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明細書 :手術ロボットの動作補償システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4869124号 (P4869124)
公開番号 特開2008-237783 (P2008-237783A)
登録日 平成23年11月25日(2011.11.25)
発行日 平成24年2月8日(2012.2.8)
公開日 平成20年10月9日(2008.10.9)
発明の名称または考案の名称 手術ロボットの動作補償システム
国際特許分類 A61B  19/00        (2006.01)
FI A61B 19/00 502
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2007-086111 (P2007-086111)
出願日 平成19年3月29日(2007.3.29)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成18年10月27日~29日 日本コンピュータ外科学会主催の「第15回日本コンピュータ外科学会大会」において文書をもって発表
審査請求日 平成21年12月21日(2009.12.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
発明者または考案者 【氏名】藤江 正克
【氏名】梅田 剛史
【氏名】岡本 淳
【氏名】小林 洋
個別代理人の代理人 【識別番号】100114524、【弁理士】、【氏名又は名称】榎本 英俊
審査官 【審査官】佐藤 智弥
参考文献・文献 特開2003-299674(JP,A)
調査した分野 A61B 19/00
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の装置からなる手術ロボットの動作補償システムであって、
前記手術ロボットの動作により移動可能な術具の先端位置を特定する術具位置特定手段と、動きのある臓器の基準部位の位置を特定する臓器位置特定手段と、前記各特定手段で特定された各位置に基づいて、前記基準部位と前記術具の先端との相対位置関係に応じ、前記臓器の動きを補償しない通常モードと前記臓器の動きを補償する動作補償モードとの間で前記装置の状態を切り替える装置切替手段と、静止した状態で前記臓器を撮像可能な第1の撮像装置と、前記臓器の動きに追従して動作しながら前記臓器を撮像可能な第2の撮像装置と、これら各撮像装置からの画像の何れかを選択して術者側に呈示する画像処理装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記基準部位と前記術具の先端との離間距離が所定値以下の場合に、前記画像処理装置を前記動作補償モードとし、前記第2の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させる一方、前記離間距離が所定値を超える場合に、前記画像処理装置を前記通常モードにし、前記第1の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させることを特徴とする手術ロボットの動作補償システム。
【請求項2】
前記術具を移動可能に動作するロボット本体と、当該ロボット本体の動作を制御する制御装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記基準部位と前記術具の先端との離間距離が所定値以下の場合に、前記制御装置を前記動作補償モードにし、前記臓器の動きに追従して前記術具を動作させる一方、前記離間距離が所定値を超える場合に、前記制御装置を通常モードにし、前記臓器の動きに関係なく前記術具を動作させることを特徴とする請求項1記載の手術ロボットの動作補償システム。
【請求項3】
複数の装置からなる手術ロボットの動作補償システムであって、
前記手術ロボットの動作により移動可能な術具の先端位置を特定する術具位置特定手段と、動きのある臓器の動きに追従して変動する臓器周囲の空間である補償空間の位置を特定する臓器位置特定手段と、前記各特定手段で特定された各位置に基づいて、前記補償空間と前記術具の先端との相対位置関係に応じ、前記臓器の動きを補償しない通常モードと前記臓器の動きを補償する動作補償モードとの間で前記装置の状態を切り替える装置切替手段と、静止した状態で前記臓器を撮像可能な第1の撮像装置と、前記臓器の動きに追従して動作しながら前記臓器を撮像可能な第2の撮像装置と、これら各撮像装置からの画像の何れかを選択して術者側に呈示する画像処理装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記術具の先端が前記補償空間内に存在する場合に、前記画像処理装置を前記動作補償モードにし、前記第2の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させる一方、前記術具の先端が前記補償空間外に存在する場合に、前記画像処理装置を前記通常モードにし、前記第1の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させることを特徴とする手術ロボットの動作補償システム。
【請求項4】
前記術具を移動可能に動作するロボット本体と、当該ロボット本体の動作を制御する制御装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記術具の先端が前記補償空間内に存在する場合に、前記制御装置を前記動作補償モードにし、前記臓器の動きに追従して前記術具を動作させる一方、前記術具の先端が前記補償空間外に存在する場合に、前記制御装置を前記通常モードにし、前記臓器の動きに関係なく前記術具を動作させることを特徴とする請求項3記載の手術ロボットの動作補償システム。
【請求項5】
前記臓器位置特定手段は、前記臓器に取り付けられて、体外側で赤外線を照射するマーカを保持するマーカ保持具を含み、
前記第2の撮像装置は、前記マーカ保持具に固定されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の手術ロボットの動作補償システム。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、手術ロボットの動作補償システムに係り、更に詳しくは、手術ロボットを使って、動いた状態の臓器の手術を行う際に、前記手術ロボットを構成する所定の装置について、臓器の動きを補償した状態とそうでない状態とに自動的に切り替えることのできる手術ロボットの動作補償システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の心臓の周囲には、冠動脈と呼ばれる動脈が張り巡らされており、この冠動脈が動脈硬化等によって狭窄、閉塞すると、心筋梗塞と呼ばれる心筋壊死が発生する。このような冠動脈の狭窄、閉塞に対する治療としては、狭窄、閉塞した血管部位を迂回するように冠動脈の別経路を新たに確保する冠動脈バイパス手術が行われている。この手術の際には、血管の切断や吻合を行い易くするために患者の心臓を一旦停止させ、患者の血液の循環状態を維持する人工心肺装置が使われることが多い。ところが、この人工心肺装置を使用すると、術後の心機能低下や血流の変化に伴う脳障害等が発生する場合があるため、人工心肺装置を使わずに前記手術を行うことが望ましい。しかしながら、このときは心臓が拍動状態にあり、心筋に張り巡らされた冠動脈に対する切断や吻合等の作業が行い難い。そのため、心臓スタビライザと呼ばれる器具を心臓表面に当てることにより、術部付近の心臓表面の動きを規制しながら、切断や吻合等が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、前記スタビライザを心臓表面に当てて手術を行う場合、心臓の動きを強制的に抑制するものであるから、患者の心臓に対する負担が大きくなり、あまり好ましい方法とは言えない。
【0004】
そこで、人間の手では、前記スタビライザを使用せずに心臓を拍動させたまま前述の冠動脈バイパス手術等の心疾患手術を行うことが難しいことから、メスや鉗子等の術具をロボットアームに保持させ、当該ロボットアームが心臓表面の拍動に合わせて動作可能となる拍動補償型の手術ロボットが研究されている。この手術ロボットは、医師の遠隔操作に応じてロボットアームが動作するマスタースレーブ方式を基本として、前記拍動補償を行えるようにロボットアームを動作制御することが考えられる。この際、前記拍動補償を行うためには、術部付近の心臓表面の動きを正確に把握しなければならず、本出願人らは、心臓等の臓器の動きを簡単な構成で正確に把握できる動作検出システムを既に提案している(特許文献2参照)。

【特許文献1】特開2003-61966号公報
【特許文献2】特開2006-271545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、手術ロボットの拍動補償としては、特許文献2の前記動作検出システムを使って心臓の拍動状態を検出し、当該検出結果に応じ、ロボットアームに保持された術具を心臓の動きに追従して動かすことが考えられる。更には、心臓の拍動状態の検出結果により、心臓表面の術部付近の画像を撮像する内視鏡を心臓の動きに追従して動かすことで、心臓表面と当該心臓に追従して動く術具とが相対的に静止して見える画像を取得し、当該画像をマスター側の術者に呈示することが考えられる。
【0006】
例えば、前述したように、心臓を拍動させたまま冠動脈バイパス手術を行う場合、別の人体の部位から持ってきたバイパス血管を保持しながら、当該バイパス血管の吻合部位となる端部に針糸を通すフェーズ1と、バイパス血管を通った針糸を心臓表面の血管(冠動脈)に通し、これらバイパス血管と冠動脈を縫合するフェーズ2とが行われる。このフェーズ2にあっては、拍動している心臓表面の血管に針糸に通すため、術具を心臓の動きに追従して動かし、当該術具と心臓表面とがともに静止して見える画像を術者に呈示するような拍動補償を行うことにより、拍動している心臓にアプローチするマスター側での操作が行い易くなる。
【0007】
ところが、前記フェーズ1にあっては、拍動する心臓表面から離れた空間で、実際に静止しているバイパス血管に針糸を通すため、前述した拍動補償を行うと、術具が心臓の動きに追従して動いてしまい、静止状態のバイパス血管に針糸を通す処置が却って行い難くなる。しかも、前記拍動補償によって、内視鏡が心臓表面の拍動に追従して動いてしまうと、実際は静止しているバイパス血管が内視鏡と相対的に動いてしまうことになり、当該バイパス血管が動いて見える画像が得られ、マスター側での操作が行い難くなる。以上から、フェーズ毎に拍動補償のON、OFFを切り替える必要があり、当該切り替えとしては、術者の手動操作によって行うこともできるが、手術を円滑に行うためには、前記切り替えを自動的に行うことが望ましい。
【0008】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、動きのある臓器の手術を行う際に、手術ロボットを構成する所定の装置に対し、手術の状況に応じて臓器の動きを補償した状態とそうでない状態とを自動的に切り替えることができる手術ロボットの動作補償システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、複数の装置からなる手術ロボットの動作補償システムであって、
前記手術ロボットの動作により移動可能な術具の先端位置を特定する術具位置特定手段と、動きのある臓器の基準部位の位置、若しくは、当該臓器の動きに追従して変動する臓器周囲の空間である補償空間の位置を特定する臓器位置特定手段と、前記各特定手段で特定された各位置に基づいて前記装置の状態を切り替える装置切替手段とを備え、
前記装置切替手段は、前記基準部位若しくは前記補償空間と前記術具の先端との相対位置関係に応じて、前記臓器の動きを補償しない通常モードと前記臓器の動きを補償する動作補償モードとの間で前記装置を切り替える、という構成を採っている。
【0010】
(2)また、前記術具を移動可能に動作するロボット本体と、当該ロボット本体の動作を制御する制御装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記基準部位と前記術具の先端との離間距離が所定値以下の場合に、前記制御装置を前記動作補償モードにし、前記臓器の動きに追従して前記術具を動作させる一方、前記離間距離が所定値を超える場合に、前記制御装置を通常モードにし、前記臓器の動きに関係なく前記術具を動作させる、という構成を採ることが好ましい。
【0011】
(3)ここで、前記術具を移動可能に動作するロボット本体と、当該ロボット本体の動作を制御する制御装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記術具の先端が前記補償空間内に存在する場合に、前記制御装置を前記動作補償モードにし、前記臓器の動きに追従して前記術具を動作させる一方、前記術具の先端が前記補償空間外に存在する場合に、前記制御装置を前記通常モードにし、前記臓器の動きに関係なく前記術具を動作させる、という構成を採ることもできる。
【0012】
(4)また、静止した状態で前記臓器を撮像可能な第1の撮像装置と、前記臓器の動きに追従して動作しながら前記臓器を撮像可能な第2の撮像装置と、これら各撮像装置からの画像の何れかを選択して術者側に呈示する画像処理装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記基準部位と前記術具の先端との離間距離が所定値以下の場合に、前記画像処理装置を前記動作補償モードとし、前記第2の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させる一方、前記離間距離が所定値を超える場合に、前記画像処理装置を前記通常モードにし、前記第1の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させる、という構成を採ることが好ましい。
【0013】
(5)ここで、静止した状態で前記臓器を撮像可能な第1の撮像装置と、前記臓器の動きに追従して動作しながら前記臓器を撮像可能な第2の撮像装置と、これら各撮像装置からの画像の何れかを選択して術者側に呈示する画像処理装置とを備え、
前記装置切替手段は、前記術具の先端が前記補償空間内に存在する場合に、前記画像処理装置を前記動作補償モードにし、前記第2の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させる一方、前記術具の先端が前記補償空間外に存在する場合に、前記画像処理装置を前記通常モードにし、前記第1の撮像装置からの画像を前記画像処理装置に選択させる、という構成を採ることもできる。
【0014】
(6)更に、前記臓器位置特定手段は、前記臓器に取り付けられて、体外側で赤外線を照射するマーカを保持するマーカ保持具を含み、
前記第2の撮像装置は、前記マーカ保持具に固定される、という構成を採ることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
前記(1)の構成によれば、動きのある臓器に対してロボット手術を行う際、術具が臓器の近傍に位置している場合には、当該臓器に対する処置が行われるものと判断され、手術ロボットの所定の装置が、臓器の動きを補償する動作補償モードになる一方で、術具が臓器から離れている場合には、当該臓器に対する直接の処置が行われないものと判断され、前記装置が、臓器の動きを補償しない通常モードになる。従って、前記装置に対する拍動補償が好ましいと思われる処置時には、自動的に拍動補償がなされ、前記装置に対する拍動補償を行わない方が良いと思われる処置時には、自動的に拍動補償が行われなくなり、術者の処置要求に合わせて自動的に拍動補償のON-OFFを切り替えることができる。
【0016】
前記(2)、(3)のように構成することで、術具が臓器の近傍にあり、当該臓器に対する処置が行われる場合には、術具が臓器の動きに追従して動くようにロボット本体の動作が制御されるため、動きのある臓器に対する処置が行い易くなる。一方、術具が臓器の近傍になく、当該臓器にアプローチしないような処置が行われる場合には、術具が臓器の動きに関係なくロボット本体の動作が制御されるため、臓器の周囲の静止空間や静止部位での処置が行い易くなる。
【0017】
前記(4)、(5)のように構成することで、術具が臓器の近傍にあり、当該臓器に対する処置が行われる場合には、臓器の動きに追従して動く第2の撮像装置からの画像が画像処理装置で選択され、臓器が静止して見える画像が術者側に呈示されることになり、動きのある臓器に対する処置が行い易くなる。一方、術具が臓器の近傍になく、当該臓器にアプローチしないような処置が行われる場合には、静止している第1の撮像装置からの画像が画像処理装置で選択され、臓器が動いて見える通常の画像が術者側に呈示されることになり、臓器の周囲の静止空間や静止部位での処置が行い易くなる。
【0018】
前記(6)の構成によれば、第2の撮像装置が、臓器の動きの状態をセンシングするために臓器に取り付けられるマーカ保持具に付随して固定されるため、臓器の動きに合わせて第2の撮像装置を動かす特別な機構やロボットが不要となり、マーカ保持具で、臓器の動きのセンシングの他に、動きのある臓器の静止画像を取得可能になり、特別な制御システムを不要にして、システム全体をより簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1には、本発明の動作補償システムが適用されたマスタースレーブ方式の手術ロボットシステムの概略構成図が示されている。この図において、手術ロボットシステム10は、患者側に存在するスレーブ側機器11と、術者(医師)側に存在するマスター側機器12と、これら機器11,12を構成する各装置の制御やデータ処理等を行うコンピュータからなる処理用機器14とを備えて構成されている。なお、本実施形態における手術ロボットシステム10は、心臓Hを拍動させたまま当該心臓Hの手術を行うためのシステムである。
【0021】
前記スレーブ側機器11は、患部となる心臓Hを撮像する第1の撮像装置としての第1の内視鏡17と、心臓Hの拍動状態を検出するセンサユニット19と、前記マスター側機器12での術者の操作に基づき動作するロボット本体20とを備えている。
【0022】
前記第1の内視鏡17は、患者の体表部分Bに開けられた穴に装着された筒状のトロカールT内を体外側から体内側に向って挿通され、その先端側の撮像部が心臓Hの処置部分の上方に固定配置される。従って、第1の内視鏡17では、心臓Hの表面部分が上方から撮像され、当該表面部分が拍動している状態の動画像(以下、単に「通常画像」と称する。)が得られることになる。
【0023】
前記センサユニット19は、赤外線を照射可能な発光ダイオードからなるマーカ21と、当該マーカ21を保持するマーカ保持具23と、マーカ21から照射された赤外線を検出することで当該マーカ21の三次元座標を検出する三次元位置計測装置24とからなる。
【0024】
前記マーカ保持具23は、本出願人が既に提案している特開2006-271545号公報に開示されている構造が採用されており、拍動している心臓H側の下部の姿勢の変化に対し、前記マーカ21が配置された体外側の上部の姿勢がほぼ同一姿勢となるように追従動作できるようになっている。
【0025】
すなわち、このマーカ保持具23は、図2に示されるように、心臓Hの表面部分に吸着可能な吸着部材25と、この吸着部材25に一体的に連なるマウント28と、マウント28の下側中央に固定された円柱状の体内側ブロック29と、前記マーカ21が複数保持されたマーカ保持板33と、マーカ保持板33の下端側に固定され、体内側ブロック29とほぼ同一形状をなす体外側ブロック34と、体内側ブロック29と体外側ブロック34との間に配置されるとともに、周方向全域の回転を許容するユニバーサルジョイントJを介して各ブロック29,34に相対移動自在に連結された三本の支柱36と、マウント28の上部に固定されて吸着部材25の上方から心臓Hの表面部分を撮像可能な第2の撮像装置としての第2の内視鏡38とを備えて構成されている。
【0026】
前記吸着部材25は、ほぼ馬蹄形状に設けられ、図示しない吸引ポンプからの陰圧により心臓Hの表面部分に密着固定される公知の部材が用いられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、素材の特性等により心臓Hの表面に吸着可能なものであれば何でもよい。
【0027】
前記マウント28は、変形しない剛性材料によって形成され、心臓Hの拍動に追従及び同期しながら吸着部材25と一体的に移動するようになっている。
【0028】
前記各支柱36は、それぞれ同一の外径及び長さを有する棒状に設けられるとともに、それぞれ相対移動可能に設けられており、人体の開胸部位に対して内外に貫通する方向に配置されている。ここで、各支柱36は、体外側に表出する部分がリング状のポート40に挿通されて支持されている。このポート40は、各支柱36が径方向(横方向)の動きを一定範囲で許容する内径に設定されており、アーム部材41によってほぼ一定位置に保持されている。なお、ポート40は、人体の皮膚部分に穴を開け、当該穴内に暫定的に取り付けてもよい。また、各支柱36には、ポート40よりも上方位置となる上下二箇所位置に前記マーカ21が固定されている。なお、支柱36の本数は、前述の本数に限定されず、拍動している心臓H側となる下部の姿勢の変化に対し、マーカ21が配置された体外側の上部の姿勢がほぼ同一姿勢となる限りにおいて、更に増減することも可能である。
【0029】
以上の構成のマーカ保持具23は、心臓Hの表面部分に吸着部材25が吸着固定された状態で、各支柱36が体内外間に延び、マーカ保持板33が体外側に配置される。この状態で心臓Hが拍動すると、心臓Hの表面部分の動きに追従して吸着部材25が動き、三本の支柱36及びユニバーサルジョイントJの作用により、体内側ブロック29と体外側ブロック34とがほぼ同一の姿勢で動くことになる。従って、体外側ブロック34に対して一定の姿勢で連なるマーカ保持板33の姿勢を求めることにより、当該マーカ保持板33と吸着部材25との離間距離は一定であることから、吸着部材25の位置及び姿勢、つまり、当該吸着部材25が固定された心臓Hの表面部分の位置及び姿勢を経時的に求めることが可能になる。
【0030】
ここで、前記第2の内視鏡38は、吸着部材25に一体的に設けられたマウント28の上部に固定されているため、心臓Hの拍動に同期追従して吸着部材25とともに変位する。従って、第2の内視鏡38は、心臓Hの表面部分との相対変位が殆ど生じず、第2の内視鏡28では、心臓Hの表面部分が静止して見える動画像(以下、単に「拍動補償画像」と称する。)が得られることになる。
【0031】
前記三次元位置計測装置24は、図1に示されるように、各マーカ21から発光された赤外線を受光する受光部45を備え、マーカ21の動きに合わせて当該赤外線を追跡することにより、各マーカ21の三次元座標を検出可能な公知構造となっている。この構造については、本発明の要旨ではないため、詳細な説明を省略する。なお、三次元位置計測装置24としては、各マーカ21が設けられた部位の三次元座標を検出できる限りにおいて、種々の原理や構造の装置を用いることも可能である。
【0032】
前記ロボット本体20は、心臓Hの処置を行うための鉗子やメス等の処置具が先端側に取り付けられた術具52と、この術具52の基部側を保持して、当該術具52を移動可能に動作するロボットアーム53と、このロボットアーム53を駆動させる図示しないモータを含む駆動装置54とを備えている。
【0033】
前記ロボットアーム53及び駆動装置54は、公知の手術ロボットに適用される構造が採用されており、本発明の要旨ではないため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0034】
前記マスター側機器12は、前記ロボット本体20を操作するための操作装置56と、第1及び第2の内視鏡17,38で撮像された画像の何れかを表示するモニタ57とを備えている。
【0035】
前記操作装置56は、いわゆるマスターマニピュレータと称される装置であって、術者が、モニタ57に表示される患部の画像を見ながら図示しない操作部を操作することで、ロボットアーム53を動作させて術具52を遠隔操作可能な公知の構造のものが採用されている。本構造についても、本発明の要旨ではないため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0036】
前記処理用機器14は、所定の装置に対し、心臓Hの動きに対する補償すなわち拍動補償を行うように動作指令する拍動補償装置60と、ロボット本体20の動作を制御する制御装置61と、第1及び第2の内視鏡17,38で撮像された画像をモニタ57に表示させるための処理を行う画像処理装置62とを備えている。
【0037】
前記拍動補償装置60は、三次元位置計測装置24で検出されたマーカ21の位置から、心臓Hの表面部分の位置及び姿勢を求める拍動状態検出部65と、ロボット本体20の駆動装置54の駆動量から、術具52の先端52Aの位置を求めるスレーブ位置検出部66と、拍動状態検出部65及びスレーブ位置検出部66で求められた値に基づき、拍動補償を行うか否かを決定する拍動補償決定部67とを備えている。
【0038】
前記拍動状態検出部65は、三次元位置計測装置24で検出された各マーカ21の三次元座標から、マーカ保持具23の下端側となる吸着部材25の所定の基準部位P(図3参照)の位置及び姿勢を経時的に求めるようになっている。これら位置及び姿勢は、本出願人により既に提案している特開2006-271545号公報に開示された手法によって求められ、この手法は、本発明の要旨ではないため、ここではその説明を省略する。
【0039】
前記スレーブ位置検出部66では、ロボット本体20の駆動装置54の駆動量から、術具52の先端52Aの位置を求めているが、当該位置を求めることができる限りにおいて、種々の構成や装置に代替することもできる。例えば、マーカ21等を術具52に取り付け、前記三次元位置計測装置24で当該マーカ21の動きを追跡することで、心臓Hの表面部分の場合と同様にして術具52の位置を求めてもよい。
【0040】
以上から、駆動装置54とスレーブ位置検出部66とにより、心臓(臓器)を処置する術具の先端位置を特定する本発明の術具位置特定手段を構成する。また、マーカ21、マーカ保持具23及び三次元位置計測装置24からなるセンサユニット19と拍動状態検出部65とにより、動きのある心臓(臓器)の基準部位を特定する本発明の臓器位置特定手段を構成する。
【0041】
前記拍動補償決定部67では、図3に示されるように、拍動状態検出部65で求められた心臓Hの表面部位における基準部位Pの位置と、スレーブ位置検出部66で求められた術具52の先端52Aの位置との離間距離Lに基づき、前記制御装置61及び画像処理装置62に対して、拍動補償するか否かを決定し、当該決定情報をこれら各装置61,62に伝達するようになっている。すなわち、前記離間距離Lが所定の閾値C以下の場合、拍動補償を行う動作補償モードにするように制御装置61及び画像処理装置62に伝達する一方、前記離間距離Lが所定の閾値Cを超える場合、拍動補償を行わない通常モードにするように制御装置61及び画像処理装置62に伝達する。従って、拍動補償決定部67は、前記臓器位置特定手段及び術具位置特定手段で特定された各位置に基づいて制御装置61及び画像処理装置62の状態を切り替える本発明の装置切替手段を構成する。
【0042】
なお、前記拍動補償決定部67では、次のようにして、拍動補償を行うか否か決定してもよい。図4に示されるように、第2の内視鏡38の視野空間となる心臓Hの周囲の空間である補償空間S内に術具52の先端52Aが存在するか否かによって、拍動補償の判断をすることもできる。つまり、心臓Hの表面部分の拍動に追従して変動する補償空間S内に、術具52の先端52Aが存在する場合には、拍動補償を行う動作補償モードにするように制御装置61及び画像処理装置62に伝達する。その一方で、術具52の先端52Aが補償空間S内に存在しない場合には、拍動補償を行わない通常モードにするように制御装置61及び画像処理装置62に伝達する。ここで、術具52の先端52Aが補償空間S内に存在するか否かは、拍動状態検出部65によって求められた吸着部材25の位置に基づき、第2の内視鏡38のカメラ中心の座標を求め、当該座標に基づいて、予め設定された視野空間の座標範囲を算出し、スレーブ位置検出部66で求められた術具52の先端52Aの座標と対比することで行われる。その他、第2の内視鏡38で撮像された画像に、術具52の先端52Aが存在するか否かを公知の画像認識技術によって判別し、先端52Aが補償空間S内に位置するか否かを判断することもできる。
【0043】
前記制御装置61は、操作装置56による操作に基づいて、術具52の先端52Aが所望の位置で所望の姿勢となるように、駆動装置54を制御してロボットアーム53を動作させる。ここで、前記拍動補償決定部67から拍動補償をするように制御装置61に指令されると、当該制御装置61は、前記動作補償モードとなり、術具52が心臓Hの拍動に同期追従して動作するように駆動装置54を制御する。つまり、このときには、術具52が、心臓Hの表面部位の経時的な変位に基づき、当該変位に同期して振動しながら、操作装置56での操作に基づき、所望の姿勢で所望の位置に移動する。
【0044】
前記画像処理装置62は、第1の内視鏡17で撮像された通常画像を取得する通常画像取得部71と、第2の内視鏡38で撮像された拍動補償画像を取得する拍動補償画像取得部72と、前記拍動補償決定部67での決定に基づき、前記各画像取得部71,72で得られた各画像の何れか一方をモニタ57に選択的に呈示させる画像選択部73とを備えている。
【0045】
前記画像選択部73は、前記拍動補償決定部67から拍動補償をするように指令されると、前記動作補償モードとなり、拍動補償画像取得部72で得られた拍動補償画像を選択して、当該拍動補償画像をモニタ57に呈示させる。その一方で、拍動補償決定部67から拍動補償を行わないように指令されると、前記画像選択部73は、前記通常モードとなり、通常画像取得部71で得られた通常画像を選択して、当該通常画像をモニタ57に呈示させる。
【0046】
従って、このような実施形態によれば、術具52の先端52Aが、心臓Hの近傍に達すると、前記制御装置61及び画像処理装置62が前記動作補償モードとなり、術具52の先端52Aが心臓Hの拍動に追従して動作するとともに、拍動する心臓Hに追従して動く第2の内視鏡38で撮像された拍動補償画像がモニタ57に呈示される。例えば、前述の冠動脈バイパス手術の際にバイパス血管を心臓Hの冠動脈に縫合する処置を行うとき等において、術具52が心臓Hの近傍に位置しているときは、術具52を心臓Hの動きに同期させて動かすことで、針糸を通す処置が行い易くなる。このとき、モニタ57には、拍動する心臓Hに追従して動く第2の内視鏡38からの拍動補償画像が表示されるため、術者には、拍動する心臓Hとそれに伴って動く術具52とが静止して見える画像が呈示されることになり、前記処置が行い易くなる。
【0047】
一方、術具52の先端52Aが、心臓Hの近傍から離れると、制御装置61及び画像処理装置62が前記通常モードとなり、心臓Hの拍動に関係なく操作装置56の操作のみによって術具52が移動するとともに、固定配置された第1の内視鏡17で撮像された通常画像がモニタ57に呈示される。例えば、前記冠動脈バイパス手術の際に前記バイパス血管に針糸を通す処置等を行うとき等において、術具52の先端52Aが心臓Hの近傍から離れた空間にあるときは、術具52を心臓Hの動きに同期して動かなくなり、静止しているバイパス血管に対する処置が行い易くなる。このとき、モニタ57には、固定配置された第1の内視鏡17からの通常画像が表示されることになり、術者には、静止しているバイパス血管がそのままの静止状態で見えることになり、心臓Hから離れた部分での処置が行い易くなる。
【0048】
なお、本発明における臓器位置特定手段は、前記実施形態の構成例に限らず、動きのある臓器の所定部位を特定し、若しくは、当該臓器の動きに追従して変動する臓器周囲の補償空間Sの位置を特定できる限り、各種センサやマーカを利用した種々の公知手段を採用することができる。
【0049】
また、前記第2の内視鏡38は、マーカ保持具23から分離し、別のロボット等を用いて心臓Hの拍動に同期して独立的に動作させてもよい。この場合、前記第1及び第2の内視鏡17,38の機能を共有するようにでき、具体的に、拍動補償をするときに動作させて前記第2の内視鏡38の機能を保有させる一方、拍動補償をしないときには静止させて第1の内視鏡17の機能を保有させてもよい。また、第2の内視鏡38を術具52に一体的に設けることもできる。
【0050】
更に、前記第1の撮像装置としては、前述した第1の内視鏡17に限定されるものではなく、静止した状態で心臓Hの表面部分を撮像可能な他の画像取得装置を採用することができる。同様に、前記第2の撮像装置としては、前述した第2の内視鏡38に限定されるものではなく、心臓Hの拍動に追従して動作しながら心臓Hの表面部分を撮像可能な他の画像取得装置を採用することができる。
【0051】
また、前記拍動補償決定部67では、制御装置61及び画像処理装置62に対して拍動補償のON、OFFを切り替えるように指令しているが、これら装置61,62のうち何れか一方のみに拍動補償をさせ、当該拍動補償のON、OFFを切り替えるように指令してもよいし、手術ロボットを構成する他の装置に対して、前述したように拍動補償のON、OFFを切り替えるようにしてもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、心臓Hの手術ロボットとして本発明を適用した例を図示説明したが、本発明はこれに限らず、呼吸に連動して動く他の臓器、例えば、肝臓や胃等の他の臓器の手術ロボットに対する動作補償システムとして適用することも可能であり、また、他の動物の臓器等に対する手術ロボットにも勿論適用可能である。
【0053】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態に係る動作補償システムが適用された手術ロボットシステムの概略構成図。
【図2】マーカ保持具の概略拡大斜視図。
【図3】拍動補償決定部での拍動補償の決定手順を説明するための心臓付近の概略拡大図。
【図4】拍動補償決定部での拍動補償の他の決定手順を説明するための心臓付近の概略拡大図。
【符号の説明】
【0055】
10 手術ロボットシステム
17 第1の内視鏡(第1の撮像装置)
19 センサユニット(臓器位置特定手段)
20 ロボット本体
21 マーカ
23 マーカ保持具
24 三次元位置計測装置
38 第2の内視鏡(第2の撮像装置)
52 術具
52A 先端
54 駆動装置(術具位置特定手段)
61 制御装置
62 画像処理装置
65 拍動状態検出部(臓器位置特定手段)
66 スレーブ位置検出部(術具位置特定手段)
67 拍動補償決定部(装置切替手段)
H 心臓(臓器)
P 基準部位(基準位置)
S 補償空間
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3