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明細書 :急性腎不全の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5162751号 (P5162751)
公開番号 特開2008-175630 (P2008-175630A)
登録日 平成24年12月28日(2012.12.28)
発行日 平成25年3月13日(2013.3.13)
公開日 平成20年7月31日(2008.7.31)
発明の名称または考案の名称 急性腎不全の検出方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/493       (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
FI G01N 33/53 ZNAD
G01N 33/493 A
C07K 14/435
請求項の数または発明の数 7
全頁数 10
出願番号 特願2007-008132 (P2007-008132)
出願日 平成19年1月17日(2007.1.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第59回 日本薬理学会西南部会 開催日:平成18年11月24日 開催場所:メルパルク沖縄 講演予稿集発行日:平成18年11月2日発行 講演番号:10 講演名:尿中AQP1および2の急性腎不全診断マーカーとしての検討 電子回線アドレス:http://www.pharmacol.or.jp 電子回線発表日:平成18年10月27日
審査請求日 平成22年1月7日(2010.1.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】池田 正浩
【氏名】園田 紘子
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】草川 貴史
参考文献・文献 特表2003-531863(JP,A)
国際公開第01/027620(WO,A1)
国際公開第2006/003493(WO,A1)
Kwon TH, Frokiaer J, Fernandez-Llama P, Knepper MA, Nielsen S.,Reduced abundance of aquaporins in rats with bilateral ischemia-induced acute renal failure: prevention by α-MSH,Am J Physiol,1999年 9月,Vol.277,No.3,Page.F413-427
調査した分野 G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
被検体の尿中のアクアポリン1の量を測定する工程を含む、急性腎不全の検出方法。
【請求項2】
被検体の尿中のアクアポリン1の量を測定する工程と、
被検体の尿中のアクアポリン1の量を、健常検体の尿中のアクアポリン1の量と対比する工程と、
被検体の尿中のアクアポリン1の量が、健常検体の尿中のアクアポリン1の量と対比して統計学的に有意に少ないときに、被検体が急性腎不全に罹患していると判断する工程とを含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
アクアポリン1の量の測定に用いる尿試料が、尿をフィルター法および/または超遠心法により処理して得られた試料である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
被検体がヒトである、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
アクアポリン1の測定が、アクアポリン1に特異的に結合する抗体および/またはその断片を用いた免疫学的測定法により行われる、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
アクアポリン1に特異的に結合する抗体および/またはその断片を含有する、請求項5記載の方法に使用するための急性腎不全の検出薬。
【請求項7】
アクアポリン1に特異的に結合する抗体および/またはその断片を含有する、請求項5記載の方法に使用するための急性腎不全の検出キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は急性腎不全の非侵襲的な早期診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性腎不全(ARF)は、ヒトでは死亡率が50%を超える重篤な疾患で、急激なGFRの低下と窒素代謝物の体内蓄積に特徴付けられる症候群の総称である。現在のところ特異的な治療薬は無く、また、軽度な急性腎不全における早期診断方法も確立していない。ARFは、出血などによって腎血流量の低下が原因となる腎前性ARF、尿細管細胞死を伴う腎実質性ARF、および尿路閉塞による腎後性ARFの3つに分類される。この中で、腎実質性ARFの発症原因としては、腎が一時的な虚血に陥り、その後血流が再開することによっておきる腎虚血再灌流(IR)傷害および薬物などによる尿細管への直接傷害が重要であり、急性尿細管壊死が引き起こされる。また、壊死した尿細管上皮細胞は基底膜から脱落し、尿細管閉塞の原因ともなる。
【0003】
一方、水分子を透過させる膜タンパク質分子として発見されたアクアポリン(AQP)は、現在ではAQPタンパク質分子ファミリーに属する分子種として、水分子のみを透過させる“アクアポリン”(AQP0、AQP1、AQP2、AQP4、AQP5、AQP8)、水分子だけでなくグリセロールなどの中性子も一部透過させる“アクアグリセロポリン”(AQP3、AQP7、AQP9)、水分子以外にも陰イオンを透過させるAQP6、輸送される物質が明らかにされていないAQP11およびAQP12の13種類の分子種が報告されている。“アクアポリン”に属する分子種は、目の水晶体、腎臓、脳、涙腺などに分布し、そこで水分代謝を調節し、“アクアグリセロポリン”は脂肪細胞に分布して脂質代謝に関与していることが明らかにされている。
【0004】
腎臓においては、近位尿細管およびヘンレの細い下行脚の上皮細胞にAQP1が、近位尿細管の上皮細胞にAQP11が、近位直尿細管(特にS3segment)の上皮細胞にAQP7が、集合管の主細胞にAQP2、AQP3、およびAQP4が、集合管のα間在細胞にAQP6が、近位尿細管および集合管の上皮細胞にAQP8が、それぞれ部位特異的に発現していることが知られている。AQP1は近位尿細管上皮細胞の管腔側および基底側の両方の細胞膜に発現しており、それぞれの膜における水輸送に関与していると考えられている。AQP2は集合管主細胞の管腔側の細胞膜とその付近の細胞内小胞に発現しており、バソプレシンによって細胞が刺激されると、その管腔側細胞質における発現量が増加し、水分の再吸収が促進する。AQP3およびAQP4は主細胞の基底側の細胞膜に発現しており、AQP2によって細胞内に輸送された水を血管へ輸送すると考えられている。AQP6は集合管のα間在細胞の細胞質内に発現しており、その局在と陰イオンを透過させることから小胞の酸性化に関与しているのではないかと推察されている。AQP8と新規アクアポリンであるAQP11はそれぞれが発現している上皮細胞の細胞質に、AQP7は近位直尿細管の刷子縁に発現していることが報告されているが、それらの腎における役割は明らかにされていない。また、AQP1が欠損しているヒトでは尿の濃縮障害が、AQP11のノックアウトマウスでは嚢胞腎がおこることが報告されている。
【0005】

【非特許文献1】Ikeda M, Prachasilchai W, Burne-Taney MJ, Rabb H, Yokota-Ikeda N. (2006). Ischemic acute tubular necrosis models and drug discovery: a focus on cellular inflammation. Drug Discov Today. 11, 364-370.
【非特許文献2】Nielsen S, Frokiaer J, Marples D, Kwon TH, Agre P, Knepper MA. (2002). Aquaporins in the kidney: from molecules to medicine. Physiol Rev. 82, 205-244.
【非特許文献3】Pisitkun T, Shen RF, Knepper MA. (2004). Identification and proteomic profiling of exosomes in human urine. Proc Natl Acad Sci U S A. 101, 13368-13373.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在のところ急性腎不全(ARF)に対する特異的な治療薬は無く、また、軽度な急性腎不全における早期診断方法も確立していない。
【0007】
そこで本発明は急性腎不全の非侵襲的な診断方法を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上述べたようにアクアポリン1が近位尿細管およびヘンレの細い下行脚に特異的に発現していること、そしてこれらの部位がARF時に傷害を受けることが報告されていることから、アクアポリン1が急性腎不全の診断マーカーになりうる可能性が考えられる。また、ラットなどの疾患モデル動物で見られた尿中アクアポリン排泄量の変化が、患者においても見られることが報告されていることから、動物実験の結果をヒトに外挿できる可能性が高い。そこで本発明者らは、軽度な急性腎不全における早期診断方法の開発を目指して、ラットモデルを用いて、片腎を虚血再灌流することによって軽度なARFを起こし、そのときの尿中アクアポリン1排泄量を解析することによって、アクアポリン1の早期ARFの診断マーカーとしての有用性を評価した。そして、アクアポリン1が早期ARFの診断マーカーとしての有用であることを見出し、以下の発明を完成するに至った。本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
(1) 被検体の尿中のアクアポリン1の量を測定する工程を含む、急性腎不全の診断方法。
(2) 被検体の尿中のアクアポリン1の量を測定する工程と、
被検体の尿中のアクアポリン1の量を、対照検体の尿中のアクアポリン1の量と対比する工程と、
被検体の尿中のアクアポリン1の量が、対照検体の尿中のアクアポリン1の量と対比して有意に少ないときに、被検体が急性腎不全に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度の急性腎不全であると判断する工程とを含む、
(1)記載の方法。
(3) アクアポリン1の量の測定に用いる尿試料が、尿をフィルター法および/または超遠心法により処理して得られた試料である、(1)または(2)記載の方法。
(4) 被検体がヒトである、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) アクアポリン1の測定が、アクアポリン1に特異的に結合する抗体を用いた免疫学的測定法により行われる、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体を含有する、(5)記載の方法に使用するための急性腎不全の診断薬。
(7) アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体を含有する、(5)記載の方法に使用するための急性腎不全の診断キット。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1. 被検体
本発明において「被検体」とは急性腎不全を発症しうる動物であれば限定されないが、ヒトが特に好ましい。ヒト以外の被検体としては、例えば、サル、チンパンジー等の非ヒト霊長類や、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモット等の他の哺乳類が挙げられる。ヒト以外の動物を被検体とした場合に得られる情報(判定結果)は、当該非ヒト動物の急性腎不全の診断にも利用され得るが、むしろそれをヒトの急性腎不全の診断法の確立に利用できる点で有用である。図1に示す通り、アクアポリン1のアミノ酸配列は種を超えて保存性が高い。また、ラットなどの疾患モデル動物で見られた尿中アクアポリン排泄量の変化が、患者においても見られることが報告されている。よって、非ヒト動物での実験結果はヒトに対しても外挿可能であると言える。
【0011】
2. 試料
本発明では被検体からの尿を試料として用いる。尿に例えば次のような処理を施した試料を、アクアポリン1を測定するために用いることができる。
氷上で尿にタンパク質分解酵素阻害剤溶液を加えた後、遠心(1,000 g、10分間、4℃)し上清を得る。上清の一部を10倍希釈した後、化学分析器を用いて尿中のクレアチニン濃度を測定する。残る上清を以下に述べる、フィルター法および超遠心法の2種類の方法を用いて、尿中タンパク質を分離する。
【0012】
クレアチニン3 mgを含む尿を遠心ろ過チューブ(Millipore.Carrigtwohill.co.)に入れ、液量が200 μl以下になるまで遠心(4,000 g、4℃)する。その後、総計の液量が300 μlになるように 4×Laemmli sample buffer(62.5 mM Tris-HCl、25% glycerol、2% SDS、0.01% bromophenol bluee、0.4 M DTT)を加えて、37℃で30分間インキュベートして試料とする(フィルター法)。
【0013】
クレアチニン3 mgを含む尿を遠心(200,000 g、60分間、4℃)する。そのペレットに5倍希釈したタンパク質分解酵素阻害剤溶液 50 μlを加えて溶解し、25 μlの4×Laemmli sample buffer(62.5 mM Tris-HCl、25% glycerol、2% SDS、0.01% bromophenol bluee、0.4 M DTT)と混合後、37℃で30分間インキュベートして試料とする(超遠心法)。
【0014】
本明細書に示す実施例では、上記の二つの方法により処理した尿を試料として用いたが、力価の高い抗体を用いたEIA法を用いれば、尿にタンパク質分解酵素阻害剤溶液を単純に加えた溶液を用いても本発明の実施が可能である。
【0015】
3. アクアポリン1
本明細書においてアクアポリン1とは、典型的にはアクアポリン1の成熟体または完全体であり、糖鎖修飾されたアクアポリン1分子も包含される。糖鎖の種類、結合位置などは限定されない。アクアポリン1のアミノ酸配列は被検体の動物種により若干異なる。一例として、配列表には配列番号1としてイヌ (Canis familiaris) 由来アクアポリン1を、配列番号2としてウシ (Bos taurus) 由来アクアポリン1を、配列番号3としてヒト (Homo sapiens) 由来アクアポリン1を、配列番号4としてラット (Rattus norvegicus) 由来アクアポリン1を、配列番号5としてマウス (Mus musculus) 由来アクアポリン1を、それぞれ示す。
【0016】
4. 抗アクアポリン1抗体
アクアポリン1の測定は、アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体を用いて行われることが好ましい。このような抗体としては、測定しようとする動物種のアクアポリン1又はその部分配列を含むポリペプチドを抗原として用い、常法により作成された抗体を好適に使用できる。
抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また抗体はアクアポリン1に特異的に結合し得る限り断片として使用することもできる。抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’断片、単鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
モノクローナル抗体は例えば次の手順で作成することができる。
【0017】
上記の抗原を、動物に対して、抗原の投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。用いられる動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどの哺乳動物が挙げられる。抗血清中の抗体価の測定は常法により行うことができる。
【0018】
抗原を免疫された動物から抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2~5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。融合操作は既知の方法、例えば、Nature 256: 495 (1975)記載の方法に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0などが挙げられる。
【0019】
モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0020】
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様の、例えば塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどを用いた特異的精製法による免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0021】
一方、ポリクローナル抗体は例えば次の手順で作成することができる。
ポリクローナル抗体は、例えば、抗原とキャリアーとの複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、該免疫動物から活性型ハプトグロビン対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造できる。ポリクローナル抗体の作成に使用する抗原はモノクローナル抗体の作成におけるのと同様である。抗原とキャリアーとの複合体を形成する際に、キャリアーの種類および抗原とキャリアーとの混合比は、キャリアーに架橋させた抗原に対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよい。キャリアーとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等が用いられる。また、抗原とキャリアーのカップリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
【0022】
抗原とキャリアーとの複合体は、免疫される動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2~6週毎に1回ずつ、計約3~10回程度行なうことができる。用いられる動物としては、モノクローナル抗体作成の場合と同様の哺乳動物が挙げられる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の手順で行なうことができる。
【0023】
5. アクアポリン1の量の評価方法
本発明の方法は、被検体からの尿中のアクアポリン1の量を評価する工程を含むが、アクアポリン1の絶対的な量を測定する必要はなく、対照となる尿中のアクアポリン1の量との相対的な関係を明らかにできれば評価としては十分である。
アクアポリン1の量の評価方法としては、典型的には、上記の抗アクアポリン1抗体を用いた免疫学的測定法が挙げられる。免疫学的測定法としては、特に制限はなく、従来公知の方法、例えば酵素免疫測定法(EIA法)、ラテックス凝集法、免疫クロマト法、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、抗原抗体複合体形成に伴う濁度を測定する比濁法、抗体固相膜電極を利用し抗原との結合による電位変化を検出する酵素センサー電極法、免疫電気泳動法などを採用することができる。これらの中でもEIA法またはウエスタンブロット法が好ましい。なお、EIA法には、競合的酵素免疫測定法や、サンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)等が包含される。
【0024】
ウエスタンブロット法を本発明の免疫学的測定法として採用する場合、例えば次のようにして尿中のアクアポリン1を検出することができる。ドデシル硫酸ナトリウム含有ポリアクリルアミドゲル上に検体たる尿由来タンパク質試料を添加し、一定の電圧をかけて電気泳動を行い、泳動によりゲル上で分離されたタンパク質をPVDF(ポリビリニデンジフルオライド)膜のようなブロッティング用膜に電気的に転写し、この膜をスキムミルク等でブロッキング処理した後に、上記抗アクアポリン1抗体を膜と反応させ、次いで化学発光物質、蛍光物質、あるいは酵素(西洋ワサビパーオキシダーゼ等)で標識した二次抗体を結合させ、更に標識物質に応じた検出操作を行う。膜上にアクアポリン1が存在する場合には検出することができる。なお、ウエスタンブロット法による具体的な検出方法は後記実施例に記載されている。
【0025】
6. 診断方法
本発明では尿中のアクアポリン1の量を測定し、同量の減少を指標として急性腎不全を診断する。
本発明において「診断」とは、典型的には、被検体が急性腎不全に罹患しているか否かの判定(狭義の診断)を意味するが、これには限定されず、急性腎不全の重症度の判定、治療の効果の判定、および治療後に急性腎不全を再発する危険性が存在するか否かの判定をも包含する概念(広義の診断)である。実施例に示すように尿中のアクアポリン1の量は早期の急性腎不全においても顕著に減少することから、本発明の方法は急性腎不全の早期診断に有用であるといえる(なおこの場合、「診断」は狭義の意味で用いられる)。また尿を試料として使用することから、被検体にとり負荷がほとんどない方法であるといえる。
【0026】
被検体が急性腎不全に罹患しているか否かの判定の際には、健常検体の尿試料中におけるアクアポリン1の量を基準とすることができる。治療の効果の判定の際には、治療前の被検体から採取された尿試料中のアクアポリン1の量を基準値とすることもできる。本発明では、対比対象となるこれらの検体を「対照検体」と称する。
【0027】
本発明の方法では、典型的には、被検体の尿中のアクアポリン1の量を測定し、当該量と、対照検体の尿中のアクアポリン1の量とを対比し、前者が後者より少ないときに、被検体が急性腎不全に罹患している、あるいは対照検体と比較してより重度の急性腎不全患者であると判断する。
【0028】
対照検体の尿中のアクアポリン1の量の測定は、被検体の尿中のアクアポリン1の量の測定と同様の手順で行うことができる。対照検体の尿中のアクアポリン1の量は、被検体の尿の測定のたびに測定してもよいし、事前に測定しておいてもよい。
【0029】
7. 診断薬又は診断用キット
本発明はまた、アクアポリン1に特異的に結合し得る抗体を含む、急性腎不全の診断薬に関する。
本発明の診断薬は、必要な試薬とともにキット化することもできる。例えば診断キットには、抗アクアポリン1抗体、標識化された二次抗体、検出のための試薬等の必要な構成要素が含まれ得る。
キットには更に、緩衝液、洗浄液、使用説明書等が含まれていてもよい。
これらの診断薬又は診断キット中の抗体は、本明細書に開示する、尿中のアクアポリン1の量を指標とした急性腎不全の診断方法のために使用される。
【実施例】
【0030】
1. 実験手順
ラットを用いて実験を行った。まず、ラットを麻酔した後に開腹し、右腎動脈を露出させた。次にその動脈にクリップをかけ、60分間血流を遮断した後に血液を再灌流させた(急性腎不全群)。閉腹後、血液を再灌流させた直後から6時間(6時間尿)、および血液を再灌流させてから24~30時間(30時間尿)それぞれの時間において6時間の採尿を行った。偽手術群では、クリップによる血流遮断以外は同様の手術を行った。
【0031】
尿を用いて、尿量の測定および尿中タンパク質を解析した。尿中のタンパク質については、フィルター上に集められた5あるいは10 kDa以上のタンパク質(フィルター法)、あるいは尿を20万Gで遠心して得られる沈殿物中のタンパク質(超遠心法)それぞれを解析の対象とした。それぞれのタンパク質は4×サンプルバッファー(0.5 M Tris-HCl、8% SDS、50% glycerol、0.01% bromophenol blue、0.2 M DTT)と混合し、37℃で30分間インキュベートしてタンパク質サンプルとした。
【0032】
6時間尿および30時間尿を採取後、ラットから採血を行った。
血液をヘパリンと混濁した後、12,000 rpmで10分間遠心することで血漿を分離した。化学分析器を用いて血漿中のクレアチニン値と尿素窒素値を測定した。
【0033】
尿からの各サンプルは定法に従い、SDS-PAGEを行い、ゲル内のタンパク質はセミドライタイプ(KS-8460、マリソル、Tokyo)のブロッティング装置を用いてpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。転写後、TBS中にてローテーターで振盪しながら洗浄(15分、2回)し、5%スキムミルク、Tween-20を含むTBS(5% SM TTBS)でブロッキング(オーバーナイト、4℃)した。ブロッキング後、1.6% SM TTBSで1:4000に希釈した1次抗体(抗アクアポリン1抗体、Santa Cruz社製、カタログ番号SC-20810))を60分間反応させた(室温)。反応後、TTBSで1次抗体を洗浄(5分間、2回)し、1.6% SM TTBSで1:4000に希釈した2次抗体(抗ウサギIgG抗体)を反応させた後、TTBSで洗浄(5分間、4回)し、最後にTBS(10分間、1回)で洗浄した。バンドの可視化はSuperSignal(登録商標) West Femto Maximam Sensitivity Subatrate(PIERCE社、IL)を用いて発光させ、カメラによって撮影した。
【0034】
尿中タンパク質については、尿中クレアチニン一定量中に含まれるタンパク質量を定量化し、偽手術群の値の平均値を100%として、急性腎不全群のタンパク質量を表した。各データは、平均値±標準誤差(SEM)で示した。平均値は、student t検定により比較した。
【0035】
2.実験結果など
(1)ヒト及びラットのアクアポリン1の配列
ヒトおよびラットのアクアポリン1(以下「AQP1」という)分子種のアミノ酸配列を、マウス、イヌ、およびウシの配列とともに図1に示す。ヒトのAQP1は、94%とマウスと最も相同性が高く、ついでラット(93%)、イヌ(92%)、ウシ(91%)の順番である。以下の配列から明らかなように、AQP1は種を越えて良く保存されており、また、今回用いた抗体は、ヒト、ラットおよびマウスの腎および尿中のAQP1を認識できることを確認している。よって、本実験の結果はヒト等の他のほ乳動物に対しても外挿可能であると言える。
【0036】
(2)今回用いたモデル動物の急性腎不全発症の程度
今回の実験の目的は、軽度な急性腎不全における早期診断方法の開発である。今回用いたモデルが軽度な急性腎不全を示しているかどうかを、尿量、血中クレアチニン値、血漿尿素窒素値から評価した。表に示すように、尿量において、偽手術群及び急性腎不全群の間に、有意な差は認められなかった。血漿クレアチニン値と尿素窒素値については、急性腎不全群において、有意な増加が認められた。しかしこの増加はいずれも軽微で、正常範囲内であった。以上より、今回のモデルでは、急性腎不全は発症していたが、その程度が著しく軽かったことが考えられた。
【0037】
(3)尿中アクアポリン排泄量
表1に、6時間尿および30時間尿それぞれにおけるAQP1排泄量を示した。フィルター法および超遠心法いずれを用いても、急性腎不全発症6時間後において有意なAQP1排泄量の減少が認められた。したがって尿中AQP1は、軽症の急性腎不全において、その発症を早期に診断する上で、有効なマーカーであると考えられた。
【0038】
フィルター法で検出されるAQP1は、細胞死によって細胞内から受動的に尿中に移行する分と、細胞によって調節されて能動的に排泄される分の両方の総計を表し、超遠心法で検出されるAQP1は、細胞によって調節されて能動的に排泄される分のみを表していると考えられる。したがって、今回、フィルター法とともに超遠心法によっても有意なAQP1排泄量の減少が認められたことから、急性腎不全早期では、尿中へのAQP1排泄量を積極的に減少させるように細胞が機能している可能性がある。
【表1】
JP0005162751B2_000002t.gif

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、イヌ、ウシ、ヒト、ラットおよびマウスのアクアポリン1のアミノ酸配列を並列して示す図である。
図面
【図1】
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