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明細書 :帯電中和電子の斜め照射法を用いた絶縁物試料観察用放射電子顕微鏡

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4831604号 (P4831604)
公開番号 特開2007-165155 (P2007-165155A)
登録日 平成23年9月30日(2011.9.30)
発行日 平成23年12月7日(2011.12.7)
公開日 平成19年6月28日(2007.6.28)
発明の名称または考案の名称 帯電中和電子の斜め照射法を用いた絶縁物試料観察用放射電子顕微鏡
国際特許分類 H01J  37/20        (2006.01)
H01J  37/285       (2006.01)
FI H01J 37/20 H
H01J 37/285
請求項の数または発明の数 4
全頁数 7
出願番号 特願2005-360977 (P2005-360977)
出願日 平成17年12月14日(2005.12.14)
審査請求日 平成20年12月5日(2008.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】安福 秀幸
【氏名】吉川 英樹
審査官 【審査官】遠藤 直恵
参考文献・文献 特開2005-292013(JP,A)
特開平07-325052(JP,A)
特開平07-260801(JP,A)
特開2005-174591(JP,A)
特開2002-056794(JP,A)
調査した分野 H01J 37/00-37/02,37/05,37/09-37/21,37/24,37/244,37/252-37/295
G01N 23/00-23/227
特許請求の範囲 【請求項1】
試料台に設置した絶縁物試料に励起光を照射し、試料表面から放出された光電子又は二次
電子を投影型電子光学系により結像させて試料表面を観察する方法において、試料面上に
強電場又は強磁場が印加された状態で、励起光と同時に、帯電抑制機能を果たした後に試
料表面で反射又は弾性散乱した中和電子が角度制限絞り(コントラスト絞り)で除去でき
るように、帯電中和電子ビームをビーム偏向器又はビームセパレータの電子光学条件を調
整することにより結像光軸に対して斜め方向から試料表面に照射することを特徴とする絶
縁物試料表面を観察する方法。
【請求項2】
励起光と同時に、帯電抑制用光ビームを試料表面に照射することを特徴とする請求項1記
載の絶縁物試料表面を観察する方法。
【請求項3】
絶縁物試料を載せる試料台と、励起光を照射する光源と、試料面から放出される光電子や
二次電子を結像する電子光学系とを有し、試料面上に強電場又は強磁場が印加された状態
で、試料の帯電を抑さえる機能を持つ帯電中和電子線源又は帯電抑制用光ビームを試料表
面に照射する紫外光源を有し、かつ帯電中和電子ビームを結像光軸に対して斜め方向から
試料表面に照射するビーム偏向器及び結像光軸内に設置された角度制限絞り(コントラス
ト絞り)を有することを特徴とする放射電子顕微鏡。
【請求項4】
試料と対物レンズの間の電位を調整できる磁場電場重畳型対物レンズを備えたことを特徴
とする請求項3記載の放射電子顕微鏡。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電中和電子の斜め照射法を用いた絶縁物試料観察用放射電子顕微鏡に関す
る。
【背景技術】
【0002】
放射電子顕微鏡には、試料面上に強電場や強磁場を印加しない方式と試料面上に強電場
や強磁場を印加する方式がある。前者の、試料面上に強電場や強磁場を印加しない方式の
装置であれば、数eV程度の低速の電子ビームを試料に照射し、絶縁物試料の帯電を抑制す
る方法があった(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
後者の、試料面上に強電場や強磁場を印加する方式の装置であれば、一般に対物レンズ
によって回転対称な電場や磁場を発生させて使う。この回転対称な電場や磁場の回転中心
に沿って、数eV程度の低速の電子ビームを試料に照射し、絶縁物試料の帯電を抑制する方
法があった。なお、帯電抑制のために試料に照射する電子を、帯電を中和するという意味
で中和電子と呼称する。
【0004】

【特許文献1】特開2000-277048号公報
【特許文献2】特開2000-340160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、後者の場合、試料に照射した中和電子が、反射又は弾性散乱して観測する光電
子像にかぶってしまう問題点があった。一般に、十分な帯電抑制効果を得るには、光電子
強度に対して数桁以上の強度を持つ中和電子を試料に照射するため、大強度の中和電子が
微弱な光電子像にかぶってしまえば、光電子像を観察することが困難となってしまうから
である。この問題点を解決するためには、結像電子光学系内部にエネルギーフィルターを
組み込んで、反射又は弾性散乱した中和電子を取り除く必要があった。
【0006】
先に出願した(特願2005-172859)本発明者等の発明に関わる手法及び装置
は、絶縁物試料面上に強電場又は強磁場が印加された状態で中和電子を照射して帯電抑制
をするもので、中和電子ビームを結像光軸上から試料に垂直に照射することで強電場又は
強磁場に妨害されることなく中和電子を十分な強度で試料に到達させられるようにしたも
のであった。
【0007】
しかし、この方法では、試料で反射又は弾性散乱した中和電子ビームと光電子が同一の
角度を持つ電子軌道を描いて結像されるため、観測する光電子像から反射又は弾性散乱し
た中和電子をエネルギーフィルターなどを用いて取り除く必要があり、装置構成が複雑に
なる問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
光電子顕微鏡に代表される放射電子顕微鏡は、試料台に設置した試料から放出される光
電子などの荷電粒子を強電場や強磁場で引き出して結像し、拡大像を得る電子顕微鏡であ
る。本発明は、この放射電子顕微鏡技術の分野において、試料台に設置した絶縁物試料を
観察した際に生じる試料表面の帯電を抑制し、エネルギーフィルターを用いること無く鮮
明な電子像を得るための手法と、それを応用した放射電子顕微鏡を提供する。
【0009】
試料台に設置した絶縁物試料面上に強電場や強磁場が存在する中で、エネルギーフィル
ターを用いずに、試料で反射又は弾性散乱した帯電中和電子を取り除くため、本発明では
帯電中和電子ビームを対物レンズによって作られる回転対称な電場や磁場の回転中心に一
致する結像光軸の方向から少し斜めに傾け(電子光学系の設計に依るが400μmφの角
度制限絞りを使用した場合でおよそ27°)、角度を持たせて試料に照射する方式(以下
、適宜「斜め照射方式」という)とした。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)試料台に設置した絶縁物試料に励起光を照射し、試料表面
から放出された光電子又は二次電子を投影型電子光学系により結像させて試料表面を観察
する方法において、試料面上に強電場又は強磁場が印加された状態で、励起光と同時に、
帯電中和電子ビームをビーム偏向器又はビームセパレータの電子光学条件を調整すること
により結像光軸に対して斜め方向から試料表面に照射するとともに試料表面で反射又は弾
性散乱した中和電子を角度制限絞り(コントラスト絞り)で除去することを特徴とする絶
縁物試料表面を観察する方法、である。
【0011】
また、(2)励起光と同時に、帯電抑制用光ビームを試料表面に照射することを特徴と
する上記(1)の絶縁物試料表面を観察する方法、である。
【0012】
また、(3)絶縁物試料を載せる試料台と、励起光を照射する光源と、試料面から放出
される光電子や二次電子を結像する電子光学系とを有し、試料面上に強電場又は強磁場が
印加された状態で、試料の帯電を抑さえる機能を持つ帯電中和電子線源又は帯電抑制用光
ビームを試料表面に照射する紫外光源を有し、かつ帯電中和電子ビームを結像光軸に対し
て斜め方向から試料表面に照射するビーム偏向器及び結像光軸内に設置された角度制限絞
り(コントラスト絞り)を有することを特徴とする放射電子顕微鏡、である。
【0013】
また、(4)試料と対物レンズの間の電位を調整できる磁場電場重畳型対物レンズを備
えたことを特徴とする上記(3)の放射電子顕微鏡、である。
【0014】
放射電子顕微鏡で観測される像は、主に試料表面の垂直方向に放出された光電子又は二
次電子を結像する。一方、帯電中和電子ビームを結像光軸に対して斜め方向から試料表面
に照射すると、帯電中和電子は試料上で鏡面反射を起こして試料表面の垂直方向に対して
照射角と同じ角度を持って反射される。
【0015】
ここで、結像光軸内に設置された角度制限絞り(コントラスト絞り)を用いて、角度を
持った中和電子ビームを取り除くことで、エネルギーフィルターを用いることなく微弱な
光電子又は二次電子と大強度の中和電子を切り分けることができ、光電子又は二次電子像
を容易に観測することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
従来の放射電子顕微鏡では絶縁物の観察にエネルギーフィルターが必要であり非常に複
雑な装置が必要であったが、本発明の斜め照射方式により、そのエネルギーフィルターを
必要としない簡便な装置で観察を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、本発明の装置の一例を示す。試料台(図示せず)に設置した絶縁物試料11の
表面に励起光ビームの経路80に沿って照射される光源として励起光源(X線源)21、
試料11の表面に帯電抑制用光ビームの経路82に沿って照射される紫外光源22、試料
11の表面に中和電子ビームの経路81に沿って照射される中和電子線源(電子銃)31
が、電子顕微鏡の基本光学系に付属している。
【0018】
ビームセパレータ61により中和電子線は、結像ビームの経路(結像光軸)90に沿っ
て試料11の表面に照射することができる。試料11には、負の高電圧がかかっている。
X線や紫外線を試料11に斜めから当てられるようになっており、試料11から放出され
た電子を電子レンズ系41-51(対物レンズ41、投影型電子光学系の磁界レンズ42
,43,44,45、投影型電子光学系のビーム偏向器46,47,48,49、投影型
電子光学系のスティグメータ50,51)で結像し、検出器71を介してCCDカメラ7
2で観察する。
【0019】
中和電子線源31から出て中和電子ビームの経路81に沿って照射された中和電子線は
、ビームセパレータ61を用いて結像光軸90上に導かれ、通常は試料11に垂直に照射
するため、試料11の表面上の強電場や磁場に妨げられることなく試料11に到達する。
【0020】
この中和電子線を用いて試料11の帯電を中和するためには、電子銃31の電位を試料
11の電位と同じ値か又は負極性に僅かにずらした(試料の形状や帯電状況に依るが1~
5eV程度)値に設定する。その様にすると、試料11の表面が帯電する前の中性の状態の
ときは、中和電子ビームの試料11に対する照射エネルギーはほぼ0eVであり、照射電子
は試料11の表面電位にはじき返されて試料11の表面に当たらずに反射させられる。こ
の様に、試料11の表面電位で反射された電子を反射電子と呼ぶ。
【0021】
試料11にX線や紫外線などを照射することによって光電子又は二次電子放出が起こっ
て試料11が正極性に帯電すると、電子銃31の電位と試料11の電位に差が生じる。こ
の電位差が発生すると、照射した中和電子ビームが電位差分の運動エネルギーを持って試
料11の表面に当たり始めて、試料11の表面に生じた帯電が中和される。
【0022】
試料11の表面の帯電が中和されると試料11の電位が元に戻り、入射電子は再び試料
11の表面直前で反射されるようになる。この様にして、試料11の電位のバランスが取
れたところで中和が完了する。
【0023】
このとき、中和電子ビームを試料11の表面に対して垂直に照射すると、反射電子や弾
性散乱された電子が観測したい光電子像にかぶる問題が生じる(図2(a)参照)。図2(a)
は、試料11から放出された光電子が対物レンズ41を介して像面100における結像の
ために描く結像光電子の電子軌道110-112である。
【0024】
図2(b)は、結像光軸に対して斜め方向から照射した中和電子ビームの電子軌道11
3を実線で示す。試料11で反射又は弾性散乱した中和電子のみを角度制限絞りCAで取
り除くことができる。点線は、(a)で示した結像光電子の電子軌道である。なお、角度
制限絞りは、透過電子顕微鏡(TEM)では一般的に「回折絞り」といわれる部品であり
、他に「コントラスト絞り」とも呼ばれる。本件発明では、放出された光電子又は二次電
子の角度の制限を行うため、「角度制限絞り」と記載している。
【0025】
一般に、十分な帯電抑制効果を得るには、光電子強度に対して数桁以上の強度を持つ中
和電子を試料に照射するため、大強度の反射電子が微弱な光電子像にかぶってしまえば、
光電子像を観察することが事実上不可能となる。
【0026】
従来は、この反射電子を取り除くために結像電子光学系にエネルギーフィルターを内蔵
し、エネルギーフィルターを用いて光電子を選別し結像することによって表面の観測を行
っていた。
【0027】
それに対し、本発明では、図2(b)に示すように、電子銃31のビーム偏向器35を
用いてビームを大きく外に振ってビームセパレータ61を用いてそのビームを振り戻すよ
うに電子光学条件を調整することによって中和電子ビームを試料11の表面に対して鉛直
方向から少しずらして斜めに(電子光学系の設計に依るが、直径400μmの角度制限絞
りを使用した場合でおよそ27°)照射することで、帯電抑制機能を果たした後の中和電
子は照射方向に対して鏡面反射方向に反射又は弾性散乱する。
【0028】
鏡面反射方向に反射又は弾性散乱した帯電抑制機能を果たした後の中和電子は、結像光
軸(試料の表面に対して鉛直方向)に対して角度を持っているため、図2(b)に示すよ
うに角度制限絞り(コントラスト絞り:CA)を用いて取り除くことが可能であり、エネ
ルギーフィルターなしにX線によって放出された光電子像を容易に観測することができる

【産業上の利用可能性】
【0029】
放射電子顕微鏡のうちで特に光電子を結像に使った光電子顕微鏡装置は、高空間分解能
の化学状態分析装置として産業利用され始めている。従って、本発明の斜め照射方式によ
り、光電子顕微鏡装置で絶縁物の観察が容易に可能になることは、産業利用に貢献し、経
済的効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】放射電子顕微鏡の概略模式図。
【図2】試料から放出された結像光電子の電子軌道と中和電子の電子軌道の関係を示す模式図。
【符号の説明】
【0031】
11:試料
21:励起光源
22:紫外光源
31:中和電子線源
32,33:中和電子ビーム系の磁界レンズ
34,35:中和電子ビーム系のビーム偏向器
36: 中和電子ビーム系のスティグメータ
41:対物レンズ
42,43,44,45:投影型電子光学系の磁界レンズ
46,47,48,49:投影型電子光学系のビーム偏向器
50.51:投影型電子光学系のスティグメータ
61:ビームセパレータ
71:検出器
72:CCDカメラ
80:励起光ビームの経路
81:中和電子ビームの経路
82:帯電抑制用光ビームの経路
90:結像ビームの経路
100:像面
110,111,112:結像光電子の電子軌道
113:中和電子ビームの電子軌道
CA:角度制限絞り(コントラスト絞り・回折絞り)
図面
【図1】
0
【図2】
1