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明細書 :卵認識フェロモンとしてリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたは関連ペプチドを用いる害虫駆除

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第4126379号 (P4126379)
登録日 平成20年5月23日(2008.5.23)
発行日 平成20年7月30日(2008.7.30)
発明の名称または考案の名称 卵認識フェロモンとしてリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたは関連ペプチドを用いる害虫駆除
国際特許分類 A01M   1/20        (2006.01)
A01M   1/02        (2006.01)
A01N  25/08        (2006.01)
FI A01M 1/20 A
A01M 1/02 B
A01N 25/08
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願2007-035030 (P2007-035030)
出願日 平成19年2月15日(2007.2.15)
審査請求日 平成19年8月28日(2007.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】松浦 健二
【氏名】田村 隆
【氏名】小林 憲正
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100116311、【弁理士】、【氏名又は名称】元山 忠行
【識別番号】100122301、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 憲史
審査官 【審査官】関根 裕
参考文献・文献 特開2000-342149(JP,A)
特開平10-229800(JP,A)
特開2001-314145(JP,A)
特開2000-189031(JP,A)
Ai Fujita, Toshifumi Minamoto, Isamu Shimizu, Takuya Abe,The fumction of lysozymes in a Japanese dump-wood termite, Reticulitermes speratus.,Zoological Science,日本,2001年12月,Vol.18, Supplement,p.59
Matsuura K, et al.,The Antibacterial Protein Lysozyme Identified as the Termite Egg Recognition Pheromone.,PLoS ONE,2007年 8月29日,2(8),e813,URL,http://www.plosone.org/article/fetchArticle.action?articleURI=info:doi/10.1371/journal.pone.0000813
調査した分野 A01M 1/00 - 29/00
A01N 25/08
要約 【課題】効果的な害虫駆除、特にシロアリの駆除を提供する。
【解決手段】害虫の卵を模した基材にリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチド、ならびに活性成分を含有せしめた擬似卵、ならびにそれを用いる害虫駆除方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
シロアリの卵を模した基材に卵認識フェロモンとしてリゾチーム(シロアリの卵から抽出したリゾチームを除く)、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチド、ならびに殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質または発育阻害活性成分からなる群より選択される1またはそれ以上の化合物を含有せしめた擬似卵。
【請求項2】
請求項記載の擬似卵をシロアリに与え、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特長とする、シロアリの駆除方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫、特にシロアリ駆除・防除のための新規擬似卵およびそれを用いた害虫駆除・防除方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫の駆除に関してこれまで様々な駆除方法が開発されてきた。特にシロアリは木造家屋に対して甚大な損害を与えるため、その駆除剤および駆除方法に関して世界中で研究・開発がなされてきた。シロアリの駆除方法としては有機リン剤、カーバメート剤、ピレスロイド剤などの溶液型薬剤を侵入箇所に注入して殺虫する方法、または臭化メチルなどで燻煙を行い殺虫する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
薬剤散布型処理法に代わるものとして、遅効性の殺虫有効成分を餌に混入してシロアリに摂食させ、その駆除を行うベイト法がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
従来の駆除技術は基本的には加害された木材の外側から大量に薬剤を投入して殺虫するというものであり、シックハウス症候群などの健康被害や環境汚染につながっている。また、シロアリのコロニーの一部でも残存すると、別の箇所に被害を拡大してしまうという問題がある。最も重大な問題は、駆除に要する労働コストがかかりすぎる点である。頻繁に実施されているのは臭化メチルを用いた燻蒸法であるが、臭化メチルはオゾン層破壊の原因物質であり、近年使用を規制しようとする動きが強まっている。
【0005】
シロアリと同様に社会生活を営むアリの駆除法としては毒物にアリの嗜好物を混入して餌として与え、巣に持ち帰らせて全集団を捕殺する方法が有効である。しかしシロアリは営巣している木材自体を摂食するため、毒餌剤を用いて巣の外部から巣の内部に薬剤を運搬させるベイト法は必ずしも効果的ではない。特にヤマトシロアリ属シロアリではベイト法によって巣を根絶することは難しい(非特許文献2参照)。
【0006】
ベイト法よりもさらに効率よく活性成分を害虫に摂取させる方法として、害虫の基本的社会行動である卵運搬本能を利用した「擬似卵運搬による害虫駆除法」が開発された(特許文献1)。この方法における害虫はシロアリであった。しかしながらこの方法では、シロアリの卵から抽出した粗抽出成分を用いてシロアリに擬似卵を運搬させることは可能であったが、シロアリの卵認識フェロモンは同定されなかった。卵認識フェロモンが同定されて大量かつ安価に生産が可能とならないかぎり、このような方法を実施するにはコスト面で大きな問題があった。
【0007】
特に害虫がシロアリである場合、以下に述べる理由で駆除が困難であり、未だ決定的な解決策が見出されていない。
シロアリは木材中という閉鎖空間に棲息しているため、外部から薬剤を浸透させることが困難である。
社会生活を営むシロアリは、コロニーの一部でも残存すると、移動して被害を拡大させる。
棲息する木材自体を食べて生活しているため、毒餌剤の導入が非効果的である。

【特許文献1】特開平2000-342149号公報
【非特許文献1】「シロアリと防除対策」、社団法人日本しろあり対策協会、2000年、p.219
【非特許文献2】「モニタリングステーションを用いた日本産地下シロアリの活性評価とベイト法による防除」、生存圏における昆虫生態のモニタリング技術の新展開、2006年、p.48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記事情に鑑みて、擬似卵運搬による害虫駆除法をさらに効果的なものとし、かつ安価に提供できるものとするために、害虫、特にシロアリの卵認識フェロモンを同定するべく鋭意研究を行ってきた。そしてシロアリの卵認識フェロモンが抗菌タンパク質の一種リゾチームであり、シロアリがリゾチームを含有する卵を認識し、巣内の育室に運搬し、保護することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は下記に関するものである:
(1)害虫の卵を模した基材に卵認識フェロモンとしてリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチド、ならびに活性成分を含有せしめた擬似卵;
(2)活性成分が殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質または発育阻害活性成分からなる群より選択される1またはそれ以上の化合物である(1)記載の擬似卵;
(3)活性成分が遅効性である(1)または(2)記載の擬似卵;
(4)基材が除放性材料でできている(1)ないし(3)のいずれかに記載の擬似卵;
(5)基材が害虫の唾液により分解されるものである(4)記載の擬似卵;
(6)基材がカプセル状であり、活性成分が内包されている(4)または(5)記載の擬似卵;
(7)グリセロールおよび/またはセルラーゼを基材に含有せしめた(1)ないし(6)のいずれかに記載の擬似卵;
(8)害虫の卵から抽出した成分を基材に含有せしめた(1)ないし(7)のいずれかに記載の擬似卵;
(9)害虫がシロアリである(1)~(8)のいずれかに記載の擬似卵。
(10)(1)ないし(9)のいずれかに記載の擬似卵を害虫に与え、卵運搬行動を利用して巣内に運搬させることを特長とする、害虫の駆除方法;
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、害虫の卵を模した基材にリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたは関連ペプチド、ならびに活性成分を含有せしめた擬似卵を大量かつ安価に製造でき、害虫、特にシロアリの駆除や防除を効果的、かつ簡便、安価に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
シロアリなどの卵を運搬する性質のある昆虫は、卵を巣内に運搬して山積みにし、卵の表面を舐めるなどして世話をする、あるいは個体間で栄養交換を行う性質をもつ。この性質を利用して害虫の駆除、防除を行うことができる。例えば、シロアリは、本来の卵に似る大きさと形状をもち、表面に卵認識フェロモンを含有する擬似卵を卵として認識して巣内にある自らの卵塊中に運搬する。そこでシロアリは擬似卵表面をなめる等の世話行動を行い、個体間で栄養交換を行う。したがって、この擬似卵に活性物質、例えば、殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質、発育阻害活性成分などの活性成分を含有せしめて卵塊中に運搬させることにより、効率的にコロニーの生殖中枢を破壊することが可能である。
【0012】
本発明者らは、シロアリの卵認識フェロモンの同定を行うべく、鋭意研究を重ねた。そして、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水クロマトグラフィーにより精製、単離したシロアリの卵認識フェロモンについて精密質量分析を行ったところ、分子量約14.5kDaのタンパク質であることが明らかになった。さらに、この活性成分に高い溶菌活性が認められたことから、シロアリの卵認識フェロモンが抗菌タンパク質の一種リゾチームであることが示唆された。かかる知見に基づいて、ニワトリ卵白由来のリゾチームの標品についてシロアリの卵認識活性を測定したところ、高い活性が認められた。よって、シロアリの卵認識フェロモンがリゾチームであることが明らかになった。
【0013】
したがって、本発明は、第1の態様において、害虫の卵を模した基材に卵認識フェロモンとしてリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチド、ならびに活性成分を含有せしめた擬似卵を提供する。
【0014】
本発明の擬似卵および方法により駆除することのできる害虫は、卵運搬本能を有するものであって、リゾチームを卵認識フェロモンとするものであれば、いずれの害虫であってもよい。本発明の擬似卵および方法が好ましく適用される害虫はシロアリである。本発明により駆除されるシロアリはいずれの種類のシロアリであってもよく、日本のみならず世界中のシロアリが対象となりうる。本発明により駆除される典型的なシロアリとしてはヤマトシロアリ属、イエシロアリ属などのシロアリが挙げられるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、害虫の駆除という場合には防除も包含するものとする。本明細書において、害虫とはヒトや家畜、農産物、財産などにとって有害な作用をもたらす昆虫をいう。
【0015】
本発明の卵認識フェロモンはリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたは関連ペプチドである。リゾチームはいずれの生物種由来のものであってもよく、例えば、ほ乳類、ニワトリなどの鳥類、魚類、爬虫類、両生類、カイコなどの昆虫などに由来するものであってもよい。大量かつ安価に得られ、本発明に使用できる好ましいリゾチームとしてニワトリ卵白由来リゾチームが挙げられる。また、シロアリ卵抽出物由来のリゾチームを本発明に用いてもよい。本発明に用いるリゾチームは精製されていなくてもよく、精製されていてもよい。さらに本発明に用いるリゾチームは遺伝子組み換え法により製造されるものであってもよい。遺伝子組み換え法による蛋白、ポリペプチドあるいはペプチドの製造は当業者によく知られている。一般的には、所望蛋白の遺伝子をベクターに連結し、大腸菌や酵母などの適当な宿主細胞に導入して、これを増殖せしめることにより所望蛋白を得ることができる。ベクターや宿主細胞の種類、ベクター導入条件、宿主細胞の培養条件、所望蛋白の分離・精製方法などについては当業者が公知の材料および方法から適宜選択することができる。
【0016】
本発明に使用するリゾチームは塩の形態であってもよい。リゾチーム塩は、有機酸との塩、無機酸との塩、有機塩基との塩、無機塩基との塩など、塩を形成することのできるあらゆる物質との塩であってよい。また例えば、リゾチームを構成するアスパラギン酸またはグルタミン酸のβ-またはγ-カルボキシル基とナトリウム、カリウムなどの金属とが塩を形成してもよい。また例えば、リゾチームを構成する塩基性アミノ酸の側鎖において塩が形成されていてもよい。本発明においては、リゾチームの生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドが塩の形態であってもよい。
【0017】
さらに本発明において、リゾチームの生物学的フラグメントを卵認識フェロモンとして使用してもよい。リゾチームの生物学的フラグメントは、リゾチームの部分アミノ酸配列を有するポリペプチドまたはペプチドであって、リゾチームと同様の卵認識活性を有するものをいう。かかるフラグメントは短鎖であるため、遺伝子組み換え法による大量生産に好適である。
【0018】
さらに本発明において、リゾチーム関連ペプチドを卵認識フェロモンとして使用してもよい。リゾチーム関連ペプチドは、リゾチームと同様の卵認識活性を有する蛋白、ポリペプチドまたはペプチドをいい、リゾチームおよびリゾチームの生物学的フラグメントとは異なるものをいう。リゾチーム関連ペプチドは天然由来のものであってもよく、合成品であってもよい。リゾチーム関連ペプチドは、例えば部位特異的突然変異法などの手法により天然のリゾチームとは異なるアミノ酸配列を有するものであってもよい。例えば、シロアリがさらに好むようなアミノ酸配列を有するリゾチーム、リゾチームの生物学的フラグメントあるいはリゾチーム関連ペプチドを作成して本発明に使用してもよい。また例えば、特定の種類のシロアリに特異性が高いアミノ酸配列を有するリゾチーム、リゾチームの生物学的フラグメントあるいはリゾチーム関連ペプチドを作成して本発明に使用してもよい。
【0019】
本発明の擬似卵は、形状、サイズおよび性質が、駆除しようとする害虫の卵の形状、サイズおよび性質に類似したものでなくてはならない。本発明に使用する擬似卵の形態およびサイズは害虫の実際の卵の形態およびサイズを模して作成される。シロアリの場合には擬似卵の形態は長卵形または球形とすることができる。長卵形のシロアリの擬似卵の場合には、その短径を駆除しようとするシロアリの卵の短径と同程度あるいはそれよりも少し大きめにすることが好ましい。例えば、短径約0.25~約0.45ミリメートルの短径を有するシロアリの卵の長卵形擬似卵の短径は、約0.25~約0.6ミリメートルであってもよく、好ましくは約0.4~約0.55ミリメートル、さらに好ましくは約0.45ミリメートルであってもよい。また、球形のシロアリの擬似卵の場合には、その直径を駆除しようとするシロアリの卵の短径と同程度あるいはそれよりも少し大きめにすることが好ましい。例えば、短径約0.25~約0.45ミリメートルの短径を有するシロアリの卵の球形擬似卵の直径は、約0.25~約0.6ミリメートルであってもよく、好ましくは約0.4~約0.6ミリメートル、さらに好ましくは約0.45~約0.55ミリメートルであってもよい。形成の容易さの点からは球形の擬似卵が好ましい。
【0020】
本発明の擬似卵は、上記のような形状およびサイズ、さらには重さや硬さなどの物理的性質のみならず、化学的性質、特に卵認識フェロモンも害虫の本来の卵と同じであるか類似している必要がある。すなわち、擬似卵の基材にリゾチーム、リゾチームの生物学的フラグメントあるいはリゾチーム関連ペプチドを含有させた場合に、基材表面にこれらの物質が現れていることが必要である。
【0021】
本発明の擬似卵の基材としては、害虫の本来の卵の形状および性質に類似した擬似卵を作成できるものであればいずれの材料であってもよい。本発明の擬似卵も作成に好ましい基材材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂、あるいは尿素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔質材料、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。
【0022】
リゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチド、ならびに活性成分を基材に含有させて本発明の擬似卵とする。基材へのこれらの物質の含有方法としては種々のものが当業者に公知である。基材の製造時にこれらの物質を混入させてもよく、基材を作成してからこれらの物質を基材に含有させてもよい。例えば、基材製造時にこれらの物質を混合あるいは練り込んでもよく、出来上がった基材にこれらの物質をまぶす、浸す、塗布する、あるいは噴霧してもよい。また、固体支持体への蛋白、ポリペプチドあるいはペプチドの固定化方法が公知であるので、これらの方法を適用してもよい。かかる固定化方法には、例えば、吸着法、共有結合法、イオン結合法、包括法などがある。
【0023】
本発明の擬似卵の基材へのリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドの適用量は、それらの種類(由来生物)、物理化学的性質など、害虫の種類、活性物質の種類や量、所望の効果の種類や程度などの諸因子に応じて、当業者が容易に決定することができる(例えば、本願実施例参照)。
【0024】
リゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチド、ならびに活性成分を基材に含有させる形式の好ましい具体例としては、表面コート型、基材添加型、カプセル溶解型などが挙げられる。表面コート型の例は、基材表面に活性成分をコートし、その上にリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドをコートするものである。基材添加型の例は、活性成分を混合した基材表面にリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドをコートするものである。カプセル溶解型の例は、膜状の基材をカプセル状とし、その内部に活性成分を封入し、基材表面にリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドをコートするものである。
【0025】
本発明の擬似卵および駆除方法に使用することのできる活性物質は、害虫の駆除または防除を達成しうるものであればよい。例えば、活性物質は、害虫の行動を攪乱し、コロニーを破壊に至らしめるものであってもよい。害虫の駆除や防除に適した活性物質としては、殺虫活性成分、孵化阻害物質、生殖阻害物質または発育阻害活性成分などが挙げられる。本発明の擬似卵および方法に使用することのできる活性物質の種類および量は、活性物質の種類や害虫の種類、ならびに所望活性(害虫に与えるべき損傷)の種類や程度などの諸因子に応じて選択することができる。通常は、活性物質の種類および量は、所望の害虫に対して十分に所望の効果を発揮しうるように選択されるが、害虫の擬似卵運搬率を損なわないように、そして本発明の擬似卵および駆除方法を使用するヒトおよび周囲の家畜や益虫に悪影響を及ぼさないように選択することも考慮される。
【0026】
本発明の擬似卵および駆除方法に使用する活性成分は1種であっても、2種以上であってもよい。例えば、ピレスロイド化合物、有機リン化合物、カーバメイト化合物、N-アリールジアゾール化合物、ヒドラゾン化合物、スルホンアミド化合物、天然殺虫成分などの殺虫活性成分を用いることができる。このほか、キチン合成阻害剤、幼若ホルモン様活性化合物、脱皮ホルモン様活性化合物などの昆虫成長制御剤を活性成分として用いることができる。本発明に使用しうる活性成分は上記化合物に限定されないことはいうまでもない。
【0027】
本発明の擬似卵において、活性成分が遅効性であることが好ましい。上述のように、シロアリなどの害虫は、本来の卵に似る大きさと形状をもち、表面に卵認識フェロモンを含有する擬似卵を卵として認識し、巣内にある自らの卵塊中に運搬する。そして害虫は擬似卵表面をなめる等の世話行動を通じて活性成分を摂取する。そしてコロニーの一部の個体が活性成分を摂取すると、口移しおよび肛門食による高頻度の栄養交換を通じて活性成分がコロニー全体に行き渡る。したがって、本発明に使用する活性成分は、擬似卵の運搬時や害虫に摂取された直後には効果を発揮しないか、あるいは擬似卵運搬や栄養交換などの行動に影響しない程度の効果しか発揮せず、擬似卵が巣内に運搬されて栄養交換が多くの個体間で行われてから効果を発揮するものであることが好ましい。このような遅効性の活性成分を用いることにより、ターゲットのコロニー中の多くの個体を効率的に駆除することができ、活性成分の使用量も少なくてすむ。したがって、他の生態系への影響も少なくてすむ。本発明の擬似卵に使用可能な遅効性活性成分としては、ヒドラメチルノンなどの遅効性殺虫成分のほか、遅効性孵化阻害成分、遅効性生殖阻害成分、遅効性生育阻害成分などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の擬似卵において、基材が除放性材料でできているものも好ましい。基材が除放性材料でできていることによって、巣内に運搬されてから活性物質が徐々に放出され、害虫に取り込まれるような擬似卵が好ましい。かかる擬似卵としては、基材が害虫の唾液により分解される材料からできているものが挙げられる。好ましくは、基材内部に活性成分を含有させておき(混入、混合あるいは充填などにより)、擬似卵が巣内に運搬されてから害虫の唾液により基材が分解し、内部の活性成分が放出されるようにする。特に、上記の基材添加型、カプセル溶解型などの場合において、害虫の唾液により分解されうる基材を用いることが好ましい。害虫の唾液で分解される基材の材料は、害虫の唾液中の消化酵素の種類に応じて選択することができる。例えば、害虫の唾液にセルラーゼが含まれている場合には、セルロース性材料からできた基材を使用することができる。
【0029】
本発明の擬似卵の特に好ましい形態は、上記のカプセル溶解型のものである。具体的には、リゾチーム、その塩、リゾチームの生物学的フラグメントあるいはリゾチーム関連ペプチドを含有させた膜状基材を実際の卵に似せた形状に成形し(すなわち、カプセル状として)、該カプセル内部に活性成分を含有させることにより、本発明の擬似卵を作成することができる。このようなカプセルの成形方法は当業者に公知である。膜の材料としては、酸化膜、セスロース膜などが例示される。膜状基材が除放性であるものが好ましく、例えば害虫の唾液によって分解されうるセルロース膜などを用いることが好ましい。このようなカプセル封入タイプの擬似卵は、野外の大型のコロニーの駆除にも好適である。
【0030】
このような除放性材料でできた基材を含む擬似卵は、活性成分が遅効性である場合においても有効であるが、活性物質が遅効性でない場合において特に有効である。
【0031】
本発明の擬似卵におけるリゾチーム、その塩、その生物学的フラグメントまたはリゾチーム関連ペプチドの卵認識フェロモンとしての活性を維持し、基材表面に保持しておくために、基材にグリセロールおよび/またはセルラーゼを含有させることも好ましい。グリセロール、セルラーゼは必ずしも高純度品を使用する必要はない。グリセロール、セルラーゼの基材への含有量は、使用するリゾチームの種類、性質、量など、害虫の種類、活性物質の種類や量、所望の効果の種類や程度などの諸因子に応じて決定されうる。
【0032】
また、本発明の擬似卵の基材に、ターゲットとする害虫の卵から抽出した成分を含有させることも好ましい。そうすることによって、より高い卵運搬効果を得ることができる。卵からの粗抽出物を基材に含有させてもよく、抽出物を精製したものを基材に含有させてもよい。これらの粗抽出物あるいはその精製物の基材への含有量は、使用するリゾチームの種類、性質、量など、害虫の種類、所望の効果の種類や程度などの諸因子に応じて決定されうる。卵からの有効成分の抽出方法および精製方法は当該分野において公知のものを用いることができる。
【0033】
本発明は、もう1つの態様において、上記擬似卵を害虫に与えることを特長とする害虫の駆除方法を提供する。本発明の方法により駆除あるいは防除される害虫は、卵運搬本能を有するものであって、リゾチームを卵認識フェロモンとするものであれば、いずれの害虫であってもよい。本発明の駆除方法が好ましく適用される害虫はシロアリである。例えばシロアリを駆除する場合には、本発明の擬似卵を蟻道または巣材の一部に置くことができる。ドリルで蟻道に穴を開け、そこに本発明の擬似卵を注入することができる。また、本発明の擬似卵をセロファンなどの保護膜で包み、野外での耐久性を維持するようにしてもよい。この場合、保護膜に木材抽出液、腐朽木材抽出液などの摂食促進物質を添加してもよい。本発明の害虫駆除方法にモニタリングステーションを用いることも有効である。
【0034】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0035】
実施例1:擬似卵の調製およびリゾチームの卵認識活性の確認
シロアリ卵抽出物、シロアリ卵抽出物から精製されたリゾチーム、シロアリ卵抽出物をプロテイナーゼで分解したもの、卵白リゾチーム、セルラーゼ、卵白リゾチームおよびセルラーゼの混合物、および対照として30%グリセリン水溶液の卵認識活性を、ヤマトシロアリワーカー(職蟻)を用いて調べた。
【0036】
各試験標品を以下のようにして調製した。
エッペンドルフチューブ中のヤマトシロアリの卵400mgに800μLの超純水を添加し、ホモジナイズし、5分間超音波処理し、15000rpmで30分の遠心分離を行った。上清を凍結乾燥し、凍結乾燥粉末5.0mgを100μLの30%グリセリン水溶液に溶解させた(シロアリ卵抽出物)。上と同様に調製したシロアリ卵抽出物をBioRex 70(BioRad Laboratories, CA, USA)陽イオン交換樹脂にて精製、さらにQ-1カラム(BioRad Laboratories, CA, USA)およびMethyl HICカラム(BioRad Laboratories, CA, USA)によるクロマトグラフィーによりリゾチーム画分を単離し、その凍結乾燥粉末1.0mgを20μLの30%グリセリン水溶液に溶解させた(シロアリ卵抽出物から単離されたリゾチーム)。上と同様に調製したシロアリ卵抽出物にプロテイナーゼ(Proteinase K, Nacalai Tesque, Inc., Kyoto)を添加し、37℃で24時間処理した(シロアリ卵抽出物をプロテイナーゼで分解したもの)。卵白リゾチーム(SIGMA, St. Louis, MO, USA)2.0mgを10μLの30%グリセリン水溶液に溶解させた(卵白リゾチーム)。セルラーゼ(SIGMA, St. Louis, MO, USA)2.0mgを10μLの30%グリセリン水溶液に溶解させた(セルラーゼ)。卵白リゾチーム10mgおよびセルラーゼ10mgを50μLの30%グリセリン水溶液に溶解させた(卵白リゾチームとセルラーゼの混合溶液)。
【0037】
直径0.5mmのガラスビーズ100個等量に上記の各試験標品2.0μLを加えてよく混和し、ガラスビーズ表面に試験標品をコートした。30%グリセリン水溶液のみでコートしたガラスビーズを対照区とした。
直径30mmのシャーレ上にシロアリの卵10個と上記手順によって得た擬似卵20個をランダムに置き、これにヤマトシロアリの職蟻(ワーカー)10個体を入れて25℃の恒温室内で24時間静置した後、卵塊中への擬似卵の運搬率を調べた(各試験標品につき同じ手順で実験を行った)。各処理区について9回の繰り返しを行った。運搬率をアークサインルート変換し、両側T検定により対照区との統計比較を行った。シロアリ卵抽出物をプロテイナーゼで分解したものおよび対照以外の場合には、職蟻はシャーレ上に散在した卵を集めて卵塊を形成し、保護行動を示した。各試験標品をコートした擬似卵の、卵塊への運搬率を図1に示す。シロアリ卵抽出物でコートした擬似卵をシロアリに与えた場合の、卵塊への擬似卵の運搬状況を示す写真を図2として示す。
【実施例2】
【0038】
実施例2:野外コロニーへの擬似卵導入実験
実施例1によって得られたシロアリの卵抽出物の凍結乾燥物63mgに630μLの30%グリセリン水溶液を加え、これを31500個等量の直径0.5mmのガラスビーズに加え、コートした。アカマツ林内にて、枯死アカマツ材に営巣したヤマトシロアリの成熟コロニーの営巣材にドリルで穿孔し、5カ所に分けて擬似卵をすべて注入した。48時間後に営巣材を完全に解体し、卵塊をすべて取り出し、卵塊中に運搬された擬似卵の比率を調べた。
【0039】
営巣材に注入した31500個の擬似卵のうち、6098個の擬似卵が卵塊中で見つかった。野外における48時間後の擬似卵の導入率は19.35%であった。このコロニーで見つかった60カ所の卵塊すべてに擬似卵が運搬されており、搬入卵塊率は100%ときわめて高かった。
【実施例3】
【0040】
実施例3:シャーレ飼育コロニーへの擬似卵駆除剤導入実験
200個等量の直径0.5mmのガラスビーズを、10μg/μLの遅効性殺虫活性物質ヒドラメチルノンおよび50μg/μLのシロアリ卵抽出物を含む40μLの30%グリセリン水溶液と混和し、コートした(ビーズ1個あたり2μgのヒドラメチルノンおよび10μgのシロアリ卵抽出物をコート)。このようにして得られた擬似卵を駆除剤として用いることにした。90mmシャーレで飼育する100個体のヤマトシロアリワーカー(職蟻)に上記擬似卵200個を与え、卵運搬・卵保護させ、12時間ごとに生存率と運搬率を調べた。
【0041】
上記量のヒドラメチルノンは運搬活性に影響を与えず、シロアリ卵抽出物のみの場合と同等の高い運搬活性を示した(運搬率80%)。職蟻は卵と同様に擬似卵駆除剤をグルーミングし、ヒドラメチルノンはシロアリ体内に取り込まれた(ヒドラメチルノンは黄色に着色してあったが、シロアリのグルーミングにより、ビーズの黄色が薄くなった)。生存率は12時間後には100%であったが、3日後には0%であった(すなわち全100個体が死亡した)。これらの結果から、グルーミンングおよび栄養交換によりヒドラメチルノンがコロニー内に十分に拡散し、効力が発揮されたと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、効果的な害虫駆除、特にシロアリの駆除を提供するものであり、殺虫剤製造の分野、害虫駆除産業の分野、建築業の分野、造園業の分野などにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、シロアリによるリゾチームの卵認識活性を調べた結果を示す図である。各略号はそれぞれ、TEE:シロアリ卵抽出物、pK:シロアリ卵抽出物をプロテイナーゼで分解したもの、TEL:シロアリ卵抽出物から単離されたリゾチーム、HEL:卵白リゾチーム、CEL:セルラーゼ、HEL+CEL:卵白リゾチームとセルラーゼの混合溶液を表す。n.s.:対照区と有意差なし。**有意水準1%で有意差あり。***有意水準0.1%で有意差あり(両側T検定)。
【図2】図2は、シロアリ卵抽出物でコートした擬似卵をシロアリに与えた場合の、卵塊への擬似卵の運搬状況を示す写真である(左図)。運び込まれた擬似卵を明確化するために、擬似卵に白丸印を付した(右図)。
図面
【図1】
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【図2】
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