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明細書 :レーザ・アークハイブリッド溶接方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4915766号 (P4915766)
公開番号 特開2007-050448 (P2007-050448A)
登録日 平成24年2月3日(2012.2.3)
発行日 平成24年4月11日(2012.4.11)
公開日 平成19年3月1日(2007.3.1)
発明の名称または考案の名称 レーザ・アークハイブリッド溶接方法
国際特許分類 B23K  26/20        (2006.01)
B23K  26/00        (2006.01)
B23K   9/067       (2006.01)
B23K   9/16        (2006.01)
B23K   9/173       (2006.01)
FI B23K 26/20 310C
B23K 26/00 N
B23K 9/067
B23K 9/16 K
B23K 9/173 C
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2005-239111 (P2005-239111)
出願日 平成17年8月19日(2005.8.19)
審査請求日 平成20年8月13日(2008.8.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】塚本 進
【氏名】杉野 友洋
【氏名】荒金 吾郎
【氏名】中村 照美
審査官 【審査官】山崎 孔徳
参考文献・文献 特開2003-025081(JP,A)
米国特許第05006688(US,A)
特開2005-219082(JP,A)
特開2002-192363(JP,A)
調査した分野 B23K 26/00 - 26/42
B23K 9/067
B23K 9/16
B23K 9/173
特許請求の範囲 【請求項1】
パルスアーク電流およびパルスアーク電圧と同期してパルスレーザ出力を変化させるレーザ・アークハイブリッド溶接方法において、パルスアーク出力が大きい状態ではパルスレーザ出力を低下させ、パルスアーク出力が小さい状態ではパルスレーザ出力を大きくし、かつアーク出力がベース出力からピーク出力に変化する時点より遅延した時点でレーザ出力をピーク出力からベース出力に変化させることを特徴とする溶接方法。

【請求項2】
レーザのベース出力が0となることを特徴とする請求項1に記載されたレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
【請求項3】
アーク出力がベースからピークに変化した時点よりレーザ出力がピークからベースに低下する時点までの遅延時間が0.01ms~50msの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載されたレーザ・アークハイブリッド溶接方法。
【請求項4】
アーク出力がベースからピークに変化した時点よりレーザ出力がピークからベースに低下する時点までの遅延時間がピーク電流およびピーク電圧の時間に対して0.01%~50%の範囲にあることを特徴とする請求項1または2のレーザ・アークハイブリッド溶接方法。










発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この出願の発明はパルスアーク放電によって発生する熱を利用して溶接を行う方法において、被溶接物の表面におけるアーク発生部およびその周辺部にパルスレーザを同期して照射するレーザ・アークハイブリッド溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は高エネルギー密度を持ったレーザを熱源とするため高溶接速度で深い溶込み深さを得ることができるし、溶融幅が狭いため溶接に伴う熱影響や熱変形が小さく高品質な溶接部が得られる。反面、このレーザ溶接は装置の価格が高いことや高い開先精度が要求されるなどコスト面で従来の溶接法と比較してデメリットがある。
【0003】
また一方、アーク溶接は溶込み深さや溶接速度、熱変形、熱影響といった点でレーザ溶接に劣るが安いコストで溶接が可能でありフィラーワイヤの添加により溶接金属の組成が制御できることや高い開先精度を必要としないこと等の優れた特徴がある。このレーザ溶接とアーク溶接の両者の長所を活かした方法として、アークとレーザを被溶接物の表面に同時に照射するレーザ・アークハイブリッド溶接がある。
【0004】
このレーザ・アークハイブリッド溶接の長所を生かして安定した状態で溶接を行うためには、アークとレーザの出力の制御が不可欠であるとされており、この点に関する技術が数多く研究されている(非特許文献1および2)。たとえば、パルスアーク溶接のピーク期間Tpの開始時点または開始時点から予め定められた遅延時間を経過した時点からパルスレーザのレーザ出力期間Trを同期して開始するパルスレーザ照射パルスアーク溶接法(特許文献1および2)やアーク電流をベース電流が流れる期間とピーク電流が流れる期間とが繰り返される脈動電流にするとともにアーク電流の脈動に同期してアーク電流がピーク電流となる時にアーク電極直下へレーザを照射する方法(特許文献3)等も特許出願されている。

【特許文献1】: 特開2003- 25081号公報
【特許文献2】: 特開2004- 9061号公報
【特許文献3】: 特開2003-311415号公報
【非特許文献1】:D.Petring et.al.,Proc.of ICALEO 2003,A-301(2003) 「Investigations and Applications of Laser-Arc Hybrid Welding from Thin Sheets up to Heavy Section Components」, Promoted by Laser Institute of America.
【非特許文献2】:D.Petring et.al.,Proc.of PICALO 2004 「RECENT PROGRESS AND INNOVATIVE SOLUTIONS FOR LASER-ARC HYBRID WELDING」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ・アークハイブリッド溶接では溶接部の近傍にレンズや放物面鏡のようなレーザを集光するための光学系が使用されているが、溶接部から多くのスパッターが激しく発生すると高価な集光光学器具が破損するため、スパッターの発生を極力抑制することが必要である。このスパッターが発生するか否かは溶接ワイヤから溶滴をいかに離脱させるか、すなわち溶滴の移行現象によって大きく左右される。このため、アーク熱源としては、例えば、図1に示されているような電圧および電流が周期的に変動するパルスアークを用いて1パルスで1溶滴を落とす方法やスプレー移行等の方法が望ましい。
【0006】
また、熱源としてアークだけを使用する場合には、図1に示されているような電圧や電流の波形を調整して最適化することによりスパッターの発生を少なくすることができる。
【0007】
ところが、熱源としてレーザとアーク(レーザ・アークハイブリッド)を用いる場合は、レーザプルームとアークの相互作用により溶滴移行が不安定となるために溶融池に電極が短絡したりスパッターが発生したりする等の好ましくない現象が発生していた。
【0008】
この出願の発明は、このような不安定に溶滴移行されていたものを確実に安定化させてスパッターの発生を大幅に抑制するとともに、使用する熱量を少なくして熱変形や熱影響を抑制したレーザ・アークハイブリッド溶接法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、パルスアーク電流およびパルスアーク電圧と同期してパルスレーザ出力を変化させるレーザ・アークハイブリッド溶接方法において、アーク出力がベース出力からピーク出力に変化する時点より遅延した時点でレーザ出力をピーク出力からベース出力に変化させる溶接方法を提供する。
【0010】
第2には、レーザのベース出力が0となる上記のレーザ・アークハイブリッド溶接方法を提供する。
【0011】
第3には、アーク出力がベースからピークに変化した時点よりレーザ出力がピークからベースに低下する時点までの遅延時間が0.01ms~50msの範囲にある上記のレーザ・アークハイブリッド溶接方法を提供する。
【0012】
第4には、アーク出力がベースからピークに変化した時点よりレーザ出力がピークからベースに低下する時点までの遅延時間がピーク電流およびピーク電圧の時間に対して、0.01%~50%の範囲にある上記のレーザ・アークハイブリッド溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記第1のレーザ・アークハイブリッド溶接方法の発明によれば、スパッターの発生を大幅に抑制するとともに、使用する熱量が少なく熱変形や熱影響が抑制される溶接方法を提供することができる。
【0014】
上記第2のレーザ・アークハイブリッド溶接方法の発明によれば、上記効果に加えて、レーザのベース出力を0にすることによりさらにスパッターの発生および熱変形や熱影響を抑制することができる。
【0015】
上記第3および4のレーザ・アークハイブリッド溶接方法の発明によれば、上記効果に加えて、レーザ出力がピークからベースに低下する時点までの遅延時間を特定することにより、スパッターの発生を容易に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この出願の発明は、パルスアーク出力が大きい状態ではパルスレーザ出力を低下させ、パルスアーク出力が小さい状態ではパルスレーザ出力を大きくすることにより、レーザをアークプラズマに吸収されることなく効率的に被溶接材料に照射することを特徴とするものである。さらに、この出願の発明は、パルスアーク出力がベースからピークに立ち上がった時点から短時間経過後にレーザの出力を0もしくは0に近い程度にまで減少することによりレーザプルームの発生が抑制されてアーク電流の低下がなく、円滑に溶滴移行することにより、スパッターの発生が抑制することをも特徴とするものである。
【0017】
この出願の発明は、このような構成を設けることにより、短絡やアーク長の不安定な変動を抑制することができスパッターの発生を大幅に抑制することが可能になると同時に、より少量の熱量で深溶込み溶接が可能となるため、溶接による熱変形や熱影響を低減することができるという特徴を有している。この出願の発明はアーク電圧およびアーク電流と同期するようにレーザの出力を変化させるようにした熱源を用いて溶接することを特徴とするものであるがこの出願の発明を図1~図10に従ってさらに詳しく説明する。
【0018】
図1はパルスアーク溶接時におけるアーク電圧とアーク電流を模式的に示したものであるが、パルスアークを用いてレーザ・アークハイブリッド溶接を行うに際し、アーク(2)がピークアーク出力時は通常図2に示されているようにワイヤ(4)の延長線上に向かって発生する。一方、ベースアーク出力時のアーク(2)はアーク電圧が低いために図3に示されているように電離電圧の低い金属蒸気が多く存在するレーザプルーム(3)を通って被溶接材料に通電する。このため電圧が低いベース出力時においてもアーク(2)は安定的にしかも持続して被溶接材料に供給されることになる。
【0019】
しかしながら、レーザ(1)出力が高くなった時や被溶接材料の組成に蒸発しやすい元素が含まれている場合は、レーザ(1)により形成されるレーザプルーム(3)が大きくなり、ピークアーク出力時にも引き続いてアーク(2)がレーザプルーム(3)中を通電することがある。図4はレーザ・アークハイブリッド溶接におけるピークアーク出力時とベースアーク出力時のアークの電圧—電流特性を示したものであるが、ピークアーク出力時では、通常図2のようにアーク(2)がワイヤの延長線上に向かって発生するため比較的アーク長の短いA点で動作するがベースアーク出力時にはアーク(2)がレーザプルーム(3)を通って被溶接材料に通電するため実質的にアーク長が長くなり図4のB点で動作する。そして、溶接が正常に行われている場合にはA点とB点の間を交互に繰り返すことにより安定な溶滴移行が行われることになる。
【0020】
図5は正常に溶接が行われている場合のアーク電圧および電流の波形を示したものであるが、アーク出力がベースからピークに切り替わってごく短時間t1の間にアークが図3の状態から図2に移行し、正常な大きなアーク(2)電流が流れていることが示されている。
【0021】
このレーザ・アークハイブリッド溶接では大きなレーザプルーム(3)が形成される場合や、ピーク時のアーク電圧が小さい場合は、図3に示されているようにアーク出力がベースからピークに移行しても引き続きアーク(2)がレーザプルーム(3)中を通電する状態が続くことになるため、実質的なアーク長が長くなりピーク出力時の動作点は、図4のC点となり電流が極端に小さくなる。図6はこの時のアーク電圧とアーク電流の波形を示したものであるが、アーク出力がベースからピークに切り替わった後tの時間アークがレーザプルーム中を通電するため電流が低く1パルスあたりの積算電流値が極端に小さくなり、ワイヤ(4)先端で溶融が進まず溶滴がワイヤ先端から離脱できなくなる。
【0022】
図7はこの現象がさらに続いた状態を示したものであるが、3パルスにわたって低い電流が流れている。このため、この間にワイヤの溶融がほとんど進まず、かつワイヤは一定速度で送られるため、図7の星印(☆)で示されている位置でワイヤと溶融池の短絡が起こり大きなスパッターが発生している状態であることが示されている。
【0023】
図8はこの出願の発明におけるアーク電圧、アーク電流およびレーザ出力の状態を模式的に示したものであるが、この出願の発明は、図8に示されているような出力波形が矩形波だけでなく他の任意の波形においても達成することができることは言うまでもない。
【0024】
この出願の発明は、このようにアーク出力がベースからピークに立ち上がったごく短時間td経過後にレーザの出力を0もしくは小さな値にすることによりレーザプルームの発生を抑制して、アークとレーザプルームの相互作用によるアーク電流が低くなり円滑な溶滴移行が行われなくなるという現象を確実に抑制することができるレーザ・アークハイブリッド溶接を提供するものである。
【0025】
この出願の発明を実施例を用いてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0026】
ピーク電圧43V、ベース電圧15V、繰り返し周波数111Hz、デューティサイクル30%のパルスアークとCO2レーザを用いて、レーザ・アークハイブリッド溶接を行った。母材には、JIS SM490Aを用い、アーク・レーザ照射位置間の距離を3mm、溶接速度3m/min、アーク先行で溶接を行った。レーザは5kWの一定出力の場合と、図8に示すようにアークと逆位相でレーザの出力を変化させ、かつ時間tを0.5msに設定した。レーザのピーク出力は5kW、ベース出力は0で行った。
【0027】
図10は一定出力のレーザを用いた場合の結果であるが、ピークアーク出力域においてもアークがレーザプルームを通電する状態が持続する場合があり、アーク電流が極端に減少して溶滴移行が安定でないためスパッターの発生が多いことが示されている。
【0028】
これに対して、図9はこの出願の発明によるレーザ出力変動を用いた場合の結果を示したものであるがレーザ出力が5kWから0に低下した時点で、確実にアークが図3の状態から図2の状態に移行し、常に同等のアーク電流がパルス状に安定して流れており溶滴移行が非常に安定しておりスパッターはほとんど発生していない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この出願の発明により、小熱量で、レーザ・アークハイブリッド溶接が可能となるため、溶接に伴う変形や熱影響を軽減できる。また、安定した溶滴移行が可能となり、高品質な溶接部がより安価に得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】パルスアーク溶接時のアーク電圧とアーク電流の態様を示したものである。
【図2】レーザ・アークハイブリッド溶接時におけるピークアーク出力時のアークの挙動を示したものである。
【図3】レーザ・アークハイブリッド溶接時におけるベースアーク出力時のアークの挙動を示したものである。
【図4】パルスアーク溶接時のピーク出力とベース出力における電圧—電流特性を示したものである。
【図5】レーザ・アークハイブリッド溶接時の正常時におけるアーク電流とアーク電圧の波形を示したものである。
【図6】レーザ・アークハイブリッド溶接時の異常時におけるアーク電流とアーク電圧の波形を示したものである。
【図7】レーザ・アークハイブリッド溶接時の異常時におけるアーク電流とアーク電圧の波形を示したものである。
【図8】この発明のレーザ・アークハイブリッド溶接時におけるアーク電圧とアーク電流およびレーザ出力の波形を示したものである。
【図9】この発明のレーザ出力を変動した時のアーク電圧とアーク電流およびレーザ出力の波形を示したものである。
【図10】レーザ・アークハイブリッド溶接において、レーザ出力を一定にした時のアーク電圧とアーク電流およびレーザ出力の波形を示したものである。
【符号の説明】
【0031】
1: レーザ
2: アーク
3: レーザプルーム
4: ワイヤ
5: 溶滴
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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