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明細書 :赤外光検出器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5240748号 (P5240748)
公開番号 特開2008-205106 (P2008-205106A)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月17日(2013.7.17)
公開日 平成20年9月4日(2008.9.4)
発明の名称または考案の名称 赤外光検出器
国際特許分類 H01L  31/10        (2006.01)
FI H01L 31/10 E
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2007-038176 (P2007-038176)
出願日 平成19年2月19日(2007.2.19)
審査請求日 平成22年1月21日(2010.1.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小宮山 進
【氏名】アン センファ
【氏名】上田 剛慈
個別代理人の代理人 【識別番号】100077805、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 辰彦
【識別番号】100081477、【弁理士】、【氏名又は名称】堀 進
【識別番号】100099690、【弁理士】、【氏名又は名称】鷺 健志
【識別番号】100109232、【弁理士】、【氏名又は名称】本間 賢一
【識別番号】100125210、【弁理士】、【氏名又は名称】加賀谷 剛
審査官 【審査官】瀬川 勝久
参考文献・文献 特開2001-060699(JP,A)
Z.AN et al.,A sensitive double quantum well infrared phototransistor,Journal of Applied Physics,2006年,100,p.044509
調査した分野 H01L 31/00-31/119
特許請求の範囲 【請求項1】
2次元電子層としての第1電子層と、入射赤外光に応じて前記第1電子層に垂直な振動電場成分を生成することにより、前記第1電子層における電気的な孤立領域の電子を励起し、前記孤立領域に形成されている量子井戸のサブバンドの間で遷移させる励起機構と、前記励起機構により励起された電子が前記孤立領域から流出した結果として前記孤立領域の帯電量が変化することによって電気伝導度が変化する、前記第1電子層の下方に配置された第2電子層とを備え、前記第2電子層の電気伝導度の変化を検出することにより前記入射赤外光を検出する赤外光検出器において、
外部電子系から前記孤立領域への電子の流入が抑制または禁止されている遮断状態と、前記外部電子系から前記孤立領域への電子の流入が許容されている接続状態とを、前記第2電子層の電気伝導度の変化の検出結果に基づく赤外光検出時に切り替える状態制御機構を備え
前記状態制御機構が、
前記第1電子層の上方において前記孤立領域と、前記第1電子層における前記外部電子系との接続領域とを区分するように形成された第1ゲート電極と、
前記第1ゲート電極に印加されるバイアス電圧を制御することにより、前記第1電子層において前記孤立領域と前記接続領域との間に形成される電位障壁の高低を調節する第1電圧制御装置とを備えていることを特徴とする赤外光検出器。
【請求項2】
請求項記載の赤外光検出器において、
前記第1電子層と前記第1ゲート電極との重なり領域の面積と、前記第1ゲート電極に印加されるバイアス電圧とが第1条件を満たすように制限され、
前記第1条件は、前記第1ゲート電極へのバイアス電圧の印加により入射赤外光がない状態で前記孤立領域の帯電量が変化することが回避されるという条件であることを特徴とする赤外光検出器。
【請求項3】
請求項1または2記載の赤外光検出器において、
前記状態制御機構が、前記第2電子層または前記第2電子層に接続されているオーミックコンタクトを前記外部電子系として、前記遮断状態と前記接続状態とを赤外光検出時に切り替えることを特徴とする赤外光検出器。
【請求項4】
請求項1~のうちいずれか1つに記載の赤外光検出器において、
前記状態制御機構が、前記遮断状態における前記第2電子層の電気伝導度の変化態様に基づいて前記遮断状態を前記接続状態に切り替えることを特徴とする赤外光検出器。
【請求項5】
請求項1~のうちいずれか1つに記載の赤外光検出器において、
前記第1電子層が、前記第2電子層の電気伝導度を測定するために前記第2電子層に接続されているソース電極およびドレイン電極のそれぞれに接続され、
前記第1電子層の上方において前記孤立領域と、前記第1電子層における前記ソース電極および前記ドレイン電極のそれぞれとの接続領域とを区分するように形成された第2ゲート電極と、
前記第2ゲート電極に印加されるバイアス電圧を制御することにより、前記第1電子層において前記孤立領域と前記接続領域との間に電位障壁を形成する第2電圧制御装置とを備えていることを特徴とする赤外光検出器。
【請求項6】
請求項記載の赤外光検出器において、
前記第2ゲート電極に印加されるバイアス電圧が第2条件を満たすように制限され、
前記第2条件は前記第2電子層における電位障壁の形成が回避されるという条件であることを特徴とする赤外光検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者により次に説明する現象を利用した赤外光検出器が提案されている(たとえば、特許文献1、非特許文献1および非特許文献2参照)。すなわち、赤外光がマイクロストリップ・アンテナ等によって量子ドット等、周囲から電気的に孤立した2次元電子層に集中される。これにより孤立2次元電子層に垂直な振動電場が生成される。そして、孤立2次元電子層における電子がこの振動電場により励起されて基底サブバンドから励起サブバンドに遷移し、さらに孤立2次元電子層からその直下に配置された電荷敏感トランジスタのソース電極等に脱出する。これにより孤立2次元電子層が正に帯電する。そして、孤立2次元電子層から脱出する電子数が徐々に増加することにより孤立2次元電子層の帯電量も徐々に増加し、さらには電荷敏感トランジスタの電気伝導度も増加する。
【0003】
当該現象を利用した赤外光検出器によれば、単一の赤外光子がアンテナに入射されたことが電荷敏感トランジスタの電流変化に基づいて検知されうるので、赤外光が高感度で検出されうる。

【特許文献1】国際公開公報 WO2006/006469A1
【非特許文献1】“Infrared phototransistor using capacitively coupled two-dimensional electron gas layers(An et al.)” Appl.Phys.Lett.86,172106(2005)
【非特許文献2】“A sensitive double quantum well infrared phototransistor(An et al.)” J.Appl.Phys.100,044509(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この赤外光検出器によれば、赤外光検出が開始されてから比較的短時間で電荷敏感トランジスタの電流変化率が飽和してしまうため、赤外光感度には限界が生じることが判明した。
【0005】
そこで、本発明は、前記のような限界を超えた、赤外光感度のさらなる向上を図りうる赤外光検出器を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、2次元電子層としての第1電子層と、入射赤外光に応じて該第1電子層に垂直な振動電場成分を生成することにより、該第1電子層における電気的な孤立領域の電子を励起し、該孤立領域に形成されている量子井戸のサブバンドの間で遷移させる励起機構と、該励起機構により励起された電子が該孤立領域から流出した結果として該孤立領域の帯電量が変化することによって電気伝導度が変化する、該第1電子層の下方に配置された第2電子層とを備え、該第2電子層の電気伝導度の変化を検出することにより該入射赤外光を検出する赤外光検出器に関する。
【0007】
本願発明者は、次に説明するような原因によって前記赤外検出器の赤外光感度に限界が生じることを研究によって知見した。すなわち、赤外光検出器への赤外光の入射が継続する結果、第1電子層において周囲から電気的に孤立している孤立領域から流出する電子数が徐々に増加することによって当該孤立領域の帯電量が徐々に増加する。これにより、孤立領域に形成されている量子井戸における励起サブバンドのエネルギーレベルが徐々に低下して第2電子層等、電子の脱出先のエネルギーレベルに近づく。このため、孤立領域から電子が徐々に脱出しにくくなってこの孤立領域の帯電量が飽和する。そして、赤外光がさらに入射してもそれ以上は第2電子層の電気伝導度が変化せず、当該電気伝導度の測定に基づく赤外光検出を続行できなくなる。
【0008】
そこで、当前記研究成果に鑑みて、前記課題を解決するための第1発明の赤外光検出器は、外部電子系から前記孤立領域への電子の流入が抑制または禁止されている遮断状態と、前記外部電子系から前記孤立領域への電子の流入が許容されている接続状態とを、前記第2電子層の電気伝導度の変化の検出結果に基づく赤外光検出時に切り替える状態制御機構を備え、前記状態制御機構が、前記第1電子層の上方において前記孤立領域と、前記第1電子層における前記外部電子系との接続領域とを区分するように形成された第1ゲート電極と、前記第1ゲート電極に印加されるバイアス電圧を制御することにより、前記第1電子層において前記孤立領域と前記接続領域との間に形成される電位障壁の高低を調節する第1電圧制御装置とを備えていることを特徴とする。
【0009】
第1発明の赤外光検出器によれば、赤外光入射により、遮断状態において第1電子層の孤立領域の帯電量、ひいては第2電子層の電気伝導度の変化率が飽和する前に、この遮断状態が接続状態に切り替えられうる。これにより、外部電子系から孤立領域に電子が流出し、当該電子が孤立領域にたまっていた正電荷と結合することにより孤立領域の帯電量が速やかに0にリセットされる。
【0010】
その後、接続状態から遮断状態に切り替えられることにより、孤立領域の量子井戸における励起サブバンドのエネルギーレベルが、励起サブバンドに遷移した電子が再び第1電子層の孤立領域から流出しうる程度に十分に高い状態に復帰する。そして、第2電子層の電気伝導度の変化が再び検出されうるようになる。
【0011】
したがって、赤外光検出時に遮断状態および接続状態が交互に切り替えられ、遮断状態における第2電子層の電気伝導度の変化が累積的に検出されることによって、前記のような限界を超えた赤外光感度の向上が図られる。
【0013】
さらに、第1ゲート電極にバイアス電圧が印加されることにより、前記第1電子層において孤立領域と、外部電子系との接続領域との間に電位障壁が形成されうる。また、バイアス電圧が調節されることによって電位障壁の高低または有無が調節され、その結果、孤立領域が外部電子系から電気的に遮断された状態と、孤立領域が外部電子系に電気的に接続された状態とが切り替えられうる。
【0014】
発明の赤外光検出器は、第発明の赤外光検出器において、前記第1電子層と前記第1ゲート電極との重なり領域の面積と、前記第1ゲート電極に印加されるバイアス電圧とが第1条件を満たすように制限され、前記第1条件は、前記第1ゲート電極へのバイアス電圧の印加により入射赤外光がない状態で前記孤立領域の帯電量が変化することが回避されるという条件であることを特徴とする。
【0015】
発明の赤外光検出器によれば、第1電子層と第1ゲート電極との重なり領域の面積と、遮断状態を実現するために第1ゲート電極に印加されるバイアス電圧とが「第1条件」を満たすように制限されている。これにより、第1ゲート電極へのバイアス電圧の印加により、入射赤外光が無い状態で孤立領域の帯電量が変化する事態が回避される。
【0016】
具体的には、第1ゲート電極へのバイアス電圧の印加により、第1電子層において第1ゲート電極の下方領域から孤立領域に押し込められる電子数が抑制される。第1電子層において第1ゲート電極の下方領域から孤立領域に電子が押し込められるとは、第1電子層において当該下方領域に形成される電位障壁によって電子が周囲に排除されるような領域が広がることで、孤立領域が実質的に狭まることを意味する。その結果(1)電子の押し込みによる孤立領域の電子の濃縮によって、入射赤外光の有無にかかわらず当該孤立領域における正の帯電量が減少するあるいは負の帯電量が増加する事態が回避される。また(2)電子の押し込みによる孤立領域の電子の濃縮によって当該孤立領域におけるフェルミ準位が上昇し、一部の電子が孤立領域から第2電子層等に脱出する事態が回避される。そして、入射赤外光がないときに孤立領域の帯電量、ひいては第2電子層の電気伝導度が変化する事態が回避されるので、赤外光の検出感度が高く維持される。この効果は、サイズが小さい赤外光検出器の感度を高く維持するために特に有意義である。
【0017】
発明の赤外光検出器は、第1または第2発明の赤外光検出器において、前記状態制御機構が、前記第2電子層または前記第2電子層に接続されているオーミックコンタクトを前記外部電子系として、前記遮断状態と前記接続状態とを赤外光検出時に切り替えることを特徴とする。
【0018】
発明の赤外光検出器によれば、遮断状態において第1電子層の孤立領域から第2電子層または第2電子層に接続されたオーミックコンタクトに電子を流出させることによって、前記のように孤立領域の帯電量および第2電子層の電気伝導度を変化させることができる。一方、接続状態において第2電子層または当前記オーミックコンタクトから第1電子層の孤立領域に電子を流入させることによって、前記のように孤立領域の帯電量を0にリセットすることができる。
【0019】
発明の赤外光検出器は、第1~第発明の赤外光検出器のうちいずれか1つにおいて、前記状態制御機構が、前記遮断状態における前記第2電子層の電気伝導度の変化態様に基づいて前記遮断状態を前記接続状態に切り替えることを特徴とする。
【0020】
発明の赤外光検出器によれば、遮断状態において第2電子層の電気伝導度の変化率が飽和する前に、遮断状態が接続状態に切り替えられるので、当前記飽和の影響を除去することによる赤外光の検出精度の向上が図られる。
【0021】
発明の赤外光検出器は、第1~第発明の赤外光検出器のうちいずれか1つにおいて、前記第1電子層が、前記第2電子層の電気伝導度を測定するために前記第2電子層に接続されているソース電極およびドレイン電極のそれぞれに接続され、前記第1電子層の上方において前記孤立領域と、前記第1電子層における前記ソース電極および前記ドレイン電極のそれぞれとの接続領域とを区分するように形成された第2ゲート電極と、前記第2ゲート電極に印加されるバイアス電圧を制御することにより、前記第1電子層において前記孤立領域と前記接続領域との間に電位障壁を形成する第2電圧制御装置とを備えていることを特徴とする。
【0022】
発明の赤外光検出器によれば、第2ゲート電極にバイアス電圧が印加されることにより、第1電子層において孤立領域と、ソース電極およびドレイン電極のそれぞれとの接続領域との間に電位障壁が形成される。そして、当前記バイアス電圧が調節されることにより電子障壁の高低または有無が調節され、その結果、孤立領域をソース電極、ドレイン電極および第2電子層から電気的に遮断された状態に維持することができる。
【0023】
発明の赤外光検出器は、第発明の赤外光検出器において、前記第2ゲート電極に印加されるバイアス電圧が第2条件を満たすように制限され、前記第2条件は前記第2電子層における電位障壁の形成が回避されるという条件であることを特徴とする。
【0024】
発明の赤外光検出器によれば、第2ゲート電極に印加されるバイアス電圧が第2条件を満たすように制限されている。これにより、第2ゲート電極にバイアス電圧が印加されることにより第2電子層にまで電位障壁が形成される事態が回避され、その結果、赤外光の検出感度が高く維持される。

【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の赤外光検出器の実施形態について図面を用いて説明する。
【0026】
まず、赤外光検出器の構成について説明する。図1に示されている赤外光検出器100は、第1電子層102と、第2電子層104と、パッチアンテナ(またはマイクロストリップ・アンテナのパッチ部)110と、第1ゲート電極111と、第2ゲート電極112と、第1電圧制御装置(またはパルスジェネレータ)113と、第2電圧制御装置114とを備えている。説明の便宜のために図1に示されているようにx軸、y軸およびz軸を定義する。
【0027】
赤外光検出器100は、たとえば前記特許文献1に開示されている構成の半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板から作成されているので、図2(a)および図2(b)に示されているような層構造を有している。すなわち、当該基板においては上部絶縁層(GaAs層+Si-Al0.3Ga0.7As層)101、第1電子層(GaAs層)102、中間層(AlxGa1-xAs層)103、第2電子層(GaAs層)104、下部絶縁層(Al0.3Ga0.7As層+Si-Al0.3Ga0.7As層+Al0.3Ga0.7As層)105およびn型GaAs基板106が上から順にヘテロ接合された構造となっている。中間層103の組成比xは、遮断状態の初期において基板の深さ方向(-z方向)について図3(a)に示されているようなエネルギーダイヤグラムが形成されるように調節されている。
【0028】
第1電子層102は図1に示されているように矩形状の孤立領域10の左右両側に一対の幅広の翼状領域が接続され、かつ、孤立領域10から幅狭の帯領域が延設された略T字形状に形成されている。第1電子層102は2次元電子層であり、遮断状態の初期において孤立領域10には図3(a)に示されているように-z方向に量子井戸が形成され、基底サブバンド(エネルギー順位ε0)および励起サブバンド(エネルギー準位ε1)が形成されている。
【0029】
第2電子層104は第1電子層102と同じく略T字形状に形成されており、第1電子層102の下方に同じ姿勢で配置されている。第2電子層104も2次元電子層であり、遮断状態の初期において図3(a)に示されているように-z方向について第1電子層102の孤立領域10に形成されている量子井戸における励起サブバンドよりも低いエネルギーレベルを有する。
【0030】
第1電子層102および第2電子層104は、一方の翼状部分の端部において第1オーミックコンタクト(ソース電極)122に接続され、他方の翼状領域の端部において第2オーミックコンタクト(ドレイン電極)124に接続され、かつ、幅狭の帯領域の先端部において第3オーミックコンタクト126に接続されている。第1オーミックコンタクト122および第2オーミックコンタクト124に接続された電流計128によって第2電子層104の電流が測定される。
【0031】
パッチアンテナ110は第1電子層102の上方において孤立領域10の一部を覆うように形成されている。また、パッチアンテナ110は「励起機構」として、量子井戸が形成されている孤立領域10に赤外光子を集中させて第1電子層102に垂直な振動電場成分を生成することにより孤立領域10の電子を励起してサブバンド間で遷移させる。なお、励起機構としては、パッチアンテナ110のほか、グレーティングや基板(たとえば上部絶縁層101)に形成された傾斜角度45°の傾斜面等、入射赤外光から第1電子層102に垂直な電場成分を生成するためのさまざまな機構が採用されてもよい。
【0032】
第1ゲート電極111は第1電子層102の上方において、孤立領域10と、これから-y方向に延びる幅狭の帯領域(外部電子系との接続領域)とを区分するように形成されている。帯領域のx方向の幅と、第1ゲート電極111の当該帯領域にかかる部分のy方向の幅とは孤立領域10のx方向およびy方向のサイズと比較して十分に小さくなるように設定されている。これは、第1電子層102と第1ゲート電極111との重なり領域の面積を後述の「第1条件」が満たされるように制限するためである。
【0033】
第1電圧制御装置113は第1ゲート電極111にバイアス電圧を調節しながら印加する。第1ゲート電極111にバイアス電圧が印加されることにより、第1ゲート電極111の下方領域において第1電子層102の孤立領域10をy方向について電気的に遮断する電位障壁が形成される。第1ゲート電極111および第1電圧制御装置113は「状態制御機構」として、第2電子層104(「外部電子系」に該当する。)またはオーミックコンタクト122,124もしくは126から孤立領域10への電子の流入が抑制または禁止されている「遮断状態」と、第2電子層104等から孤立領域10への電子の流入が許容されている「接続状態」とを切り替える。
【0034】
第2ゲート電極112は第1電子層102の上方において孤立領域10とこれを挟む一対の翼状領域とを区切るように形成されている。第2電圧制御装置114は第2ゲート電極112にバイアス電圧を調節しながら印加する。第2ゲート電極112にバイアス電圧が印加されることにより、第2ゲート電極112の真下部分において、第1電子層102の孤立領域10をx方向について電気的に遮断する電位障壁が形成される。
【0035】
続いて、前記構成の赤外光検出器の機能について説明する。
【0036】
第1ゲート電極111にバイアス電圧V1Gが印加される。これにより、第1ゲート電極111の下方領域において孤立領域10をy方向について電気的に遮断する電位障壁が形成される。第1電子層102と第1ゲート電極111との重なり領域の面積と、第1ゲート電極111に印加されるバイアス電圧V1Gとが「第1条件」を満たすように制限されている。「第1条件」は、第1ゲート電極111へのバイアス電圧の印加により入射赤外光がない状態で孤立領域10の帯電量が変化することが回避されるという条件である。
【0037】
また、第2ゲート電極112にバイアス電圧V2Gが印加される。これにより、第2ゲート電極112の下方領域において孤立領域10をx方向について電気的に遮断する電位障壁が形成される。第2ゲート電極112に印加されるバイアス電圧V2Gは「第2条件」を満たすように制限されている。「第2条件」は第2電子層104における電位障壁の形成が回避されるという条件である。
【0038】
これによって第1電子層102の孤立領域10が周囲から電気的に孤立した状態になる。
【0039】
赤外光検出器100に赤外光が入射すると、パッチアンテナ110により第1電子層102に垂直な方向(z方向)に振動電場が形成される。この振動電場により孤立領域10の電子が励起され、図3(a)に上向き矢印で示されているように孤立領域10に形成されている量子井戸の基底サブバンドから励起サブバンドに遷移する。励起サブバンドに遷移した電子は図3(a)に破線矢印で示されているように量子井戸の電位障壁をトンネルした後、中間層103におけるエネルギー傾斜にしたがって第2電子層104に流入する。これにより孤立領域10が正に帯電またはイオン化する。すなわち、遮断状態において第1電子層102の孤立領域10および第2電子層104における孤立領域10の下方領域が中間層103を挟んだコンデンサとして機能し、孤立領域10に正電荷が蓄えられる。図4(a)には電子(黒丸)が矢印で示されているように孤立領域10から第2電子層104に流出し、孤立領域10に正電荷(白丸)が生じる様子が模式的に示されている。
【0040】
そして、赤外光検出器100への赤外光の入射が継続する結果として、前記のように第1電子層102の孤立領域10から第2電子層104に脱出する電子数が徐々に増加することにより、孤立領域10の帯電量が徐々に増加する。また、孤立領域10の帯電量の増加にともなって、第2電子層104において孤立領域10の下方領域における電子密度ひいては第2電子層104の電気伝導度が徐々に高くなる。このため、電流計128の測定値に基づいて第2電子層104の電気伝導度の変化を検出することにより赤外光が高感度で検出されうる。
【0041】
一方、孤立領域10の正の帯電量が徐々に増加することにより、第2電子層104のエネルギーに対する孤立領域10のエネルギーが徐々に低下する。これにより、エネルギーダイヤグラムが図3(a)に示されている状態から図3(b)に示されている状態に変化する。そして、孤立領域10における励起サブバンドのエネルギーレベルε1が低下して電子の脱出先である第2電子層104のエネルギーレベルに近づく。このため、第1電子層102の孤立領域10の電子が第2電子層104に脱出しにくくなり、孤立領域10の帯電量が飽和する。そして、赤外光がさらに入射してもそれ以上は第2電子層102の電気伝導度が変化せず、当該電気伝導度の変化率に基づく赤外光検出を続行できなくなる。図4(b)には孤立領域10に多数の正電荷(白丸)がたまってその帯電量が飽和した様子が模式的に示されている。
【0042】
そこで、第2電子層104の電気伝導度の変化率が飽和する前に、第1電圧制御装置113によって第1ゲート電極111に印加されているバイアス電圧が低下させられる。第1電圧制御装置113は、第2電子層104の電気伝導度の変化率が飽和するタイミングを電流計128の出力に基づいて検知する。このため「遮断状態」にあった第1電子層102の孤立領域10と、第2電子層104との間に存在した電位障壁が解消される。そして、孤立領域10が遮断状態から、第2電子層104等の外部電子系から孤立領域10への電子の流出が許容されている「接続状態」に切り替えられる。これにより、第2電子層104から第3オーミックコンタクト126を介して孤立領域10に電子が流入し、この電子が正電荷と結合することによって孤立領域10の帯電量が0に速やかにリセットされる。図4(c)には第2電子層104が第3オーミックコンタクト126を介して孤立領域10と電気的に接続され、電子(黒丸)が矢印で示すように孤立領域10に流れ込み、正電荷(白丸)と結合する様子が模式的に示されている。
【0043】
その後、孤立領域10が接続状態から遮断状態に切り替えられることにより、エネルギーダイヤグラムが図3(b)に示されている状態から図3(a)に示されている状態に復帰する。すなわち、孤立領域10における励起サブバンドのエネルギーレベルε1が、励起サブバンドに遷移した電子が孤立領域10から第2電子層104に流出しうる程度に十分に高い状態に復帰する。
【0044】
図5には液体ヘリウム温度環境下において、さまざまな強度の入射赤外光に応じた、第2電子層104の電気伝導度の変化率ΔG[μS]が、第1電子層102の遮断状態および接続状態を繰り返しながら時系列的に測定された結果が示されている。電気伝導度の変化率ΔGは第1電子層102の遮断状態において徐々に増加していき、第1電子層102が接続状態に切り替えられてその帯電量が0にリセットされることで0付近に低下するというサイクルが繰り返されている。この実験結果から明らかなように、第1電子層102の遮断状態および接続状態が交互に切り替えられ、第1電子層102の遮断状態における、第2電子層104の電気伝導度の変化ΔGが累積的に検出されることによって赤外光検出器100の感度の著しい向上が図られる。
【0045】
また、第1電子層102と第1ゲート電極111との重なり領域の面積と、第1ゲート電極111に印加されるバイアス電圧V1Gとが「第1条件」を満たすように制限されている。これにより、第1ゲート電極111へのバイアス電圧V1Gの印加により、入射赤外光が無い状態で孤立領域10の帯電量が変化する事態が回避される。
【0046】
具体的には、第1ゲート電極111へのバイアス電圧V1Gの印加により、第1電子層102において第1ゲート電極111の下方領域から孤立領域10に押し込められる電子数が抑制される。第1電子層102において第1ゲート電極111の下方領域から孤立領域10に電子が押し込められるとは、第1電子層102において当該下方領域に形成される電位障壁によって電子が周囲に排除されるような領域が広がることで、孤立領域10が実質的に狭まることを意味する。その結果(1)電子の押し込みによる孤立領域10の電子の濃縮によって入射赤外光の有無にかかわらず、孤立領域10における正の帯電量が減少するあるいは負の帯電量が増加する事態が回避される。また(2)電子の押し込みによる孤立領域10の電子の濃縮によって孤立領域10におけるフェルミ準位が上昇し、一部の電子が孤立領域10から第2電子層104に脱出する事態が回避される。そして、入射赤外光がないときに孤立領域10の帯電量、ひいては第2電子層104の電気伝導度が変化する事態が回避されるので、赤外光の検出感度が高く維持される。この効果は、サイズが小さい赤外光検出器100の感度を高く維持するために特に有意義である。
【0047】
さらに、第2ゲート電極112に印加されるバイアス電圧V2Gが「第2条件」を満たすように制限されている。これにより、第2ゲート電極112にバイアス電圧V2Gが印加されることにより第1電子層102のみならずその下方にある第2電子層104にまで電位障壁が形成される事態が回避され、その結果、赤外光の検出感度が高く維持される。
【0048】
なお、前記実施形態では第2電子層104の電子が孤立領域10に流入することによって孤立領域10の帯電量が0にリセットされたが、他の実施形態として第1オーミックコンタクト(ソース電極)122や第2オーミックコンタクト(ドレイン電極)124等、第2電子層104とは別の外部電子系の電子が孤立領域10に流入することによって孤立領域10の帯電量が0にリセットされてもよい。たとえば、図6に示されているように第1電子層102において、第2ゲート電極112を回避し、かつ、第1ゲート電極111を経由して孤立領域10と第1オーミックコンタクト122とを電気的に接続するループ部分127が形成される。これにより、第1ゲート電極111に印加されるバイアス電圧の調節によって、第1オーミックコンタクト122の電子がループ部分127を介して孤立領域10に流れ込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の赤外光検出器の主要部の構成説明図
【図2】本発明の赤外光検出器の断面図
【図3】本発明の赤外光検出器のエネルギーダイヤグラム
【図4】本発明の赤外光検出器の機能説明図
【図5】本発明の赤外光検出器の実験結果の説明図
【図6】本発明の赤外光検出器(他の実施形態)の主要部の構成説明図
【符号の説明】
【0050】
100‥赤外光検出器、102‥第1電子層、104‥第2電子層、110‥パッチアンテナ(励起機構)、112‥第2ゲート電極、111‥第1ゲート電極(状態制御機構)、116‥電圧制御装置(同)、122‥第1オーミックコンタクト(ソース電極)、124‥第2オーミックコンタクト(ドレイン電極)、126‥第3オーミックコンタクト
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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