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明細書 :無水・高温下に作動可能なプロトン導電性燃料電池用膜、及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5062722号 (P5062722)
公開番号 特開2007-109634 (P2007-109634A)
登録日 平成24年8月17日(2012.8.17)
発行日 平成24年10月31日(2012.10.31)
公開日 平成19年4月26日(2007.4.26)
発明の名称または考案の名称 無水・高温下に作動可能なプロトン導電性燃料電池用膜、及びその製造方法
国際特許分類 H01M   8/02        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
FI H01M 8/02 P
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2006-227490 (P2006-227490)
出願日 平成18年8月24日(2006.8.24)
優先権出願番号 2005269282
優先日 平成17年9月15日(2005.9.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年8月11日(2009.8.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】金 済徳
審査官 【審査官】太田 一平
参考文献・文献 特開2006-024389(JP,A)
特開2006-059551(JP,A)
特開2005-108588(JP,A)
特開2004-185891(JP,A)
特開2002-105220(JP,A)
特開2003-242997(JP,A)
特表2005-530310(JP,A)
特表2002-512291(JP,A)
特表2000-517462(JP,A)
調査した分野 H01M 8/02
H01M 8/10
特許請求の範囲 【請求項1】
パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を配合した高分子電解質膜用前駆体を基板上に層状に展開・延伸し、これを加熱乾燥して得られる燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項2】
膜厚が200μm以下である、請求項1の燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項3】
膜厚が20μm~200μmで、膜自体に自己支持性がある、請求項1又は2の燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項4】
比導電率は、温度80~200度にて0.001(S/cm)以上である、請求項1~3いずれかの燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項5】
次の工程を含んでなる燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
(1)溶媒を用い、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を添加・混合し、高分子電解質膜用前駆体を調製する工程;
(2)基板上に前記高分子電解質膜用前駆体を膜状に展開・延伸する工程;
(3)溶媒及び水分が揮散する温度に加熱する工程。
【請求項6】
次の工程を更に含んでなる請求項5の燃料電池用高分子電解質膜の製造方法
4)基板上に形成された燃料電池用高分子電解質膜を基板から剥離する工程。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、無水・高温下で優れたプロトン(水素イオン)導電性を示すプロトン導電性燃料電池用膜、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年クリーンエネルギー、とりわけ燃料として水素ガスないし水素を含む炭化水素原料と、酸化剤として酸素ガスとを反応させて電力を得る燃料電池が注目されている。このような水素源及び酸素ガスを使ったポリマー電解質燃料電池(polymer electrolyte fuel cell;PEFC)は、クリーンで環境にやさしいエネルギー生産系及びエネルギー生産の高効率性のゆえに、次世代の強力なエネルギー生産系装置として注目され、燃料電池を構成するセルや、プロトン導電性高分子膜等、使用する材料としては安定で効率のいい材料、あるいは効率のいい材料の組み合わせ等システムの開発が求められている。
【0003】
ここに燃料電池とは、燃料および酸化剤に化学反応を起こさせて電気および水を発生させる電気化学装置と定義される。燃料電池に供給される典型的な燃料は水素であり、燃料電池に供給される典型的な酸化剤は酸素(または周囲の空気)である。燃料電池の作動条件および種類に応じて他の燃料または酸化剤が使用可能である。
【0004】
燃料電池の特徴としては、その反応プロセスが極めて高効率であること、特に、水素が直接燃料供給される燃料電池では、完全に無公害であることが挙げられる。燃料電池は、様々な大きさのスタックに容易に組み立てることができることから、小さな形態のものから比較的に広範囲、大規模に電力を作り出しえるものまで様々な形態が開発されている。そのため、各種産業分野のみならず、家庭用も含めて利用可能であり、今後おおいに発展が期待されている。
【0005】
また、燃料電池の出力システムは、一つの電解質を共有するぞれぞれの電極界面で燃料および酸素に化学反応を起こさせることにより起電力を作り出す。例えば、プロトン交換膜燃料電池においては、電池構造には電解質として機能するだけでなく水素と酸素との混り合いを防ぐバリアとしても機能するプロトン交換膜が含まれている。市販されているプロトン交換膜の一つは、後述するようにナフィオン(Nafion:商標名)という名前で、デュポン社から販売されているパーフルオロスルホン酸ポリマー材料から作られているがこれに限定はされない。すなわち、プロトン交換膜は、他の市販ソースからも購入できる。理解しておくべきこととして、プロトン交換膜は、燃料電池のアノードおよびカソードを形成する二つの電極の間に、かつ二つの電極に接触して配置されている。
【0006】
PEM型燃料電池の場合、第一の電極(アノード)に水素ガスが導入され、そこで水素ガスは触媒の存在下で電気化学的に反応を起こして電子とプロトンを生じる。電子は、第一の電極から第二の電極(カソード)へとこれら各電極を結合する電気回路を通って流れる。さらに、プロトンは、固体高分子電解質(プロトン交換膜)を通って第二の電極(カソード)へと流れる。同時に、酸素ガス(または空気)などの酸化剤が第二の電極に導入されて、そこで酸化剤は触媒の存在下で電気化学的に反応を起こして、電子回路を流れて来た電子およびプロトン(プロトン交換膜を通過して来た)と結合して水を形成する。この反応によって、電気が出力される。
【0007】
従来設計されてきた燃料電池用高分子膜としては、前述したようにパーフルオロスルホン酸ポリマーの一種であるナフィオン(デュポン社の登録商標)膜を使用し、これを加湿条件下に組み込み、80℃以下で作動しうるように設計されたPEFCが用いられてきた。しかし、燃料電池としては高温で作動可能であり、CO毒に対する許容範囲を高めたものが要求され、高温度(100-200℃)で作動可能な燃料電池が強く要望されている。換言すれば、より高温度側で作動可能なPEFCは、COに対する白金電極の許容度を改善し、高効率で単純な熱管理及びコジェネレーションを可能にするものとして期待されている。
【0008】
燃料電池では、プロトン導電性膜は、アノードで生じたプロトンをカソード側へ運ぶ役目がある。それゆえ、プロトン導電性膜は、ポリマー電解質燃料電池において鍵となる重要なものである。これまでに、イオン交換膜として、パーフルオロ化イオノマーやそのコンポジット、高分子/低分子のコンポジット、無機-有機のコンポジット等の電解質膜がいくつか知られている。
【0009】
しかし、これらの電解質膜は、高温で不安定な欠点、すなわち、100℃以上の高温で長時間にわたって使用すると、膜から水分が蒸発して含水率が低下してイオン伝導度が低下し、電圧が降下し、電池の性能が低下するとともに不可逆的反応によって分子構造の崩壊が起こり、プロトン導電性が減少して使えなくなる欠点があった。さらにこのよう燃料電池には、アノード(燃料極)でHは解離することなくHのまま通過してしまうことがあり、起電圧の低下や発電量の低下などの問題を招くことがあった。
【0010】
そこで、最近では、無水(又は低湿度)かつ高温度の条件で優れたプロトン導電性を有する電解質膜が得られれば上記問題が解決されるのではないかと考えられ、これらの観点から、高温で可動なPEFCへ応用するための酸-塩基複合電解質に焦点が当てられてきた(非特許文献1、ほか)。
【0011】
一方、特許文献1に開示されているように、無水プロトン伝導を実現できる「第四級化」可能な第三級窒素原子をもつ有機アミン材料を、シリカなどのナノ微粒子状酸化物及び安定な結合剤(テフロンなど)と結合させることにより、無水で、高温度(190℃)においても作動するプロトン導電膜も得られている。
【0012】

【非特許文献1】M. Yamada and I. Honma: Electrochim. Acta 48 (2003) 2411-2415
【特許文献1】特表2005-516345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明においても上記要望に応え、無水(又は低湿度)かつ高温度(100~180℃又はそれ以上の温度)の条件で優れたプロトン導電性を示し、メタノールやメタン等の水素源燃料が直接供給される直接燃料タイプの燃料電池にも利用され得る新規なプロトン導電性燃料電池用膜、並びにその製造方法を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのため本発明者において、鋭意研究した結果、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーに対して、ベンズイミダゾール(以下、Bzとも略す)または1,2,4-トリアゾールを特定割合配合し、得られたワニス状高分子コンポジットを、基板上に層状に展開・延伸し、加熱することによって、上記要望に応え得る膜、すなわち、無水・高温下に優れたプロトン(水素イオン)導電性を示すプロトン導電性燃料電池用膜が得られるとの知見を得、本発明は、この知見に基づいてなされたものである。すなわち、その構成は、以下(1)~(6)項に記載する通りである。
(1) パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を配合したワニス状高分子電解質膜用前駆体を、基板上に層状に展開・延伸し、これを加熱して得られる燃料電池用高分子電解質膜。
(2) 膜厚が200μm以下である、上記(1)の燃料電池用高分子電解質膜。
(3) 膜厚が20μm~200μmで、膜自体に自己支持性がある、上記(1)又は(2)の燃料電池用高分子電解質膜。
(4) 比導電率は、温度80~200度にて0.001(S/cm)以上である、上記(1)~(3)いずれかの燃料電池用高分子電解質膜。
(5) 次の工程を含んでなる燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
1.溶媒を用い、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を添加・混合し、ワニス状高分子電解質膜用前駆体を調製する工程;
2.基板上に前記ワニスを膜状に展開・延伸する工程;
3.溶媒及び水分が揮散する温度に加熱する工程。
(6) 次の工程を含んでなる燃料電池用高分子電解質膜の製造方法。
1.溶媒を用い、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を添加・混合し、ワニス状高分子電解質膜用前駆体を調製する工程;
2.基板上に前記ワニスを膜状に展開・延伸する工程;
3.溶媒及び水分が揮散する温度に加熱する工程。
4.基板上に形成された燃料電池用高分子電解質膜を基板から剥離する工程。
【0015】
本発明は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を配合したワニス状高分子電解質膜用前駆体を、基板上に層状に展開・延伸し、これを加熱して得られる燃料電池用高分子電解質膜、に関するものである。
これによって無水・高温で性能が劣化することなくプロトン導電性を有する、新規な燃料電池用高分子電解質膜が提供される。
【0016】
また、本発明は、次の工程を含んでなる燃料電池用高分子電解質膜の製造方法、に関する。
(1)溶媒を用い、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を添加・混合し、高分子電解質膜用前駆体(ワニス)を調製する工程;
(2)基板上に前記ワニスを膜状に展開・延伸する工程;
(3)溶媒及び水分が揮散する温度に加熱する工程。
このプロセスによって、基板の片面に高分子電解質膜が形成された燃料電池用高分子電解質膜付き基板が容易に得ることができる。
【0017】
さらにまた、本発明は、次の工程を含んでなる燃料電池用高分子電解質膜の製造方法、にも関する。
(1)溶媒を用い、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を添加・混合し、高分子電解質膜用前駆体(ワニス)を調製する工程;
(2)基板上に前記ワニスを膜状に展開・延伸する工程;
(3)溶媒及び水分が揮散する温度に加熱する工程。
(4)基板上に形成された燃料電池用高分子電解質膜を基板から剥離する工程。
このプロセスによって、自己支持性のある燃料電池用高分子電解質膜を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明で得られる燃料電池用高分子電解質膜は、100~200℃の高温度においても、10-3S/cm~10-2S/cmの良好なプロトン導電性を示す。そのために、無水(又は低湿度)かつ高温度の条件で作動可能な燃料電池に応用することができる。
また、本発明の製造方法によって、燃料電池用高分子電解質膜付き基板又は(自己支持性を有する)燃料電池用高分子電解質膜を容易に、安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施例、図面に基づいて詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、発明を具体的に説明するために開示するものであって、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0020】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜は、上で述べた通り、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(酸成分;A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(塩基成分;B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を配合したワニス状の高分子電解質膜用前駆体(混合液)を、基板上に層状に展開(延伸)し、これを加熱(溶媒及び水分を除去)して得られる燃料電池用高分子電解質膜、である。
ここで、「パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー」とは、高分子鎖内にC-F結合を含み、C-H結合を含まないポリマーで、かつスルホン酸基(-SOH)を有するポリマーをいい、例示すれば、ナフィオン(デュポン社の登録商標)である。図1に、ナフィオンの化学構造式を示すとともに、ベンズイミゾール(b)の化学構造式を示し、図6に1,2,4-トリアゾールの化学構造式を示した。
また、「基板」は、得られた燃料電池用高分子電解質膜の剥離を前提とするガラス板やポリフッ化エチレン(テフロン)板や金属板のような支持板でも構わないし、剥離を前提としない集電板(ガス流路を有する集電板)や、電極の役目を果たすパラジウム(水素吸蔵、水素化触媒)等でも構わない。このような場合は、燃料電池用高分子電解質膜の膜厚を50μm以下の薄さとすることができる。
【0021】
上記燃料電池用高分子電解質膜は、上で述べた通り、次の工程を経て製造することができる。
(1)溶媒を用い、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(A)100重量部に対して、ベンズイミダゾール(B)20重量部~200重量部、または1,2,4-トリアゾール(C)20重量部~100重量部を添加・混合し、高分子電解質膜用前駆体(ワニス)を調製する工程;
(2)基板上に前記ワニスを膜状に展開・延伸する工程;
(3)溶媒及び水分が揮散する温度に加熱する工程。
なお、上記工程(3)のあとに、基板から燃料電池用高分子電解質膜を剥離する工程を加えてもよい。そうすることで、基板の片面に高分子電解質膜が形成された燃料電池用高分子電解質膜付き基板を得ることもできるし、膜のみの(自己支持性がある)燃料電池用高分子電解質膜を得ることもできる。
前記酸成分と塩基成分との混合液を調製する場合の溶媒は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー又はベンズイミダゾールや1,2,4-トリアゾールを溶解し得る溶媒を用いることができる。ナフィオン(パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの一種)の場合は、ナフィオン液(市販品)に含まれる溶媒(除去は不要)のほかに、これを希釈するためにイソプロパノール等の溶媒を用いることができる。ベンズイミダゾールや1,2,4-トリアゾールの溶媒としては、エタノール、メタノールやイソプロパノール等が使える。
【0022】
パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(酸成分;A)に対するベンズイミダゾール(塩基成分;B)の配合量は、前記酸成分(不揮発分基準)100重量部に対して20重量部~200重量部(固体重量基準)、好ましくは50重量部~200重量部、更に好ましくは100重量部~200重量部である。前記塩基成分が20重量部未満では、高温(160~200℃)側で、比導電率(比プロトン伝導度;比イオン導電率;比抵抗;(S/cm)、等ともいう。)の十分な向上が認められなく、200重量部を越えると均質な膜の形成が困難になる。
パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー(酸成分;A)に対する1,2,4-トリアゾール(塩基成分;C)の配合量は、前記酸成分(不揮発分基準)100重量部に対して20重量部~100重量部(固体重量基準)、好ましくは100重量部である。前記塩基成分が100重量部未満では、高温(80~160℃)側で、比導電率の十分な向上が認められなく、100重量部を越えると硬い膜になる。
【0023】
燃料電池用高分子電解質膜の膜厚は、好ましくは200μm以下とする。膜厚の下限は破損しない限り極く薄くてもよく、nmオーダーであってもよい。200μmを越えると、電解質膜の抵抗が大きくなり好ましくない傾向になる。また、基板からの剥離を前提とする燃料電池用高分子電解質膜の膜厚は、自己支持性を持たせるために、20μm~200μmが好ましく、基板からの剥離を前提としない燃料電池用高分子電解質膜の膜厚は、自己支持性を要しないので50μm以下の薄さにすることができる。下限は破損しない限り極く薄くてもよく、nmオーダーであってもよい。
【0024】
また、本発明の燃料電池用高分子電解質膜が、燃料電池用として高温(100~200℃程度)側でも作動可能であるためには、その比導電率(S/cm)は、温度100~200度にて0.001(S/cm)以上であることが好ましく、更には0.01(S/cm)以上であることが好ましく、更には高いほど好ましい。
【実施例】
【0025】
実施例1;
(1)燃料電池用高分子電解質膜の調製
原料の一つのナフィオン液(5%溶液)はElectrochem Co., Ltd.から購入したものを用いた。また、別の原料のベンズイミダゾール(C;MW=118.14)はAlfa Co., Ltd.から購入したもの(固体)を用いた。
ナフィオン及びベンズイミダゾールを5:1の重量比で含む高分子電解質膜用前駆体(ワニス)は、「ナフィオン液」(5%溶液)の3g(ナフィオン0.15g含有)とイソプロパノール(希釈用)15mlとの混合液(以下、ナフィオン希釈液)に、ベンズイミダゾール0.03g(イソプロパノール3mlに溶かしたもの)溶液を加え、両者を混ぜて調製した。ナフィオン及びベンズイミダゾールを5:5の重量比で含む高分子電解質膜用前駆体(ワニス)は、ナフィオン希釈液3g(ナフィオン0.15g含有)に、ベンズイミダゾール0.15g(イソプロパノール3mlに溶かしたもの)溶液を加え、両者を混ぜて調製した。ナフィオン及びベンズイミダゾールを5:10の重量比で含む高分子電解質膜用前駆体(ワニス)は、ナフィオン希釈液3g(ナフィオン0.15g含有)に、ベンズイミダゾール0.3g(イソプロパノール3mlに溶かしたもの)溶液を加え、両者を混ぜて調製した。比較(対照)としては、上記ナフィオン希釈液(ベンズイミダゾール無添加)を用いた。
得られた高分子電解質膜用前駆体(ワニス)の所定量をペトリ皿に流し込み、乾燥状態で、60℃で1日間加熱処理し、膜を生成させた(均質な膜が得られた)。更に100℃で1日間加熱処理し、残存溶媒と水分子とを完全に除去して、本発明の燃料電池用高分子電解質膜(コンポジット膜ともいう;白色不透明又は白色半透明)を得た。得られた膜の厚みはペトリ皿に流し込んだ容積に依存したが、53-154μmの範囲であった。なお本明細書で、「%」とは、特に断らない限り、重量(wt)%を意味する。
【0026】
(2)得られたコンポジット膜の評価
コンポジット膜および比較品における分子構造は、分解能4cm-1のダイヤモンド減衰全反射プリズム(diamond attenuated total reflection)付きIR分析で調べた。図2がその結果である。リキャスト(recast)ナフィオンフィルム((b)のBz:0%の比較品)の場合、水の吸収[ν O-H(3458cm-1)、δ O-H(1630cm-1)]、及びH(1720cm-1)が見られる。これは水の遊離とともに分解して共存するRSOと結合し、膜における脱水の進行とともにRSOHが生じたことを示唆している。
他方、ナフィオン-Bzコンポジット膜は(いずれの場合も)ナフィオン及びBzの各々の吸収ピークが見られる。ナフィオン-Bzコンポジット膜におけるBzのN-H(3100cm-1)、C-N(1620cm-1)、C-C(1454cm-1)及びN-H(748cm-1)結合である。ナフィオン-Bzコンポジット膜はO-HやHのような水の吸収を示していない。しかし、脱プロトン化されたSOピークは(ナフィオン-Bzコンポジット生成後も)残っている。それゆえに、プロトンは酸残基からBzの塩基サイトへ移動し、ベンズイミダゾールのプロトン化と、スルホン化されたアニオンの形成とを引き起こし、それがこれらの分子にイオンチャンネルを形成するクーロン引力を生じさせると考えられる。
【0027】
コンポジット膜および比較膜の熱安定性は、熱天秤分析(thermogravimetric analysis)TG/DTA6200(SII Co., Ltd.)により行った。サンプルは、窒素雰囲気下に室温から500℃まで、5℃/minの昇温速度で加熱した。図3は、コンポジット膜および比較膜のTGの結果であり、図4は、コンポジット膜および比較膜のDTAの結果である。リキャスト(recast)ナフィオン膜(i)における100℃以下での重量損失は、スルホン酸基に結合した水の脱着及びコンポジット膜に吸収された空気中の水の脱着と関係している。また、リキャスト(recast)ナフィオン膜(i)の重量損失は、320℃から390℃のあいだで急に減少しており、これはポリマーの完全な分解の前のスルホン酸基の分解に基づくものである。一方、コンポジット膜((ii)~(iv))の熱挙動は、リキャスト(recast)ナフィオン膜(i)と非常に類似しており、ナフィオン5wt%-1wt%Bzのコンポジット膜(ii)では、リキャスト(recast)ナフィオン膜(i)よりも少し右にシフトしている。更に、ナフィオン5wt%-10wt%Bzのコンポジット膜(iv)では、200℃から300℃のあいだで大きな重量損失がみられるが、これは膜中のBzの融解(吸熱ピークから160-170℃)に基づくと考えられる。
【0028】
コンポジット膜および比較膜のプロトン導電性は、2端子インピーダンス分光器(two-terminal impedance spectroscopy)(SI 1260 Impedance Analyzer、Solatron) によって測定した。得られた膜を二つのリング型金板状のブロッキング電極(面積:約0.2cm)の間に挟んだ。インピーダンスの測定のためには、振動数の範囲を1Hzから1MHzまでとし、ピーク間電位差(peak-to-peak voltage)は100mVとした。プロトン導電性は、乾燥(非湿)窒素の気流下に、200℃まで上げて測定した。図4は、コンポジット膜および比較膜(Bz:0%)の温度vs比導電率をプロットしたグラフである(アレニウスのプロットは図示せず)。プロトン導電性は、一般的にはアレニウスの法則に従うが、このことはプロトン導電性が熱的活性化プロセスに支配されることを示している。十分に加湿された条件での比較膜(Bz:0%)の比導電率は、0.1S/cm(<90℃)程度であることはよく知られているが、無水条件下では10-6S/cm程度で、温度依存性は少ない。一方、ナフィオン-Bzコンポジット膜の比導電率は、温度を上げるにつれ上昇し、ナフィオン5wt%-5wt%Bzのコンポジット膜(iii)で3.6×10-3S/cm(温度:180℃)、ナフィオン5wt%-10wt%Bzのコンポジット膜(iv)で1.4×10-2S/cm(温度:160℃)を示した。また、各々の活性化エネルギーは、ナフィオン5wt%-1wt%Bz及びナフィオン5wt%-5wt%Bzコンポジット膜で各々1.4eVであり、ナフィオン5wt%-10wt%Bzコンポジット膜で2.4eVで、前2者よりも高い値であった。これは、プロトン化されたプロトンがナフィオンのスルホン基とBzの塩基部位の特別な位置を維持するプロトン導電経路の差異に基づくからであろう。
【0029】
実施例2;
(1)燃料電池用高分子電解質膜の調製
原料の一つのナフィオン液(5%溶液)はElectrochem Co., Ltd.から購入したものを用いた。また、別の原料の1,2,4-トリアゾール(C233;MW=69.07)はAldrich Co.,Ltd.から購入したもの(固体)を用いた。
ナフィオン及び1,2,4-トリアゾールを5:1の重量比で含む高分子電解質膜用前駆体(ワニス)は、「ナフィオン液」(5%溶液)の3g(ナフィオン0.15g含有)に、1,2,4-トリアゾール0.03g(イソプロパノール0.4mlに溶かしたもの)溶液を加え、両者を混ぜて調製した。ナフィオン及び1,2,4-トリアゾールを5:2の重量比で含む高分子電解質膜用前駆体(ワニス)は、ナフィオン希釈液3g(ナフィオン0.15g含有)に、1,2,4-トリアゾール0.06g(イソプロパノール0.4mlとメタノール0.2mlに溶かしたもの)溶液を加え、両者を混ぜて調製した。ナフィオン及び1,2,4-トリアゾールを5:5の重量比で含む高分子電解質膜用前駆体(ワニス)は、ナフィオン希釈液3g(ナフィオン0.15g含有)に、1,2,4-トリアゾール0.15g(イソプロパノール0.4mlとメタノール0.2mlに溶かしたもの)溶液を加え、両者を混ぜて調製した。
得られた高分子電解質膜用前駆体(ワニス)の所定量をテフロン皿に流し込み、乾燥状態で、60℃で1日間加熱処理し、膜を生成させ(均質な膜が得られた)、本発明の燃料電池用高分子電解質膜(コンポジット膜ともいう;透明または白色不透明又は白色半透明)を得た。得られた膜の厚みはテフロン皿に流し込んだ容積に依存したが、70-110μmの範囲であった。
(2)得られたコンポジット膜の評価
【0030】
コンポジット膜および比較膜のプロトン導電性は、実施例1に記述した方法と同様に測定した。図7は、コンポジット膜の温度vs比導電率をプロットしたグラフである(アレニウスのプロットは図示せず)。ナフィオン-1,2,4-トリアゾールコンポジット膜の比導電率は、温度を上げるにつれ上昇し、ナフィオン5wt%-5wt%1,2,4-トリアゾールのコンポジット膜(iii)で2.3×10-2S/cm(温度:160℃)を示した。また、各々の活性化エネルギーは、ナフィオン5wt%-1wt%1,2,4-トリアゾール及びナフィオン5wt%-2wt%1,2,4-トリアゾールコンポジット膜で各々0.9eVであり、ナフィオン5wt%-5wt%1,2,4-トリアゾールコンポジット膜で0.3eVであった。これは、ナフィオンのスルホン基に対するの塩基部位の特別な位置を1,2,4-トリアゾールのプロトンの数が増えることによりキャリア濃度や移動度の増加に基づくからであろう。プロトン導電性は、一般的にはアレニウスの法則に従うが、このことはプロトン導電性が熱的活性化プロセスに支配されることを示している。十分に加湿された条件でのNafion膜の比導電率は、0.1S/cm(<90℃、0.02eV)程度であることはよく知られている。加湿条件でのNafion膜のプロトンは水とともに膜のクラスター構造(プロトン伝導channel)内で非常に低いエネルギーで移動し、かつ高い伝導度を示す。一方、無加湿条件下でのプロトンは加湿条件のようなプロトンを運ぶ伝導パスができず伝導度は非常に低くなる。しかしながら、酸のナノクラスタ構造に、Bzや1,2,4-トリアゾールのような有機モノマーを導入しプロトン伝導パスを作ると、無加湿でも高いプロトン伝導性を持つ伝導体の実現が可能である(図8参照)。
【産業状の利用可能性】
【0031】
燃料電池は、今後ますます必要とされ、おおいに発展が期待される。それにつれて使用条件は、白金CO毒を排除する意味で、今後ますます高温、長時間使用に耐えられるものが求められる。従来のプロトン伝導性燃料電池膜は、精々実用的には80℃くらいまでであり、上記要請に応えることができなかった。高温作動しうる無水・高温燃料電池用高分子膜も提案されているが、まだ緒についたばかりであり信頼性において充分と言えるものではなかった。本発明によって、無水・高温の環境下で長時間作動し得る、耐久性のあるプロトン導電性燃料電池膜を公知の材料から安価、且つ容易に得ることが可能としたものでその意義は極めて大きい。今後、各種燃料電池設計においておおいに利用され、高出力燃料電池を低コストで提供するのにおおいに寄与するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)ナフィオンの分子構造、(b)ベンズイミダゾール(Bz)の分子構造。
【図2】(a)純Bz、(b)リキャスト(recast)ナフィオン膜(Bz:0%)、(c)ナフィオン5wt%-1wt%Bzのコンポジット膜、(d)ナフィオン5wt%-5wt%Bzのコンポジット膜、(e)ナフィオン5wt%-10wt%Bzのコンポジット膜、の各々のIRスペクトラム。
【図3】(i)リキャスト(recast)ナフィオン膜(Bz:0%)、(ii)ナフィオン5wt%-1wt%Bzのコンポジット膜、(iii)ナフィオン5wt%-5wt%Bzのコンポジット膜、(iv)ナフィオン5wt%-10wt%Bzのコンポジット膜、の各々のTG。
【図4】(i)リキャスト(recast)ナフィオン膜(Bz:0%)、(ii)ナフィオン5wt%-1wt%Bzのコンポジット膜、(iii)ナフィオン5wt%-5wt%Bzのコンポジット膜、(iv)ナフィオン5wt%-10wt%Bzのコンポジット膜、の各々のDTA。
【図5】(i)リキャスト(recast)ナフィオン膜(Bz:0%)、(ii)ナフィオン5wt%-1wt%Bzのコンポジット膜、(iii)ナフィオン5wt%-5wt%Bzのコンポジット膜、(iv)ナフィオン5wt%-10wt%Bzのコンポジット膜、の温度vs伝導性をプロットしたグラフ。
【図6】1,2,4-トリアゾールの分子構造。
【図7】(i)ナフィオン5wt%-1wt%1,2,4-トリアゾールのコンポジット膜、(ii)ナフィオン5wt%-2wt%1,2,4-トリアゾールのコンポジット膜、(iii)ナフィオン5wt%-5wt%1,2,4-トリアゾールのコンポジット膜、の温度vs伝導性をプロットしたグラフ。
【図8】ナノクラスタ構造に導入されたプロトン伝導パスにより無加湿プロトン伝導体モデルで、ナノクラスタとしてNafion高分子を利用し、無加湿プロトン伝導パスとしてBzまたは1,2,4-トリアゾールを利用したモデル。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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