他の公知のペプチド精製技術に供することにより、ヒスチジン含有ペプチドをさらに分離精製してもよい。
【0028】
本発明では、上記に従ってヒスチジン含有ペプチドを単離、分離、濃縮、部分精製、又は精製することにより、任意の水溶液、特に塩が共存する水溶液から、ヒスチジン含有ペプチドを高効率に回収することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1] 銅担持樹脂の調製
1.銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)の調製
濃度5.0 mM(mmol/L)のHEPESバッファー及び希塩酸を用いてpH 4.3にpH調整した濃度10.0 mMのCu(NO3)2水溶液を調製した。このCu(NO3)2水溶液1.0 Lに対してコンディショニング済みのイミノ二酢酸型キレート樹脂(以下、IDA樹脂と略記)である三菱化学ダイヤイオン(R)CR-11を5.0g加え、それを撹拌速度150 rpmで20時間撹拌した。そしてこの混合物をろ過し、回収した樹脂を60℃設定の乾燥機を用いて乾燥して、銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(以下、Cu-IDA樹脂と略記)を得た。銅(II)イオンを吸着担持することにより、白色のIDA樹脂は青色(Cu-IDA樹脂)に変化した。また、ろ液中の銅(II)イオンの減少量を測定し、それを樹脂への銅(II)イオンの吸着量とした。ここで算出された銅(II)イオンの樹脂への吸着量は、数回の試験で1.1~1.3 mmol/gの範囲であった。
【0031】
2.各種銅担持樹脂の調製
各種イオン交換樹脂について、以下の通り銅担持樹脂を調製した。
使用したイオン交換樹脂は、多孔性架橋ポリスチレン基体に基づくイミノ二酢酸型キレート樹脂(IDA樹脂)である三菱化学ダイヤイオン(R)CR-11、強酸性陽イオン交換樹脂である三菱化学製ダイヤイオン(R)SK1B(以下、SK1Bと略記)、弱酸性陽イオン交換樹脂である三菱化学ダイヤイオン(R)WK10(以下、WK10と略記)、アミノメチルホスホン酸型キレート樹脂(以下、AMP樹脂と略記)であるランクセス製レバチット(R)TP260である。CR-11(IDA樹脂)、SK1B、WK10、TP260(AMP樹脂)の4種類のイオン交換樹脂の基礎骨格の構造は表1の通りである。
【0032】
【表1】
JP0005150897B2_000002t.gif

【0033】
銅担持樹脂の調製においては、まず、濃度10.0 mMのCu(NO3)2水溶液を、基本的に上記1と同様にして調製した。但しその初期pHはIDA樹脂、SK1B、AMP樹脂の各樹脂用にはpH 4.3、WK10樹脂用にはpH 6.0に調整した。このCu(NO3)2水溶液1.0 Lに対してコンディショニング済みのイオン交換樹脂(IDA樹脂、SK1B、WK10、AMP樹脂のいずれか)5.0gを加え、その混合液を撹拌速度150 rpmで20時間撹拌し、次いで回収した樹脂を乾燥させて、銅担持樹脂を得た。作製された銅担持樹脂を、それぞれCu-IDA、Cu-SK1B、Cu-WK10、Cu-AMPと名付けた。銅(II)イオンを吸着担持することにより、それぞれの樹脂はより青みを帯びた色に変化した。なおイミノ二酢酸型キレート樹脂(IDA樹脂)を用いて作製された銅担持樹脂Cu-IDAにおいては、樹脂に共有結合されたキレート基であるイミノ二酢酸に銅(II)イオンが配位結合(錯体形成)し、固定化されているものと考えられた。
【0034】
さらに、ろ液中の銅(II)イオンの減少量を測定し、それを銅(II)イオンの樹脂への吸着量とした。この算出結果を表2にまとめた。この実施例で作製した銅担持樹脂では、銅(II)イオンの吸着は飽和には達していないと考えられた。
【0035】
【表2】
JP0005150897B2_000003t.gif

【0036】
[実施例2] 銅担持樹脂によるペプチド吸着試験
1.銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)によるアンセリン・カルノシンの吸着(塩非存在下)
10 mMのHEPESバッファー及び少量の希塩酸若しくは水酸化ナトリウムを用いてpH 2~12にpH調整した濃度0.25 mMのアンセリン水溶液又はカルノシン水溶液を調製した。この水溶液15cm3に、上記IDA樹脂又は実施例1で調製したCu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、アンセリン又はカルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0037】
結果を図1に示した。図1中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのアンセリン/カルノシンの吸着率を表す。IDA樹脂(銅イオンを担持していない)は、弱酸性条件下でアンセリン及びカルノシンを吸着したが、中性~アルカリ性のpH条件下では吸着率が著しく減少した。一方、Cu-IDA樹脂(銅イオンを担持)では、pH 7での吸着率はいずれも70%以上であり、さらに、IDA樹脂への吸着が認められない強アルカリ性条件下(pH 10以上)でもアンセリン及びカルノシンを吸着することができた。
【0038】
このようにCu-IDA樹脂は、IDA樹脂で吸着が認められないアルカリ性条件下でも、アンセリンやカルノシンを吸着することができた。これは、アンセリンやカルノシン(いずれもヒスチジン含有ジペプチドである)が銅(II)イオンへの配位結合によりCu-IDA樹脂に吸着されているためと考えられる。
【0039】
2.銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)によるアンセリン・カルノシンの吸着(塩存在下)
10 mMのHEPESバッファー、及び少量の希塩酸若しくは水酸化ナトリウムを用いてpH 2~12にpH調整した濃度0.25 mMのアンセリン水溶液又はカルノシン水溶液を調製した。この調製の際、併せて塩化ナトリウム(NaCl)を濃度100 mM(0.58%)になるように各水溶液に加えた。
【0040】
得られたアンセリン水溶液又はカルノシン水溶液 15cm3に、上記IDA樹脂又は実施例1で調製したCu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、アンセリン又はカルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0041】
結果を図2に示した。図2中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのアンセリン/カルノシンの吸着率を表す。IDA樹脂は、100 mMの塩化ナトリウムが共存すると、いずれのpH条件でもアンセリンもカルノシンもほとんど吸着しなかった。一方、Cu-IDA樹脂は、塩化ナトリウムが共存しても広いpH範囲でアンセリン及びカルノシンを吸着することができ、特に中性~アルカリ性のpH条件下での吸着率は高いレベルに維持された。
【0042】
このことからCu-IDA樹脂が、塩類存在下でも広いpH範囲でアンセリンやカルノシンを吸着回収できることが示された。銅(II)イオンへの配位結合によるアンセリンやカルノシンのCu-IDA樹脂への吸着は、ナトリウムイオンによる吸着阻害を受けにくいために、塩存在下でも吸着能力が維持されるものと考えられる。
【0043】
3.各種銅担持樹脂によるカルノシンの吸着
10 mMのHEPESバッファー、10 mMの希塩酸、及び10 mMの水酸化ナトリウムを用いてpH 2~12にpH調整した濃度0.25 mMのカルノシン水溶液を調製した。また塩含有サンプルとして、そのカルノシン水溶液に塩化ナトリウム(NaCl)を濃度100 mM(0.58%)になるように含有させた溶液も、別途調製した。
【0044】
このカルノシン水溶液(NaCl含有溶液、又はNaCl不含溶液)15cm3に、上記樹脂SK1B、WK10、AMP、Cu-SK1B、Cu-WK10、及びCu-AMPのいずれかを30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後混合物をろ過し、ろ液中のpH、カルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0045】
図3にAMP樹脂及びCu-AMP樹脂によるカルノシン吸着(塩非存在下)の結果を示した。図3中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのカルノシンの吸着率を表す。AMP樹脂はカルノシンに対する高い吸着性を示したが、Cu-AMP樹脂では吸着率の減少が認められた。これは吸着された銅(II)イオンがAMP樹脂へのカルノシンの吸着を阻害していることによるものと考えられる。
【0046】
4.各種銅担持樹脂によるカルノシン吸着のpH依存性の比較
以上のカルノシン吸着実験の結果に基づき、カルノシン吸着のpH依存性を樹脂間で比較した。
樹脂SK1B、WK10、IDA樹脂による各pH条件下でのカルノシン吸着率について、図4AにNaCl非存在下での結果を、図4Bに100 mM(0.58%)NaCl存在下での結果を示す。横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのカルノシンの吸着率を表す。
【0047】
図4Aに示されるように、NaCl非存在下では、陽イオン交換樹脂であるSK1B、WK10、IDA樹脂はいずれも中性(pH7.0)付近でカルノシンを吸着することができ、吸着性はSK1B>IDA樹脂>WK10の序列となった。しかし図4Bに示されるように、100 mM(0.58%)NaCl存在下では、どのpH条件でもいずれの樹脂もカルノシンをほとんど吸着できなかった。陽イオン交換樹脂は静電的相互作用によってペプチドを吸着することから、ナトリウムイオン(Na+)がペプチドに対して過剰に存在(この場合400倍)した本実験では、ナトリウムイオンによる競合阻害が生じて陽イオン交換樹脂へのペプチド吸着が阻害された結果、カルノシン吸着が妨げられたものと考えられた。従って、イオン交換樹脂をそのまま用いてカルノシンを吸着させる場合には、前処理として脱塩操作が不可欠と考えられた。
【0048】
さらに、上述の銅担持樹脂Cu-SK1B、Cu-WK10、Cu-IDAによる各pH条件下でのカルノシン吸着率について、図4CにNaCl非存在下での結果を、図4Dに100 mM(0.58%)NaCl存在下での結果を示す。横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのカルノシンの吸着率を表す。
【0049】
図4C及びDに示す通り、Cu-SK1B、Cu-WK10、Cu-IDA樹脂は、塩存在下及び塩非存在下の両方で、広いpH範囲、特に弱酸性~アルカリ性pH条件で、カルノシンを吸着することができた。
【0050】
NaCl非存在下では、銅担持樹脂(Cu-SK1B、Cu-WK10、Cu-IDA;図4C)では、いずれもSK1B、WK10、IDA樹脂(図4A)と比較してカルノシン吸着率が高くなり、特に中性~アルカリ性のpH条件においてその吸着率が大きく増加した。従って、銅担持樹脂を用いた場合には、通常のイオン交換反応による吸着に加えて銅(II)イオンへの配位結合によってカルノシンが吸着されたと考えられた。特に中性~アルカリ性条件では銅(II)イオンの寄与が大きいと考えられた。
【0051】
一方、銅担持樹脂は、100 mM(0.58%)NaCl存在下(図4D)ではNaCl非存在下(図4C)と比較して吸着率が多少減少したものの、カルノシン吸着能は保持しており、銅(II)イオンを担持していない樹脂で認められたような大きな減少(図4B)は認められなかった。個々の銅担持樹脂に着目すると、Cu-SK1Bは、NaCl非存在下と比べて、NaCl存在下における吸着率の減少が比較的大きかった。これはスルホン酸系の強酸性陽イオン交換樹脂であるSK1Bではナトリウムイオン吸着性が比較的高いためと考えられた。これに対してCu-WK10、Cu-IDA樹脂はNaCl存在下でも高い吸着率を示した。
【0052】
[実施例3] 各種銅担持樹脂からの銅イオンの脱離
上記実施例で用いた各種銅担持樹脂から溶液中への銅イオンの溶出とそのpH依存性を検討した。
まず10 mMのHEPESバッファーを調製し、10 mMの希塩酸、及び10 mMの水酸化ナトリウムを用いてpH 2~12にpH調整した。この水溶液に、上記の銅担持樹脂(表2)を20mg秤量して混合し、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0053】
この結果を図5に示す。図5中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中に溶出した銅(II)イオンの濃度(単位:ppm)を表す。
【0054】
図5に示されるように、中性~アルカリ性のpH条件では、いずれの樹脂からもほとんど銅(II)イオンは溶出しなかった。一方、どの樹脂でも、pH 6以下の弱酸性条件では銅(II)イオンが少しずつ溶出し、pHが低くなるほど溶出濃度は大きくなった。樹脂からの銅(II)イオンの溶出しにくさはCu-IDA>Cu-SK1B>Cu-AMP>Cu-WK10となり、IDA樹脂が最も安定に銅(II)イオンを担持することができた。一方、WK10はカルノシン吸着能は高かったが、銅(II)イオンが比較的溶出しやすいことが示された。
【0055】
この結果から、Cu-IDA樹脂は、銅(II)イオンが溶出しにくく、特に優れた銅担持樹脂として使用できることが示された。
【0056】
[実施例4] 銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)による各種アミノ酸及びペプチドの吸着(単独系・塩非存在下)
10 mMのHEPESバッファー、及び少量の希塩酸若しくは水酸化ナトリウムを用いてpH 2~12にpH調整した濃度0.25 mMのアミノ酸又はペプチド(グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)、フェニルアラニン(Phe)、ヒスチジン(His)、カルノシン(Car)、アンセリン(Ans)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)のいずれか)の水溶液を調製した。
【0057】
これら各水溶液15cm3に、吸着剤としてCu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後混合物をろ過し、ろ液中のpH、アミノ酸又はペプチド濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0058】
図6Aに、中性条件下(pH 7.29~7.42)における塩非存在下でのCu-IDA樹脂への各種アミノ酸・ペプチドの吸着率を示す。図6Aに示されるように、Cu-IDA樹脂はヒスチジン、及びヒスチジン含有ペプチドであるカルノシン、アンセリンに対して高い吸着性を示すことが示された。また図6Bには、各pH条件下での各種アミノ酸・ペプチド吸着率を示す。図6B中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのアミノ酸・ペプチドの吸着率を表す。
【0059】
この結果、多くのアミノ酸はpHが高いほど吸着率が減少する傾向にあるが、ヒスチジンとヒスチジン含有ペプチドはアルカリ性条件でもCu-IDA樹脂に比較的よく吸着された。特にヒスチジンは、アルカリ性pH条件下でも80%以上という高い吸着率を示した。
【0060】
このようにCu-IDA樹脂は、ヒスチジン及びヒスチジン含有ペプチドを選択的に吸着できることが示された。これは、アルカリ性条件で負に帯電したアミノ酸・ペプチド類はIDA樹脂の負電荷と静電的に反発することにより吸着率が減少したのに対し、ヒスチジンの多くは銅(II)イオンへの配位結合によって吸着されたために吸着率がほとんど減少しなかったものと考えられた。
【0061】
[実施例5] 銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)による各種アミノ酸及びペプチドの吸着(単独系・塩存在下)
10 mMのHEPESバッファー、及び少量の希塩酸若しくは水酸化ナトリウムを用いてpH 2~12にpH調整した濃度0.25 mMのアミノ酸又はペプチド(グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)、フェニルアラニン(Phe)、ヒスチジン(His)、カルノシン(Car)、アンセリン(Ans)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)のいずれか)の水溶液を調製した。この調製の際、併せて塩化ナトリウム(NaCl)を濃度100 mM(0.58%)になるように各水溶液に加えた。
【0062】
これら各水溶液15cm3に、吸着剤としてCu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後混合物をろ過し、ろ液中のpH、アミノ酸又はペプチド濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0063】
図7Aに、中性条件下(pH 7.02~7.18)における100 mMのNaCl存在下でのCu-IDA樹脂への各種アミノ酸・ペプチドの吸着率を、図6AのNaCl非存在下での結果(pH 7.29~7.42)と併せて示す。図7Aに示されるように、NaCl存在下でのCu-IDA樹脂への吸着率の序列は最も高いものからHis、Car、Ansの順となり、ヒスチジン及びヒスチジン含有ペプチドが選択的に吸着された。なお塩基性アミノ酸であるArgはNaCl非存在下では40%近く吸着されていたが、NaCl存在下ではほとんど吸着されなくなったことから、ArgのCu-IDA樹脂への吸着はNaClの存在によって著しく阻害されると考えられる。一方で、Cys、Met、Pheの吸着率はNaCl存在下の方が高かった。
【0064】
図7Bに、100 mMのNaCl存在下での各pHにおける各種アミノ酸・ペプチドの吸着率を示す。ヒスチジン、カルノシン、アンセリンは、100 mMのNaCl存在下でも、広いpH範囲で50%を超える吸着率を示した。このことから、Cu-IDA樹脂は、塩類を含む条件においてもヒスチジン及びヒスチジン含有ペプチドを広いpH範囲で他のアミノ酸よりも選択的に吸着することが示された。
【0065】
[実施例6] 銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)による各種アミノ酸の吸着(混合系)
10 mMのHEPESバッファー及び10 mMの水酸化ナトリウムを用いて初期pHをpH 8.0に調整したアミノ酸及びペプチドの混合水溶液を調製した。この混合水溶液には、アスパラギン酸(Asp)、スレオニン (Thr)、セリン(Ser)、グルタミン酸(Glu)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、ヒスチジン(His)、カルノシン(Car)、アンセリン(Ans)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)の19種類のアミノ酸・ペプチドをそれぞれ濃度0.10 mMで含有させた。この調製に使用したアミノ酸の原液は、Wako製のアミノ酸混合標準液(アミノ酸自動分析用、H型)であった。
【0066】
この混合水溶液15cm3に、Cu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、各アミノ酸・ペプチド濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0067】
同様の実験を100 mM(0.58%)の塩化ナトリウム(NaCl)存在下についても行った。
結果を図8に示す。図8中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂への各種アミノ酸・ペプチドの吸着率を表す。
【0068】
19種類のアミノ酸・ペプチドのうち、ヒスチジン、カルノシン、アンセリン及びアルギニンが選択的に吸着された。また、100 mMの塩化ナトリウムが共存してもヒスチジン、カルノシン、アンセリンは吸着された。例外的にシステイン(Cys)はNaCl存在下で吸着率が大きく増加した。この結果から、Cu-IDA樹脂を用いることにより、多種のアミノ酸やペプチドが混在する液からもヒスチジン及びヒスチジン含有ペプチドを選択的に吸着し、他のアミノ酸等から効率よく分離回収できることが示された。
【0069】
[実施例7] 銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)によるカルノシン吸着の塩濃度依存性
10 mMのHEPESバッファー及び10 mMの水酸化ナトリウムを用いて初期pHをpH 8.0にpH調整した濃度0.25 mMのカルノシン水溶液を調製した。この調製の際、併せて塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ濃度0、10、50、100、500、1000 mM(0~5.5%)になるように各水溶液に加えた。
【0070】
得られた各塩濃度のカルノシン水溶液 15cm3に、Cu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、カルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0071】
結果を図9に示した。図9中、横軸は吸着実験後の水溶液(ろ液)のpH値、縦軸は水溶液中から樹脂へのカルノシンの吸着率を表す。図に示されるように、NaCl濃度が0 mMの場合に最大だったカルノシン吸着率(74%)は、NaCl添加量の増加に伴ってある程度減少したが、その後は比較的高い吸着率が維持され、塩化ナトリウム(NaCl)濃度1000 mMの条件下でも吸着率は54%であった。高濃度の塩を含む条件でもCu-IDA樹脂がカルノシンを吸着できることが示された。
【0072】
[実施例8] 銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)へのカルノシンの最大吸着量
10 mMのHEPESバッファー及び10 mMの水酸化ナトリウムを用いてpH 6.0にpH調整した、濃度0.1,0.2,0.25,1.0,2.0,3.0,4.0または6.0 mMのカルノシン水溶液を調製した。
【0073】
得られた各濃度のカルノシン水溶液 15cm3に、Cu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、カルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0074】
得られた結果をCu-IDA樹脂へのカルノシンの吸着等温線として図10に示した。図10中、横軸は平衡到達時の水溶液(ろ液)中のカルノシン濃度(mM)、縦軸は水溶液中から樹脂へのカルノシンの吸着量を表す。図に示されるように、水溶液中のカルノシン濃度が増加するにつれて樹脂への吸着量は増加した。
【0075】
そこでCu-IDA樹脂へのカルノシンの吸着がLangmuir型の化学吸着によって進行していると仮定し、次式で示されるLangmuir単層吸着モデルによる相関を調べた。
【0076】
【数1】
JP0005150897B2_000004t.gif

【0077】
上式に基づいて算出した結果、飽和吸着量(qmax)= 0.45 mmol/g、吸着平衡定数(Ka)= 2.67 dm3/mmolとなった。この飽和吸着量(qmax)は図10に示された最大吸着量とよく一致していた。このことから、Cu-IDA樹脂へのカルノシンの吸着はLangmuir型の化学吸着によって進行したと考えられた。銅(II)イオンへの配位結合による吸着は一般的なイオン交換樹脂による静電的相互作用に基づいた吸着より引力が弱いと考えられるので、吸着平衡定数はそれほど大きくなく、吸着等温線はやや緩やかなカーブを描いていた。使用したCu-IDA樹脂の銅(II)イオン吸着量は1.36 mmol/gであったことから(表2)、樹脂に吸着されている銅(II)イオンの約35%にカルノシンが吸着されたことが分かる。
【0078】
[実施例9] 銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂(Cu-IDA樹脂)に吸着されたカルノシンの脱着
10 mMのHEPESバッファー及び10 mMの水酸化ナトリウムを用いてpH 6.0にpH調整した、濃度0.1 mMのカルノシン水溶液を調製した。このカルノシン水溶液 15cm3に、Cu-IDA樹脂を30mg加え、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうし、Cu-IDA樹脂にカルノシンを吸着させた。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、カルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0079】
さらに、カルノシン吸着操作後のCu-IDA樹脂を回収し、これに溶離剤である0~100 mMのクエン酸、イミノ二酢酸、又はイミダゾールを含む水溶液15 cm3を加えて混合し、温度30℃、振とう速度120 rpmで20時間振とうした。その後この混合物をろ過し、ろ液中のpH、カルノシン濃度、銅(II)イオン濃度を測定した。
【0080】
その結果を図11に示す。図11中、横軸は溶離液(ろ液)中の溶離剤(クエン酸、イミノ二酢酸、又はイミダゾール)濃度(mM)、縦軸は樹脂から溶離液(ろ液)へのカルノシンの脱着率を表す。図に示されるように、溶離剤濃度が上がるにつれて、樹脂からの脱着率は増加した。イミノ二酢酸又はイミダゾールを用いた場合にはカルノシンは100%溶離し、特にイミダゾールを用いたときには比較的低濃度でもカルノシンが樹脂から100%溶離し、銅イオンの溶出も認められなかった。この結果、Cu-IDA樹脂に吸着されたカルノシンを、溶離剤を用いて容易に溶離(脱着)できることが示された。このように、本発明に係るCu-IDA樹脂のような銅担持樹脂は、ヒスチジン含有ペプチドの吸着と脱着の両方を良好に行うことができるため、ヒスチジン含有ペプチドの分離回収用に大変有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のヒスチジン含有ペプチドの回収方法は、例えば、塩分を多く含む食品加工廃液などの廃棄物から、様々な健康促進機能を有することが知られるヒスチジン含有ペプチド(神経細胞の死滅を抑制するカルノシンなど)を高効率かつ簡便に取得するために用いることができる。本発明により、高濃度の塩類および目的外のアミノ酸・ペプチド類が共存する液からヒスチジン含有ペプチドを選択的に吸着することができる。これによって代替法で必要となる脱塩操作等の分離工程を省略し、健康補助食品等の原料として用いるためのヒスチジン含有ペプチドの分離・回収コストを低減することができる。従って本発明の方法は、食品産業での分離工程において有利に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂によるアンセリン・カルノシンの吸着(塩非存在下)を示す図である。
【図2】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂によるアンセリン・カルノシンの吸着(塩存在下)を示す図である。
【図3】AMP樹脂及びCu-AMP樹脂によるカルノシンの吸着(塩非存在下)を示す図である。
【図4】塩存在下及び塩非存在下での各種樹脂によるカルノシン吸着へのpHの影響を比較した図である。図4Aは銅(II)イオンを担持していない陽イオン交換樹脂による塩非存在下でのカルノシン吸着、図4Bは銅(II)イオンを担持していない陽イオン交換樹脂による塩存在下でのカルノシン吸着、図4Cは銅(II)イオンを担持する樹脂による塩非存在下でのカルノシン吸着、図4Dは銅(II)イオンを担持する樹脂による塩存在下でのカルノシン吸着を示す。
【図5】各種銅担持樹脂からの銅(II)イオンの溶出性におけるpHの影響を示す図である。
【図6】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂による塩非存在下での各種アミノ酸・ペプチドの吸着を示す図である。図6Aは中性pH付近での吸着能、図6Bはその吸着へのpHの影響を示す。
【図7】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂による塩存在下での各種アミノ酸・ペプチドの吸着を示す図である。図7Aは中性pH付近での吸着能、図7Bはその吸着へのpHの影響を示す。
【図8】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂による混合系からの各種アミノ酸・ペプチドの吸着を示す図である。
【図9】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂によるカルノシン吸着における塩濃度の影響を示す図である。
【図10】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂によるカルノシン吸着等温線を示す図である。
【図11】銅担持イミノ二酢酸型キレート樹脂に吸着されたカルノシンの脱着を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10