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明細書 :筋萎縮性側索硬化症治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5099620号 (P5099620)
公開番号 特開2008-106006 (P2008-106006A)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月19日(2012.12.19)
公開日 平成20年5月8日(2008.5.8)
発明の名称または考案の名称 筋萎縮性側索硬化症治療薬
国際特許分類 A61K  33/24        (2006.01)
A61P  21/00        (2006.01)
FI A61K 33/24
A61P 21/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 7
出願番号 特願2006-290606 (P2006-290606)
出願日 平成18年10月26日(2006.10.26)
審査請求日 平成21年10月23日(2009.10.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
発明者または考案者 【氏名】小野 真一
【氏名】徳田 栄一
個別代理人の代理人 【識別番号】110000084、【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
【識別番号】100068700、【弁理士】、【氏名又は名称】有賀 三幸
【識別番号】100077562、【弁理士】、【氏名又は名称】高野 登志雄
【識別番号】100096736、【弁理士】、【氏名又は名称】中嶋 俊夫
【識別番号】100117156、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 正樹
【識別番号】100111028、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 博人
【識別番号】100101317、【弁理士】、【氏名又は名称】的場 ひろみ
【識別番号】100121153、【弁理士】、【氏名又は名称】守屋 嘉高
【識別番号】100134935、【弁理士】、【氏名又は名称】大野 詩木
【識別番号】100130683、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 政広
【識別番号】100140497、【弁理士】、【氏名又は名称】野中 信宏
審査官 【審査官】深草 亜子
参考文献・文献 国際公開第2006/020727(WO,A1)
特表2006-506466(JP,A)
特表2009-523175(JP,A)
調査した分野 A61K 33/24
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
テトラチオモリブデン酸又はその塩を有効成分とする筋萎縮性側索硬化症治療薬であって、テトラチオモリブデン酸として成人1日あたり0.5mg/kg~50mg/kg経口投与するものである治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特定難病に指定されている筋萎縮性側索硬化症の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症 (以下、ALS) は中年以降に発症し、骨格筋の進行性麻痺をきたす予後不良な運動ニューロン疾患であり、厚生労働省の特定疾患治療研究対象疾患に指定されている。ALS の約 90% 以上は孤発性であり原因は不明である。残り 10% は家族性で、原因として Cu/Zn superoxide dismutase (SOD1) 遺伝子の点突然変異により、変異 SOD1 が新たに獲得した細胞毒性が運動ニューロン死を引き起こすとする (gain-of-toxic function) 説が有力である(非特許文献 1)。
【0003】
現在、ALS 治療薬として販売されているのは、グルタミン酸受容体のアンタゴニストであってグルタミン酸抑制作用のあるリルゾール (リルテックTM, アベンティス) のみである(特許文献1)。
【0004】
ALS 治療薬として神経栄養因子、カスパーゼ抑制剤、銅キレート剤等が検討されている。このうち、銅キレート剤に関しては、D-ペニシラミン (非特許文献2)、トリエンチン (非特許文献3) およびジエチルジチオカルバメート (特許文献2) が検討されている。しかし、これらの銅キレート剤により ALS モデル動物に対する生存率の増加は、D-ペニシラミン 100 mg/kg 投与で 7.8%、トリエンチン 800 mg/kg 投与で 8.0% であり、ジエチルジチオカルバメートについてはインビボ(in vivo)での検討はされていない。

【特許文献1】特許第 2713384 号公報
【特許文献2】特表 2000-515491 号公報
【非特許文献1】Bruijn, L.I., et al., 2004. Annu. Rev. Neurosci. 27, 723-749.
【非特許文献2】Fottinger, A.F., et al., 1997. Eur. J. Neurosci. 9, 1548-1551.
【非特許文献3】Andreassen, O.A., et al., 2001. Exp. Neurol. 168, 419-424.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、ALS に対して優れた治療効果を有する ALS 治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、ALS モデル動物を用いて新たな治療薬を探索したところ、テトラチオモリブデン酸が、5 mg/kg という低用量の投与量で 23.6% もの著明な生存率の増加効果を有し、このテトラチオモリブデン酸の ALS 治療効果は、投与量を考慮すると、D-ペニシラミンの 60 倍、トリエンチンの 640 倍も強力であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、テトラチオモリブデン酸又はその塩を有効成分とする ALS 治療薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
テトラチオモリブデン酸又はその塩の ALS 治療効果は、従来銅キレート剤として知られている D-ペニシラミンの 60 倍、トリエンチンの 640 倍も強力であり、この効果はテトラチオモリブデン酸が銅キレート能を有することが知られていることを考慮しても全く予想外である。
また、テトラチオモリブデン酸は、ALS の主症状である運動機能障害を改善する作用を有する。さらにテトラチオモリブデン酸は、ALS による運動ニューロン死の背景に存在する酸化ストレスおよびアポトーシスの亢進状態を顕著に是正し、ALS による死亡だけでなく、骨格筋の進行性麻痺に代表される運動機能障害の防止及び改善にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明ALS治療薬の有効成分であるテトラチオモリブデン酸またはその塩は、銅キレート剤としては知られているが、ALS 治療作用を有するか否かは全く知られていなかった。テトラチオモリブデン酸の塩としては、テトラチオモリブデン酸アンモニウムが挙げられる。
【0010】
後記実施例に示すように、テトラチオモリブデン酸は、ALS モデル動物に対して、D-ペニシラミン、トリエンチンの投与量に比較して、5 mg/kg という低用量で 23.6% もの顕著な生存率の増加効果を有する。また、テトラチオモリブデン酸は、ALS の主症状である骨格筋の進行性麻痺に代表される運動機能障害を顕著に改善する。さらに、テトラチオモリブデン酸は、ALS の発症、進行に関与していると言われている過酸化脂質の生成量を抑制し、それに誘導されるアポトーシスの亢進状態を著明に抑制する (各種カスパーゼの抑制およびカスパーゼ抑制因子サーバイビンの活性亢進)。さらに、テトラチオモリブデン酸は安全性が高く (D-ペニシラミンは緊急安全性情報記載医薬品)、経口投与できることが知られている。従って、本発明の ALS 治療薬は、ALS 患者の延命効果だけでなく、ALS の主症状である運動麻痺の進行を防止または改善することのできる優れた治療薬である。
【0011】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的または非経口的に投与することができる。非経口投与としては髄腔内、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、吸入、直腸内、鼻腔内投与および点鼻、点耳、点眼、外用投与等が挙げられる。中でも、本発明の医薬は経口投与するのが好ましい。
【0012】
本発明の医薬としては、有効成分であるテトラチオモリブデン酸またはその塩をそのまま患者に投与してもよいが、好ましくは、有効成分と薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物の形態の製剤として投与すべきである。薬学的に許容し得る担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH 調節剤、安定化剤等を用いることができる。
【0013】
経口投与用の製剤の例としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、またはシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与用の製剤としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、または外用剤 (貼付、軟膏、クリーム、ゲル、ローション、スプレーなどを含む) などを挙げることができる。
【0014】
経口投与用の製剤には、例えば、ブドウ糖、乳糖、D-マンニトール、デンプン、または結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、またはカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウムまたはタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコールまたは酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、またはハードファット等の基剤を用いることができる。注射、点滴用、点鼻剤、点耳剤または点眼剤には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成し得る溶解剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等の pH 調節剤等の製剤用添加物を用いることができる。坐剤には、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリド等の基剤、および必要に応じて非イオン界面活性剤のような界面活性剤等の添加物を用いることができる。
軟膏剤には、通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて用いられる。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0015】
貼付剤としては、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布したものが挙げられる。支持体としては、綿、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムが適当である。
【0016】
本発明の医薬の投与量は、ALS の進行状況又は症状の程度、患者の年齢や体重などの諸条件に応じて適宜選択可能である。ALS 患者に対してテトラチオモリブデン酸として成人 1 日あたり 0.5 mg/kg~50 mg/kg を1~4 回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0018】
実施例1
A.方法
(1)ALS モデル動物のひとつである G93A SOD1 トランスジェニックマウス (Tg) を用いた。このモデルは、家族性 ALS に見出された変異 SOD1 遺伝子を有し、14~16 週齢以降に下肢に始まる運動麻痺を呈する。
4 週齢の Tg、26 匹をテトラチオモリブデン酸 (TTM) 群と対照群に分けた(各群 13 匹)。TTM 群には TTM (5 mg/kg) を、対照群にはリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) を連日、個体が死亡するまで腹腔内投与した。マウスの運動機能は Rota-Rod、生存率は Kaplan-Meier 法により評価した。また、8 週齢の時点 (TTM 投与開始 4 週間後) で、各群の一部 (n = 3) をと殺し、本疾患の責任病巣である脊髄の銅 (Cu) 濃度、過酸化脂質 (LPO) 生成量、アポトーシス関連因子の挙動を、誘導結合型プラズマ質量分析法、チオバルビツール酸法、ウェスタンブロット法でそれぞれ検討した。
【0019】
(2)運動機能の測定
運動機能は、Rota-Rod (Columbus Instruments, Columbus, OH, USA) を用いて評価した。マウスを Rota-Rod に慣れさせるために、測定開始日の1 週間前より訓練させた。8 週齢 のマウスを、回転棒を有する区切りディスクボックスに回転方向の逆向きに収容した。Rota-Rod の回転速度は、15 r.p.m. とした。測定は週に 1 回とし、試技は 3 回までとした。マウスが Rota-Rod から落下するまでの時間 (秒) を測定した。マウスが 300 秒間試技を続けるか、落下した場合は、3 回の試技の中で、最も良い記録をその週のスコアーとした。
【0020】
(3)Cu 濃度の測定
脊髄を室温下、一晩、濃硝酸 (65%) で湿式灰化した。80°C の水浴で 1 時間加温し、脊髄を完全に溶解した。この液を超純水で適量希釈した。Cu 濃度は誘導結合型プラズマ質量分析法 (アジレント7500、横河アナリティカルシステムズ) を用いて測定し、脊髄組織湿重量当たりの Cu 濃度として求めた (μg/g wet tissue)。
【0021】
(4)過酸化脂質 (LPO) 生成量の測定
過酸化脂質濃度は、チオバルビツール酸 (TBA) 法により測定した (Ono et al, 1998. Radiat. Res. 150, 52-57)。脊髄を氷冷した PBS でホモジナイズし、硫酸、リンタングステン酸で除たん白質をした。酸性下で TBA 試薬を加え、100°C で 1 時間煮沸した。流水処理後、n-ブタノールで過酸化脂質を抽出した。n-ブタノール層に関して、励起波長 515 nm、蛍光波長 553 nm で標準液 (1,1,3,3-テトラエトキシプロパン) に対するマロンジアルデヒド濃度 (nmol/g wet tissue) として求めた。
【0022】
(5)アポトーシス関連因子の挙動
アポトーシス関連因子として、アポトーシス実行因子のcaspase-3 と survivin の挙動をウエスタンブロット法で検討した。脊髄組織のたん白質量はピロガロールレッド法により定量した。たん白質の分離は、15% Sodium dodecylsulfate-polyacryl amide gel (SDS-PAGE) によった。Polyvinelydene difluoride 膜に分離したたん白質を転写した後、mouse monoclonal anti caspase-3 antidbody ないしは、mouse monoclonal anti survivin antibody を反応させた。たん白質の検出は mouse monoclonal horseradish conjugated anti IgG antibody で一次抗体を標識した後、enhanced chemiluminescence により可視化した。バンド強度の定量は、NIH image (National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA) で行い、β-tubulin に対する相対的たん白質発現量として求めた。
B.結果
(1)ALS モデルマウスの運動機能
図 1 に、TTM がTg の運動機能に及ぼす効果を示した。図 1 から明らかなように、 ALSによる運動機能低下の進行は、PBS 投与群 (対照群) に比較して、TTM 投与群では 有意に抑制された (p = 1.89 × 10-8, repeated-measures ANOVA)。
【0023】
(2)生存率の増加効果
図 2 に示すように、ALS モデルマウスの生存期間は、TTM 投与により23.6%、約 30 日間延長した (p = 4.01 × 10-5, log-rank test)。
【0024】
(3)脊髄の Cu 濃度および LPO 生成量
図 3 に示すように、TTM 投与群では、脊髄の Cu 濃度および LPO 生成量は PBS 群に比較して有意に低下した。
【0025】
(4)アポトーシス亢進状態に及ぼす作用
図 4 に示すように、TTM 投与群では、アポトーシス実行因子である caspase-3 発現量は有意に低下し、逆にアポトーシス抑制因子である survivin 発現量は有意に増加した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】TTMの運動機能(Rota-Rod Time)に及ぼす作用を示す図である。
【図2】TTMのALSモデルマウスの生存期間に及ぼす作用を示す図である。
【図3】TTM投与による脊髄中 Cu 濃度および LPO 生成量の変化を示す図である。
【図4】TTM投与による カスパーゼ 3 およびサーバイビン量の変化を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3