TOP > 国内特許検索 > 溶射皮膜を形成した素材の改質方法 > 明細書

明細書 :溶射皮膜を形成した素材の改質方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4862125号 (P4862125)
公開番号 特開2007-154261 (P2007-154261A)
登録日 平成23年11月18日(2011.11.18)
発行日 平成24年1月25日(2012.1.25)
公開日 平成19年6月21日(2007.6.21)
発明の名称または考案の名称 溶射皮膜を形成した素材の改質方法
国際特許分類 C23C   4/18        (2006.01)
C23C   4/06        (2006.01)
C23C   4/10        (2006.01)
FI C23C 4/18
C23C 4/06
C23C 4/10
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願2005-351381 (P2005-351381)
出願日 平成17年12月6日(2005.12.6)
審査請求日 平成20年11月6日(2008.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
【識別番号】591209280
【氏名又は名称】株式会社フジコー
発明者または考案者 【氏名】西尾 一政
【氏名】加藤 光昭
【氏名】山口 富子
【氏名】永吉 英昭
【氏名】古田 博昭
個別代理人の代理人 【識別番号】100112771、【弁理士】、【氏名又は名称】内田 勝
審査官 【審査官】祢屋 健太郎
参考文献・文献 特開昭61-113757(JP,A)
特開平10-121126(JP,A)
特開昭61-253357(JP,A)
特開平10-046315(JP,A)
特開平07-188892(JP,A)
特開平04-365847(JP,A)
調査した分野 C23C 4/00-6/00
特許請求の範囲 【請求項1】
溶射皮膜を形成した素材の該溶射皮膜にレーザ光を照射して該溶射皮膜を溶融する溶射皮膜を形成した素材の改質方法において、
700~1000℃の昇温範囲における加熱速度が20℃/s以上であり、800~500℃の降温範囲における冷却速度が40℃/s以上であることを特徴とする溶射皮膜を形成した素材の改質方法。
【請求項2】
前記溶射皮膜の材料がNi基自溶合金、Co基自溶合金、Fe基自溶合金またはWC自溶合金であることを特徴とする請求項1記載の溶射皮膜を形成した素材の改質方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射皮膜を形成した素材の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、廃棄物焼却炉においてダイオキシンの生成を低減するためには、廃棄物を極力高温で燃焼処理することが必要である。また、鉄鋼製造プロセスにおける高温腐食環境で使用されるワークロールや各種の部品では、耐熱性や耐食性はもとより、耐摩耗性にも優れていることが要求される。そして、これらを実現するためには、炉の内壁や熱交換パイプ等の素材を耐熱・耐食・耐摩耗性合金で被覆することが求められる。
【0003】
この耐熱・耐食・耐摩耗性合金を用いた被覆処理方法として、溶射が広く採用されている。溶射は、JIS H 8200でも定義されているように、燃焼または電気エネルギーを用いて溶射材料を溶融またはそれに近い状態にした粒子を素地に吹き付けて皮膜(溶射皮膜)を形成するものである。溶射材料には、線状、棒状または粉末状のものが用いられる。
【0004】
しかしながら、溶射皮膜は一般的に多孔質で、特に皮膜表面から素材(母材)に達する貫通孔が存在するため、腐食性成分が素材に浸透することにより、素材自体については十分な耐熱・耐食・耐摩耗性が得られない場合がある。
【0005】
上記の不具合を改善することを目的として、溶射皮膜にレーザ光あるいは収束光を照射して、溶射皮膜を溶融させることにより、封孔(フュージング)する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。

【特許文献1】特開昭63-69959号公報
【特許文献2】特開平2-274863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のレーザ光等を用いた溶射皮膜の改善技術は、封孔処理を十分に行えたとしても、例えば800℃以上の高温処理環境下で使用するときの溶射皮膜を形成した素材の耐熱・耐食・耐摩耗性や硬度が必ずしも十分ではない。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、レーザ光を照射して溶射皮膜を溶融するときの溶射皮膜を形成した素材の耐熱・耐食・耐摩耗性や硬度の一層の向上を図ることができる溶射皮膜の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る溶射皮膜の改質方法は、溶射皮膜を形成した素材の該溶射皮膜にレーザ光を照射して該溶射皮膜を溶融する溶射皮膜を形成した素材の改質方法において、700~1000℃の昇温範囲における加熱速度が20℃/s以上であり、800~500℃の降温範囲における冷却速度が40℃/s以上であることを特徴とする
【0010】
また、本発明に係る溶射皮膜を形成した素材の改質方法は、前記溶射皮膜の材料がNi基自溶合金、Co基自溶合金、Fe基自溶合金またはWC(タングステンカーバイト) 自溶合金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る溶射皮膜を形成した素材の改質方法は、溶射皮膜を形成した素材の溶射皮膜にレーザ光を照射して溶射皮膜を溶融するときの、800~500℃の降温範囲における冷却速度が40℃/s以上であり、さらにまた、より好ましくは、700~1000℃の昇温範囲における加熱速度が20℃/s以上であるので、溶射皮膜を形成した素材の耐熱・耐食・耐摩耗性や硬度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る溶射皮膜を形成した素材の改質方法の好適な実施の形態について、以下に説明する。
【0013】
本発明に係る溶射皮膜を形成した素材の改質方法は、溶射皮膜を形成した素材の溶射皮膜にレーザ光を照射して溶射皮膜を溶融する改質方法において、800~500℃の降温範囲における冷却速度を40℃/s以上とするものであり、さらにまた、好ましくは、700~1000℃の昇温範囲における加熱速度を20℃/s以上とするものである。ここで、冷却速度および加熱速度は、いずれもそれぞれの温度範囲における平均値であってもよいが、好ましくは、この温度範囲において常にこの値を満足するものである。この点は、後述する温度条件についても同様である。
【0014】
また、本発明に係る溶射皮膜の改質方法において、より好ましくは、800~500℃の降温範囲における冷却速度を60℃/s以上とし、700~1000℃の昇温範囲における加熱速度を40℃/s以上とする。
【0015】
ここで、素材の種類は、特に限定するものではなく、例えば、鋼や非鉄金属等を用いることができる。
また、溶射皮膜を形成する際の溶射方法も特に限定するものではなく、プラズマ溶射、高速フレーム溶射、アーク溶射等の適宜の方法を用いることができる。
また、溶射皮膜を形成する際に使用する溶射皮膜の材料も、特に限定するものではなく、亜鉛やアルミニウム等の金属、それらの合金、自溶合金、セラミック、サーメット、プラスチック、アルミナ、チタニア、クロミア、スピネル、ジルコニア、あるいはタングステンやシリコン等のカーバイド等の適宜の材料を用いることができるが、より好ましくは、Ni基、Co基またはFe基の自溶合金を用いる。自溶合金は、JIS H 8303 にニッケル、コバルトおよびタングステンカーバイトが規定されており、表1で一例を示すように、Ni基やCo基にBとSiを1~4%の他、Crを10~40%およびCを0.1~1%添加したものである。自溶合金には、Ni基やCo基以外に、Fe基自溶合金も使用されており、これらの合金を溶射した後、溶融(フュージング)処理をすることによって、高温での耐食・耐摩耗性等に優れ、結晶粒が微細で素材との密着力の高い溶射皮膜を得ることができる。
【0016】
本発明では、溶射皮膜を溶融するための熱源としてレーザを使用する。例えば、燃焼炉の熱交換パイプ等では一般的には熱源としてガスを使用している。しかしながら、ガスの炎は、加熱領域が広いので冷却速度が小さい。また、高周波コイル中でパイプを移動させる方法もあるが、これも加熱帯域が広いので、同様に冷却速度は小さい。このため、本発明では、レーザを使用して、スポット状の小さい加熱帯域を移動させることにより、急速加熱および急速冷却を行うものである。
レーザの種類は、特に限定するものではなく、固体レーザや気体レーザ等の適宜のものを用いることができるが、より好ましくは、光ファイバーを通して材料の照射したい箇所にレーザ光を自由に導くことができる、固体レーザの一種であるYAGレーザを用いる。
【0017】
本発明に係る溶射皮膜の改質方法によれば、他の溶射皮膜の溶融方法の場合と同様に封孔効果を得ることができるとともに、さらに、800~500℃の降温範囲における冷却速度、さらには700~1000℃の昇温範囲における加熱速度が前記それぞれの条件を下回る条件で形成した溶射皮膜に比べて、耐熱・耐食・耐摩耗性や硬度が一層優れる溶射皮膜を得ることができる。
この原因は、耐熱・耐食・耐摩耗性については、溶射皮膜を溶融するときに溶射皮膜および素材を急速冷却することにより素材の結晶粒の粗大化が抑制され、さらには溶射皮膜の結晶粒が微細化されることによるものであり、この現象はさらにまた急速加熱を伴うことによって好適に実現されるものと考えられる。また、硬度については、溶射皮膜中にホウ化物が生成することによるものと考えられる。
廃棄物焼却炉では、何が混入しているか分からず、硬いゴミも含まれ、また、腐食性のガスも発生する過酷な処理条件である。また、鉄鋼製造プロセスにおいてもワークロールや各種の部品は高温腐食環境で大きな負荷を受けている。このためこれらの溶射皮膜では、封孔処理だけでは十分といえず、表面硬度と耐食性を上げることが重要な課題であり、本発明を好適に適用することができる。
【実施例】
【0018】
実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0019】
試験片の調製を以下の手順で行った。
(溶射皮膜の形成)
素材として、厚さ6mm、長さ50mm、幅50mmの矩形の軟鋼板を用い、この軟鋼板の片表面にNi基、Co基およびFe基の自溶合金を、高速フレーム溶射(HVOF溶射)法により溶射して、厚さが約500μmの溶射皮膜を形成した。なお、このときの溶射材料の成分組成を表1に示す。
【0020】
【表1】
JP0004862125B2_000002t.gif

【0021】
(溶射皮膜へのレーザ照射)
連続波を生成する定格出力2kWのYAGレーザ加工機を使用し、YAGレーザ光を上記の溶射皮膜に照射した。このときの、レーザ照射の主要操作条件は、出力1.5kW、移動速度100~500mm/min、ディフォーカス距離25~35mm、シールドガスとしてのアルゴンガスの流速10~50l(リットル)/minである。
このとき、ディフォーカス距離および照射面の照射出力を変えることにより、素材の昇温速度(加熱速度)を変え、移動速度およびシールドガス流量を変えることにより、素材の降温速度(冷却速度)変えた。
【0022】
上記の手順で調製した試験片について、以下の内容の評価を行った。試験片の調製条件および評価結果をまとめて表2に示す。
【0023】
【表2】
JP0004862125B2_000003t.gif

【0024】
(溶射皮膜表面の観察)
光学顕微鏡写真やSEM写真により、溶射皮膜表面を観察した。
(溶射皮膜の組織観察)
X線回折法およびEPMA分析法により、溶射皮膜の化合物を調べた。表2中、組織観察による硼化生成物の有無について、○:有、△:一部有、×:無、で示した。
【0025】
(硬度の評価)
ビッカース硬さ試験法により溶射皮膜および素材の硬度を測定した。表2中、溶射皮膜について、◎:>800、○:780~800、△:<750、×:<700で示し、素材について、 ○:軟化しない、×:軟化する、で示した。
【0026】
(腐食試験)
ごみ焼却炉の腐食環境条件を模して、評価試験片を550℃の温度に保持したNaSO/KCl/NaCl=1:1:1(mol%)複合塩で覆い、3時間および24時間経過後の腐食状態を評価した。評価は、外観目視およびSEM写真観察により行った。このとき、全面腐食による腐食深さおよび局部腐食による腐食深さの合計について所定の観察領域内での平均値を求め、腐食深さと定義した。表1中、腐食深さ(μm)は、◎:<3、○:3~8、△:30~40、×:>40、で示した。
【0027】
なお、参考例として、レーザ光に代えて酸素アセチレン炎を用いたフュージング処理によって溶射皮膜の表面を約1050℃の温度で溶融させたときの試験片についても、合わせて評価した。
【0028】
(溶射皮膜の状態)
レーザ光によりフュージング処理した溶射皮膜の状態は、CrおよびNi、CoまたはFeが 高濃度で均一に分布しているため、高温耐食性の改善に効果が大である。また、レーザ照射面が非常にフラットであるため、腐食原因物質が堆積しない。なお、加熱速度および冷却速度の違いによる表面状態の変化は見られなかった。これに対して酸素アセチレン炎によりフュージング処理した皮膜の状態は、CrおよびNi、CoまたはFeが偏析し、これら成分の濃淡が激しい。また、処理面には凹凸があるため、表面積が大きく、腐食反応が進行しやすい。腐食原因物質も堆積するため、高温耐食性の改善が小さい。
【0029】
(溶射皮膜の硬さ)
次に、レーザ光で処理した溶射皮膜の硬さは、ホウ化物の形成、組織の微細化により、硬化するのに対して、酸素アセチレン炎による溶射皮膜の硬さは、組織が微細化されず、高硬度が得られない。
【0030】
(素材の硬さ)
さらに、素材の硬さについてレーザ光による処理では、素材への加熱がほとんど起こらず、焼なましされることがないため、素材は軟化しない。なお、冷却速度を100℃/sとしたものは、冷却速度を50℃/sとしたものに比べて、加熱速度が30℃/sの場合のものを含め、加熱速度に関わらず高い硬度が得られた。しかし、酸素アセチレン炎によるフュージング処理では、素材へ多量の熱が投与されるため、焼なまし効果によって素材が軟化する。
【0031】
(腐食試験の結果)
また、腐食試験の結果では、レーザ光によりフュージング処理した溶射皮膜の表面付近で微小な局部腐食が若干見られる。腐食深さは3μm前後である。なお、冷却速度を100℃/sとしたものは、冷却速度を50℃/sとしたものに比べて、加熱速度が30℃/sの場合のものを含め、加熱速度に関わらず腐食深さが小さい。これに対して、酸素アセチレン炎によるフュージング処理の溶射皮膜には、腐食試験で全面腐食あるいは局部腐食が生じていた。これらの腐食は、マトリックスと生成物の界面から進行しており、腐食の深さは30μm程度であった。
【0032】
なお、溶射皮膜の材料は、Co基自溶合金、Fe基自溶合金またはWC(タングステンカーバイト)自溶合金においても同様の効果が認められた。すなわち、ホウ化物の形成および結晶の微細化により溶射皮膜の硬さが向上した。また、レーザフュージングを行っていない溶射皮膜を形成したままの状態の素材に比べてレーザフュージングした素材は腐食減量が約1/8になり、高温耐食性が改善した。