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明細書 :根茎腐敗病防除剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4501006号 (P4501006)
公開番号 特開2008-120752 (P2008-120752A)
登録日 平成22年4月30日(2010.4.30)
発行日 平成22年7月14日(2010.7.14)
公開日 平成20年5月29日(2008.5.29)
発明の名称または考案の名称 根茎腐敗病防除剤
国際特許分類 A01N  63/00        (2006.01)
A01P   3/00        (2006.01)
C12N   1/14        (2006.01)
FI A01N 63/00 F
A01P 3/00
C12N 1/14 A
請求項の数または発明の数 4
微生物の受託番号 FERM AP-21087
全頁数 8
出願番号 特願2006-308385 (P2006-308385)
出願日 平成18年11月14日(2006.11.14)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年5月15日 日本植物病理学会発行の「平成18年度 日本植物病理学会大会 プログラム・講演要旨予稿集」に発表
審査請求日 平成19年3月22日(2007.3.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
発明者または考案者 【氏名】諸見里 善一
【氏名】田場 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】110000590、【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
【識別番号】100086324、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 信夫
審査官 【審査官】太田 千香子
参考文献・文献 特開平02-212406(JP,A)
特開2006-124337(JP,A)
調査した分野 A01N 63/00
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アスペルギルス・テレウス S-78株(FERM AP-21087)を有効成分とする根茎腐敗病防除剤。
【請求項2】
アスペルギルス・テレウス S-78株(FERM AP-21087)と、ヤシガラを組み合わせてなる根茎腐敗病防除組成物。
【請求項3】
ショウガ科作物育成圃場の土壌に、アスペルギルス・テレウスS-78株(FERM AP-21087)を存在せしめることを特徴とするショウガ科作物の根茎腐敗病防除方法。
【請求項4】
アスペルギルス・テレウス S-78株(FERM AP-21087)。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、根茎腐敗病防除剤およびこれを利用する根茎腐敗病防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガ科作物に対して甚大な被害を生じる病害として、根茎腐敗病菌(Pythium zingiberum Takahashi)による根茎腐敗病が知られており、特にミョウガの被害が著しい。
【0003】
ミョウガは換金性が高く、沖縄県では冬季栽培でも加温が不要でさらに野菜生産が不足する夏季にも収穫可能であることから、県内の作目のうちでも有望種の1つと言える。
【0004】
ミョウガは、昭和62年以前は名護市など沖縄本島北部において一大産地が形成され、栽培面積も拡大し、収穫高も増加した。しかし、連作によりミョウガ根茎腐敗病が発生し、その蔓延により甚大な被害を受けた結果、その栽培は縮小を余儀なくされ、現在、本県における出荷量は最盛期の100分の1にまで減少している。
【0005】
従来、根茎腐敗病に対しては、土壌消毒やメタラキシル粒剤などを用いた防除が行われているが、環境への負荷が指摘され、できるだけ化学農薬に依存しない防除体系の構築が望まれている。本病害においても、トリコデルマ(Trichoderma)や放線菌などの拮抗菌やセルロース分解菌を用いた防除の試みがなされているが(非特許文献1)、土壌への定着性が不安定であり、未だ確立されていない。
【0006】
また近年、ヤシガラを用いた栽培法が行われ、収量が増加し、作業効率も良いことが実証されている。さらに本栽培法では根茎腐敗病抑制効果を有することが知られているが、その抑制機作は未だ不明であった。

【非特許文献1】小倉寛典・吉本均(1984).ミョウガ根茎腐敗病に対する薬剤 および微生物処理.四国植防19:p15-23.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、化学農薬などを利用することなく、ミョウガ等のショウガ科植物に発生する根茎腐敗病を防除する手段の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ヤシガラを用いた栽培法での根茎腐敗病抑制効果に着目し、その理由を調査した結果、ヤシガラに生息する微生物中に、根茎腐敗病菌と拮抗するものが存在し、これにより根茎腐敗病菌の生育が抑制されることを知った。そして更に研究を進めた結果、根茎腐敗病菌と拮抗する微生物を分離し、これが根茎腐敗病防除剤の有効成分として利用可能であること見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、アスペルギルス属またはペニシリウム属に属する根茎腐敗病菌拮抗性微生物を有効成分とする根茎腐敗病防除剤を提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記微生物と、ヤシガラを組み合わせてなる根茎腐敗病防除組成物を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、ショウガ科作物育成圃場の土壌に、アスペルギルス属またはペニシリウム属に属する根茎腐敗病菌拮抗性微生物を存在せしめることを特徴とするショウガ科作物の根茎腐敗病防除方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の根茎腐敗病防除剤ないし根茎腐敗病防除組成物を利用することにより、土壌消毒やメタラキシル粒剤などの化学農薬を使用することなく、ショウガ科作物を根茎腐敗病菌から守ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の根茎腐敗病防除剤の有効成分である微生物は、アスペルギルス属またはペニシリウム属に属し、かつ根茎腐敗病菌に対する拮抗活性を有するものである。
【0014】
このような微生物は、例えば、ミョウガ等のショウガ科作物の生育土壌ないしここで用いるヤシガラから分離取得することが可能である。より詳しくは、上記土壌ないしヤシガラから、ローズベンガル培地等を用い、常法により糸状菌を分離した後、それぞれの根茎腐敗病菌拮抗活性を対峙培養等により調べ、その活性が高いものを選抜することにより目的のアスペルギルス属またはペニシリウム属に属する根茎腐敗病菌拮抗性微生物(以下、「拮抗性微生物」という)を得ることができる。
【0015】
このようにして得られた拮抗性微生物の中でも、アスペルギルス・テレウスに属する微生物が好ましく、特に根茎腐敗病菌拮抗活性の高かった、アスペルギルス・テレウス S-78(Aspergillus terreus S-78)株が好ましい。このものは、平成18年11月13日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)にFERM AP-21087として寄託した。
【0016】
本発明の根茎腐敗病防除剤は、上記した拮抗性微生物を有効成分として利用する以外は、生物農薬の一般的な方法に従って製造することができる。すなわち、微生物を適当な固体担体に吸着ないし付着させるか、あるいは適当な液体担体に懸濁させることにより製造することが出来る。
【0017】
この根茎腐敗病防除剤を、ミョウガ等のショウガ科作物成育圃場で散布するにあたっての量は特に制約はないが、一般的には、圃場1m当たり、拮抗性微生物として10ないし10個程度であり、好ましくは、10ないし1010個程度である。
【0018】
上記した拮抗性微生物の拮抗活性は、特に、固体担体としてヤシガラを選択し、これと組み合わせたときに優れた効果を得ることができる。固体担体としてもちいるヤシガラは、ヤシの実外側の繊維からなる有機質培地であり、ヤシガラ自身のpHと、拮抗性微生物が付着、増殖しやすいという条件により、優れた効果が得られるものと考えられる。
【0019】
このようなヤシガラと拮抗性微生物を組み合わせた根茎腐敗病防除組成物(以下、「組成物」という)は、例えば、ヤシガラ100gにPDA寒天培地10mlで3日間培養した拮抗微生物を添加することにより製造することができる。
【0020】
また得られた組成物のショウガ科作物成育圃場での散布量は、拮抗性微生物量が前記程度となる量でよい。
【実施例】
【0021】
以下実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0022】
実 施 例 1
微生物の分離、取得:
沖縄県農業試験場園芸支場で育成されたミョウガ(Zingiber mioga (Thunb.)Rosc.)を供試植物として用いた。また、供試土壌としては、(1)沖縄県西原町ミョウガ栽培圃場から採取した土壌(ジャーガル 母岩:泥炭岩(クチャ)pH:6.2 以下、「圃場土区」とする)、(2)沖縄県大宜味村の森林から採取した未撹乱の国頭マージ(pH:4.5 以下、「国頭マージ区」とする)を用いた。
【0023】
上記供試土壌を用いた栽培圃場に、ミョウガを植え、その表面に約10kg/mとなる量の市販のヤシガラを敷き、この状態で生育させた。ミョウガを10ヶ月生育させた後、ミョウガ栽培圃場から使用済みヤシガラを回収し、根茎腐敗病が発生した部分のもの(罹病区)と発生しない部分のもの(健全区)に分けた。次いで、この健全区および罹病区のヤシガラの微生物相を、下記のようにして調査した。
【0024】
1)セルロース分解菌の分離
少量のTween 20を含む滅菌水450mlに、ヤシガラ(健全区、罹病区)50gを入れ、5分間攪拌した。この1次希釈液(希釈倍率10倍)を滅菌したピペットで50ml取り、450mlの滅菌水に入れた。以下同様に6次希釈まで作成し、滅菌済シャーレに各段階の希釈液を1ml入れ、これに48℃に保温したセルロース培地((NHSO 0.5g、KHPO 1.0g、MgSO・7HO 0.2g、KCl 0.5g、CaCl 0.1g、酵母エキス 0.5g、寒天 20.0g、セルロースパウダー 10.0g、蒸留水 1,000ml)を9ml分注し、培地が固まった後培地の乾燥を防ぐため水を入れたビーカーとともに密閉容器に入れ、4週間室温で培養した。セルロース分解菌はコロニー周辺のクリアゾーンにより判断し、これを計数した。さらにWA平板培地上に画線培養を行い、単一の菌株を得た。
【0025】
2)セルロース分解菌以外のヤシガラ微生物の分離
セルロース分解菌以外の一般微生物も実験1)と同様に希釈平板法によって分離した。選択培地として、糸状菌用にローズベンガル培地(ペプトン 5g、KHPO 1g、MgSO・7HO 0.5g、ブドウ糖 10g、ローズベンガル 0.033g、寒天 20g、ストレプトマイシン 1ml、蒸留水 1,000 ml)を、細菌と放線菌用にはアルブミン培地(エッグアルブミン 0.25g、ブドウ糖 1g、KHPO 0.5g、MgSO・7HO 0.2g、Fe(SO) 少量、寒天 15g、蒸留水 1,000ml)を用いた。
【0026】
3)糸状菌の同定
実験2)により、ローズベンガル培地に形成されたコロニーの中から無作為に100個をコルクボーラーで打ち抜き、PDA培地上に移植し、室温で1~2週間静置培養を行なった後、胞子形成の認められた菌叢の末端を培地ごと白金線でかきとり、スライドガラス上に載せ、検鏡し、形態的特徴から糸状菌の属レベルでの同定を行った。
【0027】
4)水酸化カリウム(KOH)溶液による細菌のグラム染色性の識別
実験2)でアルブミン培地上に形成されたコロニーの中からランダムに100個ずつ釣菌し、細菌用PSA斜面培地(ジャガイモ煮汁 1,000ml、Ca(NO・4HO 0.5g、NaHPO・4HO 2g、ペプトン 5g、ショ糖 15g、寒天 10g)上でコロニー形成後、3%KOH溶液によるグラム染色性の簡易的識別を行なった。スライドガラス上に3%KOH溶液一滴をおき、斜面培養菌体を1白金耳量取り、よく混ぜた。このとき、グラム陰性菌は菌体が凝集して粘凋となり白金耳で持ち上げると糸を引くのに対し、グラム陽性菌では菌体が均一に分散し、粘性を持たない。この性質の違いからグラム陰性および陽性を簡易的に判定した。
【0028】
実 施 例 2
根茎腐敗病菌に対する拮抗性を有する微生物の選抜
希釈平板法によって分離した糸状菌、細菌および放線菌を用いてPDA培地上で病原菌と簡易対峙培養を行い、拮抗性を検討した。拮抗性を有する微生物について、対峙培養により、さらに強い拮抗性を示す菌株を選抜して阻止率を調査した。簡易対峙培養および対峙培養は、下記のようにして行った。
【0029】
ア)簡易対峙培養
シャーレの両端から1cm離した位置にヤシガラ分離菌を置床し、中央に病原菌を静置して病原菌の菌糸伸長抑止度から拮抗性を調査した。簡易対峙培養で比較的強い拮抗性を示した菌株を選抜し対峙培養を行なった。対峙培養は供試菌を静置した3日後に病原菌を5cm離して静置し、4日後に阻止帯の幅を測定した。拮抗性の強さは、阻止帯の長さで判断した。阻止帯がないものを-、2mm未満を±、2~4mmを+、5~7mmを++、8mm以上を+++とした。この結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
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【0031】
この結果から明らかなように、28種の拮抗性微生物が得られ、特に、阻止帯の幅が8mm以上の強い拮抗性を有するものが5種見出された。
【0032】
イ)対峙培養
簡易対峙培養の結果強い拮抗性を示した種が明らかに異なる菌株を選抜し、菌糸阻止率を調べた。供試菌を静置した3日後に病原菌を5cm離して静置し、翌日に対照区と対峙区の病原菌菌糸伸長を測定し、菌糸伸長阻止率を以下の式で算出した。この結果を表2に示す。
【0033】
菌糸伸長阻止率 = 〔(A-B)/B〕×100
A : 対照区の菌糸伸長
B : 対峙区の菌糸伸長
【0034】
【表2】
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【0035】
なお、ミョウガ根茎腐敗病菌(Pythium zingiberum)は、次のようにして取得した。
ミョウガ栽培中のヤシガラ(健全区および罹病区)30gまたは罹病株根を60mlの滅菌水に入れ、室温で一晩静置した。懸濁液の上澄み部分に0.5%ハイター(有効成分:次亜塩素酸ナトリウム)で表面殺菌し、5分水洗した。その後これに10分間風乾したパイナップルの幼葉を入れ、2~3日後その基部が水浸状になったのを確認して取り出し、5×5mmに切り取った。この切片を1%ハイターで2分間殺菌後、滅菌水で3分間洗浄し、滅菌濾紙を敷いたガラスシャーレ内に置き十分に風乾し、素寒天培地(寒天10g、蒸留水1,000ml)に置床し、室温で静置培養した。
【0036】
翌日、パイナップル組織切片から培地に伸長した菌糸を顕微鏡観察し、菌糸に隔壁を欠き、さらに胞子のうや、Vegetative Hyphal Body(VHB)が観察された菌糸を選別し、その先端部をV8ジュース寒天培地(V8ジュース 200ml,CaCO 3g,寒天 10g,蒸留水 1,000ml)に移植し、室温で静置培養した。さらに形成された菌叢を直径3mmのコルクボーラーで打ち抜き、ミョウガの花蕾に付傷または無傷接種し、水を張った中敷付密閉容器内に過湿状態で静置し、発病の有無により病原性を確認した。
【0037】
実 施 例 3
培養ポットにおける発病抑制効果試験
対峙培養で高い拮抗性を示した4種の菌株(Aspergillus sp.S-78, Aspergillus sp.S-82, Aspergillus sp.S-100およびPenicillium sp.S-70株)を用い、培養ポットで発病抑制効果試験を行なった。処理区は以下の計8区を設けた。なお、薬剤は、15kg/10a換算(農薬登録量)で混和したヤシガラ、微生物は、PDA寒天培地10mlで3日間培養した培養物100g/kgヤシガラとした。
【0038】
(1) 圃場土区(ジャーガル、pH 6.2)
(2) 国頭マージ区(pH 4.5)
(3) ヤシガラのみ(対照)区
(4) ヤシガラ+薬剤区(商品名:リドミル粒剤2、成分:メタラキシル、
シンジェンタジャパン株式会社)
(5) ヤシガラ+アスペルギルス エスピー S-78区
(6) ヤシガラ+アスペルギルス エスピー S-82区
(7) ヤシガラ+アスペルギルス エスピー S-100区
(8) ヤシガラ+ペニシリウム エスピー S-70区
【0039】
実験方法は、培養ポットに10mlのPDAを分注し、これをオートクレーブ中、120℃で20分間加圧滅菌し、ミョウガ根茎腐敗病菌を3日間培養し、全面菌糸が覆った状態にした。拮抗菌処理区では、PDA平板培地10mlで前培養した4種拮抗菌の含菌寒天を水分量75%に調節したヤシガラに加え良く攪拌し、培養したポット内のミョウガ根茎腐敗病菌の上に5cmの高さになるように敷き詰めた。さらにその上部に2%次亜塩素酸で表面殺菌したミョウガ花蕾をのせ、その後の菌糸の上部への伸長および花蕾の発病率を調べた。圃場土(ジャーガル)、国頭マージ、薬剤およびヤシガラのみ(対照区)についても同様に行なった。この結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
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【0041】
この結果から明らかなように、アスペルギルス エスピー S-78株とヤシガラを用いた場合は、メタラキシルとヤシガラを用いたものとほぼ同様なミョウガ根茎腐敗病菌防除効果が得られた。このアスペルギルス エスピー S-78株の種の同定を行ったところ、形態的特徴からアスペルギルス テレウス(Aspergillus terreus)群に属する種と同定した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、化学薬剤を用いることなく、根茎腐敗病菌の防除が可能となる。
【0043】
従って本発明は、ミョウガ等のショウガ科植物の栽培において、生物防除剤、土壌改良材等として広く利用可能なものである。