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明細書 :高分子材料、その製造方法およびエレクトロクロミック素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5062712号 (P5062712)
公開番号 特開2007-112957 (P2007-112957A)
登録日 平成24年8月17日(2012.8.17)
発行日 平成24年10月31日(2012.10.31)
公開日 平成19年5月10日(2007.5.10)
発明の名称または考案の名称 高分子材料、その製造方法およびエレクトロクロミック素子
国際特許分類 C08G  79/14        (2006.01)
G02F   1/15        (2006.01)
C07D 213/06        (2006.01)
FI C08G 79/14
G02F 1/15 505
C07D 213/06
請求項の数または発明の数 10
全頁数 32
出願番号 特願2005-308291 (P2005-308291)
出願日 平成17年10月24日(2005.10.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
審査請求日 平成20年10月17日(2008.10.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】樋口 昌芳
【氏名】林 灯
【氏名】クルス ディルク ジー
審査官 【審査官】瀬下 浩一
参考文献・文献 国際公開第2004/041913(WO,A1)
樋口昌芳 他,π共役骨格を有する有機-金属複合高分子の合成と機能(1),日本化学会講演予稿集,2005年 3月11日,Vol.85, No.2,p.1012
J. Phys. Chem. B,1998年,Vol.102,pp.1387-1396
Inorg. Chem.,1992年,Vol.31,pp.3680-3682
Inorg. Chem.,1995年,Vol.34,pp.3339-3348
調査した分野 C08G 79/14
G02F 1/15
C07D 213/06
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
第1~第N(Nは2以上の整数)のビスターピリジン誘導体と、第1~第N(Nは2以上の整数)の金属イオンと、第1~第N(Nは2以上の整数)のカウンターアニオンとを含む式(6)で表される、エレクトロクロミック素子用高分子材料であって、
【化1】
JP0005062712B2_000016t.gif

ここで、M、…、M(Nは2以上の整数)は、それぞれ異なる第1~第Nの金属イオンであり、R、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R、…、R、R、…、R、R、…、R、R、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、n、…、nはそれぞれ重合度を表す2以上の整数であり、前記第1~第Nのカウンターアニオンは、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一である、高分子材料。
【請求項2】
前記R、…、Rのスペーサは、それぞれ、アリール基またはアルキル基である、請求項1に記載の高分子材料。
【請求項3】
前記アリール基は、
【化2】
JP0005062712B2_000017t.gif

式(2)~式(5)からなる群から選択される、請求項2に記載の高分子材料。
【請求項4】
式(8)に示される第1~第N(Nは2以上の整数)のビスターピリジン誘導体のそれぞれと、第1~第N(Nは2以上の整数)の金属イオンM~M金属塩のそれぞれとを、酢酸およびメタノール中でそれぞれ還流させる工程であって、
【化3】
JP0005062712B2_000018t.gif

ここで、M、…、M(Nは2以上の整数)は、それぞれ異なる第1~第Nの金属イオンであり、、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R、…、R、R、…、R、R、…、R、R、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、n、…、nはそれぞれ重合度を表す2以上の整数である、工程と、
前記それぞれ還流させる工程で得られた第1~第N(Nは2以上の整数)の反応物を混合する工程と
を包含する、エレクトロクロミック素子用高分子材料を製造する方法。
【請求項5】
前記R、…、Rのスペーサは、それぞれ、アリール基またはアルキル基である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アリール基は、
【化4】
JP0005062712B2_000019t.gif

式(2)~式(5)からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1の透明電極基板と、第2の透明電極基板と、前記第1の透明電極基板と前記第2の透明電極基板との間に位置する請求項1~3のいずれかに記載の高分子材料とを含む、エレクトロクロミック素子。
【請求項8】
第1の透明電極基板と、第2の透明電極基板と、前記第1の透明電極基板と前記第2の透明電極基板との間に位置する高分子材料とを含み、
前記高分子材料は、ビスターピリジン誘導体と、金属イオンと、カウンターアニオンとを含む式(1)で表され、
【化5】
JP0005062712B2_000020t.gif

ここで、Mは、前記金属イオンであり、Rは、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R、R、RおよびRは、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、nは重合度を表す2以上の整数である、エレクトロクロミック素子。
【請求項9】
前記スペーサは、アリール基またはアルキル基である、請求項8に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
前記アリール基は、
【化6】
JP0005062712B2_000021t.gif

式(2)~式(5)からなる群から選択される、請求項9に記載のエレクトロクロミック素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック特性を有する高分子材料、その製造方法、および、それを用いたエレクトロクロミック素子に関する。より詳細には、本発明は、電位を制御することによって容易に発色および消色を制御可能な高分子材料、その製造方法、および、それを用いたエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック特性を有する材料を利用した調光素子、表示素子等の光学デバイスの研究が盛んに行われている。このような材料には、酸化タングステンに代表される無機材料、ビオロゲンに代表される有機材料、導電性高分子材料がある。
【0003】
これらの材料を調光素子、表示素子等の光学デバイスに適用する場合、これら材料が発色と消色とを容易に切り替え可能であることが望ましい。しかしながら、無機材料および有機材料では、良好な消色(透明性)は得られるものの、発色が悪い。一方、導電性高分子材料では、良好な発色は得られるものの、消色(透明性)は悪い。これは、導電性高分子材料の導電性がπ電子共役系によるためである。すなわち、ノンドープの導電性高分子材料は、光吸収が強く、高分子自身が濃い黄色、赤色、緑色、藍色等の色を有しているためである。
【0004】
このような消色の問題を解決した導電性高分子材料を利用したエレクトロクロミック表示素子の技術がある(特許文献1を参照。)。特許文献1に記載の技術は、第1の透明電極と、第1の透明電極に接して設けられたグラフト導電性高分子層と、グラフト導電性高分子層に接触する電解質層と、第1の透明電極との間にグラフト導電性高分子層と電解質層とを挟んでなる第2の電極とを有するエレクトロクロミック表示素子を開示している。グラフト導電性高分子層は、主鎖である導電性高分子材料と共役系分子ペンダントとを金属または金属イオンを介して結合することによって形成されている。
【0005】
上記共役系分子ペンダントによって、導電性高分子材料は、固有のπ電子の結合状態を変化させるか、または、π-π*遷移エネルギーを変化させる。それにより、導電性高分
子材料による光吸収領域が短波長側または長波長側に移動し、可視光領域での光吸収が目立たなくなる程度に抑制される。その結果、導電性高分子材料が透明になり得る。
【0006】

【特許文献1】特開2004-20928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のグラフト導電性高分子層は、モノマーを電解重合させることによって合成される。このようなグラフト導電性高分子層は、いったん合成されると再度加工することが困難であるといった問題がある。加工の容易なエレクトロクロミック高分子材料が望ましい。
したがって、本発明の目的は、電位を制御することによって、容易に発色および消色を制御可能、かつ、加工可能な高分子材料、その製造方法、および、それを用いたエレクトロクロミック素子を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、電位を制御することによって容易に複数の発色および消色を制御可能、かつ、加工可能な高分子材料、その製造方法、および、それを用いたエレクトロクロミック素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記スペーサは、アリール基またはアルキル基であってもよい。
【0014】
前記アリール基は、
【化10】
JP0005062712B2_000002t.gif
式(2)~式(5)からなる群から選択されてもよい。
【0015】
本発明による式(6)で表される、エレクトロクロミック素子用高分子材料は、第1~第N(Nは2以上の整数)のビスターピリジン誘導体と、第1~第N(Nは2以上の整数)の金属イオンと、第1~第N(Nは2以上の整数)のカウンターアニオンとを含み、
【化11】
JP0005062712B2_000003t.gif

ここで、M、…、M(Nは2以上の整数)は、それぞれ異なる第1~第Nの金属イオンであり、R、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R、…、R、R、…、R、R、…、R、R、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、n、…、nはそれぞれ重合度を表す2以上の整数であり、前記第1~第Nのカウンターアニオンは、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一であり、これにより上記目的を達成する。

【0018】
前記R1、…、RNのスペーサは、それぞれ、アリール基またはアルキル基であってもよい。
【0020】
前記アリール基は、
【化12】
JP0005062712B2_000004t.gif
式(2)~式(5)からなる群から選択されてもよい。
【0023】
前記スペーサは、アリール基またはアルキル基であってもよい。
【0025】
前記アリール基は、
【化14】
JP0005062712B2_000005t.gif
式(2)~式(5)からなる群から選択されてもよい。
【0026】
本発明による高分子材料を製造する方法は、式(8)に示される第1~第N(Nは2以上の整数)のビスターピリジン誘導体のそれぞれと、第1~第N(Nは2以上の整数)の金属イオンM~M金属塩のそれぞれとを、酢酸およびメタノール中でそれぞれ還流させる工程であって、
【化15】
JP0005062712B2_000006t.gif

ここで、M、…、M(Nは2以上の整数)は、それぞれ異なる第1~第Nの金属イオンであり、、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R、…、R、R、…、R、R、…、R、R、…、R(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、n、…、nはそれぞれ重合度を表す2以上の整数である、工程と、前記それぞれ還流させる工程で得られた第1~第N(Nは2以上の整数)の反応物を混合する工程とを包含し、これにより上記目的を達成する。

【0028】
前記R1、…、RNのスペーサは、それぞれ、アリール基またはアルキル基であってもよ
い。
【0030】
前記アリール基は、
【化16】
JP0005062712B2_000007t.gif
式(2)~式(5)からなる群から選択されてもよい。
【0031】
本発明によるエレクトロクロミック素子は、第1の透明電極基板と、第2の透明電極基板と、前記第1の透明電極基板と前記第2の透明電極基板との間に位置する上記高分子材料とを含み、これにより上記目的を達成する。
【発明の効果】
【0032】
本発明による高分子材料は、金属イオンMと配位子であるビスターピリジン誘導体との間で電荷移動が生じる。電位を制御することによって、金属イオンは容易に価数を変化し得るので、所定の色から理想的な透明へと変化させることができる。金属イオンと配位子との組み合わせ、または、金属イオンとカウンターアニオンとの組み合わせを変更することによって、所望の色を得ることができる。また、本発明による高分子材料は、溶媒可溶性であるので、高分子材料合成後に加工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1による高分子材料の模式図を示す。
本発明による高分子材料100は、配位子であるビスターピリジン誘導体と、金属イオンと、カウンターアニオンとを含み、式(1)で示される。式(1)は、複数の繰り返し単位110である。
【化17】
JP0005062712B2_000008t.gif

【0035】
ここで、Mは、金属イオンであり、Rは、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R1、R2、R3、R4は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基である。nは、重合度を表す2以上の整数である。
【0036】
金属イオンは、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンからなる群から選択される。これらのイオンは、酸化還元反応によって価数を変化させることができるだけでなく、高分子材料100中で互いに異なる酸化還元電位を有する。
【0037】
スペーサRは、例えば、アリール基またはアルキル基である。これにより、高分子材料100のターピリジル基の角度を任意に設定できるので、高分子材料100の材料設計が可能となる。アリール基またはアルキル基は、酸素原子または硫黄原子をさらに含んでもよい。酸素原子および硫黄原子は、修飾能を有するので、高分子材料100の材料設計に有利である。
【0038】
アリール基は、好ましくは、式(2)~(5)からなる群から選択されるアリール基である。これにより、配位子が明確で剛直な骨格となるので、高分子材料を付与する際に、良好な高分子材料薄膜が得られる。
【化18】
JP0005062712B2_000009t.gif

【0039】
カウンターアニオンは、酢酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、ポリオキシメタレート、および、これらの組み合わせからなる群から選択される。これによって、金属イオンの電荷が補償され、高分子材料100を電気的に中性にする。
【0040】
1、R2、R3およびR4が水素原子以外のアリール基またはアルキル基の場合、例えば、メチル基、エチル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トルイル基であるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0041】
高分子材料100は、配位子と金属イオンとの間で電子の移動が生じ、青、赤等の発色をする。配位子と金属イオンとの組み合わせによって、電荷移動の速度が異なるので、配位子と金属イオンとを適宜組み合わせることによって所望の発色が得られ得る。この電荷移動の速度は、カウンターアニオンを変更することによっても制御することができる。
【0042】
具体的には、金属イオンとして鉄イオンを、カウンターアニオンとして酢酸イオンを選択すると、青色~紫色を発色でき、酢酸イオンをポリオキシメタレートに変更すると、青色~紫色から濃い青色(藍色)に変化する。また、金属イオンとしてコバルトイオンを、カウンターアニオンとして酢酸イオンを選択すると、赤茶色を発色でき、酢酸イオンをポリオキシメタレートに変更すると、赤茶色から青色へ変化し得る。このような発色の変化は、電荷移動速度に依存しており、予め、種々の組み合わせによる電荷移動速度を調べておくことが望ましい。
【0043】
本願発明者らは、高分子材料100において、高分子材料100の電位を制御することによって、金属イオンの価数が変化し、酸化還元反応が生じること(すなわち、高分子材料100がエレクトロクロミック特性を有すること)を見出した。これにより、配位子と金属イオンとの間の電荷移動の速度が変化し、高分子材料100の発色が消色することを見出した。特に、カウンターアニオンとしてポリオキシメタレートを選択すると、酸化還元を生じる電位幅を広範囲にすることができるので、発色と消色との制御が容易である。
【0044】
また、高分子材料100は、高分子電解質であるため、水、メタノール等の溶媒に可溶であり、高分子材料100合成後に、さらなる加工ができる。
【0045】
次に、本発明による高分子材料100の製造方法を工程ごとに説明する。
工程S110:式(7)に示されるビスターピリジン誘導体と、金属塩とを酢酸およびメタノール中で還流させる。
【化19】
JP0005062712B2_000010t.gif

【0046】
ここで、Rは、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R1、R2、R3、R4は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基である。nは、重合度を表す2以上の整数である。
【0047】
スペーサRは、例えば、アリール基またはアルキル基である。アリール基またはアルキル基は、酸素原子または硫黄原子をさらに含んでもよい。アリール基は、好ましくは、式(2)~(5)からなる群から選択されるアリール基である。これにより、高分子材料を付与する際に、良好な高分子材料薄膜が得られる。
【化20】
JP0005062712B2_000011t.gif

【0048】
1、R2、R3およびR4が水素原子以外のアリール基またはアルキル基の場合、例えば、メチル基、エチル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トルイル基であるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0049】
金属塩は、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンからなる群か
ら選択される1つ金属イオンと、酢酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、ポリオキシメタレートおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるカウンターアニオンとの組み合わせである。
【0050】
工程S110において、酢酸およびメタノールは、それぞれ、ビスターピリジン誘導体および金属塩の溶媒として機能し得る。還流は、例えば、150℃の温度で24時間行うが、これに限定されない。還流条件は、選択されるスペーサ、金属塩によって異なるが、当業者であれば容易に条件を想到できる。
【0051】
工程S110の後に、還流によって得られた混合物を加熱してもよい。加熱によって溶媒を蒸発させ、粉末とする。粉末は、例えば、紫色等の発色を有し、還元状態にある。このような粉末は容易にメタノールに溶解するため、取り扱いが簡便である。
【0052】
(実施の形態2)
実施の形態1では、高分子材料100中に含まれる金属イオンの種類が、1種類の例を示した。本発明は、高分子材料に含まれる金属イオンの種類の数に制限はない。実施の形態2では、2種以上の金属イオンを含有する高分子材料について説明する。
【0053】
図2は、実施の形態2による高分子材料の模式図を示す。
本発明による高分子材料200は、配位子であるビスターピリジン誘導体と、第1~第Nの金属イオンと、第1~第Nのカウンターアニオンとを含み、式(6)で示される。ここで、Nは、2以上の整数である。
【化21】
JP0005062712B2_000012t.gif

【0054】
図2において、要素210は、ビスターピリジン誘導体と、第1の金属イオンM1と、
第1のカウンターアニオンとを含み、要素220は、ビスターピリジン誘導体と、第Nの金属イオンMNと、第Nのカウンターアニオンとを含む。高分子材料200は、要素21
0および要素220の重合度をそれぞれ少なくとも2となるように有している。
【0055】
式(6)において、M1、…、MN(Nは2以上の整数)は、それぞれ異なる第1~第Nの金属イオンであり、R1、…、RN(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R11、…、R1N、R21、…、R2N、R31、…、R3N、R41、…、R4N(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、n1、…、nNはそれぞれ同一または異なる重合度を表す2以上の整数であり、第1~第Nのカウンターアニオンは、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一である。
【0056】
第1~第Nの金属イオンは、それぞれ、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンからなる群から選択される。これらの金属イオンは、各金属イオンと配位子との間の電荷移動の速度が異なるため、各金属イオンによる発色が異なり得る。
【0057】
したがって、異なる発色の金属イオンを適宜組み合わせることにより、高分子材料200は、複数の発色が可能となる。なお、電荷移動の速度が異なる組み合わせであれば、第1~第Nの金属イオンは、上述の金属イオンに限定されない。
【0058】
また、これらの金属イオンは、それぞれ異なる酸化還元電位を有する。したがって、1つの高分子材料200は、複数の発色と消色とを電位によって容易に制御することができる。
【0059】
スペーサR1、…、RNは、それぞれ、アリール基またはアルキル基である。アリール基またはアルキル基は、酸素原子または硫黄原子をさらに含んでもよい。アリール基は、実施の形態1と同様に、好ましくは、式(2)~(5)からなる群から選択されるアリール基である。これにより、配位子が明確で剛直な骨格となるので、高分子材料を付与する際に、良好な高分子材料薄膜が得られる。
【化22】
JP0005062712B2_000013t.gif

【0060】
第1~第Nのカウンターアニオンは、酢酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、ポリオキシメタレートおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。これによって、金属イオンの電荷が補償され、高分子材料200を電気的に中性にする。
【0061】
11、…、R1N、R21、…、R2N、R31、…、R3N、R41、…、R4Nが水素原子以外のアリール基またはアルキル基の場合、例えば、メチル基、エチル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トルイル基であるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0062】
上述したように、高分子材料200は、2以上の重合度を有する要素210と、2以上の重合度を有する要素220とを含む。高分子材料200は、複数の金属イオンを含むので、各金属イオンと配位子との間の電荷移動の速度に基づく複数の発色が可能となる。また、金属イオンの酸化還元電位が異なるので、電位を制御することによって、特定の金属
イオンに基づく色のみを発色させることができる。1つの材料から複数の発色が可能になるので、デバイス製造に要する時間の短縮、コストの低下に有利であり得る。また、高分子材料200は、高分子電解質であるため、水、メタノール等の溶媒に可溶であり、高分子材料200合成後に、さらなる加工ができる。
【0063】
次に、本発明による高分子材料200の製造方法を工程ごとに説明する。
工程S210:式(8)に示される第1~第N(Nは2以上の整数)のビスターピリジン誘導体のそれぞれと、第1~第N(Nは2以上の整数)の金属塩のそれぞれとを、酢酸およびメタノール中でそれぞれ還流させる。
【化23】
JP0005062712B2_000014t.gif

【0064】
ここで、R1、…、RN(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の、炭素原子および水素原子を含む、または、ターピリジル基を直接接続するスペーサであり、R11、…、R1N、R21、…、R2N、R31、…、R3N、R41、…、R4N(Nは2以上の整数)は、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、n1、…、nNはそれぞれ同一または異なる重合度を表す2以上の整数である。
【0065】
スペーサR1、…、RNは、それぞれ、アリール基またはアルキル基である。アリール基またはアルキル基は、酸素原子または硫黄原子をさらに含んでもよい。アリール基は、実施の形態1と同様に、好ましくは、式(2)~(5)からなる群から選択されるアリール基である。これにより、配位子が明確で剛直な骨格となるので、高分子材料を付与する際に、良好な高分子材料薄膜が得られる。
【化24】
JP0005062712B2_000015t.gif

【0066】
11、…、R1N、R21、…、R2N、R31、…、R3N、R41、…、R4Nが水素原子以外のアリール基またはアルキル基の場合、例えば、メチル基、エチル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トルイル基であるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0067】
第1~第Nの金属塩のそれぞれは、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンからなる群から選択される金属イオンと、酢酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、ポリオキシメタクレートおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるカウンターアニオンとの組み合わせである。
【0068】
工程S210において、実施の形態1の工程S110と同様に、酢酸およびメタノールは、ビスターピリジン誘導体および金属塩の溶媒として機能し得る。還流は、例えば、150℃の温度で24時間行うが、これに限定されない。還流条件は、選択されるスペーサ、金属塩によって異なるが、当業者であれば容易に条件を想到できる。
【0069】
工程S220:工程S210でそれぞれ得られた第1~第Nの反応物を混合する。混合条件は、室温にて、少なくとも2時間攪拌すればよい。第1~第Nの反応物のそれぞれは、異なる割合で混合してもよいし、等量ずつ混合してもよい。混合量によって、特定の発色に対する発色強度を変化させることができるのは言うまでもない。混合によって、自己整合的に、図2に示すように複数の要素210と複数の要素220とが結合する。
【0070】
工程S220の後に、得られた混合物を加熱してもよい。加熱によって溶媒を蒸発させ、粉末とする。粉末は、例えば、複数の発色が混合した色を有し、含有される金属イオンは、還元状態にある。
【0071】
高分子材料200は、さらに、実施の形態1の工程S110において、金属塩を構成する金属イオンとして2以上選択する点が異なる以外は同様の方法によっても製造可能である。なお、このように、あらかじめ複数の金属塩を出発原料とする場合、還流によって自己整合的に同種の金属イオンが連続するように縮合される。
【0072】
(実施の形態3)
次に、実施の形態1および実施の形態2で得られた高分子材料100、200を用いたエレクトロクロミック素子を説明する。
図3は、実施の形態3によるエレクトロクロミック素子の模式図を示す。
エレクトロクロミック素子300は、第1の透明電極310と、第1の透明電極310上に位置する高分子材料320と、高分子材料320上に位置する第2の透明電極330とを含む。エレクトロクロミック素子300は、第1の透明電極310と高分子材料320との間に高分子固体電解質340をさらに含んでもよい。
【0073】
第1の透明電極310および第2の透明電極330は、透明導電膜であれば任意であるが、SnO2膜、In23膜またはIn23とSnO2との混合物であるITO膜が好ましい。第1の透明電極310および第2の透明電極330は、任意の物理的または化学的気相成長法によって、ガラス基板等の透明基板上に形成され得る。
【0074】
高分子材料320は、実施の形態1または実施の形態2で説明した高分子材料100または200である。高分子材料320の第1の透明電極310上への塗布は、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング等によって行われ得る。
【0075】
高分子固体電解質340は、マトリクス用高分子に電解質を溶解して形成され、コントラストを向上させるため着色剤を有し得る。なお、コントラストを向上させる必要がない場合には、不要である。
【0076】
次に、エレクトロクロミック素子300の動作を説明する。
第1の透明電極310と第2の透明電極330とは、電源に接続されており、高分子材料320と高分子固体電解質340とに所定の電圧を印加する。これにより、高分子材料320の酸化還元を制御できる。
【0077】
高分子材料320が単一の実施の形態1の高分子材料100である場合、高分子材料100中の金属イオンを酸化還元することによって、発色および消色を制御すればよい。また、高分子材料320が複数の実施の形態1の高分子材料100の場合、複数の高分子材料100それぞれの電位を別個に制御することによって、複数の発色および消色を制御することができる。
【0078】
高分子材料320が実施の形態2の高分子材料200である場合、高分子材料200中の複数の金属イオンをそれぞれ酸化還元することによって、発色および消色を制御することができる。高分子材料320として複数の実施の形態1の高分子材料100を用いる場合に比べて、高分子材料320の塗布操作が一回で済むため、簡便である。このような素子300を複数組み合わせてマトリクス状に配置して用いてもよい。
【0079】
次に、実施例を述べるが、本発明は実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
【実施例1】
【0080】
100ml二口フラスコに、配位子として1,4-ビスターピリジンベンゼン(30mg、0.054mol)を25mlの酢酸に加熱しながら溶解させた。次いで、金属塩として酢酸鉄(9.39mg、0.054mol)を含むメタノール溶液5mlを二口フラスコに加えた。混合物を、窒素雰囲気中、150℃、24時間加熱還流行った。
還流後、二口フラスコ中の反応溶液をシャーレに移し、大気中で乾燥させて、紫色の粉末の高分子材料(以降ではFeMEPEと称する)を得た。粉末の収率は、90%であった。
【0081】
サイクリックボルタモグラム測定装置CV50W(BAS製、Japan)を用いて、FeMEPEの電気化学応答について調べた。測定用の作用電極は、GCE(グラッシーカーボン)電極およびITO電極それぞれにFeMEPE(1mg、0.5ml)が溶解したメタノール20μlを滴下し、乾燥させて調整した。対極としてPtカウンター電極を、参照電極としてAg/Ag+/ACN/TBAPを用いた。いずれも電極は、BAS
製であった。電圧は、-0.2Vから1.5Vの範囲で印加し、電圧の挿引速度は、0.1V/sであった。結果を図4に示し、詳述する。
【0082】
次に、FeMEPEの発色の変化を目視観察した。試料として上記ITO電極を用いた。ITO膜を介してFeMEPEに電圧を印加し、その発色の変化を確認した。結果を図5に示し、詳述する。
【0083】
次に、目視観察に用いた試料に対して、所定の電圧(0V、0.8Vおよび1.0V)を印加しながら、UV-VIS-NIRスペクトロメータ(UV3150、Shimadzu、Japan)を用いて、透過モードで紫外・可視吸収スペクトルを波長400nm~800nmの範囲にて測定した。結果を図6に示し、詳述する。
【0084】
次に、上記試料の発色と消色との変化速度、および、スイッチング特性(エレクトロクロミック特性)について測定した。紫外・可視吸収スペクトル測定と同様に、UV-VIS-NIRスペクトロメータ(UV3150、Shimadzu、Japan)を用いて、所定の電圧(0Vおよび1.0V)を複数回繰り返し試料に印加し、発色と消色との変化速度、および、発色時の吸光度の変化を調べた。結果を図7に示し、詳述する。
【実施例2】
【0085】
金属塩として酢酸コバルト(9.56mg、0.054mol)を用いた以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。得られた高分子材料を以降ではCoMEPEと称する。
実施例1と同様にして、CoMEPEの電気化学応答を調べた。電圧は、-0.7Vから0.8Vの範囲で印加し、電圧の挿引速度は、0.1V/sであった。結果を図8に示し、詳述する。
【0086】
実施例1と同様にして、所定の電圧(0V、0.2Vおよび0.4V)を印加しながら、CoMEPEの紫外-可視吸収スペクトルを測定した。次いで、所定の電圧(0Vと0.4V)を複数回繰り返しCoMEPEに印加し、発色と消色との変化速度、および、スイッチング特性を調べた。それぞれの結果を図9および図10に示し、詳述する。
【実施例3】
【0087】
実施例1で得られたFeMEPE(0.5mg)を溶解させたメタノール溶液(250μl)と、実施例2で得られたCoMEPE(0.5mg)を溶解させたメタノール溶液(250μl)とを混合した。混合は、ビーカにて、室温で、2時間攪拌して行った。得られた混合溶液をCoMEPE-FeMEPEと称する。
実施例1および2と同様にして、所定の電圧(0V、0.3V、0.6V、0.8Vおよび1.0V)を印加しながら、CoMEPE-FeMEPEの紫外-可視吸収スペクトルを波長420nm~780nmの範囲にて測定した。結果を図11に示し、詳述する。
【0088】
次いで、実施例1および2と同様にして、所定の電圧(0Vと1.0V)を複数回繰り返しCoMEPE-FeMEPEに印加し、吸収波長520nmおよび580nmそれぞれにおける、発色と消色との変化速度、および、スイッチング特性を調べた。結果を図12に示し、詳述する。
【実施例4】
【0089】
100ml二口フラスコに、配位子として1,4-ビスターピリジンベンゼン(60mg、0.108mol)を50mlの酢酸に加熱しながら溶解させた。次いで、金属塩として酢酸鉄(9.39mg、0.054mol)と酢酸コバルト(9.56mg、0.054mol)とを含むメタノール溶液10mlを二口フラスコに加えた。これ以外は、実施例1および実施例2と同様のため、説明を省略する。赤紫色の高分子材料(以降ではCoMEPE'-FeMEPE’と称する)を得た。
実施例1~3と同様に、所定の電圧(0V、0.6V、0.8Vおよび1.0V)を印加しながら、CoMEPE'-FeMEPE’の紫外-可視吸収スペクトルを波長420
nm~780nmの範囲にて測定した。結果を図13に示し、詳述する。
【0090】
図4は、FeMEPEのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
ITO電極およびカーボン電極のいずれも0.77Vに酸化還元を示す電流ピークが観察された。-0.2Vから+1.5へ挿引した場合に見られるピークが酸化を示し、+1.5Vから-0.2Vへ挿引した場合に見られるピークが還元を示す。この酸化は、FeMEPE中の鉄イオンが2価から3価になることに起因し、還元は、鉄イオンが3価から2価になることに起因している。いずれの電極においても、酸化および還元を示すピーク電流値は同じ値であることから、FeMEPEの酸化還元は、可逆に起こっていることが分かった。ITO電極とカーボン電極とで、ピーク電流値の値が異なるのは、電極の大きさ(面積)が異なるためである。なお、このような挿引を500回繰り返したが、すべて同じ結果を示すことを確認した。これにより、得られたFeMEPEは、電圧印加による疲労を示さないことが分かった。
【0091】
図5は、FeMEPEの発色の変化を示す図である。
還元状態では、領域500が紫色の発色を示した(図5左図)。FeMEPEに0Vから1.3Vを印加し、挿引したところ、FeMEPEに0.7V印加した時点で、酸化反応を起こし、領域500の紫色の発色が消色し、無色(領域510に相当)となった(図5右図)。再度、FeMEPEに1.3Vから0Vを印加し、挿引したところFeMEPEに0.7V印加した時点で、還元反応を起こし、紫色の発色(領域500)を示した(図5左図)。このように目視にて色の発色および消色が確認された。
【0092】
図6は、FeMEPEの紫外・可視吸収スペクトルを示す図である。
図4の結果に基づいて印加電圧を、0V(還元状態)、0.8V(酸化還元反応状態)および1.0V(酸化状態)に設定した。0Vにおける吸収スペクトルは、波長580nmにおいて明瞭なピークを示した。このピークは、図5で観察されたFeMEPEの紫色の発色に相当する。紫色の発色は、FeMEPE中のFe2+イオンから配位子への電荷移動の速度に起因する。
【0093】
0.8Vにおける吸収スペクトルは、波長580nmにおいてピークを示したものの、0Vのそれに比べてピーク強度は低かった。これは、図4を参照して説明したように、0.8V近傍で酸化反応が生じたためである。詳細には、0.8V印加時に、FeMEPE中には、Fe2+イオンおよびFe3+イオンが混在しており、紫色の発色に寄与したFe2+イオンから配位子への電荷移動の速度と、Fe3+イオンから配位子への電荷移動の速度とが存在する。これにより、紫色の発色のピーク強度が低下した。
【0094】
1.0Vにおける吸収スペクトルは、波長580nmにおける吸収を示さなかった。すなわち、FeMEPEは紫色の発色を示さず、無色であった。1.0V印加時には、FeMEPEは完全に酸化状態であるので、FeMEPE中の鉄イオンはすべてFe3+イオンである。したがって、紫色の発色に寄与したFe2+イオンから配位子への電荷移動は存在
しないため、消色した。
【0095】
このことから、FeMEPEに印加する電圧(電位)を制御することによって、ピーク強度を変化させる、すなわち、紫色の発色強度を変化させることができることが示された。また、制御電圧が1V程度であるので、実用的であり得る。
【0096】
図7は、波長580nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す図である。印加電圧を0Vから1.0Vへ切り替えて、波長580nmにおける吸光度が0に達する(すなわち消色)に要する速度定数は、6.5×10-2/sであることが分かった。同様に、印加電圧を1.0Vから0Vへ切り替えて、波長580nmにおける吸光度が所定の値に達する(すなわち発色)に要する速度定数もまた、6.5×10-2/sであった。
【0097】
このことからも、発色・消色が可逆に起こっており、その発色・消色の変化はきわめて早い。このような速度は、従来のエレクトロクロミック材料に匹敵し得る。
【0098】
また、このような電圧の切り替えを500回行っても、580nmにおける吸光度(すなわち、紫色の発色強度)は変化がなく、疲労特性も良好であることが分かった。
【0099】
図8は、CoMEPEのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図は、ITO電極にCoMEPEを付与した結果を示す。FeMEPEとは異なり0.20Vに酸化還元を示す電流ピークが観察された。-0.5Vから+0.3へ挿引した場合に見られるピークが酸化を示し、+0.3Vから-0.5Vへ挿引した場合に見られるピークが還元を示す。この酸化は、FeMEPEと同様に、CoMEPE中のコバルトイオンが2価から3価になることに起因し、還元は、コバルトイオンが3価から2価になることに起因している。
【0100】
いずれの電極においても、酸化および還元を示すピーク電流値は同じ値であることから、FeMEPEと同様にCoMEPEの酸化還元も、可逆に起こっていることが分かった。なお、CoMEPEの還元状態では、CoMEPEは赤茶色の発色をし、酸化状態では消色することを目視にて確認した。
【0101】
図9は、CoMEPEの紫外・可視吸収スペクトルを示す図である。
図8の結果に基づいて印加電圧を、0V(還元状態)、0.2V(酸化還元反応状態)および0.4V(酸化状態)と設定した。0Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおいて明瞭なピークが見られた。このピークは、目視にて観察されたCoMEPEの赤茶色の発色に相当する。赤茶色の発色は、CoMEPE中のCo2+イオンから配位子への電荷移動の速度に起因する。
【0102】
0.2Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおいて、0Vにおいて見られたピークに比べて弱いピークを示した。これは、0.2V近傍で酸化反応が生じたためである。詳細には、0.2V印加時に、CoMEPE中には、Co2+イオンおよびCo3+イオンが混在しており、赤茶色の発色に寄与したCo2+イオンから配位子への電荷移動の速度と、Co3+イオンから配位子への電荷移動の速度とが存在する。これにより、赤茶色の発色のピーク強度が低下した。
【0103】
なお、実施例1のFeMEPEの酸化還元時(0.8V印加時)におけるピーク強度に対して、CoMEPEの酸化還元時(0.2V印加時)におけるピーク強度が小さいのは、FeMEPEに比べて、CoMEPEの発色の程度が小さいためである。
【0104】
0.4Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおける吸収は見られなかった。
すなわち、CoMEPEは赤茶色の発色を示さず、無色であった。0.4V印加時には、CoMEPEは完全に酸化状態であるので、CoMEPE中のコバルトイオンはすべてCo3+イオンである。したがって、赤茶色の発色に寄与したCo2+イオンから配位子への電荷移動は存在しないため、消色した。
【0105】
このことから、CoMEPEに印加する電圧(電位)を制御することによって、ピーク強度を変化させる、すなわち、赤茶色の発色強度を変化させることができることが示された。また、FeMEPEの酸化還元電位とCoMEPEの酸化還元電位とが異なるので、それぞれの単層膜を組み合わせた素子において、異なる発色を容易に達成できる。
【0106】
図10は、波長520nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す図である。印加電圧を0Vから0.4Vへ切り替えて、波長520nmにおける吸光度が0に達するに要する速度定数は、2.0×10-2/sであることが分かった。同様に、印加電圧を0Vから0.4Vへ切り替えて、波長520nmにおける吸光度が所定の値に達するに要する速度定数もまた、2.0×10-2/sであった。
【0107】
このことからも、発色と消色との変化速度は、FeMEPEに比べて遅く改善の必要があるものの、FeMEPEと異なる酸化還元電位において発色・消色が可逆に生じることは、デバイス設計において有利であり得る。
【0108】
また、このような電圧の切り替えを複数回行っても、520nmにおける吸光度(すなわち、赤茶色の発色強度)は変化がなく、疲労特性も良好であることが分かった。
【0109】
図11は、CoMEPE-FeMEPEの紫外・可視吸収スペクトルを示す図である。
CoMEPE-FeMEPEの電位を、0V(CoおよびFeともに還元状態)、0.3V(Co酸化還元反応状態およびFe還元状態)、0.6V(Co酸化状態およびFe還元状態)、0.8V(Co酸化状態およびFe酸化還元反応状態)および1.0V(CoおよびFeともに酸化状態)と変化させ、紫外・可視吸収スペクトルを測定した。CoMEPE-FeMEPEの発色は、電位の変化に応じて、赤紫、青紫、青、無色と変化することを目視にて確認した。
【0110】
0V印加時、CoMEPE-FeMEPEは、赤紫色を発色した。0Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmおよび波長580nmにおいて明瞭なピークを示した。これらのピークは、図6および図9にて説明したFeMEPEおよびCoMEPEそれぞれのピークに一致し、CoおよびFeともに還元状態であることがわかった。CoMEPE-FeMEPEは、波長520nm(赤茶色の発色に相当)および波長580nm(紫色の発色に相当)におけるピークを有することから、人間の目には赤紫色と認識された。このことから、得られたCoMEPE-FeMEPEは、CoMEPEおよびFeMEPEそれぞれを維持した状態で含むことが分かった。
【0111】
0.3V印加時、CoMEPE-FeMEPEは、青紫色を発色した。0.3Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおいて、0Vにおいて見られたピークに比べて弱いピークを示した。これは、0.3V近傍でCoの酸化反応が生じたためである。一方、波長580nmにおけるピーク強度は、0Vのそれと変化はなかった。このことからも、CoMEPE-FeMEPE中のCoのみ酸化反応が生じていることが分かる。
【0112】
0.6V印加時、CoMEPE-FeMEPEは、紫色を発色した。0.6Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおけるピークは消失し、CoMEPE-FeMEPE中のCoイオンは、すべてCo3+イオンであることが分かる。一方、波長580nmにおけるピーク強度は、0Vおよび0.3Vのそれと変化はなかった。
【0113】
0.8V印加時、CoMEPE-FeMEPEは、紫色を発色した。0.8Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおけるピークは消失した状態を維持し、0V、0.3Vおよび0.6Vの吸収スペクトルにおける波長580nmのピーク強度より低いものの依然として明瞭なピークを示した。これは、0.8V近傍でFeの酸化反応が開始することを示唆する。
【0114】
1.0V印加時、CoMEPE-FeMEPEは、薄い紫色を発色した。1.0Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおけるピークは消失状態を維持し、その吸光度もほぼ0になった。一方、波長580nmにおけるピーク強度は、0V、0.3V、0.6Vおよび0.8Vのそれに比べて著しく低下した。これは、1.0V近傍においても完全にFeの酸化反応が完了していないものの、酸化還元電位に相当することを示唆する。
【0115】
複合体においてもCoMEPEおよびFeMEPEそれぞれの酸化還元電位が異なるため、複合体に印加される電位を制御することによって、赤茶色、紫色、または、これらの混合色(赤紫色)の所望の発色・消色を可能にする。
【0116】
図12は、波長520nmおよび波長580nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す図である。
図12(A)は、波長520nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す。1.0Vと0VとをCoMEPE-FeMEPEに複数回繰り返し印加し、波長520nmにおけるピーク強度の変化を測定した。参考のため、同様の測定を実施例2で得られたCoMEPEについて行った結果も示す。
【0117】
CoMEPE単独の場合、1.0Vを印加することによって、絶縁破壊することが分かった。一方、複合体の場合、1.0Vを印加しても絶縁破壊することなく、エレクトロクロミックを示した。これは、Coが、Feと共存することによってより安定になったためと理解される。
【0118】
印加電圧を0Vから1.0Vへ切り替えて、波長520nmにおける吸光度が最小になる(すなわち、消色)に要する速度定数は、図10と同様の2.0×10-2/sであることが分かった。同様に、印加電圧を0Vから1.0Vへ切り替えて、波長520nmにおける吸光度が所定の値に達する(すなわち、発色)に要する速度定数もまた、2.0×10-2/sであった。このことからも、発色・消色が可逆に起こっており、その発色・消色の変化は、複合体であってもCoMEPE単独の場合と変化がないことが分かった。
【0119】
また、このような電圧の切り替えを複数回行っても、波長520nmにおける吸光度は変化がなく、疲労特性も良好であることが分かった。
【0120】
図12(B)は、波長580nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す。参考のため、図7の結果を合わせて示す。印加電圧を0Vから1.0Vに切り替えて、波長580nmにおける吸光度が最小になる速度定数は、5.0×10-3/sであった。これは、FeMEPE単独の速度定数の7.7%に相当した。複合体になることにより、鉄の酸化速度が遅くなったことを示す。このことから、図11の1.0V印加(Feの酸化還元電位以上の印加)時のスペクトルにおいて、波長580nmにわずかながらピークが検出されたのが、鉄の酸化速度が著しく低下したためであると理解され得る。波長580nmにおける吸光度は完全に0にならない。これは、スイッチング電圧の切り替えを強制的に400秒で行ったためで、さらに長い時間印加すれば、吸光度は0になることを理解されたい。
【0121】
また、このような電圧の切り替えを複数回行っても、波長580nmにおける吸高度は変化がなく、疲労特性も良好であった。
【0122】
以上の結果から、実施例3で得られたCoMEPE-FeMEPEは、CoMEPEおよびFeMEPEがランダムに配列したものではなく、1,4-ビス(ターピリジン)ベンゼンと鉄とバルトからなるブロックコポリマーであることが分かった。
【0123】
図13は、CoMEPE’-FeMEPE’の紫外・可視吸収スペクトルを示す図である。
CoMEPE’-FeMEPE’の電位を、0V(CoおよびFeともに還元状態)、0.6V(Co酸化状態およびFe還元状態)、0.8V(Co酸化状態およびFe酸化還元反応状態)および1.0V(CoおよびFeともに酸化状態と変化させ、紫外・可視吸収スペクトルを測定した。電位の変化に応じて、CoMEPE’-FeMEPE’の発色は、実施例3のCoMEPE-FeMEPEと同様に赤紫、青紫、紫、無色と変化することを目視にて確認した。
【0124】
0V印加時、CoMEPE-FeMEPEと同様に、CoMEPE’-FeMEPE’は赤紫色を発色した。0Vにおける吸収スペクトルは、波長580nmにおいて明瞭なピークを示し、波長520nmにおいてわずかながらブロードなピークを示した。波長520nmにおけるブロードなピークおよび波長580nmにおける明瞭なピークは、図6および図9にて説明したFeMEPEおよびCoMEPEそれぞれのピークに一致し、CoおよびFeともに還元状態であることがわかった。波長520nmにおけるピークが、図9および図11に比べてブロードなのは、CoMEPE’-FeMEPE’中のCoMEPEの割合が、FeMEPEに比べて少ないためである。図11と同様に、CoMEPE’-FeMEPE’は、波長520nm(赤茶色の発色に相当)および波長580nm(紫色の発色に相当)におけるピークを有することから、人間の目には赤紫色と認識され、得られたCoMEPE’-FeMEPE’は、CoMEPEおよびFeMEPEそれぞれを維持した状態で含むことが分かった。
【0125】
0.6V印加時、CoMEPE’-FeMEPE’は紫色を発色した。0.6Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおけるピークは消失したものの完全に吸光度が0にはならなかった。これは、CoMEPE’-FeMEPE’中のCoイオンは、Co3+イオンに酸化されるものの、Coの酸化速度が著しく低下したためと予想される。一方、波長580nmにおけるピーク強度は、0Vのそれと変化はなかった。
【0126】
0.8V印加時、CoMEPE’-FeMEPE’は薄い青色を発色した。0.8Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおけるピークは消失した状態を維持し、吸光度も0となった。一方、波長580nmにおけるピーク強度は、0Vおよび0.6Vのそれに比べて顕著に減少した。これは、0.8V近傍でFeの酸化反応が開始することを示唆する。
【0127】
1.0V印加時、CoMEPE’-FeMEPE’は無色であった。1.0Vにおける吸収スペクトルは、波長520nmにおけるピークは消失状態を維持し、波長580nmにおけるピークもほぼ消失した。
複合体においてもCoMEPEおよびFeMEPEそれぞれの酸化還元電位が異なるため、複合体に印加される電位を制御することによって、赤茶色、紫色、または、これらの混合色(赤紫色)の所望の発色・消色を可能にする。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によるエレクトロクロミック材料は、その発色および消色を利用した任意の装置
に可能であり、具体的には、表示素子、調光素子、電子ペーパに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】実施の形態1による高分子材料の模式図。
【図2】実施の形態2による高分子材料の模式図。
【図3】実施の形態3によるエレクトロクロミック素子の模式図。
【図4】FeMEPEのサイクリックボルタモグラムを示す図。
【図5】FeMEPEの発色の変化を示す図。
【図6】FeMEPEの紫外・可視吸収スペクトルを示す図。
【図7】波長580nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す図。
【図8】CoMEPEのサイクリックボルタモグラムを示す図。
【図9】CoMEPEの紫外・可視吸収スペクトルを示す図。
【図10】波長520nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す図。
【図11】CoMEPE-FeMEPEの紫外・可視吸収スペクトルを示す図。
【図12】波長520nmおよび波長580nmにおけるピーク強度のスイッチング特性を示す図。
【図13】CoMEPE’-FeMEPE’の紫外・可視吸収スペクトルを示す図。
【符号の説明】
【0130】
300 エレクトロクロミック素子
310 第1の透明電極
320 高分子材料
330 第2の透明電極
340 高分子固体電解質
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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