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明細書 :バックスイッチ現象を抑制した光学素子を製造する方法、および、それによって得られた波長変換素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4613347号 (P4613347)
公開番号 特開2007-163908 (P2007-163908A)
登録日 平成22年10月29日(2010.10.29)
発行日 平成23年1月19日(2011.1.19)
公開日 平成19年6月28日(2007.6.28)
発明の名称または考案の名称 バックスイッチ現象を抑制した光学素子を製造する方法、および、それによって得られた波長変換素子
国際特許分類 G02F   1/37        (2006.01)
FI G02F 1/37
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2005-361271 (P2005-361271)
出願日 平成17年12月15日(2005.12.15)
審査請求日 平成20年12月5日(2008.12.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】劉 曉燕
【氏名】竹川 俊二
【氏名】寺部 一弥
【氏名】北村 健二
審査官 【審査官】佐藤 宙子
参考文献・文献 国際公開第2003/073160(WO,A1)
国際公開第2005/098528(WO,A1)
特開2003-140214(JP,A)
Appl.Phys.Lett.,2005年 7月,Vol.87,022905-1 - 022905-3
調査した分野 G02F 1/37
G02B 6/12
JSTPlus(JDreamII)
AIP-Journal
特許請求の範囲 【請求項1】
実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶を含む光学素子を製造する方法であって、
前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転領域を形成する工程であって、前記周期分極反転領域は、長手方向に周期的に繰り返される複数の分極反転領域からなる、工程と、
前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶から前記周期分極反転領域の前記長手方向に沿った両端部を切断し、切り落とす工程であって、前記両端部に位置する前記複数の分極反転領域のそれぞれは、前記長手方向に垂直な方向に先細りの分極反転部分を含む、工程と
を包含する、方法。
【請求項2】
前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶は、Mg、Zn、ScおよびInからなる群から選択される元素を0.1~3.0mol%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記周期分極反転領域の周期は、2μm~15μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶を含む光学素子であって、
前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転領域を形成する工程であって、前記周期分極反転領域は、長手方向に周期的に繰り返される複数の分極反転領域からなる、工程と、
前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶から前記周期分極反転領域の前記長手方向に沿った両端部を切断し、切り落とす工程であって、前記両端部に位置する前記複数の分極反転領域のそれぞれは、前記長手方向に垂直な方向に先細りの分極反転部分を含む、工程と
を包含する方法によって製造される、光学素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を製造する方法、および、それによって得られる光学素子に関する。より詳細には、本発明は、バックスイッチ現象を抑制した光学素子を製造する方法、および、それによって得られる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強誘電体の内部に周期的な分極反転領域(分極反転構造)を形成した、周波数変調器および光波長変換素子といった光学素子の研究が盛んである。このような強誘電体単結晶として、定比組成のタンタル酸リチウム単結晶および定比組成のニオブ酸リチウム単結晶が注目されている。
【0003】
これら単結晶、特に、定比組成のタンタル酸リチウム単結晶は、分極反転領域形成時の条件によっては、形成された隣り合う分極反転領域が接合してしまう、または、形成された分極反転領域が再度分極反転してしまう(バックスイッチ現象)という問題が生じる。このような問題に対して、格子点の秩序性制御による分極反転方法および欠陥密度制御による分極反転方法に関する技術がある(例えば、特許文献1および特許文献2を参照のこと)。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、電界が印加される面に格子点の秩序性の低い制御層を設けることによって、分極反転領域の接合、または、バックスイッチ現象を低減することを開示している。一方、特許文献2に記載の技術は、電界が印加される面に欠陥密度の高い制御層を設けることによって、分極反転領域の接合、または、バックスイッチ現象を低減することを開示している。
【0005】

【特許文献1】特開2005-148202号公報
【特許文献2】特開2005-148203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者らは、上記特許文献1および特許文献2に記載の方法を用いたとしても、定比組成のタンタル酸リチウム単結晶および定比組成のニオブ酸リチウム単結晶のうち、特に、定比組成のタンタル酸リチウム単結晶において、分極反転領域形成後、変調器または波長変換素子への加工プロセス中に形成された分極反転領域のバックスイッチ現象が生じることを確認した。
したがって、本発明の目的は、バックスイッチ現象を抑制した光学素子を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶を含む光学素子を製造する方法は、前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転領域を形成する工程であって、前記周期分極反転領域は、長手方向に周期的に繰り返される複数の分極反転領域からなる、工程と、前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶から前記周期分極反転領域の前記長手方向に沿った両端部を切断し、切り落とす工程であって、前記両端部に位置する前記複数の分極反転領域のそれぞれは、前記長手方向に垂直な方向に先細りの分極反転部分を含む、工程とを包含し、これにより上記目的を達成する。

【0008】
前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶は、Mg、Zn、ScおよびInからなる群から選択される元素を0.1~3.0mol%含み得る。
【0009】
前記周期分極反転領域の周期は、2μm~15μmであり得る。
【0010】
本発明による実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶を含む光学素子は、前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転領域を形成する工程であって、前記周期分極反転領域は、長手方向に周期的に繰り返される複数の分極反転領域からなる、工程と、前記実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶から前記周期分極反転領域の前記長手方向に沿った両端部を切断し、切り落とす工程であって、前記両端部に位置する前記複数の分極反転領域のそれぞれは、前記長手方向に垂直な方向に先細りの分極反転部分を含む、工程とを包含する方法によって製造され、これにより上記目的を達成する。

【発明の効果】
【0011】
本発明による実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶を含む光学素子を製造する方法は、実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転領域を形成する工程と、実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶から周期分極反転領域の長手方向の両端部を切断し、切り落とす工程とを含む。周期分極反転領域は、長手方向に周期的に繰り返される複数の分極反転領域からなる。両端部に位置する複数の分極反転領域のそれぞれは、長手方向に垂直な方向に先細りの分極反転部分を含んでいる。この先細りの分極反転部分は、他の分極反転領域に比べてエネルギーが高く、不安定であるため、先細りの分極反転部分からバックスイッチ現象を生じ、エネルギーを低下させる傾向にある。本発明によれば、この先細りの分極反転部分が切断され、切り落とされるので、形成された分極反転領域全体のエネルギーが均一となり、バックスイッチ現象の発生が低減され得るか、または、発生が抑制され得る。この結果、光学素子の信頼性および歩留まりが向上し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明は、実質的に定比組成のタンタル酸リチウム単結晶(以降では単にSLTと称する)に限定され得る。なお、実質的に「定比組成である」とは、LiO/(Ta+LiO)のモル分率が完全0.50ではないものの、コングルエント組成よりも化学量論比に近い組成のモル分率0.495~0.50を有していることを意図する。また、SLTは、また、Mg、Zn、InおよびScからなる群から選択される元素を0.1~3.0mol%含んでも良い。これにより、光損傷を低減できる。
【0013】
図1は、本発明による光学素子を製造する工程を示す図である。
工程ごとに説明する。
【0014】
工程S110:SLT単結晶に周期分極反転領域を形成する。周期分極反転領域の形成には、電界印加法、ビーム照射法等の公知の技術が採用され得る。得られる周期分極反転領域の周期(すなわち、分極反転領域の幅と非分極反転領域の幅との合計長であり、分極反転領域の幅と非分極反転領域の幅とは同一長である)は、擬似位相整合する任意の周期であってもよいが、後述するように、2μm~15μmの極めて短周期において、本発明の方法は効果的であり得る。
【0015】
工程S120:SLT単結晶の長手方向の両端部を切断する。ここで、両端部に位置する周期分極反転領域のそれぞれは、先細りの分極反転部分を含み得る。切断には、旋盤等の機械的加工手段が用いられ、切断条件には制限がない。
【0016】
次に、上記工程S110~工程S120によって、バックスイッチ現象の発生が抑制される原理を説明する。
図2は、本発明によるバックスイッチ現象の発生を抑制するメカニズムを示す図である。
【0017】
SLT単結晶200は、図1を参照して説明した工程S110後の一部分を示す。SL
T単結晶200は、分極反転領域210と非分極反転領域220とを含む。上述したように分極反転周期とは、図中Λで示される分極反転領域210の幅と非分極反転領域220の幅との合計長である。ここで、SLT単結晶200の長手方向は、図中矢印Aで示す方向である。この方向に分極反転領域210と非分極反転領域220とが繰り返される。
【0018】
分極反転領域210は、SLT単結晶200の長手方向に沿った両端部に先細りの分極反転部分230を有する。先細りの分極反転部分230の先細りの角度αは、分極反転周期に依存する。詳細には、分極反転周期が大きい場合には、先細りの角度αが大きくなり、一方、分極反転周期が小さい場合には、先細りの角度αが小さくなる。いずれの周期であっても、SLT単結晶200の分極反転領域210は、先細りの分極反転部分230を有する。
【0019】
本願発明者らは、このような先細りの分極反転部分230を有するSLT単結晶200に対して、変調器または波長変換素子を製造する加工プロセス(例えば、熱を加える)を行うと、分極反転部分230がエネルギー的に安定になるように(すなわち、エネルギーを低下させるように)バックスイッチ現象を生じることを確認した。これは、分極反転部分230の先端部(すなわち、先細り部分)が、他に比べてエネルギーが高い状態にあり、不安定であるためである。特に、角度αの小さい先細りの分極反転部分が、角度αの大きな先細りの分極反転部分に比べてエネルギーが高くなり、よりバックスイッチ現象を生じやすいと考えられる。
【0020】
本願発明者らは、上記知見から先細りの分極反転部分230を切断する(図2の部分240)ことによって、加工プロセスに伴う分極反転領域のバックスイッチ現象が抑制され得ることを見出した。上述したように、角度αの小さい先細りの分極反転部分の方がバックスイッチ現象を生じやすいので、本発明の方法は、より狭い周期(例えば、2μm~15μm)に対して効果的であり得る。
【0021】
切断後のSLT単結晶250は、図1で説明した工程120後の一部分を示す。切断後のSLT単結晶250に示されるように、切断後の分極反転領域260は、エネルギー的に不安定になる部分を有しないので、加工プロセスによってバックスイッチ現象は起こらない。
【0022】
本発明の方法を用いて得られる光学素子は、周期分極反転領域を利用する任意の素子を意図し、例えば、変調器および波長変換素子であり得る。
【0023】
本発明によって得られる光学素子は、加工プロセスにおけるバックスイッチ現象が抑制されるので、歩留まりが向上し得る。
【0024】
さらに、使用時の加熱等によって生じるバックスイッチ現象による光学特性の低下も抑制されるので、光学素子としての信頼性が向上し得る。
【0025】
任意のサイズの素子を得るための加工手段としての単結晶の単純切断は知られているが、本願発明者らは、SLT単結晶のバックスイッチ現象を抑制するための詳細な切断条件を初めて見出した。このような詳細な切断条件は、創意工夫を重ねて見出されたものであることを理解されたい。
【実施例1】
【0026】
図3は、実施例1および比較例1で用いた周期分極反転構造を有するSLT単結晶の模式図を示す。
原料供給型二重坩堝チョクラルスキー法によって製造されたMgOを1mol%ドープ
したSLT単結晶を、ポーリング(単一分極化)後、分極方向に対して垂直方向に0.3mm厚となるようにカットおよび研磨して、MgO1mol%ドープSLT基板310を得た。得られたSLT基板310の大きさは、10mm(A方向)×10mm(Y方向)×0.3mm(厚さ)であった。
【0027】
リソグラフィを用いてパルス電界印加法によって、SLT基板310に周期分極反転領域320を形成した。詳細には、Z面上に液体電極(LiCl水溶液)の全面電極を付与し、Z面に約6μmの周期金属電極片を付与した。電極片は、Y方向に伸びている。1つの分極反転領域330は、3mm(Y方向)×3μm(A方向)であった。周期分極反転領域320のA方向(長手方向)が、全体として10mmとなるように、分極反転領域330が繰り返された。その後、表面の凹凸を観察するために、HF水溶液を用いて表面をエッチングした。
【0028】
次いで、SLT基板310の長手方向(A方向)に沿った片方の端部340のみ旋盤を用いて切断した。この際、周期分極反転領域320の先細りの分極反転部分350を含むように周期分極反転領域320の端から50μm切断し、切断されたSLT単結晶360を得た。切断されたSLT単結晶360の端部370を実施例1で使用し、もう一方の端部380を比較例1で使用した。
【0029】
端部370の表面の状態を、走査型フォース顕微鏡SFM(SPA300HV、セイコーインスツルメンツ、Japan)を用いて観察した。観察条件は、0.24μm/secにて感知レバーを走査した。観察結果を図4(A)に示し、後述する。
【0030】
次いで、SLT単結晶360を昇温速度2.5℃/分で50℃まで昇温し、10分間保持し、降温速度2.0℃/分で室温まで下げた。以上の熱処理を60回行った。熱処理後のSLT単結晶360の端部370の表面状態を同様に、SFMを用いて観察した。観察結果を図4(B)に示し、後述する。
【0031】
比較例1;
実施例1で切断されたSLT単結晶360のもう一方の端部380(すなわち、長手方向の未切断の端部)を用いた以外は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0032】
熱処理前にもう一方の端部380(すなわち、周期分極反転領域320の形成直後の端部)を実施例1と同様にSFMで観察した。観察結果を図5(A)に示し後述する。次いで、実施例1と同様に熱処理後のSLT単結晶360の端部380の表面状態を、SFMを用いて観察した。観察結果を図5(B)に示し、後述する。
【0033】
図4は、実施例1による熱処理前後の表面状態を示す図である。
【0034】
図4(A)は、切断直後(すなわち、熱処理前)のSLT単結晶360(図3)の端部370(図3)の表面状態を示すトポ像である。領域410は、端部370の表面に相当する。図中コントラストが白く示される部分が分極反転領域(Z面)に相当し、コントラストが黒く示される部分が非分極反転領域(Z面)に相当する。HF水溶液は、非分極反転領域(Z面)に比べて分極反転領域(Z面)を早くエッチングする傾向があるため、周期分極反転領域を表面の凹凸として確認することができる。
【0035】
図4(B)は、熱処理後のSLT単結晶360の端部370の表面状態を示す圧電応答の図である。トポ像とは異なり、図中コントラストが薄く示される部分が非分極反転領域(Z面)に相当し、コントラストが濃く示される部分が分極領域領域(Z面)に相当する。図4(B)においても、図4(A)の領域410の周期分極反転領域と同じ形状を
維持した周期分極反転領域が観察され、熱処理によって形状が変化していないことが分かる。これにより、先細りの分極反転部分を切断することにより、バックスイッチ現象を抑制できることが示された。
【0036】
図5は、比較例1による熱処理前後の表面状態を示す図である。
【0037】
図5(A)は、熱処理前(すなわち、分極反転領域形成直後)のSLT単結晶360(図3)の端部380(図3)の表面状態を示すトポ像である。領域510は、端部380に相当する。領域510にある周期分極反転領域は、いずれも、先細りの周期分極反転部分を有していることが分かる。
【0038】
図5(B)は、熱処理後のSLT単結晶360の端部380の表面状態を示す圧電応答の図である。図から、領域510の各周期分極反転領域の先細りの分極反転部分を先頭に、バックスイッチ現象によって再度分極反転が生じ、分極反転領域のY方向の長さが短くなっていることが分かる(図中鎖線矢印で示す)。
【0039】
図4(B)および図5(B)から、本発明の方法による切断によって、バックスイッチ現象の抑制が、効果的であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明してきたように、本発明による方法は、SLT単結晶の周期分極反転領域を利用する任意の素子に利用可能である。特に、加工プロセス時による加熱、エッチングに対して耐性を有するので、素子の信頼性および歩留まりの向上につながり得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による光学素子を製造する工程を示す図
【図2】本発明によるバックスイッチ現象の発生を抑制するメカニズムを示す図
【図3】実施例1および比較例1で用いた周期分極反転構造を有するSLT単結晶の模式図
【図4】実施例1による熱処理前後の表面状態を示す図
【図5】比較例1による熱処理前後の表面状態を示す図
【符号の説明】
【0042】
200 SLT単結晶
210 分極反転領域
220 非分極反転領域
230 先細りの分極反転部分
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4