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明細書 :透過電子顕微鏡

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4788887号 (P4788887)
公開番号 特開2007-134229 (P2007-134229A)
登録日 平成23年7月29日(2011.7.29)
発行日 平成23年10月5日(2011.10.5)
公開日 平成19年5月31日(2007.5.31)
発明の名称または考案の名称 透過電子顕微鏡
国際特許分類 H01J  37/26        (2006.01)
FI H01J 37/26
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2005-327684 (P2005-327684)
出願日 平成17年11月11日(2005.11.11)
審査請求日 平成20年11月6日(2008.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】石塚 和夫
【氏名】三留 正則
【氏名】木本 浩司
【氏名】板東 義雄
審査官 【審査官】佐藤 仁美
参考文献・文献 米国特許第06590209(US,B1)
特表2001-506160(JP,A)
特開2001-084938(JP,A)
特開2005-216612(JP,A)
調査した分野 H01J 37/00-37/02、37/05、37/09-37/18、
37/21、37/24-37/244、
37/252-37/295
特許請求の範囲 【請求項1】
計測対象となる物体からの光学的伝播距離の異なる計測面を順方向および逆方向に選択する計測面選択機構と、
電子波強度を計測する画像計測機構と、
順方向および逆方向に計測された電子波強度から強度輸送方程式に基づき、電子波の位相を求める位相演算機構
を備えることを特徴とする透過電子顕微鏡。

【請求項2】
請求項1記載の計測面選択機構において、
前記画像計測機構の記録面の位置を電子波の伝播方向に平行に移動させることにより、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1 記載の計測面選択機構において、
前記計測対象となる物体の位置を電子波の伝播方向に平行に移動させることにより、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする透過電子顕微鏡。

【請求項4】
請求項1記載の計測面選択機構において、
結像レンズ電流の強さを制御することにより、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする透過電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1記載の計測面選択機構において、
電子線の加速電圧を制御することにより、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする透過電子顕微鏡。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電子波面の位相分布を計測する機能を有する透過電子顕微鏡に関する。本発明の装置は、透過電子顕微鏡における吸収コントラストの小さい生物試料、電場磁場の強度、さらには、電磁レンズの収差などの観察に好適である。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡の分野においては吸収コントラストの小さい生物試料などの観察にはZernikeによる位相板を用いる位相差顕微鏡が用いられている。しかし、電子波などに対する位相板はそのサイズが数十ミクロンと小さく、ミクロンのオーダでの位相板の位置合わせ精度が必要とされる。また位相板への電子線照射による帯電、損傷などの解決困難な問題が存在する(特許文献1)。
【0003】
電子線ホログラフィでは波面が再生できるので、波の位相を計測することが可能であり、時間的な変化の観察(‘その場’観察)の提案もなされている(特許文献2)。しかし、電子線ホログラフィは真空中を通過した参照波を必要とするので、観察できる領域は真空に接する試料端のみであり、その利用には限界がある。
【0004】
位相物体では試料直下では振幅変化が無いが、波が伝播することにより振幅に強度差が生じる。このため、試料より焦点を外して計測すれば、物体の存在は認識できる場合が有る。しかし、この場合には焦点を外すことにより観察像にぼけが生じる。
【0005】
最近、焦点を外すことにより得られる位相物体の光学顕微鏡像あるいは電子顕微鏡像から、強度輸送方程式(非特許文献1)に基づく画像処理により、位相分布が求まることが示されている(例えば、非特許文献2)。また、最近、求まった位相分布から波面を再生し、球面収差の補正が可能であることも示された(非特許文献3)。しかし、これはオフラインの処理であり、光学における位相差顕微鏡のように位相分布をその場観察することはできない。
【0006】
電子顕微鏡では、軸対称磁界型対物レンズは常に凸レンズであり、光学顕微鏡のように凹レンズを組み合わせることにより球面収差を補正することはできない。最近、電子顕微鏡における球面収差補正は多極子レンズの開発により可能になってきている。しかし、球面収差補正を多極子レンズにより実現しても吸収コントラストの小さい生物試料などの位相物体の観察は依然として困難である。
【0007】

【特許文献1】特開2001-273866号公報
【特許文献2】特開平5-323859号公報
【非特許文献1】M.R. Teague, J. Opt. Soc. Am. 73 (1983) 1434-1441
【非特許文献2】E.D. Barone-Negent, A. Barty and K.A. Nugent, J. Microsc. 206 (2002) 194-203
【非特許文献3】K. Ishizuka and B. Allman, J. Electron Micros, (2005) in press
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子波は、物体を透過したとき、電場や磁場中を通過したとき、ならびに、電磁レンズによって曲げられたときなどに、その位相を変化させる。この位相変化を計測することで、吸収コントラストの小さな位相物体や、電場・磁場の強度、さらには、電磁レンズの収差などを知ることができる。
【0009】
しかし、上記したように、電子波の位相分布を詳細にその場観察する一般的な方法は未だに存在しない。本発明は、上記状況に鑑みて、強度輸送方程式に基づき、電子波の位相計測を高速かつ時系列的に連続に実行する、透過電子顕微鏡を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
[1]透過電子顕微鏡において、計測対象となる物体からの光学的伝播距離の異なる計測面を順方向および逆方向に選択する計測面選択機構と、選択された計測面における電子波強度を計測する画像計測機構と、順方向および逆方向に計測された電子波強度から強度輸送方程式に基づき、電子波の位相を求める位相演算機構を備えることを特徴とする。

【0011】
[2]上記[1]記載の計測面選択機構において、前記画像計測機構の記録面の位置を電子波の伝播方向に平行に移動させることにより、前記画像計測機構の記録面における、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする。
【0012】
[3]上記[1]記載の計測面選択機構において、前記計測対象となる物体の位置を電子波の伝播方向に平行に移動させることにより、前記画像計測機構の記録面における、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする。

【0013】
[4]上記[1]記載の計測面選択機構おいて、結像レンズ電流の強さを制御することにより、前記画像計測機構の記録面における、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする。
【0014】
[5]上記[1]記載の計測面選択機構において、電子線の加速電圧を制御することにより、前記画像計測機構の記録面における、前記光学的伝播距離を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光学位相差顕微鏡と同様に、生物試料のような吸収コントラストの小さい試料(位相物体)を無染色の状態で大きなコントラストの位相像としてその場観察することができる。また、材料開発で必要とされる電場・磁場強度のその場観察が容易に行える。
【0017】
本発明によれば、位相差顕微鏡が実現できるだけでなく、求まった位相をもとに、画像処理により、対物レンズの球面収差を補正することも可能となる。
【0018】
さらに、本発明によれば、電磁レンズの収差を計測できるので、収差補正レンズ系へフィードバックをかけることにより、ハードウェアによる球面収差補正が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の位相計測の基本原理となる強度輸送方程式について簡単に説明する。強度輸送方程式とは以下の式1に示すように強度の伝播に関する方程式である。
【数1】
JP0004788887B2_000002t.gif

【0020】
ここで、I(xyz)は電子波の強度分布、φ(xyz)は電子波の位相分布、λは電子波の波長である。また、
【数2】
JP0004788887B2_000003t.gif
はxy平面内の2次元ベクトル微分演算子である。この微分方程式は、注目する計測面における電子波の強度と、その波の伝播方向における微分が既知であれば、注目する計測面における位相を求めることが可能であることを示している。
【0021】
さて、強度輸送方程式を適用するには注目する計測面における強度と、波の伝播方向における微分が必要となる。この微分は、通常、計測対象となる物体(試料)からの光学的伝播距離の異なる計測面における電子波強度の差分で近似する。すなわち、図1のAに示すように、等間隔εにとった注目する計測面2とその前後の計測面1及び3で電子波強度を測定し、以下の式2に示すように、注目する計測面2での強度微分を前後の計測面1及び3の電子波強度の差分で近似する。
【数3】
JP0004788887B2_000004t.gif

【0022】
ここでの計測面を最も直接的に選択するのは、前記画像計測機構の記録面の位置を、電子波の伝播方向にモータ駆動等により機械的に平行に移動させることである。あるいは、前記計測対象となる試料の位置を、電子波の伝播方向にピエゾ素子等により機械的に平行に移動させることである。
【0023】
ところで、数学的には計測面の間隔が小さい程、微分への近似精度が高くなるが、計測面の間隔が小さいと強度変化が小さくなり、実験的にはノイズに支配されてしまう。このため、微分への近似精度の範囲内で、計測面間の間隔をできるだけ大きくすることが重要である。この計測面間の最大間隔は等間隔の場合には以下の式3のように与えられる(参考:前記非特許文献3):
【数4】
JP0004788887B2_000005t.gif

【0024】
ここで、cは近似精度であり、0.25程度とする。gmaxは画像に含まれる最高空間周波数(最小面間隔の逆数)、λは電子波の波長である。微分には計測面1及び3で強度を測定された画像を用いるので、計測面間隔が2εの場合の強度変化を利用することが出来る。これは、加速電圧が400 kVで、最小面間隔が0.14 nmの場合には、今までに推定された利用可能な計測面間隔(D. Van Dyck, W. Coene, Optik 77 (1987) 125-128)のおよそ100倍にあたる。
【0025】
3つの計測面が等間隔でない図1のBのような場合には、以下の式4のように微分を求めることもできる。
【数5】
JP0004788887B2_000006t.gif

【0026】
ここで、ε及びεは注目する計測面2とその前後の計測面1および3との距離である。
【0027】
あるいは、図1のCに示すように、注目する計測面2を仮想的なものとし、計測面1及び3で強度を測定し、注目する計測面2での強度微分は今まで通り計測面1及び3での強度の差(式2)で近似する。そして、注目する計測面2での強度を計測面1及び3での強度の平均で近似してもいい。
【0028】
この近似の有用性を以下に示す。図2は、電子顕微鏡で結像レンズの焦点距離を変化させ、磁性材料(ペロブスカイト型マンガン酸化物)を観察したものである。中央はジャストフォーカス、左右はそれぞれ約2mmのアンダー及びオーバーフォーカスでの電子顕微鏡像である。すなわち、図2の左、中央、右の電子顕微鏡像の計測面はそれぞれ図1のAに示した3つの計測面に相当する。この3枚から強度輸送方程式に従い位相を計算したものが図3である。
【0029】
一方、図1のCに示すように、計測面1および3での電子顕微鏡像の計測強度のみを用い、計測面2での波の強度を計測面1および3での計測強度の平均として近似し、強度輸送方程式に従い位相を求めたものが図4である。図3と図4を比較すれば判るように、視覚的には殆ど差は認められない。よって、定性的なその場観察には計測枚数の少ない図1のCの観察手法が有用である。
【0030】
前記位相演算機構での位相計算には、強度輸送方程式を以下の式5のように2回のポアソン方程式を使って解くPaganin, Nugentの方法(D.Paganin, K.A. Nugent, Phys. Rev. Lett.80 (1998) 2586-2589)が有用である。
【数6】
JP0004788887B2_000007t.gif

【0031】
ここで、
【数7】
JP0004788887B2_000008t.gif
は形式的にポアソン方程式の解を表している。
【実施例】
【0032】
以下、この手法を高速に適応するための実施例を、透過電子顕微鏡51を具体例として図5に示す。本構成では、制御コンピュータ52が計測面選択機構53及び画像計測機構54、位相演算機構55とのタイミングを調整する。位相演算機構55で求まった位相分布はモニター56に表示される。なお、本構成は結像型光学系を形成可能な電子波以外の電磁波、音波、荷電粒子などについても同様に適用することができる。
【0033】
本実施例の画像計測機構54では強度が線形に精度よく計測でき、その場で電子波強度の記録、読み出しが可能な計測用CCDを用いている。毎秒5フレーム以上であればその場観察が可能である。
【0034】
また、本実施例の計測面選択機構53では、画像計測機構54、あるいは試料58の位置を電子波の伝播方向に機械的に平行に移動させることなく、結像レンズ57の励磁電流を変化させることにより、結像面を電子波の伝播方向に平行に高速に前後させ、結果として固定した記録面において、図1のAに示すように、試料からの光学的伝播距離の異なる3つの計測面での強度を測定している。
【0035】
3枚の電子顕微鏡像を用いる本実施例の場合には、図1のAに示す3つの計測面における電子波強度の測定が必要である。ここでは、計測面選択機構53により計測面を、図8のAの計測順序に示すように、1、2、3、2、1、2、3、2、1・・・のように両方向(順方向および逆方向)に選択する。そして、電子波強度を順方向(1、2、3)、及び、逆方向(3、2、1)に用いて位相を計算することにより、すなわち、計測された電子波強度を、順方向および逆方向に利用することにより、図8のAの計測順序の丸印で示すように、初回を除き、2枚の画像を計測するごとに、新しい位相像をモニター56に表示することが可能となる。
【0036】
式3に示すように、このときの計測面間の最大距離は計測したい最高空間周波数(最小面間隔の逆数)に依存する。そして、計測したい最高空間周波数が大きい場合、すなわち、計測したい物体の構造が小さい場合は、焦点変化量は小さく、像の回転、像倍率の変化等は無視できる。
【0037】
一方、計測したい最小の間隔が数十nmである場合には、低倍で観察することになるが、結像レンズ57で焦点を大きく変化させる必要が有る。この場合には、像の回転、像倍率の変化等が発生する。これらの変化は同じ計測条件で前もって測定しておけば、以下の位相演算機構55の説明で述べるように、それらの測定値を用いて高速に補正が可能である。
【0038】
次に、位相演算機構55の基本的構成を例示的方法により図6に示す。画像計測機構54により測定された電子顕微鏡像はまず、前もって同じ条件で測定され、制御コンピュータ52に保存されている像の回転、像倍率の補正値65を使って、回転、倍率補正部61において、像の回転、像倍率の変化が補正される。次に、位置ずれ補正部62において、計測された像の位置ずれの補正が画像間の相互相関をとることにより行われる。その後、位相演算部63において強度輸送方程式により位相が計算される。
【0039】
最後に、必要であれば、収差補正部64において、求まった位相情報と計測された強度情報から複素波面を構成し、その複素波面に対して制御コンピュータに保存されている球面収差係数、デフォーカス、加速電圧、及び倍率等66を用いて収差補正がなされる。
【0040】
これらの一連の処理を2枚の電子顕微鏡像の収集時間(フレーム)内に行うことにより、2フレームごとに処理像をモニター56に表示することが可能となる。これらの各処理61、62、63、及び64は順次に行われるので、図6に示すようにパイプライン化することにより、高速化が実現されるが、出力にはタイムラグが生じる。ここで、4つの各処理部61、62、63、及び64が2フレームの時間で実行されるとすると、パイプライン化すれば、モニター56には2フレームごとに結果が出力されるが、出力されるのは4段前のデータに対応することになる。
【0041】
次に、前記位相演算部64を示すフローチャートを図7に示す。この方法では、図7に示すように、ポアソン方程式をフーリエ変換により解いている(参考:前記Paganin, Nugentの論文)。まず、微分計算部71において、計測面1及び3での計測データ81等を用いて電子波の伝播方向の差分が式2により計算され、微分の近似値とされる。次に、式
5の
【数8】
JP0004788887B2_000009t.gif
に相当する演算をフーリエ変換、フィルタ、逆フーリエ変換により実行する。すなわち、フーリエ変換部72により、強度微分のフーリエ変換を行い、次に、x-フィルタ73と逆フーリエ変換74により、x成分を計算する。同様に、y-フィルタ83と逆フーリエ変換84により、y成分を計算する。
【0042】
次に、除算部75、85、により、計測面2での計測データ82による除算が行われる。次に、式5の
【数9】
JP0004788887B2_000010t.gif
に相当する演算をフーリエ変換、フィルタ、逆フーリエ変換により実行する。すなわち、x成分に対して、フーリエ変換部76、x-フィルタ77、逆フーリエ変換78の演算を行う。同様に、y成分に対して、フーリエ変換部86、y-フィルタ87、逆フーリエ変換88の演算を行う。最後に、加算部79においてx成分とy成分を加算し、求める位相80を得る。
【0043】
この方法ではフーリエ変換が多用されるので、高速のフーリエ変換処理部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)などのファームウェアで実現する。ここで、2個のフーリエ変換処理部を実装し、図7の左右のx成分とy成分の処理を平行して行えば、位相計算の所要時間は4回のフーリエ変換の時間で概ね決定される。
【0044】
また、各フーリエ変換処理部を独立に実装し、パイプライン化を行えば、位相計算の所要時間は1回のフーリエ変換の時間で概ね決定される。しかし、タイムラグはパイプラインの段数に比例する。フーリエ変換処理部のデータ処理の高速化に従い、パイプラインの段数は最適に選択されるのが望ましい。
【0045】
さらに、2次元画像の各画素の処理は平行に行えることが多いので、画像を複数の領域にわけ、各領域を平行に処理することによりさらに高速化が可能である。この場合には、処理の制御は複雑になるが、出力のタイムラグは生じないという利点が有る。
【0046】
2枚の電子顕微鏡像を用いる別の実施例では、図1のCに示す2つの計測面1および3における電子波強度の測定が必要である。ここでは、計測面選択機構53により計測面を、図8のBの計測順序に示すように、1、3、1、3、1、3・・・のように選択する。そして、電子波強度を順方向(1、3)、及び、逆方向(3、1)に用いて位相を計算することにより、すなわち、計測された電子波強度を、順方向および逆方向に利用することにより、図8のBの計測順序の丸印で示すように、初回を除き、1枚の画像を計測するごとに、新しい位相像をモニター56に表示することが可能となる。
【0047】
また、別の実施例では、加速電圧を変化させて、結果的に、結像レンズ57の焦点を変化させて、結像面を電子波の伝播方向に平行に高速に前後させいる。その結果として、画像計測機構54、あるいは試料58の位置を電子波の伝播方向に機械的に平行に移動させることなく、固定した記録面において、試料からの光学的伝播距離の異なる計測面での強度を測定している。
このような加速電圧の変化による結像レンズ57の焦点変化ではヒステリシスを無視できるので好都合である。しかし、数ミクロン以上の大きな焦点変化を必要とする場合には
、必要な加速電圧の変化が大きくなり、この方法は適用困難となる。
【0048】
さらに、別の実施例としては、ピエゾ素子により試料58の位置を電子波の伝播方向に平行に移動させ、画像計測機構54を固定した状態で、試料58からの光学的伝播距離の異なる複数の計測面を測定することも可能である。
【0049】
さて、注目する計測面2における位相が求まれば、既知である計測面2における電子波強度の平方根より振幅を得ることが出来るので、注目する計測面2における波面が再生されることとなる。波面が再生されれば、任意の面への波の伝播が可能となり、また、結像レンズ57に収差が存在する場合には、結像系の収差の補正が可能となる。すなわち、本発明の位相計測装置を用いれば、位相を計測するだけでなく、球面収差の補正も可能となることは、特記すべきである。
【0050】
次に電磁レンズの収差計測の例を示す。試料が存在しない状態で、電磁レンズに平面波を入射すると、電磁レンズを通過後の波面は、吸収がないので、振幅は一定である。そして、収差が無い場合には、焦点に収束する球面波となっている。しかし、収差が有る場合には、収束する球面波と実際の波面とのずれが存在する。
【0051】
この場合に、電子波の計測面をレンズと焦点の間、あるいは焦点通過後に設定すれば、電子波の伝播により強度が計測面によって変化する。この計測強度から前述のように強度輸送方程式を用いて注目する計測面2での位相が求まる。この位相から波面を再生し、レンズ面まで計算により逆伝播させれば、レンズ面での波面が求まる。そして、この計測波面と、計測波面に最小自乗法的に適合させた球面波との行路差として、電磁レンズの波面収差が計算される。この収差情報をもとに収差補正レンズ系へフィードバックをかけることにより、ハードウェアによる球面収差補正が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、位相物体の観察においても、観察後に画像処理によりその可否が判るのではなく、正しい物体像がその場観察されることになり、実用上計り知れない差異を生じ、工学、医学、生物学などの広い分野における開発、研究、評価を著しく効率化できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】注目する計測面とその前後の計測面を示す模式図である。
【図2】図1のAに示した3つの計測面における磁性材料を観察した電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図3】図2に示す3枚の像から位相を計算した位相像を示す図面代用写真である。
【図4】図1のCに示した2つの計測面における磁性材料を観察した電子顕微鏡像から位相を計算した位相像を示す図面代用写真である。
【図5】本発明の装置の具体例を示す概念図である。
【図6】本発明の装置における位相演算機構を示す概念図である。
【図7】本発明の装置における位相演算部を示すフローチャートである。
【図8】電子線強度の計測順序と位相計算への利用を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1 注目する計測面の前の計測面
2 注目する計測面
3 注目する計測面の後の計測面
51 電子顕微鏡
52 制御コンピュータ
53 計測面選択機構
54 画像計測機構
55 位相演算機構
56 モニター
57 結像レンズ
58 試料
61 回転、倍率補正部
62 位置ずれ補正部
63 位相演算部
64 収差補正部
65 回転、倍率補正値
66 球面収差係数、デフォーカス、加速電圧、倍率等
71 微分計算部
72 フーリエ変換部
73 x-フィルタ
74 逆フーリエ変換部
75 除算部
76 フーリエ変換部
77 x-フィルタ
78 逆フーリエ変換部
79 加算部
80 位相
81 注目する計測面の前後の計測面での計測強度、計測距離
82 注目する計測面での計測強度
83 y-フィルタ
84 逆フーリエ変換部
85 除算部
86 フーリエ変換部
87 y-フィルタ
88 逆フーリエ変換部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7