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明細書 :細胞遊離法、細胞遊離液、細胞培養法、細胞培養液、細胞液、細胞液製剤、細胞定着法及び細胞定着液

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4724836号 (P4724836)
登録日 平成23年4月22日(2011.4.22)
発行日 平成23年7月13日(2011.7.13)
発明の名称または考案の名称 細胞遊離法、細胞遊離液、細胞培養法、細胞培養液、細胞液、細胞液製剤、細胞定着法及び細胞定着液
国際特許分類 C12N   5/0793      (2010.01)
C12N   5/0797      (2010.01)
A61K   9/08        (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  35/12        (2006.01)
FI C12N 5/00 202S
C12N 5/00 202T
A61K 9/08
A61K 47/42
A61K 35/12
請求項の数または発明の数 13
全頁数 12
出願番号 特願2007-512410 (P2007-512410)
出願日 平成18年1月19日(2006.1.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 「第139回日本獣医学会学術集会講演要旨集」(平成17年3月1日発行)第226頁に「ウシラクトフェリンは膜結合型プロテオグリカンを介してPC12細胞の接着能に影響する」(石森裕、外3名 著)として発表。
国際出願番号 PCT/JP2006/300698
国際公開番号 WO2006/109367
国際公開日 平成18年10月19日(2006.10.19)
優先権出願番号 2005108157
優先日 平成17年4月5日(2005.4.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年10月12日(2007.10.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人帯広畜産大学
発明者または考案者 【氏名】石井 利明
個別代理人の代理人 【識別番号】100090402、【弁理士】、【氏名又は名称】窪田 法明
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 特許第2947488(JP,B2)
特表平05-502385(JP,A)
Biosci. Biotechnol. Biochem.,1992年,vol. 56,965-966
第139 回日本獣医学会学術集会講演要旨集,2005年 3月 1日,226 (JP-101)
調査した分野 C12N 5/00- 5/28
C12N 1/00- 1/38
A61K 9/08
A61K 35/12
A61K 47/42
JSTPlus(JDreamII)
MEDLINE(STN)
BIOSIS/DWPI(DIALOG)
PubMed
医学・薬学予稿集全文データベース
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞培養液中において接着性動物細胞を担体の表面に接着させた状態で培養し、その後ラクトフェリンを含む細胞遊離液と該細胞培養液とを混合して該担体から該接着性動物細胞を遊離させる細胞遊離法であって、該接着性動物細胞は神経細胞又は神経幹細胞であり、該細胞培養液は血清を5~20%の濃度範囲で含み、該細胞遊離液は該細胞培養液と混合した時のラクトフェリンの濃度が10~500μMとなる濃度でラクトフェリンを含んでいることを特徴とする細胞遊離法。
【請求項2】
前記細胞遊離液のラクトフェリンを除いた成分が前記細胞培養液の成分と略同一であることを特徴とする請求項1に記載の細胞遊離法。
【請求項3】
血清を5~20%、ラクトフェリンを1~10mM含む細胞培養液からなることを特徴とする細胞遊離液。
【請求項4】
血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含む細胞培養液中で神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞を浮遊状態で培養することを特徴とする細胞培養法。
【請求項5】
血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とする細胞培養液。
【請求項6】
血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含み、神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞を浮遊状態で含む細胞培養液からなることを特徴とする細胞液。
【請求項7】
注射筒と、該注射筒内に充填された細胞液とからなり、該細胞液は、血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含み、更に神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞を浮遊状態で含むことを特徴とする細胞液製剤。
【請求項8】
浮遊状態の神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞及びラクトフェリンを含む細胞液を定着予定部に入れ、その後該定着予定部にラクトフェリンを含まない細胞培養液を加えて該細胞液中のラクトフェリンの濃度を減じ、該定着予定部に該接着性動物細胞を定着させる細胞定着法であって、該細胞液が血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とする細胞定着法。
【請求項9】
ラクトフェリンを含まない培養液で濃度を減じられた前記細胞液中のラクトフェリンの濃度が10μM未満であることを特徴とする請求項8に記載の細胞定着法。
【請求項10】
定着予定部に浮遊状態の神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞を含む細胞液を入れ、その後該定着予定部の細胞液に該接着性動物細胞の浮遊効果を失効させる失効物質を加えて、該定着予定部に該接着性動物細胞を定着させる細胞定着法であって、該失効物質がグリコサミノグリカンであり、該細胞液が血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とする細胞定着法。
【請求項11】
浮遊状態の神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞を定着させる際の前記細胞液中のグリコサミノグリカンの濃度が10~500μg/mlであることを特徴とする請求項10に記載の細胞定着法。
【請求項12】
定着予定部に神経細胞又は神経幹細胞である接着性動物細胞を定着させる定着物質を被覆し、その後浮遊状態の該接着性動物細胞を含む細胞液を該定着予定部に入れ、該定着予定部に該接着性動物細胞を定着させる細胞定着法であって、該定着物質が細胞外マトリックスタンパク質であり、該細胞液が少なくとも血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とする細胞定着法。
【請求項13】
前記細胞外マトリックスタンパク質がラミニンであることを特徴とする請求項12に記載の細胞定着法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトフェリンを用いた細胞遊離法、細胞遊離液、細胞培養法、細胞培養液、細胞液、細胞液製剤、細胞定着法及び細胞定着液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の医療技術や検査技術の進歩は著しく、新たな医療技術や新たな検査技術が次々と開発されてきている。新たな医療技術や新たな検査技術の開発では、細胞を用いた種々の実験・研究が行われている。
【0003】
細胞を用いた種々の実験・研究では、その目的に応じて必要な細胞数や培養皿枚数を用意する必要があるので、無処置の細胞(マスター細胞)を絶えず継代的に培養し続けなければならない。
【0004】
継代的に培養し続けたマスター細胞は、必要に応じて、培養皿から剥離後懸濁させ、一部は継代培養のために再度マスター細胞用の培養皿へ、また細胞懸濁液の残りは、実験・研究用に必要な細胞数を実験施行時までに満たすべく、増殖速度を計算しながら、それに適した大きさの、必要な枚数だけ、培養皿上に撒き、増殖させている。
【0005】
マスター細胞を継代的に培養せず、毎回、液体窒素内で冷凍保存している細胞を起こして使用することも不可能ではないが、細胞を起こして実験に使えるように準備するのには時間がかかり過ぎるので、通常は上述したような継代的な培養方法が採られる。
【0006】
目的の細胞数にまで増殖させた細胞は、その実験・研究の内容に合わせて利用する。ここで、増殖させた細胞は、培養皿上に接着させたまま利用する場合と、培養皿から剥離させて利用する場合がある。
【0007】
培養皿から剥離させて利用する場合は、培養皿から細胞を剥離させなければならないが、培養皿から細胞を剥離させる方法としては、一般に、培養液中にトリプシンなどのタンパク質分解酵素を添加し、培養細胞の培養皿との結合部を溶かすことにより細胞を剥離させる方法が使用されている。そして、この方法において、剥離させる細胞に培養液の液流を吹き付けてフラッシングすることにより細胞を剥離させる方法も併せて採られることも有る。
【0008】
しかし、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を使用したり、培養液の液流を吹き付けてフラッシングをすると、培養細胞が損傷を受け、その機能回復に時間を要するという問題が有る。
【0009】
また、種々の事情から、培養細胞を別の場所に輸送しなければならない場合が有る。培養細胞は培養器の内面から剥離すると死んでしまうので、輸送中に、細胞を培養したフラスコ内の培養液が揺れて培養細胞が剥離しないように、このフラスコに更に培養液を満たして培養液が揺れないようにしている。
【0010】
しかし、このような対策を採っても、迅速に、しかも振動などの衝撃を加えないように注意して運搬しなければならないので、培養細胞の輸送は非常に面倒である。

【特許文献1】特開2004-75547号公報
【特許文献2】特開平8-66184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする課題は、接着性動物細胞を浮遊状態で正常に培養増殖させ、この培養増殖させた接着性動物細胞を所望の場所に再び定着させる方法が確立されていない点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る細胞遊離法は、細胞培養液中において接着性動物細胞を担体の表面に接着させた状態で培養し、その後ラクトフェリンを含む細胞遊離液と該細胞培養液とを混合して該担体から該接着性動物細胞を遊離させる細胞遊離法であって、該細胞培養液は血清を5~20%の濃度範囲で含み、該細胞遊離液は該細胞培養液と混合した時のラクトフェリンの濃度が10~500μMとなる濃度でラクトフェリンを含んでいることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、血清の濃度を5~20%としたのは、血清の濃度が5%未満あるいは20%を超えると細胞の増殖率が減少する不都合が生じるからである。また、ラクトフェリンの濃度を10~500μMとしたのは、ラクトフェリンの濃度が10μM未満では細胞の遊離効果が少なく、500μMを超えると細胞の遊離効果が飽和してしまうからである。
【0014】
また、前記細胞遊離液のラクトフェリンを除いた成分は、遊離させた細胞をそのまま培養させることができるという点で、前記細胞培養液の成分と略同一であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る細胞遊離液は少なくともラクトフェリンを1~10mM含む細胞培養液からなることを特徴とするものである。ここで、前記培養液中のラクトフェリンの濃度を1~10mMとしたのは、ラクトフェリンの濃度をこの範囲にすれば、使い易いからである。
【0016】
また、本発明に係る細胞培養法は、血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含む細胞培養液中で接着性動物細胞を浮遊状態で培養することを特徴とするものである。ここで、前記培養液中のラクトフェリンの濃度は10~500μMが好ましい。ラクトフェリンの濃度を10~500μMとしたのは、ラクトフェリンの濃度が10μM未満では細胞を浮遊培養する効果が少なくなって定着してしまい、500μMを超えると細胞を浮遊培養する効果が飽和してしまうからである。
【0017】
また、本発明に係る細胞培養液は、血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とするものである。ここで、血清の濃度を5~20%としたのは、血清の濃度が5%未満あるいは20%を超えると細胞の増殖率が減少する不都合が生じるからである。また、培養液中のラクトフェリンの濃度を10~500μMとしたのは、ラクトフェリンの濃度が10μM未満では細胞を浮遊培養する効果が少なくなって定着してしまい、500μMを超えると細胞を浮遊培養する効果が飽和してしまうからである。
【0018】
また、本発明に係る細胞液は、血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含み、接着性動物細胞を浮遊状態で含む細胞培養液からなることを特徴とするものである。ここで、血清の濃度を5~20%としたのは、血清の濃度が5%未満あるいは20%を超えると細胞の生存率が減少する不都合が生じるからである。また、培養液中のラクトフェリンの濃度を10~500μMとしたのは、ラクトフェリンの濃度が10μM未満では細胞を浮遊させる効果が少なくなって定着してしまい、500μMを超えると細胞を浮遊させる効果が飽和してしまうからである。
【0019】
また、本発明に係る細胞液製剤は、注射筒と、該注射筒内に充填された細胞液とからなり、該細胞液は、血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含み、更に接着性動物細胞を浮遊状態で含むことを特徴とするものである。ここで、血清の濃度を5~20%としたのは、血清の濃度が5%未満あるいは20%を超えると細胞の生存率が減少する不都合が生じるからである。また、培養液中のラクトフェリンの濃度を10~500μMとしたのは、ラクトフェリンの濃度が10μM未満では細胞を浮遊させる効果が少なくなって定着してしまい、500μMを超えると細胞を浮遊させる効果が飽和してしまうからである。
【0020】
また、本発明に係る細胞定着法は、浮遊状態の接着性動物細胞及びラクトフェリンを含む細胞液を定着予定部に入れ、その後該定着予定部にラクトフェリンを含まない培養液を加えて該細胞液中のラクトフェリンの濃度を減じ、該定着予定部に該接着性動物細胞を定着させる細胞定着法であって、該細胞液が血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とするものである。
【0021】
ここで、ラクトフェリンを含まない培養液で濃度を減じられた前記細胞液中のラクトフェリンの濃度は10μM未満が好ましい。10μM未満では浮遊細胞の定着が顕著だからである。
【0022】
また、本発明に係る別の細胞定着法は、定着予定部に浮遊状態の接着性動物細胞を含む細胞液を入れ、その後該定着予定部の細胞液に該接着性動物細胞の浮遊効果を失効させる失効物質を加えて、該定着予定部に該接着性動物細胞を定着させる細胞定着法であって、該細胞液が血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とするものである。
【0023】
ここで、前記細胞定着液としては培養液中にグリコサミノグリカンを含んでいるものを使用することができる。また、浮遊状態の前記接着性動物細胞を定着させる際の前記細胞液中のグリコサミノグリカンの濃度は10~500μg/mlが好ましい。グリコサミノグリカンの濃度が10μg/ml未満では浮遊細胞を定着させる効果が不充分であり、500μg/mlを超えると浮遊細胞を定着させる効果が飽和してしまうからである。
【0024】
また、本発明に係る細胞定着液は、培養液中にグリコサミノグリカンを含有していることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明に係る更に別の細胞定着法は、定着予定部に接着性動物細胞を定着させる定着物質を被覆し、その後浮遊状態の接着性動物細胞を含む細胞液を該定着予定部に入れ、該定着予定部に該接着性動物細胞を定着させる細胞定着法であって、該定着物質が細胞外マトリックスタンパク質であり、該細胞液が少なくとも血清を5~20%、ラクトフェリンを10~500μM含むことを特徴とするものである。
【0026】
ここで、前記失効剤としては細胞外マトリックスタンパク質を使用することができる。細胞外マトリックスタンパク質としては、例えば、浮遊細胞が神経細胞の場合、ラミニンを使用することができ、浮遊細胞が上皮系細胞や線維芽細胞といった他の細胞の場合、フィブロネクチンやコラーゲンを使用することができる。
【0027】
なお、上記各発明において、培養器とは、培養皿、培養フラスコ等、細胞を保持して培養することができる全ての器をいう。また、上記各発明において、接着性動物細胞とは、例えば神経細胞、グリア細胞、上皮細胞、各種の未分化細胞(間葉系細胞、幹細胞等)、ガン細胞等をいう。また、上記各発明において、培養液には、細胞を増殖させる養分を含んだもののみならず、生理食塩水のような細胞を単に保持させるだけのものも含まれる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、培養させた接着性動物細胞を担体から損傷無く剥離させることができるという効果がある。また、遊離させた培養細胞に時間をかけて機能回復をさせる必要が無いので、損傷の無い培養細胞を迅速に得ることができるという効果がある。
【0029】
また、本発明によれば、浮遊している細胞が接着している細胞と比べて細胞増殖能力が高く、しかも細胞を浮遊状態で正常に培養することができるので、損傷の無い正常な細胞を迅速且つ大量に得ることができるという効果がある。
【0030】
また、本発明によれば、細胞を浮遊状態で培養することができるので、培養細胞を容易に輸送運搬することができるという効果がある。
【0031】
また、本発明によれば、ラクトフェリンを希釈したり、ラミニンを被覆した培養器に培養液を移したり、グリコサミノグリカンを添加するだけという簡単な方法で、浮遊状態の細胞から定着状態の細胞を容易に得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
接着性動物細胞を浮遊状態で培養増殖させ、これを再び所望の場所に定着させるという目的をラクトフェリンとグリコサミノグリカンを利用することにより実現した。
【0033】
ここで、ラクトフェリン(Lactoferrin)は乳中から見いだされた分子量約80kDのタンパク質で、種々の糖鎖構造と親和性を有し、細胞表層のタンパク質やグリコサミノグリカンと結合する性質をもち、細菌、ウイルス、原虫などの微生物感染の抑制や抗炎症作用などの様々な効果を有することで注目されている。
【0034】
本件発明者は、ラクトフェリンの神経細胞に対する影響を調べる目的で、神経細胞の研究に広く用いられているラット副腎髄質褐色細胞種腫由来のPC12細胞の培地にウシラクトフェリン(bLf)を添加しその影響について調べた。
【実施例1】
【0035】
培養液を入れた複数の培養皿を準備し、培養皿一皿当たり7×10のPC12細胞を撒き、このPC12細胞を、5%CO雰囲気下、37℃で72時間培養した。ここで、培養液はDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)培地{5%(v/v)非加熱horse serum、 5%(v/v)非加熱fetal bovine serum、 1×10units/l penicillin G Sodium、 1×10mg/l streptomycin sulfate、 0.044M NaHCO3}を使用し、PC12細胞は理化学研究所細胞開発銀行から分譲を受けたものを使用した。
【0036】
72時間培養後、培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が0μM~500μMとなるように添加した。ここで、培養液に添加したウシラクトフェリン(bLf)は培養液で予め希釈したものを使用した。希釈液中のウシラクトフェリン(bLf)の濃度は1~10mMのものが使い易い。なお、ラクトフェリンは培養液で希釈したものでなく、生理食塩水等、栄養分を含まない液で希釈したものを用いても良い。
【0037】
ウシラクトフェリン(bLf)を添加して24時間経過後、培養器内の培養液を顕微鏡で観察したところ、浮遊しているPC12細胞が観察された。そして、波長570nmにおけるこの培養液の吸光度(O.D.)を細胞賦活評価試験(MTT assay)により測定して、培養液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べたところ、図1のグラフに示す通りであった。
【0038】
図1に示す結果から、ウシラクトフェリン(bLf)は濃度が10μMを超えるとPC12細胞の培養皿上への接着を阻害し、細胞を遊離・浮遊させる作用を有することがわかる。また、培養液中に浮遊している細胞数はウシラクトフェリン(bLf)の濃度の増加に従って増加するが、濃度が500μMを超えるとその作用は飽和することがわかる。
【0039】
なお、ウシラクトフェリン(bLf)は分子量約80kDで陽電荷に帯電することから、これらの物理的性質が上記の作用を及ぼしている可能性も考えられる。そこで、上記の作用がウシラクトフェリン(bLf)に特異的であることを確認するために、ウシラクトフェリン(bLf)の代わりにウシラクトフェリン(bLf)と同様に分子量の大きいタンパク質であるウシ血清アルブミン(67kD)および陽電荷をもつタンパク質であるリゾチーム(14kD)に対する影響についてもウシラクトフェリン(bLf)と同様に調べた。
【0040】
しかし、ウシ血清アルブミン(67kD)、リゾチーム(14kD)にウシラクトフェリン(bLf)で認められたような細胞を培養皿から遊離させる作用は認められなかった。従って、PC12細胞を培養皿から遊離させる作用はウシラクトフェリン(bLf)に特異的なもので、高分子量や電荷がもたらすものではないことがわかる。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、更に12時間培養し、波長570nmにおけるこの培養液の吸光度(O.D.)をMTT assayにより0.5h、1h、3h、6h、12hと経時的に測定して、培養液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を時間毎に調べた。結果は図2に示す通りであった。
【0042】
この図2に示された結果から、ウシラクトフェリン(bLf)の濃度100μMの条件下では、培養皿の底面に定着していた細胞はウシラクトフェリン(bLf)の働きにより0.5h当たりから少し遊離し、3hでかなり遊離し、6hで殆どが遊離することがわかる。
【実施例3】
【0043】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、24時間経過させた。この経過によって培養皿の内面に定着した状態で増殖していた細胞は培養皿の内面から遊離し、培養液中に浮遊することになる。
【0044】
次に、培養液中に浮遊している細胞を回収し、予め用意しておいた培養皿、すなわち培養液中にウシラクトフェリン(bLf)が100μM濃度で存在する培養皿{bLf(+)}と、培養液中にウシラクトフェリン(bLf)が存在しない培養皿{bLf(-)}に、回収したこの細胞を移し、144時間まで更に培養し、波長570nmにおけるこの培養液の吸光度(O.D.)をMTT assayにより経時的に測定し、培養液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べた。結果は図3に示す通りであった。
【0045】
図3のbLf(+)に示す結果から、浮遊細胞はウシラクトフェリン(bLf)の濃度が100μMの環境下において、浮遊状態で時間と共に増殖することがわかる。
【0046】
また、図3のbLf(+)、bLf(-)に示す結果から、ウシラクトフェリン(bLf)を含む培養液{bLf(+)}の吸光度(O.D.)とウシラクトフェリン(bLf)を含まない培養液{bLf(-)}の吸光度(O.D.)とを比較すると、ウシラクトフェリン(bLf)を含む培養液{bLf(+)}の吸光度(O.D.)が高いこと、すなわちウシラクトフェリン(bLf)を含む培養液{bLf(+)}中における細胞の方がウシラクトフェリン(bLf)を含まない培養液{bLf(-)}中における細胞より細胞増殖能力が高いことがわかる。
【0047】
また、浮遊細胞を培養した培養液(以下、「細胞液」という。)を注射筒に充填し、これを37℃で12時間保持し、その後、波長570nmにおけるこの培養液の吸光度(O.D.)をMTT assayにより測定して、細胞液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べたところ、細胞は生存しており、その数は増殖により保持前と比べて1.1倍に増加していた。
【実施例4】
【0048】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、24時間経過させた。
【0049】
次に、培養液中に浮遊している細胞を回収し、ウシラクトフェリン(bLf)の濃度が0μM、100μM、300μM、500μM、600μMの培養液を入れた各培養皿に移し、24時間培養した。そして、波長570nmにおけるこの各培養皿の培養液の吸光度(O.D.)をMTT assayにより測定し、各培養皿の培養液中に浮遊している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べた。結果は図4に示す通りであった。
【0050】
図4に示す結果から、培養液中のウシラクトフェリン(bLf)の濃度を高くすると細胞の増殖能力が高くなることがわかる。
【実施例5】
【0051】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、24時間経過させた。
【0052】
次に、ウシラクトフェリン(bLf)の添加によって浮遊状態の細胞を含むようになった培養液を別の各培養皿に移し、そこにウシラクトフェリン(bLf)を含まない培養液を加え、ウシラクトフェリン(bLf)の濃度を10~100μMまで各々低減させ、更に37℃で24時間経過させた。この経過により培養皿の底面に細胞が定着しているのが目視で観察された。
【0053】
次に、培養皿の培養液を捨て、培養皿の内面を洗浄液で洗い、波長570nmにおけるこの洗浄液の吸光度(O.D.)を各培養皿毎にMTT assayにより測定し、洗浄液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べたところ、図5に示す通りであった。
【0054】
図5に示す結果から、ウシラクトフェリン(bLf)を含まない希釈液で希釈して培養液中のウシラクトフェリン(bLf)の濃度を減ずると、培養液中に浮遊していた細胞が培養皿の内面に再び定着することがわかる。
【実施例6】
【0055】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、24時間経過させた。
【0056】
次に、ウシラクトフェリン(bLf)の添加によって浮遊状態の細胞を含むようになった培養液を別の培養皿に移し、そこにヘパリンやコンドロイチン硫酸A,Cなどのグリコサミノグリカンを含む培養液(細胞定着液)を1~500μg/mlの範囲で添加し、更に24時間経過させた。この経過により培養皿の底面にPC12細胞が定着しているのが目視で観察された。
【0057】
次に、波長570nmにおけるこの培養皿中の培養液の吸光度(O.D.)を各培養皿毎にMTT assayにより測定し、培養液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べたところ、図6に示す通りであった。
【0058】
図6に示す結果から、ヘパリンやコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカンを含む培養液(細胞定着液)を添加すると、培養液中に浮遊していた細胞数が減少すること、すなわち、培養液中に浮遊していた細胞が培養皿の内面に再び定着することがわかった。
【実施例7】
【0059】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、24時間経過させた。
【0060】
次に、ウシラクトフェリン(bLf)の添加によって浮遊状態の細胞を含むようになった培養液を、予め用意したラミニンで内面を被覆した培養皿(Lam+)とラミニンで内面を被覆してない培養皿(Lam-)に移し、更に24時間経過させた。
【0061】
次に、波長570nmにおけるこの培養皿中の培養液の吸光度(O.D.)をMTT assayにより経時的に測定し、培養液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べた。結果は図7に示す通りであった。
【0062】
また、培養皿の内面を観察したところ、培養皿の内面にはPC12細胞が定着し、増殖しているのが確認された。以上のことから、培養液中に浮遊していた細胞はウシラクトフェリン(bLf)の存在下でラミニンの働きにより培養皿の底面に定着することがわかる。
【実施例8】
【0063】
実施例1と同様にしてPC12細胞を72時間培養し、その後培養皿の培養液にウシラクトフェリン(bLf)を培養液中の濃度が100μMとなるように添加し、24時間経過させた。
【0064】
次に、ウシラクトフェリン(bLf)の添加によって浮遊状態の細胞を含むようになった培養液を、予め用意したラミニンで内面を被覆した培養皿(Lam+)、フィブロネクチンで内面を被覆した培養皿(Lam-)、何も被覆してない培養皿(non-coat)に移し、更に24時間培養し、波長570nmにおけるこの培養皿中の培養液の吸光度(O.D.)を各培養皿毎にMTT assayにより測定し、培養液中に遊離している細胞の数{細胞の数は吸光度(O.D.)に比例している}を調べた。
【0065】
結果は図8に示す通りであり、ラミニンを被覆した方の培養皿中の培養液中の浮遊細胞は大幅に減少しており、ラミニンを被覆してない方の培養液中の浮遊細胞は減少しなかった。また、培養皿の内面を観察したところ、培養皿の内面にはPC12細胞が定着し、増殖しているのが確認された。
【0066】
ラミニンを被覆した培養皿に移した浮遊細胞は100μMのウシラクトフェリン(bLf)存在下にもかかわらず、浮遊細胞数が減少し、培養皿底面に定着して発育する細胞数が増加した(bLf+,Lam+)。ところが、フィブロネクチンを被覆した培養皿に移した浮遊細胞は、浮遊状態を維持し発育した(bLf+,FN+)。従って、ウシラクトフェリン(bLf)の神経細胞に対する接着抑制効果は、神経細胞に発現するインテグリンとラミニン間で形成されるインテグリン依存性の細胞接着には無効であることがわかる。
【実施例9】
【0067】
ウシラクトフェリン(bLf)がPC12細胞に直接結合して作用していることを確認するために、PC12細胞にビオチン化bLf(b-bLf)を添加し、24時間後に全細胞を回収・洗浄し、細胞を可溶化後、SDSポリアクリルアミド電気泳導に供し、さらにナイトロセルロース膜にブロットした後にb-bLfの結合を解析した。泳動パターンは図9に示す通りとなった。
【0068】
図9において、(a)はb-bLf単独処置、(b)はb-bLf+bLf 100 μM、(c)はb-bLf+bLf 500 μM、(d)はb-bLf+BSA100 μM、(e)はb-bLf+BSA500 μMである。
【0069】
解析の結果、b-bLfが検出され、b-bLfがPC12細胞に直接結合して作用していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
細胞の浮遊と定着の機構を制御する手段の研究を解明することにより、ヒトや動物の生体組織を再生させる用途にも適用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】培養液中のウシラクトフェリン(bLf)の濃度(μM)と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図2】培養液中にウシラクトフェリン(bLf)を添加してからの経過時間と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図3】回収した細胞を別の培養皿培養液中にて培養を開始してからの時間と吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図4】培養液中のウシラクトフェリン(bLf)の濃度(μM)と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図5】培養液中のウシラクトフェリン(bLf)の濃度(μM)と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図6】グリコサミノグリカンの添加量(μg/ml)と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図7】ラミニンの有無と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図8】ラミニンの有無及びフィブロネクチンの有無と培養液の吸光度(O.D.)との関係を示すグラフである。
【図9】b-bLfと各濃度のbLfあるいはBSA存在下で培養したPC12細胞を洗浄後可溶化し、電気泳動したときのb+bLfの泳動パターンを示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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