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明細書 :レーザインプリント装置及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4465480号 (P4465480)
公開番号 特開2008-207970 (P2008-207970A)
登録日 平成22年3月5日(2010.3.5)
発行日 平成22年5月19日(2010.5.19)
公開日 平成20年9月11日(2008.9.11)
発明の名称または考案の名称 レーザインプリント装置及び方法
国際特許分類 C03B  11/00        (2006.01)
B23K  26/00        (2006.01)
B23K  26/12        (2006.01)
G02B   3/00        (2006.01)
FI C03B 11/00 Z
B23K 26/00 G
B23K 26/00 B
B23K 26/12
G02B 3/00 A
請求項の数または発明の数 10
全頁数 19
出願番号 特願2007-043575 (P2007-043575)
出願日 平成19年2月23日(2007.2.23)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2006年11月24日、25日に生産性国際交流センター(葉山)で開催された、社団法人日本機械学会主催の「生産と加工に関する学術講演会2006、第6回生産加工・工作機械部門講演会」において文書をもって発表
審査請求日 平成19年3月5日(2007.3.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】池野 順一
個別代理人の代理人 【識別番号】100100918、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 公治
【識別番号】100108729、【弁理士】、【氏名又は名称】林 紘樹
審査官 【審査官】増山 淳子
参考文献・文献 特開2005-353129(JP,A)
調査した分野 C03B 11/00 - 11/16
特許請求の範囲 【請求項1】
ガラス素材から成る被加工物の表面にインプリント加工により1または複数個の凸状部を形成する装置であって、
レーザ光を透過する材料で構成され、前記凸状部に対応する0.4μm以上の最大深さを有するディンプルが前記被加工物の加工面と密着する型面に形成されている型部材と、
前記型部材の型面を前記被加工物の加工面に密着させる密着手段と、
前記型部材を介して前記被加工物にレーザ光を照射し、レーザ照射位置の前記被加工物をガラス転移点以上の温度に加熱して膨張させるレーザ照射手段と、
前記レーザ照射手段が前記被加工物にレーザ光を照射する加工雰囲気を大気圧より低い圧力に減圧する減圧手段と、
を備え、ガラス素材から成る被加工物の表面に、前記ディンプルに対応するディンプル対応凸状部を形成することを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザインプリント装置であって、前記密着手段が、前記被加工物の加工面を前記型部材の型面に0.24MPa以上の圧力で押し付けることを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項3】
請求項に記載のレーザインプリント装置であって、前記減圧手段が、前記加工雰囲気を0.06kPa以下に保つことを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載のレーザインプリント装置であって、前記レーザ照射手段がパルスYAGレーザからのレーザ光を照射することを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載のレーザインプリント装置であって、前記型部材がソーダ石灰ガラスまたは石英ガラスから成ることを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載のレーザインプリント装置であって、前記被加工物がリン酸ガラスから成ることを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載のレーザインプリント装置であって、さらに、前記型部材に伝播する弾性波とレーザ発振状態とを同時に検出する検出手段を備えることを特徴とするレーザインプリント装置。
【請求項8】
ガラス素材から成る被加工物の表面にインプリント加工により1または複数個の凸状部を形成する方法であって、
レーザ光を透過する材料で構成され、前記凸状部に対応する0.4μm以上の最大深さを有するディンプルが型面に形成された型部材の前記型面を前記被加工物の加工面に密着させる第1のステップと、
大気圧よりも圧力が低い加工雰囲気の中で、前記型部材を介して前記被加工物にレーザ光を照射し、レーザ照射位置の前記被加工物をガラス転移点以上の温度に加熱して膨張させる第2のステップと、
前記型部材を前記被加工物から取り除く第3のステップと、
を備え、ガラス素材から成る被加工物の表面に、前記ディンプルに対応するディンプル対応凸状部を形成することを特徴とするレーザインプリント方法。
【請求項9】
請求項に記載のレーザインプリント方法であって、前記第2のステップにおけるレーザ光の照射を、前記型部材の型面に前記被加工物の加工面を0.24MPa以上の圧力で押し付けながら行うことを特徴とするレーザインプリント方法。
【請求項10】
請求項に記載のレーザインプリント方法であって、前記加工雰囲気を0.06kPa以下に保つことを特徴とするレーザインプリント方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、型の形状をガラス表面に転写するインプリント装置と、その方法に関し、特に、レーザを用いてガラス表面への型形状の転写を行うものである。
【背景技術】
【0002】
近年、部品の表面に微細凹凸を施し、それにより、新しい機能の付加や飛躍的な機能の向上を図る技術が注目を集めている。光学的な利用が可能なガラスでは、微小光学素子やマイクロレンズアレイ等の表面機能製品が開発されており、これらの製品は、ガラス表面に多数の微細な凸状部を有し、液晶パネルの各画素に光を当てる光学素子や、光信号の並列処理を行う回折光学素子等に使用され、高い需要を示している。
ガラス表面の微細加工は、一般的に半導体製造技術を利用して行われるが、下記非特許文献1には、カーボンの型を用いてガラス表面に微細構造を形成するインプリント方法が開示されている。この方法では、ガラス全体を加熱・軟化させ、そこに型を高い圧力で押し付けて、型の形状をガラス表面に転写する。
インプリントは、半導体製造技術に比べて、少ない工数で加工できる点が有利である。

【非特許文献1】高橋正春、村越庸一、前田龍太郎、杉本公一 “カーボン型を用いた石英ガラスのマイクロ・ナノ成形”2005年度精密工学会秋季大会学術講演論文集、1025~1026
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来のインプリント方法は、表面だけに加工を施すにも関わらず、加工試料全体を加熱して軟化させているため、エネルギーロスが大きい。また、この方法では、加工試料全体が加熱・軟化されるため、微細部品の表面のみに後から加工を施すことができない。
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、ガラス部品の精度を維持しつつ、エネルギーロスを伴わずに、局部表面に効率よく微細構造を形成し、ガラス部品の高付加価値化を図ることができるレーザインプリント装置を提供し、また、その方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のレーザインプリント装置は、ガラス素材から成る被加工物の表面にインプリント加工により1または複数個の凸状部を形成する装置であって、レーザ光を透過する材料で構成され、前記凸状部に対応する0.4μm以上の最大深さを有するディンプルが前記被加工物の加工面と密着する型面に形成されている型部材と、前記型部材の型面を前記被加工物の加工面に密着させる密着手段と、前記型部材を介して前記被加工物にレーザ光を照射し、レーザ照射位置の前記被加工物をガラス転移点以上の温度に加熱して膨張させるレーザ照射手段と、前記レーザ照射手段が前記被加工物にレーザ光を照射する加工雰囲気を大気圧より低い圧力に減圧する減圧手段と、を備え、ガラス素材から成る被加工物の表面に、前記ディンプルに対応するディンプル対応凸状部を形成することを特徴とする。
この装置のレーザ照射手段によりレーザ光が照射されたガラス表面は、軟化して型部材の凹状部(ディンプル)の中に膨張し、そのため、型部材の凹状部に対応する凸状部がガラス表面に転写される。大気中でのインプリントでは、型部材の凹状部内の空気がガラスの凹状部への進入を妨げるが、加工雰囲気を大気圧より低くすることで、空気による妨げが減り、型形状に忠実な転写が可能になる。
【0005】
また、本発明のレーザインプリント装置では、前記密着手段が、前記被加工物の加工面を前記型部材の型面に0.24MPa以上の圧力で押し付けるように構成することもできる。
型部材への押付け圧力を大きくすると、型部材の凹状部の細かい形状が被加工物に転写される。
【0007】
また、本発明のレーザインプリント装置では、前記減圧手段が、前記加工雰囲気を0.06kPa以下に保つ場合に、極めて忠実な転写が可能になる。
【0008】
また、本発明のレーザインプリント装置では、前記レーザ照射手段がパルスYAGレーザからのレーザ光を照射するように構成することができる。
YAGレーザでは、高出力が得られる。このレーザのパルスによるガラスの加熱・冷却はmsオーダーで終了し、冷却後も、ガラスの膨張した状態が維持される。
【0009】
また、本発明のレーザインプリント装置では、前記型部材にソーダ石灰ガラスまたは石英ガラスを用いることができる。
これらのガラスは、熱に強く、YAGレーザの透過率も高い。
【0010】
また、本発明のレーザインプリント装置では、前記被加工物にリン酸ガラスを用いることができる。
リン酸ガラスは、YAGレーザの吸収率が100%であり、効率的に軟化・膨張させることができる。
【0011】
また、本発明のレーザインプリント装置では、さらに、前記型部材に伝播する弾性波とレーザ発振状態とを同時に検出する検出手段を設けても良い。
加工処理中に型部材や被加工物にクラックが生じると弾性波が発生するので、この弾性波を検出することにより、加工状況が把握できる。
【0012】
また、本発明のレーザインプリント方法は、ガラス素材から成る被加工物の表面にインプリント加工により1または複数個の凸状部を形成する方法であって、レーザ光を透過する材料で構成され、前記凸状部に対応する0.4μm以上の最大深さを有するディンプルが型面に形成された型部材の前記型面を前記被加工物の加工面に密着させる第1のステップと、大気圧よりも圧力が低い加工雰囲気の中で、前記型部材を介して前記被加工物にレーザ光を照射し、レーザ照射位置の前記被加工物をガラス転移点以上の温度に加熱して膨張させる第2のステップと、前記型部材を前記被加工物から取り除く第3のステップと、を備え、ガラス素材から成る被加工物の表面に、前記ディンプルに対応するディンプル対応凸状部を形成することを特徴とする。
レーザ光が照射されたガラス表面は、軟化して型部材の凹状部の中に膨張し、そのために型部材の凹状部に対応する凸状部がガラス表面に転写される。加工雰囲気を大気圧より低くすることで、型形状に忠実な転写が可能になる。
【0013】
また、本発明のレーザインプリント方法では、前記第2のステップにおけるレーザ光の照射を、前記型部材の型面に前記被加工物の加工面を0.24MPa以上の圧力で押し付けながら行うようにしても良い。
型部材への押付け圧力を大きくすると、型部材の凹状部の細かい形状が被加工物に転写される。
【0014】
また、本発明のレーザインプリント方法では前記加工雰囲気を0.06kPa以下に保つことで、極めて忠実な転写が可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ガラス表面に型形状を転写する際に、レーザ光線を照射してガラスの表面部分のみを局所的に軟化させている。そのため、エネルギーロスを伴わずに、ガラス鏡面の所望局所に、効率的に型形状を転写することができ、レーザ照射域以外の状態は維持しながら、ガラス部品の高付加価値化を図ることができる。
レーザ加工では、3次元方向の加工形状に制約があるが、本発明のレーザインプリント方法は、レーザ加工での形状精度の向上を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のレーザインプリント装置及び方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、このレーザインプリント装置の模式図であり、図2は、この装置によるレーザインプリント方法を模式的に示す図である。
このレーザインプリント装置は、表面に微細加工を施す加工試料23と、型面に複数の凹状部22が形成された型部材21と、型部材21の型面を加工試料23に密着させる治具30と、レーザ光13を出力するパルスYAGレーザ11と、加工試料23に照射するレーザ光13をフォーカスするレンズ12と、弾性波の伝播を検出するAE(Acoustic Emission)センサ31と、レーザ光13を検出するフォトセンサ32と、AEセンサ31及びフォトセンサ32の検出結果を表示する表示装置33とを備えている。
【0017】
パルスYAGレーザ11は、λ=1064nm、パルス幅:1ms~5msのレーザ光を出力する。
加工試料23には、YAGレーザの吸収率が100%のリン酸ガラスを用いている。リン酸ガラスは光学フィルタの材料として広く使用されている。この加工試料23の組成を図3(a)に、また、物性を図3(b)に示している。
型部材21には、ソーダ石灰ガラス板を使用し、その型面に微細な多数の凹状部22を作製した。図4(a)には、型面にレーザ加工とエッチングとを施して形成した微細凹状部の光学顕微鏡での観察結果を示している。1個の凹状部は、最大深さ0.4μm、直径20μmの凹状曲面を有し、この凹状部がピッチ40μmで並んでいる。図4(b)に凹状部の測定結果を示している。
また、図5(a)には、ソーダ石灰ガラスにビッカース圧子を荷重100gfで10秒間押し当てて作製した凹状部の光学顕微鏡での観察結果を示している。この凹状部は、対角線の長さ16μm、中央部の深さ2μmの四角錐形状を有している。図5(b)に四角錐形状の測定結果を示している。
【0018】
これらの型部材21を用いて、レーザインプリントは、図2の手順で行う。
即ち、凹状部22を形成した型部材21の型面が加工試料23に密着するように治具30で固定した後(図2(a))、パルスYAGレーザ11が出力するパルスレーザを加工試料23に照射して、加工試料23の表面を加熱する(図2(b))。ここでは、パルスYAGレーザ11の出力を0.18J/p、パルス幅を1msに設定し、また、レンズ12を調整して、レーザ光13のデフォーカス量(焦点から照射面までの距離)を加工試料23の上面から4mm上方に設定している。
【0019】
ガラスは、図6に示すように、常温の状態から加熱すると、温度上昇に伴って体積が増加し、その増加の割合が転移点Tgを境に急増する(実線)。また、転移点Tg以上の温度から急速に冷却すると、常温に戻っても膨張した体積が維持される(点線)。
レーザパルスによるガラスの加熱・冷却は、msのオーダーで終了する。その間に図6の性質を備えた加工試料23(リン酸ガラス)は、レーザパルスにより瞬時に転移点(597℃)以上に加熱され、軟化・膨張して型部材21の凹状部22を充填する。そして、膨張した体積は、レーザのパルスが停止した後も維持される。
そのため、型部材21を加工試料23から外すと、加工試料23の表面には、型部材21の凹状部22に対応した凸状部24が形成されている(図2(c))。
【0020】
図7(a)は、図4の型部材21を用いてレーザインプリントを実施したときに、加工試料23の表面に形成された凸状部24の光学顕微鏡での観察結果を示している。円形の範囲内がレーザの照射された領域(転写部)であり、この領域内に多数の凸状部が形成されている。この凸状部の測定結果を図7(b)に示している。各凸状部の高さは0.3μm、直径は20μmであり、この凸状部がピッチ40μmで並んでいる。従って、型部材21の凹状部22の形状は、加工試料23の表面に転写されている。
また、図8(a)は、四角錐形状の凹状部22を持つ図5の型部材21を用いてレーザインプリントを実施したときに、加工試料23の表面に形成された凸状部24の光学顕微鏡での観察結果を示している。図8(b)は、この凸状部の測定結果を示している。凸状部の対角線の長さは16μm、中央部高さは0.53μmであった。この凸状部24は、丸みを帯びており、四角錐の凹状部22の内部にまで加工試料23のガラスが充填されていないことが分かった。
【0021】
また、AEセンサ31、フォトセンサ32及び表示装置33は、このレーザインプリント装置の加工状況を把握するために使用される。フォトセンサ32は、照射されるレーザ光13の強さを検出し、AEセンサ31は、膨張する加工試料23と型部材21との衝突や、型部材21からの加工試料23の剥離に際して発生する弾性波を検出する。
例えば、レーザ光13のデフォーカス量を設定する場合に、デフォーカス量を色々と変えたときの加工状況を測定し、測定結果に基づいて、その装置に合ったデフォーカス量を決定することができる。
【0022】
図9(a)は、デフォーカス量を加工試料23の上面から3mm上方の位置に設定し、型部材21を介して加工試料23にレーザ光線を照射したときのレーザ光線(L)とAE信号(A)との時間的な変化を示している。レーザ光線の強さは、パルス幅1msの間に上昇し、且つ、下降している。
レーザ光線が上昇を開始してから300μsが経過した時点で、極めて短時間だけAEが発生している。これは、レーザ照射で膨張した加工試料23が型部材21に押し当たって発生したものと考えられる。従って、レーザを照射したときの加工試料23(リン酸ガラス)の膨張は、極めて短時間に発生していることが分かる。
また、レーザ光線の下降時期に当たる、レーザ照射開始から700μsが経過した時点で、大きなAEが発生している。このAEは、レーザ照射開始から1200μsが経過した後も続いている。これは、冷却に伴う型部材21と加工試料23との剥離過程で、型部材21または加工試料23にクラックが発生していることを示している。図9(b)は、このときの、クラックが発生した加工試料23の光学顕微鏡での観察結果を示している。
【0023】
また、図9(c)は、デフォーカス量を加工試料23の上面から4.5mm上方の位置に設定し、型部材21を介して加工試料23にレーザ光線を照射したときのレーザ光線(L)とAE信号(A)との時間的な変化を示している。この場合は、レーザ光線の上昇開始から300μsが経過した時点での短時間のAE発生は認められるが、レーザ光線の下降時期でのクラック発生を示すAEは現れていない。図9(d)は、このときに得られた加工試料23の光学顕微鏡での観察結果を示している。
【0024】
このように、AEセンサ31を用いてレーザインプリント装置の加工状況を把握することにより、クラックの発生を伴わずにレーザインプリントを行うための、各装置に合った加工条件を設定することができる。
なお、ここで示したレーザ装置の種類、加工試料の素材、型部材の素材等は、一例であって、本発明は、それに限定されるものではない。
【0025】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態では、加工試料の表面に転写される凸状部の形状を、型部材の凹状部の形状に更に近づけるための工夫について説明する。
図8で説明したように、第1の実施形態の場合は、加工試料のガラスが、型部材の凹状部の内部まで十分に充填されていない状況が見られる。
そこで、第2の実施形態では、型部材の凹状部の深さをd、加工試料の表面に形成された凸状部の高さをhとするとき、「転写率=h/d」と定義して、この転写率の向上を可能にするレーザインプリント装置について説明する。
転写率の低下は、型部材の凹状部を占める空気が、加工試料の凹状部内への膨張を妨げていることが一つの要因と考えられる。
【0026】
そのため、この装置は、図10に模式的に示すように、真空ポンプで排気できるチャンバ40を備えており、このチャンバ40の中に治具30や型部材21、加工試料23を配置している。
治具30は、型部材21と加工試料23とが密着するように螺子止めし、型部材21と加工試料23とを加圧する。レーザ装置11から出力されたレーザ光13は、レンズ12によりデフォーカス量を調整する。そして、所定圧力に減圧したチャンバ40の中で、レーザ光13を、型部材21を介して加工試料23に照射することにより、レーザインプリントを行う。
なお、ここでは、加工試料23及びレーザ装置11に、第1の実施形態と同じ、リン酸ガラス及びパルスYAGレーザを使用し、また、型部材21には、熱に強く(転移点:1650℃)、YAGレーザ(λ=1064nm)の透過率が高い(透過率:97%)石英ガラスを用いている。
【0027】
図11(a)は、型部材21に形成した凹状部22(ディンプル)の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)での観察結果を示している。図11(b)は、このディンプルの測定結果を示している。ディンプルの平均寸法は10μm×7μm、深さは1.49μmである。
チャンバ40中の気圧は、0.06kPa~101kPa(大気圧)の範囲内で設定した。また、パルスYAGレーザ11の出力は、0.18J/p、パルス幅は1msに設定し、レーザ光13のデフォーカス量は、加工試料23の上面から3mm上方に設定した。
【0028】
図12(a)は、チャンバ40中の気圧を0.06kPaに維持してレーザインプリントを実施したときに加工試料23の表面に形成された凸状部のSEM観察結果を示している(ここでは、レーザ照射領域に生じた円盤状の隆起部を「転写部」と呼び、「転写部」の中に形成された個々の凸状部を「ディンプル対応凸部」と呼ぶことにする。)。図12(b)は、転写部内のディンプル対応凸部を拡大して示している。
一方、図13(a)は、チャンバ40中の気圧を101kPa(大気圧)に設定してレーザインプリントを実施したときの加工試料23の転写部を示し、図13(b)は、この転写部内のディンプル対応凸部を拡大して示している。
【0029】
大気圧中のレーザインプリントでは、図13(a)に示すように、転写部の周辺にクラックが発生している。これに対して、チャンバ40中の気圧を0.06kPaに設定した場合は、図12(a)に示すように、クラックの発生は見られない。また、図12(b)及び図13(b)を比較して明らかなように、101kPa(大気圧)の場合は、成形不良のディンプル対応凸部が、0.06kPaのときに比べて、4倍以上の確率で発生している。
【0030】
図14は、各ディンプル対応凸部の転写部の中心からの距離と、そのディンプル対応凸部の転写率との関係を、チャンバ40の気圧が101kPaの場合、及び0.06kPaの場合に分けて示している。
転写率は、いずれの場合も、転写部の中心部から外周部に行くに連れて低下するが、0.06kPaの場合は、中心から32μm以内の領域で転写率が95%以上であり、中心から87μm以内の領域で転写率が85%以上である。一方、101kPa(大気圧)の場合は、転写率95%以上は、中心から11μm以内の領域であり、転写率85%以上は、中心から76μm以内の領域である。また、転写部の中心からの距離が130μmの位置にあるディンプル対応凸部の転写率を比較すると、101kPaの場合は転写率が21%、0.06kPaの場合は転写率が55%である。
これらの測定結果から、低真空下での転写加工は、転写率の向上に寄与していることが分かる。特に、転写部の外周部では、低真空下での転写加工により、転写率が大きく向上する。
【0031】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態では、型部材に対する加工試料の押付け圧力と転写率との関係について説明する。
図15は、この実施形態のレーザインプリント装置を模式的に示し、図15(a)は転写処理開始前の状態、図15(b)は転写処理実施中の状態を示している。
この装置は、加工試料23を型部材21に密着させる治具としてエアシリンダ34を備えており、このエアシリンダ34で加工試料23を型部材21の型面に押し付けながら、レーザ光13の照射が行われる。
ここでは、パルスYAGレーザの出力を0.18J/p、パルス幅を1msに設定し、レーザ光13のデフォーカス量を加工試料23の上面から2mm上方に設定し、また、エアシリンダ34による押付け圧力を0.24MPa~1.5MPaに設定している。なお、転写加工雰囲気は大気中である。
【0032】
図16(a)は、型部材21に形成したディンプルのSEM観察結果を示している。ここでは、このように型部材として、ディンプル底面に1μm以下の微細な形状があるものを用いている。図16(b)は、ディンプル形状の測定結果を示している。ディンプルの平均寸法は9μm×3.6μm、深さは1.14μmである。
図17は、エアシリンダ34による押付け圧力を0.49MPaに設定して転写処理を実施したときの加工試料表面に形成されたディンプル対応凸部を示している。
また、図18は、エアシリンダ34による押付け圧力を1.5MPaに設定して転写処理を実施したときの加工試料表面に形成されたディンプル対応凸部を示している。
【0033】
押付け圧力が0.24MPa~0.49MPaの範囲では、転写部にクラックの発生は見られなかったが、1.5MPaの場合はクラックの発生が見られた。
一方、押付け圧力が1.5MPaの場合は、図18に示すように、転写部の中心のディンプル対応凸部に1μm以下のディンプル底面の凹凸が転写されているが、押付け圧力が0.49MPaの場合は、図17に示すように、この凹凸が見られない。
図19は、各ディンプル対応凸部の転写部の中心からの距離と、そのディンプル対応凸部の転写率との関係を、押付け圧力が1.5MPaの場合、0.49MPaの場合、及び、0.24MPaの場合に分けて示している。
【0034】
これらの結果から、型部材に対する加工試料の押付け圧力を大きくすれば微細形状の転写が可能になること、しかし、この押付け圧力が大きいと転写部の外周部の転写率が低下することが分かる。
このように、型部材に対する加工試料の押付け圧力は、レーザインプリント装置の加工条件を定めるパラメータの一つとなり得るものであり、加工雰囲気の気圧やデフォーカス量等と組み合わせて、装置に合った加工条件を設定することにより、高精度のインプリントが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ガラスを素材とする表面機能製品の効率的な製造を可能にするものであり、微小光学素子、マイクロレンズアレイ、回折格子など、各種の表面機能製品の製造に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザインプリント装置の模式図
【図2】本発明の第1の実施形態に係るレーザインプリント方法を示す模式図
【図3】加工試料の組成(a)及び物性(b)を示す図
【図4】型部材に形成された凹状部を示す図
【図5】型部材に形成された四角錐形状の凹状部を示す図
【図6】転移点付近のガラスの体積変化を示す図
【図7】図4の型部材により加工試料に転写された凸状部を示す図
【図8】図5の型部材により加工試料に転写された凸状部を示す図
【図9】(a)クラック発生時のAE信号とレーザ波形、(b)クラックが発生した転写画像 (c)クラック発生無しの時のAE信号とレーザ波形、(d)クラック発生無しの転写画像
【図10】本発明の第2の実施形態に係るレーザインプリント装置の模式図
【図11】型部材に形成されたディンプルを示す図
【図12】0.06kPaの雰囲気中で転写された転写部(a)と、ディンプル対応凸部(b)とを示す図
【図13】101kPaの雰囲気中で転写された転写部(a)と、ディンプル対応凸部(b)とを示す図
【図14】転写部中心からの距離と転写率との関係を示す図
【図15】本発明の第3の実施形態に係るレーザインプリント装置の模式図
【図16】型部材に形成されたディンプルを示す図
【図17】押付け圧力0.49MPaで転写されたディンプル対応凸部を示す図
【図18】押付け圧力1.5MPaで転写されたディンプル対応凸部を示す図
【図19】転写部中心からの距離と転写率との関係を示す図
【符号の説明】
【0037】
11 パルスYAGレーザ
12 レンズ
13 レーザ光
21 型部材
22 凹状部
23 加工試料
30 治具
31 AEセンサ
32 フォトセンサ
33 表示装置
34 エアシリンダ
40 チャンバ
図面
【図3】
0
【図6】
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【図10】
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【図14】
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【図19】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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