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明細書 :p53癌抑制蛋白との結合に関与するC型肝炎ウイルス非構造蛋白NS3のアミノ酸残基の同定と、医薬開発への利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4565180号 (P4565180)
公開番号 特開2006-075038 (P2006-075038A)
登録日 平成22年8月13日(2010.8.13)
発行日 平成22年10月20日(2010.10.20)
公開日 平成18年3月23日(2006.3.23)
発明の名称または考案の名称 p53癌抑制蛋白との結合に関与するC型肝炎ウイルス非構造蛋白NS3のアミノ酸残基の同定と、医薬開発への利用
国際特許分類 C12Q   1/37        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/37 ZNA
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 21
出願番号 特願2004-260736 (P2004-260736)
出願日 平成16年9月8日(2004.9.8)
審査請求日 平成19年7月24日(2007.7.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】堀田 博
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100108084、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 睦子
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 神戸大学医学部紀要, 2002, Vol.63, No.1/2, p.23-31
調査した分野 C12N 15/00-15/90

CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
C型肝炎ウイルスによる肝炎もしくは肝癌の治療または発症予防に使用される医薬のスクリーニング方法であって、C型肝炎ウイルスの非構造蛋白NS3のアミノ末端領域における
(i)第43番目のフェニルアラニンと相互作用し、当該第43番目のフェニルアラニンを含む結合関与領域と結合する物質
(ii)第106番目のロイシンと相互作用し、当該第106番目のロイシンを含む結合関与領域と結合する物質、又は
(iii)第138番目のセリンと相互作用し、当該第138番目のセリンを含む結合関与領域と結合する物質
を探索することを特徴とし、
前記NS3のアミノ末端領域は配列番号1のアミノ酸配列からなり、
前記結合関与領域が、NS3のアミノ末端領域における30から80のアミノ酸残基である、
スクリーニング方法。
【請求項2】
C型肝炎ウイルスによる肝炎もしくは肝癌の治療または発症予防に使用される医薬のスクリーニング方法であって、
C型肝炎ウイルスの非構造蛋白NS3のアミノ末端の領域における第138番目のセリンをプロリンに置換したNS3変異蛋白を作製し、当該変異蛋白とp53蛋白との結合を阻害する物質を探索することを特徴とし、
前記NS3のアミノ末端領域は配列番号1のアミノ酸配列からなる、
スクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎ウイルス非構造蛋白(増殖関連多機能蛋白)NS3のアミノ末端領域においてp53癌抑制蛋白との結合に関与する重要なアミノ酸残基を同定することにより、その知見を医薬開発に応用する技術に関し、特に、C型肝炎治療薬あるいはC型肝癌発症予防薬といった医薬開発に用いる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラビウイルス科に属するC型肝炎ウイルス(以下、「HCV」と略記する場合がある)は、慢性肝疾患の主要な原因ウイルスであり、感染者の15~20%に肝硬変をおこす。そして、肝硬変患者では年率1~4%の割合で原発性肝細胞癌が発生し、我が国では、C型肝炎ウイルス感染者の約30%が確実に肝細胞癌になると推測されている。
【0003】
HCVのゲノム(遺伝子)は1本鎖プラス鎖のRNAで、約9600塩基で構成されており、約3000のアミノ酸をコードしている。この前駆体蛋白は宿主細胞のシグナルペプチダーゼとウイルスがコードする2種類のプロテアーゼによって開裂を受け、コア、エンベロープ1(E1)、E2、p7、非構造蛋白2(NS2)、NS3、NS4A、NS4B、NS5AおよびNS5Bの10種類のウイルス蛋白を生じる。
【0004】
図14は、HCV粒子、HCV遺伝子、およびHCV蛋白を模式的に示したものである。同図に示すように、HCV粒子は、ウイルス遺伝子RNAと3種類の構造蛋白(C(コアタンパク質)、E1タンパク質およびE2タンパク質)からなる。HCV遺伝子は約9600塩基のRNAからなり、一つの大きなオープンリーディングフレームがある。そのオープンリーディングフレームは約3000アミノ酸残基からなる前駆体蛋白をコードしている。この前駆体蛋白は、宿主細胞のシグナルペプチダーゼとウイルス固有の2種類のプロテアーゼ(HCV亜鉛プロテアーゼおよびHCVセリンプロテアーゼ)によりプロセシングされ、少なくとも上記10種類の成熟ウイルス蛋白を生じる。NS3を含め、NS2~NS5Bはウイルス粒子を構成しないが、ウイルス増殖には必須の非構造蛋白である。
【0005】
HCVのゲノムは変異に富んでおり、それに基づいてHCVは6種類のゲノタイプと60種類以上のサブタイプに分類されている。サブタイプ1b(HCV-1b)は日本を含むアジア地域で最も頻度の高いサブタイプで、アジア以外でも、欧米を含む世界中どこにでも多く検出される。一般的に、HCV-1bは他のサブタイプに比べてインターフェロン感受性が低く、また、肝細胞癌をおこしやすいことが知られている。
【0006】
一方、ゲノタイプやサブタイプに関連する差異以外に、同じサブタイプ内でもウイルス株によって様々な性質の違いがあることも観察されている。例えば、HCV-1bのNS5Aのアミノ酸配列の違いによってインターフェロン感受性や血中ウイルス量の異なることが報告されている。また、本発明者は以前、NS3のアミノ末端領域の二次構造の多様性と肝細胞癌発症危険性がよく相関することを、多数の臨床検体を用いて明らかにした(下記の非特許文献1・2参照)。
【0007】
NS3は、そのアミノ末端領域にセリンプロテアーゼを、また、カルボキシル末端にヌクレオシド3リン酸加水分解酵素(NTPase)やヘリカーゼをコードしている。NS3は、RNA依存性RNAポリメラーゼであるNS5Bを中心としたウイルス遺伝子複製装置の一部を構成し、ヘリカーゼ機能によるRNAの巻き戻しを介してウイルス遺伝子の複製に関与するとともに、セリンプロテアーゼ機能による前駆体蛋白のプロセシングを担う。すなわち、NS3は、ウイルス増殖に必須の多機能蛋白である。
【0008】
NS3のアミノ末端領域はNS4Aと結合し、そのことを介してNS3が安定化され、そのセリンプロテアーゼ活性が亢進される。そのようなウイルス増殖に不可欠な酵素活性以外に、NS3は肝細胞癌の発生に関わっていると考えられる。例えば、NS3のアミノ末端領域が種々の培養細胞(マウスやラットの線維芽細胞、ヒト肝細胞など)を悪性形質転換(癌化)させることが報告されている(下記の非特許文献3・4参照)。
【0009】
また、本発明者もこれまでに、NS3がマウス線維芽細胞(NIH3T3細胞)にアクチノマイシンD誘導性アポトーシスに対する抵抗性を付与すること(下記の非特許文献5参照)、さらに、NS3のアミノ末端領域180残基がp53癌抑制蛋白と相互作用すること、及びその相互作用はNS3アミノ末端領域の配列によって異なることを観察している(下記の非特許文献6~8参照)。
【0010】

【非特許文献1】Ogata, S., Y. Ku, S. Yoon, S. Makino, M. Nagano-Fujii, and H. Hotta. 2002. Correlation between secondary structure of an amino-terminal portion of the nonstructural protein 3 (NS3) of hepatitis C virus and development of hepatocellular carcinoma. Microbiol. Immunol. 46:549-554.
【非特許文献2】Ogata, S., R. H. Florese, M. Nagano-Fujii, R. Hidajat, L. Deng, Y.,Ku, S. Yoon, T. Saito, S. Kawata, and H. Hotta. 2003. Identification of hepatitis C virus (HCV) subtype 1b strains that are highly, or only weakly, associated with hepatocellular carcinoma on the basis of the secondary structure of an amino-terminal portion of the HCV NS3 protein. J. Clin. Microbiol. 41:2835-2841.
【非特許文献3】Sakamuro, D., T. Furukawa, and T. Takegami. 1995. Hepatitis C virus nonstructural protein NS3 transforms NIH 3T3 cells. J. Virol. 69:3893-3896.
【非特許文献4】He, Q. Q., R. X. Cheng, Y. Sun, D. Y. Feng, Z. C. Chen, and H. Zeng. 2003. Hepatocyte transformation and tumor development induced by hepatitis C virus NS3 C-terminal deleted protein. World J. Gastroenterol. 9:474-478.
【非特許文献5】Fujita, T., S. Ishido, S. Muramatsu, M. Itoh, and H. Hotta. 1996. Suppression of actinomycin D-induced apoptosis by the NS3 protein of hepatitis C virus. Biochem. Biophys. Res. Commun. 229:825-831.
【非特許文献6】Ishido, S., and H. Hotta. 1998. Complex formation of the nonstructural protein 3 of hepatitis C virus with the p53 tumor suppressor. FEBS Lett. 438:258-262.
【非特許文献7】Ishido, S., T. Fujita, and H. Hotta. 2000. Possible involvement of the NS3 protein of hepatitis C virus in hepatocarcinogenesis: Its interaction with the p53 tumor suppressor, p. 37-55. In N. A. Habib, (ed.), Hepatocellular Carcinoma: Methods and Protocols. Humana Press, Totowa, NJ.
【非特許文献8】Muramatsu, S., S. Ishido, T, Fujita, M. Itoh, and H. Hotta. 1997. Nuclear localization of the NS3 protein of hepatitis C virus and factors affecting the localization. J. Virol. 71:4954-4961.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、HCV非構造蛋白NS3のアミノ末端領域はセリンプロテアーゼ活性を有し、ウイルス前駆体蛋白のプロセシング、ひいてはウイルス増殖に必須の役割を担っている。一方、NS3アミノ末端領域は癌抑制蛋白p53と結合することを本発明者はこれまでに明らかにした。さらに、本発明者は、NS3アミノ末端領域の二次構造の多様性と肝細胞癌発症危険性がよく相関することを臨床的に明らかにした。これらの結果はHCV発癌におけるNS3の重要性を強く支持するものである。
【0012】
しかしながら、NS3アミノ末端領域のうち、どのアミノ酸がp53癌抑制蛋白との結合に重要であるかは不明であった。またこれまでに、NS3のセリンプロテアーゼ活性を阻害するNS3インヒビターとしていくつかの物質が提案されているが、NS3とp53との結合を阻害する物質については知られておらず、このような物質をHCVによる発癌の予防、治療などに利用する提案もなされていなかった。
【0013】
本発明は、上記の事情に着目してなされたものであって、その目的は、NS3アミノ末端領域においてp53との結合に関与する重要なアミノ酸残基を同定することにより、その知見を利用した新規医薬のスクリーニング方法を提供すること、特に、C型肝炎治療薬あるいはC型肝癌発症予防薬といった医薬開発に利用可能なスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題に鑑み、NS3のアミノ末端領域のうち、どのアミノ酸がp53癌抑制蛋白との相互作用に関与しているかについて検討した。その結果、p53との結合に影響を与える複数のアミノ酸残基を同定した。これらアミノ酸残基のうち第106番目のロイシンがp53との結合に最も重要な役割を担っていると考えられる。また、これらアミノ酸残基を置換するとNS3のセリンプロテアーゼ活性も変化し、両者の間に相関が認められた。以上の知見から、これらアミノ酸残基と相互作用する物質を探索することによって、HCVによる発癌を抑制し、さらには、HCVの増殖をも抑制し得る薬剤の開発に利用できること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明のスクリーニング方法は、C型肝炎ウイルスによる肝炎もしくは肝癌の治療または発症予防に使用される医薬のスクリーニング方法であって、C型肝炎ウイルスの非構造蛋白NS3とp53癌抑制蛋白との結合を阻害する物質を探索し、あるいはさらに当該結合阻害物質の中からNS3セリンプロテアーゼ活性を阻害する物質を探索することを特徴としている。
【0016】
ここで結合阻害物質は、NS3とp53との結合を完全に阻害するものでなくてもよく、NS3とp53との結合を有意に低下させるものであればよい。具体的なスクリーニング方法としては、後述の各種バインディングアッセイやインシリコ・スクリーニング等を挙げることができる。
【0017】
本発明のスクリーニング方法において、NS3アミノ末端領域内の、p53との結合に影響を与えるアミノ酸残基を同定し、当該アミノ酸残基を含む結合関与領域と結合する物質を探索することは好ましい方法である。解析の結果、NS3アミノ末端領域における第106番目のロイシンは、p53との結合に重要な役割を担っており、さらに、NS3のプロテアーゼ活性にも影響を与える部位であることを見出している。したがって、第106番目のロイシンを含む結合関与領域と結合する物質を探索することは好ましい方法である。
【0018】
また後述のように、NS3のアミノ末端領域における第43番目のフェニルアラニン、第158番目のバリン、および第138番目のセリンも、NS3とp53との結合に影響を与える部位であることを見出した。したがって、本発明のスクリーニング方法の一態様として、これらいずれかのアミノ酸残基を含む結合関与領域と結合する物質を探索する方法を採用してもよい。このとき、結合関与領域として30~80個程度のアミノ酸残基からなるNS3アミノ末端領域内のペプチドを発現させ、当該ペプチドとp53との結合阻害物質を探索することは好ましい方法である。
【0019】
NS3のアミノ末端領域における第138番目のセリンをプロリンに置換したNS3変異蛋白では、野生型よりも強くp53蛋白と結合することが実験により認められた。このようにp53蛋白とより強く結合するNS3変異蛋白を使用して、当該変異蛋白とp53蛋白との結合を阻害する物質を探索する方法は、より強い結合阻害剤が得られる可能性があるので、本発明のスクリーニング方法として好ましい方法の一つである。
【発明の効果】
【0020】
NS3とp53癌抑制蛋白との結合を阻害する物質は、p53癌抑制蛋白の本来の作用を維持させることによって、HCVによる発癌(原発性肝細胞癌)の予防や治療に有用と考えられる。本発明のスクリーニング方法は、このような結合阻害物質を探索することによって、癌の予防や治療に有用な薬剤の開発に利用することができる。
【0021】
特に、NS3アミノ末端領域におけるp53との結合に影響を与えるアミノ酸残基に着目して、当該アミノ酸残基を含む結合関与領域と結合する物質を探索することによって、効率の良い結合阻害物質の探索が可能である。
【0022】
また、p53との結合に影響を与える部位として同定された第106番目のロイシン等は、NS3のプロテアーゼ活性にも影響を与え、同部位に変異を導入するとHCVの増殖に重要なNS3のプロテアーゼ活性は抑制された。したがって、第106番目のロイシン等と相互作用する物質は、HCVの増殖を抑制し、C型肝炎の治療薬として利用できる可能性がある。さらにこのことは、本発明のスクリーニング方法により第106番目のロイシン等と相互作用する物質を探索することによって、p53結合阻害作用と同時にHCV増殖抑制作用を示し、発癌防止およびC型肝炎治療の双方に効果が期待されるHCV治療薬の開発が可能であることを意味する。本発明は、このようなHCVに対する新たなタイプの治療薬のスクリーニング方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の具体的態様等について更に詳しく説明する。なお、塩基およびアミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0024】
本発明者は、前述のように、NS3アミノ末端領域のうち、いずれのアミノ酸がp53との結合に重要な役割を担っているかについて解析した。ここでNS3アミノ末端領域とはNS3のアミノ末端側の領域をいうが、特に解析対象としたNS3アミノ末端領域は、下記1~198番目のアミノ酸配列領域である。
【0025】
APITAYSQQTRGLLGCIITSLTGRDKNQVEGEVQVVSTATQSFLATCINGVCWTVYHGAGSKTLAGPKGPITQMYTNVDQDLVGWPAPPGARSMTPCTCGSSDLYLVTRHADVIPVRRRGDSRGSLLSPRPISYLKGSSGGPLLCPSGHVVGIFRAAVCTRGVAKAVDFVPVESMETTMRSPVFTDNSTPPAVPQSFQ
【0026】
配列表の配列番号1においても、上記1~198番目のアミノ酸配列を示す。この1~198番目のアミノ酸配列は、HCV遺伝子がコードする全アミノ酸配列のうち1027番目から1224番目までのアミノ酸配列に相当する。
【0027】
免疫共沈法、二重染色法などを用いた解析の結果、上記1~198番目のアミノ酸配列中、p53との結合に影響を与える複数のアミノ酸残基を同定した。さらに、これらのアミノ酸残基がNS3のセリンプロテアーゼ活性に影響を及ぼすかどうかについても検討した。
【0028】
詳細は後述するが、上記1~198番目のアミノ酸配列中、43位のフェニルアラニン(Phe)、106位のロイシン(Leu)、158位のバリン(Val)をアラニン(Ala)に変異させると、いずれの場合にもp53との結合は著しく抑制された。したがって、これら3つの部位はp53との結合に重要と考えられる。また、180アミノ酸に点変異を導入した解析の結果、上記3つの部位のうち、106位のロイシン(Leu)がp53との結合に最も重要な役割を担っており、次いで43位のフェニルアラニン(Phe)がp53との結合に重要であると認められた。
【0029】
他方、138位のセリン(Ser)をプロリン(Pro)に変異させると、p53結合性は逆に増加した。即ち、138位のセリンはp53との結合に影響を与え、138位のセリンを置換すると、NS3とp53とはより結合しやすくなる。
【0030】
さらに、p53との結合に影響を与える上記複数のアミノ酸残基について、NS3のセリンプロテアーゼ活性への影響を調べた結果、106位のロイシン、43位のフェニルアラニンをアラニンに変異させると、いずれもプロテアーゼ活性が著しく減少し、両変異を導入すると、さらにプロテアーゼ活性は減弱した。同様に、138位のセリンをプロリンに変異させた場合にも、NS3のセリンプロテアーゼ活性は著しく減少した。
【0031】
このように、106位のロイシンは、p53との結合性およびセリンプロテアーゼ活性の双方に重要であり、同部位をアラニンに置換すると、p53結合性およびセリンプロテアーゼ活性は著しく減少した。そこでNS3の立体構造を検討したところ、106位のロイシンは、セリンプロテアーゼの活性中心を構成するアミノ酸の一つである139位のセリン(Ser)と空間的に非常に近い部位に位置することがわかった。
【0032】
前述のように、NS3とp53との結合を阻害する物質は、p53癌抑制蛋白の本来の作用を維持させることによって、HCVによる発癌(原発性肝細胞癌)を防止する治療薬となりうる。そして、p53との結合に影響を与える上記106位のロイシン等のアミノ酸残基は、治療薬開発の重要なターゲットとなりうる。また、これらのアミノ酸残基はNS3のセリンプロテアーゼ活性にも影響を及ぼすため、HCVの増殖を抑制するC型肝炎治療薬のターゲットともなりうる。このことは、上記106位のロイシン等のアミノ酸残基に着目して当該アミノ酸残基と相互作用する物質を探索することによって、p53結合阻害作用と同時にHCV増殖抑制作用を示し、発癌防止およびC型肝炎治療の双方に効果が期待されるHCV治療薬の開発が可能であることを意味する。本発明は、このようなHCVに対する新たなタイプの治療薬のスクリーニング方法を提供するものである。
【0033】
スクリーニング方法としては、例えばターゲットとなる上記106位のロイシンを含む領域と相互作用する物質を探索する。このような物質は、NS3とp53との結合を阻害する物質として有望である。同様に、43位のフェニルアラニン、158位のバリン、あるいは138位のセリンを含む領域と相互作用する物質を探索することによって、HCVによる肝炎もしくは肝癌の治療薬を効率良く取得できる可能性が高い。
【0034】
上記スクリーニング方法としては、物質間の結合の有無や蛋白質の局在・活性変化等を調べる従来公知の種々の方法を適用することができ、特に限定されるものではない。また、本発明以降に新たに開発されたスクリーニング方法を使用するものであってもよい。in vitro及びin vivoスクリーニング系のいずれであってもよいし、cell-free systemでスクリーニングを行ってもよい。また、p53遺伝子・蛋白は、ヒト由来のもののほか、マウス、ラットその他の動物由来のものを使用してもよい。勿論、NS3アミノ末端領域の高次構造の情報を利用してスクリーニングを行ってもよい。
【0035】
NS3アミノ末端領域の高次構造については、例えば下記文献A・Bに報告されている。
文献A:Kim, J. L., K. A. Morgenstern, C. Lin, T. Fox, M. D. Dwyer, J. A. Landro, S. P. Chambers, W. Markland, C. A. Lepre, E. T. O'Malley, S. L. Harbeson, C. M. Rice, M. A. Murcko, P. R. Caron, and J. A. Thomson. 1996. Crystal structure of the hepatitis C virus NS3 protease domain complexed with a synthetic NS4A cofactor peptide. Cell 87:343-355.
文献B:Love, R. A., H. E. Parge, J. A. Wickersham, Z. Hostomsky, N. Habuka, E. W. Moomaw, T. Adachi, and Z. Hostomska. 1996. The crystal structure of hepatitis C virus NS3 proteinase reveals a trypsin-like fold and a structural zinc binding site. Cell 87:331-342.
【0036】
これら既存のNS3アミノ末端領域の立体構造に関する情報、または本発明以降に開示された立体構造情報をもとに、上記106位のロイシン近傍の構造とよく結合し得る構造の低分子化合物(またはペプチド、RNA等)を探索・分子設計することによって、SBDD(Structure Based Drug Design)による治療薬のスクリーニングが可能である。
【0037】
勿論、このようなインシリコ・スクリーニング法のほかに、既存の各種バインディングアッセイを使用して、NS3とp53との結合阻害物質を探索してもよい。例えば、本発明者は、後述の実施例に示すように、様々な長さのNS3アミノ末端領域とp53とをHeLa細胞において共発現させる系を確立しており、この系を用いてNS3とp53との結合阻害を測定することができる。NS3アミノ末端領域1~198番目のアミノ酸配列をコードするcDNAは、例えば下記の配列情報をもとに調製することができ、これを発現ベクターに組み込み宿主に発現させることにより、当該アミノ酸配列からなる蛋白質を得ることができる。
【0038】
NS3アミノ末端領域1~198番目のアミノ酸配列をコードするcDNA配列
GCGCCCATCACGGCCTACTCCCAACAGACGCGGGGCCTACTTGGTTGCATCATCACTAGCCTCACAGGCCGGGACAAGAACCAGGTCGAGGGGGAGGTTCAGGTGGTTTCCACCGCAACACAATCTTTCCTGGCGACCTGTATCAACGGCGTGTGTTGGACTGTCTATCATGGTGCCGGCTCAAAGACCCTAGCTGGCCCAAAAGGCCCAATCACCCAAATGTACACCAATGTAGACCAAGACCTCGTTGGCTGGCcGGCGCCCCCTGGGGCGCGTTCCATGACACCATGCACCTGCGGCAGCTCGGACCTTTACTTGGTCACGAGACATGCTGATGTCATTCCGGTGCGCCGGCGGGGCGACAGCAGGGGGAGCCTCCTCTCCCCCcGGCCCATCTCCTACCTGAAGGGTTCCTCGGGTGGTCCGCTGCTTTGCCCCTCGGGCCATGTTGTGGGCATCTTCCGGGCTGCTGTGTGCACCCGGGGGGTTGCGAAGGCGGTAGACTTTGTGCCCGTTGAGTCTATGGAAACCACTATGCGGTCTCCGGTCTTCACGGATAACTCAACCCCCCCGGCCGTACCGCAGTCATTCCAA
【0039】
配列表の配列番号2・3にも上記塩基配列を示す。上記塩基配列をもとに、より短い長さのNS3アミノ末端領域を作製し、あるいは、さらにエピトープタグで標識したものを作製し、これを材料に、p53との結合を阻害する物質をスクリーニングする。例えば上記106位のロイシンを含む30~80個程度のアミノ酸からなる断片を作製し、当該断片をp53との結合関与領域としてスクリーニングに使用することは好ましい。同様に、43位のフェニルアラニン、158位のバリン、または138位のセリンを含む30~80個程度のアミノ酸からなる断片を作製し、当該断片をp53との結合関与領域としてスクリーニングを行ってもよい。
【0040】
上記の結合測定系においては、後述のように、結合阻害の有無を免疫沈降—免疫ブロット法により検出することができるが、他の方法を用いてもよい。例えば、阻害剤のマススクリーニングに向けて98 wellまたは384 wellのマイクロタイタープレート等にNS3アミノ末端領域を固定し、それとp53との結合阻害の有無を酵素、蛍光色素あるいは放射性同位元素で標識した抗体によって検出する系を確立することも可能である。
【0041】
このような試験管内反応系(cell-free system)によるスクリーニングの一例について説明すると、まず、上記106位のロイシン、43位のフェニルアラニン、158位のバリン、または138位のセリンを含む30~80個程度のアミノ酸からなるNS3アミノ末端領域の断片(結合関与領域)を、HeLa細胞や大腸菌などで発現させることによって調製する。p53も発現ベクターを用いて同様に調製できるが、p53は、Myc、HA、FLAG等のタグでエピトープ標識したものを調製するとよい。
【0042】
次に、上記断片(結合関与領域)をウエル底面に固着し、タグをつけたp53と被検物質とを混ぜてウエルに入れる。もし被検物質がp53と上記NS3断片との結合を阻害するものであれば、洗浄後、抗タグ抗体ではp53は検出されない。一方、もし被検物質がp53とNS3断片との結合に関与しないものであれば、洗浄後、抗タグ抗体によりp53が検出される。このように、p53の検出の有無により、p53と上記NS3断片との結合を阻害する物質を検索することができる。この方法では、96ウエルプレートとロボット分注機を使えばかなりのハイスループット化も期待できる。
【0043】
このような方法を用いて、合成ペプチドライブラリー、微生物代謝産物ライブラリーや天然化合物ライブラリー等をスクリーニングし、NS3とp53との結合を阻害する物質を探索するとよい。さらに、得られた結合阻害物質について、NS3セリンプロテアーゼの活性をも阻害するか、常法により検討するとよい。例えば、当該プロテアーゼ活性により開裂を受け、生成されるタンパク質の有無を抗体により検出する方法によって、プロテアーゼ活性阻害の有無を調査することができる。このような本発明のスクリーニング方法によって、NS3とp53との結合を阻害すると同時にNS3セリンプロテアーゼ活性をも阻害し、発癌防止およびC型肝炎治療の双方に効果が期待されるHCV治療薬の開発が可能になる。
【0044】
後述の実施例に示すように、NS3アミノ末端領域における第138番目のセリンをプロリンに置換したNS3変異蛋白は、野生型よりも強くp53蛋白と結合した。そこで本発明のスクリーニング方法において、p53蛋白とより強く結合する上記NS3変異蛋白を使用して、当該変異蛋白とp53蛋白との結合を阻害する物質を探索する方法は、より強い結合阻害剤が得られる可能性が高く、好ましい方法の一つである。また、上記NS3変異蛋白以外に、点変異を導入したその他種々のNS3変異蛋白(後述の実施例参照)についても、比較実験での利用を含め、本発明のスクリーニング方法において有用である。
【0045】
勿論、本発明のスクリーニング方法は、前記の方法に限定されるものではなく、これとは異なる種々の方法が適用可能である。例えば、前記の方法は、試験管内反応系(cell-free system)でのスクリーニング方法であったが、培養細胞等を用いて細胞内でスクリーニングを行ってもよい。一例として、二重染色法(後述の実施例参照)により、細胞内でのNS3アミノ末端領域とp53との共局在の有無を調べることによって、被検物質による結合阻害の有無を調査してもよい。
【0046】
さらに、酵母two-hybrid法を用いて、NS3とp53との結合を検出することも可能であり、この系により酵母細胞を使って結合阻害剤をスクリーニングすることができる。酵母two-hybrid法については、例えば、文献「Gyuris, J., E. A. Golemis, H. Chertkov, and R. Brent. 1993. Cdi1, a human G1- and S-phase protein phosphatase that associates with Cdk2. Cell 75:791-803.」記載の方法を挙げることができる。そのほか、(1)上記106位のロイシンを含むNS3アミノ末端領域をカラムに固定してこれと結合する物質を探索する方法、(2)表面プラズモン共鳴を応用した生体分子結合活性測定装置(BIACORE)でp53とNS3との結合を検出し、この系により結合阻害剤をスクリーニングする方法など、物質間の結合の有無や解離の有無を調べる従来公知の種々の方法を本発明のスクリーニング方法に適用可能である。
【実施例】
【0047】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(1)様々な長さのNS3アミノ末端領域を発現する発現プラスミドの作製
図1の最上段に模式的に示すように、HCVのNS3領域は、631アミノ酸からなる。本実施例においては、NS3アミノ末端領域の198残基に着目し、この198残基のうち、いずれのアミノ酸残基がp53との結合に重要であるかについて検討した。
【0049】
そのためまず、NS3アミノ末端領域の198残基、及びそれより短い種々の長さのNS3アミノ末端領域をコードするcDNAを調製した(図1参照)。図中の数字はアミノ酸残基の位置を示す。例えば、上から5番目のcDNAは、31~198番目のアミノ酸配列をコードする。NS3アミノ末端領域の1~198番目のアミノ酸配列は、HCV遺伝子がコードする全アミノ酸配列において1027~1224番目に相当する。図1の右側かっこ内の数字は、各cDNAによってコードされるアミノ酸配列が、HCVの全アミノ酸配列において何番目から何番目までに相当するかを示したものである。
【0050】
NS3アミノ末端領域の198残基をコードするcDNAの配列は、配列表の配列番号2・3に示すとおりである。
【0051】
上記のように調製した各種cDNAをpcDNA3.1発現プラスミドに組み込むことで、様々な長さのNS3アミノ末端領域を発現する発現プラスミドを作製した。また、これらcDNAに点変異を導入した点突然変異体をコードするcDNA、および種々の長さのNS3アミノ末端領域とglutathione S- transferase(GST)との融合蛋白をコードするcDNAを調製し、これらcDNAをpcDNA3.1発現プラスミドに組み込んだ。点突然変異体cDNAの作製は、常法によりin vitro mutagenesis kitを用いて行った。図1の上から8番目以降は、GSTとの融合蛋白を発現させたものである。
【0052】
p53の発現には、pcDNA3.1ベクターに全長p53 cDNAを組み込んだ発現プラスミドを使用した。
【0053】
(2)培養細胞におけるNS3とp53の結合の検討
ワクチニアウイルスT7ハイブリッド発現法を用いて、上記各種NS3アミノ末端領域とp53をHeLa細胞に発現させ、細胞抽出液を得た。その細胞抽出液について、特異抗体を用いた免疫共沈法と、それに引き続くウエスタンブロット法により、両蛋白の結合の有無を調べた。
【0054】
(3)NS3とp53の細胞内共局在の検討
上記と同様に各種NS3アミノ末端領域とp53をHeLa細胞に発現させ、特異抗体を用いた二重染色間接蛍光抗体法により、両蛋白の細胞内共局在について検討した。
【0055】
(4)NS3のセリンプロテアーゼ活性の測定
NS3と、その基質であるHCVのNS5A-NS5Bポリ蛋白を同時にHeLa細胞に発現させ、その細胞抽出液について、抗NS5A抗体を用いたウエスタンブロット法により、NS5A-NS5Bポリ蛋白の開裂を指標にして、NS3のセリンプロテアーゼ活性を測定した。
【0056】
(5)p53との結合に関与するNS3の最小領域とアミノ酸残基の同定
図2は、特異抗体を用いた免疫共沈法と、それに引き続くウエスタンブロット法により、上記各種NS3アミノ末端領域とp53との結合の有無を調べた結果である。レーン1~3は、NS3アミノ末端領域1~198番目のアミノ酸を発現させた試料(以下、便宜上「aa1~198」という。他も同様である。)、レーン4~9はそれぞれ、aa1~180、aa1~120、aa1~90、aa31~198、aa61~198、aa91~198を発現させた試料である。図中上段には、免疫沈降に用いた特異抗体を示す。レーン1の試料にはウサギから得た抗IgG抗体を使用し、それ以外にはウサギから得た抗p53抗体を使用した。レーン2以外の試料は宿主細胞にp53を共発現させたものであり、レーン2はベクター(pcDNA)のみ細胞に導入したものである。「Ly」「Ip」はそれぞれ、細胞抽出液、免疫沈降物に対するウエスタンブロットの結果を示す(以下の図も同様である)。「p53」の検出には抗p53抗体を使用した。また、本実験は、Mycペプチド標識NS3を発現させて行ったため、「NS3」の検出には抗Myc抗体を使用した。
【0057】
同図に示される結果から、aa1~120にp53結合領域が存在することが分かった(レーン5)。aa91~198にも弱い結合領域が存在した(レーン9)。また、p53結合領域はNS4A結合領域(aa1~30)以外の領域に存在すること、即ち、NS4A結合領域を除く168残基(aa31~198)がp53と結合することが分かった(レーン7)。
【0058】
次いで、上記168残基を3つの断片(aa31~90、aa61~130、aa121~198)に分けて発現させたところ、いずれの断片もp53と結合したため、それぞれについて、さらに欠失変異体を作製して検討した。
【0059】
図3は、aa31~90においてp53との結合に重要な部位を検討した結果である。レーン2~6はそれぞれ、aa31~90、aa41~90、aa46~90、aa51~90、aa61~90をGST融合蛋白として発現させた試料である。「GST-NS3」の検出には抗GST抗体を使用した。
【0060】
同図に示される結果から、aa41~90はp53と結合するが(レーン3)、aa46~90は結合しないことが分かった(レーン4)。このことは、p53との結合に重要なアミノ酸はaa41~45に存在する可能性を示している。そこで、それぞれのアミノ酸をアラニン(Ala)に置換した変異体を作製し、p53との結合を調べた。
【0061】
その結果、図4に示すように、43位のフェニルアラニン(Phe)をアラニンに変異させると、p53との結合が著しく減弱することが分かった(レーン5:F43A)。
【0062】
図5は、同様の方法により、aa61~130においてp53との結合に重要な部位を検討した結果である。レーン1~5はそれぞれ、aa61~130、aa61~130、aa61~110、aa61~105、aa61~100をGST融合蛋白として発現させた試料である。これらの試料中、レーン1の試料のみp53を共発現させていない。
【0063】
同図に示される結果から、aa61~110はp53と結合するが(レーン3)、aa61~105は結合しないことが分かった(レーン4)。このことから、p53との結合に重要なアミノ酸はaa106~110に存在する可能性が示された。そこで、 それぞれのアミノ酸を置換した変異体を作製して検討した結果、図6に示すように、106位のロイシン(Leu)をAlaに変異させると、p53との結合が著しく減弱することが分かった(レーン3:L106A)。
【0064】
さらに、同様の解析において、aa121~160はp53と結合するが(図7のレーン4)、aa121~155は結合しない(同図レーン5)ことから、p53との結合に重要なアミノ酸はaa156~160に存在する可能性が示された。
【0065】
そこで、それぞれのアミノ酸をAlaに置換した変異体を作製し、p53との結合を調べたところ、図8に示すように、158位のバリン(Val)をAlaに変異させると、p53との結合が著しく減弱することがわかった(レーン3:V158A)。
【0066】
p53との結合に影響を与える上記3つの変異(F43A、L106A、V158A)のうち、結合に最も重要と考えられる部位はどれであるかを検討する為、これらの変異をそれぞれ単独に(または複数組み合わせて)、NS3アミノ末端領域180残基からなる断片に導入してp53との結合の有無を調べた。その結果、図9に示すように、p53との結合はL106A変異の導入によって著しく抑制された(レーン4・5)。なお図中、レーン3・4はそれぞれ、aa1~180にF43A変異、L106A変異を導入した試料、レーン5は、aa1~180にF43A変異、およびL106A変異を導入した試料、レーン2は、変異を導入することなくaa1~180を発現させた試料である。
【0067】
このようにaa1~180フラグメントにおいて、L106A変異がp53との結合に大きく影響した。他方、aa1~180フラグメントにおいて、F43A変異とV158A変異をそれぞれ単独に導入したことによる、p53との結合抑制はほとんど認められなかった。
【0068】
NS3とp53の細胞内共局在の解析においても同様の結果が得られ、L106A変異によって、NS3の核移行とp53との共局在はほとんど完全に消失した(図10)。以上の結果より、NS3とp53との結合には106位Leuの関与が最も重要であり、次に43位Pheの関与が重要と考えられた。
【0069】
さらに、多くのHCV臨床分離株のNS3の比較解析から、138位のセリン(Ser)がプロリン(Pro)に置換したS138P変異株のp53結合性が増強することが分かった。そこで、このS138P変異を他の分離株に導入して検討したところ、他の多くの株でも、S138P変異によりp53結合能が増加することが確認された(図11)。
【0070】
(6)p53結合性に影響を及ぼすNS3のアミノ酸変異とNS3セリンプロテアーゼ活性との相関
上記のp53結合性に影響を及ぼすNS3のアミノ酸変異により、NS3セリンプロテアーゼ活性が影響されるか否かについて検討した。その結果、F43AとL106Aは同程度に著しく、NS3セリンプロテアーゼ活性を阻害した(図12)。また、両変異による阻害は相加的に認められた。
【0071】
他方、S138P変異は単独で、ほぼ完全にNS3セリンプロテアーゼ活性を消失させた(図13)。
【0072】
さらにこれらの変異を、NS3アミノ末端領域の立体構造解析結果(前記文献A・B参照)に照らして検討した。その結果、p53結合を阻害するL106A変異は、NS3セリンプロテアーゼの活性中心(His-57、Asp-81、Ser-139)の一つであるSer-139と空間的に非常に近接していることが分かった。また、他の2つの変異(F43A、V158A)も比較的近い位置に存在した。
【0073】
p53結合を増強するS138P変異はSer-139と隣り合わせており、当然、空間的にもほぼ同じ位置に存在する。以上の実験結果より、NS3のp53結合責任領域は、106位のLeuを中心に、立体構造的にはNS3セリンプロテアーゼの活性中心近傍に位置すると考えられた。これらの結果は、HCV発癌の抑制とHCV増殖の抑制を同時にもたらす薬剤の開発にとって有用な知見である。
【0074】
(7)NS3断片とp53との結合阻害物質のスクリーニング
上記106位のロイシンを含む30~80個程度のアミノ酸からなるNS3断片、およびMyc標識したp53を、HeLa細胞で発現させることによって調製した。上記NS3断片をウエル底面に固着し、Myc標識p53と被検物質とを混ぜてウエルに入れた。被検物質の結合阻害性については、抗Myc抗体によるp53の検出の有無によって判断した。
【0075】
p53とNS3断片との結合阻害物質については、さらにNS3セリンプロテアーゼ活性をも阻害するか、当該プロテアーゼ活性による生成物の有無を抗体で検出するアッセイ法により検討した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明のスクリーニング方法は、NS3とp53との結合を阻害する物質を探索し、あるいはさらに当該結合阻害物質の中からNS3セリンプロテアーゼ活性を阻害する物質を探索することによって、C型肝炎またはHCVによる肝癌の治療、発症防止に有効な薬剤の開発に利用することができる。
【0077】
特に、NS3アミノ末端領域におけるp53との結合に影響を与える106位のロイシン等のアミノ酸残基に着目して、当該アミノ酸残基を含む結合関与領域と結合する物質を探索することによって、効率の良い結合阻害物質の探索が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】発現プラスミドによって様々な長さのNS3アミノ末端領域を発現させたことを説明する図である。
【図2】NS3アミノ末端領域とp53との結合の有無をウエスタンブロット法により解析した結果を示す図である。
【図3】NS3アミノ末端領域(31~90番目内)とp53との結合の有無をウエスタンブロット法により解析した結果を示す図である。
【図4】NS3アミノ末端領域41~43番目のアミノ酸に点変異を導入して、いずれのアミノ酸がp53との結合に重要かを検討した結果を示す図である。
【図5】NS3アミノ末端領域(61~130番目内)とp53との結合の有無をウエスタンブロット法により解析した結果を示す図である。
【図6】NS3アミノ末端領域106~109番目のアミノ酸に点変異を導入して、いずれのアミノ酸がp53との結合に重要かを検討した結果を示す図である。
【図7】NS3アミノ末端領域(121~170番目内)とp53との結合の有無をウエスタンブロット法により解析した結果を示す図である。
【図8】NS3アミノ末端領域158~160番目のアミノ酸に点変異を導入して、いずれのアミノ酸がp53との結合に重要かを検討した結果を示す図である。
【図9】NS3アミノ末端領域180残基からなる断片に点変異を導入して、p53との結合の有無を調べた結果を示す図である。
【図10】二重染色法により、細胞内のNS3アミノ末端領域とp53との共局在を調べた結果を示す図である。上段はMycタグをつけたNS3アミノ末端領域180残基を発現させた結果、中段は当該180残基にF43Aの点変異を導入した結果、下段は当該180残基にL106Aの点変異を導入した結果、である。右側3列は宿主細胞にp53を共発現させた結果である。原図はカラーであり、抗Myc抗体からのシグナルは緑で示され、抗p53抗体からのシグナルは赤で示される。最も右側の列は、抗Myc抗体からのシグナル(緑)と抗p53抗体からのシグナル(赤)とを重ね合わせたものである。
【図11】複数のHCV臨床分離株のNS3について、138位のセリンをプロリンに置換したS138P変異蛋白をp53と共発現させ、野生型(wt)を発現させた場合と比較してp53との結合性が変化するかどうかを免疫沈降—免疫ブロット法により検討した結果を示す図である。図中、「31」「H17-2」はHCV臨床分離株(ウイルス株)の名称を示す。左半分の「Lysate」は免疫沈降していない細胞抽出物のサンプル、右半分の「IP with α—p53」は抗p53抗体で免疫沈降したサンプルであり、主に右半分でNS3とp53との結合の強さを判定している。ウイルス株「31」のNS3では、138位の変異の有無に拘わらず、同程度の細胞内発現量がみられるが(左半分)、免疫沈降すると138位がプロリン(Pro)に変異したもののほうが濃いバンドがみられる(右半分)。すなわち、138位がプロリン(Pro)に変異するとp53との結合が増強する。ウイルス株「H17-2」でも同様のことがいえる。細胞内発現量は野生型(変異なし)のほうがプロリン(Pro)に変異したものより多いが(左半分)、免疫沈降すると138位がプロリン(Pro)に変異したもののほうが濃いバンドがみられる(右半分)。すなわち、138位がプロリン(Pro)に変異したNS3変異蛋白は、その細胞内発現量が少なくても効率良くp53と結合することがわかる。
【図12】NS3セリンプロテアーゼ活性に及ぼすアミノ酸点突然変異の影響を調べた結果を示す図である。左から順に、コントロール(pcDNAベクターのみ導入したもの)、NS3アミノ末端領域180残基を発現させたもの、当該180残基にF43Aの点変異を導入したもの、当該180残基にL106Aの点変異を導入したもの、当該180残基にF43AおよびL106Aの点変異を導入したもの、当該180残基にF43A、L106AおよびV158Aの点変異を導入したもの、の結果である。F43A変異とL106A変異はそれぞれ単独でセリンプロテアーゼ活性を著しく減弱させた。また、これらの変異のセリンプロテアーゼ阻害効果は相加的であった。
【図13】NS3セリンプロテアーゼ活性に及ぼすS138P変異の影響を調べた結果を示す図である。図中、「063」「31」「H17-2」「MKC1a」はHCV臨床分離株(ウイルス株)の名称を示す。S138P変異により、セリンプロテアーゼ活性はほぼ完全に消失した。
【図14】HCV粒子、HCV遺伝子、およびHCV蛋白を模式的に示した図である。
図面
【図1】
0
【図14】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
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【図12】
12
【図13】
13