TOP > 国内特許検索 > 二酸化炭素の固定化方法 > 明細書

明細書 :二酸化炭素の固定化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5131721号 (P5131721)
公開番号 特開2007-075773 (P2007-075773A)
登録日 平成24年11月16日(2012.11.16)
発行日 平成25年1月30日(2013.1.30)
公開日 平成19年3月29日(2007.3.29)
発明の名称または考案の名称 二酸化炭素の固定化方法
国際特許分類 C01B  31/24        (2006.01)
B01D  53/62        (2006.01)
B01J  19/00        (2006.01)
FI C01B 31/24
B01D 53/34 135A
B01J 19/00 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2005-269279 (P2005-269279)
出願日 平成17年9月15日(2005.9.15)
審査請求日 平成20年9月8日(2008.9.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】江場 宏美
【氏名】桜井 健次
審査官 【審査官】三崎 仁
参考文献・文献 特開2002-257480(JP,A)
国際公開第03/050393(WO,A1)
特開2004-358390(JP,A)
特表2005-527724(JP,A)
調査した分野 C01B31/20-31/24
B01D53/34-53/85
B01J19/00
特許請求の範囲 【請求項1】
クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅の群から選択される一の金属からなり、粒径50μm以下の微粒子と水と二酸化炭素とを接触させ、前記金属の原子価をより高い価数にするように反応させて、前記金属の炭酸塩を含む物質を生成させ、二酸化炭素が炭酸塩となることを特徴とする、二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
記微粒子が、機械的な粉砕により作られたものであることを特徴とする、請求項1に記載する二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記微粒子を容器内に入れ、前記容器内に二酸化炭素を満たし、純水を加えて、前記金属の炭酸塩を含む物質を生成させることを特徴とする、請求項1又は2に記載する二酸化炭素の固定化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、環境の浄化に寄与するものであり、二酸化炭素を固定化する方法に関する。
詳しくは、本発明は、鉄をはじめとする金属や合金、あるいはこれらの金属混合物など各種金属を用いて、常温・常圧で二酸化炭素を効果的に固定化することのできる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境悪化が問題となってきた。地球温暖化の防止が叫ばれ、京都議定書の批准に象徴されるように化石燃料・石油エネルギー消費規制による二酸化炭素排出を抑制する条約の締結をめぐって各国間の利害にまで発展している。すなわち、二酸化炭素など温室効果ガスによる地球温暖化や排気ガスによる環境汚染が顕在化してきた昨今、化石燃料使用に伴う二酸化炭素の大気中への排出を抑制するために、二酸化炭素を吸収・固定する手段、技術が求められている。
【0003】
二酸化炭素を吸収・固定する方法としては、各種の吸収材料が研究されており、例えば、リチウムの複酸化物により化学的に吸収することが提案されている(例えば特許文献1)。さらにまた、二酸化炭素の固定方法として、深海や地中などに貯蔵する方法や、また植物の光合成を科学的に模倣したいわば人工光合成による固定法が提案されている。
【0004】
しかしながら、二酸化炭素をリチウム複酸化物等の材料で吸収・固定する上記提案は、吸収材料の質量あたりの二酸化炭素吸収量には限界があり、一方で削減すべき膨大な二酸化炭素の量を考慮した場合、膨大な量の吸収材料の確保を必要とし、この材料に依存した提案は、該吸収材料を製造するためのコストとエネルギーも膨大となり、現実的に実効性のある提案であるとは言いがたく、実際、その使用されているリチウム複酸化物は、永久的な固定化というよりは、二酸化炭素を吸収したあと二酸化炭素を放出して次のプロセスへ受け渡すという一時的分離剤・回収剤としての利用というのが実態であるにすぎない。
【0005】
最後に挙げた深海等に貯蔵する方法や、人工光合成などによるシステムについては、前者についてはシステム的にも大規模、複雑になるために即効性という意味では難があること、後者については研究が緒についたばかりで、実用化への課題が多いことから、いずれも温暖化対策として直ちに実効性を伴った提案であるとは言いがたい。
【0006】
この様な背景のもとに本発明者等においては、実効性のある二酸化炭素固定化手段を開発するべく鋭意研究した結果、金属体または低原子価の金属を含む物質体にひずみを与えたり、変形させたり、破壊させたりできる程度の大きさの機械的衝撃ないし応力を加え、水を接触させることにより、金属と水とが反応し、水素を発生することができること、さらにその際、水とともに二酸化炭素を導入することによって、二酸化炭素は金属の安定な炭酸塩として転換され、これによって固定化しうることを知見し、これらの知見に基づいて先に特許出願をした(特願2005-212332)。しかし、この先の出願に係る発明は、あくまでも、機械的エネルギーを付与することによって、反応を促すことを要件としているものであった。その結果、機械的エネルギー付与態様として機械的衝撃を与える場合、衝撃によって金属を含む物質体が微粒子化することがあり得るとしても、その意義、作用効果は、機械的エネルギーが与えられた場での反応によるものであって、機械的エネルギーが付与されていない場における金属微粒子が独立して同様の作用効果を奏しうるとは考えてはいなかった。
【0007】

【特許文献1】特開2003-326159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等の提案による先の特許出願に係る発明をさらに検討した結果、金属と水の存在による二酸化炭素固定化反応は、機械的衝撃エネルギーを与えずとも、原料とする金属の形態にも依存して自立的に進行しうることを見いだした。すなわち、金属が微粒子であるとき反応が自立的に進行することを見いだした。勿論、この知見によって機械的エネルギー付与による先の発明を否定するものではないが、機械的エネルギーを付与せずとも同様の反応が生じうることを知見した意義は大きい。すなわち、機械的エネルギー付与による発明に対し格別の意義を有するものであることは明白であり、独立した発明として区別され、成立しうるものであり得る。
【0009】
この発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、機械的エネルギー付与によらない二酸化炭素吸収システムを提言しようというものである。
当然のことであるが、エネルギーのいらない二酸化炭素吸収システムの確立を図ることは、それ自体意義がある。先行技術で示したように特定の吸収材料による二酸化炭素固定化システムでは、今後膨大な量の吸収剤の確保が必要であることと、吸収剤が特別な組成や構造、形態をもつものであるために確保に要するコスト、エネルギーも膨大となり、コスト的にもエネルギー的にも極めて問題であるのに対し、本発明は、このような問題のない全く新しい二酸化炭素固定化システムを提供しようというものである。

【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、上記したとおり本発明者らにおいて鋭意研究した結果、金属または低原子価の金属を含む物質の微粒子または微粒子の凝集体を水および二酸化炭素と接触させることにより、水素を発生するとともに二酸化炭素は金属の安定な炭酸塩として転換され、これによって固定化しうることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものであって、その構成は、以下の通りである。
(1) クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅の群から選択される一の金属からなり、粒径50μm以下の微粒子と水と二酸化炭素とを接触させ、前記金属の原子価をより高い価数にするように反応させることによって、前記金属の炭酸塩を含む物質を生成させ、二酸化炭素が炭酸塩となることを特徴とする、二酸化炭素の固定化方法。
(2) 前記微粒子が、機械的な粉砕により作られたものであることを特徴とする、(1)に記載する二酸化炭素の固定化方法。
(3) 前記微粒子を容器内に入れ、前記容器内に二酸化炭素を満たし、純水を加えて、前記金属の炭酸塩を含む物質を生成させることを特徴とする、(1)又は(2)に記載する二酸化炭素の固定化方法。

【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記した構成により金属の微粒子と水と二酸化炭素との反応によって、水素の発生と共に二酸化炭素を金属の炭酸塩として固定化することができる。すなわち、金属表面における水との反応によって、水素が発生すると共に生成した金属イオンと炭酸イオンとが反応して炭酸塩を作ることができ、従来、二酸化炭素を化学的に吸収するに際しては、特別な吸収材料を調製する必要があったことと対比すると、本発明は、特別な組成や構造の吸収材料を用意しなくても、二酸化炭素を吸収・固定できるという格別の作用効果が奏せられる。また20℃前後の室温でも効率よく吸収させることができ、加熱も不要でありうるという特長をもつものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施の態様に基づいて詳しく説明、言及する。
本発明を実施するにおいて、金属としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、マンガン、亜鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、錫、鉛、銅、銀、インジウム、ガリウ
ム、ゲルマニウム、ランタン、セリウムなどが考えられる。中でもマグネシウム、アルミニウム、チタン、マンガン、亜鉛、鉄は活性が高く、また地球上に多く存在するためこれらを多く含む金属は金属材料としても普及しているので、本発明の方法や装置において利用しやすい。
【0013】
それらの中でも特に鉄は、元素としては地殻中に豊富にあり、安価、無害であるために、鉄鋼材料、ステンレスなどとして生活の中のあらゆるところで使われている。消費量が高いためにスクラップも増えており、その有効利用は課題になっているところであるが、本発明における金属として用いることができる。
【0014】
本発明で利用しえる金属は単体や純金属である必要はなく、2種以上の金属元素からなる合金であってもよい。各金属を分離・精製しなくても、各金属が同時に本発明の作用を示すこともあれば、より効果的に働く金属が主として作用を示すこともある。鉄に銅、亜鉛、ニッケルなどの金属が混ざった鉄鋼スクラップは製鋼原料としての再利用が容易でないためリサイクル率は悪いが、本発明では元素組成を気にせず利用することができる。生成する炭酸塩は、反応に使用した金属粒子の含有成分に対応し、金属粒子含有成分を含む金属の炭酸塩が生成しうる。金属粒子が複数の元素を含む場合、複数の金属元素を含む炭酸塩、複合炭酸塩が生成しえる。
【0015】
また本発明で利用しえる金属は非金属元素を含む合金相、樹脂他の繊維状や粒子状の素材の分散した複合材料、さらに合成樹脂、油などの混在した混合体を用いてもよい。つまり、それらの中に含まれる金属の抽出、精製などをしなくても、金属以外の不純物が混在したままでも金属が反応しさえすれば、目的を達成することができる。
【0016】
本発明において、低原子価の金属を含む物質とは、いわゆる0価の金属だけでなく、複数の原子価をとることのできる例えばクロム、マンガン、鉄、コバルト、銅などにおいて、価数の低いものを意味し、これらはより原子価の高い状態へ変化することで水の還元を行うことができるものを意味するものである。
【0017】
また本発明において微粒子とは、サイズが小さく質量あたりの表面積である比表面積が大きいものを指しており、比表面積が大きいほど反応が進みやすい。微粒子のサイズとしては例えば後述する実施例で開示したように、典型的には直径で表したときに1~50マイクロメートルのものが挙げられる。しかしながら、前記粒子径は、あくまでも一例であり、この開示した例によって限定されることはない。すなわち、本発明における微粒子とは、結果的に反応が生じたか否かによって決定され、反応が生じうる限界までの径までは本発明の微粒子と定義され得る。
【0018】
また微粒子の形状としては球形、球状には限られず、比表面積が大きいならばどのような形状のものでもよく、不規則な形状のものや、板状、膜状、針状、繊維状などであってもよい。
【0019】
さらに微粒子が凝集していても凝集体全体の比表面積が大きければよく、外見上はバルク状であっても多孔質体であればよい。
【0020】
スクラップ鉄に代表されるような金属廃材等の大きな固体状、バルク状の金属を原料として本発明の金属として利用するには、機械的な粉砕によって微粒子化して調達することができる。
【0021】
本発明を実施する上において温度条件は、特に制限はなく、例えば20℃の室温においても前記反応が進行しえる。
【0022】
以上述べたように、本発明は、上記構成によって特有な作用効果が奏せられ、従来技術と比較すると数々の利点を備えていることは明らかであり、これによって、今日地球的規模で問題となっている温暖化対策として課題となっている二酸化炭素排出ガスの固定化に対して非常に有利であり、今後予想される規制に対して充分に応えうる提案をなしたものである。
【0023】
原理的には、金属は電気的に陽性であるために酸化され易く、金属イオンとして水中に溶け出すとともに水が還元されて水素ガスが発生することは周知である。一方、二酸化炭素は水に溶けて炭酸を生成し、炭酸イオン(CO2-)が金属イオンと反応して炭酸塩を生成することも周知である。
【0024】
例えば、ナトリウムのようなアルカリ金属は非常に活性が高い。しかし、アルカリ金属は、水と激しく反応するため取り扱いが容易ではない。このような場合には、水に例えば水酸化ナトリウムのような塩基を予め加えてpHを高くし、水素イオン濃度を低くしてお
けば反応を和らげることができる。pHを高くすると炭酸からの炭酸イオンの生成(H2CO3→2H++CO32-)も促進されるため、二酸化炭素の水への溶解・吸収(CO2+H2
O→H2CO3)と炭酸塩の生成が促進される効果もあって都合がよい。勿論pH調整以外にも、激しい反応を抑制しうる手段が講じられれば適用することができる。
【0025】
一方、アルカリ金属に比べて相対的にイオン化傾向の小さい金属は取り扱い易く、そのためにそれ自身が構造材料等として利用されているわけであるが、アルカリ金属ほどでないにしても活性が高いため、それを利用して本発明のような反応を起こすことができる。
【0026】
現実的に十分な反応速度をもたせ、またトータルの反応量を増やすためには、金属を微細化するなどして、反応場である表面の面積を増やすことは有効な手段である。したがって微粒子を用いることで、常温でも効率的に炭酸塩を生成することができる。
【0027】
本発明は、以上記載したように、室温において二酸化炭素を固定化することができるが、その反応において使用する金属としては、スクラップのような使用済み金属材や不純物を含む金属を原料として用いることができ、高度な化学反応操作のように精製された純粋な原料を確保する等のことも必要なく、原料の確保は極めて容易であり、またその取り扱いも注意を要するといったこともない。
【0028】
また、本発明の方法を実施する装置設計としては、反応成分を収容し、反応場を提供しうる構造のものならば全く制限はなく、その構造は単純でよい。例えば図1に示すように、反応容器(1)に固相として金属粉(2)、液相として水(3)、気相として二酸化炭素(4)を供給し、反応容器内においてこれらの反応材料を接触させる。そして反応後に金属炭酸塩(5)を取り出すことができる。このとき同時に水素(6)が発生する。反応系を加熱する必要がないため、装置に加熱機構はいらないばかりか、電力などのエネルギー消費もない。ただし、反応容器の振とうすることによって反応成分の接触・移動・拡散が促進され、効率的に反応を行うことができるので好ましい。あるいは、振とうによらず、反応成分を循環するシステムでも同様に反応効率を高めることが出来る。反応様式についても、特に制限はない。典型的には、金属粒子を固定させた固定床に、上から水を流し、下から二酸化炭素をバブリングする態様でもよい。あるいは、水あるいは二酸化炭素を含む排ガスによって金属粒子の流動床を形成する態様でもよい。さらには振とうミル装置に、反応材料を連続的/あるいは回分式に供給する態様によっても良い。
【0029】
いずれにしても装置設計におけるスケールアップは極めて簡単で、二酸化炭素の処理量は、反応容器の容積と収容される反応成分量、二酸化炭素の分圧に依存し、大量の金属に
よる処理、大量の二酸化炭素固定が可能である。従来のように二酸化炭素吸収剤としての物質を合成したり、材料を調製したりして特別なものを用意する必要はなく、ありふれた金属を用いるだけでよく、二酸化炭素は、その使用する金属の炭酸塩として固定される。
【0030】
すなわち、二酸化炭素は、使用する金属の金属成分によって例えばFeCO3、MnC
3などの炭酸塩として固定されうる。しかも、二酸化炭素固定量は、FeCO3、MnCO3などの場合、金属1モルに対し二酸化炭素1モルの割合で固定されるため、1キログ
ラムの鉄ないしマンガンによって約800グラムの二酸化炭素を固定化することができる。よって、特許文献1で述べたリチウムオルトシリケートの二酸化炭素吸収能に比し極めて高いことも利点の一つとして挙げられる。
【0031】
ちなみに、特許文献1の二酸化炭素固定における反応は、以下(1)に示す反応式で表される。
Li4SiO4+CO2→Li2SiO3+Li2CO3・・・・(1)
この反応式によると、FeやMnによるのと同じだけの二酸化炭素を吸収するLi4
iO4吸収剤は重量にして2倍以上であり、体積にして約7倍に相当し、本発明の固定化
は、極めて高い固定能力を有している。
【0032】
さらに、本発明を実施するにおいて利用しえる金属としては、特段何らの制限はなく、何れの金属でもよい。工場やプラント等だけでなく、街角や各家庭にも存在していて、すなわち地球上のどこにでもあるようなものである。したがって二酸化炭素の固定作業を大規模に進め易い。しかも不要となった金属廃材を利用することも可能である。不要とされて錆びる、すなわちただ酸化物になるよりは、二酸化炭素吸収に用いられれば廃物の有効利用にもつながり、省資源に適った方法、提案であるということができる。なお、ここでいう炭酸塩は、炭酸塩や炭酸水素塩のほか、例えば水酸化炭酸塩M2CO3・nMOHのように水酸化物塩と炭酸塩が複合したものなど、他の陰イオン等が混ざったものを含み得、排除するものでない。さらに、炭酸塩が水などの溶媒に溶けた炭酸塩水溶液などの状態で二酸化炭素を固定することも含みうる。
【0033】
日本国内において排出される二酸化炭素は、エネルギー転換部門すなわち発電所からの排出量が全体の32%(2003年のデータ。発電に伴い直接排出される二酸化炭素量。出典:温室効果ガスインベントリオフィス)を占め、本発明の方法を実施する装置を発電所に設置すると効果的に二酸化炭素削減ができる。上記排出量を二酸化炭素の重量に換算すると約4億トン/年に相当する。一方、現在日本国内では、年間3500万トンもの膨大なスクラップが発生しており、仮にこの2割(700万トン)を二酸化炭素固定に用いるとすると、560万トンの二酸化炭素を固定化することができる。これは上記の年間排出量の1.4%の削減に相当する。
また例えば、LNG(液化天然ガス)を燃料とする100万kW級の最新鋭火力発電所から排出される二酸化炭素量は1万1千トン/日と言われており、一時間あたりでは460トンである。この1%を吸収・固定化するには、約5.8トン/時間の鉄やマンガンを供給すればよい。
【0034】
本発明の方法を実施する装置を火力発電所に設置する方法としては一例として、排ガス管を反応容器(1)に接続し、排ガスを液相中に導入し通過させることで二酸化炭素が効果的に吸収される。反応容器(1)からは二酸化炭素を含有しないか低濃度に含む排ガスが環境中に排出される。液相中を通過中にガスがバブリングされることで、反応容器内の反応原料が攪拌され、物質移動・拡散が促進されて反応効率も上昇する効果もある。
【0035】
二酸化炭素固定の結果得られた炭酸塩は、無害であり、この後、コストのかかる二次処理、三次処理を要することなく、固定した状態のまま排出することができる。あるいは、二酸化炭素を固定後、保管・維持してもよいし、金属の酸化物と一酸化炭素とに熱分解させることで、一酸化炭素を各種反応原料等として有効利用することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。但し、これらの実施例は、あくまでも本発明を具体的に開示し、説明するためのものであり、本発明を限定する趣旨ではない。発明の要旨を変更しない限り、二酸化炭素固定化条件は、適宜条件を変更しえるものであり、この開示した実施例によって限定されることはない。
【0037】
実施例1;
容積300mlの気密性の高い蓋付き樹脂製ボトルに、粒径45μmの市販の鉄粉末(和光純薬工業(株)製097-04791、純度99.9%、Lot:EWN0818)20.0gを入れて純度99.95%の二酸化炭素を満たした後、純水(ミリポア社の純水装置Elixより採取)に二酸化炭素を飽和させたもの12mlを加え、1気圧の二酸化炭素雰囲気になるよう密閉した。この樹脂製ボトルを回転テーブル上に乗せて、室温において毎分200回転の公転運動と、その回転方向とは逆方向の同回転数の自転運動を行わることで攪拌を行った。攪拌を16時間続けた後、樹脂製ボトル内の気相のガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC-8A、ポラパック-N:2m+ポラパック‐Q:1mの複合カラムおよび、モレキュラシーブ5Aのカラムを使用)によって分析すると、二酸化炭素は検出されず、全て吸収されたことがわかった。なおこのガスクロマトグラフィーを用いて空気を分析すると、空気中に含まれる二酸化炭素(濃度330ppmと言われている)を容易に検出でき、検出限界は少なくともこの濃度よりは低く、ボトル内の二酸化炭素濃度は330ppmよりも明らかに低かったということになる。ガスクロマトグラフィーによるボトル内のガスの分析の結果、二酸化炭素のかわりに濃度96%以上の水素が確認され、二酸化炭素が消費されたと同時に、水素によって満たされたことがわかった。ボトルを50℃に加熱しながら内部を減圧することで、残った水を蒸発させて除いた。乾燥後に残った粉末について粉末X線回折実験(理学電機社製RINT-2500、CuKα線、12kW)を行ったところ、図2のX線回折パターンが得られ、未反応のま
ま残った原料の鉄(α-Fe)とともに、炭酸鉄(菱面体晶系FeCO3、鉱物名:菱鉄鉱)の存在が確認された。
反応式は(2)式で示される。
Fe + H2O + CO2 → FeCO3 + H2↑・・・・(2)
樹脂製ボトルの容積300mlに満たされた1気圧の二酸化炭素のモル数は、理想気体を仮定すると約13ミリモルであり、一方20gの鉄は360ミリモルであり大過剰である。したがって二酸化炭素が全て固定された一方、原料の鉄が余ったことはもっともな結果である。また12mlの水は670ミリモルであり、これも二酸化炭素に対して大過剰であったために余り、本実施例においては乾燥によって除くことで固体の炭酸鉄が得られた。なお、図2には酸化鉄(Fe3O4)の回折パターンも確認されるが、これは、16時間
よりも早い段階で二酸化炭素が完全に消費されて炭酸塩が生成し、その後、鉄と水とが二酸化炭素を介さずに反応を続けて水酸化物が生成し(Fe+2H2O →Fe(OH)2+H2↑)、さらに乾燥により酸化物が生成したものと考えられた。
【0038】
実施例2;
実施例1と同じボトルに、同じ鉄粉末10.0gを入れて二酸化炭素を満たし、二酸化炭素を飽和させた純水10mlを加えて、1気圧の二酸化炭素雰囲気になるよう密閉した。室温において毎分200回転の攪拌を行い、1時間おきに気相から0.1mlのガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフィーによって分析した。ガス濃度の変化を図3に示す。8時間後までの経時変化から、二酸化炭素が吸収されるとともに、この吸収量とほぼ等しい容量の水素が発生していることが確認された。攪拌を続けて、20時間後には既に全ての二酸化炭素が吸収されていることが確認された。
【0039】
実施例3;
実施例1、2と同じボトルに、粒径1~50μmの市販のマンガン粉末(フルウチ化学(株)製、純度99.9%、ロット番号:67130)8.0gを入れて二酸化炭素を満たした後、二酸化炭素を飽和させた純水10mlを加え、1気圧の二酸化炭素雰囲気になるよう密閉した。室温において毎分200回転の攪拌を3時間半行い、ガスクロマトグラフィーによって気相のガスを分析すると、二酸化炭素は検出されず、濃度97%の水素ガスが検出された。ボトル内にはベージュ色の析出物が生成しており、ろ過と乾燥により粉末を回収し、粉末X線回折実験を行った。図4のX線回折パターンのとおり、未反応のまま残った原料のマンガン(α-Mn)とともに、炭酸マンガン(菱面体晶系MnCO3、鉱
物名:菱マンガン鉱)の存在が確認された。
反応式は(2)式で示される。
Mn + H2O + CO2 → MnCO3 + H2↑・・・・(2)
8gのマンガンは150ミリモルであり反応開始前に導入した1気圧の二酸化炭素に比べて大過剰であるため、二酸化炭素が全て固定された一方、未反応のまま残った原料のマンガンが検出されたことがわかる。なお図4においてマンガンと炭酸マンガンによる回折線以外の線群は、酸化マンガン(Mn3O4およびMnO2)として同定されており、実施例1の
鉄での反応と同様、二酸化炭素を吸収してもなお余りあるマンガンと水とが反応した結果生じたものと考えられた。
【0040】
以上の結果から、粉末状の鉄またはマンガンと水、二酸化炭素とを室温において反応させることで、二酸化炭素が効果的に吸収され、炭酸鉄として回収できることが確認された。
【0041】
以上に示すとおり、金属の微粒子と水と二酸化炭素とを反応させることによって、二酸化炭素が炭酸塩として固定化されうることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上、本発明は金属と水と共に二酸化炭素を存在させ反応させることによって、炭酸塩を生成させ、二酸化炭素の固定化に成功したものである。加熱も不要であり、室温で反応を進めることができる。今日、地球温暖化対策としての二酸化炭素固定化技術を求める強いニーズに対して、これに応えられるシステムを開発したもので、その意義は極めて大である。
何よりも、本発明は固定化に際して電力他によるエネルギー付与が不要であり、また問題となる副生物も一切排出しないことから、極めて優れた提案であり、大いに注目され、実施されるものと期待される。しかも、その実施にあたっては格別入手困難な原料や装置に依存せず、ありふれた原材料とそれらを反応させるための容器があればよく、しかも、任意にスケールアップ可能である等数々の利点を有しており、国際間で大きな問題となってくる二酸化炭素排出規制問題に対して意義ある提案であり、今後、この技術は世界的に大いに普及し、産業界のみならず人類社会全般に広く利用され、実施されていくものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の二酸化炭素固定化プロセスの一実施態様の概略図面である。
【図2】鉄粉と水と二酸化炭素とを反応させた後に得られた固体のX線回折パターンである。
【図3】鉄粉と水と二酸化炭素とを反応させたときの気相におけるガス成分濃度の経時変化である。
【図4】マンガン粉と水と二酸化炭素とを反応させた後に得られた固体のX線回折パターンである。
【符号の説明】
【0044】
(1)反応容器
(2)金属粉
(3)水
(4)二酸化炭素
(5)金属炭酸塩
(6)水素
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3