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明細書 :第4級アンモニウム塩を用いた疎水性巨大分子の可溶化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5230956号 (P5230956)
公開番号 特開2008-222628 (P2008-222628A)
登録日 平成25年3月29日(2013.3.29)
発行日 平成25年7月10日(2013.7.10)
公開日 平成20年9月25日(2008.9.25)
発明の名称または考案の名称 第4級アンモニウム塩を用いた疎水性巨大分子の可溶化方法
国際特許分類 C07C 217/16        (2006.01)
C07K   1/14        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
FI C07C 217/16
C07K 1/14
C07K 14/415
C07D 487/22
請求項の数または発明の数 3
全頁数 15
出願番号 特願2007-062569 (P2007-062569)
出願日 平成19年3月12日(2007.3.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年11月15日 インターネットアドレス「http://lib.bioinfo.pl/pmid:17184727」に発表
審査請求日 平成21年12月9日(2009.12.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】西原 寛
【氏名】水野 克哉
【氏名】山野井 慶徳
【氏名】山元 公寿
【氏名】井上 康則
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】小久保 敦規
参考文献・文献 特開昭54-142185(JP,A)
特開昭61-060734(JP,A)
特開平01-100539(JP,A)
米国特許第04857493(US,A)
Takakura, Katsuto; Toyota, Taro; Yamada, Koji; Ishimaru, Masako; Yasuda, Kenji; Sugawara, Tadashi,Morphological change of giant vesicles triggered by dehydrocondensation reaction,Chemistry Letters ,日本,2002年,(3),404-405
調査した分野 C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
JCHEM(JDreamII)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
式(I)
【化1】
JP0005230956B2_000015t.gif
(式中、Aは無置換のフェニル基または無置換のナフチル基を示し、mは10ないし14の整数を示し、nは1または2を示す。Qn+は、式(II)
【化2】
JP0005230956B2_000016t.gif
(式中、R、RおよびRは、同一または別異に、炭素数1ないし3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)または式(III)
【化3】
JP0005230956B2_000017t.gif
(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または別異に、炭素数1または2のアルキル基を示す。)で表される基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される第4級アンモニウム塩からなる界面活性剤を用いて、水性媒体中にPSI複合体およびフェニルアゾメチンデンドリマーから選ばれるいずれかの疎水性巨大分子を可溶化することを特徴とする疎水性巨大分子の可溶化方法。
【請求項2】
第4級アンモニウム塩の式(I)のQn+が、、RおよびRがエチル基である式(II)の基である請求項1記載の疎水性巨大分子の可溶化方法。
【請求項3】
第4級アンモニウム塩の式(I)のQn+が、、R、RおよびRがメチル基、Rがエチル基である式(III)の基である請求項1記載の疎水性巨大分子の可溶化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、PSI複合体等の生体分子やデンドリマー等の人工分子などの疎水性巨大分子を水性溶媒中に可溶化する新規な第4級アンモニウム塩と、これを用いた可溶化方法、そしてこの第4級アンモニウム塩からなる界面活性剤とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の葉などに含まれる葉緑体中の光合成タンパク質複合体であるPSI複合体は、最近では光機能素子等の分野への応用が期待されており、たとえば、生体から機能部品としてこれを単離し、人工合成した分子電線および金ナノ微粒子と接続し、電界効果トランジスタ(FET)のゲート上に結合することで、光照射によりPSI複合体から発生した電子によりゲート電圧を変化させてFETを制御する生体光検出器(バイオフォトセンサー)への応用が検討されている。
【0003】
このような応用に際して、単離したPSI複合体に分子電線を結合する合成工程においては、PSI複合体を水中に効率よく溶解する必要がある。PSI複合体は疎水性であるため水中に溶解するためには界面活性剤を用いることが想定されるが、従来、チラコイド膜局在のPSI複合体を可溶化する目的では界面活性剤としてTriton X-100(登録商標)、ジギトニン(digitonin)、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテル、n-ドデシル-β-D-マルトシド(d-mal)が用いられてきた。
【0004】
そして、樹状構造をもつ巨大分子であるデンドリマーは、その内部空間に金属原子、有機化合物、有機金属化合物、薬剤等を内包することができ、触媒材料、発光材料、電子材料、ドラッグデリバリーなど各種の分野での応用が期待されているが、疎水性のデンドリマーを水性溶媒中で使用するために、疎水性デンドリマーを水性溶媒中に溶解することが必要になる。そこで、可溶化するための方法として、たとえばデンドリマー表面への親水性官能基の導入などによる表面改質が提案されている(特許文献1)。

【特許文献1】特表2006-526626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PSI複合体等の巨大分子を水中に可溶化する際に用いることが想定される従来の界面活性剤は、溶解能力、取り扱い性、価格などの点において必ずしも十分なものではなかった。
【0006】
また、特許文献1のようにデンドリマー表面を改質する方法では、用いるデンドリマーの種類によっては各種の制約がある。
【0007】
そこで本発明は、このような従来技術の問題点を解消し、疎水性巨大分子を効率良く水性媒体中に溶解できる新規な化合物とそれを用いた疎水性巨大分子の可溶化方法を提供することを課題としている。
【0008】
また本発明は、上記の新規な化合物を安価な出発原料から収率良く合成できる製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
【0010】
<1> 式(I)
【0011】
【化9】
JP0005230956B2_000002t.gif

【0012】
(式中、Aは置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を示し、mは10ないし14の整数を示し、nは1または2を示す。Qn+は、式(II)
【0013】
【化10】
JP0005230956B2_000003t.gif

【0014】
(式中、R、RおよびRは、同一または別異に、炭素数1ないし3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)または式(III)
【0015】
【化11】
JP0005230956B2_000004t.gif

【0016】
(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または別異に、炭素数1または2のアルキル基を示す。)で表される基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される第4級アンモニウム塩。
【0017】
<2> 式(I)のAが無置換のフェニル基またはナフチル基であり、Qn+がR、RおよびRがエチル基である式(II)の基である<1>の第4級アンモニウム塩。
【0018】
<3> 式(I)のAが無置換のフェニル基またはナフチル基であり、Qn+が、R、R、RおよびRがメチル基、Rがエチル基である式(III)の基である<4>の第4級アンモニウム塩。
【0019】
<4> <1>ないし<3>のいずれかの第4級アンモニウム塩からなる界面活性剤。
【0020】
<5> <1>ないし<3>のいずれかの第4級アンモニウム塩からなる疎水性巨大分子の可溶化用界面活性剤。
【0021】
<6> 可溶化する疎水性巨大分子がPSI複合体である<5>の界面活性剤。
【0022】
<7> 可溶化する疎水性巨大分子がフェニルアゾメチンデンドリマーである<5>の界面活性剤。
【0023】
<8> <4>の界面活性剤を用いて、水性媒体中に疎水性巨大分子を可溶化することを特徴とする疎水性巨大分子の可溶化方法。
【0024】
<9> 可溶化する疎水性巨大分子がPSI複合体である<8>の疎水性巨大分子の可溶化方法。
【0025】
<10> 可溶化する疎水性巨大分子がフェニルアゾメチンデンドリマーである<8>の疎水性巨大分子の可溶化方法。
【0026】
<11> <1>の第4級アンモニウム塩の製造方法であって、式(IV)
【0027】
【化12】
JP0005230956B2_000005t.gif

【0028】
(式中、Aは置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を示す。)で表されるヒドロキシアリール化合物と、式(V)
【0029】
【化13】
JP0005230956B2_000006t.gif

【0030】
(式中、mは10ないし14の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるアルキルジハライドとを塩基の存在下に溶媒中で反応させて、式(VI)
【0031】
【化14】
JP0005230956B2_000007t.gif

【0032】
(式中、A、mおよびXは前記と同じである。)で表されるアリールオキシアルキルハライドを合成し、次いで、得られたアリールオキシアルキルハライドと、式(VII)
【0033】
【化15】
JP0005230956B2_000008t.gif

【0034】
(式中、R、RおよびRは、同一または別異に、炭素数1ないし3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を示す。)または式(VIII)
【0035】
【化16】
JP0005230956B2_000009t.gif

【0036】
(式中、R、R、R、RおよびRは、同一または別異に、炭素数1または2のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される第3級アミン化合物とを溶媒中で反応させて、式(I)の第4級アンモニウム塩を合成することを特徴とする第4級アンモニウム塩の製造方法。
【0037】
<12> 式(IV)のAが無置換のフェニル基またはナフチル基であり、式(VII)のR、RおよびRがエチル基である<11>の第4級アンモニウム塩の製造方法。
【0038】
<13> 式(IV)のAが無置換のフェニル基またはナフチル基であり、式(VIII)のR、R、RおよびRがメチル基、Rがエチル基である<11>の第4級アンモニウム塩の製造方法。
【発明の効果】
【0039】
上記のとおりの本発明によれば、疎水性巨大分子を水性溶媒中に効率良く溶解できる新規な第4級アンモニウム塩が提供される。また、この第4級アンモニウム塩は取り扱いが容易である。さらに、この第4級アンモニウム塩を界面活性剤として用いれば、疎水性巨大分子の水中における諸物性の調査や分子変換が可能になる。
【0040】
また、本発明の製造方法によれば、上記の新規な第4級アンモニウム塩を安価な出発原料から簡易な工程で収率良く合成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0042】
上記式(I)で表される本発明の第4級アンモニウム塩において、Aで示される基が置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基である場合、置換基は、1つであっても2つ以上であってもよく、置換基が2つ以上である場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
このような置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1ないし4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基等の炭素数2ないし4の直鎖または分岐鎖のアルケニル基、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基等の炭素数2ないし4の直鎖または分岐鎖のアルキニル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基などを挙げることができる。
【0044】
式(I)において、好ましくは、Aで示される基は無置換のフェニル基または無置換の2-ナフチル基である。
【0045】
式(I)におけるアルキレン基の具体例としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基を挙げることができる。
【0046】
式(II)におけるR、R、およびRの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基を挙げることができる。好ましくは、RないしRのすべてがエチル基である。
【0047】
式(III)におけるR、R、R、RおよびRの具体例としては、メチル基、エチル基を挙げることができる。
【0048】
式(I)のXで示されるハロゲン原子の具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0049】
式(I)で表される本発明の第4級アンモニウム塩の具体例としては、(10-フェノキシデシル)トリエチルアンモニウムクロリド、(10-フェノキシデシル)トリエチルアンモニウムブロミド、(10-フェノキシデシル)トリエチルアンモニウムアイオダイド、(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムクロリド、(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミド、(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムアイオダイド、(14-フェノキシテトラデシル)トリエチルアンモニウムクロリド、(14-フェノキシテトラデシル)トリエチルアンモニウムブロミド、(14-フェノキシテトラデシル)トリエチルアンモニウムアイオダイド、[10-(2-ナフトキシ)デシル]トリエチルアンモニウムクロリド、[10-(2-ナフトキシ)デシル]トリエチルアンモニウムブロミド、[10-(2-ナフトキシ)デシル]トリエチルアンモニウムアイオダイド、[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムクロリド、[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムブロミド、[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムアイオダイド、[14-(2-ナフトキシ)テトラデシル]トリエチルアンモニウムクロリド、[14-(2-ナフトキシ)テトラデシル]トリエチルアンモニウムブロミド、[14-(2-ナフトキシ)テトラデシル]トリエチルアンモニウムアイオダイド、N-(10-フェノキシデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジクロリド、N-(10-フェノキシデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミド、N-(10-フェノキシデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジアイオダイド、N-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジクロリド、N-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミド、N-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジアイオダイド、N-(14-フェノキシテトラデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジクロリド、N-(14-フェノキシテトラデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミド、N-(14-フェノキシテトラデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジアイオダイド、N-[10-(2-ナフトキシ)デシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジクロリド、N-[10-(2-ナフトキシ)デシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミド、N-[10-(2-ナフトキシ)デシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジアイオダイド、N-[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジクロリド、N-[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミド、N-[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジアイオダイド、N-[14-(2-ナフトキシ)テトラデシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジクロリド、N-[14-(2-ナフトキシ)テトラデシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミド、N-[14-(2-ナフトキシ)テトラデシル]-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジアイオダイドなどを挙げることができる。なお、これらは水和物であってもよい。
【0050】
式(I)で表される本発明の第4級アンモニウム塩は、目的分子を水性媒体に可溶化するための界面活性剤として好適に使用することができる。特に、以下に例示するような疎水性巨大分子の水性媒体中への溶解力に優れている。ここで水性媒体とは、水、または水とその他の極性溶媒との混合物のことである。
【0051】
疎水性巨大分子は、ナノメーターサイズの水難溶性の物質であり、生体分子でも人工分子でもよく、複数の分子からなる複合体であってもよい。その形状が粒状である場合、その粒径は、たとえば5nm~100nmである。
【0052】
生体分子の具体例としては、タンパク質、複数のタンパク質サブユニットからなる複合体、あるいはタンパク質と他の有機分子との複合体などを挙げることができる。
【0053】
本発明の第4級アンモニウム塩を用いて水性媒体に好適に可溶化できる生体分子としては、光化学系I(PhotoSystem I:PSI)複合体が挙げられる。PSI複合体は、チラコイド膜に存在するクロロフィルとタンパク質との複合体であり、複数のタンパク質サブユニットを有している。その構造はアンテナ複合体と電子伝達鎖からなり、電子伝達鎖の中心に存在する反応中心(P700)で光誘起電荷分離が起こり、光エネルギーから化学エネルギーへの変換が達成される。
【0054】
PSI複合体は、ラン藻あるいは高等植物のチラコイド膜から公知の技術により単離して得ることができる。また、単離操作前後で公知の技術により化学修飾したものであってもよい。たとえば、本発明の第4級アンモニウム塩を用いて水性媒体に好適に可溶化できるPSI複合体の例として、好熱性ラン藻由来のものを挙げることができる。これは規則的に配置された電子移動鎖をもつ12個のタンパク質サブユニットから構成されており、その径は、10nm程度である。その単離、精製方法はすでに知られている。
【0055】
なお、本発明の第4級アンモニウム塩を用いて好適に可溶化できるPSI複合体には、チラコイド膜から単離した後、生理活性を損なわない範囲で変性処理したもの、たとえばエーテルで処理してビタミンKを除去したもの等が含まれる。
【0056】
本発明の第4級アンモニウム塩を用いて水性媒体に好適に可溶化できる人工分子としては、三次元樹状構造を有する疎水性デンドリマーが挙げられる。ここで疎水性とは、少なくとも表面が疎水性であり水難溶性であることを意味する。その世代数やサイズに特に制限はないが、たとえば粒径5nm~100nmのものが挙げられる。
【0057】
デンドリマーとしては、その内部空間に金属原子、有機化合物、有機金属化合物、薬剤等を内包したものであってもよく、表面を官能基で修飾したものであってもよい。
【0058】
このようなデンドリマーの具体例としては、フェニルアゾメチンデンドリマー、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリアルキレンイミンデンドリマー、ポリアリールアルキルエーテルデンドリマーなどを挙げることができるが、特に本発明の第4級アンモニウム塩は、多量のフェニルアゾメチンデンドリマーを水性媒体中に可溶化することができる。
【0059】
人工分子のその他の例としては、フラーレン、ポリスチレン等の有機ポリマーナノ微粒子などが挙げられる。
【0060】
上記したような疎水性巨大分子は、たとえば次の方法により本発明の第4級アンモニウム塩を用いて水性媒体に可溶化することができる。最初に、疎水性巨大分子および本発明の第4級アンモニウム塩を有機溶媒に溶解し、次いで得られた溶液を水性媒体と混合する。その後、この混合液から有機溶媒を除去することにより、水性媒体中に疎水性巨大分子が可溶化される。
【0061】
界面活性剤の使用濃度には特に制限はないが、疎水性巨大分子を可溶化するに足る濃度としておけば十分であり、それ以上高い濃度とする必要はない。
【0062】
式(I)の第4級アンモニウム塩は、式(IV)のヒドロキシアリール化合物と式(V)のアルキルジハライドとを塩基の存在下に溶媒中で反応させて、式(VI)のアリールオキシアルキルハライドを合成する第1工程と、得られたアリールオキシアルキルハライドと式(VII)または式(VIII)の第3級アミン化合物とを溶媒中で反応させる第2工程との2段階の工程により製造することができる。
【0063】
以下、第1工程について説明する。式(IV)で表されるヒドロキシアリール化合物は、好ましくは、無置換のフェノールまたは無置換の2-ナフトールである。式(IV)で表されるヒドロキシアリール化合物として置換基を有するものを用いる場合には、置換基の具体例としては、前述したものを挙げることができる。
【0064】
式(V)で表されるアルキルジハライドの具体例としては、1,10-ジクロロデカン、1,10-ジブロモデカン、1,10-ジヨードデカン、1,11-ジクロロウンデカン、1,11-ジブロモウンデカン、1,11-ジヨードウンデカン、1,12-ジクロロドデカン、1,12-ジブロモドデカン、1,12-ジヨードドデカン、1,13-ジクロロトリデカン、1,13-ジブロモトリデカン、1,13-ジヨードトリデカン、1,14-ジクロロテトラデカン、1,14-ジブロモテトラデカン、1,14-ジヨードテトラデカンなどを挙げることができる。
【0065】
これらの原料化合物を反応させる際には、通常、式(V)のアルキルジハライド1モルに対して、式(IV)のヒドロキシアリール化合物が1.0~1.2モル使用される。
【0066】
反応に用いられる塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、ジエトキシマグネシウム等のアルカリ土類金属アルコキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウム等のアルカリ金属水素化物、水素化カルシウム等のアルカリ土類金属水素化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属塩などを挙げることができ、使用する原料や溶媒の種類などに応じて適宜のものを選択することが望ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
塩基の使用量は、通常、式(IV)のヒドロキシアリール化合物1モルに対して1.0~1.2モルである。
【0068】
反応に用いられる溶媒の具体例としては、エタノール、メタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、またはこれらと水との混合物などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
溶媒の使用量は、式(IV)のヒドロキシアリール化合物の濃度が0.1~0.5Mとなる量が好ましい。
【0070】
反応温度は、原料化合物、塩基および溶媒の種類などにより異なるが、通常50~150℃である。
【0071】
反応時間は、原料化合物、塩基および溶媒の種類、反応温度などにより異なるが、通常10~20日間である。
【0072】
反応は、大気圧下の開放系で進行させることもできるが、減圧下や加圧下、そして不活性ガス雰囲気下等の条件が適宜に採用される。
【0073】
反応により得られた式(VI)のアリールオキシアルキルハライドは、抽出、乾燥、カラムクロマトグラフィー、再結晶などによる通常の精製手段により精製される。
【0074】
次に第2工程について説明する。式(VII)で表される第3級アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-iso-プロピルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N,N-ジエチルメチルアミンなどを挙げることができる。中でも、トリエチルアミンが好ましい。
【0075】
式(VIII)で表される第3級アミン化合物の具体例としては、(2-ジメチルアミノエチル)エチルジメチルアンモニウムクロリド、(2-ジメチルアミノエチル)エチルジメチルアンモニウムブロミド、(2-ジメチルアミノエチル)エチルジメチルアンモニウムアイオダイドなどを挙げることができる。
【0076】
原料化合物を反応させる際には、通常、式(VI)のアリールオキシアルキルジハライド1モルに対して、式(VII)または式(VIII)の第3級アミンが1~2モル使用される。
【0077】
反応に用いられる溶媒の具体例としては、エタノール、メタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
溶媒の使用量は、式(VI)のアリールオキシアルキルハライドの濃度が0.1~0.5Mとなる量が好ましい。
【0079】
反応温度は、原料化合物および溶媒の種類などにより異なるが、通常50~100℃である。
【0080】
反応時間は、原料化合物および溶媒の種類、反応温度などにより異なるが、通常2~10日間である。
【0081】
反応は、大気圧下の開放系で進行させることもできるが、減圧下や加圧下、そして不活性ガス雰囲気下等の条件が適宜に採用される。
【0082】
反応により得られた式(I)の第4級アンモニウム塩は、再結晶などの通常の精製手段により精製される。
【0083】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例示によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0084】
<実施例1>(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドの合成
以下のスキームに従って(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドを合成した。
【0085】
【化17】
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【0086】
フェノール8.95g(95.1mmol)、1,12-ジブロモドデカン26.69g(81.3mmol)、水酸化カリウム5.33g(95.0mmol)をエタノール-水(容積比1:1)溶液(200ml)中で10日間加熱還流した。
【0087】
反応終了後、ジエチルエーテルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒;(ヘキサン/酢酸エチル) 混合比;(10/1))で精製し、メタノールから再結晶することにより中間体である1-ブロモ-12-フェノキシドデカン8.43g(収率28%)を得た。
【0088】
次に、1-ブロモ-12-フェノキシドデカン8.15g(23.9mmol)およびトリエチルアミン5.0mL(35.9mmol)をプロピオニトリル中に加え、4日間加熱還流をした。
【0089】
反応終了後、減圧下溶媒を留去し、残渣を酢酸エチルから再結晶することで目的物質である(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミド9.61g(収率91%)を白色固体として得た。
融点:91-92℃
H NMR(DO,500MHz)δ:7.16(brs,2H),6.86-6.77(m,3H),3.74(brs,2H),3.22(d,J=7.1Hz,6H),3.01(t,J=8.0Hz,2H),1.64(brs,2H),1.52(brs,2H),1.24-1.23(m,25H).
13C NMR(DO,125MHz)δ:159.0(C),129.5(CH),120.6(CH),114.4(CH),67.6(CH),56.5(CH),52.8(CH),29.9(CH),29.83(CH),29.76(CH),29.7(CH),29.6(CH),29.4(CH),29.2(CH),26.3(CH),26.2(CH),7.2(CH).
IR(KBr);3088,3056,2982,2923,2851,1602,1495,1248,761,510cm-1
元素分析:
理論値(%) C2244BrNO:C,65.14;H,10.02;N,3.17.
実測値(%) C,64.90;H,9.99;N,2.95.
<実施例2>PSI複合体の可溶化
実施例1で得られた(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドを用いて、PSI複合体の水中への溶解度を調査した。
【0090】
S.O. Wenk, et al., J. Chromatogr., B 737 (2000) 131-142) に記載の方法で生育、単離、精製した好熱性ラン藻のチラコイド膜から、PSI複合体を単離し、ビタミンK類似分子を導入する目的でビタミンKをPSI複合体から除去した生体分子を調製した。
【0091】
この生体分子に対して10,000倍量の実施例1の(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドを用いて可溶化を行った。具体的には、(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドを一定濃度で水溶液とし、50%wsジエチルエーテルで処理してビタミンKを除去し乾燥したPSI複合体にこの溶液を加えて攪拌した。得られた溶液について、分光光度法により、溶液のUV吸光度を参照して生体分子の可溶化率を測定したところ、38%の可溶化率を達成した。
【0092】
なお、本実施例ではn-ドデシル-β-D-マルトシド(d-mal)を用いてPSI複合体の細胞からの可溶化を行ったが、エーテル処理後のPSI複合体はもはやd-malでは可溶化できなくなった。このように、従来の界面活性剤では可溶化できない試料も、実施例1の化合物により生理活性を損なうことなく可溶化できた。
<実施例3>フェニルアゾメチンデンドリマーの可溶化
実施例1で得られた(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドを用いて、フェニルアゾメチンデンドリマーの水中への溶解度を調査した。
【0093】
G4フェニルアゾメチンデンドリマーと実施例1で得られた(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドを1mLのクロロホルムまたはベンゼンに溶解させた。
【0094】
そこに、pH6.86の中性リン酸塩pH標準液2mLを加え、超音波を与えるとすぐに白色の沈殿ができた。
【0095】
その後、この溶液から有機溶媒をエバポレーターで除去し、限外濾過(孔径0.2μm)することで水溶液を得た。この水溶液について、分光光度法により、溶液のUV吸光度を参照して生体分子の可溶化率を測定した。その試験結果を表1,2に示す。なお、ミセル内にクロロホルムが存在していないことは、ポルフィリンの吸収波長が異なることや、ガスクロマトグラフィーから確認している。
【0096】
【表1】
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【0097】
【表2】
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【0098】
<実施例4> [12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムブロミドの合成
以下のスキームに示すように、実施例1の(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドの合成の時と同様の条件で、[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムブロミドを合成した。
【0099】
【化18】
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【0100】
<実施例5>PSI複合体の可溶化
実施例4で得られた[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムブロミドを用いて、PSI複合体の水中への溶解度を調査した。実施例2で調製した、エーテル処理によりビタミンKを除去したPSI複合体に対して10,000倍量の実施例4の[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムブロミドを用いて可溶化を行った。具体的には、[12-(2-ナフトキシ)ドデシル]トリエチルアンモニウムブロミドを一定濃度で水溶液とし、乾燥したPSI複合体にこの溶液を加えて攪拌した。得られた溶液について、分光光度法により、溶液のUV吸光度を参照して生体分子の可溶化率を測定したところ、35%の可溶化率を達成した。
<実施例6> N-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミドの合成
以下のスキームに示すように、実施例1の(12-フェノキシドデシル)トリエチルアンモニウムブロミドの合成の時と同様の条件で、N-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアンモニウムジブロミドを合成した。
【0101】
【化19】
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【0102】
<実施例7>PSI複合体の可溶化
実施例6で得られたN-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルジアンモニウムジブロミドを用いて、PSI複合体の水中への溶解度を調査した。実施例2で調製した、エーテル処理によりビタミンKを除去したPSI複合体に対して10,000倍量の実施例6のN-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルジアンモニウムジブロミドを用いて可溶化を行った。具体的には、N-(12-フェノキシドデシル)-N’-エチル-N,N,N’,N’-テトラメチルジアンモニウムジブロミドを一定濃度で水溶液とし、乾燥したPSI複合体にこの溶液を加えて攪拌した。得られた溶液について、分光光度法により、溶液のUV吸光度を参照して生体分子の可溶化率を測定したところ、31%の可溶化率を達成した。