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明細書 :顕微鏡装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4474655号 (P4474655)
公開番号 特開2008-281720 (P2008-281720A)
登録日 平成22年3月19日(2010.3.19)
発行日 平成22年6月9日(2010.6.9)
公開日 平成20年11月20日(2008.11.20)
発明の名称または考案の名称 顕微鏡装置
国際特許分類 G02B  21/00        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI G02B 21/00
G01N 21/64 E
請求項の数または発明の数 5
全頁数 16
出願番号 特願2007-125077 (P2007-125077)
出願日 平成19年5月9日(2007.5.9)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2007年1月30日 独立行政法人 科学技術振興機構発行の「第6回SORSTジョイントシンポジウム 超微量物質の同定/認識の科学」に発表
審査請求日 平成20年11月28日(2008.11.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小原 健
【氏名】五十嵐 康伸
【氏名】橋本 浩一
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】瀬川 勝久
参考文献・文献 特開2006-292420(JP,A)
H.Oku N.Ogawa M.Ishikawa K.Hashimoto ,Two-dimensional tracking of a motile micro-organism allowing high-resolution observation with various imaging techniques,Review of Scientific Instruments,2005年,Vol.76
調査した分野 G02B 21/00
G02B 21/06-21/36
特許請求の範囲 【請求項1】
被観察物を載置し、該被観察物の位置を制御するためのステージと、
上記被観察物に光を照射する第1の光源と、
該被観察物に蛍光を生じさせる第2の光源と、
上記被観察物へ上記第1及び第2の光源からの光を入射する入射光学系と、
上記被観察物を透過した光を検出する第1検出光学系と、
上記被観察物から生じた少なくとも1波長以上の蛍光を検出する第2検出光学系と、
上記第2の光源からの光及び蛍光と同じ透過光の波長帯をカットする第1の光学フィルタと、
前記透過光及び蛍光と干渉させないために上記第2の光源からの光の不必要な波長帯をカットする第2の光学フィルタと、
上記第1検出光学系から入力された上記被観察物の画像情報により上記被観察物を追尾するように上記ステージの位置を制御すると共に、上記被観察物の蛍光情報の取得を制御する制御部と、を備え、
上記制御部は、上記第1検出光学系から入力された上記被観察物の画像情報により上記第2の光源の点滅を制御するための第2光源制御部を備えたことを特徴とする、顕微鏡装置。
【請求項2】
前記第2検出光学系の前に蛍光波長選択部を設けたことを特徴とする、請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記ステージは二次元または三次元ステージであることを特徴とする、請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記画像情報による比例、積分、微分の何れか又はこれらの組み合わせにより前記ステージを制御することを特徴とする、請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記入射光学系は、前記第1の光源の波長と前記被観察物から発生する蛍光の波長とを分離できるビームスプリッターを備えていることを特徴とする、請求項1~4の何れかに記載の顕微鏡装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織等の蛍光観察などに使用される顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学分野等において、生体組織や細胞内イオン、分子等の観察は必須の技術である。光学顕微鏡は、主に生体組織を観察するときに用いられる。また、共焦点顕微鏡は、光を生体細胞の一部に照射し、その照射位置を移動させ、細胞の一部を観察するときに用いられる。
【0003】
光学顕微鏡の主な観察技術の一つに、生体組織の細胞内イオンに蛍光色素を付け、蛍光色素が発する蛍光を観察する蛍光顕微鏡による方法があるが、この顕微鏡を使用して動く細胞を観察していると、細胞が顕微鏡の視野外に出て観察が中断してしまう場合がある。
【0004】
この問題の解決方法として、(1)対物レンズの倍率を下げ視野を広げる、(2)機械的又は化学的に細胞の動きを抑制する、(3)ステージを制御し細胞を追跡(トラッキング)することが挙げられる。しかし、(1)の方法は空間解像度が低下し、(2)の方法は細胞へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
特許文献1及び2には、微小な観察物を観察するために被観察物を追跡(トラッキング)する機構を備えた光学顕微鏡が開示されている。これらの光学顕微鏡は、透過光を用いた細胞位置制御と透過光記録を行うことができる。
【0006】
特許文献3~5には、蛍光を用いた細胞位置制御と蛍光記録とを行うことができる共焦点顕微鏡が開示されている。
【0007】

【特許文献1】特開平5-80255号公報
【特許文献2】特開平7-2535487号公報
【特許文献3】特開平7-261097号公報
【特許文献4】特開2005-214924号公報
【特許文献5】特開2006-292420号公報
【特許文献6】WO2003/102636号公報
【非特許文献1】H. Oku, N. Ogawa, Ishikawa, K. Hashimoto, “Two-dimensional tracking of a motile micro-organism allowing high-resolution observation with various imaging techniques”, Review of Scientific Instruments, Vol.76, No.3, 2005
【非特許文献2】H. Oku, M. Ishikawa, Theodorus, and K. Hashimoto, “High-speed autofocusing of a cell using diffraction patterns”, Optics Express, Vol.14, No.9, pp.3952-3960, 2006
【非特許文献3】奥寛雅,石井抱,石川正俊:マイクロビジュアルフィードバックシステム,電子情報通信学会誌 D-II,Vol.J84-D-II,No.6,pp.994-1002, 2001
【非特許文献4】奥寛雅,石川正俊:キロヘルツオーダーで応答可能な高速ビジョンチップ用可変焦点レンズの構造,光学,Vol.31,No.10,pp.758-764, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蛍光を細胞位置制御に用いると、蛍光は光の強度が弱いために細胞位置制御用の画像を得るための露光時間が長くなり、細胞位置制御にかかる時間が長くなってしまう。つまり、位置制御対象である細胞の最大速度が遅くなることになるため、このような顕微鏡は実際には、本来動かない細胞を長時間観察した際に起こるずれを補正することを主目的としていた。
【0009】
従来の蛍光顕微鏡においても、励起光の種類や強度を自動的に制御することで細胞内の複数のイオンや分子の活性化状態を継時的に観察し、一回の実験中に起こった細胞内の複数のイオンや分子の相互作用を一括して可視化することが行われてきた。しかしながら、この自動制御は、予め決められた時間スケジュールに従ったものであるか、蛍光画像から得られる細胞情報と連動したものであった。このため、大量の蛍光記録データを解析するには長い時間が必要であった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み、透過光を用いて、細胞などの被観察物の位置制御と蛍光記録ができる顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記(3)の解決方法を実現するために、以前に開発した細胞追跡装置(非特許文献1参照)と蛍光観察装置を組み合わせた顕微鏡システムを構築した。また、このシステムを評価するために、自由に動くゾウリムシを追跡しながら体内のCa2+イオンを蛍光観察する実験を行った。その結果、追跡しながら蛍光観察を行うことに成功した。なお、本発明において、蛍光とは、被観察物自体又はその周辺、表面もしくは内部に含有された蛍光体から発生する光をいう。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の顕微鏡装置は、被観察物を載置し、該被観察物の位置を制御するためのステージと、被観察物に光を照射する第1の光源と、被観察物に蛍光を生じさせる第2の光源と、被観察物へ上記第1及び第2の光源からの光を入射する入射光学系と、被観察物を透過した光を検出する第1検出光学系と、被観察物から生じた少なくとも1波長以上の蛍光を検出する第2検出光学系と、第2の光源からの光及び蛍光と同じ透過光の波長帯をカットする第1の光学フィルタと、透過光及び蛍光と干渉させないために第2の光源からの光の不必要な波長帯をカットする第2の光学フィルタと、第1検出光学系から入力された被観察物の画像情報により被観察物を追尾するようにステージの位置を制御すると共に、被観察物の蛍光情報の取得を制御する制御部と、を備え、制御部は、第1検出光学系から入力された被観察物の画像情報により第2の光源の点滅を制御するための第2光源制御部を備えたことを特徴とする。
上記構成において、好ましくは第2検出光学系の前に蛍光波長選択部を設ける
ステージは、好ましくは、二次元または三次元ステージであり、前記画像情報による比例、積分、微分の何れか又はこれらの組み合わせにより制御される。
入射光学系は、好ましくは第1の光源の波長と被観察物から発生する蛍光の波長とを分離できるビームスプリッターを備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被観察物の透過光により被観察物の動きに応じて被観察物の位置が視野からはずれないようにステージが制御されるとともに、被観察物からの蛍光画像取得を制御することができる顕微鏡装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
[第一実施形態]
図1は本発明の第1実施形態の顕微鏡装置1の構成を示す模式図である。
本発明の顕微鏡装置1は、被観察物2を載置し、被観察物2の位置を制御するためのステージ3と、光学系10と、ステージの位置を制御する制御部20と、備えている。
光学系10は、被観察物の像や位置を検出するために被観察物に光を照射する第1の光源としての透過用光源4と、被観察物2に蛍光を生じさせるための第2の光源としての蛍光励起光源5と、上記光源からの光を被観察物2へ入射する入射光学系15と、被観察物2を透過した光を検出する第1検出光学系16と、被観察物2から生じた蛍光を検出する第2検出光学系17と、を有する。
【0015】
ステージ3には、被観察物2が載置され、後述する制御部20により被観察物2の位置が制御される。このステージ3は、所謂電動ステージであり、被観察物2の載置される二次元の平面(X-Y平面)、さらには、三次元で駆動制御されるXYZステージであってもよい。三次元の駆動は、ロボットアーム型のマニュピレータで行ってもよい(非特許文献3参照)。ここで、Z軸方向の位置制御は、対物レンズで行ってもよい(特許文献6、非特許文献2,4参照)。
【0016】
入射光学系15は、第1及び第2のビームスプリッター18,19と、対物レンズ6及び接眼レンズ7を含んで構成されている。図示の場合には、正立型の顕微鏡装置の一例を示している。
【0017】
透過用光源4は、被観察物2を透過する波長を含む光を発するものであれば何でもよいが、透過光が蛍光励起光源5からの光や蛍光と干渉しないように、蛍光励起光源5からの光や蛍光と同じ波長帯は光学フィルタ8等でカットすることが望ましい。このような透過用光源4としては、ハロゲンランプ等の各種ランプ、発光ダイオード、各種レーザを使用することができる。
【0018】
被観察物2からの蛍光を励起する蛍光励起光源5は、被観察物2又は被観察物2に含有させた蛍光体を励起できる光源であれば何でもよい。この蛍光励起光源5としては、キセノンランプ、水銀ランプ等のランプ、アルゴンレーザー等の各種レーザを励起光とすることができる。励起光を、透過光や蛍光と干渉させないためには、不必要な波長帯を光学フィルタ9等でカットすることが望ましい。蛍光励起光源5は、図示しない投光管を介して被観察物2に導入されてもよい。
【0019】
上記第1及び第2のビームスプリッター18,19は、入射光学系15に設けた図示しないポートに配置されてもよい。ビームスプリッター18,19は、透過用光源4の波長と被観察物2から発生する蛍光の波長とを分離できるダイクロイックミラーなどを使用することができる。以下の説明においては、ビームスプリッター18,19をダイクロイックミラーとして説明する。
【0020】
第1のダイクロイックミラー18は、短波長の光を反射し、長波長の光を透過させる作用を有しているので、蛍光励起光源5からの光は反射し、紙面下方の被観察物2へ入射する。一方、被観察物2からの透過光は、蛍光励起光源5の波長よりも長波長の光を用いることにより、第1のダイクロイックミラー18を透過する。
【0021】
第2のダイクロイックミラー19は、第1のダイクロイックミラー18の上方に配置されている。第1のダイクロイックミラー18を透過した被観察物2からの透過光は、第2のダイクロイックミラー19を透過して、透過光を検出する第1検出光学系としての透過光検知部16に入射する。この場合、透過光が蛍光の励起光や蛍光と干渉しないように、図示しないフィルタを介して透過光検知部16へ入射させてもよい。
【0022】
第1のダイクロイックミラー18を透過した被観察物2からの蛍光は、第2のダイクロイックミラー19で反射されて、蛍光を検出する第2検出光学系としての蛍光検知部17に入射する。この場合、蛍光が、蛍光の励起光や透過光と干渉しないように、図示しないフィルタを介して蛍光検知部17へ入射させてもよい。
【0023】
透過光検知部16は、透過用光源4を通過した被観察物2の画像を取得できる検知器を備えている。この検知器には、撮像素子を用いることができ、CCD型撮像素子やCMOS型撮像素子を使用できる。さらに、これらの撮像素子は、S/N比(信号対雑音比)を向上させるために雑音を減らすように、例えば液体窒素やペルチェ素子を使用した冷却装置で冷却してもよい。検知器は、画像処理を行う計算機を備えていてもよい。
【0024】
蛍光検知部17は、被観察物2からの蛍光画像を取得できる検知器を備えている。この検知器は、目的に応じて銀塩カメラや撮像素子を用いることができる。また、目視観察用として接眼レンズを備えていてもよい。撮像素子には、透過光検知部16と同様に、CCD型撮像素子やCMOS型撮像素子を使用できる。さらに、これらの撮像素子は、S/N比(信号対雑音比)を向上させるために雑音を減らすように、液体窒素やペルチェ素子を使用した冷却装置で冷却してもよい。
【0025】
制御部20は、透過光検知部16からの画像情報が入力され、この画像情報の処理と画像情報の処理結果に基づいたステージ3の制御とを行う。制御部20は、電子計算機から構成されている。このような電子計算機としては、パーソナルコンピュータ21を用いることができる。パーソナルコンピュータ21は、被観察物の画像などを表示するディスプレー装置22を備えている。
【0026】
上記制御部20は、光学系10により被観察物2の画像情報が入力され、この画像情報によりステージ3上の被観察物2を追尾するように制御される。被観察物2の追尾には、例えば以下のような手法を用いることができる。
【0027】
先ず、被観察物2の画像を取得し、次に、画像情報から画像特徴量を抽出する。画像特徴量は、画像情報の二値化によって観察対象の存在する領域を抽出し、このとき、直前に観察対象が存在していた領域の近傍でのみ抽出を行うセルフウィンドウ法を用いることで、障害物に惑わされることなく観察対象のみを抽出することができる(非特許文献1参照)。
【0028】
具体的には、画像特徴量として、上記の二値データから0,1,2次モーメントを計算する。この画像特徴量を、制御部20のパーソナルコンピュータ21で読み出し、被観察物2の重心と方向を求める。
【0029】
次に、被観察物2の重心が視野中心に移動するように、ステージ3のモーター回転角の目標値を定め、このモーターをフィードバック制御する。例えば、ステージ3にはXYZステージを使用することができる。このフィードバック制御には、比例、積分、微分の何れか、またはこれらの組み合わせによる制御手法を用いることができる。
【0030】
画像特徴量は、上記セルフウィンドウ法以外を用いてもよく、例えば、被観察物2の回折像から抽出してもよい(非特許文献2参照)。
【0031】
上記の被観察物2の軌跡を再構成、つまり、再現するためには、上記のXYZステージ3の変位情報をパーソナルコンピュータ21に記録しておく。これにより被観察物2の軌跡を得ることができる。さらに、画像特徴量は、被観察物2の回折像から抽出してもよい(非特許文献2参照)。
【0032】
透過光を使用するのは追跡対象となる被観察物の2の全体像を高輝度で安定して写すためである。透過光以外には落斜照明を用いることもできる。
【0033】
顕微鏡装置1によれば、従来、蛍光観察前に観察者が手動で行っていた被観察物2を顕微鏡装置1の視野中心に入れる作業を自動化することができる。このため観察者の負担を軽減することができる。
【0034】
制御部20は、さらに、蛍光観察の制御や蛍光画像の記録を行うことができる。図1に示すように、制御部20はさらに、蛍光励起光源を制御するための第2光源制御部としての蛍光励起光源制御部23を備えて構成されてもよい。蛍光励起光源制御部23は、被観察物2の透過光による画像データに基づいて、蛍光励起光源5における点滅の制御、点灯時間の制御やその光強度を制御する機能を有している。また、蛍光励起光源5からの波長及び強度を選択して照射する機能を備えていてもよい。
【0035】
蛍光画像の記録や画像処理を行なうために、蛍光検知部17からの検知出力が制御部20に入力される。
【0036】
制御部20によれば、蛍光と比べて光量が大きく、かつ、より高速に記録される透過光画像から得られる位置情報などの被観察物2からの情報と連動して、蛍光励起光源5の照射開始時刻の制御が可能になる。より具体的には、被観察物2が顕微鏡装置1の視野に入った時刻直後から蛍光励起光源5を照射することができる。
【0037】
蛍光励起光源5による蛍光励起光は、細胞に有害な波長帯を含んでいる場合が多い。また、蛍光励起光を照射するにしたがい蛍光色素は退色する。このため、被観察物2が顕微鏡装置1の視野に入る時刻以前に蛍光励起光を照射しても、その後の解析には有効利用されない。
【0038】
顕微鏡装置1においては、被観察物2が顕微鏡装置1の視野に入ると同時に蛍光励起光源5の蛍光励起光を照射することができるので、被観察物2の細胞などに含有されている蛍光色素への励起光露光時間を減らし、細胞への侵襲と蛍光色素への退色とを軽減できるという利点が生じる。
【0039】
また、顕微鏡装置1によれば、励起光の種類や強度の制御が可能になる。つまり、複数の蛍光色素に対して、観測時間の自動割り振りなどが可能になる。一般に、細胞は、その運動状態や外部からの刺激により、活性化または不活性化する細胞内のイオンや分子が異なることが知られている。このため、透過光画像から得られる被観察物2の運動情報や、細胞形状、刺激の種類や強度等と連動させて、被観察物2へ励起する蛍光励起光源5の波長や強度の選択制御が可能となる。これにより、透過光画像から得られる被観察物2の情報に連動させて、被観察物2からの蛍光情報を効率よく取得することができる。
【0040】
さらに、顕微鏡装置1によれば、透過光画像から得られる被観察物2の情報は、被観察物2からの蛍光に比較して光量が多く、かつ、高速に記録されている。したがって、蛍光と同時に取得した透過光画像を、蛍光画像の解析処理に用いることで解析結果の時空間精度が向上する。
【0041】
顕微鏡装置1では、透過光画像から得られる位置などの細胞情報と連動させて、蛍光検知部17の蛍光画像を記録することができる。つまり、蛍光が照射されている時間だけ蛍光画像を記録すればよい。したがって、被観察物2が顕微鏡装置1の視野に入っていない時間の蛍光画像記録が不要となる。このため、蛍光画像記録のための演算時間や記憶装置の容量を減らすことができ、パーソナルコンピュータ22を有効利用することができる。無駄な蛍光画像記録をする必要がなくなるので、蛍光画像の解析時間も大幅に短縮することができる。
【0042】
また顕微鏡装置1によれば、ステージ3に載置された被観察物2からの画像情報が透過光検知部16で検知され、この透過光による画像信号の処理と画像信号の処理結果に基づいてステージ3が駆動される。ステージ3が被観察物の追跡を行うことで、被観察物2は常に顕微鏡装置1の視野に納めることができる。このステージのフィードバック制御は、画像情報による比例、積分、微分の何れか、またはこれらの組み合わせにより制御することができる。透過光は強度が強いために、細胞位置制御用の画像を得るための露光時間を少なくでき、細胞位置制御にかかる時間を短くできる。つまり、位置制御する細胞などの被観察物の最大速度を速くすることができる。さらに、本発明の顕微鏡装置1によれば、被観察物2からの蛍光も同時に観察することができ、上記透過光の画像情報と連動させて蛍光の観察を行うことができる。
【0043】
さらに、顕微鏡装置1によれば、被観察物の観察ができると共に、蛍光記録ができる。このため、被観察物2となる細胞の内部のイオンや分子に関する情報を取得することができる。
【0044】
[第二実施形態]
図2は本発明の第2実施形態の顕微鏡装置30の構成を示す模式図である。
図2に示すように、本発明の顕微鏡装置30が顕微鏡装置1と異なるのは、蛍光を検出する第2検出光学系17の前に蛍光波長選択部25を設けた点にある。蛍光波長選択部25は、少なくとも2つ以上の蛍光波長を分離して検出できる構成を有している。蛍光波長選択部25は、第3のダイクロイックミラー26とミラー27とプリズム28とから構成されている。さらに、レンズ29を設けてもよい。この構成によれば、2波長の蛍光を分離して検知することができる。他の構成は顕微鏡装置1と同じであるので、説明は省略する。
【0045】
蛍光波長選択部25は、2波長の分離を行う態様を示しているが、分光器を用いることで多波長の蛍光を検知してもよい。
【0046】
[第三実施形態]
図3は本発明の第3実施形態の顕微鏡装置40の構成を示す模式図である。
第3実施形態の顕微鏡装置40が顕微鏡装置1と異なるのは、被観察物2の上方から透過光が照射される、所謂倒立型の光学系10Aを有している点である。他の構成は顕微鏡装置1と同じであるので、説明は省略する。
【0047】
[蛍光観察方法]
次に、本発明の顕微鏡装置1,30,40を用いた蛍光観察方法について説明する。
被観察物2には、蛍光試薬を担持または注入する。微生物の場合には、Indo-1(AM体、同仁化学研究所)のような蛍光試薬を使用し、適度な濃度で所定時間負荷すればよい。Indo-1(AM体)は蛍光を発しないが、微生物の細胞膜を通過する。
【0048】
細胞膜を通過したIndo-1(AM体)は、体内の酵素エステラーゼによって脱AM体になる。つまり、蛍光を発するが細胞膜を通過できないIndo-1に変化する。Indo-1はCa2+イオンと結合した場合と解離した場合で異なる波長の蛍光を発する。
【0049】
結合と解離のそれぞれの状態にあるIndo-1は、Ca2+濃度によって変化する。つまり、Ca2+濃度の上昇に伴い、解離状態のIndo-1による蛍光は減少し、逆に、結合状態のIndo-1による蛍光は増える。この特性により、それぞれの波長の蛍光強度を比較することで、Ca2+濃度を求めることができる。具体的には、図2に示した顕微鏡装置30を用いた場合には、2波長蛍光観察像を波長ごとに分割し、各画素ごとに計算した蛍光強度比を、予め作成しておいた検量線に代入することで、Ca2+濃度を求めることができる。
【0050】
Ca2+イオンのみならず、顕微鏡装置1,30,40の蛍光フィルタ9及びダイクロイックミラー18,19,26を交換することで、他のイオンや分子を対象とした蛍光色素を利用することも可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例をより詳細に説明する。
図2に示す顕微鏡装置30を製作した。光学系10としては、正立顕微鏡(オリンパス株式会社製、BX51)を使用し、透過用光源となる透過用光源4及び蛍光を励起する蛍光励起光源5は、それぞれ、ハロゲンランプとキセノンランプを使用した。対物レンズ6は20倍のものを用いた。透過光検知部16には、並列演算用回路が内蔵されたカメラシステム(浜松ホトニクス製、I-CPV3、128×128画素)を用いた。I-CPV3カメラ部での露光時間、つまり、サンプリング周期は1msとした。
【0052】
被観察物2を載置する電動ステージ3は、XYZステージ(ヒーハイスト精工特注品、移動範囲25mm、繰り返し位置精度±1μm、最大速度30mm/s)を用いた。制御部20は、リアルタイム基本ソフトウェア(以下、適宜にリアルタイムOSと呼ぶ)として、RT-Linuxを搭載したパーソナルコンピュータ21を用いた。
【0053】
蛍光検知部17の検知器は、冷却CCDカメラ(Q-Imaging社製、Retiga2000R、1600×1200画素)を用いた。蛍光は、光学系10のデュアルポート内のダイクロイックミラー19によって透過光と分離した。蛍光は、さらに、蛍光波長選択部25(ジーオングストローム社製、ジーオングベース)内のダイクロイックミラー26によって分離し、上記冷却CCDカメラ受光部の半面ずつで受光した。蛍光の励起光、蛍光および追跡用の透過光が干渉しないように、それぞれの波長帯が異なるようにフィルタを選んだ。冷却CCDカメラは、4×4画素を一まとめにするビニング処理を行い、解像度を400×300画素とした。露光時間は33msとした。
【0054】
図4は、実施例で用いた波長及びフィルタを示す図である。図4から明らかなように、透過光、励起光及び後述するCa2+イオンからの2波長の蛍光がそれぞれ分離される。
【0055】
画像特徴量は以下のようにして取得した。I-CPV3により細胞(微生物)の画像を取得した。次に、二値化によって被観察物2の存在する領域を抽出した。このとき、直前に被観察物2が存在していた領域の近傍でのみ抽出を行うセルフウィンドウ法を用いることで、障害物に惑わされることなく被観察物2だけを抽出できた。そして、0,1,2次モーメントからなる画像特徴量を計算した。
【0056】
画像特徴量を、リアルタイムOSを搭載したパーソナルコンピュータ22で読み出し、被観察物2の重心と方向を求めた。そして重心が視野中心に移動するようにXYZステージ3のモーター回転角の目標値を定め、XYZステージ3をフィードバック制御した(図5参照)。また、被観察物2の軌跡を再構成するためにXYZステージ3の変位情報をパーソナルコンピュータ22に記録した。
【0057】
被観察物2は、ゾウリムシ(P. multimicronucleotum)体内のCa2+イオンとした。ゾウリムシは黄な粉を溶かしたミネラルウォーターを用い、23℃で3日間培養したものを使用した。
【0058】
蛍光試薬はIndo-1(AM体、同仁化学研究所)を使用し、濃度10μMで1時間負荷した。
【0059】
ゾウリムシ2が泳ぐプールは、スライドガラスの上に厚さ0.1mmのシリコンゴムシートで15mm四方の枠を作り、カバーガラスを被せてXYZステージ3に固定した。プールに入れる測定液の組成は、CaCl2を1mM、KClを2mM、Tris-HCl(pH=7.2)を2mMとした。プール作成に用いたシリコンゴムシートの厚さ0.1mmは、ゾウリムシ2の厚さ0.05mmよりも厚いので、プールの深さは十分であり、ゾウリムシ2は自由に泳ぐことができていた。
【0060】
また、同時に記録していたXYZステージ3からの変位情報を元に再構成したゾウリムシ2のX座標及びY座標の時間変化を図6及び7に、軌跡を図8に示す。図6及び図7から明らかなように、ゾウリムシ2の移動速度を求めると、約0.7mm/sであることが分かる。また、図8から明らかなように、ゾウリムシ2は実験中に4mm×6mmの範囲で動いたことが分かる。
【0061】
図9は、実施例のサンプリング周期の分布を示す図である。図9から明らかなように、サンプリング周期を1±0.05msの範囲に収めることができたことが分かる。
【0062】
実施例では、ゾウリムシ2の追跡制御を行いながら蛍光観察したが、仮に追跡制御を行わなかった場合、どの程度の時間でゾウリムシ2が視野内から外れたかを見積もる。冷却CCDカメラの視野範囲は0.2mm×0.3mm、ゾウリムシ2の移動速度は0.7mm/sであることを考えると、細胞追跡制御を行わない場合は約0.5秒で視野内から外れていたと推測される。
【0063】
自由に動くゾウリムシ2を追跡しながら、体内のCa2+イオンを蛍光観察した。図10は、実施例のゾウリムシ2の蛍光測定結果を示す図である。これは33ms毎に撮影した画像を、9枚おきに抜き出したものである。
図10から明らかなように、回転しながら移動するゾウリムシ2を、視野内から外れることなく持続的に蛍光観察できたことが分かる。このとき、冷却CCDカメラの視野範囲は0.2mm×0.3mmであった。
【0064】
また、自由に動く被観察物2を観察する場合、蛍光画像では像のブレが問題となる。この問題は、露光時間の短縮により軽減することができる。このために、冷却CCDカメラの、4×4画素を一まとめにするビニング処理を行うことで、露光時間を33msに短縮することができた。図11は、実施例のゾウリムシ体内のCa2+イオンから解離しているIndo-1とCa2+イオンと結合しているIndo-1とが発する蛍光強度を示す図であり、蛍光を十分な輝度で観察できることが分かった。
【0065】
図12は実施例のゾウリムシ体内のIndo-1が発する2種類の蛍光強度比を示す図であり、図13は実施例のゾウリムシ体内のCa2+イオン濃度を求めるための検量線を示す図である。
図2に示した顕微鏡装置30を用いた場合には、2波長蛍光観察像を波長ごとに分割し(図11参照)、各画素ごとに計算した蛍光強度比(図12参照)を、あらかじめ作成しておいた検量線(図13参照)に代入することで、Ca2+濃度を求めることができる。
【0066】
上記実施例によれば、透過用光源4の光量を増やすことで、透過光制御部で用いる追跡制御用カメラの露光時間を1msに抑えることができ、さらに、画像処理に適した並列演算回路を備えるI-CPV3を用いたことで、画像の特徴量計算を高速化することができた。さらに、XYZステージ3を制御するパーソナルコンピュータ22にリアルタイムOSを用いたことで、制御周期の分散を減らした。これは非リアルタイムOSでは回避できない不規則なバックグラウンドプロセスの影響を取り除けたことによる。これらの工夫により1ms周期の追跡制御を可能とした(図9参照)。
【0067】
さらに、ゾウリムシ2は測定液からCa2+イオンを取り込むので、測定液のCa2+濃度を高めることで、体内のCa2+濃度の変化を容易に判別することができた。
【0068】
本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。上述した実施形態においては、第1及び第2の検出光学系16,17に撮像素子を用いたが、撮像素子位置で目視の観察や写真撮影なども行うことができるように、検出光学系は必要に応じて複数の検出光学系とすることも可能である。また、蛍光を検知する検出光学系17の構成などは、被観察物2に応じて最適な設計や使用部品を選定できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1実施形態の顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図2】第2実施形態の顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図3】第3実施形態の顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図4】実施例で用いた波長及びフィルタを示す図である。
【図5】実施例で用いた追跡アルゴリズムを示すブロック図である。
【図6】実施例のゾウリムシによるX座標の時間変化を示す図である。
【図7】実施例のゾウリムシによるY座標の時間変化を示す図である。
【図8】実施例のゾウリムシによるXY座標の軌跡を示す図である。
【図9】実施例のサンプリング周期の分布を示す図である。
【図10】実施例のゾウリムシの蛍光測定結果を示す図である。
【図11】実施例のゾウリムシ体内のCa2+イオンから解離しているIndo-1とCa2+イオンと結合しているIndo-1とが発する蛍光強度を示す図である。
【図12】実施例のゾウリムシ体内のIndo-1が発する2種類の蛍光強度比を示す図である。
【図13】実施例のゾウリムシ体内のCa2+イオン濃度を求めるための検量線を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1,30,40:顕微鏡装置
2:被観察物(ゾウリムシ)
3:ステージ(XYまたはXYZステージ)
4:透過用光源(第1の光源)
5:蛍光励起光源(第2の光源)
6:対物レンズ
7:接眼レンズ
8,9:フィルタ
10,10A:光学系
15:入射光学系
16:透過光検知部(透過光を検出する第1検出光学系)
17:蛍光検知部(蛍光を検出する第2検出光学系)
18,19:第1及び第2のビームスプリッター(ダイクロイックミラー)
20:制御部
21:パーソナルコンピュータ
22:ディスプレー装置
23:蛍光励起光源制御部
25:蛍光波長選択部
26:第3のダイクロイックミラー
27:ミラー
28:プリズム
29:レンズ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図13】
4
【図4】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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