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明細書 :イオン液体を用いたカチオン伝導媒体およびイオン液体中のカチオン伝導度向上方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5140822号 (P5140822)
公開番号 特開2006-324144 (P2006-324144A)
登録日 平成24年11月30日(2012.11.30)
発行日 平成25年2月13日(2013.2.13)
公開日 平成18年11月30日(2006.11.30)
発明の名称または考案の名称 イオン液体を用いたカチオン伝導媒体およびイオン液体中のカチオン伝導度向上方法
国際特許分類 H01M   8/02        (2006.01)
H01M  10/056       (2010.01)
FI H01M 8/02 M
H01M 10/00 105
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2005-147137 (P2005-147137)
出願日 平成17年5月19日(2005.5.19)
審査請求日 平成20年3月7日(2008.3.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】水畑 穣
【氏名】出来 成人
個別代理人の代理人 【識別番号】100075409、【弁理士】、【氏名又は名称】植木 久一
【識別番号】100115082、【弁理士】、【氏名又は名称】菅河 忠志
【識別番号】100125184、【弁理士】、【氏名又は名称】二口 治
【識別番号】100125243、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 浩彰
審査官 【審査官】前田 寛之
参考文献・文献 特開2004-281223(JP,A)
特開2004-292350(JP,A)
調査した分野 H01M 8/02
H01M 10/056
特許請求の範囲 【請求項1】
イオン液体および無機酸化物粉体を含有し、
当該無機酸化物粉体の表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13であり、比表面積が0.3~50m2/gであって、
かつイオン液体の含有量が10~30体積%であることを特徴とする、カチオン伝導媒体。
【請求項2】
無機酸化物粉体が、酸化アルミニウム、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載のカチオン伝導媒体。
【請求項3】
イオン液体が、式(I)で表されるカチオンとフッ素系有機アニオンとの組み合わせである、請求項1又は2に記載のカチオン伝導媒体。
【化1】
JP0005140822B2_000003t.gif
(式中、R1~R4は、同一または異なって、それぞれ飽和脂肪族基を表すか、あるいは、R3およびR4は、結合する窒素原子と一緒になって脂肪族へテロ環を形成してもよい。ただし、R1~R4の炭素数の和は6以上である。)
【請求項4】
プロトンイオン伝導性又はリチウムイオン伝導性である請求項1~のいずれかに記載のカチオン伝導媒体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体および無機酸化物粉体を含有するカチオン伝導媒体、並びにイオン液体中のカチオン伝導度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性物質でありながら常温で液体であるというイオン液体は、不揮発性、不燃性、及び比較的高いイオン伝導性を有することから、二次電池、燃料電池等の電気化学デバイス用の新たな電解質材料として注目されている。
電気化学デバイスにおいては、目的とする反応のために、特定のイオン伝導のみが要求され、そのイオン移動度の増大が必要となる。
【0003】
例えば、リチウムイオン電池は、リチウム塩を溶解させた電解液において、リチウムイオン伝導を生じさせ、反応させるものであり、イオン液体は、不揮発性、不燃性の電解質として期待されている。
しかし、イオン液体にリチウムイオンを添加した場合、リチウムはそのイオン半径が小さいことから、リチウムイオンとアニオンとは強い静電的相互作用を示す。その結果、系の粘性が増大し、粘性抵抗によるイオン伝導の低下が起こり電気伝導度は低下する。このような現象もあり、イオン液体のリチウムイオン伝導度は、リチウムイオン電池の電解質用途には不十分であり、リチウムイオン電池においては、イオン液体のリチウムイオンの伝導性を向上させる方法の開発が望まれている。
【0004】
また、燃料電池は、燃料極から空気極へ電解質を通してプロトンを伝導させ、反応させるものであり、イオン液体は、不揮発性であって熱安定性が高く、そして加湿する必要のない電解質として期待されている。
しかし、通常のイオン液体のプロトン伝導度は、燃料電池用途に要求されるレベルに達しておらず、従って、燃料電池においては、プロトン伝導度の高いイオン液体の開発が望まれている。
【0005】
特許文献1には、物質透過性の担体からなり、空隙にイオン液体を有するカチオン伝導性またはプロトン伝導性膜が開示されている。当該膜の空隙には、有機イオン伝導性材料または無機イオン伝導性材料が存在していてもよいとされており、無機イオン伝導性材料としては無機酸化物も例示されている。しかし、無機イオン伝導性材料としては、スルホン酸等が志向されており、無機酸化物は単なる例示に過ぎず、無機イオン伝導性材料の具体的な態様及び具体的な作用についての記載はない。また、実施例は膜の製造例のみで、カチオン伝導性またはプロトン伝導性についての効果は不明である。

【特許文献1】特表2004-515351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、イオン液体中のカチオン伝導度を向上させたカチオン伝導性媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、イオン液体に、特定の比表面積を有する無機酸化物粉体であって、その表面が電荷ゼロ点換算において特定の電荷を有する無機酸化物粉体を添加することにより、イオン液体中でのカチオン伝導度を顕著に向上させることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、イオン液体および無機酸化物粉体を含有し、当該無機酸化物粉体の表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13であり、比表面積が0.3~50m2/gであって、かつイオン液体の含有量が10~30体積%であることを特徴とする、カチオン伝導媒体である。
本発明は、イオン液体の含有量が、カチオン伝導媒体中、1~70体積%であることが好ましく、無機酸化物粉体が、酸化アルミニウム、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、イオン液体が、後述の式(I)で表されるカチオンとフッ素系有機アニオンとの組み合わせであることが好ましい。これらの好ましい態様では、極めて優れたカチオン伝導を示す。
また、本発明のカチオン伝導媒体が、プロトンイオン伝導性媒体又はリチウムイオン伝導性媒体である場合には、燃料電池、リチウムイオン二次電池等に応用でき、有用性が特に高い。
【0009】
また、本発明は、カチオン伝導媒体において、10~30体積%のイオン液体、表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13であり、かつ比表面積が0.3~50m2/gである無機酸化物粉体を含有させることを特徴としており、イオン液体中を伝導するカチオンのイオン液体中の濃度を、モル分率で0.01~0.6とすることが、極めて優れたカチオン伝導度向上効果が発揮されるために、好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イオン液体中のカチオン伝導度を向上させることができる。よって、イオン液体の電気伝導度を向上させることができる。また、本発明のカチオン伝導媒体は、イオン液体独自の不揮発性、不燃性等の特性を有し、カチオン伝導性に優れるため、二次電池、燃料電池等の電気化学デバイス用の電解質材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のカチオン伝導媒体は、イオン液体および無機酸化物粉体を含有し、当該無機酸化物粉体の表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13であり、比表面積が0.3~50m2/gであって、かつイオン液体の含有量が10~30体積%であることを特徴とする、カチオン伝導媒体である。
【0012】
イオン液体は、イオン伝導性が高いといわれているものの、特にイオン半径の小さいカチオンをイオン液体に添加した場合には、アニオンと強い静電的相互作用を示すために系の粘性が増大し、粘性抵抗によってイオンの伝導が妨げられるため、そのカチオン伝導度は電気化学デバイス用途に適用し得るレベルではなかった。
【0013】
本発明者等は、カチオンが添加されたイオン液体に、特定の無機酸化物粉体を添加した場合には、カチオン伝導度が向上することを見出した。カチオン伝導度が向上する理由としては、イオン液体と無機酸化物粉体の固液界面にイオン伝導層が生成していることが考えられる。実際、本発明者らが、プロトン、イオン液体および酸化アルミニウム粉体からなるコンポジットについてFT-IR測定を行ったところ(図1参照)、イオン液体のみの系、イオン液体に無機酸化物粉体を加えた系では見られなかった、OH結合の伸縮振動による吸収が3600cm-1付近に現れた。このことより、無機酸化物粉体の表面電荷が電荷ゼロ点換算において特定の範囲内であれば、添加されたカチオンが、当該表面との相互作用により、その対となるアニオンから解離するようになり、当該表面に存在するようになるものと考えられる。そして、この無機酸化物粉体の表面に存在するカチオンは、無機酸化物粉体が特定の比表面積である場合のみ当該粉体の表面をスムーズに移動し(ちょうど無機酸化物粉体表面にイオン伝導層が形成される)、その結果カチオンの伝導度が向上するものと考えられる。
【0014】
本発明において、イオン液体とは、イオンのみからなる溶融体のうち、常温において液体状態となるものを意味する。イオン液体のカチオン種としては、例えば、下記式(I)で表されるカチオン(脂肪族4級アンモニウムイオン)、式(II)で表されるカチオン(ホスホニウムイオン)、式(III)で表されるカチオン(イミダゾリウムイオン)、式(IV)で表されるカチオン(ピリジニウムイオン)等が挙げられる。
【0015】
【化1】
JP0005140822B2_000002t.gif

【0016】
(式中、R~R11は、同一または異なって、それぞれ飽和脂肪族基を表すか、あるいは、RおよびRは、結合する窒素原子と一緒になって脂肪族へテロ環を形成してもよい。ただし、R~RおよびR~Rのそれぞれの炭素数の和は6以上、RとR10との炭素数の和は3以上、R11の炭素数は2以上である。)
【0017】
~R11で表される飽和脂肪族基は、直鎖状でも分岐状であってもよく、例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、さらに、当該例示した基に、-S-、-O-で示される結合により、S、O等のヘテロ原子が含まれている基等が挙げられる(ただし、R11は、これらのうち炭素数が2以上のものである。)。飽和脂肪族基として好ましくは、炭素数1~8のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。
【0018】
およびRが、結合する窒素原子と一緒になって形成する脂肪族へテロ環の例としては、ピロリジン環、ピペリジン環、ジアゼピン環、ピペラジン環、モルホリン環等が挙げられ、5~6員の脂肪族へテロ環が好ましい。
【0019】
上記式(I)~(IV)で表されるカチオンのうち、好ましくは、式(I)で表されるカチオンである。
【0020】
式(I)で表されるカチオンとして好ましくは、RおよびRがメチル基又はエチル基であり、Rが炭素数1~4のアルキル基であり、Rが炭素数1~8のアルキル基であるカチオンである。式(I)で表されるカチオンとして特に好ましくは、R~Rがメチル基、Rがプロピル基であるカチオン(TMPA);RおよびRがメチル基であり、Rがイソプロピル基、Rがヘキシル基であるカチオン;Rがメチル基、RおよびRがエチル基、Rが2-メトキシエチル基であるカチオンである。
また、式(I)で表されるカチオンのRおよびRが、結合する窒素原子と一緒になって脂肪族へテロ環を形成する場合には、式(I)で表されるカチオンとして好ましくは、Rがメチル基、Rがエチル基、RおよびRが結合する窒素原子と一緒になってピロリジン環を形成するカチオン;Rがメチル基、Rがブチル基、RおよびRが結合する窒素原子と一緒になってピロリジン環を形成するカチオン(BMP)である。
【0021】
式(II)で表されるカチオンとして好ましくは、RおよびRが、それぞれ独立してメチル基又はエチル基であり、Rが炭素数1~4のアルキル基であり、Rが炭素数1~8のアルキル基であるカチオンである。
式(III)で表されるカチオンとして好ましくは、R~R10が、それぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基であるカチオンであり、特に好ましくは、Rがメチル基であり、R10がエチル基であるカチオン(EMI);Rがメチル基であり、R10がブチル基であるカチオン(BMI)である。
式(IV)で表されるカチオンとして好ましくは、R11が炭素数2~8のアルキル基であるカチオンであり、特に好ましくは、R11がブチル基であるカチオン(BP)である。
【0022】
イオン液体のアニオン種としては、例えば、AlCl、AlCl等のクロロアルミネートアニオン;BF、PF、F(HF)、等のフッ素系無機アニオン;CFCOO、CFSO(TfO)、(CFSO(TFSI)、(CFSO(TFSM)等のフッ素系有機アニオン;NO;CHCOO等が挙げられる。これらのうち、フッ素系有機アニオンが好ましい。
【0023】
イオン液体は、上記のカチオン種の1種又は2種以上および上記のアニオン種の1種又は2種以上の組み合わせによるものであってよいが、好ましくは、式(I)で表されるカチオンとフッ素系有機アニオンとの組み合わせであり、最も好ましくは、TMPAとTFSIとの組み合わせである。
【0024】
なお、イオン液体は、公知方法(例えば、Chem.Lett.,2000,第922頁、J.Phys.Chem.B,103,第4164頁(1999)等参照)によって得ることができ、市販品を使用してもよい。
【0025】
本発明において、無機酸化物粉体は、その粒子の表面の表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13であり、比表面積が0.3~50m/gである必要がある。
異質物質の界面にイオン伝導層が生成し得ることは、従来より知られていたが(例えば、Adv.Matter.2004,16,No.9-10,May 17参照)、本発明において、無機酸化物粉体は、特定の表面電荷を有することによって、イオン液体中において、カチオンを対イオンであるアニオンから解離させることを可能にし、さらに、この無機酸化物粉体の比表面積を特定のものとすることによって、そのイオン伝導層の形成を可能にせしめたものである。
【0026】
本発明において、電荷ゼロ点(pzc)とは、無機酸化物粉体粒子が水中にある場合において、無機酸化物粉体粒子の表面がプラスにもマイナスにも帯電していないときのpH(水素イオン指数)を意味する。
電荷ゼロ点は、例えば、水、及び無機酸化物粉体を添加した水について、酸およびアルカリを用いてそれぞれ滴定曲線を作成し、得られた2本の滴定曲線の交点のpH値として求めることができる。
【0027】
無機酸化物の粉体粒子の表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13である無機酸化物の例としては、酸化アルミニウム(通常の市販品で、表面電荷の電荷ゼロ点換算値は約7~11である)、酸化チタン(通常の市販品で、表面電荷の電荷ゼロ点換算値は約5~7である)、酸化ジルコニウム(通常の市販品で、表面電荷の電荷ゼロ点換算値は約5~7である)等が挙げられる。より高いカチオン伝導度向上効果の点から酸化アルミニウムが特に好ましい。
また、無機酸化物の粉体粒子の表面電荷が電荷ゼロ点換算において、pH7~10であることが、より高いカチオン伝導度向上効果の点から好ましい。
【0028】
なお、表面電荷の電荷ゼロ点換算値は、酸やアルカリ等により無機酸化物粉体を処理することによって調整することもできる。例えば、無機酸化物をアルカリに浸漬した場合には、当該無機酸化物粉体の表面電荷の電荷ゼロ点換算値はアルカリ側に増大する。よって、市販品の酸化チタン、酸化ジルコニウム等の中には、表面電荷の電荷ゼロ点換算値がpH4程度のものもあるのであるが、そのような電荷ゼロ点換算値pH5未満の無機酸化物粉体を使用する場合でも、当該アルカリ処理によって、表面電荷の電荷ゼロ点換算値を適正範囲に調整することができる。
【0029】
本発明において、無機酸化物は粉体の形状をとるが、当該粉体は粒度の基準として、比表面積が0.3~50m/gであることが必要であり、より高いカチオン伝導度向上効果の点から比表面積が1.1~32.8m/gである無機酸化物粉体が好ましく、2~5m/gである無機酸化物粉体がより好ましい。
本発明において比表面積とは、BET法により求められる値をいう。
【0030】
本発明のカチオン伝導媒体は、無機酸化物粉体にイオン液体を含浸させることが好ましい態様である。イオン液体が含浸した無機酸化物粉体材料とした場合には、圧縮成形等による成形加工も容易であり利便性が高い。含浸の程度としては、無機酸化物粉体の表面がイオン液体でちょうど覆われた状態(無機酸化物粉体がイオン液体で湿ったように見える状態)になるまで含浸させることが好ましい。当該状態がイオン伝導層の形成に適しているためである。
【0031】
このような状態にするためのイオン液体の使用量の目安としては、イオン伝導媒体の1~70体積%、好ましくは、10~30体積%である。なお、イオン液体がカチオンまたはカチオンを含む塩を含有している場合には、該カチオンまたは該カチオンを含む塩の体積も、イオン液体の体積に含めて考える。
【0032】
含浸は、常法により行うことができ、例えば、無機酸化物粉体とイオン液体を、撹拌機等を用いて混合する方法等によって行うことができる。
【0033】
本発明において、カチオン伝導媒体のカチオンとは、カチオン伝導媒体を構成するイオン液体自体のカチオンではなく、別途、当該伝導媒体に添加されるカチオンのことをいう。すなわち、本発明は、別途添加されるカチオンを伝導する媒体である。
【0034】
当該別途添加され伝導されるカチオンの種類としては、単原子のカチオンであれば特に制限はない。単原子のカチオンであれば、イオン液体中の伝導度向上効果が得られる。
特に、イオン半径の小さいカチオンで構成される塩を、イオン液体に添加した場合、イオン半径の小さいカチオンは電荷密度が高いため、イオン液体中においてはその電離が困難であり、その結果、イオン伝導が起こらず、イオン液体の電気伝導度は低下する。従って、イオン半径の小さいカチオン程、本発明の効果の意義がある。本発明のカチオン伝導媒体により伝導されるカチオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、銀イオン、遷移金属イオン等が特に高い伝導度向上効果を示し得るものであるため好ましく、さらに、燃料電池、二次電池への応用という観点から、プロトン、リチウムイオンが特に好ましい。
【0035】
本発明において、カチオン伝導度の向上効果は、カチオンを添加したカチオン伝導媒体の電気伝導度を測定することにより評価することができる。電気伝導度で評価した場合に、通常、イオン液体に、リチウム等のカチオンのみを添加した場合および無機酸化物のみを添加した場合の双方において、その電気伝導度は、イオン液体そのものが有する電気伝導度よりも低下する。それにも係わらず、イオン液体に、リチウム等のカチオンおよび無機酸化物の両方が添加される本発明の場合には、電気伝導度が増大するという効果を有している。
電気伝導度の測定は、例えば、LCRメーターを用いて行うことができる。
【0036】
本発明のカチオン伝導媒体は、優れたカチオン伝導性を示すため、公知方法に準じ、粉体電解質材料として電池等に適用することができる。
また、本発明のカチオン伝導媒体に、上記のカチオンを添加したコンポジットは、優れた電気伝導度を示すため、導電性材料として有用である。
【0037】
本発明は、カチオン伝導媒体において、10~30体積%のイオン液体、表面電荷が電荷ゼロ点換算においてpH5~13であり、かつ比表面積が0.3~50m2/gである無機酸化物粉体を含有させることにより、イオン液体中のカチオン伝導度を高めることができる
【0038】
本発明に用いられるイオン液体、無機酸化無水物粉体、カチオンについては上記と同様である。
本発明の実施態様としては、例えば、上記イオン液体に上記カチオンを添加し、そこに上記無機酸化物粉体を添加する態様、上記イオン液体に上記無機酸化物粉体を配合し、そこへ上記カチオンを添加する態様等が挙げられる。
【0039】
上記のカチオンは、そのままイオンの形態で添加されても良いし、塩の形態で添加されてもよい。塩の形態で添加する場合、カチオンの対イオンとなるアニオンの種類には特に限定はなく、前記イオン液体のアニオン種と同様のものであることが好ましく、より好ましくは、使用するイオン液体のアニオン種と同一種類のアニオンを選択する。
【0040】
添加するカチオンのイオン液体中の濃度は、添加するカチオンの種類に応じて適宜最適な濃度を選択すればよく、好ましくは0.01~0.6モル/モルであり、プロトンを含む系(例、HTFSI等を含む系)の場合、0.2~0.4モル/モルが、また、リチウムイオンを含む系(例、LiTFSI等を含む系)の場合、0.03~0.06モル/モルが最も好ましい。カチオンの濃度が上記範囲内にある場合に、カチオン伝導度向上の効果が特に良好に得られる。
【0041】
本発明によれば、イオン液体中のカチオン伝導度を効果的に向上させることができ、例えば、イオン液体を燃料電池の電解質に用いた場合のプロトン伝導度向上させるため、また、イオン液体をリチウムイオン電池の電解質に用いた場合のリチウムイオン伝導度向上させるために応用することが可能である。また、本発明によれば、カチオンを含むイオン液体の電気伝導度を向上させることもできる
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。
【0043】
実施例
イオン液体の調製
トリメチルプロピルアンモニウムビストリフルオロスルホイミド(TMPATFSI)の調製は、公知文献(例、Chem.Lett.,2000,第922頁、J.Phys.Chem.B,103,第4164頁(1999)に準じて行った。まずヨウ化トリメチルn-プロピルアンモニウム(TMPAI)を、ヨウ化n-プロピルとトリメチルアミンを反応させて得た。TMPAIの水溶液とLiTFSIの水溶液とを混合し、水による洗浄を、水層に硝酸銀水溶液を添加してもヨウ化リチウム等の副生物に由来する沈殿の生成が見られなくなるまで行った。水層から分離された層を、濃縮及び熱処理して精製しTMPATFSIを得た。カールフィッシャー滴定法により求めたTMPATFSIの含水量は、0.08重量%未満であった。
【0044】
カチオン含有イオン液体の調製
HTFSIを、モル分率で0.1~0.6の範囲でTMPATFSIに添加し、混合・加熱処理により溶解させた。なお、HTFSIの含水量は、1重量%未満であるが、数日間真空下に置くことによって、約0.25重量%まで減少させた。加熱処理後のプロトンを含有するTMPATFSI(HTFSI/TMPATFSI)の含水量は、0.2重量%であった。調製されたHTFSI/TMPATFSIは、五酸化二リンで乾燥した乾燥窒素で満たした、空気乾燥清浄器を有するグローブボックスに保管した。
また、LiTFSIを、モル分率で0.02~0.15の範囲でTMPATFSIに添加し、混合・加熱処理を行って溶解させた。なお、LiTFSIの含水量は、1重量%未満であるが、数日間真空下に置くことによって、約0.25重量%まで減少させた。加熱処理後のリチウムイオンを含有するTMPATFSI(LiTFSI/TMPATFSI)の含水量は、0.2重量%であった。調製されたLiTFSI/TMPATFSIは、五酸化二リンで乾燥した乾燥窒素で満たした、空気乾燥清浄器を有するグローブボックスに保管した。
【0045】
無機酸化物粉体の調製
BET法により求めた比表面積が、それぞれ1.18m/g、3.00m/g、10m/g、32.8m/gであるα-Al粉末を、400℃を超える温度で6時間熱処理した。
なお、これらのα-Al粉末について、0.1mol/Lの塩酸および水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ用いて酸塩基滴定を行った結果、その表面電荷は、電荷ゼロ点換算で9.1であった。
【0046】
カチオン含有カチオン伝導媒体サンプルの作成
上記で調製したカチオン含有イオン液体と上記で調整した無機酸化物粉体とを、体積比30:70で、乾燥窒素で満たしたグローブボックス中でミキサーを用いて激しく撹拌して混合した。得られた混合物を、アルミナプレスを用いて、真空下、53MPaの圧力をかけて30分間圧縮成形して、直径20mmのタブレット形サンプルを作成した。
【0047】
電気伝導度の測定
上記で作成したカチオン伝導媒体のタブレット形サンプルの電気伝導度を、ヒューレッドパッカード社製4286Aおよび4285Aを用い、周波数レンジ20~30Hzで測定した。電気伝導度は、Hittorf型セルの中室に挿入したPt電極間の電位差を測定する方法により試み、25℃~50℃においてI-Eプロットを得、その傾きから算出した。また、セル定数はKCl溶液を用い25℃で算出した。
得られた結果を図2、図3に示す。
【0048】
比較例
BET法により求めた比表面積が7.83m/g、電荷ゼロ換算での表面電荷が3.1(α-Al粉末と同様の手法で評価)であるSiO粉末を、800℃で4時間熱処理した。実施例と同様にして調製したLiTFSI/TMPATFSIおよびこのSiO粉末を用いて、上記実施例と同様にして直径20mmのタブレット形サンプルを作成した。得られたサンプルについて、上記と同様にして電気伝導度を測定した。
得られた結果を図4に示す。
【0049】
図2、図3より明らかなように、イオン液体中のカチオン伝導度は、イオン液体にα-Alを添加することにより劇的に向上していることがわかる。また、イオン液体中のカチオン伝導度の向上効果は、α-Al粉体の比表面積によって差があることがわかる。
一方、図4の結果より明らかなように、SiO粉末を用いた場合には、イオン液体中のカチオン伝導度は、イオン液体以上のカチオン伝導度示すことはなかった。従って、イオン液体中のカチオン伝導度を向上させるには、無機酸化物粉体の表面電荷が特定範囲内にあるものを用いなければならないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のカチオン伝導媒体は、電気化学デバイス分野において、電気化学反応媒体として用いられ得るものであり、電池、燃料電池、電解槽等、センサなどに使用可能である

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】拡散反射FT-IR測定セルDR 600Bを接続するFT-IR測定装置FT-IR 615(JASCO社製)を用いて測定したα-Al/HTFSI/TMPATFSI系のDR-FTIRスペクトルである。(a)はHTFSI、(b)はTMPATFSI/α-Al、(c)はTMPATFSI/HTFSI=6:4+α-Al、(d)はTMPATFSI/HTFSI=8:2+α-Al、(e)はTMPATFSI/HTFSI=9:1+α-AlからなるコンポジットのDR-FTIRスペクトルをそれぞれ示す。
【図2】実施例(本発明)のカチオン伝導媒体の電気伝導度を示すグラフである。横軸はプロトンのモル分率での濃度を、縦軸は電気伝導度を示す。また、図中のBulkは、無機酸化物粉体の添加されていない系を意味する。
【図3】実施例(本発明)のカチオン伝導媒体の電気伝導度を示すグラフである。横軸はリチウムイオンのモル分率での濃度を、縦軸は電気伝導度を示す。また、図中のBulkは、無機酸化物粉体の添加されていない系を意味する。
【図4】比較例のカチオン伝導媒体の電気伝導度を示すグラフである。横軸はリチウムイオンのモル分率での濃度を、縦軸は電気伝導度を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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