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明細書 :旋毛虫の種特異的抗原、及び該抗原を利用した旋毛虫感染の検査法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4830106号 (P4830106)
公開番号 特開2007-159489 (P2007-159489A)
登録日 平成23年9月30日(2011.9.30)
発行日 平成23年12月7日(2011.12.7)
公開日 平成19年6月28日(2007.6.28)
発明の名称または考案の名称 旋毛虫の種特異的抗原、及び該抗原を利用した旋毛虫感染の検査法
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/04 ZNA
G01N 33/569 A
C07K 14/435
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 25
出願番号 特願2005-360805 (P2005-360805)
出願日 平成17年12月14日(2005.12.14)
審査請求日 平成20年10月30日(2008.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
発明者または考案者 【氏名】長野 功
【氏名】高橋 優三
【氏名】呉 志良
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】北村 悠美子
参考文献・文献 Molecular Immunology,2004年,Vol.41,p.421-433
Molecular and Biochemical Parasitology,1990年,Vol.42,p.165-174
International Journal for Parasitology,2004年,Vol.34,p.491-500
Molecular and Biochemical Parasitology,1995年,Vol.72,p.253
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、旋毛虫感染の検査法:
(1)(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(b)配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(c)配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(d)配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(e)配列番号9のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(g)配列番号13のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(h)配列番号15のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(i)配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、及び
(j)配列番号19のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
からなる群より選択される二以上のポリペプチドと、検体とを接触させるステップ;及び
(2)ステップ(1)の後、前記ポリペプチドに対して特異的に結合した抗体を検出するステップ。
【請求項2】
ステップ(1)において(a)及び(d)のポリペプチドと検体とを接触させることを特徴とする、請求項1に記載の旋毛虫感染の検査法。
【請求項3】
ステップ(1)において(a)、(h)、(i)及び(j)のポリペプチドと検体とを接触させることを特徴とする、請求項1に記載の旋毛虫感染の検査法。
【請求項4】
(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(b)配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(c)配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(d)配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(e)配列番号9のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(g)配列番号13のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(h)配列番号15のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
(i)配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、及び
(j)配列番号19のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は前記アミノ酸配列において全アミノ酸数の1%未満のアミノ酸残基の変異を有するアミノ酸配列からなり、且つ基準の前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体との反応性が、基準の前記ポリペプチドと該抗体との反応性と同じであるポリペプチド、
からなる群より選択される二以上のポリペプチドを含む、旋毛虫感染検査用キット。
【請求項5】
(a)及び(d)のポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項4に記載の旋毛虫感染検査用キット。
【請求項6】
(a)、(h)、(i)及び(j)のポリペプチドを含むことを特徴とする、請求項4に記載の旋毛虫感染検査用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は旋毛虫の種特異的抗原及びそれをコードする核酸に関する。本発明はまた、該種特異的抗原を利用した旋毛虫感染の検査法、旋毛虫感染検査用試薬、及び旋毛虫感染検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
旋毛虫は線虫の一種であり、様々な脊椎動物に感染する。旋毛虫は筋肉組織に寄生し、炎症を引き起こす。ヒトへの感染は、旋毛虫に感染した動物(ブタ等)の肉を十分な加熱処理を経ることなく摂取した場合に生じる。シストの状態で体内に取り込まれた旋毛虫は、成長、増殖し、リンパ管や血管を介して全身に運ばれ、様々な部位の筋肉組織に寄生することになる。
旋毛虫症の主な症状は、筋肉痛、脱力感、発熱、炎症(上瞼の腫れなど)である。これらの症状は、ほとんどの場合、感染後1~2週程度経過したときに現れる。
尚、これまでに、本発明者らの研究グループは旋毛虫Trichinella pseudospiralis(T. pseudospiralis)の53kDa分泌抗原の同定に成功している(非特許文献1)。また、他の種であるTrichinella spiralis(T. spiralis)及びTrichinella britovi(T. britovi)についての53kDa分泌抗原の塩基配列が報告されている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】

【非特許文献1】Int. J. Parasitol., 34, 491-500. 2004
【非特許文献2】Mol. Biochem Parasitol. 42, 165-74. 1990
【非特許文献3】Mol. Immunol. 41, 421-433 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他の寄生虫感染症の場合と異なり、旋毛虫感染症(旋毛虫症)については便の顕微鏡検査では診断ができない。また、症状と好酸球の増加に基づいて初期診断も行われるが、上記の通り筋肉痛などの症状が現れるまでには一定の期間を要すること、及び筋肉痛などの症状及び好酸球の増加は旋毛虫症に限ったものではないことから、このような診断のみでは旋毛虫症の感染の有無を判定できない。
一方、旋毛虫症の診断として、旋毛虫に対する抗体の存在を調べる血清検査法が実施されている。血清検査法は信頼性が高いものの、従来の血清検査法では感染から3週間程度経過した後でなければ抗体の検出ができず、早期診断には適さないものであった。また、従来の血清検査法では、感染した旋毛虫を種のレベルまで決定することはできない。
筋肉の組織の一部を切り取って病理学的に調べる方法もあるが、この検査法は人体への侵襲性が高いという問題点があり、また切り取った組織片に旋毛虫がいるとは限らず、検出率が低いという問題点もある。
そこで本発明は、旋毛虫症の早期診断に有用である、旋毛虫の種特異的抗原を提供することを第一の目的とする。また、旋毛虫の種特異的抗原を利用することによって、早期診断を可能とし且つ感染した旋毛虫を種のレベルまで決定することも可能とする旋毛虫感染の検査法、並びに該検査法に利用される検査用試薬及び検査用キットを提供することを第二の目的とする。尚、感染した旋毛虫を種のレベルまで決定することができれば、種の相違に起因する症状の違いが明確となり、より適切な治療が可能となる。また、疫学的研究に有益な情報も得られる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明者らは旋毛虫の種特異的抗原を検索した。まず、53kDa分泌糖タンパク質に注目し、Trichinella nativa(T. nativa)及びTrichinella papua(T. papua)について当該タンパク質のアミノ酸配列(及びそれをコードする塩基配列)を決定した。続いて、配列決定に成功したこれらのタンパク質と、T. spiralis、T. britovi、及びT. pseudospiralisの53kDa分泌糖タンパク質について組換えタンパク質を合成し、各組換えタンパク質と旋毛虫感染マウスの血清との反応性を調べた。その結果から、旋毛虫の53kDa分泌糖タンパク質が種特異的抗原であることが証明された。また、感染時期の異なるマウスの血清を用いた実験によって、感染後の極めて早い段階で53kDa分泌糖タンパク質と、対応する抗体との反応が認められること(即ち53kDa分泌糖タンパク質に対する抗体の検出が可能であること)が明らかとなった。このように本発明者らは、旋毛虫(T. spiralis、T. pseudospiralis、T. britovi、T. nativaおよびT. papua)から分泌される53kDa分泌糖タンパク質が種特異的抗原であることを見出すとともに、旋毛虫症の検査における当該種特異的抗原の有用性を確認した。本発明者らは更に研究を進め、Trichinella T8、Trichinella T9、Trichinella nelsoni(T. nelsoni)、Trichinella murrelli(T. murrelli)、Trichinella T6についても、上記の通り他の種で見出された種特異的抗原(53kDa分泌糖タンパク質)に対応するタンパク質のアミノ酸配列(及びそれをコードする塩基配列)の決定に成功した。
本発明は主として以上の成果に基づくものであって、以下の旋毛虫の種特異的抗原などを提供する。
[1] (a)配列番号1のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(b)配列番号3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)配列番号5のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(d)配列番号7のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(e)配列番号9のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(f)配列番号11のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び(g)配列番号13のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、からなる群より選択されるポリペプチドからなる、旋毛虫の種特異的抗原。
[2] 配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、又は配列番号14の塩基配列を有する、旋毛虫の種特異的抗原をコードする核酸。
[3] [2]に記載の核酸を保持するベクター。
[4] [2]に記載の核酸を保有する形質転換体。
[5] 以下のステップ(1)及び(2)を含む、旋毛虫感染の検査法:
(1)(a)配列番号1のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(b)配列番号3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)配列番号5のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(d)配列番号7のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(e)配列番号9のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(f)配列番号11のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(g)配列番号13のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(h)配列番号15のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(i)配列番号17のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び(j)配列番号19のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、からなる群より選択される一又は二以上のポリペプチドと、検体とを接触させるステップ;及び
(2)ステップ(1)の後、前記ポリペプチドに対して特異的に結合した抗体を検出するステップ。
[6] ステップ(1)において(a)及び(d)のポリペプチドと検体とを接触させることを特徴とする、[5]に記載の旋毛虫感染の検査法。
[7] ステップ(1)において(a)、(h)、(i)及び(j)のポリペプチドと検体とを接触させることを特徴とする、[5]に記載の旋毛虫感染の検査法。
[8] (a)配列番号1のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(b)配列番号3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)配列番号5のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(d)配列番号7のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(e)配列番号9のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(f)配列番号11のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(g)配列番号13のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(h)配列番号15のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(i)配列番号17のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び(j)配列番号19のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、からなる群より選択されるポリペプチドから本質的に構成される、旋毛虫感染検査用試薬。
[9] (a)配列番号1のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(b)配列番号3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)配列番号5のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(d)配列番号7のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(e)配列番号9のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(f)配列番号11のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(g)配列番号13のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(h)配列番号15のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(i)配列番号17のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び(j)配列番号19のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド、からなる群より選択される一又は二以上のポリペプチドを含む、旋毛虫感染検査用キット。
[10] (a)及び(d)のポリペプチドを含むことを特徴とする、[9]に記載の旋毛虫感染検査用キット。
[11] (a)、(h)、(i)及び(j)のポリペプチドを含むことを特徴とする、[9]に記載の旋毛虫感染検査用キット。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(旋毛虫の種特異的抗原)
本発明の第1の局面は旋毛虫の種特異的抗原(以下、「本発明の抗原」ともいう)に関する。本発明の抗原は、それが天然に由来する場合には、対応する旋毛虫の細胞や組織、或いは体液などから標準的な手法を用いて分離・調製することができる。好ましくは、本明細書が開示する配列情報を参考にして、本発明の抗原を組換えDNA技術を用いて生産する。または、本発明の抗原を化学合成によって生産してもよい。
【0007】
後述の実施例に示すように、本発明者らは各種旋毛虫から種特異的抗原を同定することに成功した。以上の成果に基づいて本発明は、以下の(a)~(j)からなる群より選択されるポリペプチドからなる抗原(旋毛虫の種特異的抗原)を提供する。
(a)配列番号1のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. nativa特異的抗原)
(b)配列番号3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. papua特異的抗原)
(c)配列番号5のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(Trichinella T8特異的抗原)
(d)配列番号7のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(Trichinella T9特異的抗原)
(e)配列番号9のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. nelsoni特異的抗原)
(f)配列番号11のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. murrelli特異的抗原)
(g)配列番号13のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(Trichinella T6特異的抗原)
(h)配列番号15のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. spiralis特異的抗原)
(i)配列番号17のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. britovi特異的抗原)
(j)配列番号19のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(T. pseudospiralis特異的抗原)
これらのポリペプチドはいずれも、旋毛虫の特定の種に特異的な抗原である。従って、これらのポリペプチドは、旋毛虫感染の検査に利用できる(感染の有無、旋毛虫の種の決定)という共通の有用性を備える。本発明の好ましい一態様では、以上の(a)~(g)からなる群より選択されるポリペプチドからなる抗原(旋毛虫の種特異的抗原)が提供される。
尚、説明の便宜上、以下の説明において(a)のポリペプチドを抗原a、(b)のポリペプチドを抗原b、(c)のポリペプチドを抗原c、(d)のポリペプチドを抗原d、(e)のポリペプチドを抗原e、(f)のポリペプチドを抗原f、(g)のポリペプチドを抗原g、(h)のポリペプチドを抗原h、(i)のポリペプチドを抗原i、(j)のポリペプチドを抗原jともいう。
【0008】
ここで、アミノ酸配列に関して使用する用語「実質的に同一」とは、比較される二つのアミノ酸配列間で配列上の相違が比較的小さく、且つ配列上の相違が抗原としての作用・機能に実質的な影響を与えないことを意味する。従って、基準となるアミノ酸配列に対して、抗原としての作用・機能に実質的な影響を与えない範囲で一部の改変を含むとみることができるアミノ酸配列は、実質的に同一なアミノ酸配列である。ここでの「アミノ酸配列の一部の改変」とは、アミノ酸配列を構成する1~数個のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変化が生ずることをいう。アミノ酸配列の変異の位置は特に限定されず、また、複数の位置で変異を生じていてもよい。ここでの複数とは例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。
基準のポリペプチドのアミノ酸配列と、比較されるポリペプチドのアミノ酸配列とが実質的に同一であるか否かは、基準のポリペプチドに対して特異的結合性を有する抗体と、比較されるポリペプチドとの反応性を調べることにより判定できる。当該抗体に対する反応性が、基準のポリペプチドと、比較されるポリペプチドとの間で差がないか又は差が軽微なとき、これら二つのポリペプチド間においてアミノ酸配列の実質的同一性を認めることができる。
【0009】
(旋毛虫の種特異的抗原をコードする核酸)
本発明の第2の局面は、本発明の抗原をコードする核酸に関する。本発明の核酸は、典型的には、本発明の抗原を調製するための材料として用いられる。このように本発明の核酸は、それを利用すれば旋毛虫の種特異的抗原を調製することができるという点において有用である。
本明細書における用語「核酸」は、それを含むことが意図されていないことが明らかな場合を除いて、DNA(cDNA及びゲノムDNAを含む)、RNA(mRNAを含む)、DNA類似体、及びRNA類似体を含む。本発明の核酸の形態は限定されず、即ち1本鎖及び2本鎖のいずれであってもよい。好ましくは2本鎖DNAである。またコドンの縮重も考慮される。即ちポリペプチドをコードする核酸の場合には、その発現産物として当該ポリペプチドが得られる限り任意の塩基配列を有していてよい。
本明細書において「特定の抗原をコードする核酸」とは、それを発現させた場合に当該特定の抗原が得られる核酸のことをいい、当該抗原のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸(例えば1又は複数個のイントロンを含むDNA)をも含む。
【0010】
本発明の核酸は好ましい態様として、配列番号2(T. nativa特異的抗原に対応する)、配列番号4(T. papua特異的抗原に対応する)、配列番号6(Trichinella T8特異的抗原に対応する)、配列番号8(Trichinella T9特異的抗原に対応する)、配列番号10(T. nelsoni特異的抗原に対応する)、配列番号12(T. murrelli特異的抗原に対応する)、又は配列番号14(Trichinella T6特異的抗原に対応する)を有する。
本発明の核酸は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって調製することができる。
例えば、配列番号2の塩基配列を有する本発明の核酸は、当該塩基配列又はその相補配列の全体又は一部をプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用してT. nativaのゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリー、或はT. nativaの核酸抽出物より単離することができる。また、当該塩基配列の一部に特異的にハイブリダイズするようにデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅反応(例えばPCR)を利用してT. nativaのゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリー、或はT. nativaの核酸抽出物より増幅及び単離することができる。尚、オリゴヌクレオチドプライマーは一般に、市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。
【0011】
本発明はさらに、本発明の核酸(本発明の抗原をコードする核酸)を含有するベクターを提供する。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいい、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)を含む。
使用目的(クローニング、ポリペプチドの発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
【0012】
本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
【0013】
宿主細胞としては大腸菌などの細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、ヒト、サル、マウス、ラット等の哺乳類細胞(COS細胞、CHO細胞など)等を挙げることができる。
【0014】
本発明はさらに、本発明の核酸が導入された宿主細胞(即ち形質転換体)を提供する。本発明の形質転換体は、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって得ることができる。トランスフェクション等はリン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann,M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))等によって実施することができる。
【0015】
本発明の形質転換体は、本発明の抗原を生産することに利用することができる。即ち、本発明はさらに、上記形質転換体を用いた本発明の抗原の生産方法を提供する。本発明の生産方法は、上記形質転換体を本発明の抗原が産生される条件下で培養するステップを少なくとも含む。通常はこのステップに加えて、産生されたポリペプチドを回収(分離及び精製)するステップが実施される。
【0016】
(旋毛虫感染の検査法)
前述のように本発明者らは、旋毛虫(T. spiralis、T. pseudospiralis、T. britovi、T. nativaおよびT. papua)から分泌される53kDa分泌糖タンパク質が種特異的抗原であることを見出した。また、T. spiralis、T. pseudospiralis、T. britovi、T. nativaおよびT. papuaの組換えタンパク質を用いた実験において、当該種特異的抗原が旋毛虫の検出及び種の特定において有用であることを証明した。更に、Trichinella T8、Trichinella T9、T. nelsoni、T. murrelli、Trichinella T6についても、上記の通り他の種で見出された種特異的抗原(53kDa分泌糖タンパク質)に対応するタンパク質のアミノ酸配列(及びそれをコードする塩基配列)の決定に成功した。これらの成果に基づいて本発明は第3の局面として旋毛虫感染の検査法を提供する。本発明の検査法では以下のステップ(1)及び(2)が実施される。
(1)(a)配列番号1のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原a)、(b)配列番号3のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原b)、(c)配列番号5のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原c)、(d)配列番号7のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原d)、(e)配列番号9のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原e)、(f)配列番号11のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原f)、(g)配列番号13のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原g)、(h)配列番号15のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原h)、(i)配列番号17のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原i)、及び(j)配列番号19のアミノ酸配列又は該配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(抗原j)、からなる群より選択される一又は二以上のポリペプチドと、検体とを接触させるステップ。
(2)ステップ(1)の後、前記ポリペプチドに対して特異的に結合した抗体を検出するステップ。
【0017】
ステップ(1)において、抗原a~抗原jの任意の組合せの中から選択される一又は二以上のポリペプチドと検体とを接触させることにしてもよい。従って例えば、ステップ(1)において抗原a~抗原gからなる群より選択される一又は二以上のポリペプチドと検体とを接触させる検査法は本発明の一態様である。この態様で使用される抗原はいずれも本発明者らがその同定に初めて成功したものである。
本発明の他の一態様ではステップ(1)において抗原a、抗原b、及び抗原h~抗原jからなる群より選択される一又は二以上のポリペプチドと検体とを接触させる。この態様で使用される抗原はいずれもその組換えタンパク質を用いた実験において種特異的な反応性が認められたものである(後述の実施例を参照)。
本発明のさらに他の一態様ではステップ(1)において抗原a及び抗原bからなる群より選択される一又は二のポリペプチドと検体とを接触される。この態様で使用される抗原a及び抗原bはともに本発明者らが同定に初めて成功したものであり、且つその組換えタンパク質を用いた実験において種特異的な反応性が認められたものである(後述の実施例を参照)。
【0018】
ステップ(1)として例えば、支持体(プレートや膜など)に固定化した抗原に対して検体を接触させる。支持体としてはポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂、ガラス、ニトロセルロース、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等が用いられる。抗原としては、それをコードするcDNAを利用して調製した組換え体(組換えタンパク質)を用いることが好ましい。
【0019】
ステップ(2)では、抗原に対して特異的に結合した抗体を検出する。ステップ(1)の結果、特定の抗原に対する抗体が検体中に存在すれば、抗原と抗体との複合体(免疫複合体)が形成される。ステップ(2)ではこの免疫複合体を検出することになる。免疫複合体の検出は、免疫複合体を標識した後、標識量を測定することによって行うことができる。免疫複合体の標識は、標識物質が結合した抗体(標識抗体)を利用して行うことができる。検査に供する検体の由来に合わせて、ステップ(1)で生じた免疫複合体を認識可能な抗体を標識化したものを標識抗体として用いる。例えば、検体がヒト由来であれば、標識化抗ヒト抗体を標識抗体とする。標識物質には、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン、及び放射性物質などを用いることができる。尚、様々な生物種に対して標識化抗体が市販されており、それらの中から適当なものを選択して使用することができる。
【0020】
検出結果を用いて、特定の抗原に対する抗体が検体中に存在するか否かを判定する。検出された標識量に基づいて検体中の抗体量を評価してもよい。尚、検体についての検出結果を陽性対照(ポジティブコントロール)及び/又は陰性対照(ネガティブコントロール)についての検出結果と対比した上で検体中における抗体の有無を評価することが好ましい。信頼性の高い検出結果が得られるからである。陽性対照としては、検査法に使用する抗原に対して調製したポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体が使用される。他方、陰性対照としては検体の希釈に使用する緩衝液や水などが使用される。
【0021】
以上のアッセイ法に限らず、競合アッセイ法を採用することもできる。競合アッセイ法では、抗原に対して特異的に結合し且つ標識された抗体(特異的標識抗体)を予め用意しておき、抗原と検体とを接触させる際(ステップ(1))に当該特異的標識抗体を競合的に反応させる。抗原に対する抗体が検体中に存在する場合、抗原に結合する特異的標識抗体の量が減少することになる。従って、抗原に結合した特異的標識抗体の量を調べれば、検体中に目的の抗体が存在するか否か(及び目的の抗体の量)を評価することができる。
【0022】
一種類の抗原のみを使用した場合には、当該抗原に対する抗体が検体中に存在するか否かを判定することができる。一方、二種類の抗原を使用すれば、当該二種類の抗原それぞれについて、特異的な抗体が検体中に存在するか否かを調べることができる。このように、使用する抗原の数を多くすれば検出できる抗体の種類も多くなる。つまり、多種類の抗原について特異的抗体の存否を一度に把握することが可能となる。
一般に、感染した旋毛虫の種を決定するためには、使用する抗原の数を多くすることが好ましいといえる。そこで、ステップ(1)において検体との接触に供される抗原の数は好ましくは2以上(2~10)、より好ましくは3以上(3~10)、更に好ましくは4以上(4~10)、更に更に好ましくは5以上(5~10)、より一層好ましくは6以上(6~10)である。
ところで、旋毛虫の種の分布は地域によって異なり、日本には主としてT. nativa及びTrichinella T9が分布し、欧州には主としてT. nativa、T. spiralis、T. britovi、及びT. pseudospiralisが分布する。このような事情を考慮すれば、日本における旋毛虫の感染について本発明の検査法を適用する場合には、検体中におけるT. nativaに対する特異的抗体の存在と、Trichinella T9に対する特異的抗体の存在をみれば非常に高い確率で旋毛虫の検出及び種の決定を行える。従って、当該二つの種に対応する抗原、即ち抗原a及び抗原dをステップ1で使用する検査法は、日本における旋毛虫の感染症を検査する目的において実用的価値が高いといえる。同様の理由からT. nativa、T. spiralis、T. britovi、及びT. pseudospiralisについての種特異的抗原(抗原a、抗原h、抗原i、及び抗原j)をステップ(1)で使用する検査法は、欧州における旋毛虫の感染症を検査する目的において実用的価値が高いといえる。
このように利用目的に合わせて使用する抗原の数を厳選することによって、本発明の検査法の実施に伴う費用の低減化、操作の簡便化などが図られる。尚、通常は検出されないと予想される種についても的確に検出するためには、使用する抗原の種類は多い方が好ましい。また、汎用性を高めるためには使用する抗原の種類は可能な限り多いことが好ましい。この観点より、最も好ましい態様では上記の全ての抗原(抗原a~抗原j、合計10種類)が使用される。
【0023】
本発明では、旋毛虫に感染したか否か(及び感染した旋毛虫の種類)の判定を必要とする対象(検査対象)に由来する検体が使用される。ここでの「対象(検査対象)」はヒト、ブタ、ウマ、およびクマなどの野生動物である。ヒト又は治療対象となり得る非ヒト動物(例えばペット動物)を対象とする場合には、本発明の方法によって得られた情報(旋毛虫の感染の有無及び感染した旋毛虫の種類に関する情報)情報を利用することによって、より適切な治療が可能となる。このように、適切な治療方針の決定を可能とする点において本発明の方法は利用価値が非常に高い。一方、野生動物等に対して本発明の方法を適用して得られた情報は旋毛虫の種の分布を調べることに有用である。このように旋毛虫を対象とした疫学的研究においても本発明の方法は高い利用価値を有する。
【0024】
検体としては、検査対象より採取された体液(血液、リンパ液、髄液等)が用いられる。好ましくは検査対象より採取された血液を分離して得られる血清を検体とする。即ち本発明の好ましい一形態では、特定の抗原に対する抗体が検査対象の血清中に存在するか否かが調べられることになる。血清は調製が容易であるという利点を有する。ところで、他の多くの検査の検体として血清が利用されており、このような検査と同時に本発明の検査法が実施されることも想定される。このような場合、本発明の検査法の検体として血清を採用すれば、本発明の実施のために改めて検体を調製する必要がなくなり、検査対象及び検査する者の負担が軽減し、検査時間の短縮化も図られる。
【0025】
沈降反応や凝集反応を利用することも可能であるが、ウエスタンブロット法やELISA(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assey)法などを利用して本発明の検査法を実施することが好ましい。ウエスタンブロット法は、検出感度が高いこと、特異性が高いこと、及び高度に精製された抗原を必要としないことなどの利点を有する。ウエスタンブロット法を利用する場合の具体的な操作法の一例を以下に示す。まず、大腸菌などを宿主として用い、本発明の抗原を組換えタンパク質として生産する。得られた組換えタンパク質を電気泳動した後、適当な膜(例えばニトロセルロース膜やPVDF膜)への転写操作を行う。このようにして、本発明の抗原(組換えタンパク質)が付着した膜が得られる。複数の抗原が付着した膜を得るためには、各抗原について組換えタンパク質を調製した後、それぞれを異なるレーンで電気泳動し、そして同様の転写操作を行えばよい。このようにして得られた膜では、種類毎に区画された状態で複数の抗原が膜に付着していることになる。
次に、以上のようにして用意した膜に検体を接触させる。この操作の結果、膜に付着した抗原に対する抗体が検体中に存在していれば免疫複合体が形成される。次に、標識化抗体を反応させることで免疫複合体を標識し、標識を指標にして免疫複合体を検出する。標識化抗体としては、検体としてヒト血清が用いられるのであれば、標識物質を結合させた抗ヒト抗体が用いられる。
【0026】
ELISA法は、検出感度が高いこと、特異性が高いこと、定量性に優れること、操作が簡便であること、多検体の同時処理に適することなど、多くの利点を有する。ELISA法を利用する場合の具体的な操作法の一例を以下に示す。まず、ウエスタンブロット法の場合と同様に組換えタンパク質を得る。精製後の組換えタンパク質を不溶性支持体に固定化する。具体的には例えばマイクロプレートの表面を抗原で感作する(コートする)。このように固相化した抗原に対して検体を接触させる。この操作の結果、固相化した抗原に対する抗体が検体中に存在していれば免疫複合体が形成される。次に、酵素を結合させた抗体を添加することで免疫複合体を標識した後、酵素の基質を反応させて発色させる。そして、発色量を指標として免疫複合体を検出する。
尚、ウエスタンブロット法及びELISA法の詳細については数多くの成書や論文に記載されており、各方法の実験手順や実験条件を設定する際にはそれらを参考にできる。
【0027】
(旋毛虫感染検査用試薬)
本発明の更なる局面は旋毛虫感染検査用試薬に関する。本発明の検査用試薬は、本質的には、本発明の抗原a~抗原jのいずれかよりなる。抗原a~抗原jの任意の組合せの中から選択される抗原で本発明の旋毛虫感染検査用試薬を構成してもよい。従って例えば、抗原a~抗原gからなる群より選択される抗原から本質的に構成される旋毛虫感染検査用試薬は本発明の一態様である。
本発明の検査用試薬を用いれば、検体中に存在する対応抗体(即ち、検査用試薬に対して特異的に結合する抗体)を特異的に捕捉することができる。従って、本発明の検査用試薬を予め標識化しておけば、標識量を指標として検体中の対応抗体を検出することができ、そして検出結果を利用して旋毛虫の特定の種についての感染の有無を判定できる。一方、無標識の検査用試薬を使用することにし、併せて、検査用試薬に対して特異的結合性を有する標識体(例えば標識化抗体)を使用することにすれば、検体中に存在する対応抗体に対して間接的に結合した標識の量を指標として、検体中に存在する対応抗体を検出することができる。
【0028】
(旋毛虫感染検査用キット)
本発明の検査法をキット化した試薬等を用いて実施してもよい。本発明の更なる局面はこのような目的に使用される旋毛虫感性検査用キットを提供する。当該キットを用いることによって、本発明の検査法をより簡便に且つより短時間で実施することが可能となる。
本発明のキットには本発明の抗原a~抗原jの中の1種類以上が含まれる。抗原a~抗原jの任意の組合せの中から選択される抗原を使用して本発明の旋毛虫感染検査用キットを構築してもよい。従って例えば、抗原a~抗原gからなる群より選択される一又は二以上の抗原を含む旋毛虫感染検査用キットは本発明の一態様である。この態様で使用される抗原はいずれも本発明者らがその同定に初めて成功したものである。本発明の他の一態様では抗原a、抗原b、及び抗原h~抗原jからなる群より選択される一又は二以上の抗原を含む旋毛虫感染検査用キットが提供される。この態様で使用される抗原はいずれもその組換えタンパク質を用いた実験において種特異的な反応性が認められたものである(後述の実施例を参照)。本発明のさらに他の一態様では抗原a及び抗原bからなる群より選択される一又は二の抗原を含む旋毛虫感染検査用キットが提供される。この態様で使用される抗原a及び抗原bはともに本発明者らが同定に初めて成功したものであり、且つその組換えタンパク質を用いた実験において種特異的な反応性が認められたものである(後述の実施例を参照)。
【0029】
使用する抗原の種類を増やせば検出可能な種の数が増える。従って一般的には、キットに含まれる抗原の種類は多いほどよい。一方、抗原a及び抗原dを含むキットにすれば、日本における旋毛虫の感染を検査するのに適したものとなる。また、抗原a、抗原h、抗原i、及び抗原jを含むキットにすれば、欧州における旋毛虫の感染を検査するのに適したものとなる。
抗原の他、反応用試薬、希釈液、反応容器、標準抗体、標識試薬(例えば標識抗体)、発色試薬などをキットに含めることができる。
本発明のキットは例えばウエスタンブロット法を利用するキット、又はELISA法を利用するキットとして提供される。ELISA法を利用するキットの場合、典型的には、プレート又は膜などの支持体に固定化された状態の抗原(固相化抗原)を含む。複数種類の抗原を使用する場合には、種類毎に区画化された状態で抗原が支持体に固定化されている。例えば、ウェル毎に異なる抗原が固相化されたマイクロプレートが用いられる。
【実施例】
【0030】
1.旋毛虫の排出・分泌産物中のタンパク質の同定
(1)T. nativeの排出・分泌産物中からの種特異的抗原候補の同定
T. nativaの排出・分泌産物の中から、種特異的抗原となり得るタンパク質を同定することを以下の手順で試みた。
(1-1)材料
感染15及び30日後のマウス(中部科学資材)より、ペプシン-HCl消化によってT. nativaの筋肉幼虫を単離した。一方、感染6日後のマウス小腸よりT. nativaの成虫を単離した。また。成虫を培養液(イーグル・MEM)中で3日間培養することにより産出される新生幼虫を単離した。筋肉幼虫、新生幼虫及び成虫の排泄・分泌産物の粗抽出物をそれぞれ常法(Wakelin et al., Immunology 81, 475-479, 1994、Wu et al., Parasitology 116, 61-66, 1998)により調製した。
【0031】
(1-2)T. nativa由来cDNAの調製
筋肉幼虫(感染30日後)より、TRIZOL(インビトロゲン)を用いて全RNAを単離した。操作は取扱説明書に従った。単離した全RNAをDNase(プロメガ)で処理した。続いて、取扱説明書に従い、Ready-To-Go You-Prime First-Strand Beads(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)を用いて、逆転写反応を行った。簡潔に言えば、全RNA 3μgと0.5μg/μlのオリゴ(dT)12-18(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)1μgとをReady-To-Goチューブに入れた後、RNaseフリー水を加えて33μlとした。チューブを37℃で60分間インキュベートした後、90℃で5分間インキュベートした。
【0032】
(1-3)T. nativaの排泄・分泌産物をコードする遺伝子の増幅、及びDNA配列決定
T. spiralisの53kDa糖タンパク質に対応する、T. nativaのタンパク質全長をコードする遺伝子を、BamHI及びEcoRI制限酵素認識部位を付加するプライマーを用いて筋肉幼虫(感染30日後)のcDNAを鋳型としたPCRで増幅した。プライマーの配列を以下に示す。
5'-CGG GAT CCC GAT GTT CAG CAT CAC ATT AAA-3'(配列番号21)
5'-CGG AAT TCC Gga cag att gct taa tga agc-3'(配列番号22)
T. nativaのcDNA 100ng、10×PCRバッファー 10μl、各2.5mMのデオキシヌクレオチド三リン酸4μl、Taqポリメラーゼ(タカラバイオ) 1.5Uを混合してPCR反応液(100μl)とした。増幅反応は35サイクル(各サイクルは、94℃で30秒間の変性、52℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の伸長からなる)行った。精製したPCR増幅産物をBamHI及びEcoRI(いずれもニューイングランド・バイオラブズ)で消化し、生じた断片をpGEM-3Zf(+)ベクター(プロメガ)にクローニングした。配列の決定にはDye Primer Cycle Sequencing Kit(アプライド・バイオシステムズ)及びABI DNA自動シーケンサー373Sを使用した。得られたDNA配列のアッセンブリ及び解析にはDNASISソフトウエア(日立ソフトウエアエンジニアリング)を使用した。その結果、同定したT. nativaのタンパク質とT. spiralisの53kDa糖タンパク質のアミノ酸配列のホモロジーは約90%であり、同定したT. nativaのタンパク質が53kDa糖タンパク質であることが証明された。同定されたタンパク質の推定アミノ酸配列(配列番号1)、及びそれをコードするcDNAの塩基配列(配列番号2)を図1に示す。尚、T. nativaの筋肉幼虫(感染30日後)より調製したゲノムDNAを用いたサザンブロット分析の結果、同定されたタンパク質に対応するほぼ単一のバンドを認めた。
【0033】
(1-4)組換えタンパク質の合成
同定に成功した上記タンパク質について、それをコードするcDNAを以下のプライマーを用いたPCRで発現ベクターpTrcHis(インビトロゲン、米国)に組み込んだ。
5'-CGCGGATCCGCGGTCTACAGACAATGAGAATGCTG-3'(配列番号23)
5'-CGGAATTCCGTTAGAACAACAACTGTAGTTCTG-3'(配列番号24)
次に、発現ベクターを大腸菌DH5α(東洋紡、日本)に導入した。発現ベクターが導入された大腸菌を液体培地で増殖させた後、培地中にIPTG(終濃度1mM)を添加して組換えタンパク質の合成を誘導した(37℃、3時間)。合成された組換えタンパク質(抗原タンパク質)を高純度で回収するために、遠心処理で集菌した後、超音波処理(20mM Tris-HCLバッファー(pH8.0))で菌体を破砕し、そして再び遠心処理して菌体内封入体を回収した。得られた菌体内封入体を尿素処理(20mM Tris-HClバッファー(pH8.0)中6M尿素)により可溶化した後、アフィニティークロマトグラフィーに供し、タンパク質を精製した。アフィニティークロマトグラフィーはHis Trapキット(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)を利用して行い、その操作は取扱説明書に従った。既報の方法に従い段階的希釈法で尿素を除去した後、500mMのイミダゾールで組換えタンパク質を溶出した。続いてイミダゾールをPD-10カラム(アマシャム・ファルマシア・バイオテック)で除去した。純度の確認のために、最終的に得られたサンプルをSDS-PAGEで分析した。
【0034】
(1-5)ウエスタンブロット分析
まず、上記の方法で得た組換えタンパク質に対するポリクローナル抗体を常法で調製した。具体的には、100μgの組換えタンパク質を完全アジュバント(complete Fruends’ adjuvant)と混合した後、BALB/cマウスに腹腔内注射した。2週間後、不完全アジュバントと混合した組換えタンパク質(100μg)を同様に腹腔内注射し、同様の操作を繰り返した(合計4回)。免疫終了後、尾より採血した。常法で血清を分離し、抗血清(ポリクローナル抗体)を得た。
T. nativaの成虫の粗抽出物(20μg)、T. nativaの新生幼虫の粗抽出物(20μg)、T. nativaの筋肉幼虫(感染15日後および感染30日後)の粗抽出物(20μg)をSDS-PAGEに供した後、ニトロセルロース膜への転写を行った。次に、転写後のニトロセルロース膜に対して、組換えタンパク質に対するポリクローナル抗体(100倍希釈)を反応させた。続いて、二次抗体としてアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG抗体を反応させた後、BCIP及びNBTを用いて発色させた。ウエスタンブロット分析の結果を図2に示す。図2においてレーンMは分子量マーカー、レーン1は成虫からの粗抽出物、レーン2は新生幼虫からの粗抽出物、レーン3は筋肉幼虫(感染15日後)からの粗抽出物、レーン4は筋肉幼虫(感染30日後)からの粗抽出物である。
図2から明らかなように、T. nativaの成虫の粗抽出物内の約53kDaタンパク質、T. nativaの筋肉幼虫の粗抽出物内の約53kDaタンパク質を、当該ポリクローナル抗体が特異的に認識した。これによって、同定に成功したT. nativaのタンパク質がT. nativaの成虫の粗抽出物中にも存在することが確認された。即ち、同定に成功したタンパク質はT. nativaの成虫及び筋肉幼虫の両者によって排出・分泌されることが判明した。
【0035】
(2)T. papuaの排出・分泌産物中からの種特異的抗原候補の同定
(1)と同様の手順でT. papuaについて、T. spiralisの53kDa分泌糖タンパク質のホモログの同定を試みた。目的のタンパク質全長をコードする遺伝子をPCRで増幅する際に使用したプライマーの配列は以下の通りである。
5'-CGG GAT CCC GAT GTT CAG CAT CAC ATT AAA-3'(配列番号21)
5'-CGG AAT TCC Gga cag att gct taa tga agc-3'(配列番号22)
【0036】
結果、T. spiralisの53kDa糖タンパク質に対応し、T. papuaの成虫及び筋肉幼虫が共通して排出・分泌するタンパク質を同定することに成功した。
同定したタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)、及びそれをコードするcDNAの塩基配列(配列番号4)を図3に示す。
以降の実験のため、同定に成功したタンパク質(53kDaタンパク質)について1.(1-4)と同様の手順で組換えタンパク質を調製した。尚、目的のタンパク質をコードする遺伝子を発現ベクターにPCRで組み込む際に使用したプライマーは次の通りである。
5'-CGCGGATCCGCGGTCTACAGACATTGAGAAGGTTG-3'(配列番号25)
5'-CGGAATTCCGTTAGAACAACAACTGTAGTTCTG-3'(配列番号24)
【0037】
2.組換えタンパク質を用いた旋毛虫の検査法(血清診断法)
同定に成功した各タンパク質が種特異的抗原であること、及び旋毛虫の検査に有用であることを検証するために、各種旋毛虫に感染したマウスの血清を用いて以下の実験を行った。また、感染時期の異なるマウスの血清に対する反応性についても調べ、早期検査が可能か否かを検討した。
(1)実験方法・材料
T. nativa 、T. papua、T. spiralis、T. pseudospiralis及びT. britoviについて組換え53kDaタンパク質を用意した。尚、T. spiralis、T. pseudospiralis及びT. britoviについては、以下に示す配列情報を基に1.(1-4)と同様の手順で目的の組換えタンパク質を調製した。
種名:アミノ酸配列:塩基配列
T. spiralis:配列番号15:配列番号16
T. pseudospiralis:配列番号17:配列番号18
T. britovi:配列番号19:配列番号20
【0038】
尚、目的のタンパク質をコードする遺伝子を発現ベクターにPCRで組み込む際に使用したプライマーは次の通りである。
T. spiralis
5'-CGCGGATCCGCGGTCTACAGACAATGAGAATGTTG-3'(配列番号26)
5'-CGGAATTCCGTTAGAACAACAACTGTAGTTCTG-3'(配列番号24)
T. pseudospiralis
5'-CGCGGATCCGCGGTCTTCAGACACTGATAAGGTTG-3'(配列番号27)
5'-CGGAATTCCGTTAGAACAACAACTGTAGTTCTG-3'(配列番号24)
T. britovi
5'-CGCGGATCCGCGGTCTACAGACAATGAGAATGCTG-3'(配列番号23)
5'-CGGAATTCCGTTAGAACAACAACTGTAGTTCTG-3'(配列番号24)
【0039】
一方、T.nativa、Trichinella T8、Trichinella T9、T. papua及びT. britoviについて、感染後(300larvae)30日の感染マウス血清を用意した。また、T. spiralis及びT. pseudospiralisについては感染後(300larvae)0、8、13、18、23、30、50、90、及び120日の感染マウス血清を用意した。
これらの感染マウス血清と、各旋毛虫由来の組換えタンパク質との反応性をウエスタンブロット分析で調べた。ウエスタンブロット分析は1.(1-5)と同様の手順で行った。
【0040】
(2)実験結果
T. spiralis及びT. pseudospiralisのウエスタンブロット分析の結果を図4に示す。図4(a)は組換えT. spiralis 53kDaタンパク質との反応結果であって、感染後0日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン1)、感染後8日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン2)、感染後13日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン3)、感染後18日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン4)、感染後23日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン5)、感染後30日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン6)、感染後50日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン7)、感染後90日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン8)、感染後120日のT. spiralis感染マウス血清との反応性(レーン9)がそれぞれ示される。
図4(b)は組換えT. pseudospiralis 53kDaタンパク質との反応結果であって、感染後0日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン10)、感染後8日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン11)、感染後13日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン12)、感染後18日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン13)、感染後23日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン14)、感染後30日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン15)、感染後50日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン16)、感染後90日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン17)、感染後120日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応性(レーン18)がそれぞれ示される。
一方、図5及び図6には、ウエスタンブロット解析によるT. spiralis、T. pseudospiralis、T. nativa、T. papua及びT. britoviの各組換え53kDaタンパク質について、T. spiralis感染血清との反応性(図5(a))、T. pseudospiralis感染血清との反応性(図5(b))、T. nativa感染血清との反応性(図5(c))、T. papua感染血清との反応性(図5(d))、T. britovi感染血清との反応性(図6(e))、Trichinella T8感染血清との反応性(図6(f))及びTrichinella T9感染血清との反応性(図6(g))がそれぞれ示される。図5及び6においてMは分子量マーカー、レーン1は組換えT. spiralis 53kDaタンパク質、レーン2は組換えT. pseudospiralis 53kDaタンパク質、レーン3は組換えT. native 53kDaタンパク質、レーン4は組換えT. papua 53kDaタンパク質、レーン5は組換えT. britovi 53kDaタンパク質である。
【0041】
図4から明らかなように、T. spiralis、T. pseudospiralisともに感染後8日でも薄く反応し、感染後13日では完全に抗体は検出できた。このように感染の極めて初期からの抗体を検出することが可能であった。また、図5及び6から明らかなようにT. spiralis 、T. pseudospiralis 、T. nativa、T. papua、及びT. britoviの各組換え53kDaタンパク質はそれぞれ対応する旋毛虫の感染マウス血清にしか反応しなかった。
以上の通り、各組換えタンパク質が、対応する旋毛虫感染マウス血清に特異的に反応することが確認された。これによって、同定に成功したタンパク質(T. nativa及びT. papuaの53kDa分泌糖タンパク質)を含め、それぞれの種について53kDa糖タンパク質が種特異的抗原となることが明らかとなった。一方、極めて早期に反応性が認められたことから、これらのタンパク質(種特異的抗原)が旋毛虫感染の早期検査に有用であることが確認された。
【0042】
3.Trichinella T8、Trichinella T9、T. nelsoni、T. murrelli、及びTrichinella T6の種特異的抗原の同定
1.(2)と同様の手順でTrichinella T8、Trichinella T9、T. nelsoni、T. murrelli、及びTrichinella T6について、53kDa分泌糖タンパク質のホモログの同定を試みた。目的のタンパク質全長をコードする遺伝子をPCRで増幅する際に使用したプライマーの配列は以下の通りである。
5'-CGG GAT CCC GAT GTT CAG CAT CAC ATT AAA-3'(配列番号21)
5'-CGG AAT TCC Gga cag att gct taa tga agc-3'(配列番号22)
【0043】
結果、全ての種について、T. spiralisの53kDa糖タンパク質に対応し、成虫及び筋肉幼虫が共通して排出・分泌するタンパク質を同定することに成功した。
同定した各タンパク質のアミノ酸配列、及びそれをコードするcDNAの塩基配列を図7~11に示す。
図7:Trichinella T8由来タンパク質のアミノ酸配列(配列番号5)及びcDNA配列(配列番号6)
図8:Trichinella T9由来タンパク質のアミノ酸配列(配列番号7)及びcDNA配列(配列番号8)
図9:T. nelsoni由来タンパク質のアミノ酸配列(配列番号9)及びcDNA配列(配列番号10)
図10:T. murrelli由来タンパク質のアミノ酸配列(配列番号11)及びcDNA配列(配列番号12)
図11:Trichinella T6由来タンパク質のアミノ酸配列(配列番号13)及びcDNA配列(配列番号14)
【0044】
4.ウエスタンブロット用キットの構築
検査操作を簡便にするため、種特異的抗原(53kDa分泌糖タンパク質)の組換えタンパク質を用いてウエスタンブロット法に使用するキットを構築する。具体的には、日本国内用の検査にはT. nativaとTrichinella T9についての組換えタンパク質を転写した膜、検出用抗体、取扱説明書などを組み合わせたウエスタンブロット用キットを構築する。一方、欧州用の検査にはT. nativa、T. britovi、T. spiralis及びT. pseudospiralisについての組換えタンパクを転写した膜、検出用抗体、取扱説明書などを組み合わせたウエスタンブロット用キットを構築する。
【0045】
5.ELISA法による検出
種特異的抗原の組換えタンパク質(代表としてT. spiralis由来の種特異的抗原(53kDa分泌糖タンパク質)を用いた)、既報の方法(Matsuda et al., Jpn. J. Exp. Med. 54:131-138(1984))に若干の修正を加えた方法でELISA用プレートを作製した。簡単にいうと、96穴マイクロタイタープレート(Maxisorp、ナルジェ・ヌンク・インターナショナル)にウェルあたり100μlの5μg/ml(0.05M重炭酸塩バッファー(pH9.6))の組換えタンパク質(種特異的抗原)を感作した(37℃で3時間インキュベートした後、4℃で一晩放置)。0.05% Tween 200を含有する0.15MのPBSで3回洗浄した後、2%のウシ血清アルブミンを含有する150μlのPBSをマイクロプレートの各ウェルに添加しブロッキングを行った(37℃で1時間)。ブロッキング液を除去した後、上記と同様の洗浄操作を行った。このようにして、T. spiralis由来の種特異的抗原が固定化されたマイクロプレート(抗原感作プレート)を得た。
【0046】
抗原感作プレートを用いた旋毛虫の感染検査は次のように行うことができる。1%のウシ血清アルブミンを含有するPBSで200倍希釈したヒト血清サンプルを、ウェルあたり100μlとなるように抗原感作プレートにいれ、37℃で1時間インキュベートする。サンプルの除去及び洗浄の後、10,000倍希釈したペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG(Fab特異的)抗体(シグマ)を各ウェルに添加し、37℃で45分間反応させる。発色のために基質2-2’-azino-bis(3-ethylbenzthiazoline-6-sulfonic acid)(シグマ)を各ウェルに添加し(0.3mg/ml、ウェルあたり100μl)、60分間放置する。各ウェルに1.25%のフッ化ナトリウムを50μl添加し、反応を停止させる。そして、波長414nmでの吸光度を測定し、測定結果を用いて血清サンプルの陽性(感染)又は陰性を判定する。カットオフ値は例えば、複数の健常者から得た陰性サンプルの平均値の3倍に設定する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のポリペプチド(種特異的抗原)は、旋毛虫の成虫が排出・分泌するポリペプチドの一つである。従って、旋毛虫に感染した動物の体内では、感染後の早い段階で本発明のポリペプチドに対する抗体が産生されることになる。このことから、本発明のポリペプチドに対する抗体を検出対象とした検査法(即ち、本発明のポリペプチドを利用した検査法)では、感染後の早い段階で検査結果を得ることができる。
一方、本発明のポリペプチドを利用した検査法によれば、検体中に旋毛虫に由来する抗体が存在するか否か、及び抗体が存在する場合にはいずれの種に由来する抗体であるかに関する情報が得られる。従って、本発明のポリペプチドを利用した検査法を実施すれば、検体を採取した個体(被検者、被検動物)が旋毛虫に感染しているか否かの検査が行えるとともに、感染している場合にはいずれの種に感染しているかを判定することができる。感染した旋毛虫を種のレベルまで特定できれば、種の相違に起因する症状の違いを明確に把握し、感染個体に対するより適切な治療が可能となる。
以上のように、本発明のポリペプチドを利用した検査法によれば、旋毛虫感染症の治療に有用な情報を感染後早期に得ること(即ち早期診断)が可能となる。
【0048】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】T. nativaの種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号1)及びcDNA配列(配列番号2)である。
【図2】ウエスタンブロットによるT. nativa抗原の解析結果である。M:分子量マーカー、1:成虫からの粗抽出物、2:新生幼虫からの粗抽出物、3:筋肉幼虫(感染15日後)からの粗抽出物、4:筋肉幼虫(感染30日後)からの粗抽出物。
【図3】T. papuaの種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号3)及びcDNA配列(配列番号4)
【図4】ウエスタンブロット解析によるT. spiralisおよびT. pseudospiralis組換えタンパク質の経時的な感染血清との反応性を示す。(a)は組換えT. spiralis 53kDaタンパク質との反応結果。1:感染後0日のT. spiralis感染マウス血清との反応、2:感染後8日のT. spiralis感染マウス血清との反応、3:感染後13日のT. spiralis感染マウス血清との反応、4:感染後18日のT. spiralis感染マウス血清との反応、5:感染後23日のT. spiralis感染マウス血清との反応、6:感染後30日のT. spiralis感染マウス血清との反応、7:感染後50日のT. spiralis感染マウス血清との反応、8:感染後90日のT. spiralis感染マウス血清との反応、9:感染後120日のT. spiralis感染マウス血清との反応。(b)は組換えT. pseudospiralis 53kDaタンパク質との反応結果。10:感染後0日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、11:感染後8日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、12:感染後13日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、13:感染後18日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、14:感染後23日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、15:感染後30日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、16:感染後50日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、17:感染後90日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応、18:感染後120日のT. pseudospiralis感染マウス血清との反応。
【図5】ウエスタンブロット解析によるT. spiralis、T. pseudospiralis、 T. nativa、T. papua及びT. britoviの各組換え53kDaタンパク質のT. spiralis感染血清との反応性(a)、T. pseudospiralis感染血清との反応性(b)、T. nativa感染血清との反応性(c)、及びT. papua感染血清との反応性(d)を示す。M:分子量マーカー、1:組換えT. spiralis 53kDaタンパク質、2:組換えT. pseudospiralis 53kDaタンパク質、3:組換えT. native 53kDaタンパク質、4:組換えT. papua 53kDaタンパク質、5:組換えT. britovi 53kDaタンパク質。
【図6】ウエスタンブロット解析によるT. spiralis、T. pseudospiralis、T. nativa、T. papua及びT. britoviの各組換え53kDaタンパク質のT. britovi感染血清との反応性(e)、Trichinella T8感染血清との反応性(f)及びTrichinella T9感染血清との反応性(g)を示す。M:分子量マーカー、1:組換えT. spiralis 53kDaタンパク質、2:組換えT. pseudospiralis 53kDaタンパク質、3:組換えT. native 53kDaタンパク質、4:組換えT. papua 53kDaタンパク質、5:組換えT. britovi 53kDaタンパク質。
【図7】Trichinella T8の種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号5)及びcDNA配列(配列番号6)
【図8】Trichinella T9の種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号7)及びcDNA配列(配列番号8)
【図9】T. nelsoniの種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号9)及びcDNA配列(配列番号10)
【図10】T. murrelliの種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号11)及びcDNA配列(配列番号12)
【図11】Trichinella T6の種特異的抗原のアミノ酸配列(配列番号13)及びcDNA配列(配列番号14)
図面
【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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