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明細書 :有機透明導電体材料とその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4552014号 (P4552014)
公開番号 特開2007-165199 (P2007-165199A)
登録日 平成22年7月23日(2010.7.23)
発行日 平成22年9月29日(2010.9.29)
公開日 平成19年6月28日(2007.6.28)
発明の名称または考案の名称 有機透明導電体材料とその作製方法
国際特許分類 H01B  13/00        (2006.01)
H01B   5/14        (2006.01)
FI H01B 13/00 503B
H01B 5/14 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2005-362376 (P2005-362376)
出願日 平成17年12月15日(2005.12.15)
審査請求日 平成19年3月26日(2007.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
発明者または考案者 【氏名】星野 勝義
【氏名】宮崎 智史
【氏名】金 商国
審査官 【審査官】冨士 美香
参考文献・文献 特開平02-016188(JP,A)
特開昭63-037119(JP,A)
特開平03-147890(JP,A)
宮崎智史 他,電池反応を利用したポリカルバゾールハイブリッド膜の形成,電気化学会第71回大会 講演要旨集,日本,社団法人 電気化学会,2004年 3月24日,第450頁
調査した分野 H01B 13/00
H01B 5/14
特許請求の範囲 【請求項1】
カルバゾールあるいはその誘導体、及び過塩素酸テトラブチルアンモニウムからなる支持電解質を溶解した溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位+0.5V~1.8Vの範囲で電解し、陽極上に支持電解質アニオンがドープされたポリカルバゾール膜を1100nm以下の膜厚で形成させた後、20nm以下のアルミニウム膜を形成し、前記ポリカルバゾール膜と前記アルミニウム膜を接触させることによって前記ポリカルバゾール膜及び前記アルミニウム膜を透明化する、透明導電体膜を得る方法。
【請求項2】
前記アルミニウム膜を形成した後、透明ポリマー膜をコートし、前記陽極から前記透明ポリマー膜、前記ポリカルバゾール膜及び前記アルミニウム膜を剥離することによって、自己自立型(フリースタンディング)の透明導電体膜を得る請求項1記載の透明導電体膜を得る方法。
【請求項3】
カルバゾールあるいはその誘導体、及び過塩素酸テトラブチルアンモニウムからなる支持電解質を溶解した溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位+0.5V~1.8Vの範囲で電解し、陽極上に支持電解質アニオンがドープされたポリカルバゾール膜を1100nm以下の膜厚で形成させた後、透明ポリマー膜をコートし、前記ポリカルバゾール膜を透明ポリマー膜とともに剥離することによって、自己自立型(フリースタンディング)のポリカルバゾール膜を形成し、しかる後に20nm以下のアルミニウム膜を形成し、前記ポリカルバゾール膜と前記アルミニウム膜を接触させることによって前記ポリカルバゾール膜及び前記アルミニウム膜を透明化する、透明導電体膜を得る方法。
【請求項4】
ポリカルバゾールの物質量と金属の物質量の化学量論を一致させることを特徴とする請求項1又は3記載の透明導電体膜を得る方法。
【請求項5】
蒸着により前記アルミニウム膜を形成することを特徴とする請求項1又は3記載の透明導電体膜を得る方法。
【請求項6】
前記ポリカルバゾールの膜厚は、前記アルミニウム膜の膜厚を1とした場合、53以上75未満である請求項1又は3記載の透明導電体膜を得る方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルバゾールまたはその誘導体を基本骨格とした透明導電体材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電材料は、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの画像表示パネル面や太陽電池パネル面に利用され、電圧印加や電流注入目的の電極として利用されている。また二次元情報入力装置であるタッチパネルにも広く用いられている。さらに、透明性を有する包装材への用途もあり、包装物の中身が見えるので内包物の安全性を検査しやすくなる。
【0003】
そしてその材料としては、無機酸化物である酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、及びフッ素ドープ酸化スズ(FTO)の薄膜をガラス基板あるいはプラスチックシート上に堆積したパネルが用いられてきた。しかしながら、材料や製膜のコストが高く、例えば有機電界発光素子や有機太陽電池のかなりのコストが上記の無機透明電極に費やされてしまうといった問題がある。また有機物質との電子的(あるいは化学的)相互作用が乏しく、例えば有機EL素子の電荷輸送層への電荷注入効率に問題が生じている。
【0004】
このような観点から、導電性微粒子を透明絶縁性ポリマー中に分散し、導電体膜を形成しようとする試みがあるが、導電性粒子としてITO微粒子を使用するために、上記問題の解決には至らない(特許文献1~3参照)。
【0005】
また、近年、ポリチオフェン系の溶媒可溶性導電性ポリマー薄膜を基板上にコーティングするという試みがあるが(特許文献4~5参照)、材料がコスト高となる問題点がある。さらに、こうした導電性ポリマー中には、電荷担体となるポーラロンあるいはバイポーラロン(カチオンラジカルあるいはジカチオン)部位が不可避的に存在するが、これらの部位は可視域~赤外域に光吸収を持つため、厚膜にすると着色してしまう。従って機械的強度を上げるために厚膜にすると透明性を犠牲にしなければならない。
【0006】
以上のように、比較的厚膜にして機械的強度を上げた場合にも良好な透明性を保ち、かつ作製(合成)が容易であるが故コストが低く抑えられる有機透明導電体材料は未だ実現されていない。
【0007】

【特許文献1】特開平7-219697号公報
【特許文献2】特開2000-123658号公報
【特許文献3】特開平3-167590号公報
【特許文献4】特開2002-60736号公報
【特許文献5】特開2005-146259号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したような従来の問題点を解決し、以下の目的を達成することを目的とする。本発明では、安価な市販試薬を用いた平易な電解重合のプロセスにより、有機膜を形成し、しかる後に金属と接触させることによって、機械的強度に優れ、かつ実用に耐える電流の注入・引き出しが可能なハイブリッド透明導電体を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、先に、電解重合法により形成された導電性ポリマー膜(アニオンがドーピングされたポリピロール膜など)にアルミニウムやインジウムといった金属を蒸着すると、ポリピロール膜と金属のハイブリッド化が進行し、電流注入(酸化還元)の繰り返しに対して耐久性の高いハイブリッド膜となることを示した(特許公開2004-99640)。本発明では、それら導電性ポリマーの中でも、ポリカルバゾールおよびその誘導体を採用し、導電性ポリマーと金属の比を最適値にすることによって、透明導電体ハイブリッド膜が形成されることを見出したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、カルバゾールおよびその誘導体の溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位+0.5 V~+1.8 Vの範囲で電解し、陽極上にアニオンがドーピングされた緑色のポリカルバゾール膜を形成(電解重合)させた後、カルバゾール膜の物質量に対して最適な物質量の金属と接触させることにより、電気伝導性を有する透明ハイブリッド膜を形成することを特徴とする有機透明導電体の形成方法である。
また、本発明は、上記手法で陽極上に有機透明導電体を形成させた後、透明汎用ポリマー膜をコートし、有機透明導電体を汎用ポリマー膜とともに剥離することによって、自己自立型(フリースタンディング)の透明導電体膜を得る方法である。
さらに、本発明は、上記手法によって陽極上にポリカルバゾール膜を形成せしめた後、透明汎用ポリマー膜をコートし、ポリカルバゾール膜を汎用ポリマー膜とともに剥離することによって、まずは自己自立型(フリースタンディング)のポリカルバゾール膜を得た後に、カルバゾール膜の物質量に対して最適な物質量の金属と接触させることにより、電気伝導性を有する透明ハイブリッド膜を得ることを特徴とする有機透明導電体の形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によると、カルバゾールあるいはその誘導体を用いるので、材料コストがかからない。また有機物質との電子的(あるいは化学的)相互作用が高い。さらに、厚膜にしても、着色してしまう問題がない。さらに、これまでに殆ど作製例のない機械的強度に優れた有機透明導電体膜を形成することができる。
【0012】
本発明の方法で製造した有機透明導電体膜は、比較的厚みをもつのにもかかわらず実用に供する導電性を有するので、(1)液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの画像表示パネル面の電極材料や(2)太陽電池パネル面の電極材料として有用である。また、(3)二次元情報入力装置であるタッチパネルへの応用、(4)透明性を有する包装材への利用等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、この発明の実施形態(以下、本発明という)を説明する。
(カルバゾール溶液の準備)
市販されているカルバゾールをジクロロメタンに溶解し、カルバゾール溶液を準備する。
カルバゾールの濃度に特に制限はないが、1 mM~10 mMが望ましい。
カルバゾールの一般式(1)を以下に記すが、一般式(1)中、R~Rは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、水素原子又は置換基を表す。また、互いに連結して環を形成してもよい。
【化1】
JP0004552014B2_000002t.gif
またカルバゾールを溶解させるための溶媒は、比較的高い誘電率をもつような電気化学分野で利用される溶媒が用いられる。例えば、ジクロロメタン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、γ—ブチロラクトン、ポリビニルピロリドンあるいはそれら溶媒の混合溶媒およびそれら溶媒と水の混合溶媒が用いられる。良質なポリカルバゾールを得るためには、ジクロロメタン、アセトニトリル、あるいはメタノールと水の混合溶媒が望ましい。溶媒中には電気化学反応を生じさせるために必要な塩を添加するが、良質なポリカルバゾール膜形成のために、電解重合電位の範囲内(飽和カロメル参照電極に対し、電解電位+0.5 V~+1.8 Vの範囲)で電極反応を受けない塩として(C+ClOを挙げることができる。
【0014】
(ポリカルバゾール膜の生成)
効率よくポリカルバゾール膜が生成し始める電解電位の下限は、置換基R~Rに依存して変わるが、飽和カロメル参照電極に対して+0.5 V~+1.0 V程度であり、電位が+1.8
Vよりも貴な電位になると、カルバゾールの窒素部位同士が連結し、電気伝導性や通電に対して耐久性の悪い9,9’-ジカルバジルが生成してしまう。また、+1.8 Vよりも貴な電位は、溶媒や添加塩の分解が起こり、カルバゾールの電解重合には望ましくない。なお、電解重合の操作は、空気中の酸素が係わる電気化学反応を回避するため、溶液を含む電解セル内を窒素雰囲気とする、すなわち窒素バブリングを行うことが望ましい。しかしながら、通常の大気下でも上記ポリカルバゾール膜は形成される。電解温度は、0℃~30℃程度でよい。
【0015】
陽極としては、導電材料であり、かつ飽和カロメル参照電極に対して+0.5 V~+1.8 V の電位で溶解しない金属、例えばPt, Au,ステンレスなどの金属や炭素材料が望ましい。また酸化インジウムスズ(ITO)や酸化スズなどの導電性酸化物や導電性プラスチック、そしてシリコンやガリウムヒ素等の導電性を有する半導体でもよい。陰極材料としては、Pt, Au, Cu, Ni, ステンレス等のほとんどの金属や、上記の酸化インジウムスズ(ITO)や酸化スズなどの導電性酸化物や導電性プラスチック、そしてシリコンやガリウムヒ素等の導電性を有する半導体が使用される。
【0016】
なお、ポリカルバゾール膜の膜厚は、電解重合の際の通電電気量と原料として用いるカルバゾールの構造により規定される。一例として、置換基R~Rがすべて水素の場合、陽極基板電極
1 cm2に対して1 mCの電荷量を通電すると、得られるポリカルバゾール膜の膜厚は16 nmとなり、膜厚は通電電気量に比例して増加する。
【0017】
(金属との接触、ハイブリット膜の形成)
上記の電解重合操作で得られるポリカルバゾール膜中には、カチオンラジカル及びジカチオンが存在する。そしてそのカチオンラジカル及びジカチオンを電気的に中和するために、電解溶液に含まれる塩のアニオン(ClO4-,BF4-,PF6-等)が膜中に取り込まれる(アニオンドーピング)。また、アニオンドープされたポリカルバゾールは、鮮明な緑色を呈する。そして次に、カチオンラジカル及びジカチオン/金属/吸着水が共存する状態を作り出し、ガルバニ腐食反応を生じせしめる。この状態を作り出す一つの方法としては、ポリカルバゾールフィルム上に金属を蒸着する方法が挙げられる。その他、スッパタ法、メッキ、
電着、電子ビーム法等が可能である。
【0018】
ポリカルバゾールと比べて仕事関数の小さな金属、例えば、アルミニウム、インジウム、亜鉛、チタン、カドミウム、マンガン、鉄、銅、銀、スズ、アンチモン、鉛、ナトリウム、カリウム、又はカルシウムを蒸着し、吸着水が存在する状態(典型的には通常の空気中)に保持すると、ポリカルバゾール-金属間の仕事関数の差が駆動力となり、蒸着した金属からポリカルバゾールに電子が移動する。ポリカルバゾールに注入された電子は、ポリカルバゾール内にあるカチオンラジカルあるいはジカチオンと結合し消滅するか、ポリカルバゾール内に存在する吸着水を還元する。
一方、電子を失い酸化された金属は金属イオンとなるが、これはポリカルバゾール内のカチオンラジカルおよびジカチオンと対を成していた負イオン(アニオンドーパント)と結合して塩を形成するか、上述の水の還元反応に加わり、金属酸化物となる。すなわち、金属とカルバゾール間で、ガルバニ腐食反応が生じ、金属塩と金属酸化物が形成される。
ここで、もしポリカルバゾールの物質量(厳密には、ポリカルバゾール内に存在するカチオンとジカチオンの正味の物質量)と金属の物質量の化学両論が一致した場合には、生成したハイブリッド膜は透明となる。しかしながら、金属の物質量が化学量論比よりも多い場合には、未反応の金属が残存し、透明化に至らない。また、金属の物質量が化学量論比よりも少ない場合には、ポリカルバゾールのカチオンラジカルおよびジカチオンに起因する緑色が残り、やはり白色透明には至らない。
【0019】
(応用)
上記手法では、有機透明導電体膜が陽極基板上に形成される。このような素子形態、すなわち、陽極基板と一体化した形態での利用は、例えば液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの画像表示パネル面の電極材料や、太陽電池パネル面の電極材料に好適に用いることができる。
【0020】
透明性を有する包装材への利用等の目的では、基板に付着していない状態、すなわち、自己自立型の形態が望ましい。そこで、上記で陽極基板上に得られたハイブリッド膜上に絶縁性ポリマー樹脂をコートし、乾燥後に剥離する方法、あるいは陽極基板上に得られたポリカルバゾール膜上に絶縁性ポリマー樹脂をコートし、剥離した後に金属と接触させてハイブリッド膜を得る方法により自己自立型の有機透明導電性膜を得ることができる。
【0021】
その際に用いる絶縁性ポリマーとしては、可視領域に光吸収が無く(透明)、製膜性に優れたポリマーであれば特に制限はない。例えば、バインダー樹脂として多用されているポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂などが好適に用いられる。一例として、帝人化学社製ポリカーボネート樹脂をジクロロメタンとクロロホルムの混合溶媒に溶解させ、塗布溶液を調製する。その際の、ポリカーボネート樹脂:ジクロロメタン:クロロホルムの重量比は、1:8:8とする。この塗布溶液に、ハイブリッド膜およびポリカルバゾール膜が形成された陽極基板を浸漬し、ポリカーボネート膜でハイブリッド膜およびポリカルバゾール膜を被覆する。これを60℃において3時間以上乾燥させ、溶媒を蒸発させれば、容易に膜を陽極基板から剥離させることができる。
以下に、本発明について、さらに詳細に、図面により説明する。
【実施例】
【0022】
実施例1
市販されているカルバゾール(5mM)と過塩素酸テトラブチルアンモニウム(0.1M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液を、耐熱ガラス製の2部屋タイプの電解セルの主室に入れる。そして、この主室に酸化インジウム・スズ(ITO)膜170 nmがコートされたガラス電極と白金板電極を浸漬する。一方、焼結ガラス膜で隔てられた副室にも上記電解液を入れ、飽和カロメル参照電極(SCE)を浸漬する。主室の水溶液に窒素ガスを40分通し、溶存酸素を排除する。そして、ITOガラス電極を動作電極、白金板電極を対向電極、SCEを参照電極として定電位電源(ポテンショスタット)に接続する。動作電極に、参照電極に対して+1.2 Vの電位を印加した。通電電気量は70 mC/cm2であり、電解中は電解液上部に窒素ガスを流し、窒素雰囲気を保った。なお、電解セルは恒温機中に設置されており、電解温度は10℃一定に保たれている。
【0023】
この操作により、ITOガラス電極上に膜厚1100 nmのポリカルバゾールの緑色膜が形成された。緑色膜が形成されたITOガラス電極基板を電解液から取り出し、ジクロロメタンで洗浄した。
次に、このポリカルバゾール膜上に、20 nmの厚みでアルミニウムを蒸着した。図1に、アルミニウムを蒸着した際に、その蒸着部分が時間とともにどのような色変化をするのかを示した写真を示す。写真中のスケールバーは5 mmの長さを示す。アルミニウムの蒸着部分は、試料の上半分の部分であり、試料が放置されている雰囲気は、通常の雰囲気(約25℃、湿度約50%)である。蒸着終了後2分程度(図中a)では、金属光沢をもつアルミニウム層が見えるが、30分(図中b)、1時間(図中c)、1時間30分(図中d)、2時間(図中e)、3時間(図中f)、6時間(図中g)そして24時間(図中h)と時間が経過する毎に、アルミニウムに起因する金属光沢とポリカルバゾールに起因する緑色が退色してゆき、24時間経過後にはほぼ白色透明なハイブリッド膜に変化することがわかる。
【0024】
実施例2
実施例1と同様な操作によりITOガラス電極基板上にポリカルバゾールを形成した。ただし通電電気量は28 mC/cm2であるので、得られるポリカルバゾール膜の膜厚は450 nmとなる。そして膜厚が8 nmになるようにアルミニウムの蒸着を行った。そして、十分な時間試料を空気中に保持することにより、図1に示される退色反応(ハイブリッド化の反応)を進行させた。
【0025】
図2に、得られたハイブリッド膜断面の透過型電子顕微鏡写真を示す。写真下のスケールバーの長さは、100 nmの長さを示す。写真中央のハイブリッド膜は(膜の上部には膜の保護のために蒸着したタングステンとカーボンの層がある。また、膜の下にはITOの黒のコントラストの層が見える)、白と黒のコントラストから構成されているが、エネルギー分散型X線分光分析測定により、白のコントラストの部分は、脱ドープされたポリカルバゾールであり、また黒のコントラストの部分は、脱ドープされたポリカルバゾール+酸化アルミニウム+過塩素酸アルミニウムから構成されていることがわかった。すなわち、得られたハイブリッド膜は、脱ドープされたポリカルバゾール膜の中に、酸化アルミニウム及び過塩素酸アルミニウムのナノサイズの領域が均一に分散された、有機—無機ナノハイブリッド膜であることがわかった。
【0026】
実施例3
実施例1と同様な操作によりITOガラス電極基板上にポリカルバゾールを形成した。ただし通電電気量は60 mC/cm2であるので、得られるポリカルバゾール膜の膜厚は960 nmとなる。そして膜厚を種々変えてアルミニウムの蒸着を行った。そして、十分な時間試料を空気中に保持することにより、図1に示される退色反応(ハイブリッド化の反応)を進行させた。退色反応が収束した後に、試料の紫外可視吸収スペクトルを測定し、蒸着アルミニウムの膜厚と試料の透明度の関連を検討した。
【0027】
図3に、試料の680 nmの光における吸光度と蒸着アルミニウムの膜厚の関係を示す。緑色のポリカルバゾール膜は、680 nmに光吸収をもつので、この波長の吸光度をモニターすることで、ハイブリッド化反応の進行の程度を知ることができる。図3の結果から、アルミニウムの量が16 nmの時に680 nmにおける吸光度が最小となった。これは、アルミニウムの蒸着量が0~16 nmの範囲では、アルミニウムがすべてハイブリッド反応に使われており、16 nmにおいて960 nm厚のポリカルバゾールとちょうど反応する、すなわち化学量論的に反応することを示す。一方、アルミニウムの蒸着厚が16 nmを超えると、アルミニウムがすべて反応せず、金属アルミニウムが消え残るので吸光度が上昇する。以上の結果から、透明度が最も高くなるポリカルバゾールと蒸着アルミニウムの膜厚比は、60:1であることが判明した。なお、この比により形成されたハイブリッド膜は、可視領域全体で約83%の光透過率を示した。
【0028】
実施例4
通電電気量を50 mC/cm2とした以外は実施例1と同じ条件で、ポリカルバゾール膜を形成した(ポリカルバゾールの膜厚は800 nm)。そして膜厚を種々変えてアルミニウムの蒸着を行った。そして、十分な時間試料を空気中に保持することにより、図1に示される退色反応(ハイブリッド化の反応)を進行させた。退色反応が収束した後に、試料の電気伝導度を四探針法により測定し、蒸着アルミニウムの膜厚と試料の電気伝導度の関連を検討した。
【0029】
図4に、試料の電気伝導度と蒸着アルミニウムの膜厚の関係を示す。蒸着アルミニウムの膜厚が0~15 nmの範囲では、ポリカルバゾールの脱ドープ反応を含むハイブリッド化反応が進行するので、電気伝導度が減少した。一方アルミニウムの蒸着厚が15 nmを超えると、アルミニウムがすべて反応せず、金属アルミニウムが消え残るので電気伝導度が上昇した。またアルミニウム蒸着膜の膜厚が15 nm付近の時に、白色透明度の高いハイブリッド膜が得られた。アルミニウムを蒸着しないとき(図4において蒸着アルミニウムの膜厚が0のとき)、すなわちポリカルバゾール膜は5.4×10-3 S/cmの電気伝導度を示した。一方、白色透明度の高いハイブリッド膜(アルミニウムの蒸着膜の膜厚が15 nmのとき)においても、1.6×10-4 S/cmの電気伝導度を示した。通常、導電性ポリマー膜は、脱ドープ反応により電気伝導度は数桁にわたって低下するが、上記例の場合、ハイブリッド化反応に脱ドープ反応を含むにもかかわらず、電気伝導度の値はたかだか1桁しか低下しなかったことに注目すべきである。
【0030】
実施例5
通電電気量を54 mC/cm2とした以外は実施例1と同じ条件で、ポリカルバゾール膜を形成した(ポリカルバゾールの膜厚は860 nm)。そして得られたポリカルバゾール膜に15 nmの膜厚のアルミニウム膜を蒸着し、空気中に十分な時間保持することにより白色透明度の高いハイブリッド膜を形成した。次に、このハイブリッド膜が形成されたITO基板を、過塩素酸テトラブチルアンモニウム (0.1 M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液に浸漬し、サイクリックボルタンメトリー(一定の速度で動作電極にかかる電位を変え、そのときに流れる電流を測定することによって電流—電位の関係を測定する方法)を行うことによりハイブリッドフィルムの酸化還元繰り返し耐久性試験を行った。このときの対向電極は白金板であり、参照電極は飽和カロメル電極(SCE)を使用した。なお、サイクリックボルタンメトリー測定中は電解液上部に窒素ガスを流し、窒素雰囲気を保った。
【0031】
図5に、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られた電流—電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す。正方向の電位掃引により正の電流が流れているが、これはハイブリッド膜の酸化(ホールの注入)に対する応答である。一方、負方向の電位掃引により負の電流が流れているがこれはハイブリッド膜の還元(電子の注入)に対する応答である。電位掃引を繰り返すとほぼ5回目以降は定常の電流が流れており、ハイブリッド膜の酸化還元耐久性は極めて良好であることがわかる。
【0032】
比較例1
通電電気量を62 mC/cm2とした以外は実施例4と同じ条件で、ポリカルバゾール膜を形成した(ポリカルバゾールの膜厚は990 nm)。そして、アルミニウムを蒸着せず、得られたポリカルバゾール膜が形成されたITO基板を、過塩素酸テトラブチルアンモニウム (0.1 M)を溶解したジクロロメタン溶液からなる電解液に浸漬し、サイクリックボルタンメトリー(一定の速度で動作電極にかかる電位を変え、そのときに流れる電流を測定することによって電流—電位の関係を測定する方法)を行うことによりハイブリッドフィルムの酸化還元繰り返し耐久性試験を行った。このときの対向電極は白金板であり、参照電極は飽和カロメル電極(SCE)を使用した。なお、サイクリックボルタンメトリー測定中は電解液上部に窒素ガスを流し、窒素雰囲気を保った。
【0033】
図6に、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られたサイクリックボルタンモグラムを示す。アルミニウムを蒸着してハイブリッド化を行わないこのケースでは、ポリカルバゾール膜の膨張・収縮・溶解が生じてしまい、電位印加の初期では、膜の剥離などの構造変化に伴う大きな電流が流れ、後半では膜の溶解等で反応物が減少することによる電流の現象が見られた。電位掃引を繰り返す毎に変化する非定常の電流が流れ、ポリカルバゾール膜だけではその酸化還元耐久性は極めて悪いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の方法によれば、高価な透明導電性無機酸化物薄膜の代替として、これまでほとんど作製例のなかった白色透明度の高い有機導電性膜を形成でき、有機電子材料を用いた表示素子(液晶ディスプレイ、有機電界発光素子など)及びエネルギー変換素子(有機太陽電池)の電荷注入電極を提供することができる。また、有機物であるがゆえフレキシブルであり、フレキシブル性が要求される二次元情報入力装置であるタッチパネルや透明性を有する包装材に対する材料も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、実施例1で述べたハイブリッド化反応の進行の様子を示す図面代用の写真である。
【図2】図2は、図1の固体反応で得られるハイブリッドフィルムの断面ナノ構造を示した図面代用の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】図3は、実施例1に示された固体反応を蒸着アルミニウムの膜厚を種々変えて行い、得られたハイブリッド膜の680 nmの光における吸光度と蒸着アルミニウムの膜厚の関係を示す説明図である。
【図4】図4は、実施例1に示された固体反応を蒸着アルミニウムの膜厚を種々変えて行い、得られたハイブリッド膜の電気伝導度と蒸着アルミニウムの膜厚の関係を示す説明図である。
【図5】図5は、実施例1で示されたようなポリカルバゾール膜とアルミニウム蒸着膜の間の固体反応を化学量論比で生じせしめ、得られた白色透明度の高いハイブリッド膜のサイクリックボルタンメトリーによって得られる電流—電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す説明図である。
【図6】図6は、ポリカルバゾール膜のサイクリックボルタンメトリーによって得られる電流—電位特性(サイクリックボルタンモグラム)を示す説明図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5