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明細書 :酸化チタン分散液及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4710004号 (P4710004)
公開番号 特開2006-257311 (P2006-257311A)
登録日 平成23年4月1日(2011.4.1)
発行日 平成23年6月29日(2011.6.29)
公開日 平成18年9月28日(2006.9.28)
発明の名称または考案の名称 酸化チタン分散液及びその製造方法
国際特許分類 C09D  17/00        (2006.01)
C01G  23/04        (2006.01)
FI C09D 17/00
C01G 23/04 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2005-078241 (P2005-078241)
出願日 平成17年3月17日(2005.3.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年9月17日 社団法人日本セラミックス協会発行の「第17回 秋季シンポジウム講演予稿集」に発表
審査請求日 平成19年3月12日(2007.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
発明者または考案者 【氏名】上川 直文
【氏名】鈴木 美季
【氏名】掛川 一幸
【氏名】小島 隆
審査官 【審査官】仁科 努
参考文献・文献 特公昭50-020570(JP,B1)
特開昭61-073774(JP,A)
特開2003-192349(JP,A)
調査した分野 C09D 17/00
特許請求の範囲 【請求項1】
チタン含有化合物に4価以上の糖アルコールを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程、
形成された前記沈殿物を前記水溶液から分離する工程、
前記水溶液から分離された前記沈殿物を洗浄する工程、
洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程、
前記酸溶液から前記沈殿物を分離する工程、
前記酸溶液から分離された前記沈殿物を洗浄する工程、
洗浄された前記酸溶液から分離された前記沈殿物を水溶液に分散する工程、を有する酸化チタン分散液の製造方法。
【請求項2】
前記チタン含有化合物に4価以上の糖アルコールを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程は、30℃以上120℃以下の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン分散液の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程は、30℃以上120℃以下の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン分散液の製造方法。
【請求項4】
前記チタン含有化合物に4価以上の糖アルコールを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程は、1時間以上48時間以内の範囲で行われることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン分散液の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程は、1時間以上48時間以内の範囲で行われることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン分散液の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程は、pHが4以下の酸水溶液を用いることを特徴とする請求項1記載の酸化チタンの分散溶の製造方法。
【請求項7】
チタン含有化合物に4価以上の糖アルコールを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程、
形成された前記沈殿物を前記水溶液から分離する工程、
前記水溶液から分離された前記沈殿物を洗浄する工程、
洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程、
前記酸溶液から前記沈殿物を分離する工程、
前記酸溶液から分離された前記沈殿物を洗浄する工程、
洗浄された前記酸溶液から分離された前記沈殿物を水溶液に分散する工程、によって製造される、糖アルコール分子を表面に有する酸化チタン粒子が溶液中に分散されている酸化チタン分散液。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン分散液及びその製造方法に関し、特に、光触媒膜や機能性酸化物材料の形成において好適に用いられるものに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは光触媒や色素増感太陽電池用電極材料として注目されている。これらの用途に用いるためには、ガラスなどの基板上にコーティングされた膜(酸化チタン膜)として用いる必要がある。そこで、酸化チタン膜を任意の基板上に形成する手法の開発が重要な技術的な課題となっている。なお、酸化チタンに光触媒活性などの機能を発現させるためには、酸化チタン膜が主にアナターゼ型の結晶構造を有する粒子(これを本明細書では「アナターゼ型酸化チタン粒子」といい、これを含んで構成されている酸化チタン膜を「アナターゼ型酸化チタン膜」という)から構成されている必要がある。
【0003】
また一方で、チタンイオンを含む複合酸化物には半導体性や強誘電性などの応用上非常に有用な電気的物性を示す物質群がある。この電気的物性を示すようにするためにはこれらの複合酸化物をなるべく低い温度で短時間で焼成処理することが必要である。そしてこのためにもこの製造用前駆体として高い反応性と焼結性を有し、溶液中で安定に分散した状態を保つナノレベルの粒径を有する酸化チタン粒子の分酸液が必要とされている。
【0004】
化学的な方法により結晶性を有する酸化チタン膜を製造する方法としては、チタンイオンを含有する溶液を基板に塗布した後、焼成することによりアナターゼ型酸化チタン膜を形成する方法がある。一般に、コーティング液を基板に塗布して結晶性を有する酸化チタン膜を得るためには400℃以上での焼成が必要となる。つまりコーティング液を塗布焼成する化学的な方法の場合、耐熱性を有しない有機高分子などの材料上に結晶性を有する酸化チタン膜を形成することは困難である。
【0005】
また酸化チタン膜を製造する他の方法として、化学気相蒸着法など真空中で蒸着プロセスを用いる製膜方法がある。この方法によると膜厚や結晶性などを高度にコントロールした製膜が可能であるが、製膜可能な材料や大きさに制限があり、また、特殊な真空装置を必要とするため他の方法と比べて製膜コストが高くなってしまう。
【0006】
そこで上記の問題を解決するための方法として、アナターゼ型酸化チタン粒子を分散させた水溶液を用いて酸化チタン膜を製造する方法が下記特許文献1に開示されている。より具体的に説明すると、下記特許文献1には、チタンペルオキシ化合物を含有する水溶液を200℃以下で加熱処理することで、表面がペルオキシで修飾されたアナターゼ型酸化チタン粒子を形成し、これを安定的に水溶液中に分散させ、このアナターゼ型酸化チタン粒子を分散させた水溶液を基板に塗布、乾燥させ、アナターゼ型酸化チタン膜を形成する技術が開示されている。

【特許文献1】特開平10-067516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の水溶液は、共存する他の陽イオンにより凝集し沈殿を生じやすいため、安定性の高い分散液を調製するためには多量の蒸留水を用いて精製しなければならないといった課題がある。また、機能性酸化物材料の調製原料として用いる場合、アナターゼ型酸化チタン粒子を分散した溶液と他の材料を混合し複合化する必要が生じるが、この場合にも安定性が損なわれ沈殿などを生じやすいといった課題がある。更に、製造過程で用いる過酸化水素は高い酸化活性を有することから、これが酸化チタン微粒子を分散させた水溶液に残留すると発泡や二次的な反応による製膜製の低下などを起こす虞もある。
【0008】
そこで本発明は、上記課題を解決し、より安定性の高い酸化チタン粒子を分散させた水溶液(酸化チタン分散液)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明者らが鋭意検討を行ったところ、酸化チタン粒子をアルコール分子と複合化することでアルコール分子と溶媒分子間の相互作用により酸化チタン粒子を水性溶媒中により安定的に分散させることができ、発明に想到するに至った。
【0010】
即ち、本発明に係る酸化チタン分散液は、1価アルコール分子、2価以上の多価アルコール分子、糖アルコール分子の少なくともいずれかを表面に有する酸化チタン粒子が溶液中に分散していることを特徴の一つとする。酸化チタンの表面にアルコール分子を有する(複合化する)ことによって、広いpH領域で安定な水性分散液を形成することができ、他の様々な酸化物微粒子やその分散系と沈殿等を生じることなく均一に混合することができるようになる。特に、従来の粒子分散液の調整においては溶液のpHを制御し酸性や塩基性などに調整しなければならない場合が多く、溶液のpHが大きくずれるとコーティング膜等を形成した場合に基板を腐食させるなどの問題を生じさせる虞があったが、本発明によるとアルコール分子と溶媒の相互作用を利用して微粒子を分散させることで溶液の液性を中性に保ったまま分散させることが可能となる。なお本発明においてアルコール分子を「表面に有する」とは、アルコール分子と酸化チタン粒子との間でTi-O-Cの結合がなされていることをいう。
【0011】
酸化チタン粒子と複合化されるアルコール分子としては、1価アルコール分子、2価以上の多価アルコール分子、糖アルコール分子のいずれも用いることができるが、過酸化水素などの反応性が高く不安定な物質を用いずにより安定で安全性の高い酸化チタン分散液を製造するためには2価以上の多価アルコールと酸化チタン粒子とを複合化することがより望ましい。
【0012】
そしてこの酸化チタン分散液をもちいることで金属やガラス、更には高分子膜などの様々な材料上に酸化チタン膜を形成することが可能となり、光触媒や機能性酸化材料、紫外線吸収膜など様々なものに応用が可能となる。つまり様々な物性を有する複合酸化物材料の製造用の前駆体材料としての応用が期待される。
【0013】
また、本発明に係る酸化チタン分散液の製造方法は、チタン含有化合物に1価アルコール、2価以上の多価アルコール、糖アルコールの少なくともいずれかを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程、形成された沈殿物を水溶液から分離する工程、水溶液から分離された沈殿物を洗浄する工程、洗浄された沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程、酸溶液から沈殿物を分離する工程、酸溶液から分離された沈殿物を洗浄する工程、洗浄された酸溶液から分離された沈殿物を水溶液に分散する工程、を有する。
【0014】
また、本発明に係る酸化チタン分散液の製造方法は、チタン含有化合物に4価以上の多価アルコール、糖アルコールの少なくともいずれかを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程、形成された沈殿物を水溶液から分離する工程、水溶液から分離された沈殿物を洗浄する工程、洗浄された沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程、酸溶液から沈殿物を分離する工程、酸溶液から分離された沈殿物を洗浄する工程、洗浄された酸溶液から分離された沈殿物を水溶液に分散する工程、を有する。
【0015】
また上記製造方法におけるチタン含有化合物に1価アルコール、2価以上の多価アルコール、糖アルコールの少なくともいずれかを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程、洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程の少なくともいずれかは30℃以上120℃以下の温度範囲で行われることが望ましい。
【0016】
また上記製造方法におけるチタン含有化合物に1価アルコール、2価以上の多価アルコール、糖アルコールの少なくともいずれかを含有する中性又は塩基性の水溶液を加えて加熱し、沈殿物を形成する工程、前記洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程は、1時間以上48時間以内の範囲で行われることも望ましい。
【0017】
また、上記製造方法における洗浄された前記沈殿物と酸溶液とを混合し、加熱する工程は、pHが4以下の酸水溶液を用いることも望ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上、本発明の酸化チタン粒子分散液は、殆ど沈降することなく安定な分散状態を長期維持することが可能である。本分散溶液を基板に塗布し室温で乾燥することでアナターゼ型酸化チタン膜を作成可能であり光触媒膜などへの応用が可能である。また、本分散溶液は広いpH領域で安定でありまた多くの金属イオンが共存しても安定性を保つことができる。従って、チタンイオンを含有する様々な機能性複合酸化物薄膜や焼結体作成のための前駆体としての応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本実施形態に係る酸化チタン分散液は、1価アルコール分子、2価以上の多価アルコール分子、又は糖アルコール分子の少なくともいずれかを表面に有する酸化チタン粒子が溶液中に分散されている。
【0021】
酸化チタン分散液中(以下「本分散液」という。)に分散している粒子は、結晶性を有する酸化チタン又は無定形の酸化チタンからなる部分と、1価アルコール分子、2価以上の多価アルコール分子又は糖アルコール分子からなる部分が複合化した構造になっていると考えられる。特に、粒子表面に存在するアルコール分子と溶媒である水分子との相互作用することにより水性溶媒中で凝集することなく安定に分散した状態を維持することができると考えられる。本分散溶液中に分散している酸化チタン粒子の粒径は30nm以下でありアナターゼ型の結晶構造を有するか又は無定形であると考えられ、酸化チタン微粒子は殆ど水中に沈殿することなく安定に分散する。
【0022】
次に、上記酸化チタン分散液の製造方法について説明する。
まず、1価アルコール、2価以上の多価アルコール又は糖アルコールの少なくともいずれかを含有する水溶液をチタンイオン含有化合物に加え混合し(混合工程)、この混合溶液を密閉容器に入れ加熱処理を行う(初期加熱処理工程)。これによって水溶液中に酸化チタン粒子を含む沈殿物を形成する。
【0023】
次に、この溶液に対し遠心分離又はろ過を行い、沈殿物を分離する(沈殿分離工程)。そして分離した沈殿物を蒸留水中に分散させ、遠心分離又はろ過によって沈殿物を分離する(沈殿洗浄工程)。この工程によって沈殿物を洗浄し、沈殿物に対し過剰なアルコール分子を除去する。
【0024】
そして、この沈殿物を酸溶液に加え加熱処理を行い(酸加熱処理)、表面にアルコール分子を有する酸化チタン微粒子の凝集体を得る(凝集体製造工程)。
【0025】
そして、これによって得られた凝集体を遠心分離又はろ過によって酸溶液から分離した(凝集体分離工程)後、アルコール溶液中に分散させ、遠心分離又はろ過する(酸洗浄工程)ことで沈降することなく酸化チタン粒子を安定に分散した溶液を得ることができる(分散工程)。
【0026】
本製造方法においてもちいられる「チタン含有化合物」としては、チタンテトライソプロポキシドを始めとするチタンアルコキシド、四塩化チタン、硫酸チタンなどを用いることができる。また、水酸化チタンを酸に溶解して得られる溶液を用いることも可能である。
【0027】
また、本製造方法における混合工程では、1価アルコール水溶液、2価以上の多価アルコール水溶液又は糖アルコール水溶液をチタン含有化合物を含有する溶液と混合するが、この混合により白色の水酸化チタン沈殿を得ることができる。またここにおいて1価アルコールとしてはエタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノールなどを用いることができ、2価以上の多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどを用いることができる。また、糖アルコールとしては、エリスリトール、キシリトール、D-マンニトール、D-ソルビトールなどを用いることができる。
【0028】
また、本製造方法における初期加熱処理工程における処理温度としては、必須ではないが30℃以上が望ましく、より望ましくは40℃以上である。例えば加熱処理温度が40℃の場合、80時間以上の処理によって酸化チタン粒子とアルコール分子が複合化した(酸化チタン粒子の表面にアルコール分子を有する)沈殿物を得ることができる。なお室温より低い場合はこれよりも非常に長い時間が必要となるため、実用的な範囲として30℃以上であることが望ましい。なお、反応速度のより実用的な範囲と結晶性を実現するための温度としては70℃以上であることがより望ましい。加熱処理温度をより高くすることで複合化した沈殿物を製造するための時間も短くすることができ、沈殿物中の酸化チタンの結晶性をより高めることができる。
【0029】
なお一方で、この工程における処理温度の上限としては必須ではないが120℃以下が望ましく、より望ましくは100℃以下である。120℃より高い場合は、溶液中の多価アルコールや糖アルコール分子を用いた場合に分解反応が起こるおそれがあり、また、副生成物の生成反応が起こりやすくなるおそれがあるためである。従って、初期加熱処理工程における処理温度の範囲としては、30℃以上120℃以下、より望ましくは70℃以上100℃以下である。
【0030】
また、初期加熱処理工程における処理時間としては、上記処理温度や共存するアルコール分子の価数や濃度にも依存するが、実用的な範囲として1~48時間の範囲であることが望ましい。なお例えば加熱処理温度が95℃の場合、もちろん共存するアルコール分子の価数と濃度にも依存するが、24時間の加熱処理時間でアナターゼ型酸化チタン粒子とアルコール分子が複合化したものを沈殿物として得ることができる。
【0031】
また、本製造方法における沈殿分離工程、沈殿洗浄工程において、必須ではないが遠心分離を行う場合は回転数として3000r.p.m.以上、10分間以上回転させることが極めて望ましい。回転数が低いと沈殿の回収率が低下し収率が悪くなるためである。また、沈殿洗浄工程は、得られた沈殿物を洗浄し、過剰なアルコール分子を除去するために行われる工程であって、回数に制限はないが、望ましくは2回以上繰り返すことが望ましい。凝集体分離工程において同様である。
【0032】
また、本製造方法における酸加熱処理は、酸化チタン粒子とアルコール分子の複合化した生成物に存在する酸化チタンとアルコール分子のTi-O-C間の結合を加水分解することを目的とし、密閉した状態で行われることが望ましい。なお温度範囲としては上記初期加熱処理工程と同様である。加熱処理時間としても、1時間以上48時間以内が望ましく、より望ましくは6時間以上24時間以内である。これより短い場合は、十分な酸処理による効果を得ることができず、これよりも長い場合は、酸化チタンとアルコール分子間の開裂が進み酸化チタン表面に存在するアルコール分子量が減少したり、酸に含まれる陰イオンの吸着による効果によって最終的に得られる酸化チタン分散液の安定性が減少することとなるためである。なお、先の沈殿洗浄工程で得られた沈殿物は、乾燥することなく酸溶液と加熱処理しても良いし、乾燥した後に酸溶液を加えて加熱処理を行っても良い。
【0033】
また、本製造方法における酸洗浄工程は、上記の工程によって得た凝集体をアルコールに分散し、過剰な酸をアルコールに溶解させることを目的とする。この工程に用いられるアルコールとしては、必須ではないがエタノール、メタノール、プロパノール、1-ブタノールなどを好適に用いることができ、酸の洗浄効率を良くするために親水性の高いアルコールがより望ましい。また、本工程においてはアルコール中に分散された沈殿を回収するために遠心分離またはろ過を行う。遠心分離における条件は上記沈殿分離工程等と同様である。さらに、酸の洗浄をより完全にするため回収した沈殿を再度アルコール中に分散にした後遠心分離またはろ過により沈殿を回収する操作を2回以上繰り返すことも有用である。また望ましい酸溶液の範囲としてはpH4以下である。
【0034】
また、本製造方法における分散工程は、得られた沈殿物を蒸留水に加え撹拌することによって行う。撹拌する方法としては、スターラーを用いて行うことが有用であり、スターラーの回転数及び時間の望ましい範囲としては例えば500r.p.mで10分間である。これにより沈殿を蒸留水中に分散させることができる。本分散液では、6ヶ月程度静置しても沈殿の生成は殆ど確認されず、チンダル現象を確認することができる。これに対して従来の一般的な不安定な溶液では、1日程度の静置で沈殿物の生成が見られ、また、酸の洗浄が不十分な場合はこの溶液のpHが3程度になってしまうことがある。
【0035】
本実施形態で得られる酸化チタン分散液は、蒸留水を溶媒とすることが可能で基板に塗布して乾燥するのみでアナターゼ型酸化チタン薄膜を得ることが出来る。また、過酸化物なども含有させずより安全性が高く、また、過酸化物の分解による溶液の不安定性も無いことから長期にわたって安定に保存することが可能である。従来の技術のように、酸化チタン粒子表面を負の電荷を有する官能基で表面修飾することによって蒸留水中に分散させた場合、他の陽イオンを溶液に添加すると酸化チタン粒子の表面の電荷が中和され凝集しやすくなってしまうが、本実施形態により得られる酸化チタン粒子の表面には電荷的に中性のアルコール分子が存在しその水分子との相互作用により安定な分散を実現しているので、他の金属イオンなどの陽イオンを溶液に添加しても凝集を生じることなく安定な分散状態を長期間保つことが出来る。従って、本酸化チタン粒子分散溶液に他の金属イオン含有水溶液を加え混合した後乾燥や基板へのコーティングの後加熱処理することでチタンイオン含有セラミックス材料製造用前駆体として用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明をさらに説明する。しかし、本願発明はここに挙げる実施例によって何ら制限を受けるものではない。
(実施例1)
6価の糖アルコールであるD-マンニトール1.82g(0.01mol)を蒸留水に溶解し全体積を100mlとし0.1mol/lのD-マンニトール水溶液100mlを調製した。次に、ビーカーにチタンテトライソプロポキシド2.84g(0.01モル)秤取った後、そこへ先の0.1mol/lD-マンニトール水溶液100mlを加えよく攪拌した。この結果白色の沈殿物が生成した。
【0037】
このビーカーを密閉し95℃の空気恒温相中に24時間静置した。ここで得られた沈殿を分離するために3000r.p.m.で10分間遠心分離を行った。次に、分離した沈殿を蒸留水100ml中に分散した後再度遠心分離を行った。さらに得られた沈殿を再び100mlの蒸留水中に分散し、後遠心分離を行い、未反応の糖アルコールを除去洗浄した。得られた沈殿を75℃で12時間乾燥し、白色の酸化チタンとアルコール分子が複合化された粉体を得た。
【0038】
なお、上記方法と同様にして、D-マンニトール水溶液濃度を0~0.5mol/lの各濃度に変え、同様の方法によって他の粉体を得た。
【0039】
得られた粉体についてX線回折測定装置(ブルカーエイエックスエス製 MPX18)によって銅ターゲットを用い、加速電圧40kV、電流200mAの測定条件で測定した。その結果を図1に示す。D-マンニトール水溶液濃度が0.02mol/lまではアナターゼ型酸化チタンによる回折ピークが見られた。また、D-マンニトール濃度が増加するにつれて回折ピークの半値幅が増加し、得られた酸化チタンの結晶子径が減少することが分かった。また、D-マンニトール溶液濃度が0.05mol/l以上となると得られた酸化チタンは無定形となることがわかった。この様に糖アルコールであるD-マンニトール溶液濃度がチタンアルコキシドの糖アルコール水溶液による加水分解反応で得られた酸化チタンの結晶性に大きな影響をおよぼした。
【0040】
得られた粉体について、1000℃で1時間アルミナ坩堝中で加熱処理し、その加熱処理前後での重量変化から粉体中のチタン原子数と炭素原子数の割合を計算し、D-マンニトール水溶液濃度に対してプロットしたグラフを図2に示す。D-マンニトール水溶液濃度が0.005mol/lから0.5mol/lに増加すると得られた沈殿のC/Ti(原子数比)が0.20から1.61に増加することがわかった。このことから、チタンアルコキシドとD-マンニトール水溶液を混合し加熱処理を行うことで酸化チタンとD-マンニトール分子間で複合体が生成することがわかった。
【0041】
(実施例2)
実施例1により得られた酸化チタンとD-マンニトールの複合化された粉体0.5gを0.1mol/lから1mol/lの各濃度の硝酸水溶液100ml中に分散し、密閉容器に入れて95℃の空気恒温相中で24時間静置した。この操作により白色ないし乳黄色のゲル状沈殿物が得られた。この沈殿を酸水溶液から分離するために3000r.p.m.で10分間遠心分離を行った。上澄みを捨て、酸を洗浄するために得られた沈殿をエタノール50ml中に分散した。さらにこの分散液から沈殿を回収するために3000r.p.m.で10分間遠心分離を行い、回収した沈殿をエタノール中に分散した。さらにこの分散液から沈殿を回収するために3000r.p.m.で10分間遠心分離を行い得られた沈殿を蒸留水200ml中に分散しスターラーで500r.p.m.で5分間攪拌し分散溶液を得た。
【0042】
得られた分散溶液を1週間静置し溶液の状態の観察を行った。0.1mol/lおよび1mol/lの硝酸水溶液を用いて加熱処理をして得られた分散溶液は、1週間の静置で沈降した。しかし、0.5mol/lの硝酸水溶液を用いて加熱処理して得られた分散溶液は半年間以上殆ど沈殿することなく安定な状態を維持した。酸溶液濃度が低い場合は酸化チタンとD-マンニトールの複合体の分解が十分進行せず酸処理後に得られた酸化チタン粒子が十分に分散しなかったと考えられる。また、酸濃度が高い場合は、酸処理後に得られた酸化チタン粒子の表面に存在するアルコール分子数の減少や酸に含まれる陰イオンの吸着により安定な分散ができなかったと考えられる。即ち、望ましい濃度としては0.1mol/lより高く1mol/lより低い範囲であって、より望ましくは0.2mol/l以上0.8mol/l以下、更に望ましくは0.3mol/l以下~0.7mol/l以下である。
【0043】
実施例1において0.1mol/lのD-マンニトール水溶液を用いて得られた酸化チタンとアルコール分子複合体とその複合体を0.5mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理の後得られた分散溶液を75℃で12時間乾燥して得られた粉体のX線回折図を図3に示す。硝酸水溶液での加熱処理前の複合体粉体は明確な回折ピークを示さず無定形であった。しかし、酸処理により得られた分散溶液を乾燥して得られた粉体は、アナターゼ型の結晶に由来する回折ピークを示していた。この様に、酸化チタンとアルコール分子の複合体は無定形であっても酸溶液で加熱処理した後にはアナターゼ型酸化チタンへ結晶化した。
【0044】
また実施例1において0.1mol/lのD-マンニトール水溶液を用いて得られた酸化チタンとアルコール分子複合体およびその複合体を0.5mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理の後得られた分散溶液を75℃で12時間乾燥して得られた粉体それぞれに含まれるアルコール分子由来の炭素原子含有割合(重量比)をCHN元素分析装置(パーキンエルマー製)を用いて測定した。複合体粉体中の炭素原子含有割合は11.69%(重量%)であった。分散溶液を乾燥して得られた粉体中の炭素原子含有割合は2.28%(重量%)であった。この結果から、酸化チタンとアルコール分子の複合体を酸水溶液中で加熱処理することによってアルコール分子が加水分解反応により除去されたことがわかった。また、酸処理によって酸化チタン粒子間のアルコール分子による結合が切れたために酸化チタン粒子の安定な分散溶液が生成したと考えられる。
【0045】
硝酸水溶液濃度を0.5mol/lとした場合、95℃での加熱処理時間が6時間から24時間までの各時間で処理した場合は、最終的に得られた分散溶液は安定であり1ヶ月の室温での静置でも殆ど沈殿・凝集を生じなかった。しかし、加熱処理時間が1時間以下の場合および48時間以上では1週間の室温での静置で凝集し沈殿の生成が見られた。従って、酸化チタン粒子と複合化しているアルコール分子および酸溶液ごとに適切な酸溶液濃度、処理時間および処理温度を決定する必要がある。
【0046】
実施例1において0.1mol/lのD-マンニトール水溶液を用いて得られた酸化チタンとアルコール分子複合体を0.5mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理の後得られた分散溶液を75℃で12時間乾燥して得られた粉体に含まれる酸化チタン粒子の形態を電解放射型走査型電子顕微鏡(日本電子製)により加速電圧5kV、エミッション電流12μAの条件で観察した。図4にその像を示す。平均粒径8.4nmの粒子が得られたことがわかる。
【0047】
(実施例3)
0.01mol/l、0.05mol/l、0.1mol/l、0.5mol/lのD-マンニトール水溶液それぞれについて実施例1に示した方法で酸化チタンとアルコール分子の複合体を調製した後、実施例2において0.5mol/lの硝酸水溶液をもちいて95℃で24時間加熱処理を行いアナターゼ型酸化チタン粒子分散水溶液を得た。この分散溶液を75℃で12時間乾燥して得られた粉体に含まれる酸化チタン粒子の形態を電解放射型走査型電子顕微鏡(日本電子製 JSM-)により加速電圧5kV、エミッション電流12μAの条件で観察し粒径を求めた。図5にD-マンニトール水溶液濃度と得られたアナターゼ型酸化チタン粒子の粒径の関係をプロットしたグラフを示す。D-マンニトール濃度が0.01mol/lから0.5mol/lへ増加すると粒径は16.4nmから6.9nmへ減少した。以上より、D-マンニトール水溶液濃度を増加させると最終的に得られる酸化チタン粒子分酸溶液中の酸化チタン粒子の粒径が減少することが分かった。
【0048】
(実施例4)
実施例1において用いた6価の糖アルコールであるD-マンニトール水溶液の代わりに同様に6価の糖アルコールである0.1mol/lのD-ソルビトールを用いた以外は同じ条件で酸化チタン-アルコール分子複合体粉体調製を行った。その後、この粉体を実施例2に示した方法で0.5mol/lおよび1mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理して酸化チタン粒子分散溶液の調製を行った。0.5mol/lの硝酸水溶液を用いた場合、得られた分散溶液の安定性が低く1日の静置で沈降が見られた。1mol/lの硝酸水溶液を用いて得られた分散液は1ヶ月間室温で静置しても殆ど沈殿の生成は見られなかった。
【0049】
(実施例5)
実施例1において用いた6価の糖アルコールのD-マンニトール水溶液の代わりに4価の糖アルコールであるエリスルトールの0.1mol/lを用い他は同じ条件で酸化チタン-アルコール分子複合体粉体調製を行った。その後、この粉体を実施例2に示した方法で0.5mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理して酸化チタン粒子分散溶液の調製を行った。得られた分散溶液を75℃で24時間乾燥して得られた粉体のX線回折測定よりアナターゼ型酸化チタンが得られた事がわかった。また得られた分散溶液は1ヶ月間室温で静置しても沈殿の生成は見られなかった。
【0050】
(実施例6)
実施例1において用いたD-マンニトール水溶液の代わりに5価の糖アルコールであるキシリトールの0.1mol/lを用い他は同じ条件で酸化チタン-アルコール分子複合体粉体調製を行った。その後、この粉体を実施例2に示した方法で0.5mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理して酸化チタン粒子分散溶液の調製を行った。得られた分散溶液を75℃で24時間乾燥して得られた粉体のX線回折測定よりアナターゼ型酸化チタンが得られた事がわかった。また得られた分散溶液は1ヶ月間室温で静置しても沈殿の生成は見られなかった。
【0051】
また、実施例1において6価の糖アルコールのD-マンニトールの0.1mol/l水溶液を用い他は同じ条件で酸化チタン-アルコール分子複合体粉体調製を行った。その後、この粉体を実施例2に示した方法で0.5mol/lの硝酸水溶液で95℃、24時間加熱処理して酸化チタン粒子分散溶液の調製を行った。この分散溶液にガラス基板(50mm×25mm×1mm)を浸しゆっくり引き上げて(1cm/分)95℃で乾燥してガラス基板上に酸化チタン薄膜を作成した。得られた膜の膜厚は約100nmであった。また、X線回折測定の結果アナターゼ型の結晶構造を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】酸化チタン-D-マンニトール複合体粉体のX線回折図
【図2】酸化チタン-D-マンニトール複合体複合体粉体中の炭素原子含有割合のD-マンニトール水溶液濃度依存性
【図3】酸化チタン-D-マンニトール複合体粉体の硝酸水溶液中加熱処理(95℃24時間)前後のX線回折図
【図4】酸化チタン粒子分散溶液中に存在する酸化チタン粒子の電界放射型走査電子顕微鏡写真
【図5】酸化チタン分散溶液中に含まれる酸化チタン粒子の粒径のD-マンニトール水溶液濃度依存性
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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