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明細書 :β位に不斉点を有するカルボン酸の製造及び求核剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4860510号 (P4860510)
公開番号 特開2008-222621 (P2008-222621A)
登録日 平成23年11月11日(2011.11.11)
発行日 平成24年1月25日(2012.1.25)
公開日 平成20年9月25日(2008.9.25)
発明の名称または考案の名称 β位に不斉点を有するカルボン酸の製造及び求核剤
国際特許分類 C07C  67/347       (2006.01)
C07C  69/738       (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
C07B  53/00        (2006.01)
FI C07C 67/347
C07C 69/738 Z
C07B 61/00 300
C07B 53/00 B
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2007-061125 (P2007-061125)
出願日 平成19年3月10日(2007.3.10)
審査請求日 平成20年8月5日(2008.8.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小林 修
【氏名】フローリアン ベルチオール
【氏名】松原 亮介
【氏名】河井 伸之
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
審査官 【審査官】福島 芳隆
参考文献・文献 特開2001-253844(JP,A)
特開2006-206550(JP,A)
国際公開第2007/026654(WO,A1)
特開2007-238525(JP,A)
Synthesis,2004年,No.9,p.1509-1521
調査した分野 C07C 67/347
C07C 69/738
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
次の一般式(1);
【化1】
JP0004860510B2_000008t.gif
(式中、Rは、それぞれ独立して置換基としてアルコキシ基を有するフェニル基を表し、Rは炭素数1以上のアルキル基を表す。)
で表わされるアルキリデンマロネートと次の一般式(2);
【化2】
JP0004860510B2_000009t.gif
(式中、Rは置換基としてハロゲン原子を有していてもよいアリール基を表し、Rは、炭素数1以上のアルキル基又は炭素数1以上のアルコキシ基を表す。)
で表わされるエナミド又はエンカルバメートとを、銅トリフラート及び次の一般式(4);
【化4】
JP0004860510B2_000010t.gif
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立してアリール基を表し、R及びRはそれぞれ独立して置換基としてアリール基を有するメチル基を表す。)
で表わされる不斉炭素原子を含有するエチレンジアミン誘導体を含有してなる触媒の存在下で反応させて、次の一般式(3);
【化3】
JP0004860510B2_000011t.gif
(式中、R、R、及びRは前記したものと同じものを表す。)
で表わされるβ位に不斉点を有するマロン酸誘導体を製造する方法。
【請求項2】
不斉炭素原子を含有するエチレンジアミン誘導体が光学活性体であり、生成するβ位に不斉点を有するマロン酸誘導体が少なくとも一種の光学活性体を過剰に含むものである請求項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキリデンマロネートとエナミド構造を有する化合物とを、銅化合物及び不斉炭素原子を含有するジアミンとを含有してなる触媒の存在下で反応させて、β位に不斉点を有するカルボン酸誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキリデンマロネートへのカルボニル求核剤の不斉マイケル反応は、β位に光学活性な不斉炭素原子を有するカルボン酸類を与える重要な反応である。特に、本反応を触媒的に行うことは、環境負荷の低減にもつながり有用である。これまでに、ケイ素エノラートを求核剤として用いるアルキリデンマロネートへの触媒的不斉マイケル反応が報告されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
しかしながら、高い選択性を得るためには(例えば、70% ee以上)、不斉炭素原子上にアリール基やかさ高いアルキル基が存在する必要があり、メチル基など比較的小さな置換基の場合には低選択性にとどまっていた。
近年、本発明者らは、エナミド、エンカルバメートを求核剤として用いる触媒的不斉付加反応を開発している(非特許文献2-6参照)。
【0003】

【特許文献1】特開2002-275127号公報
【非特許文献1】D. A. Evans, T. Rovis, M. C. Kozlowski, C. W. Downey, J. S. Tedrow, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 9134.
【非特許文献2】R. Matsubara, N. Kawai, S. Kobayashi, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 3814; Angew. Chem. 2006, 118, 3898.
【非特許文献3】R. Matsubara, P. Vital, Y. Nakamura, H. Kiyohara, S. Kobayashi, Tetrahedron 2004, 60, 9769.
【非特許文献4】R. Matsubara, Y. Nakamura, S. Kobayashi, Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 3258; Angew. Chem. 2004, 116, 3320.
【非特許文献5】R. Matsubara, S. Kobayashi, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7993; Angew. Chem. 2006, 118, 8161.
【非特許文献6】R. Matsubara, Y. Nakamura, S. Kobayashi, Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 1679.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、β位に不斉点を有するカルボン酸を高収率、高選択的で製造する方法及びそのための求核剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、β位に不斉点を有するカルボン酸誘導体を高収率、高選択的で、しかも簡便な方法で製造する方法を検討してきた。そのために、各種の触媒や求核剤、これらの組み合わせを検討してきたが、窒素原子がアシル化されたエナミンを求核剤として使用し、触媒として銅-光学活性ジアミン誘導体を用いた場合に、優れた収率で高い立体選択性を達成できることを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、アルキリデンマロネートとエナミド構造を有する化合物とを、銅化合物及び不斉炭素原子を含有するジアミンとを含有してなる触媒の存在下で反応させて、β位に不斉点を有するカルボン酸誘導体を製造する方法に関する。
【0007】
本発明をより詳細に説明すれば以下のとおりである。
(1) アルキリデンマロネートとエナミド構造を有する化合物とを、銅化合物及び不斉炭素原子を含有するジアミンとを含有してなる触媒の存在下で反応させて、β位に不斉点を有するカルボン酸誘導体を製造する方法。
(2) アルキリデンマロネートが、次の一般式(1)、
【0008】
【化5】
JP0004860510B2_000002t.gif

【0009】
(式中、Rは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭化水素基を表し、Rは炭素数1以上のアルキル基を表す。)
で表されるアルキリデンマロネートである前記(1)に記載の方法。
(3) 一般式(1)におけるRが、置換基を有してもよいアリール基である前記(2)に記載の方法。
(4) エナミド構造を有する化合物が、次の一般式(2)、
【0010】
【化6】
JP0004860510B2_000003t.gif

【0011】
(式中、Rは置換基を有してもよい炭化水素基を表し、Rは、炭素数1以上のアルキル基又は炭素数1以上のアルコキシ基を表す。)
で表されるエナミド又はエンカルバメートである前記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) β位に不斉点を有するカルボン酸誘導体が、次の一般式(3)、
【0012】
【化7】
JP0004860510B2_000004t.gif

【0013】
(式中、R、R、及びRは前記したものと同じものを表す。)
で表されるβ位に不斉点を有するマロン酸誘導体である前記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 不斉炭素原子を含有するジアミンが光学活性体であり、生成するβ位に不斉点を有するカルボン酸誘導体が少なくとも一種の光学活性体を過剰に含むものである前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 不斉炭素原子を含有するジアミンが、エチレンジアミン構造を有する化合物である前記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 不斉炭素原子を含有するジアミンが、次の一般式(4)
【0014】
【化8】
JP0004860510B2_000005t.gif

【0015】
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立して置換基を有してもよいアリール基を表し、R及びRはそれぞれ独立してアルキル基を表す。)
で表されるエチレンジアミン誘導体である前記(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 銅化合物が、銅トリフラートである前記(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
【0016】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のアルキリデンマロネートは、マロン酸エステルの活性メチレン部分にアルキリデンが結合し、α,β-不飽和マロン酸エステルとなっているものであり、本発明の方法に化学反応に悪影響を与える官能基を有さないものであれば特に制限はない。好ましいアルキリデンマロネートとしては、前記した一般式(1)で表されるアルキリデンマロネートが挙げられる。
前記した一般式(1)で表されるアルキリデンマロネートにおけるRの「炭化水素基」としては、炭素数1~30、好ましくは炭素数1~20、炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基;炭素数2~30、好ましくは炭素数2~15、炭素数2~10の直鎖状又は分枝状のアルケニル基;炭素数2~30、好ましくは炭素数2~15、炭素数2~10の直鎖状又は分枝状のアルキニル基;炭素数3~30、好ましくは炭素数3~15、炭素数5~15の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式の脂環式炭化水素基;炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、炭素数6~12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基;炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、炭素数6~12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数1~30のアルキル基が結合した、炭素数7~40、好ましくは炭素数7~20、炭素数7~15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)が挙げられる。これらの炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ビニル基、1-メチル-ビニル基、2-メチル-ビニル基、n-2-プロペニル基、1,2-ジメチル-ビニル基、1-メチル-プロペニル基、2-メチル-プロペニル基、n-1-ブテニル基、n-2-ブテニル基、n-3-ブテニル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ビシクロ[1.1.0]ブチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[2.2.2.]オクチル基、アダマンチル基(トリシクロ[3.3.1.1]デカニル基)、ビシクロ[4.3.2]ウンデカニル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカニル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ベンジル基、フェネチル基、α-ナフチル-メチル基などが挙げられる。
【0017】
また、これらの炭化水素基における置換基としては、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;炭化水素が環状の基である場合には前記したアルキル基;前記したアルキル基から誘導されるアルコキシ基;前記したアルキル基から誘導されるアルコキシカルボニル基;前記したアルキル基から誘導されるアルキルカルボニルオキシ基;前記したシクロアルキル基から誘導されるシクロアルコキシ基;前記したシクロアルキル基から誘導されるシクロアルコキシカルボニル基;前記したシクロアルキル基から誘導されるシクロアルキルカルボニルオキシ基;前記した炭素環式芳香族基から誘導されるアリールオキシ基;前記した炭素環式芳香族基から誘導されるアリールオキシカルボニル基;前記した炭素環式芳香族基から誘導されるアリールカルボニルオキシ基;前記したアラルキル基から誘導されるアラルキルオキシ基;前記したアラルキル基から誘導されるアラルキルオキシカルボニル基;前記したアラルキル基から誘導されるアラルキルカルボニルオキシ基;シアノ基;ニトロ基などや、場合によっては、前記したアルキル基やアルケニル基やシクロアルキル基などを置換基とすることもできる。
好ましいRの基としては前記した置換基を有してもよいアリール基(炭素環式芳香族基)やアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)などが挙げられる。具体的には、例えば、フェニル基、p-メトキシフェニル基などが好ましい。
【0018】
前記した一般式(1)で表されるアルキリデンマロネートにおけるRの「炭素数1以上のアルキル基」としては、炭素数が1以上の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、より具体的には、炭素数1~30、好ましくは炭素数1~20、炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基などの基が挙げられる。これらのアルキル基は、反応に悪影響を与えない範囲で各種の、例えば前記してきたような置換基で置換されていてもよい。
【0019】
本発明のエナミド構造を有する化合物としては、求核性があるエナミン構造(C=C-N)を有するものであれば特に制限はないが、好ましくはエナミンの窒素原子がアシル化又はオキシカルボニル化(エンカルバメート)されたものが挙げられる。好ましいエナミド構造を有する化合物としては、前記した一般式(2)で表されるエナミド又はエンカルバメートが挙げられる。
前記した一般式(2)で表されるエナミド又はエンカルバメートにおけるRの「炭化水素基」としては、前記で説明した炭化水素基が挙げられ、これらの炭化水素基は前記した置換基を有することができる。R基における好ましい炭化水素基としては、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、炭素数6~12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基(炭素環式芳香族基)が挙げられる。より具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。これらのアリール基は、反応に悪影響を与えない範囲で各種の、例えば前記してきたような置換基で置換されていてもよい。より好ましいRとしては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、p-クロロフェニル基などのハロゲン置換フェニル基、p-メトキシフェニル基などのアルコキシ置換フェニル基、p-メチルフェニル基などのアルキル置換フェニル基、ハロゲン置換ナフチル基、アルコキシ置換ナフチル基、アルキル置換ナフチル基などが挙げられる。
【0020】
前記した一般式(2)で表されるエナミド又はエンカルバメートにおけるRの「炭素数1以上のアルキル基」としては、炭素数が1以上の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、より具体的には、炭素数1~30、好ましくは炭素数1~20、炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基などの基が挙げられる。これらのアルキル基は、反応に悪影響を与えない範囲で各種の、例えば前記してきたような置換基で置換されていてもよい。
また、Rの「炭素数1以上のアルコキシ基」としては、前記したアルキル基から誘導されるアルコキシ基が挙げられ、これらのアルコキシ基も、反応に悪影響を与えない範囲で各種の、例えば前記してきたような置換基で置換されていてもよい。
【0021】
本発明の方法において使用される不斉炭素原子を含有するジアミンとしては、2個の飽和の窒素原子を有するキラルな化合物が挙げられる。より好ましくはアルキレンジアミン構造、より具体的にはエチレンジアミン構造を有する化合物が挙げられる。不斉炭素原子を含有する配位子であって、キラルな配位子の好ましい例としては、前記した一般式(4)で表されるエチレンジアミン化合物が挙げられる。一般式(4)における基R及びRにおけるアルキル基としては、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~15、炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、例えば、n-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。また、基Ar及びArにおけるアリール基としては、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、炭素数6~12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられる。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、などが挙げられる。好ましいアリール基としてはフェニル基やナフチル基が挙げられる。これらのアルキル基やアリールの置換基としては前記した基Rで説明してきた置換基が挙げられる。アリール基における好ましい置換基としては、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メチル基やエチル基などの炭素数1~30、好ましくは炭素数1~15、炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基;メトキシ基やエトキシ基などの炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基から誘導されるアルコキシ基などが挙げられる。これらの置換基は1個又は2個以上であってもよい。
これらの中で、さらに好ましい不斉炭素原子を含有するジアミンとしては、次のものが挙げられる。
【0022】
【化9】
JP0004860510B2_000006t.gif

【0023】
(式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素数6~36のアリール基を示す。)
で表されるアルキレンジアミン誘導体又はシクロヘキシルジアミン誘導体が挙げられる。前記式中におけるPh基又はアリール基は、1個又は2個以上の置換基を有していてもよく、このような置換基としては、メチル基やエチル基やi-プロピル基やt-ブチル基などの炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基;メトキシ基やエトキシ基などの炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基;塩素原子、フッ素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。より好ましいPh基やアリール基としては無置換のフェニル基、p-ブロムフェニル基などのハロゲン置換フェニル基、3,5-キシリル基などのアルキル置換フェニル基などが挙げられる。特に好ましいアリール基の例としてはp-ブロムフェニル基が挙げられ、Ph基の例としては、フェニル基又は3,5-キシリル基などが挙げられる。
【0024】
銅化合物としては、1価又は2価の化合物として銅塩、錯塩、有機金属化合物等の各種のものから選択されてよいが、なかでも、有機酸または無機酸との塩、もしくはこの塩との錯体や有機複合体が好適なものとして挙げられる。より好ましくは強酸との塩、例えばパーフルオロアルキルスルホン酸や過塩素酸、硫酸等の塩、それらの錯体や有機複合体が挙げられる。このような銅化合物としては、例えば、Cu(OTf)、CuOTf、CuClO・4CHCN、Cu(ClO・6HO、Ni(OTf)、NiX+AgOTf(Xはハロゲン原子を示す。)等が挙げられる。好ましい銅化合物としては銅トリフラート(Cu(OTf))などが挙げられる。
本発明の方法における銅化合物は、前記したような銅化合物とキラルな不斉炭素原子を含有するジアミンとを、あらかじめ混合して錯体を調製してから、これを触媒として用いてもよいし、あるいは反応系において銅化合物と不斉炭素原子を含有する化合物とを混合して使用するようにしてもよい。触媒としての使用割合については、銅化合物とキラルな有機分子との錯体として、アルキリデンマロネートに対して、通常は、0.1~50モル%、好ましくは0.5~20モル%程度の割合とすることができる。
【0025】
本発明の一般式(1)で表されるアルキリデンマロネート誘導体に、一般式(2)で表されるエナミン又は又はエンカルバメートなどのエナミド構造を有する化合物をマイケル型の求核付加反応を行わせる方法は、例えば、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、アセトニトリル等のニトリル類、THF等のエーテル類などの有機溶媒の存在下で行うのが好ましい。反応温度としては、好ましくは-20℃~溶媒の沸点、-20℃~40℃程度の範囲で適宜選択することができる。雰囲気は大気中もしくは不活性雰囲気とすることができる。
前記したような本発明の触媒を使用することにより、β位に不斉点を有するカルボン酸誘導体、好ましくは一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体の一方のエナンチオマーがが立体選択的に生成し、β位の炭素原子の立体配置が(R)又は(S)のいずれか一方の鏡像体が優位に生成する。本明細書ではこの位置における(R)体又は(S)体のいずれか一方の過剰率をエナンチオマー過剰率(ee)(%)として表す。このエナンチオマー過剰率は、((R)-(S))/((R)+(S))×100、又は((S)-(R))/((R)+(S))×100として計算される値である。
【0026】
本発明の方法により製造されるβ位に不斉点を有するカルボン酸誘導体、好ましくは一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体は、通常のマロン酸合成法と同様に、これを加水分解して脱炭酸させることにより、一価のカルボン酸誘導体とすることができ、本発明の方法によれば、β-位に不斉炭素原子を有する、一方のエナンチオマーが過剰又は一方のエナンチオマーのみの光学活性体を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、β位に不斉点を有するカルボン酸を高収率で、かつ高立体選択性で、さらに簡便な方法で製造する方法を提供する。本発明の方法は立体選択的な方法であり、高い光学収率を達成することができ、医薬品や食品、それらの中間体などの製造プロセスにおいて、一方の光学異性体を選択的かつ効率的に製造する方法を提供するものである。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例においては、H-NMRと13C-NMRは、JEOL JNM-ECX400, JNM-ECX600、又はJNM-ECX500 を使用し、CDClを溶媒とし(他の溶媒を使用した場合は個別に記載)、テトラメチルシラン(δ=0、H-NMR)又はCDCl(δ=77.0、13C-NMR)を内部標準物質として測定した。HPLCの測定にはSHIMADZU LC-10AT 、SHIMADZU SPD-10A及びSHIMADZU C-R6A Cを使用した。カラムクロマトグラフィーには、Silica gel 60 (Merck)を、調整用薄層クロマトグラフィーにはWakogel B-5Fを使用した。
全ての反応はアルゴン雰囲気下で実施し、溶媒は定法に従い蒸留したものを使用した。アルキリデンマロネートは文献の方法(Jabin, I. et al., J. Org. Chem. 2001, 66, 256.)に従って製造した。
以下の実施例における方法を次の化学反応式によりまとめて示しておく。
【0029】
【化10】
JP0004860510B2_000007t.gif

【0030】
上記式におけるLigandは、上記反応式の下側に示されている一般式(Arは9-アントラニル基を示す。)のものであり、この反応式におけるRはp-メトキシフェニル基を表し、Rはフェニル基、p-クロロフェニル基、又は2-ナフチル基を表している。
【実施例1】
【0031】
前記反応式におけるRが、フェニル基の場合。
銅トリフラート(Cu(OTf))とキラルジアミン配位子から調製されたキラル銅触媒を用いる、エンカルバメート(R=Ph)のアルキリデンマロネート(ビス(4-メトキシフェニル)-2-エチリデンマロネート)への付加反応
Cu(OTf)(3.6mg,0.010mmol)の入っている容器に、リガンド(6.5mg,0.011mmol)の塩化メチレン(1.5mL)溶液を加え、12時間撹拌した。-78℃に冷やした後、ビス(4-メトキシフェニル)-2-エチリデンマロネート(75.3mg,0.22mmol)の塩化メチレン溶液(0.7mL)を加えた。さらに、エンカルバメート(R=Ph,32.2mg,0.20mmol)の塩化メチレン溶液(0.8mL)を加え、-78℃にて10時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止した。反応液を室温に戻し、塩化メチレンで抽出した。無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、乾燥剤を濾別後、溶媒を減圧留去した。得られた残さにTHF(3.0mL)と48%HBr水溶液(0.3mL)を加え室温で1.5分間撹拌後、0℃にて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止した。反応液を室温に戻し、塩化メチレンで抽出した。無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、乾燥剤を濾別後、溶媒を減圧留去した。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、目的の生成物(1)を得た。収率90%。光学純度はHPLC分析の結果90%eeであった。
【0032】
ビス(4-メトキシフェニル) 2-(4-オキソ-4-フェニルブタン-2-イル) マロネート(1):
H NMR: δ:
1.30 (d, J = 6.4 Hz, 3 H), 3.11 (dd, J = 16.5, 8.2 Hz, 1 H),
3.22 (sept, J = 6.4 Hz, 1 H), 3.47 (dd, J = 16.5, 4.8 Hz, 1 H),
3.79 (s, 3 H), 3.80 (s, 3 H), 4.00 (d, J = 6.0 Hz, 1 H),
6.90 (dd, J = 9.2, 4.6 Hz, 4 H), 7,05 (dd, J = 10.5, 9.2 Hz, 4 H),
7.46 (t, J = 7.5 Hz, 2 H), 7.58 (t, J = 7.3 Hz, 1 H),
8.01 (d, J = 7.6 Hz, 2 H).
HPLC 条件:カラム IA, 溶媒 ヘキサン/塩化メチレン:4/1,
流速 1.0mL/分
tR=35.0分、
tR=46.5分、
ee=90%.
【実施例2】
【0033】
前記した化学反応式にしたがって、実施例1と同様にして、前記反応式のRがp-クロロフェニル基である目的物を製造した。
ビス(4-メトキシフェニル) 2-(4-(4-クロロフェニル)-4-オキソブタン-2-イル) マロネート(2):
収率 92%
H-NMR: δ:
1.29 (d, J = 6.9 Hz, 3 H), 3.05 (dd, J = 16.5, 8.0 Hz, 1 H),
3.18 (sept, J = 6.0 Hz, 1 H), 3.45 (dd, J = 16.5, 5.0 Hz, 1 H),
3.78 (s, 3 H), 3.79 (s, 3 H), 3.98 (d, J = 6.0 Hz, 1 H),
6.89 (dd, J = 9.0, 4.4 Hz, 4 H), 7.05 (t, J = 9.4 Hz, 4 H),
7.42 (d, J = 8.2 Hz, 2 H), 7.94 (d, J = 8.7 Hz, 2 H).
HPLC 条件:カラム IA, 溶媒 ヘキサン/塩化メチレン:4/1,
流速 1.0mL/分.
tR=20.5分、
tR=26.8分、
ee=90%.
【実施例3】
【0034】
前記した化学反応式にしたがって、実施例1と同様にして、前記反応式のRが2-ナフチル基である目的物を製造した。
ビス(4-メトキシフェニル) 2-(4-(ナフタレン-2-イル)-4-オキソブタン-2-イル) マロネート(3):
収率 87%
H-NMR: δ:
1.34 (d, J = 6.9 Hz, 3 H), 3.19-3.35 (m, 2 H),
3.61 (dd, J = 16.1, 4.2 Hz, 1 H), 3.78 (s, 3 H), 3.79 (s, 3 H),
4.04 (d, J = 5.5 Hz, 1 H), 6.88 (t, J = 8.7 Hz, 4 H),
7.07 (dd, J = 14.2, 9.2 Hz, 4 H), 7.45-7.62 (m, 2 H),
7.55 (dd, J = 10.8, 8.9 Hz, 2 H), 7.93 (d, J = 8.2 Hz, 1 H),
8.07 (d, J = 8.7 Hz, 1 H), 8.54 (s, 1 H).
HPLC 条件:カラム IA, 溶媒 ヘキサン/塩化メチレン:4/1,
流速 1.0mL/分.
tR=48.0分、
tR=73.8分、
ee=88%.
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の方法は立体選択的な方法であり、高い光学収率を達成することができ、医薬品や食品、それらの中間体などの製造プロセスにおいて、一方の光学異性体を選択的かつ効率的に製造する方法を提供するものであり産業上の利用可能性を有する。