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明細書 :金属ナノワイヤーの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4852751号 (P4852751)
公開番号 特開2007-239055 (P2007-239055A)
登録日 平成23年11月4日(2011.11.4)
発行日 平成24年1月11日(2012.1.11)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 金属ナノワイヤーの製造方法
国際特許分類 B22F   9/24        (2006.01)
B01J  23/66        (2006.01)
B01J  35/02        (2006.01)
FI B22F 9/24 E
B01J 23/66 Z
B01J 35/02 Z
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2006-065015 (P2006-065015)
出願日 平成18年3月10日(2006.3.10)
審査請求日 平成21年2月5日(2009.2.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】君塚 信夫
【氏名】副島 哲朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100087675、【弁理士】、【氏名又は名称】筒井 知
【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査官 【審査官】米田 健志
参考文献・文献 特開昭62-061630(JP,A)
特開2005-060816(JP,A)
特開2005-097718(JP,A)
調査した分野 B22F 9/00~9/30
特許請求の範囲 【請求項1】
光励起状態において、ハロゲン化物イオンより高い電子親和性を示す金属水酸化物イオンを溶解させた水相と、脂溶性有機塩を有機溶媒に溶解させた有機相とから成る水相-有機相の二相構造に当該水相と有機相を攪拌せずに紫外光または可視光を照射する工程を含む金属ナノワイヤーの製造方法であって、
前記金属が金であり、前記金属水酸化物イオンがAu(OH)で表わされ、
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタンまたは四塩化炭素から選ばれ、
前記脂溶性有機塩が、テトラブチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、テトラドデシルアンモニウムの陽イオンと、ヘキサフルオロフォスフェイト、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、過塩素酸イオンの陰イオンとの組み合わせから選ばれることを特徴とする金ナノワイヤーの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直径がナノメートルのオーダーの金属ナノワイヤーは、ナノテクノロジーにおける基幹材料として、微細配線や各種の電子部品等への応用が期待されている。また、金属のナノワイヤーは体積当りの表面積が大きくなるので触媒としてもその性能の顕著な向上が予想される〔例えば、「ナノテクノロジーの全て」川合知二監修、株式会社工業調査会発行(非特許文献1)参照〕。
【0003】
従来より提案されている金属ナノワイヤーの製造方法は、主として、鋳型(テンプレート)法と呼ばれる方法である。すなわち、ポーラスな(多孔質)シリカやアルミナ、界面活性剤、あるいはブロック共重合体をテンプレートとするものであるが、いずれも多数の工程や数~数十時間におよび反応時間を必要とする複雑なものである。また、得られるナノワイヤーは、必ずしも好適な太さと長さを有するものではなかった。例えば、界面活性剤を用いて金のナノワイヤーを合成する方法〔例えば、C.J.Murphy他、J.Phys. Chem. B, 105, 4065 (2001)(非特許文献2)〕では、得られるナノワイヤーは直径15nmでアスペクト比25程度に留まる。また、共重合体を用いる合成〔例えば、J-C. Lee他、Adv. Mater., 16, 459 (2004)(非特許文献3)〕では、アスペクト比の大きい金ナノワイヤーが得られるが直径50nm程度の太いものしか合成できない。
【0004】
鋳型に依らない方法として、金属イオン担持体に電子線を照射して専ら銀を対象とする金属ナノワイヤーを製造する方法も案出されている〔特開2002-67000号公報(特許文献1)〕。しかし、電子線照射は高真空の条件を必要とし操作が複雑であり、且つ、高エネルギー線の使用はコスト的にも不利である。

【非特許文献1】「ナノテクノロジーの全て」川合知二監修、株式会社工業調査会発行
【非特許文献2】C.J.Murphy他、J.Phys. Chem. B, 105, 4065 (2001)
【非特許文献3】J-C. Lee他、Adv. Mater., 16, 459 (2004)
【特許文献1】特開2002-67000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、簡便に且つ低コストで、充分に細くて長い金属ナノワイヤーを製造することのできる新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、検討を重ねた結果、溶液中で弱いエネルギーの光により金属イオンが還元されて金属ナノチューブを生成し得る条件を見出し、本発明を導き出した。
【0007】
かくして、本発明は、光励起状態において、ハロゲン化物イオンより高い電子親和性を示す金属錯体または金属水酸化物イオンを溶解させた水相と、脂溶性有機塩を有機溶媒に溶解させた有機相とから成る水相-有機相の二相構造に紫外光または可視光を照射する工程を含むことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、溶液状態の反応系に、真空条件を必要とせず、室温且つ大気圧条件下で紫外光または可視光を照射するというきわめて簡便で低コストの操作により、金をはじめとする貴金属などの金属のナノワイヤーを得ることができる。得られる金属ナノワイヤーは、きわめて細くて充分に長いナノワイヤーである。例えば、本発明の方法により製造される金ナノワイヤーの最小直径は約7nm、長さは最大数μmに及び、そのアスペクト比は500程度にも達する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の実施の形態を全体的に概示するものである。図に示されるように、本発明は、水相-有機相の二相構造に、室温で大気圧条件下に、紫外光または可視光を照射するというきわめて簡便な方法により実施される。
【0010】
本発明の特徴の一つは、光励起状態において、ハロゲン化物イオンより高い電子親和性を示す金属錯体または金属水酸化物イオンを溶解させた水溶液を水相としていることである。例えば、光非照射下において、Au(OH)の標準電極電位は+0.485Vであり、電子吸引性のハロゲンイオンを配位子とするAuClイオン(標準電極電位、+1.002V)の方が高い電子親和性を有し、還元されやすい〔I.V.Mironiv, L.D.Tsvelodub, Phys. Chem. Soln., 45, 706 (2000)(非特許文献4)〕。一般的に金錯体はAuClイオンとして販売・利用されている。一方、このハロゲン化物イオンの形のままでは非常に安定であり、この水溶液で『Mn+(金属イオン)+e(電子)→M(固体金属)』の反応を進めるためにはガンマ線(紫外線の4倍以上の強い放射線)や、Nd:YAGレーザー光の照射などが必要である〔Appl. Phys. Lett., 79, 1528
(2001). Langmuir, 15, 6738 (1999)(非特許文献5)など〕。本発明においては、光励起されたAu(OH)イオンがAuClイオンの光励起状態と比べてより高い反応性を有し、ガンマ線やレーザー、あるいは電子線などを使用しなくても、紫外光・可視光という弱いエネルギーの光で固体金属を得ることができることを見出した。このため、本発明の方法は室温、大気圧条件下で行うことができる。
<nplcit num="4"><text>I.V.Mironiv, L.D.Tsvelodub, Phys.Chem. Soln., 45, 706 (2000)</text></nplcit><nplcit num="5"><text>Appl. Phys. Lett., 79, 1528(2001). Langmuir, 15, 6738 (1999)</text></nplcit>
【0011】
上述の要件を満たすものであれば、本発明の方法が適用される金属(金属イオン)は金に限られないが、特に好ましいのは、貴金属、すなわち、金、銀、銅、および白金族金属である。
金属が金の場合、金属酸化物イオンは下記の式(A)で表わされるもの、またはその混合物である。
【0012】
【化1】
JP0004852751B2_000002t.gif
式中、nは0,1,2または3を表わす。
【0013】
本発明において水相と接触する有機相を構成する有機溶媒は、水と限られた混和性を有し、既述のように水と有機相の二相構造を呈するものである。水よりも比重が大きく且つ無極性の有機溶媒が良好な結果を与えており、この点から、本発明において用いられるのに好ましい有機溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタンおよび四塩化炭素であり、特にクロロホルムが好ましい。
【0014】
本発明において用いられる脂溶性有機塩は、如上の有機溶媒に可溶な塩をさす。本発明で用いられる脂溶性有機塩は、陽イオン部位と陰イオン部位とから成り、その陽イオン(部位)および陰イオン(部位)のいずれか又は双方に炭素原子を含む構造のものが好ましい。陽イオンとしては、1~4個のアルキル基(各アルキル基の炭素数は一般に1~12)をもつアンモニウムイオン、アルキル基(アルキル基の炭素数は一般に1~12)もしくは芳香族置換基を有するホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、キノリニウムイオン、およびそれらの置換体のいずれか、またはそれらの混合物を例示することができる。また、陰イオンとしては、ハロゲンイオン(Cl、Br、I)、ヘキサフルオロフォスフェイト(PF)、テトラフルオロボレート(BF)、テトラフェニルボレート(B(C))およびそれらの類縁体、過塩素酸イオン(ClO)、硫酸イオン(SO2-)、硝酸イオン(NO)、脂肪族もしくは芳香族スルホン酸、カルボン酸のいずれか、またはそれらの混合物を例示することができる。
【0015】
かくして、如上の本発明で用いられる脂溶性有機塩のうち、好ましいのは、テトラアルキルアンモニウム塩であり、テトラブチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、テトラドデシルアンモニウムの陽イオンと、ヘキサフルオロフォスフェイト、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、過塩素酸イオンの陰イオンとの組み合わせから選ばれるものが特に好ましい。その具体例として、テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスフェイト(TBAPF)、テトラブチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(TBABF)、テトラヘキシルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスフェイト(THAPF)、テトラヘキシルアンモニウム・テトラフロオロボレート(THABF)、およびテトラオクチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(TOABF)などを挙げることができる。
【0016】
本発明においては、上記のような脂溶性有機塩を有機溶媒に溶解させた有機相と、金属水酸化物イオンを溶解させた水相とを混合するが攪拌せずに、すなわち、二相が接触した状態で、紫外光または可視光を照射する。照射する時間や光量は、それぞれの系に応じて、試行を繰り返すことにより決定する。例えば、TBAPFのクロロホルム溶液とAu(OH)水溶液を用いた系では、30分間の紫外光照射で金のナノワイヤーを得ることもできる(後述の実施例参照)。短時間で所望の金属ナノワイヤーを得る観点からは、可視光よりも紫外光の方が好ましい。
【0017】
本発明に従えば、紫外光または可視光という弱いエネルギーの光でも金属が還元されて金属のナノワイヤーが得られる機構は未だ充分には解明されていない。従来からのAuClイオンなどの水溶液を用いる還元反応においては、三次元的な反応空間である水中で水分子が強いエネルギーの光で活性化されて生じる電子により金属が還元されることが知られている。これに対して、本発明の方法では、水相と有機相の界面に脂溶性有機塩に濃縮され、その働きにより二次元界面において金属の還元反応が容易に進行するためではないかとも推測される。
【0018】
本発明に従い上述のように光照射して得られた析出物を超純水で充分に洗浄し遠心分離に供することにより所望の金属ナノワイヤーが得られる。得られる金属ナノワイヤーは細く且つアスペクト比が大きく、ナノワイヤーとして優れたものである。例えば、本発明により得られる金ナノワイヤーの最小直径は約7nm、長さは最大数μm、そのアスペクト比は500程度に達する。なお、直径が大きくなると、円筒状あるいは内部に中空を有する線状ナノ構造体も得られる。本発明に関しては、便宜上、このようなナノ構造体も含めてナノワイヤーと呼ぶ。
以下、本発明の特徴を更に具体的に説明するための実施例を示すが、本発明は、これらの実施により制限されるものではない。
【実施例1】
【0019】
金ナノワイヤーの作製
テトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスフェイト(TBAPF)をクロロホルムに溶解して、300mMのTBAPFのクロロホルム溶液を調製した。
一方、原料としてHAuCl・4HO(関東化学(株)より入手)を用い、この水溶液(2.43×10-2M)に1MのNaOH(和光(株)より入手)を添加することにより、Au(OH)水溶液(pH10)を調製した。
既述のTBAPF6のクロロホルム溶液1mLとAu(OH)水溶液1mLを混合し、攪拌せずに、紫外光(用いた装置:ウシオ(株)製UI-501C、波長:300nm以上)を、大気圧下、20℃で光量6.5~7mWcm-2の条件で30分間照射した。得られた析出物について、超純水(MilliQ水)による洗浄を超音波照射(BRANSON社製,2510J-DTH)と遠心分離を用いて行った。
得られた金ナノワイヤーのTEM(透過型電子顕微鏡)写真を図1に示す。図から理解されるように、金ナノワイヤーの最小直径は約7nmであり、長さは数μmに達しているものもある。なお、洗浄した金ナノワイヤーのXPS、FT-IR分析を行った結果、原料である塩化物イオンやTBAPFなどは全く含まれておらず、純度の非常に高いものであることがわかった。また、金ナノワイヤー表面に異種の物質などは吸着していないことも確認された。
【実施例2】
【0020】
金ナノワイヤーの触媒活性テスト
本発明により得られる金属ナノワイヤーの有用性を示す1例として、下記の式(1)で表わされる4-ニトロフェノール還元反応における触媒活性を調べた。
【0021】
【化2】
JP0004852751B2_000003t.gif

【0022】
触媒成分として実施例1に記載の方法で調製した金ナノワイヤーの水分散液を用いた。比較のために、300mMのTBAPFのクロロホルム溶液とAu(OH)水溶液とを事前に1時間攪拌し、TBAPFを水相に抽出させてから光照射することにより作製した金ナノ粒子についても水分散液を調製した。
実験は以下のように行った:1cm長の石英セルを用意し、これに金ナノワイヤー水分散液または金ナノワイヤー水分散液を入れた。次に、石英セルに、2mMの4-ニトロフェノール水溶液(100mMのNaOH含む)を0.1mL加えフロンキャップをして少し振とうした。さらに、石英セルに200mMのNaBHを0.1mL加え、テフロン(登録商標)キャップをして少し振とうした。紫外可視吸収スペクトルの測定を行い、400nmにおける4-ニトロフェノールの極大波長の吸光度の変化から4-ニトロフェノール濃度の経時的変化を求めた。
このようにして実施した活性テストの結果をまとめたグラフを図2に示す。242秒後まで(図2中の縦線Aで示す)の4-ニトロフェノールの減少量から触媒活性の初期反応速度を計算すると、金ナノワイヤー系では577.57μMs-1g-1であるのに対し、金ナノ粒子系では276.44μMs-1g-1であった。金ナノ粒子径では粒子の凝集に因り表面積が低下するのに対して、金ナノワイヤー系ではナノワイヤーが網目構造を形成することにより大きな表面積を呈して高い触媒能を示すと理解される。
【実施例3】
【0023】
金ナノワイヤーによる電極表面積増大
この実施例は、本発明により得られる金属ナノワイヤーの有用性を示す別の1例として、電極表面積を増大させる効果があることを明らかにしたものである。
実施例1に記載の方法により得られた金ナノワイヤーの水分散液1mLを調製し、これを金電極上に滴下し、真空乾燥を行った。このように作製した電極を作用電極として用いて、FeII(CN)/FeIII(CN)のサイクリックボルタモグラム測定を行った。条件などは以下のとおりである:電解質(0.5M NaSO)、反応物(3mM K[Fe(CN)])、走査速度(100mV/sec)、参照電極(Ag/AgCl)、対極(Pt線)。
測定結果のグラフを図3に示す。(1)は金ナノワイヤーをキャストしていない、普通の金電極の結果で、(2)は金ナノワイヤーを電極表面に固定化したときの結果である。グラフ中に示す。それぞれの酸化・還元ピーク電位・電流を表1に示す。
【0024】
【表1】
JP0004852751B2_000004t.gif

【0025】
図3および表1から明らかなように、金ナノワイヤーを金電極表面にキャストして固定させるだけで電解電流が約2倍増加している。Redoxに関与する反応物の濃度は変わらないので、この電流増加は電極の表面増大によるものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の方法により得られる金ナノワイヤーのTEM写真である。
【図2】本発明により得られる金ナノワイヤーを用いたニトロフェノールの還元反応の触媒活性テスト結果を示す。
【図3】本発明により得られる金ナノワイヤーが電極表面を増大させることを明らかにする電気化学テストの結果を示す。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図1】
2