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明細書 :単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法、単結晶炭化ケイ素基板の製造方法、及び単結晶炭化ケイ素基板

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5213096号 (P5213096)
公開番号 特開2008-230946 (P2008-230946A)
登録日 平成25年3月8日(2013.3.8)
発行日 平成25年6月19日(2013.6.19)
公開日 平成20年10月2日(2008.10.2)
発明の名称または考案の名称 単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法、単結晶炭化ケイ素基板の製造方法、及び単結晶炭化ケイ素基板
国際特許分類 C30B  29/36        (2006.01)
H01L  21/208       (2006.01)
C30B  19/04        (2006.01)
FI C30B 29/36 A
H01L 21/208 L
C30B 19/04
請求項の数または発明の数 4
全頁数 20
出願番号 特願2007-077439 (P2007-077439)
出願日 平成19年3月23日(2007.3.23)
審査請求日 平成22年2月10日(2010.2.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
発明者または考案者 【氏名】金子 忠昭
【氏名】西谷 滋人
個別代理人の代理人 【識別番号】100118784、【弁理士】、【氏名又は名称】桂川 直己
審査官 【審査官】田中 則充
参考文献・文献 特開2004-292305(JP,A)
特開2005-097040(JP,A)
特開平11-116398(JP,A)
調査した分野 C30B1/00-35/00
H01L21/208
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
単結晶炭化ケイ素からなるシード基板に対向して、このシード基板より自由エネルギーの高い炭素フィード基板を配置し、前記シード基板と前記炭素フィード基板との間にケイ素の極薄溶融層を溶媒として介在させて真空高温環境で加熱処理する準安定溶媒エピタキシー(MSE)法により、前記シード基板の表面に単結晶炭化ケイ素を液相エピタキシャル成長させる単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法であって、
前記シード基板の結晶多形が4H-SiC又は6H-SiCであり、このシード基板において液相エピタキシャル成長を行う表面の結晶面方位は(000-1)C面であり、
前記炭素フィード基板は前記シード基板と同じ結晶多形を有する単結晶炭化ケイ素基板であり、前記シード基板に対向する前記炭素フィード基板の表面の結晶面方位は(0001)Si面、(1-10n)面、(11-2n)面、(1-100)面、又は(11-20)面であることを特徴とする単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法。
【請求項2】
単結晶炭化ケイ素からなるシード基板に対向して、このシード基板より自由エネルギーの高い炭素フィード基板を配置し、前記シード基板と前記炭素フィード基板との間にケイ素の極薄溶融層を溶媒として介在させて真空高温環境で加熱処理する準安定溶媒エピタキシー(MSE)法により、前記シード基板の表面に単結晶炭化ケイ素を液相エピタキシャル成長させる単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法であって、
前記シード基板の結晶多形が4H-SiC又は6H-SiCであり、このシード基板において液相エピタキシャル成長を行う表面の結晶面方位は(0001)Si面であり、
前記炭素フィード基板は前記シード基板と同じ結晶多形を有する単結晶炭化ケイ素基板であり、前記シード基板に対向する前記炭素フィード基板の表面の結晶面方位は(1-10n)面、(11-2n)面、(1-100)面、又は(11-20)面であることを特徴とする単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法であって、
前記シード基板及び前記炭素フィード基板は、タンタル金属からなるとともに炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備える上下が嵌合した収納容器に収納され、この収納容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなるようにして容器内の真空環境をシリコンの飽和蒸気圧で保った状態で1500℃以上2300℃以下の温度で加熱処理されることを特徴とする単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法。
【請求項4】
請求項に記載の単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法であって、前記加熱処理は10-4Pa以下の減圧下で行われることを特徴とする単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、炭化ケイ素(SiC)を液相エピタキシャル成長させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、放射線にも強く、不純物の添加によって電子や正孔の価電子制御も容易にできるとともに、広い禁制帯幅(6H型の単結晶SiCで約3.0eV、4H型の単結晶SiCで約3.3eV)を有するという特徴を備えている。従って、炭化ケイ素は、ケイ素(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の既存の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であるとされ、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体の材料として期待が高まっている。また、六方晶SiCは、窒化ガリウム(GaN)と格子定数が近く、GaNの基板として期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、SiC単結晶の成長に昇華再結晶法(改良レーリー法)を使用することができる旨を開示する。この方法を説明すると、ルツボ内の低温側に単結晶SiC基板を種結晶として固定配置し、高温側に原料となるSiを含む粉末を配置して、ルツボを不活性雰囲気中で1450℃以上2400℃以下の高温に加熱する。これにより、Siを含む粉末を昇華させて低温側の種結晶の表面上でSiCを再結晶させる。このようにして、単結晶SiCの育成を行うというものである。

【特許文献1】特開2005-97040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1も指摘するように、上記の昇華再結晶法(改良レーリー法)、すなわち物理気相輸送法(Physical Vapor Transport法)は非常に高コストの製法である。
【0005】
SiC以外の半導体材料ウエハは、液相からの成長によって低コストで製造されているが、SiCでは未だに確立されていない。これは、SiCが非コングルエント反応(固相と液相が同じ組成で直接反応しない)であり、また、Siやそれらに金属を加えた合金を溶媒としたときに炭素の溶解度が非常に低いためである。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、SiCを液相からエピタキシャル成長させる新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【符号の説明】
【0008】
本発明の第1の観点によれば、単結晶炭化ケイ素からなるシード基板に対向して、このシード基板より自由エネルギーの高い炭素フィード基板を配置し、前記シード基板と前記炭素フィード基板との間にケイ素の極薄溶融層を溶媒として介在させて真空高温環境で加熱処理する準安定溶媒エピタキシー(MSE)法により、前記シード基板の表面に単結晶炭化ケイ素を液相エピタキシャル成長させる単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法が提供される。また、前記シード基板の結晶多形は、4H-SiC又は6H-SiCであり、前記炭素フィード基板は、前記シード基板と同じ結晶多形を有する単結晶炭化ケイ素基板である。そして、液相エピタキシャル成長を行う表面の結晶面方位は(000-1)C面であり、前記シード基板に対向する前記炭素フィード基板の表面の結晶面方位を(0001)Si面、(1-10n)面、(11-2n)面、(1-100)面、又は(11-20)面とする。なお、液相エピタキシャル成長を行う表面の結晶面方位を(0001)Si面として、前記シード基板に対向する前記炭素フィード基板の表面の結晶面方位を(1-10n)面、(11-2n)面、(1-100)面、又は(11-20)面とすることもできる。

【0009】
このMSE法では、温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御されるので、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができ、高品質なエピタキシャル成長層を得ることができる。また、様々な化学ポテンシャルの差に基づく自由エネルギーを駆動力として用いることができるので、炭化ケイ素を大面積エピタキシャル成長させることが容易である。更に、系に温度勾配を形成する必要がないので、プロセスを行うための装置構成を簡素化でき、プロセス制御も簡単になる。加えて、溶媒の厚みが極めて小さいために炭素フィード基板からの炭素の拡散が良好であり、温度上昇によりケイ素の溶融層(溶媒)に対する炭素の溶解度を上昇させる必要がないので、プロセスの低温化が容易である。以上により、エピタキシャル成長層の形成コストを低減することができる。
【0013】
前記の単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法においては、前記シード基板及び前記炭素フィード基板は、タンタル金属からなるとともに炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備える上下が嵌合した収納容器に収納され、この収納容器の内部圧力が外部圧力よりも高くなるようにして容器内の真空環境をシリコンの飽和蒸気圧で保った状態で1500℃以上2300℃以下の温度で加熱処理されることが好ましい。
【0014】
これにより、MSE法のプロセスを良好に且つ効率良く行うことができる。また、プロセス中に他の不純物が侵入することを防止できるので、高品質のエピタキシャル成長層を得ることができる。
【0015】
前記の単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法においては、前記加熱処理は10-4Pa以下の減圧下で行われることが好ましい。
【0016】
これにより、MSEプロセス中に他の不純物が収納容器に侵入することを防止でき、品質の良好なエピタキシャル成長層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の液相エピタキシャル成長方法について詳細に説明する。本発明の液相エピタキシャル成長方法は、公知の溶媒移動法(Traveling Solvent法)と共通する部分を有しているが、本発明の方法は温度勾配を使用しない点で溶媒移動法と異なる。本発明の方法において溶媒移動の駆動力は、3C-SiC(炭素フィード側)と4H-SiC(シード側)の化学ポテンシャルの差である。以下、この原理を安定-準安定平衡ダブル状態図を用いて説明する。
【0026】
まず、本発明のプロセスを行うときの構成例を、図1の模式図を用いて説明する。この図1に示すように、TaC製の坩堝である容器16の内部にSiCとSiのサンドイッチ構造が保持されている。具体的には、シード基板としての単結晶4H-SiC基板15を上下中央に配置し、その上側と下側に炭素フィード基板としての多結晶3C-SiC基板20,20をそれぞれ配置している。単結晶4H-SiC基板15と多結晶3C-SiC基板20,20の間には、それぞれシリコンプレート23,23が介在されている。
【0027】
この図1の積層構造において、多結晶3C-SiC基板20,20は炭素を供給する原料つまりフィード側として使用され、単結晶4H-SiC基板15は液相エピタキシャル成長の基板(シード側)として使用される。この構成で、容器16を高真空環境でタングステンヒータにより1800℃に均質に加熱する。すると、基板15,20の間に介在されていたシリコンプレート23は溶融し、シリコン融液が炭素を移動させるための溶媒として働く。この溶媒の厚みは極めて小さく、数十から数百μmである。容器16の加熱は数分から十分程度行われ、その後冷却される。
【0028】
10分間の加熱処理後に冷却した場合の試料断面の走査電子顕微鏡像を図2に示す。この図2からは、上から順に、多結晶3C-SiC基板20、凝固した溶媒シリコン(シリコン融液)19、単結晶4H-SiCのエピタキシャル成長層15e、及び単結晶4H-SiC基板15の積層構造となっていることが判る。特に、4H-SiC基板15上に4H-SiCが25μm程エピタキシャル成長しているのを観察することができる。なお、試料の4H-SiC基板15には予め窒素をドープしてあるので、図2の顕微鏡像において単結晶4H-SiC基板15とエピタキシャル成長層15eとを明瞭に区別することができる。
【0029】
図2に示すように、多結晶3C-SiC基板20はエピタキシャル成長前ではより緻密であったが、界面から優先的に溶解し、加熱処理後にはまばらになっているのが観察される。エピタキシャル成長中は、液体シリコン19の部分が、フィード側の多結晶3C-SiC基板20からシード側の単結晶4H-SiC基板15へ炭素を供給する溶媒として働く。
【0030】
図2には、炭素の波長分散X線による濃度プロファイルが併せて示されている。このプロファイルで示すように溶媒シリコン19中の炭素濃度の限界は極めて低いが、溶媒の厚みが極めて小さいため、結晶成長に十分な量の炭素を拡散させることができる。
【0031】
なお、図1に示した試料の構成のほか、多結晶3C-SiC基板20と単結晶4H-SiC基板15の位置関係が上下逆となるような試料構成でも実験を行ったが、この場合でも同様に4H-SiCのエピタキシャル成長が起こった。従って、系に意図しない温度勾配が生じており、それが本実験における駆動力になっているとは考えられない。
【0032】
この液相エピタキシャル成長プロセスの駆動力は、小学校の理科の授業で行われるミョウバンの結晶成長実験の場合と同じく、濃度勾配である。当該プロセスの駆動力を説明する前に、まず、よく似た装置構成を持った溶媒移動法(Traveling Solvent法)を、図3(a)を参照して説明する。
【0033】
溶媒移動法では図3(a)に示すように、SiCのフィード側とシード側とで薄いSi層を挟んだ積層構造が、Si層に垂直に温度勾配を持つように上側から加熱される。フィード側の界面はT+ΔTの温度であるので、図3(b)のSi-C系状態図から判るとおり、Siに対するSiCの溶解度はX+ΔX%である。一方、シード側の界面での温度Tでの溶解度限はX%である。なお、図面において溶解度はより高い濃度へ誇張して描かれている。
【0034】
この濃度勾配によって、過剰なSiCはフィード側の界面から溶解し、液体Si溶媒に拡散して、シード側の界面に析出する。従って、液体Si層はフィード側の下から上へと移動する。このように、溶媒移動法において溶媒を移動させる駆動力は、温度勾配から得られる濃度勾配である。
【0035】
一方、本発明のプロセスでは、結晶成長の間中、温度は空間的にも時間的にも一定に保たれる。この系での駆動力は、フィード側の3C-SiCの準安定性である。これは、図4(a)に模式的に示した各相の存在する炭素濃度と温度領域を表すSi-C系の安定・準安定平衡ダブル状態図から導かれる。ダブル状態図は、冶金学においてはFe-C系の如く馴染みの深いものであって、準安定相を含んだ系においては一般的に現れる。
【0036】
図4(a)に示すように、Siの液体をSiL、Siの固体をSiSとすると、SiL→SiS+SiC3Cの準安定共晶温度は、SiL→SiS+SiC4Hの安定共晶温度よりも低い温度になる。図4(b)は、対応する自由エネルギー濃度図を模式的に示したものである。それぞれの相の溶解度限は、図4(b)に示すように、共存相の自由エネルギーの共通接線で得られる。
【0037】
温度Tにおいて、準安定3C-SiCの溶解度つまり準安定固溶限はC3Cであり、対応する液相線が図4(a)の破線で示されている。もう1つの安定4H-SiCの溶解度つまり安定固溶限はC4Hであり、図4(a)に実線で示した液相線に対応している。従って、3C-SiCと4H-SiCとの間に挟まれたSi薄膜に濃度勾配が得られる。この濃度勾配の模式的なプロファイルを図4(c)に示す。
【0038】
図5(a)は、安定・準安定平衡化学ポテンシャル差による自由エネルギーの駆動力で、フィード側の3C-SiC基板表面から炭素原子Cがシード側の4H-SiC基板に移動する様子を示す概念図である。図5(b)は、各相の存在する炭素濃度と温度領域を表すSi-C系のダブル状態図である。
【0039】
フィード側の3C-SiCに接する溶媒Siの濃度が、図5(b)に矢印で示したとおり、破線で描かれる準安定液相線つまり準安定固溶限より低い場合には、フィード側の3C-SiC基板は溶出し、炭素が供給される。この炭素は、溶媒中に存在する濃度勾配によって拡散し、シード側の4H-SiC基板上に供給される。そして、シード側の4H-SiCに接する溶媒Siの濃度が、図5(b)において実線で描かれる安定液相線つまり安定固溶限よりも高い場合に析出が起こる。
【0040】
図6(a)は、プロセスの過程における濃度プロファイルの変化を模式的に示す図である。図6(b)は、各相の存在する炭素濃度と温度領域を表すSi-C系のダブル状態図である。
【0041】
プロセスの開始時における濃度プロファイルは、図6(a)の実線で示すように、井戸のような形状をしている。そして、プロセス開始直後の初期においては、フィード側の3C-SiC基板に接するSi溶媒の炭素固溶度は準安定固溶限よりも低いため、溶出が起こる。これはシード側の4H-SiC基板においても同様であり、ここに接するSi溶媒の炭素固溶度は、プロセスの初期においては安定固溶限よりも低いため、溶出が起こる。このときの濃度プロファイルは、図6(a)に一点鎖線で描かれている。これによって、シード側4H-SiC基板の表面が洗われて、基板の活性化が行われる。
【0042】
更に時間が経過すると溶出が進み、溶媒Si中の炭素濃度が上昇する。フィード側の3C-SiC基板に接する溶媒Siの炭素濃度は準安定固溶限であり、シード側の4H-SiC基板に接する溶媒Siの炭素濃度は安定固溶限であり、これらの間にある溶媒Siには図6(a)中に点線で示した濃度勾配ができる。この濃度勾配が、フィード側3C-SiC基板の溶出、溶媒Si中の炭素拡散、シード側4H-SiC基板の析出を駆動し、結晶成長が進む。
【0043】
図7は、本発明の原理とよく似た原理に基づく物理現象として古くから知られている、不安定な微細粒が消滅しより大きな粒が成長するオストワルド成長の原理を説明する図である。図7(a)は自由エネルギー濃度図で、溶媒の自由エネルギー(Gα)と、粒径の小さな析出粒の自由エネルギー(Gβ(S))と、粒径の大きな析出粒の自由エネルギー(Gβ(L))と、を表している。
【0044】
粒径の大きさの違いによる自由エネルギーの高低差は、界面エネルギーに起因したギブス-トムソン効果によって発現する。粒径の小さな析出粒と平衡する溶媒の溶質濃度は、共通接線からxα(S)であり、粒径の大きな析出粒と平衡する溶媒の溶質濃度はxα(L)である。
【0045】
このような粒径の異なった析出粒と溶媒が共存する系では、図7(b)に示すような濃度プロファイルを示す。粒径の小さな析出粒に接する溶媒の溶質濃度はxα(S)であり、粒径の大きな析出粒に接する溶媒の溶質濃度はxα(L)である。この濃度勾配によって、粒径の小さな析出粒から溶質が溶出し、この溶質は溶媒中を拡散して、粒径の大きな析出粒に供給される。これによって、粒径の小さな析出粒は消失し、粒径の大きな析出粒が成長する。
【0046】
図1の場合のようにフィード側に多結晶SiC基板20を設置した場合には、その多結晶粒のそれぞれの先端は曲がっており、オストワルド成長における粒径の小さな析出粒に対応する。一方、シード側の単結晶SiC基板15は平面であり、曲率無限大の大きな析出粒に対応する。この曲率の差が自由エネルギーの差を誘起し、フィード側の多結晶SiC基板20からシード側の単結晶SiC基板15へ溶質の拡散を駆動し、オストワルド成長と同じ原理によってシード側の単結晶SiC基板15が成長する。
【0047】
以上に説明した本発明のプロセスを、本願発明者は、準安定溶媒エピタキシー法(Metastable Solvent Epitaxy Method)と名付けた。従って、本明細書でも、準安定溶媒エピタキシー法(略称MSE法)の名称を用いることとする。この準安定溶媒エピタキシー法は、シード側となる単結晶SiCの種基板に対向して、シード側よりも自由エネルギーの高い炭素フィード基板をフィード側として配置し、両基板の間に厚みの極めて小さいSiの溶融層を溶媒として介在させて真空高温環境で加熱処理することで、自由エネルギーの差に基づいてSi溶融層に発生する濃度勾配(温度勾配に基づかない濃度勾配)を駆動力として、種基板に単結晶SiCを液相エピタキシャル成長させる方法である。
【0048】
このMSE法において液相エピタキシャル成長の駆動力となる要因をまとめると、以下のとおりである。
【0049】
第1は準安定相の化学ポテンシャルの差である。シード側として6H-SiC基板を使用した場合、これに対してフィード側となり得る基板は、自由エネルギーの大きい順に挙げると、[1]グラファイト、[2]アモルファスSiC、[3]単結晶3C-SiC、[4]単結晶4H-SiCである。シード側として4H-SiC基板を使用した場合、これに対してフィード側となり得る基板は、自由エネルギーの大きい順に挙げると、[1]グラファイト、[2]アモルファスSiC、[3]単結晶3C-SiCである。
【0050】
第2は界面曲率の化学ポテンシャルの差であり、これは古くから知られたオストワルド成長である。自由エネルギーの大きい順で基板を挙げると、[1]多結晶3C-SiC(粒径小)、[2]多結晶3C-SiC(粒径大)、[3]多結晶4H-SiCである。また、上述のとおり、多結晶SiC基板は単結晶SiC基板よりも自由エネルギーが大きくなる。
【0051】
第3は界面面方位の化学ポテンシャルの差である。単結晶4H-SiC又は単結晶6H-SiCにおける代表的な面方位を自由エネルギーの大きい順に挙げると、[1](11-20)面、[2](1-100)面、[3](11-2n)面、[4](1-10n)面、[5](0001)面である。また、単結晶SiC基板表面の裏表に存在するSi面とC面との間にも化学ポテンシャルの差が存在し、自由エネルギーが大きい順に挙げると、[1](0001)Si面、[2](000-1)C面である。なお、六方晶SiCの(0001)Si面、(000-1)C面、(1-100)面、及び(11-20)面について図8(a)~図8(c)に示した。
【0052】
本発明のMSEプロセスは以上に示すように、前記準安定相の化学ポテンシャルの差、界面曲率の化学ポテンシャルの差、界面面方位の化学ポテンシャルの差、の数々の化学ポテンシャルの差による自由エネルギーを利用できるので、SiCを大面積エピタキシャル成長させるのに困難がなく、装置の単純性とあいまって、大口径ウエハの製造を可能にする。
【0053】
また、本発明のMSE法は、前述の溶媒移動法と比較して、結晶成長中に空間的にも時間的にも温度勾配がないという特徴を備えている。例えば前述の溶媒移動法において界面の不安定性や多結晶が現れる大きな原因の1つはいわゆる組成的過冷却であり、この組成的過冷却は温度勾配と濃度勾配の制御の失敗によって生じる。この点、MSE法は温度勾配がなく濃度勾配だけで成長の動力学が制御されるので、エピタキシャル成長を自動的に安定化させることができる。
【0054】
また、本発明のMSE法は、液体Si溶媒が極めて薄いことも特徴である。液体Si溶媒中を炭素が拡散する間、例えば図5(b)の安定状態図から判るとおり炭素が過飽和であるため、溶媒は不安定である。従って、仮に溶媒の厚みが大きいと、シード側の基板以外で核生成する機会が生じ易くなってしまう。従って、液体Si溶媒は核生成を抑えるために薄くなければならない。
【0055】
MSE法は、液体Si溶媒の厚みが極めて小さいため、プロセス中に溶媒内の対流が殆ど起こらない。また、溶媒が薄膜であることから、炭素の溶解度限が低いSi溶融層に対して炭素フィード基板側から十分な量の炭素を良好に拡散させ、SiCを円滑に液相エピタキシャル成長させることができる。
【0056】
また、本発明のMSE法では前述のように炭素フィード基板側から十分な量の炭素をSi溶融層に拡散し得るので、温度を上昇させてSi溶融層に対する炭素の溶解度を上げる必要がない。従って、プロセスの低温化も容易である。加えて、溶媒の厚みが小さいのでSi溶融層が真空に晒される面積も少なくでき、プロセスを低温化できることともあいまって、Si溶融層の揮発量を良好に低減することができる。
【0057】
図9(a)に前述の溶媒移動法のモデル図を示し、図9(b)に本発明のMSE法のモデル図を示す。溶媒移動法は図9(a)に示すように、温度勾配(温度場)を積極的に利用してエピタキシャル成長させる方法である。一方、本発明のMSE法は等温プロセスであり、利用するのは自由エネルギーの差による濃度勾配(濃度場)である。
【0058】
次に、前記MSE法における炭素の拡散の制御について説明する。即ち、図9(b)において矢印で模式的に示すように、本発明のMSE法では、フィード側とシード側とを近接させた部分(液体Si溶媒の薄い部分)では、離れている部分(液体Si溶媒の厚い部分)に比べて、フィード側からの炭素の拡散がより多く行われることになる。
【0059】
また、MSE法では、自由エネルギーの違う基板ないし部材同士を様々に組み合わせて炭素の拡散をコントロールし、液相エピタキシャル成長を制御できることが期待される。
【0060】
例えば、図9(c)は、自由エネルギーが等しい基板同士を対向させたレイアウトを示す。この場合は、炭素の拡散は生じず、液相エピタキシャル成長は行われない。一方、図9(d)は、自由エネルギーが等しい基板同士を対向させるとともに、一方の基板の表面に当該基板よりも自由エネルギーが低い小部材を設置したレイアウトを示す。この場合、矢印に示すように、向かい合う両方の基板から炭素が拡散して前記小部材側へ析出することになる。
【0061】
また、図9(e)は、自由エネルギーが小さい基板に、それよりも高い自由エネルギーを有する小部材を設置し、更に当該小部材と等しい自由エネルギーを有する基板を対向させたレイアウトを示す。この場合、矢印に示すように、自由エネルギーの高い側の基板及び小部材から炭素が拡散して、自由エネルギーの低い基板へ析出することになる。
【0062】
図10は、MSEプロセスにおける状態遷移と自由エネルギーの変化を示す模式的概念図である。この図10は、フィード側として多結晶3C-SiC基板20を用い、シード側に単結晶4H-SiC基板15(又は6H-SiC基板)を用いた場合に、MSEプロセスの各過程での自由エネルギーの遷移を示している。
【0063】
MSEプロセスでは、炭素の状態は大きく分けて、フィード側の多結晶SiC基板20に結晶している結晶状態、Si溶融液19に溶解している溶解状態、シード側の単結晶SiC基板15の表面に吸着している表面吸着状態、シード側の単結晶SiC基板15に結晶成長する結晶状態、の4つの状態をとり得る。そして、上記で述べたフィード側の結晶状態、溶解状態、表面吸着状態、シード側の結晶状態の順に自由エネルギーが小さくなっており、これがMSE法における状態遷移を起こす駆動力となっている。
【0064】
MSEプロセスにおける炭素の状態遷移について図10を参照して説明する。即ち、炭素はまず、フィード側の多結晶3C-SiC基板20に結晶している結晶状態から溶媒シリコン19へ溶出し、溶解状態となる(供給過程)。そして溶解状態の炭素は、溶媒シリコン19の濃度勾配により拡散し、シード側に移動する(輸送過程)。シード側の単結晶SiC基板15の表面において、溶媒シリコン19に溶解している炭素は脱溶媒和により表面吸着状態となり、更に結晶状態へ移行してエピタキシャル成長層15eとなる(表面カイネティックス過程)。
【0065】
次に、本発明のMSEプロセスを行うのに好適な熱処理装置としての加熱炉の一例を、図11の模式断面図を参照して説明する。
【0066】
図11に示すように、加熱炉1は、本加熱室2と、予備加熱室3と、この予備加熱室3から前記本加熱室2に続く部分にある前室4とを主要部分として備える。この構成で、単結晶SiC基板15等が収納された容器(熱処理容器)16が予備加熱室3から前室4、本加熱室2へと順次移動することで、単結晶SiC基板15を短時間で所定の温度(1500℃以上2300℃以下、好ましくは1600℃以上2100℃以下、更に好ましくは1700℃以上1900℃以下、例えば1800℃)で加熱できるようになっている。
【0067】
この加熱炉1では、図11に示すように、本加熱室2と前室4との接続部分及び、前室4と予備加熱室3との接続部分が、それぞれ連通部を有して仕切られている。このため、上記の各室2,3,4は予め所定の圧力下に制御することが可能である。また、必要な場合には、各室毎にゲートバルブ7を設けることによって、単結晶SiC基板15等を収納した容器16の移動時において、外気に触れることなく、所定圧力下の炉内を適宜の移動手段(図略)によって移動させることができ、不純物の混入を抑制することができる。
【0068】
予備加熱室3には、予備加熱手段としてのハロゲンランプ6が設けられている。この構成により、約10-2Pa以下の減圧下で所定の範囲の温度(例えば、約800℃以上1000℃以下の範囲内)に急速に加熱することができる。また前述したように、予備加熱室3と前室4との接続部分にはゲートバルブ7が設けられて、予備加熱室3及び前室4の圧力制御を容易なものにしている。
【0069】
単結晶SiC基板15等が収納された容器16は、この予備加熱室3で、テーブル8上に載置された状態で約800℃(後述の本加熱時の温度より低い温度)に予め加熱される。その後、予備加熱室3と前室4との間で圧力調整が行われ、その調整が完了すると前記容器16は図略の搬送装置によって搬送されて、前室4に設けられている昇降式のサセプタ9に載置される。
【0070】
前室4に移動した容器16は、昇降式の移動装置10によって、サセプタ9とともに前室4から本加熱室2へ移動する。本加熱室2は、真空ポンプによって予め約10-4Paの減圧下に調整され、また、加熱ヒータ11によって所望の温度(例えば、1800℃)となるように温度調節されている。
【0071】
なお、前記本加熱室2の圧力環境は、上記のように約10-4Pa以下の真空とするのが好ましいが、例えば約10-2Pa以下の真空としても良い。また、例えば約10-2Pa以下の真空、好ましくは約10-4Pa以下の真空とした後に、若干の不活性ガスが導入された希薄ガス雰囲気下であっても良い。
【0072】
上記本加熱室2の状態をこのように設定しておき、容器16を前室4から本加熱室2内へ前記移動装置10によって高速で移動させることによって、容器16を前記の所望の温度に急速に短時間で加熱することができる。
【0073】
本加熱室2には、加熱ヒータ11の周囲に反射鏡12が設置されている。この反射鏡12は、加熱ヒータ11からの熱を反射して、当該加熱ヒータ11の内部に位置する単結晶SiC基板15側に熱が集中するようにしている。この反射鏡12は、金メッキしたW、Ta、Mo等の高融点金属や、WC、TaC、MoC等の高耐熱炭化物で形成されていることが好ましい。
【0074】
また、本加熱室2には窓17が設けられており、本加熱室2の外部に設置された赤外線放射温度計18によって本加熱室2の内部温度を計測できるようになっている。
【0075】
前記移動装置10は凸状の段付き部21を備える一方、本加熱室2は凹状の段付き部22を備えている。そして、移動装置10を駆動して容器16を前室4から本加熱室2へ移動させたときは、凸状の段付き部21が凹状の段付き部22に嵌合して、嵌合部25を形成するようになっている。前記凸状の段付き部21の各段部には図略のシール部材(例えば、Oリング)が設けられており、容器16を本加熱室2へ移動させたときに嵌合部25をシールして、本加熱室2を密閉できるように構成されている。
【0076】
本加熱室2の加熱ヒータ11の内側には、汚染物除去機構29が設けられている。この汚染物除去機構29は、熱処理中に単結晶SiC基板15等から容器16の外に排出される不純物を、加熱ヒータ11と接触しないように除去する。これによって、加熱ヒータ11が上記不純物と反応して劣化することを防止できる。なお、この汚染物除去機構29は、単結晶SiC基板15等から排出される不純物を吸着するものであれば、特に限定されない。
【0077】
加熱ヒータ11は、W又はTa等の金属製の抵抗加熱ヒータであり、前記サセプタ9側に設置されたベースヒータ11aと、本加熱室2側に設けられた上部ヒータ11bとで構成されている。前記移動装置10によって容器16がベースヒータ11aとともに本加熱室2側へ上昇移動すると、鎖線で図示するように容器16が加熱ヒータ11によって取り囲まれる形となる。このような加熱ヒータ11のレイアウトにより、前述の反射鏡12ともあいまって、加熱領域の温度分布を高精度で均一になるよう制御することができる。この結果、容器16を均一に加熱でき、容器16の内部に意図しない温度勾配が生じることを回避することができる。なお、本加熱室2の加熱方式としては、抵抗加熱ヒータに限定せず、例えば高周波誘導加熱式のものを採用することができる。
【0078】
次に、図12を参照しつつ、本実施形態のMSE法による液相エピタキシャル成長を行う際に用いられる容器16について説明する。図12は容器の上容器と下容器とを取り外した状態の斜視図である。
【0079】
前述の容器16は、図12に示すような上容器16aと下容器16bとを備えている。容器16の形状は図示されるようにほぼ六面体状とされているが、これは一例であって、例えば円筒状に構成されていても良い。上容器16a及び下容器16bは、タンタル金属から構成されており、その表面全体を炭化タンタル層で覆った構成になっている。
【0080】
そして、図13に示すように、単結晶SiC基板15を含むサンドイッチ構造を容器16内に配置する。このサンドイッチ構造は図1に示す構成と実質的に同様であって、シード側となる単結晶SiC基板15の上下に、フィード側となる多結晶SiC基板20をそれぞれ配置している。図13に示す実施形態では、この単結晶SiC基板15の結晶多形は4H-SiCとされるが、これに限定されない。単結晶SiC基板15と多結晶SiC基板20との間には、シリコンプレート23が介在されている。なお、図13の符号31は、上容器16a及び下容器16bの表面を覆っている前記炭化タンタル層である。
【0081】
シード側の単結晶SiC基板15は、本実施形態では単結晶4H-SiC基板を使用しているが、例えば6H-SiC基板を用いても良い。また、フィード側の多結晶SiC基板20は、本実施形態では多結晶3C-SiC基板を使用しているが、他の基板を用いても良い。シード側とフィード側の基板は、上述のように化学ポテンシャルの高低差を発現するように選択される限り、任意の組合せを採用することができる。
【0082】
容器16内の適宜位置にはシリコンペレット14が配置されている。この構成により、加熱処理時に前記シリコンペレット14が蒸発し、容器16内部にSi雰囲気を形成することができる。また、前述のサンドイッチ構造と下容器16bの内底面との間にはスペーサ13が介在されている。
【0083】
以上の収納状態で容器16を加熱炉1にセットして加熱する。なお、MSE法を行う場合は、図13の基板配置例とすることに限定せず、他の様々な基板配置を採用することができる。また、図13の内部に設置されているシリコンペレット14を省略することができる。
【0084】
加熱処理の温度制御例が図14に示される。この図14に示すように、本実施形態のプロセスにおいては、前記加熱炉1の予備加熱室3の温度を予め約800℃まで上昇させておき、また、本加熱室2の温度を予め約1800℃まで上昇させておく。そして、図13のように単結晶SiC基板15及び多結晶SiC基板20を収納した容器16を予備加熱室3に挿入し、数分から数十分程度加熱する(予備加熱)。その後、前述のように下容器16bを単結晶SiC基板15とともに本加熱室2に移動し、約1800℃の温度で数分から数十分程度加熱する(本加熱)。このとき、本加熱室2は、約10-2Pa以下の真空、好ましくは約10-4Pa以下の真空に保たれる。その後、加熱が停止された予備加熱室3へ容器16及び単結晶SiC基板15を戻し、自然冷却して取り出す。
【0085】
なお、上容器16aと下容器16bとを図13に示すように嵌め合わせたときの嵌合部分の遊びは、約2mm以下であることが好ましい。これによって、実質的な密閉状態が実現され、前記本加熱室2での加熱処理において容器16内のSi圧力を高めて外部圧力(本加熱室2内の圧力)よりも高い圧力とし、不純物がこの嵌合部分を通じて容器16内に侵入するのを防止することができる。
【0086】
また、本実施形態の容器16は上述したように、その表面が炭化タンタル層31に覆われており、炭化タンタル層31が容器16の内部空間に露出する構成になっている。従って、上述のように真空下で高温処理を続ける限りにおいて、容器16は炭化タンタル層31の表面から連続的に炭素分子を吸着して取り込む機能を奏する。この意味で、本実施形態の容器16は炭素分子吸着イオンポンプ機能(イオンゲッター機能)を有するということができる。
【0087】
以上の加熱処理により、前記シリコンプレート23が融解して単結晶SiC基板15と多結晶SiC基板20との間に極薄(例えば、厚み10μm以上1000μm以下)のSi溶融層が形成される。このSi溶融層が溶媒として働くことにより、シード側の単結晶SiC基板15の表面に、MSE法による単結晶SiCの液相エピタキシャル成長層15eを形成することができる。これにより、マイクロパイプや結晶欠陥が存在しない、原子レベルに平坦な単結晶炭化ケイ素基板を得ることができる。
【0088】
図15(a)~図15(c)は、本発明のMSEプロセスを行った後の試料断面の走査電子顕微鏡像を示す。図15(a)は、シード基板として単結晶4H-SiCを使用し、炭素フィード基板として多結晶3C-SiCを使用した場合である。
【0089】
図15(b1)及び図15(b2)は、何れもシード基板として単結晶4H-SiCを使用し、炭素フィード基板として単結晶3C-SiCを使用した場合である。ただし、図15(b1)では単結晶4H-SiCのSi面にエピタキシャル成長させており、図15(b2)ではC面にエピタキシャル成長させている。
【0090】
図15(c)は、シード基板として単結晶6H-SiCを使用し、炭素フィード基板として単結晶4H-SiCを使用した場合である。
【0091】
図15(a)~図15(c)の何れの場合も、シード基板の表面にエピタキシャル成長層が形成されているのを観察することができる。
【0092】
図16は、本発明のMSEプロセスによって得られたエピタキシャル成長層の表面のAFM顕微鏡像(範囲10μm×10μm)である。この図16に示すように、本発明のMSE法によって形成されるエピタキシャル成長層は、その表面を極めて平坦化することが可能である。具体的には、エピタキシャル成長層は、その表面平坦度がサブナノオーダー(1nm未満)即ち原子レベルであり、表面平均粗さが1.0nm以下を実現することができる。また、エピタキシャル成長層の表面は、ステップの高さが0.5nm(即ち、結晶多形が4H-SiCの場合の積層順位方向に対するユニットセル長)以下である面形状を実現することができる。
【0093】
以上のように、本発明のMSEプロセスによって高品質なエピタキシャル成長層を形成した単結晶SiC基板は、例えば発光ダイオードや各種ダイオード、電子デバイス等として使用するのに好適である。
【0094】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0095】
予備加熱室3の温度は、800℃とすることに代えて、それより高い温度又は低い温度で予備加熱するように変更することができる。
【0096】
加熱処理は、図1に示す構成の加熱炉1に限定されず、他の構成の熱処理装置で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の液相エピタキシャル成長プロセスを行うときの構成例を示す模式断面図。
【図2】液相エピタキシャル成長後の試料断面の走査電子顕微鏡像及び炭素濃度プロファイルを示す図。
【図3】図3(a)は溶媒移動法を説明するモデル図。図3(b)は各相の存在する炭素濃度と温度領域を表すSi-C系の模式的な状態図。
【図4】図4(a)は、Si-C系の安定・準安定平衡ダブル状態図。図4(b)は、準安定平衡ダブル状態図に対応する自由エネルギー濃度図。図4(c)は、Si溶媒の濃度勾配の模式的なプロファイルを示す図。
【図5】図5(a)は、安定・準安定平衡化学ポテンシャル差による自由エネルギーの駆動力で、フィード側の3C-SiC基板表面から炭素原子Cがシード側の4H-SiC基板に移動する様子を示す概念図。図5(b)は、各相の存在する炭素濃度と温度領域を表すSi-C系のダブル状態図。
【図6】図6(a)は、プロセスの過程における濃度プロファイルの変化を模式的に示す図。図6(b)は、各相の存在する炭素濃度と温度領域を表すSi-C系のダブル状態図。
【図7】図7(a)は、オストワルド成長の原理を説明する自由エネルギー-濃度図。図7(b)は、粒径の異なった析出粒と溶媒が共存する系における濃度プロファイルを示す図。
【図8】図8(a)は、結晶構造が六方晶の単結晶SiCにおける(0001)Si面及び(000-1)C面を示す図。図8(b)は、(1-100)面を示す図。図9(c)は、(11-20)面を示す図。
【図9】図9(a)は溶媒移動法のモデル図。図9(b)は準安定溶媒エピタキシー法のモデル図。図9(c)~図9(e)は、フィード側とシード側で様々な自由エネルギーの基板と小部材を組み合わせた場合における炭素の拡散の挙動を説明するモデル図。
【図10】MSEプロセスにおける状態遷移と自由エネルギーの変化を示す模式的概念図。
【図11】本発明の一実施形態に係る表面平坦化方法を行う加熱炉の一例を示す模式断面図。
【図12】加熱炉にセットされる容器の構成を示す斜視図。
【図13】MSEプロセスを行う場合の容器内の基板配置例を示す断面図。
【図14】MSEプロセスを行う場合の加熱炉の温度制御例を示すグラフ図。
【図15】図15(a)は、シード基板として単結晶4H-SiCを使用し、炭素フィード基板として多結晶3C-SiCを使用した場合の試料断面の走査電子顕微鏡像を示す図。図15(b1)及び図15(b2)は、シード基板として単結晶4H-SiCを使用し、炭素フィード基板として単結晶3C-SiCを使用した場合の試料断面の走査電子顕微鏡像を示す図。図15(c)は、シード基板として単結晶6H-SiCを使用し、炭素フィード基板として単結晶4H-SiCを使用した場合の試料断面の走査電子顕微鏡像を示す図。
【図16】液相エピタキシャル成長膜表面のAFM顕微鏡像を示す図。
【0098】
1 加熱炉(熱処理装置)
2 本加熱室
3 予備加熱室
4 前室
5 単結晶SiC基板
6 ハロゲンランプ
7 ゲートバルブ
8 テーブル
9 サセプタ
10 移動手段
11 加熱ヒータ
12 反射鏡
13 スペーサ
14 シリコン
15 単結晶SiC基板(シード基板)
15e エピタキシャル成長層
16 容器
19 溶媒シリコン(Si溶融層)
20 多結晶SiC基板(炭素フィード基板)
23 シリコンプレート
29 汚染物除去機構
31 炭化タンタル層
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図10】
8
【図11】
9
【図12】
10
【図13】
11
【図14】
12
【図2】
13
【図15】
14
【図16】
15