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明細書 :多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化する微生物群集及びデハロバクター属細菌、並びに該微生物群集及び該デハロバクター属細菌の用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5305212号 (P5305212)
公開番号 特開2008-263925 (P2008-263925A)
登録日 平成25年7月5日(2013.7.5)
発行日 平成25年10月2日(2013.10.2)
公開日 平成20年11月6日(2008.11.6)
発明の名称または考案の名称 多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化する微生物群集及びデハロバクター属細菌、並びに該微生物群集及び該デハロバクター属細菌の用途
国際特許分類 C12N   1/20        (2006.01)
A62D   3/02        (2007.01)
A62D 101/22        (2007.01)
FI C12N 1/20 ZABA
C12N 1/20 ZNAD
C12N 1/20 F
A62D 3/02
A62D 101:22
請求項の数または発明の数 7
微生物の受託番号 NPMD NITE P-353
全頁数 25
出願番号 特願2007-114943 (P2007-114943)
出願日 平成19年4月25日(2007.4.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 発行所:日本微生物生態学会第22回大会委員会 刊行物名:第22回日本微生物生態学会講演要旨集 第269頁 発行日:平成18年10月27日
特許法第30条第1項適用 発行所:社団法人 日本農芸化学会 刊行物名:日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会講演要旨集 第9頁 発行日:平成19年3月5日
審査請求日 平成22年4月15日(2010.4.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】吉田 奈央子
【氏名】葉 麗珍
【氏名】馬場 大輔
【氏名】片山 新太
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 特開2005-269912(JP,A)
特開2006-320249(JP,A)
Environmental Microbiology,2006, Vol.8, No.7, pp.1288-1298
日本農薬学会大会講演要旨集,2006, Vol.31, p.41
Applied and Environmental Microbiology,2005, Vol.71, No.8, pp.4325-4334
World Journal of Microbiology and Biotechnology,16 May 2007, Vol.23, pp.1627-1636
Applied and Environmental Microbiology,2006, Vol.72, No.1, pp.428-436
調査した分野 C12N 1/00-1/38

JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の特性、即ち、
(1)脱塩素化能を有する微生物としてデハロバクター(Dehalobacter)属細菌を含む;
(2)水素を電子供与体として脱塩素化を行う;
(3)酢酸及び二酸化炭素を炭素源として利用できる;
(4)10mM以下の硝酸又は硫酸の存在下でも脱塩素化活性を維持する;
(5)3価鉄により脱塩素化活性が阻害される、
を備え、多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化する微生物群集であって、
脱塩素化能を有する微生物としてデハロバクター属細菌を2種含み、
前記デハロバクター属細菌の片方における16SリボソームRNA遺伝子が配列番号1の塩基配列を有し、他方における16SリボソームRNA遺伝子が配列番号2の塩基配列を有し、
受託番号がNITE P-353である、微生物群集。
【請求項2】
以下の特性、即ち、
(1)水素を電子供与体として脱塩素化を行う;
(2)酢酸及び二酸化炭素を炭素源として利用できる;
(3)10mM以下の硝酸又は硫酸の存在下でも脱塩素化活性を維持する;
(4)3価鉄により脱塩素化活性が阻害される、
を備え、多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化するデハロバクター属細菌であって、
16SリボソームRNA遺伝子が配列番号1又は2の塩基配列を有し、
受託番号がNITE P-353である微生物群集に含まれる
デハロバクター属細菌。
【請求項3】
請求項に記載の微生物群集、又は請求項に記載のデハロバクター属細菌を、多塩素化ビフェニル及び/又はダイオキシン類を含む汚染物に作用させることを特徴とする浄化方法。
【請求項4】
前記多塩素化ビフェニルが2,3,4,5-テトラクロロビフェニル又は2,3,4-トリクロロビフェニルであることを特徴とする、請求項に記載の浄化方法。
【請求項5】
前記ダイオキシン類が1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシンであることを特徴とする、請求項又はに記載の浄化方法。
【請求項6】
デハロバクター属細菌を多塩素化ビフェニルに作用させることを特徴とする、多塩素化ビフェニルを1塩素化物まで脱塩素化する方法であって、
前記デハロバクター属細菌が、請求項に記載の微生物群集に含まれるデハロバクター属細菌、又は請求項に記載のデハロバクター属細菌であることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記多塩素化ビフェニルが2,3,4,5-テトラクロロビフェニル又は2,3,4-トリクロロビフェニルであり、前記1塩素化物が2-モノクロロビフェニル又は4-モノクロロビフェニルであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は新規な微生物群集及びデハロバクター属細菌に関する。詳しくは、多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化する微生物群集及びデハロバクター属細菌、並びにその取得法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染物質であるポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」と略す)の処理方法として、高温焼却法、脱塩素化分解法(化学抽出分解法、有機アルカリ金属分解法、触媒水素化脱塩素化法、アルカリ触媒分解法、金属ナトリウム法など)、水熱酸化分解(超臨界水化法、水熱分解法など)、還元熱化学分解法(溶融触媒抽出法、気相水素還元法)等が開発されている。一方、生物学的にPCBを分解する方法の研究も進められおり、PCB脱塩素化能を有する微生物又は微生物群集に関していくつかの報告がなされた(非特許文献1~5)。具体的には、PCBを脱塩素化する微生物としてクロロフレキシ(Chloroflexi)門デハロコッコイデス(Dehalococoides)属細菌が単離されている(非特許文献1)。海洋環境からは、クロロフレキシ門のo-17およびDF-1が集積物として獲得されている(非特許文献2、3)。一方、昨年には、河川堆積物培養物において、ファーミキューテス(Firmicutes)門のデハロバクター(Dehalobacter)属細菌がデハロコッコイデス属細菌と共にPCBを脱塩素化することを示唆することが報告された(非特許文献4)。また、デハロコッコイデス属細菌が単独で脱塩素化をすることが示された(非特許文献5)。

【非特許文献1】Fennell, D. E., I. Nijenhuis, S. F. Wilson, S. H. Zinder, and M. M. Haggblom. 2004. Dehalococcoides ethenogenes strain 195 reductively dechlorinates diverse chlorinated aromatic pollutants. Environ. Sci. Technol. 38:2075?2081.
【非特許文献2】Cutter, L. A., J. E. M. Watts, K. R. Sowers, and H. D. May. 2001. Identification of a microorganism that links its growth to the reductive dechlorination of 2,3,5,6-chlorobiphenyl. Environ. Microbiol. 3:699-709.
【非特許文献3】Wu, Q., J. E. M. Watts, K. R. Sowers, and H. D. May. 2002. Identification of a bacterium that specifically catalyzes the reductive dechlorination of polychlorinated biphenyls with doubly flanked chlorines. Appl. Environ. Microbiol. 68:807-812.
【非特許文献4】Yan, T., T. M. LaPara, and P. J. Novak 2006. The effect of varying levels of sodium bicarbonate on polychlorinated biphenyl dechlorination in Hudson River sediment cultures. Environ. Microbiol. 8:1288-1298.
【非特許文献5】Bedard,D., L. Kirsti, M. Ritalahti, and Frank E. Loffler.(2007) Dehalococcoides in a Sediment-Free, Mixed Culture Metabolically Dechlorinate the Commercial Polychlorinated Biphenyl Mixture Aroclor 1260 Appl. Envir. Microbiol. In press
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上のようにPCBを脱塩素化する微生物の分離報告例は稀少である。また、PCBには多様な同族体が存在するが、これまでに報告された微生物又は微生物群集が脱塩素化可能なPCBの種類は限られている。例えば、デハロコッコイデス属細菌及びDF-1は、両隣が塩素に挟まれた塩素のみを脱塩素化する。一方、o-17はPCBのオルト位のみ脱塩素化する。デハロコッコイデス属細菌を含む複合培養物においては、PCB混合物を3-4塩素化物までしか脱塩素化しないとされる。
そこで本発明は、PCBを脱塩素化する新規な微生物群集及び微生物並びにそれらの用途を提供することを目的とする。特に、PCBを1塩素化物まで脱塩素化できる新規な微生物群集及び微生物並びにそれらの用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上の目的を達成するため、本発明者らはまず微生物の集積法に独自の工夫を加えた。即ち、PCBのモデル化合物として4,5,6,7-テトラクロロフタリド(フサライド)を使用することとし、これに対する脱塩素化活性を指標として微生物の集積を行うことにした。具体的にはまず、水田土壌を採取し、湛水状態になるように水を加え、フサライドと有機酸(乳酸、蟻酸、酢酸又は酪酸)を添加し、30℃で培養を開始した。脱塩素化が確認された培養物を無機塩、フサライド及び各有機酸を添加した培地を用いて継代培養した。そして、得られた集積培養物についてPCB等の塩素化合物の脱塩素化試験を行うと共に、16SリボソームRNA(16SrRNA)遺伝子を標的としたPCR-DGGE及び優占バンドの塩基配列解析を行い、優占微生物の特定を行った。結果、乳酸を添加した条件で得られた集積物(KLF培養物)が、2,3,4,5-テトラクロロビフェニル(2,3,4,5-tetrachlorobiphenyl)及び2,3,4-トリクロロビフェニル(2,3,4-trichlorobiphenyl)を2-モノクロロビフェニル(2-monochlorobiphenyl)又は4-モノクロロビフェニル(4-monochlorobiphenyl)まで脱塩素化すること、及び1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン(1,2,3-Trichlorodibenzo-p-dioxin)を脱塩素化することが判明した。KLF培養物について細菌の16SrRNA遺伝子に基づく微生物群集構造解析を行ったところ、8つの優占微生物種を確認し、2つがデハロバクター属細菌、5つがクロストリジウム(Clostridium)属細菌、1つがセディメンティバクター(Sedimentibacter)属細菌に最類縁であった。更なる検討の結果、デハロバクター属細菌に最類縁であったDGGEバンドを与える細菌(FTH1及びFTH2)が実際に脱塩素化に関与していることが判明するとともに、これらの細菌はデハロバクター・レストリクタス(Dehalobacter
restrictus)TEA株に最類縁の新種であることが示された。また、KLF培養物にはデハロコッコイデス属細菌は含まれていないことが明らかとなった。一方、KLF培養物の特性について各種試験を行った結果、水素を電子供与体として用いて脱塩素化を行っていることが推察された。また、KLF培養物の更なる特性として、酢酸及び二酸化炭素を炭素源として利用できること、10mM以下の硝酸又は硫酸の存在下で脱塩素化活性を維持すること、及び3価鉄により脱塩素化活性が阻害されることが明らかとなった。
続いて、KLF培養物を特定の条件下で連続継代培養した結果、3種の優先微生物種(この内の2つはFTH1及びFTH2)を認める程度まで集積度を高めることに成功した。
以上のように、本発明者らの鋭意検討の結果、PCBを脱塩素化する新規な微生物群集の取得に成功するとともに、PCBの脱塩素化を担う微生物として新規なデハロバクター属細菌を見出すことに成功した。また、驚くべきことに、当該微生物群集はPCBを1塩化物まで脱塩素化する能力を備え、しかもダイオキシン類をも脱塩素化する能力を発揮した。一方、PCB脱塩素化能に優れた微生物群集を比較的短期間で取得できたことから、本発明者が採用した集積法の有用性が確認された。
本発明は以上の成果に基づくものであり、以下の微生物群集などを提供する。
[1]以下の特性を備え、多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化する微生物群集:
(1)脱塩素化能を有する微生物としてデハロバクター(Dehalobacter)属細菌を含む;
(2)水素を電子供与体として脱塩素化を行う;
(3)酢酸及び二酸化炭素を炭素源として利用できる;
(4)10mM以下の硝酸又は硫酸の存在下でも脱塩素化活性を維持する;
(5)3価鉄により脱塩素化活性が阻害される。
[2]2,3,4,5-テトラクロロビフェニル(2,3,4,5-tetrachlorobiphenyl)及び2,3,4-トリクロロビフェニル(2,3,4-trichlorobiphenyl)を2-モノクロロビフェニル(2-monochlorobiphenyl)又は4-モノクロロビフェニル(4-monochlorobiphenyl)まで脱塩素化する能力、及び1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシン(1,2,3-Trichlorodibenzo-p-dioxin)を脱塩素化する能力を有することを特徴とする、[1]に記載の微生物群集。
[3]脱塩素化能を有する微生物としてデハロバクター属細菌を2種含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の微生物群集。
[4]前記デハロバクター属細菌における16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列と、デハロバクター・レストリクタス(Dehalobacter
restrictus)TEA株における16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列との間の相同性が97%以上98%未満である、[1]~[3]のいずれかに記載の微生物群集。
[5]前記デハロバクター属細菌の片方における16SリボソームRNA遺伝子が配列番号1の塩基配列を有し、他方における16SリボソームRNA遺伝子が配列番号2の塩基配列を有する、[3]に記載の微生物群集。
[6]デハロコッコイデス(Dehalococcoides)属細菌を含まないことを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の微生物群集。
[7]水田の中粗粒強グライ土を集積培養して得られることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の微生物群集。
[8]前記集積培養が、4,5,6,7-テトラクロロフタリド(4,5,6,7-tetrachlorophthalide)及び乳酸を含有する栄養培地で継代培養するステップを含むことを特徴とする、[7]に記載の微生物群集。
[9]受託番号がNITE P-353である、[1]に記載の微生物群集。
[10]以下の特性を備え、多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化するデハロバクター属細菌:
(1)水素を電子供与体として脱塩素化を行う;
(2)酢酸及び二酸化炭素を炭素源として利用できる;
(3)10mM以下の硝酸又は硫酸の存在下でも脱塩素化活性を維持する;
(4)3価鉄により脱塩素化活性が阻害される。
[11]2,3,4,5-テトラクロロビフェニル及び2,3,4-トリクロロビフェニルを2-モノクロロビフェニル又は4-モノクロロビフェニルまで脱塩素化する能力、及び1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシンを脱塩素化する能力を有することを特徴とする、[10]に記載のデハロバクター属細菌。
[12]16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列が、デハロバクター・レストリクタスTEA株における16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列に対して97%以上98%未満の相同性を有する、[10]又は[11]に記載のデハロバクター属細菌。
[13]16SリボソームRNA遺伝子が配列番号1又2の塩基配列を有する、[10]又は[11]に記載のデハロバクター属細菌。
[14]4,5,6,7-テトラクロロフタリド及び乳酸の存在下で水田の中粗粒強グライ土を集積培養するステップを含むことを特徴とする、多塩素化ビフェニル及びダイオキシン類を脱塩素化するデハロバクター属細菌を含む微生物群集を取得する方法。
[15]前記集積培養が、以下のステップ(1)及び(2)からなることを特徴とする、[14]に記載の方法:
(1)水田の中粗粒強グライ土の懸濁液に4,5,6,7-テトラクロロフタリド及び乳酸を添加し、培養するステップ;
(2)4,5,6,7-テトラクロロフタリド及び乳酸を含有する栄養培地を用いて継代培養するステップ。
[16]ステップ(2)の後に、以下のステップを更に実施することを特徴とする、[15]に記載の方法:
(3)4,5,6,7-テトラクロロフタリドを含有する栄養培地を用い且つ水素及び二酸化炭素が培地中に供給される条件下で継代培養するステップ。
[17]前記集積培養が、以下のステップ(1)及び(3)からなることを特徴とする、[15]に記載の方法:
(1)水田の中粗粒強グライ土の懸濁液に4,5,6,7-テトラクロロフタリド及び乳酸を添加し、培養するステップ;
(3)4,5,6,7-テトラクロロフタリドを含有する栄養培地を用い且つ水素及び二酸化炭素が培地中に供給される条件下で継代培養するステップ。
[18][1]~[9]のいずれかに記載の微生物群集、又は[10]~[13]のいずれかに記載のデハロバクター属細菌を、多塩素化ビフェニル及び/又はダイオキシン類を含む汚染物に作用させることを特徴とする浄化方法。
[19]前記多塩素化ビフェニルが2,3,4,5-テトラクロロビフェニル又は2,3,4-トリクロロビフェニルであることを特徴とする、[18]に記載の浄化方法。
[20]前記ダイオキシン類が1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシンであることを特徴とする、[18]又は[19]に記載の浄化方法。
[21]デハロバクター属細菌を多塩素化ビフェニルに作用させることを特徴とする、多塩素化ビフェニルを1塩素化物まで脱塩素化する方法。
[22]前記多塩素化ビフェニルが2,3,4,5-テトラクロロビフェニル又は2,3,4-トリクロロビフェニルであり、前記1塩素化物が2-モノクロロビフェニル又は4-モノクロロビフェニルであることを特徴とする、[21]に記載の方法。
[23]前記デハロバクター属細菌が、[1]~[9]のいずれかに記載の微生物群集に含まれるデハロバクター属細菌、又は[10]~[13]のいずれかに記載のデハロバクター属細菌であることを特徴とする、[21]又は[22]に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の第1の局面は、多塩素化ビフェニル(PCB)又はダイオキシン類の脱塩素化に利用可能な微生物群集を提供する。後述の実施例の欄に示す通り、本発明者らは、PCB及びダイオキシン類を脱塩素化する新規な微生物群集(以下、「本発明の微生物群集」という)を取得することに成功した。尚、「微生物群集」とは二以上の微生物の集合物をいう。
【0006】
本発明の微生物群集の第1の特徴は、多塩素化ビフェニル(PCB)及びダイオキシン類を脱塩素化することである。ここで「多塩素化ビフェニル(PCB)」とは、ビフェニルの水素原子が塩素原子で置換された化合物の総称である。置換塩素の数、位置の違いによって数多くの異性体が存在する。一方、ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称である。PCBの一つコプラナーPCB(Co-PCB)はダイオキシン類にも分類される。
【0007】
PCB及びダイオキシン類に対する脱塩素化能を有するという特性の他、以下の特性(1)~(5)によって本発明の微生物群集は特徴付けられる。
(1)脱塩素化能を有する微生物としてデハロバクター(Dehalobacter)属細菌を含む。
(2)水素を電子供与体として脱塩素化を行う。
(3)酢酸及び二酸化炭素を炭素源として利用できる。
(4)10mM以下の硝酸又は硫酸の存在下で脱塩素化活性を維持する。
(5)3価鉄により脱塩素化活性が阻害される。
【0008】
(1)の特性は、本発明の微生物群集において脱塩素化を担う微生物がデハロバクター属細菌であることを意味する。(2)の特性における水素として例えば乳酸から産生したものを利用することもできる。(3)の特性は、本発明の微生物群集が酢酸のみならず、二酸化炭素を炭素源として利用できることを意味する。PCB脱塩素化微生物として過去に報告されたデハロコッコイデス属細菌では二酸化炭素を炭素源として利用できない。
【0009】
(4)の特性において「脱塩素化活性を維持する」とは、脱塩素化活性は低下するものの、依然として脱塩素化活性を発揮することをいう。具体的には、PCBのモデル化合物としてフサライドを用いて評価すると、10mM硝酸の存在下で培養した場合、本発明の微生物群集は例えば47~67%、好ましくは52~60%、更に好ましくは約57%の脱塩素化活性を示す。10mM硫酸の存在下で培養した場合においては例えば59~79%、好ましくは64~74%、更に好ましくは約69%の脱塩素化活性を示す。尚、脱塩素化活性は、微生物群集にフサライド(100μM)を添加し、30℃で約10日間培養した後の培養物中に存在するフサライド、4,6,7-トリクロロフタリド(4,6,7-triCph)、4,7-ジクロロフタリド(4,7-diCph)、4,5-ジクロロフタリド(4,5-Cph)、4-モノクロロフタリド(4-Cph)の量(%)に基づき、以下の式で算出するものとする。
脱塩素化活性(%)=(4,6,7-triCph(μM)+4,7-diCph(μM)+4,5-Cph(μM)+4-Cph(μM))/(フサライド(μM)+4,6,7-triCph(μM)+4,7-diCph(μM)+4,5-Cph(μM)+4-Cph(μM))×100
【0010】
(5)の特性において「脱塩素化活性が阻害される」とは、大幅な脱塩素化活性の低下が認められることをいう。具体的には、PCBのモデル化合物としてフサライドを用いて評価すると、10mMの3価鉄の存在下で培養した場合、例えば30%以下、好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下(具体的には10~20%)の脱塩素化活性を示す。
【0011】
後述の実施例に示すように、本発明者らが取得に成功した微生物群集は、PCBである2,3,4,5-テトラクロロビフェニル及び2,3,4-トリクロロビフェニルを2-モノクロロビフェニル又は4-モノクロロビフェニルまで脱塩素化する能力を有することが確認された。一方、当該微生物群集が、ダイオキシン類である1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシンを脱塩素化する能力を有することも確認された。この事実に基づけば、2,3,4,5-テトラクロロビフェニル及び2,3,4-トリクロロビフェニルを2-モノクロロビフェニル又は4-モノクロロビフェニルまで脱塩素化する能力を有すること、及び1,2,3-トリクロロジベンゾ-p-ジオキシンを脱塩素化する能力を有することという特性によって本発明の微生物群集を更に特徴づけることができる。このような特徴を備える本発明の微生物群集によれば、これまでに報告されたPCB脱塩素化微生物(又は微生物群集)とは異なり、1塩素化物までの脱塩素化が可能である。また、ダイオキシン類の脱塩素化も可能である。このように、本発明の微生物群集は過去に報告されたPCB脱塩素化微生物とは明確に異なる脱塩素化能を有するものであり、より多様なPCB同位体の脱塩素化及びダイオキシン汚染環境の浄化への応用が期待される。
【0012】
一方、16SrRNA遺伝子に基づく構造解析によって、本発明明らが取得に成功した微生物群集にはPCB及びダイオキシン類に対する脱塩素化能を有する、デハロバクター属の新種が二つ(FTH1及びFTH2)含まれていることが見出された。また、デハロコッコイデス属細菌は含まれていないことが明らかとなった。FTH1及びFTH2はいずれも、ポリクロロエチレン(PCE)脱塩素化細菌として分離されたデハロバクター・レストリクタスTEA株と最類縁であり、16SrRNA遺伝子の塩基配列に関してそれぞれ97.5%及び97.3%の相同性を示した。尚、FTH1の16SrRNA遺伝子の塩基配列を配列番号1に、FTH2の同塩基配列を配列番号2に、デハロバクター・レストリクタスTEA株の同塩基配列を配列番号3にそれぞれ示す。
以上の知見に基づけば、脱塩素化能を有する微生物としてデハロバクター属細菌を2種含むという特性によって本発明の微生物群集を更に特徴づけることができる。また、含有するデハロバクター属細菌における16SrRNA遺伝子の塩基配列と、デハロバクター・レストリクタスTEA株における16SrRNA遺伝子の塩基配列との間の相同性が97%以上98%未満であるという特性によって本発明の微生物群集を更に特徴づけることもできる。更には、含有するデハロバクター属細菌の片方における16SrRNA遺伝子が配列番号1の塩基配列を有し、他方における16SrRNA遺伝子が配列番号2の塩基配列を有するという特性によって本発明の微生物群集を特徴づけることもできる。一方、デハロコッコイデス属細菌を含まないという特性によって本発明の微生物群集を更に特徴付けることができる。
尚、FTH1及びFTH2を含む微生物群集(KFC4HC)は以下の通り所定の寄託機関に寄託されており、容易に入手可能である。
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
寄託日(受領日):2007年4月3日
受託番号:NITE P-353
尚、KFC4HCの形態的特徴及び生理学的特徴などは後述の実施例の欄に記載の通りである。
【0013】
本発明の第2の局面は、上記第1の局面の微生物群集に含まれるデハロバクター属細菌に関する。即ち、この局面は、PCB及びダイオキシン類に対する脱塩素化能を有する微生物として微生物群集中に見出された新種デハロバクター属細菌(FTH1及びFTH2)を提供する。ここで、本発明の第1の局面が提供する微生物群集を特徴づける上記の各特性は、当該新種デハロバクター属細菌によってもたらされるものであるから、当該新種デハロバクター属細菌自体、上記の各特性によって特徴づけられることになる。尚、当該新種デハロバクター属細菌は、本発明の微生物群集より単離することができる。単離法としては限界希釈培養法または寒天混釈培養法などを採用することができる。
【0014】
本発明の第3の局面は本発明の微生物群集の取得法を提供する。本発明の取得法は、フサライド及び乳酸の存在下で水田の中粗粒強グライ土を集積培養するステップを含むことを特徴とする。以下、当該ステップを詳細に説明する。
本発明の取得法では、試料として水田の中粗粒強グライ土を使用する。中粗粒強グライ土は例えば水田の土壌表層20~40cmから採取することができる。使用直前まで、採取後の土壌を10~25℃の温度条件下で保存することが好ましい。
採取した土壌は集積培養に供される。集積培養とは、活性の認められた培養物の一部を植え継ぎ培養するというステップを繰り返す(即ち連続継代培養する)ことによって目的の微生物を純化(濃縮)する培養法である。本発明における集積培養はフサライド及び乳酸の存在下で実施される。フサライド及び乳酸の添加量は特に限定されない。フサライドの添加量は、培養物1Lに対して例えば10~600μM、好ましくは100~400μMである。一方、乳酸の添加量は、培養物1Lに対して例えば10mM~30mM、好ましくは20mMである。尚、全培養過程を通してフサライド及び乳酸の添加量が一定である必要はない。例えば、継代数の増加に伴って添加量が増大するようにしたり、逆に添加量が減少するようにしたりすることにしてもよい。以下、集積培養をステップ毎に説明する。まず、水田の中粗粒強グライ土の懸濁液にフサライド及び乳酸を添加し、培養する(ステップ(1))。懸濁液の調製には蒸留水を用いることが好ましい。培養温度は例えば15℃~30℃、好ましくは約25℃である。また、培養期間は概ね10日~3ヶ月であるが、フサライドの脱塩素化が進行し、培養液中のフサライドの量が添加時の20%以下、好ましくは5%以下になったことを確認した後、植え継ぐことにするとよい。
次に、フサライド及び乳酸を含有する栄養培地を用いて継代培養する(ステップ(2))。即ち、培養物の一部を植え継ぎ、さらに培養する。植え継ぎに使用する培養物の量は例えば全培養物の1~20%(v/v)、好ましくは全培養物の3~10%(v/v)とする。栄養培地の組成は特に限定されるものではない。好適な栄養培地の一つ(FTH培地)が実施例の欄に示される。尚、培養温度、培養期間についてはステップ(1)の場合に準ずる。継代培養の回数は特に限定されず、例えば1回~30回である。尚、脱塩素化の能力や総菌数、顕微鏡で観察される形態、PCR-DGGEバンドパターン及びたとえばメタン生成などの脱塩素化以外の代謝活性が無いかを確認する等より集積度を予想し、十分な集積が認められるまで継代培養を繰り返すことが好ましい。
更なる集積のために、ステップ(2)の後に、フサライドを含有する栄養培地を用い且つ水素及び二酸化炭素が培地中に供給される条件下で継代培養する(ステップ(3))ことにしてもよい。例えば、培養容器の気相中に水素及び二酸化炭素が十分な量含まれるようにすれば、水素及び二酸化炭素を培地中に供給することができる。ここでの「十分な量」とは、水素については例えば30%~90%、好ましくは60%~90%であり、二酸化炭素については例えば5%~40%、好ましくは10%~30%である。好適な気相の一例として水素が80%で二酸化炭素が20%の気相を挙げることができる。ここでの継代培養における他の条件(温度、培養期間など)はステップ(2)に準ずる。
本発明の一態様では、ステップ(2)に代えてステップ(3)を実施する。このように、フサライド及び乳酸の存在下での継代培養を省略することにしてもよい。
【0015】
本発明の第4の局面は本発明の微生物群集及びデハロバクター属細菌(以下、これら二つをまとめて「本発明の微生物等」という)の用途に関する。具体的には、本発明の微生物等を利用した浄化方法が提供される。本発明の浄化方法では本発明の微生物等を浄化対象(多塩素化ビフェニル及び/又はダイオキシン類を含む汚染物)に作用させることによって、浄化対象に含有される多塩素化ビフェニル及び/又はダイオキシン類を脱塩素化する。浄化対象は、多塩素化ビフェニル又はダイオキシン類を含む限り特に限定されない。浄化対象の典型例として、工業廃液、工業廃水、工業廃棄物及び汚染土壌を挙げることができる。本発明の微生物等を作用させるための方法(適用法)としては、汚染対象の形態に合わせて添加、散布、混合などを採用すればよい。適用量は任意に設定可能である。予備実験を通じて浄化対象に適した適用量を設定することができる。支持体に固定化乃至担持させた状態で本発明の微生物等を適用することにしてもよい。
本発明の微生物等と、PCB又はダイオキシン類を脱塩素化する他の微生物群集又は微生物を併用することにしてもよい。即ち、本発明の微生物等に、他の微生物等を組み合わせてPCB又はダイオキシン類を脱塩素化することにしてもよい。このような使用形態によれば、脱塩素化率の向上、脱塩素化される化合物の種類の拡大などが可能である。
【0016】
ところで、後述の実施例に示す通り、本発明者らの検討の結果、多塩素化ビフェニルを1塩化物まで脱塩素化するデハロバクター属細菌が見出された。換言すれば、多塩素化ビフェニルを1塩化物まで脱塩素化することにデハロバクター属細菌が有用であることが明らかにされた。この知見はこれまでの報告からは予想できないものでありその意義及び価値は極めて大きい。本発明の更なる局面は当該知見に基づき以下の脱塩素化法、即ち、デハロバクター属細菌を作用させることを特徴とする、多塩素化ビフェニルを1塩素化物まで脱塩素化する方法を提供する。ここでの多塩素化ビフェニルは好ましくは2,3,4,5-テトラクロロビフェニル又は2,3,4-トリクロロビフェニルである。この場合、1塩化物として例えば2-モノクロロビフェニルや4-モノクロロビフェニルが生ずることになる。尚、デハロバクター属細菌としては、本発明のデハロバクター属細菌を好適に用いることができる。また、本発明の微生物群集を用い、当該微生物群集に含まれるデハロバクター属細菌が作用するようにしてもよい。
【実施例】
【0017】
PCBのモデル化合物として4,5,6,7-テトラクロロフタリド(フサライド)を採用することにし、以下の方法によってPCB脱塩素化微生物群集の獲得を試みた。また、得られた微生物群集について微生物学的特性評価を行い、PCB脱塩素可能を確認することにした。
【0018】
1.試料と方法
(1)塩素化合物
フサライドは、(株)和光純薬(大阪)から購入した。4,5,6-トリクロロフタリド、4,5,6-トリクロロフタリド、4,7-ジクロロフタリド、4,6-ジクロロフタリドおよび4-モノクロロフタリドは、株式会社クレハ(東京)より譲渡を受けた。以下に示すPCBは、AccuStandard Inc.(ニューヘーブン、コネチカット州、米国)より購入した。2,3,4,5-テトラクロロビフェニル(2,3,4,5-TeCB); 2,3,4-トリクロロビフェニル(2,3,4-TriCB); 2,3-ジクロロビフェニル(2,3-DiCB); 2,4-ジクロロビフェニル(2,4-DiCB); 2,5-ジクロロビフェニル(2,5-DiCB); 3,5-ジクロロビフェニル(3,5-DiCB); 2-モノクロロビフェニル(2-MCB); 3-モノクロロビフェニル(3-MCB)及び4-モノクロロビフェニル(4-MCB)。
【0019】
(2)水田試料
水田試料は、愛知県海部郡弥富町の水田における表層30cmから採取した。本土壌に蒸留水を加え、スラリー状化した。このスラリー状土壌を2.0mmのふるいに通し、湛水状態のまま、ビニールバックで密閉し、22℃に保存した。本土壌は、水分含量35%、pH 6.8、全炭素量0.99%、全窒素量0.03%であり、電気伝導度は4.8 mS/mを示した。このほかの土壌の理化学的性質を表1に示す。
【表1】
JP0005305212B2_000002t.gif

【0020】
(3)フサライド脱塩素化微生物群集の集積
200μlの5mMフサライド(アセトンに溶解)を、乾熱殺菌したガラス瓶(60ml容量)に添加し、密閉した後、真空吸引によってアセトンを取除いた。一旦、ここへ、上記の水田土壌10g[湿重量]を添加し、10mlの1mg L-1レサズリンを含む蒸留水で満たした。本土壌懸濁液を1N塩酸でpH 7.0に調製後、さらに15分間窒素爆気を行った。このガラス瓶をフッ素樹脂コートしたブチル栓で密閉し、20mM乳酸、蟻酸、酢酸または酪酸をそれぞれ添加した後、30℃で培養を開始した。1ヶ月の培養の後、フサライドの脱塩素化が確認された培養物について、500μlの培養物を、新たに10mlの各有機酸を添加したFTH培地(表2)に植え継ぎ、培養した。脱塩素化を確認した培養物について、5%(v/v)を更に植え継ぎ、10~15日間培養する連続継代培養を行った。このうち、脱塩素化活性を維持した乳酸添加培養物(以下、「KLF培養物」とする)については、フサライドおよびPCBの脱塩素化経路を特定する目的で600mlガラス瓶に、1000mlスケールで培養を行った。また、KLF培養物においては、20mM ピルビン酸、20mM 酢酸、100% 水素(気相)および10mM 酢酸、または80% 水素(気相)および20%二酸化炭素(気相)を添加した培養を行った。また、この他に、電子受容体や代謝阻害剤の影響を評価する実験を行った。
【表2】
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【0021】
(4)分析方法
フサライド、PCBs、およびその代謝産物の同定および定量は、ガスクロマトグラフ質量分析計GC-MS(SHIMADZU GCMS-OP5050。以下「GC-MS」とする)を用いて行った。
培養終了後のサンプルから1mLを採取し、1 mlのアセトニトリルを添加し、1分間撹拌・混合し、1 mLの酢酸エチルを加え、再び1分間混合した。5分間ほど静置した後、有機溶媒層を回収し、ここへ少量の無水硫酸ナトリウムを加え、脱水した。このうち、2μLをGC-MS分析に用いた。GC-MSは、J&W社製DB-5MS(長さ30 m×内径0.25 mm×film 0.25 mm)カラムを用い、気化室温度320℃、インターフェイス温度280℃、以下の昇温プログラムで分析した:140℃ (0.25min)、140℃~320℃(10℃・min-1)、320℃(3min)。の条件で行った。代謝産物の同定は、m/z 50-400の範囲における全スキャンモードの結果を、標準試料の滞留時間とマススペクトルと比較して行った。フサライドおよびフサライドの代謝産物の定量は、m/z 104、139、173、207、および243を検出するSIMモード、PCBの代謝産物の定量は、m/z 154、188、222、222、256、および290を検出するSIMモードで行った。
有機酸の分析には、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」とする。SHIMADZU SPD-10Aを使用)およびODSカラム(L-column、CERI)を使用した。培養終了後のサンプルから、シリンジを用いて1 ml採取し、これを0.2μmフィルターろ過(Millipore、Bedford、MA)し、20μlをHPLCに注入し、流速1 ml・min-1、カラム温度40℃、UV270 nmの吸光度で検出した。移動相には、アセトニトリル・水・酢酸(0.1:10:89.9)混液を用いた。
気相ガス分析は、ガスクロマトグラフィー(GC-14B、Shimadzu)および付属の熱伝導度検出器(TCD)により行った。水素およびメタンの分離には、Molecular sieve 5A(GL-Science、東京、日本)、二酸化炭素の分離には、活性炭素(GL-Science、東京、日本)を充填したステンレスカラムを用いた。分析は、カラム温度80℃、気化室および検出器温度100℃下で行った。水素およびメタンの検出時には、30 ml・min-1の窒素ガス、二酸化炭素の検出時には、30 ml・min-1のヘリウムガスをキャリアーガスとして用いた。
【0022】
(5)総菌数計測
集積培養物から1 mlを採取し、10 mlの0.2μmフィルター滅菌したリン酸緩衝液(130mM NaCl, 10mM sodium phosphate buffer, 1mM EDTA, pH 7.0)に懸濁して攪拌した後、段階希釈を行った。適当な段階の希釈液(103希釈)について、メンブレンブラックフィルター(MILLIPORE)上に吸引ろ過した。ろ過後、乾燥したメンブレンをスライドガラスに広げ、5μl程度のProLong(登録商標) Gold Antifade Reagent with DAPI Special Packaging(Molecular Probes、ユージン、オレゴン州、米国)を滴下し、カバーバラスを被せて観察試料とした。観察はオリンパス社製落射型蛍光顕微鏡により行い、観察視野をオリンパス社製CCDカメラ(DP7、オリンパス株式会社、東京、日本)で取り込んだ画像について、画像解析ソフトWINROOF(Flovel)を用いて総菌数を計測した。
【0023】
(6)DNA抽出
DNAの抽出には、土壌DNA抽出キットISOIL(株式会社ニッポンジーン、富山市、日本)を用いた。培養終了後、血清瓶をよく振り、培養液を約2 ml採取し、遠心分離(20,630×g、5 min、4℃)し、上清を除いた沈殿物重量約0.5gをDNA抽出に用いた。この沈殿物に、950μlのLysis Solution HEと50μlのLysis Solution 20S を添加し、十分に混和した後に、65℃で1時間保温した。これを遠心分離(12,000×g、1 min、4 ℃)し、上清600μlを新しいチューブに移し、400μlのPurification Solutionを添加し、十分に混合した。ここへ、600μlのクロロホルムを添加し、15秒間撹拌・混和後、遠心分離(12,000×g、10 min、室温)し、水層800μlを新しいチューブに移し、800μlのPrecipitation Solutionを添加して十分に混合し、遠心分離(20,000×g、15 min、4℃)した。上清を捨て、1 mlのWash Solutionを加えて数回混和し、遠心分離(2,000×g、10 min、4℃)した。上清を捨て、1 mlの70%エタノールと2μlのEthachinmateを加えて数回混和し、遠心分離(20,000×g、5 min、4℃)した。上清を捨て、風乾した後、沈殿を100μlのTE溶液(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA、pH 8.0)に溶解した。
【0024】
(7)PCR-DGGE(denaturing gradient gel electrophoresis)
およそ50ngの抽出DNAを鋳型に用い、100μl容量のPCR反応を行った。16S rRNA遺伝子の内、E.coli 16S rRNA遺伝子ポジションで341-534の可変領域(Brosius et al. 1978. Complete nucleotide sequence of a 16S ribosomal RNA gene from Escherichia coli. Proc Natl Acad Sci U S A. 75(10):4801-5 1978)を標的とするプライマーセット、GC357f(5’末端GCクランプ付き)および517r(表3)(Muyzer, G., E. C. de Waal, and A. G. Uitterlinden. 1993. Profiling of complex microbial populations by denaturing gradient gel electrophoresis analysis of polymerase chain reaction-amplified genes coding for 16S rRNA. Appl. Environ. Microbiol. 59:695-700.)を用いた。PCRは、95℃で2分間のホットスタート後、94℃で1分間の熱変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で1.5分間の伸長1サイクルとして35サイクル行った。
【表3】
JP0005305212B2_000004t.gif
*はE.coli 16S rRNA遺伝子ポジション
【0025】
DGGEは、既報(Muyzer, G., E. C. de Waal, and A. G. Uitterlinden. 1993. Profiling of complex microbial populations by denaturing gradient gel electrophoresis analysis of polymerase chain reaction-amplified genes coding for 16S rRNA. Appl. Environ. Microbiol. 59:695-700.)に基づき、変性ゲル電気泳動装置(Bio-RAD Dcode)を用いて行った。DGGE用のゲルは0.5×TAE、6%アクリルアミド、および40~60%変性剤(100%変性剤溶液;7M尿素、40%ホルムアミド)とし、DNA変性剤0%アクリルアミド溶液(表4)およびDNA変性剤80%アクリルアミド溶液(表4)を混合し作製した。電気泳動は0.5×TAE緩衝液(40 mM Tris-base、20 mM 酢酸ナトリウム、2 mM EDTA)、60℃、100 V、泳動時間16時間で行った。SYBR GREEN I(Molecular probe)で染色したゲルを、トランスイルミネーターで(TOYOBO FAS-III mini+ DS-30)照射し、PCR産物を検出した。主要バンドについては、切り出し精製後、サブクローン化し塩基配列を決定した。
【表4】
JP0005305212B2_000005t.gif

【0026】
(a)主要バンドの精製
切り出したゲルは、蒸留水1 mlを用いてピペッティングにより洗浄し、ゲル断片(0.5 mm角程度)を鋳型DNAとして再度PCRを行った。反応は95℃で2分間のホットスタート後、94℃で1分間熱変性、60℃で1分間のアニーリング、72℃で1.5分間の伸長を1サイクルとして35サイクル行った。得られたPCR産物をDGGEし、バンドの単離を確認した。単離していないバンドは再び切り出し、アニーリング温度やサイクル数を改変し、単離されるまで同じ操作を繰り返した。バンドの単離が確認されたPCR産物はエタノール沈殿後、精製し、4%アガロースゲルを用いて1×TAE緩衝液で電気泳動した。泳動後、ゲルから目的のDNAを切り出し、GENECLEAN II Kit(BIO101)を用いて精製し、塩基配列決定を行った。また、単離できなかったバンドについては、サブクローン化し塩基配列決定を行った。
【0027】
(b)サブクローニング
PCR産物のサブクローニングは、pTBlue Perfectly Blunt cloning kit(Novagen)を用い、付随の説明書に従って行った。平滑末端反応(22℃、15分間)の後、ライゲーション(16℃、14~16時間)を行い、ヒートショックによる形質転換を行った。LBA寒天培地(10 gL-1トリプトン・ペプトン、5 g L-1酵母抽出物、10 g L-1 NaCl、20 g L-1寒天、100 mg L-1アンピシリン)に50 mM IPTGおよび40 mg ml-1 X-galを50 μl塗布した培地に、形質転換した菌液を塗布し、37℃で12~16時間培養した。培養後、ホワイトコロニーを回収し、TempliphiTM plasmid amplification kit (Amersham Biosciences、サニーベール、カリフォルニア州、米国)を用い、プラスミドを増幅し、その後のシーケンス反応およびPCR反応の鋳型として用いた。
【0028】
(8)16S rRNA遺伝子クローンライブラリーの構築およびRFLP解析
16S rRNA遺伝子クローンライブラリーは、抽出DNAおよそ50 ngを鋳型として用い、細菌を標的としたプライマーセット27fおよび1492r(表5)(Weisburg, W. G., S. M. Barns, D. A. Pelletier, and D. J. Lane. 1991. 16S ribosomal DNA amplification for phylogenetic study. J. Bacteriol. 173:697-703.)により増幅したPCR産物をクローン化して構築した。PCRは、95℃で2分間のホットスタート後、94℃で1分間の熱変性、50℃で1分間のアニーリング、72℃で1.5分間の伸長を1サイクルとして30サイクル行った後、72℃で5分間の伸長反応を行った。PCR産物は、上述と同様に、1%アガロース電気泳動により精製後、クローン化した。得られたクローンについては、プラスミドを鋳型にした、PCRを再度行い、このPCR産物について、HaeIII、HhaI及びSspIによる制限酵素消化反応を行った。本消化産物を3%アガロースゲルで泳動し、この泳動パターンから、operational taxonomic units (OTUs)を決定した。
【表5】
JP0005305212B2_000006t.gif
*はE.coli 16S rRNA遺伝子ポジション
【0029】
(9)塩基配列の決定および系統解析
DNA塩基配列の決定は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(Applied Biosystems)を用いて行った。シークエンス反応は、96℃で1分間の熱変性の後、96℃で10秒間の熱変性、50℃で5秒間のアニーリング、72℃で4分間の伸長を1サイクルとして25サイクル行った。DGGEバンドクローンのシーケンスプライマーには、pT7ベクターのインサート上流部位および下流部位を標的としたシークエンスプライマーpT7-FおよびpT7-R (表6)を用いてサイクルシークエンス反応を行った。また、27fおよび1492rプライマーで増幅したクローンについては、表7に示したプライマーを用いてサイクルシークエンス反応を行った。シークエンス反応物は、3100-Avant genetic analyzer(Applied Biosystems)で解析した。得られた塩基配列は、遺伝子総合解析プログラム GENETIX ver 7ソフトウェア開発)で編集した。編集した塩基配列について、インターネット上のデータベース(DDBJ:http// www.ddbj.nig.ac.jp/E-mail/homology.html)内にある相同性検索プログラム(BLAST Homology Search)(Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. and Lipman, D.J. (1990) "Basic local alignment search tool." J. Mol. Biol. 215:403-410.)を用いた相同性検索を行った。
【表6】
JP0005305212B2_000007t.gif

【0030】
【表7】
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*はE.coli 16S rRNA遺伝子ポジション
【0031】
2.結果
(1)フサライド脱塩素化微生物群集
水田土壌に各種有機酸およびフサライドを添加し1ヶ月培養した結果、すべての有機塩素化合物の嫌気的脱塩素化が確認された。このうち、乳酸および蟻酸添加集積物は、10回以上の継代後も脱塩素化活性を維持した(図1)。両培養物について、他の塩素化合物の脱塩素化試験を行った結果、KLF培養物(乳酸添加集積物)のみが、2,3,4,5-テトラクロロビフェニル、2,3,4-トリクロロビフェニルを脱塩素化したことから、以降の実験では、KLF培養物を用いることとした。
【0032】
(2)KLF培養物
KLF培養物について、フサライドの脱塩素化経路を調べた。KLF培養物は、100μMフサライドをおよそ5日間ですべて4-モノクロロフタリドに脱塩素化した。KLF培養物のフサライド脱塩素化の様子を図2に示す。
【0033】
(3)KLF培養物におけるフサライド脱塩素化に与える電子供与体の影響
表8に、KLF培養物について、各種電子供与体の添加が与える影響を調べた結果を示す。KLF培養物は、20mM乳酸または水素を添加した場合では、10-5希釈まで脱塩素化活性を維持し、20mM酢酸、ピルビン酸、プロピオン酸または5mM乳酸添加系においては脱塩素化活性を維持しなかった。また、0.01%ペプトンを添加した場合に限って、水素添加系で10-6希釈培養物における脱塩素化活性を示したことから、KLF培養物は、乳酸から産生した水素を電子供与体として用いてフサライドの脱塩素化を行っていることが推察された。
【表8】
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表中の「n.t.」は「not tested(試験せず)」を示す。*:0.01%ペプトン添加条件下でフサライドの脱塩素化を確認した。**:気相におけるガス濃度v/v (%)。
【0034】
(5)KLF培養物におけるフサライド脱塩素化に与える代謝阻害剤の影響
KLF培養物に、50mg L-1のクロラムフェニコール、50mg L-1のバンコマイシン、5mM ブロモエタンスルフォン酸(BES)、または10mMモリブデン酸を添加した場合および80℃で30分間の熱処理を行った場合のフサライド脱塩素化活性を調べ、無処理の培養物に対する阻害傾向の有無を評価した結果、全ての代謝阻害処理がフサライドの脱塩素化を阻害することが示された(表9)。また、10mM硝酸、硫酸および3価鉄を添加した培養を行い、これらの電子受容体のフサライド脱塩素化への影響を評価した結果、硝酸および硫酸添加系では、多少、速度が落ちるもののフサライド脱塩素化が生じたのに対し、鉄添加系ではフサライドの脱塩素化が完全に阻害された(表9)。これより、本微生物群は、10mM以下の硫酸や硝酸存在下ではフサライド脱塩素化能を維持できるが、3価鉄により脱塩素化活性を大きく阻害されることがわかった。
【表9】
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【0035】
(6)KLF培養物の16SrRNA遺伝子に基づく微生物群集構造解析
各継代培養過程におけるKLF培養物において、バクテリアに特異的な16SrRNA遺伝子配列を有するプライマーを用いた約150bp程度のPCR-DGGEを行った結果を図3に示す。図3より、KLF培養物における微生物組成は、4代目継代培養までに大きく変化し、その後12代目培養物まで、比較的安定した微生物組成で推移した。このうち10代目培養物をフサライド無添加培養物に2回植え継いだ培養物(図3-F)についてDGGEを行った結果、フサライド添加培養物で主要バンドであった2つのバンドAおよびBが消失したことから(図3)、これら2種の微生物がフサライドの脱塩素化を担っていることが示唆された。このDGGEバンドAは、テトラクロロエチレン(PCE)の脱塩素化細菌として知られるDehalobacter restricus PER-K23株に最類縁で、94.9 %の相同性を示し(Holliger, C., D. Hahn, H. Harmsen, W. Ludwig, W. Schumacher, B. Tindall, F. Vazquez, N. Weiss, and J. A. Zehnder. 1998. Dehalobacter restrictus gen. nov. and sp. nov., a strictly anaerobic bacterium that reductively dechlorinates tetra- and trichloroethene in an anaerobic respiration. Arch. Microbiol., 169:313-321.)、Bは同じくPCE脱塩素化細菌のD. restricus TEA株に最類縁で95.9%の相同性を示した(Wild, A., R. Hermann, and T. Leisinger. 1996. Isolation of an anaerobic bacterium which reductively dechlorinates tetrachloroethene and trichloroethene. Biodegradation 7:507-511)。
フサライド添加および無添加培養物について、各優占微生物の16SrRNA遺伝子ほぼ全長に基づく系統解析を行う目的で、16SrRNA遺伝子のほぼ全長を増幅するプライマーを用いたPCRを行い、16SrRNA遺伝子クローンライブラリーを構築した。フサライド添加および無添加培養物について、各50クローン(計100クローン)を獲得した。各クローンについて、HaeIII、HhaIおよびSspIによる制限酵素断片パターンを比較した結果、計8つのOTUsが得られ、これら8OTUsから各1クローンについて塩基配列解析を行った。KLF培養物のフサライド添加および非添加培養物から得られた8OTUsのうち、OTU1およびOTU2は、Dehalobacter属に属し、5つのOTUsがClostridium属、1つがSedimentbacter属に属した(表10)。このうち、OTU1およびOTU2は、フサライド添加培養物のみに出現し、PCR-DGGEで示されたバンドAおよびBにそれぞれ一致した。これより、OTU1およびOTU2を、KLF培養物においてフサライド脱塩素化を担っている微生物であることが示されたことから、他のクローンと区別する目的で、FTH1およびFTH2と称する。FTH1およびFTH2は、PCE脱塩素化細菌として分離されたDehalobacter restrictus TEA株(Wild, A., R. Hermann, and T. Leisinger. 1996. Isolation of an anaerobic bacterium which reductively dechlorinates tetrachloroethene and trichloroethene. Biodegradation 7:507-511)と最類縁で、それぞれ97.5%および97.3%の相同性を示した。図4に、FTH1およびFTH2シーケンスおよびその類縁シーケンスについて近隣結合法により作成した系統樹を示す。FTH1およびFTH2は、これまでに分離されたDehalobacter属細菌および塩素化合物関連環境より得られた類縁クローン(von Wintzingerode, F., B. Selent, W. Hegemann, and U. B. Gobel. 1999. Phylogenetic analysis of an anaerobic, trichlorobenzene-transforming microbial consortium. Appl. Environ. Microbiol. 65:283-286.、Schlotelburg, C., F. von Wintzingerode, R. Hauck, W. Hegemann, and U. B. Gobell. 2000. Bacteria of an anaerobic 1,2-dichloropropane-dechlorinating mixed culture are phylogenetically related to those of other anaerobic dechlorinating consortia. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 50:1505-1511.、Lowe, M., E. L. Madsen, K. Schindler, C. Smith, S. Emrich, F. Robb, and R. U. Halden. 2002. Geochemistry and microbial diversity of a trichloroethene-contaminated Superfund site undergoing intrinsic in situ reductive dechlorination. FEMS Microbiol. Ecol. 40:123-134.、van Doesburg, W., M. H. A. van Eekert, P. J. M. Middeldorp, M. Balk, G. Schraa, and A. J. M. Stams. 2005. Reductive dechlorination of [β]-hexachlorocyclohexane ([β]-HCH) by a Dehalobacter species in coculture with a Sedimentibacter sp. FEMS Microbiol. Ecol. 54:87_95.; Yan, T., T. M. LaPara, and P. J. Novak 2006. The effect of varying levels of sodium bicarbonate on polychlorinated biphenyl dechlorination in Hudson River sediment cultures. Environ. Microbiol. 8:1288-1298. )とは異なったクラスターを形成したことから、16SrRNA遺伝子相同性からも、少なくとも種レベルで新規な細菌であることが示された。尚、FTH1及びFTH2の16SrRNA遺伝子配列はDDBJ/EMBL/GenBank (http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)にアクセッション番号AB294742(配列番号1)及びAB294743(配列番号2)で登録した。
【表10】
JP0005305212B2_000011t.gif

【0036】
(7)KLF培養物におけるPCBsおよびPCDDsの脱塩素化能の評価
KLF培養物について、気相を80%水素および20%二酸化炭素に置換し、KLF12代目培養物5%容量を接種源として添加した条件で、2,3,4-triCB、2,3,4,5-teCB、1,2,3-triCDDまたは1,2,3,4-teCDDの脱塩素化能を評価した。各培養物の培養液中における塩素化合物濃度の推移を図5に示す。2,3,4-triCB、2,3,4,5-teCB、および1,2,3-triCDD添加培養物において、時間の経過とともに、添加塩素化合物の減少および、これに伴った脱塩素化産物の産生を確認した(図5A、B、C)。一方、1,2,3,4-TeCD添加培養物では、このような脱塩素化を示唆する変化が観察されなかった(図5D)。これより、KLF培養物は、2,3,4-TriCB、2,3,4,5-TeCB、および1,2,3-TriCDDの脱塩素化能を有することが示された。
図5に示すように、PCB添加KLF培養物において、添加したPCBに対して産生される脱塩素化産物量が非常に小さいことから、脱塩素化産物が気相中に気化していることが予想された。そこで、気相中のガス20μlをGC-MS分析したところ、1-2塩素化ビフェニルを中心にPCBが気化していることが観察された。
【0037】
図6に、KLF培養物の培養0日目および60日目の気相中および培養液中に存在するPCBsまたはPCDDsの総量を示す。この図における0日目の総量は、0日目に培養液中に検出した各添加PCBおよびPCDD量および、これをもとに60日目に検出結果における添加化合物の液相/気相の存在比率から推算した気相存在量を合計したものである。PCDD培養物では、培養液中への溶け出しによってPCDDが増加し、PCB培養物では、若干、PCBが気化により消失していることが示唆されたものの、およそ同等のPCBまたはPCDD量が得られていることから、KLF培養物において、2,3,4-TriCB、2,3,4,5-TeCBおよび1,2,3-TriCDDは脱塩素化により減少し、1,2,3,4-TeCDDは脱塩素化されないことが示された。
【0038】
(8)KLF培養物によるフサライド、PCBsおよびPCDDsの脱塩素化経路
KLF培養物によるフサライド(A)、2,3,4-triCB(B)、2,3,4,5-teCB(C)、および1,2,3-triCDD(D)脱塩素化により産生した脱塩素化産物から、これらの化合物の脱塩素化経路を推定した(図7)。
【0039】
(9)KLF培養物の集積
KLF培養物の一部を連続継代培養に供した。まず、KLF培養物5%(v/v)を、ペプトン0.01%(w/v)を添加したFTH培地に植え継ぎ培養した。気相条件は80%水素、20%二酸化炭素とし、培養温度は30℃とした。14日間の培養後、培養物の5%を更に植え継ぎ、培養した。この操作を繰り返し、集積度を高めた。FTH1及びFTH2を含むこと及び脱塩素化活性が認められることを確認した後、最終的に得られた培養物(KFC4HC)を以下の通り所定の寄託機関に寄託した。
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
寄託日(受領日):2007年4月3日
受託番号:NITE P-353
【0040】
KFC4HCは計3種の優占微生物種を含む混合微生物である。2種(FTH1、FTH2)については、デハロバクター属の種レベルで新規な微生物である。当該2種の微生物種がフサライドを脱塩素化する。当該2種の微生物種が生存しているかを確認するには、植え継いだ培養物でフサライドの脱塩素化が生じるか観察すればよい。また、PCR-DGGEを行い、図9と同様のバンドパターンが得られた場合、当該2種の微生物種を含め、KFC4HCを構成する各微生物種が維持されていることを確認できる。尚、KFC4HCのその他の特性を以下に示す。
(形態)
桿菌。KFC4HCのDAPI(4’,6-diamino-2-phenylindole)染色像を図8に示す。
(生理学的特徴)
(1)生育しても、目視で培地の濁りを確認できない。
(2)40℃以上で死滅する。
(3)0.5mM以上の硫化水素を添加すると生育しない。
(4)フサライドを電子受容体として生育する。
(PCR-DGGE)
KFC4HCをPCR-DGGEで解析した結果を図9に示す。
【0041】
4.考察
PCBに代わるモデル化合物としてフサライドを用い、フサライドおよびPCBを脱塩素化するKLF集積物を獲得し、KLF培養物が還元鉄添加条件下でもフサライドを脱塩素化することを示した。KLF培養物においてフサライドの脱塩素化を担う微生物は、2種のDehalobacter属細菌FTH1およびFTH2であり、少なくとも種レベルで新規な微生物であった。FTH1およびFTH2は、2,3,4,5-テトラクロロビフェニルおよび2,3,4-トリクロロビフェニルを2-または4-モノクロロビフェニルといった1塩素化物まで脱塩素化できる。
また、KLF培養物を継代培養することによって集積度の非常に高い微生物群集を獲得することに成功した。尚、合計で16ヶ月という比較的短期間の集積にも拘わらずこのような高い集積度が得られたことは特筆に値する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の微生物群集及び微生物は単独でPCBを1塩素化物まで脱塩素化することが可能であり、様々なPCB同族体の脱塩素化への適用・応用を期待できる。本発明の微生物群集及び微生物はダイオキシン類に対する脱塩素化活性も有することからダイオキシン汚染環境浄化への応用も期待される。本発明の微生物群集又は微生物を、他のPCB脱塩素化微生物群又は微生物と組み合わせて用い、脱塩素化能を高めることも可能である。
【0043】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】各有機酸添加水田培養物におけるフサライドの脱塩素化。ace: 酢酸添加培養物、for:蟻酸添加培養物、lac:乳酸添加培養物、but: 酪酸添加培養物。
【図2】KLF培養物におけるフサライドの脱塩素化。並行して行った3連の実験結果の平均値および標準偏差を示している。●:フサライド、▲:4,6,7-トリクロロフタリド、□:4,4-ジクロロフタリド、■:4,5-ジクロロフタリド、○:4-モノクロロフタリド
【図3】KLF培養物における微生物群集構造のPCR-DGGE解析結果。各レーン番号は、KLF継代培養物の継代回数を示している。“-F”は、10代目KLF培養物をフサライド無添加培地に2代植え継いだ培養物を示している。バンドAおよびBについては、シーケンス解析を行った。
【図4】フサライド脱塩素化細菌FTH1およびFTH2シーケンスおよびその類縁シーケンスについて近隣結合法により作成した系統樹。*で示したクローンは全て塩素化合物関連環境から獲得されたクローンであり、横に表示した文字は、塩素化合物名を示している。
【図5】KLF培養物による2,3,4-triCB(A)、2,3,4,5-teCB(B)、1,2,3-triCDD(C)および1,2,3,4-teCDD(D)の脱塩素化能。
【図6】KLF培養物の培養0日目および60日目の気相中および培養液中に存在するPCBsまたはPCDDsの総量。
【図7】KLF培養物による各塩素化合物の脱塩素化経路:フサライド(A)、2,3,4-triCB(B)、2,3,4,5-teCB(C)、1,2,3-triCDD(D)。
【図8】最終的に獲得された微生物群集(KFC4HC)のDAPI(4’,6-diamino-2-phenylindole)染色像。
【図9】KFC4HCのPCR-DGGE解析結果。レーンA:KFC4HC(寄託微生物培養物)、レーンB:KLF培養物(KFC4HCの元の培養物)、レーンC:フサライド脱塩素化細菌クローンFTH2、レーンD:フサライド脱塩素化細菌クローンFTH1。レーンAのaで示すバンドはクローンFTH1由来であり、bで示すバンドはクローンFTH2由来である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図3】
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【図8】
7
【図9】
8